お厚いのがお好き?


最後のディナー・島田荘司(原書房)

 装丁がとてもステキなのはいいんだけど、このボリュームで1500円は高いなぁ。と思いつつ読んだ石岡クンシリーズ(というよりは御手洗シリーズ)。「龍臥亭事件」に出てきた里美が横浜の大学へ編入し、石岡と再会しての物語だ。しかしこの石岡の一人称ってのは何とかならんものか。天才肌の探偵に対するワトソン役ってのは人並み以上に凡庸に書かれるのが常としても、これはひどい。この鈍さ、自信の無さの裏にある自意識の強さ、バカさ加減にはイライラする。京極夏彦の一連のシリーズで、関口が一人称をとるよりひどいぞ(笑)。物語の展開上からも、一人称主人公よりも読者の方が先に進んじゃうからイライラ感が募るんだよね。ま、それはそれとして、個別に。
【里美上京】里美と石岡の再会。ミステリではなく、ただ二人の再会の一日を描いた話。
【大根奇聞】江戸時代、飢饉に苦しむ村で、旅の病人を助けるために老婆が畑から大根を盗んだ。でも、それが発覚しなかったのは何故?──という話なんだけど、これって全く同じ話が日本昔話にあるよね? タイトルがネタばれになってしまうので、どうしても知りたい人と既読の人だけドラッグして下さい。「あとかくしの雪」という昔話。設定も犯行の理由も、それから真相も、盗んだのが大根だってところまで、全部この昔話と一緒だ。さすがに真相の証明方法は現代的だったけど。
【最後のディナー】英会話教室で知り合った老人の物語。ラストシーンなんて、とても感動的ではあるんだけど、もう石岡のバカさ加減に苛ついて物語を楽しむゆとりがなかった(;_;) バカってのは、決して英語ができないということではなく、嫌なものを嫌と言えない弱さのこと。挙げ句の果てに、親子ほど年の離れた小娘に「じゃぁサヨナラね」と脅されて言うことをきくに至っては、もう……。しかしまぁ、そこは我慢するとしても、石岡の一人称全般に通じる、自分の思いこみを唯一絶対の是とする姿勢にはほとほと辛抱できないのだよなあ。はぁ。 (00.3.22)      

百器徒然袋──雨・京極夏彦(講談社ノベルズ)

 このシリーズで好きなキャラを一人あげろと言われたら、榎木津なのだよな。素っ頓狂な台詞がもう、好きで好きで(笑)。一言で云えば、愉快痛快、なのである。その榎木津が大活躍する話ばかりの短編集なのだから、もうそれだけで買い、だ。
【鳴釜】親戚の娘が奉公先の息子とその一味に輪姦され、子供まで身ごもってしまった事に憤る主人公。悪党どもをやっつけるために榎木津が仕掛けたことが、これまたスゴイ。怪傑榎木津、って感じで、講談にしてもいいようなワクワク話。それにしても美弥子嬢、かっこいいなぁ。
【瓶長】亀を探す薔薇十字団。同時に瓶(かめ)も探す羽目になるのだが──。【鳴釜】に出てきた一人称主人公、「いつかの何とか云う人」(大笑い!)が、またまた巻き込まれるのだが、彼の名前の変化に注目すべし。一番笑えたのは、ここだったりする(笑)。
【山颪】亀を見つけたと思ったら今度は山嵐を探す薔薇十字団である。榎木津曰く「山嵐は刺があるからえらい!」んだそうで、ああもう、榎木津の台詞を読んでるだけでいいやもう(笑)。で、今回も「仕掛け」は冴え渡る。とにかくこのシリーズは登場人物がいいんだよなあ。これだけ構成がキッチリしてれば、「人間が描けてな」くてもそこそこ読ませるものになる筈だが、とにかく人物の魅力が尋常じゃないために、物語のパワーが倍増しているのだ。人物の造形が物語に貢献しているわけだ。それが即ち、本格ミステリで言う「人間が描けている」ということになるんじゃないだろうか。 (00.3.23)      

ランチタイム・ブルー・永井するみ(集英社)

