他界した祖母の家で暮らす決意をした蓉子。3人の女子大生を下宿人として置き、4人の共同生活が始まった。いや、実際には5人である。5人目の同居人とは「りかさん」。それは、祖母が持っていた人形だったが──。
贋作館事件・芦辺拓(編)(原書房)
有名な古典ミステリをパロってしまおうという試み。いやぁ、こういうの大好きなんだよねえ(笑)。贋作ってのは、登場人物や設定を真似るだけじゃなくて、文体や文字の使い方(外国物の場合は翻訳者の模倣になる)、改行や句読点のクセまで真似て初めて「似てる」という域に達すると思うんだけど、それだけじゃなくて、「ああ、いかにも××が書きそうな話だ」というところまで踏み込まねばならない。例えば、村瀬継弥氏がクリスティのミス・マープルの贋作を書く場合は、文章を真似るだけではなく、「マープルシリーズにありそうな」事件や解決を考えねばならないということだ。これはかなり大変だし、好きじゃなければできない。
わるい女・小嵐九八郎(小学館)
様々な女を俎上に挙げて描いた短編集。小嵐節が冴え渡る! しかし、ものすごく深刻な場面もおどろおどろしい場面も、この人独特の文章ってのはどうも緊迫感がないんだよなぁ(笑)。ま、その代わりに、何か妙にリアルな人間像が出てきて、そこがまた妙に魅力的なんだけどもさ。
買わずとも、ウェブサイトで読めるのである。いや、すでに読んでいるのである。それなのにこうして本となって出版され、更に買って読んでしまうということは、インターネットができない環境の人にという意図も勿論あるんだろうけれど、それだけではない、本として存在することの意味ってのがきっとあるんだよな。たとえ同じ内容が書かれていたとしても、それを手で持てるということ(ノートパソコンの例なんか出すなよ)、確固として自分の手元にあるということに意義があるのではないだろうか。寝転がって読めるとか、電源いれなくてもどこでも読めるとか、そういう利点とは別に、存在が形として有るということが何だか嬉しいのである。
もっとどうころんでも社会科・清水義範、西原理恵子(講談社)
相変わらずの黄金コンビである。今回のテーマは、土地の話に絡めた班田収授法や、忠臣蔵を吉良から見たり、オランダ人を差別する慣用句がなぜ多いか、などなど。理科シリーズに比べると知ってることが多くて新鮮味には薄れるんだけど、視点は流石だ。
わはははっ、く、くだらねぇ〜〜〜。
安達ヶ原の鬼密室・歌野晶午(講談社ノベルズ)
いかにもおどろおどろしいタイトルの本だが、本を開くと……アレ? なんだこれは。とりあえず読む。おや? え? どゆこと?
青の時代〜伊集院大介の薔薇・栗本薫(講談社)
時は70年安保が過ぎ去ろうとしていた時代。伊集院大介は大学生だった。西北大学の中でも有名な演劇集団「ペガサス」に入団した花村絵真を待ち受ける事件と、それに関わる伊集院大介の物語。
姉が殺され、「僕」は事件に巻き込まれて負傷した。ところが、病院で目を覚ました「僕」は何故か急に鼻が利くようになってしまった。匂いが分かるというレベルではない。匂いが見える、のだ。期を同じくして、行方をくらませた友人。もしかしたら、この鼻で、友人を捜せるのでは? 姉を殺した犯人を捜せるのでは?