 インテリアの会社に勤める女性が主人公の連作ミステリ。この筆者の他の作品からすると、ちょっと意外な柔らかい物語群だ。
【ランチタイム・ブルー】嫌いな上司に冷蔵庫にあった昨日の弁当を渡した知鶴。するとその上司が突然苦しみだして……謎解きというよりも、登場人物紹介のような位置づけかな。
【カラフル】この犯人は絶対にわかんない! だって伏線があまりにも……あれだけの描写じゃぁ、あとで××が出てきた時に結びつけようがないぞ(;_;)。
【ハーネス】こういう、一見冷たそうに見えたアレコレが一転して暖かくなるっていう話は、すごく読後感がいい。伏線も巧いし。これ、イチオシ!
【フィトンチッド】これも犯人はかなりイキナリじゃないか? このシリーズでは謎解きや犯人探しは二の次なのかもと思わせるくらい、読者に対して提示される手がかりが少ないのよね。でも、じゃぁ他に何が?というと、特にこれってものがないんだよなあ。
【ビルト・イン】こ、これも──そんな真相、分かるかいっ(笑)。いい話ではあるんだけども。
【ムービング】こういう「可愛い勘違い」は、恋愛ドラマなんかによくありそう。
【ウィークエンド・ハウス】あ、これはキレイ。娘が物置に行った時に探せば気付くのでは、という気もするけど、それはそれでいいんだもんね。事件を起こした理由もステキだ。
【ビスケット】うーん、最後の最後になって辛い話が……。
(00.3.24)      

りかさん・梨木香歩(偕成社)

 ようこは、リカちゃん人形が欲しかったのだ。そうおばあちゃんに言うと、おばあちゃんがくれたのは「りか」という名前の市松人形だった。がっかりするようこ。ところが、この「りかさん」はとても不思議な人形だったのだ──。
 
「からくりからくさ」の後日談ならぬ前日談。こっちの方が出版はあとなんだけど、番外編というよりはやはり、前日談或いはプロローグである。ただ、これは児童向けに書かれている。これを読んだ児童が、ちょっと成長して「からくりからくさ」を読むと、更に感動するだろうなぁ。だって、主人公のようことりかさんだけでなく、あの人に繋がるであろう人物も出てくるんだもの。
 さて、りかさんを通じて人形の喋っている言葉が聞こえるようになったようこ。普通は、そこからファンタジーな世界が広がったりしそうだけど、ところがそうはならない。人形達が背負っていたのは、とても悲しい歴史と思いだった。寄せ集めの雛人形たちは自分勝手に喋るばかりで、全然統率がとれていない。中でも雄雛は黙ったまま。どうして? その理由は人間社会にもあてはまる悲しい構図だった。
 また、友達の家にある古い人形の秘密も胸が痛い。台座の中に隠されていたもの、それは日本という国が《人形》に対して為してしまった狂気の仕打ちだった。読んでて、ああ、この話に繋がるのか、と気付いた時の衝撃。子供にこの残酷な話を知らせるのかという驚きと、知らせなくてはならない話なのだと言う思い。
 先程の雄雛の話もそうなのだが、児童文学とは言え、決して子供が簡単に理解できるようなテーマではない。ただ、理解できなくでもいいのだ。こういう事があった、という事を知ること。柔らかい心で、それを「痛い」と感じることが大切なのだ。そして大人になった時に、「あの本に書いていたのは、これだったのだ」と腑に落ちるのである。児童文学というのは、それだけで完結させる必要など、ないのかもしれない。 (00.3.24)      

細工は流々・エリザベス・フェラーズ・中村有希訳(創元推理文庫)

 相変わらずの黄金コンビである。ある日、トビーの部屋にルーという知り合いの女性が訊ねてきた。どうも様子がおかしい。言われるままにお金を貸したものの、その翌日、彼女は殺されてしまった。そして彼女が死んだ屋敷のあらゆる場所には、妙な痕跡が──。
 シリーズも3作目(オリジナルではこれが2作目なんだっけ?)なんだから、トビーもそろそろジョージの能力を見直したらどうかと思うのだが(笑)。それはともかく、今回はまぁ読者サービス満載というか、どんどん事件が起こる。怪しい手がかりや伏線も盛りだくさんである。混乱する一歩手前だ。気をつけないと、怪しい部分が多すぎて大事な伏線を忘れてたりして。「え、そんなこと言ったっけ?」ということが多々あり。集中力が要求されるなぁ。え、あたしだけですかそうですか。まぁ、そうやって読み飛ばしてしまった箇所があったせいか、真相がちょっと「いきなり」という気がしないでもなかった。犯人の行動についても、動機は分かるがこういうタイプの計画犯罪をするかなぁという点が気になるのよね。だって、ちょっとキャラと離れてる気がして。ただ、ヴァネッサ誘拐の一件は脱帽だ。なるほど、それでジョージはああいうことをしてたのか! これはマイッタ。思わず膝を打ったぞ。
 それにしても、翻訳者が苦手なあたしとしては、誰が誰やら(笑)。常に登場人物一覧と首っぴきだわさ。そんな事してたら興奮も半減なのよね。せめてファーストネームで呼ぶか苗字で呼ぶかあだ名で呼ぶか、どれかに統一してくれないかなぁ(;_;)。 (00.3.25)      

月は幽咽のデバイス・森博嗣(講談社ノベルズ)

 紅子シリーズ第3弾。パーティの最中、参加していた女性の一人がオーディオルームで死体で見つかった。それも、かなり無惨な様子で。しかし、オーディオルームのドアには鍵がかかっていた──密室?
 なんか密室がどうこうよりも、紅子と七夏の女の争いの方に興味の焦点が移ってしまった大矢である。しかし、根本的なところが分からないんだよなぁ……林って男が、二人の女がこういう状況にある根元なのに、どうして何もしない(或いは火に油を注ぐ)んだろう。それが最大のミステリだ。二人の女にモテてる自分が嬉しいのかな、とはサスガに思わないが、かなり狡いぞ。大人の男なら事態の収拾に努めろよ。あたしが紅子または七夏の立場なら、たとえ自分が林のことが好きであっても、女二人ごときを収拾できないという一点に於いて、熨斗つけて相手に進呈するぞ。だいたい「男を取り合う」なんていう構図、気位の高い女には絶対できないと思うんだけど。そして紅子も七夏も、そういうタイプの女に見えるんだけどなあ。そこもミステリだ。密室よりよほどミステリだ。
 ここからはネタばれなので、未読の人は読まないでね。あたしは建築物にしろ何にしろ、文章を読んだものを頭の中で立体的に構築してみることが苦手なので(笑)、そこんとこがちょっと辛いと言えば辛い。リビングの様子も、玄関ホールの様子も、それから密室となったオーディオルームの中も、その中だけなら映像化できるんだけど、それが一つの建物の中でどうなってるかってとこになると、もうダメなのだ。だから真相を読んだ時も、「……えーっと……この下って何があったっけ? 天井ってどれくらい高かったっけ?」という感じで、果たしてそういう事が可能な作りだったのかどうかを確かめるために、前を読み返したりして、「ああ、なるほど可能だわ」と腑に落ちた時点では、すにで驚きとかカタルシスとかを感じる段階ではなくて……ま、これはあたしのせいですごめんなさい。こういう島田荘司的な(笑)大がかりなトリックは、手段が目的を凌駕しない限りに於いては(大がかりすぎて笑えるってのも含めて)実は結構好きなんだけどね。ところで、どうしてそんなややこしい部屋に、わざわざ水槽なんて作るわけ? 魚、喰われるぞ(笑)。
 ところで、10m以上の高さの木がどうやって水を吸い上げてるかって話。それが真相に結びつくんじゃないかと疑って、いろいろと考えたんだけどなぁ(笑)。 (00.3.25)      

流さるる石のごとく・渡辺容子(集英社)

 アルコール依存症の圓(まどか)は、ふとした事から夫が自分を殺そうとしているのではないか、と思い始める。そして、夫の薦めで断酒サークルに顔を出すのだが──。
 とにかく盛り沢山である。夫への疑惑、断酒サークルで知り合った女性、向かいのベランダの老婆、スーパーでよく会う謎の男、そして彼女が巻き込まれる事件……。構成は見事で、ぐいぐいと読者を引っ張っていく。手がかりも伏線もふんだんにあって、露骨すぎる伏線に優越感を抱きそうになる一方で、なるほどこう来たかと驚かされたり、とにかく読者を飽きさせない。万引き(薔子が出てこないのが不思議なくらいだ(笑))絡みの蘊蓄は思わず感心してしまったし、エンディングも救いがあって、こういう内容の話にしては読後感がいい。
 ただ、いかんせん盛り沢山すぎる。これだけ細かい部分に凝っていながらも、最後はバタバタと決着した感は否めない。あれだけの犯行を考えてやり遂げるにしては、犯人の行動が杜撰だ。万引きやアルコール依存症の記述は社会派的な問題提起をしながらも、犯人の手がかりはなんだか新本格みたいで(貶してるんじゃないのよ)、全体の印象もどうも不統一だし。おばあさんはどうなったの?と(細かい部分だけど)消化不良な箇所も残る。つまりは、サービス精神が旺盛すぎて、いろんな楽しみを詰め込んだために、焦点がボケちゃった感じか。でも筆力があるから、とにかくのめり込んで一気読みできるのは確か。
 それにしても、姑のキャラは見事だ。いいなぁ、この姑。こういう状況になっても嫁を見捨てずに、励ましながら一緒に生きていこうとする。この作者にしては珍しく、この姑以外のキャラにはあまり強い個性を持たせていないせいもあるけど、この姑はかなり目立つ。惚れたぜ(笑)。 (00.3.26)      