札幌を舞台にしたハードボイルドを書かせたら、右に出る者はいない、と言ってしまおう。ススキノ探偵シリーズが絶好調な東直己の、別シリーズである。
からくりからくさ・梨木香歩(新潮社)
激しくも静かな物語である。物言わぬ「りかさん」を中心に据えて、四人四様(五人五様か?)の生活を描いていく。物静かで大人びているが、内面に激しい思いを秘めている紀久。外向的でざっくばらんで、ちょっと直情的に過ぎる与希子。鍼灸を学びにアメリカから来ている、堅すぎるまでに堅いマーガレット。ぽーーーーーっっとしている蓉子。そして、「りかさん」。それぞれにキャラクタの設定はされてるんだけど、それが「役割」ではなく、自然とそこにあって混じり合ってる感じがいい。そして、この5人が持つ歴史がある一点で結びつくのが分かってくる時の、ゾクゾクする不思議な快感。冷静に考えてみれば、そんな結びつきのあるメンバーが偶然に同居するか?とツッコミたくなるところなのに、それすら「りかさん」が全部仕組んだんだと思わせてくれる物語。
個々の人物が抱える問題と、それに対処する方法はそれぞれ違う。それは即ち、困難を乗り越えるのに王道はないということを、そして人の選ぶ道に唯一無二の正解などはないということを、はっきりと表している。マーガレットが選んだ人生に首をかしげる人もいるだろうし、紀久の出した結論には納得できない人もいるだろう。しかし、彼女たちの考えには反対なのに、それなのに、なんだかこの家に彼女たちと一緒に住みたくなるのはどうしてだろう。いや、納得できなかったはずの選択を、いつの間にか「それがベストだよね」と受け入れてしまっているのはどうしてだろう。
不思議な力を持つ物語である。ラスト間近の、炎のシーンは圧巻だ。どうしてこんな結論にしなければならなかったのかという、やるせない思いと、こうするより他に物語を昇華させる方法はないだろうという、妙に納得した思いが交錯する。この物語は、読む人の数だけ思いを残してくれる物語だ。
(00.2.28)
さて、ここで大きな問題があって。翻訳物に疎いあたしは、俎上に載せられた作品を、殆ど全部読んでないのだ。わっはっは。いや、笑い事じゃないって。だもんだから、物語が面白い面白くないって点はまだしも、これがパスティーシュとしてどうなのかってのは、感想を言う資格もないし、そもそも感想の持ちようがないのである。ということで、誰が何をパロってるかだけ紹介しましょう。と言ってもタイトルをみれば分かるけど。お好きな方にはたまらないのではないかしら。
【ミス・マープルとマザーグース事件】村瀬継弥:クリスティのマープルシリーズの贋作。
【ブラウン神父の日本趣味】芦辺拓・小森健太朗:勿論、ブラウン神父のシリーズの贋作。
【ありえざる客〜贋の黒後家蜘蛛の会】斎藤肇:これは笑った! 本編を知ってると実に楽しい。
【緋色の紛糾】柄刀一:ホームズの「緋色の研究」の贋作。
【ルパンの慈善】二階堂黎人:「名探偵の肖像」にも収録。
【黒石館の殺人《完全版》】小森健太朗:小栗虫太郎「黒死館殺人事件」の贋作。
【黄昏の怪人たち】芦辺拓:江戸川乱歩「怪人二十面相シリーズ」の贋作。
【幇間二人羽織】北森鴻:顎十郎シリーズの贋作。連城三紀彦じゃないぞ(笑)
【贋作「退職刑事」】西澤保彦:都筑道夫「黒退職刑事」の贋作。
【贋作家事件】斎藤肇:実はこれがお薦め!本書に収録された贋作たちを、更にパロってる!
(00.2.29)
【眠れるままの女】ミステリタッチの一遍。夫を殺した妻の動機とは? いきなり始まる自白の手紙がちょっと興ざめだけど、実は細かい複線があったりして膝を打つ。
【霊を喰う女】霊感を持つが故に、新興宗教の教祖に祭り上げられた女。主人公の一人称で語られるために、周囲の人間の思惑が分からないのがポイントなんだけども、恋をしたら見えなくなるっていうのが特に巧い。
【晒を巻く女】こ、これは恐い。収録作品の中で一番インパクトがあったかも。ただ、こういう壊滅的なラストよりは(個人的な好みとしては)もっと解決の方向に向かって欲しかったな。その結果、別れと破滅があったとしても。
【木曜日の女】もてなかった女が、ひょんなことから急にもてるようになる。もてる・もてないっていうのは、それだけで人の性格を左右しちゃう部分があるもんだが、それがものすごくよく出てる。
【水色の嘘っこ】雪深い村での少年の淡い恋の話。比呂子との最後の逢瀬が悲しい。
(00.3.5)
すべてがEになる・森博嗣(幻冬舎)
さて、これまで森作品を好き勝手に貶してきたけれど、それでもずーっと読み続けてたのは、トリックがどうだとかキャラがどうだとか言う以前に、森作品で展開される価値観と構造が好きだったからに他ならない。平べったく言えば、全体に透明で無機質なんだよね。(あたしにとっては)新鮮な物の見方と新鮮な文章技法に魅力を感じてるわけだ。決して理系云々ではなくて、もっとこう──文章センスって言うのかなぁ、Aという物事を表現するのにBから行くかCから行くか、いやダイレクトにAって言っちゃうか──と思ってるとこに、いきなり「い」から来ましたみたいな。表現法だけでなく全体を通して、これまでに例を見ないような構築の仕方をするのね。もう、それだけで(それだけかいっ)ずっと読んでたわけである。