400年の密室・柄刀一(角川書店)

 古い寺の日本庭園で子供の首が絞められ、その子供を間一髪で助けた男は首にノギスが刺さって息絶える。しかし、その庭園からは誰も逃げていった者はいない──日本庭園に隠された秘密が、400年の時を越えて蘇る。
 後半はもう、一気呵成に読んでしまった。こういう、真相に日本の悲しい歴史が潜むという物語は大好きなんだよね(真相が分かってからじゃないと、好きかどうか分からないってのもヘンだけど)。ものすごく好きなタイプの謎。中盤までに出てきた色々な手がかりが最後に一つの絵になる、そういう快感がある。それに、自分の出自にトラウマを抱えて生きてきた蔭山の個人的な問題が絡み、殺人事件の解明だけではなく、物語としてもとても感動的なエンディングになっている。登場人物がいいんだな。単なるコマじゃなくて、バックグラウンドに裏打ちされた個性を持っていて、それが演出過多ではなく描かれている。たとえどんなに謎やトリックが魅力的でも、人物の顔が見えてこないと、のめり込み度はどうしても低くなってしまうもの。その点は安心して読める。
 ただ──どうにも前半はノレなかったのよね。北斗七星に関する見立て(とはちょっと違うか。まぁそんなようなもの)が色々と出て来るんだけど、ああいうのって文で説明されてもちょっと……というのがあるでしょう? その場にいて、自分で地図に線を引いてみて、そこに浮かび上がった絵を見たら──おおっ!というんであれば興奮もするけど、文章で示そうと思うと《結果》を表示するしかないもんね。で、「こうなんですよ」と結果を見せられても「そうですか」というだけで、登場人物の興奮を共有できない。これはちょっと辛い。正直、俄然面白くなったのは後半からで、そこに至るまでは退屈と言ってもいいくらいだったんだもの。蘊蓄よりも、読者を引っぱり込むパワーが前半から欲しかったな。しかし無論、これはあたしの読解力の問題であって、充分理解できる読者や、登場人物の興奮云々を共有できるか否かなんてことに頓着しないタイプの読者には、これはもう文句無しに楽しめるのではないかしら。 (00.3.28)      

白い家の惨劇・倉阪鬼一郎(幻冬舎)

 ホラーと本格の融合……うーむ。ごめんなさい。謝ってしまいますあたし。よく分かりませんでした。えーっと、真相は何だったんでしょう。あ、いや、真相ってのがそもそもあったんでしょうか。ごめんなさい。すみません。
 論理立てて不合理を解きあかすのが新本格だとすると、不合理の恐怖を描くホラーとはどうしても相いれない部分があると思うのよね。そこを融合させてみるという試みは非常に面白いと思うんだけど、どこが合理的に解釈され得る部分で、どこが不条理の恐怖を味わう部分なのか、それが分からない。それが分からないから、「これの真相は結局どういう事だったの?」と、解かれざる部分にまで解答を求めてしまって、欲求不満に陥ってしまう──つまり、読み方を間違ってるんだろうなぁ、あたしは。あ、もしかしたら実はちゃんと合理的な解釈が与えられてるのかもしれないぞ。それを、幻想的な描写に惑わされてあたしが読みとれてないだけ、という気もしてきた。ううむ。
 シリーズとなった「先輩」と黒川のコンビは大好きで、おまけにぬいぐるみのミーコの使い方がまた巧くって、《吸血鬼原理主義者》との戦いも笑えるし、ちょっと幻想的な部分はさておいて、このキャラで「本格推理」を書いてくれないかなぁ。もちろん吸血鬼という設定はそのままで、連作短編集くらいのノリで。そうなると、けっこう面白い読み物になりそうな気がするんだけど。 (00.3.29)      


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