それがエッセイともなれば、100%濃縮であたしの好きな部分が詰まってるわけだから、面白くないワケがない。萌絵の言動にイライラさせられることなく、あの世界が堪能できるんだもの(また地雷踏んでるって>あたし)。これはもう、買い、でしょう。だいたいがエッセイの醍醐味ってえのは、自分では考えもつかなかった視点をつきつけられるところにあるんだもんね。
蛇足ながら、筆者と行動半径がダブってる身としては、猪高の三洋堂や「あしながおじさん」で黄色のビートを探すようになっちゃいましたわよ(笑)。三越のミニクロワッサンは確かに旨いし。
(00.3.6)
特に、オランダ人の章は興味深い。考えてみれば、オランダだけが鎖国の日本と交易できたんだよなぁ。割り勘をダッチ・アカウントと言ったり、例の人形をダッチ・ワイフと言ったり、ひいては「Flying Dutch(さまよえるオランダ人)」なんて歌になったり……どうしてこんなにオランダ人は差別されるのか? それはひとえに、「金儲けが巧かったから、周囲が僻んでるんだ」ということになりそうなのだ。ふーん、知らなかった。
また、班田収授法から三世一身法に話が及んで、今の都会で三代相続すると相続税で土地が最初の25%くらいにまで減ってしまうという状況は、まさに三世一身法だとか。
要は、社会というのは、見る物触れる物全てに潜んでいる科目なのだ。理科のシリーズでは仕組みを分かりやすく学ばせてもらったが、社会科シリーズでは、その事自体の知識よりも、ものの見方、知識と知識を結びつけて考える方法というものを示唆しているのだろう。知ってる人には「何を今さら」かもしれないが、知らなかった人はまさに目から鱗なのではないだろうか。でも、同じ清水義範の歴史論なら、「偽史日本伝」みたいなのの方がずっと面白いんだけどね(笑)。
(00.3.8)
どすこい(仮)・京極夏彦(集英社)
体中の毛穴という毛穴から力が抜けていくほどくだらないんだけども、でも面白い!
これまでの全京極作品の中で一番好きかも(まぁそれもどうかと思うが)。タイトルを見ればヒット小説をパロってるのは一目瞭然なのだけれど、実際の内容はどうかというと、まぁ設定だけは似せてるけども全然別物。本文でも書かれているが、パロディでもパスティーシュでもない。ただひたすら、でぶでぶでぶでぶでぶでぶでぶ!
もう、史上最強のでぶ小説。こんなに笑ったのって久しぶりかも。何が面白いって、一人称はちゃんとした(?)人物が担っているので、ツッコミがきちんとしてるってとこ。全部がドタバタになっちゃうと面白くないんだけども、地の文のツッコミが実にいいんだよなぁ。当意即妙とはこのことだ。このツッコミあっての面白さである。
収録作は【四十七人の力士】【パラサイト・デブ】【すべてがデブになる】【土俵(リンク)・でぶせん】【脂鬼】【理油(意味不明)】【ウロボロスの基礎代謝】で、作者名と各物語の表紙の装丁も要チェックだ。
イチオシは【すべてがデブになる】かな。このノリは浅田次郎の「勇気凛々ルリの色」シリーズのノリを思い出させる。【四十七人の力士】が冒頭にあって、でもってそれ以降の話を読んでいけば、歴史好きなら、いや、日本人なら各物語に共通するアイテムはすぐに気付いた筈である。そのリンク(いや、土俵じゃなくて)が最後にもうちょっと繋がるともっと好みだったんだけども、まぁそういう部分を求めてはイカンか。
これまでは京極堂の蘊蓄と、流麗にして品のある筆致が好きで読んでた京極作品だったんだけど、もう、俄然こっちのファンになってしまった。それが正しいかどうかは別として(笑)。
(00.3.10)
とまぁ、そういう変わった作りの一冊。うーん、何を言ってもネタバレになるから何も言えないぞ。例えば──ある部屋に入る。ただ、誰の部屋だか何の部屋だか分からない。が、とりあえず部屋を横断して、奥にあるドアをあける。すると、ドアの向こうにも部屋があり、やはり何の部屋だかわからないまま次のドアを開け──それをあと一回繰り返した段階で、やっと何の部屋なのか分かる。そして、今まで通ってきた部屋にもう一度戻った時には、何の部屋なのかがちゃんと分かっているという、そんな物語。ネタ自体よりも構成に凝った感があって、物語としての求心力は今ひとつのように思えたんだけど、中核となるトリック──××が×××になる──には膝を打った。なるほど、これはしたり。こういうの大好き。凝ったことしないで、これだけの方がスッキリして尚且つ充分面白いのになぁ、てのは余計なお世話か。
ただひとつ、どうしても分からないことがあって。いやもう、読解力のなさを露呈するようなもんなんですけどね。最後の最後に「おにいさんが魔法で……」ってのがあるでしょ。あの魔法って、どういう手段なんだろう。それまでの物語をキチンと読んでいれば、魔法が何を差しているのか分かるという前提で書かれてるんだろうけど……分からなかった(笑)。分かってる人がいたら教えて下さい。あたしは結局、何も理解してなかったのかな?
(00.3.12)
なんて言うか、もう、安心して読んでいられるよなぁ。これを他の──特に新人作家がやろうもんなら「地味だ」とか「主観的な思い入れが強すぎる」とか「独白が長すぎる」とか「伏線がなさすぎ」とかの論評を浴びて泣き出すんじゃないかと思えるんだけど、冠に「栗本薫の伊集院大介シリーズ」とついただけで「黄金パターンだ」「これぞ伊集院だ」「まさに栗本薫の世界だ」となってしまうのは、これはもう《実績》のなせる技なのだろう。
総じて栗本薫ってのは、トリックメーカーではなくストーリーテラーである。デビュー以来、傑作と言われる本格推理を多くものしているのも事実だが、その中で栗本氏が描いてきたものは、常に「何かに対するオマージュ」だった。音楽に対する、芸事に対する、マンガに対する、そして時には本格ミステリそのものに対するオマージュ。文章のはしばしから、伊集院大介ではなく「栗本薫」が立ち昇ってくるような、登場人物の口を借りて栗本薫がしゃべっているような、そんな色が見てとれたものだ。そして今回は、「あの時代」へのオマージュなのである。若さというのは、時として実に恥ずかしいものだ。しかし、恥ずかしいからこそ、あの時はあんなに楽しかった。そういう思いがこもった一冊。
え? トリック? 真犯人? ──だーら、そんなものはどうでもいいのよ。
(00.3.17)
オルファクトグラム・井上夢人(毎日新聞社)
やったーっ!! 途方もなく井上氏らしい新作だぁ\(^o^)/。待ってましたわよ、こういうのを。もう一気読みである。止まらない止められたい。普通ならうざったくなる蘊蓄も、この人に書かせるとスンナリ入ってくる。とにかくこの作者は、読者を取り込むことにかけては天下一品だよね。設定も魅力的なら、話の展開も魅力的。もうけっこうイイ年だと思うんだけど(笑)、無理して若作りしてるわけじゃなくて、ものすごく自然に若い人達が動き廻る。リアリティがあるのかどうかは、あたしは若者じゃないから分からないけれど(;_;)、とにかく何の抵抗も違和感もなく、物語世界に引きずり込まれるのは確かだ。
誰も体験したことのない世界──犬以上に鼻が利く、という世界を、文章だけでここまで描写できることのもの凄さ。丹念な取材に基づいた、説得力のある物語展開。特異な性質を持ってしまった者の悲劇を突き詰めることもできた筈なのに、読者を安心させるさわやかなエンディング。本を読んでいる間は興奮に次ぐ興奮、読み終わってからは、ほっとできる読後感。もう、アラを探すことの方が難しい。とにかく、これは読まなくちゃ損だ!
(00.3.18)
流れる砂・東直己(角川春樹事務所)
探偵・畝原は、とあるマンションの管理人から入居者の行動調査を頼まれた。男性の一人暮らしなのに、若い女性が複数出入りして様子がおかしいという。調査を開始した畝原はすぐに実態に気付くが、その後、複数の事件の芽が萌え始める──。
とにかく、事件のドミノ倒しだ。娘が失踪してるというのに、芝居じみた妙な態度をとる両親。煮えきらない区役所。ところが、その謎を追っている内に、妙な新興宗教団体に付けねらわれるようになるは、仲間だったテレビ局職員が行方不明になるは……もちろん、それらは一カ所へと収束して行くわけである。
とにかく、複数の事件を同時に扱っているのに、全然煩雑さがない。もちろん構成や文章が巧みなせいなのだが、それだけでなく、ひとえに、登場人物が生き生きしているのが最大の魅力だろう。姉御肌の消費者センター所長、昔なじみの興信所所長、仕事を手伝ってくれるタクシー運転手・太田さん、娘の護衛をしてくれる貴、そういう「主人公サイド」の人々は誰も気持ちいいくらい生き生きしてて、顔が浮かんでくるほどだ。
無論「悪人サイド」の人々の描写に関しても、その筆致は緩まない。本村夫妻の奇妙な言動は、そのリアルさゆえに不気味である。ディーテイルがきっちりしていて、こちらも、部屋の様子や夫妻の顔が見えてくるようである。
読んでて興奮できるかどうか、物語世界にのめり込めるかどうかは、やはり人物描写による部分が大きい。この本は色々なサスペンスシーンがテンコ盛りだが、それも「人物が生き生きしてる」からこそ、小さな部分にまで興奮できるのだろう。巧い人というのは、やはり違う。
(00.3.19)
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