お厚いのがお好き?


『Y』の悲劇・有栖川有栖(他)(講談社文庫)

 言わずとしれたクィーンの「Yの悲劇」に対するオマージュ。実際には「Yの悲劇」が未読でもさして問題はない、独立したアンソロジーになってはいるけれど。それにしても、揃いも揃ってダイイングメッセージものになるとは──。
【あるYの悲劇】有栖川有栖:ダイイングメッセージを残した必然性というか、その時の被害者の思いというか、そのあたりはなかなかに心迫るものがある。
【ダイイングメッセージ《Y》】篠田真由美:これもダイイングメッセージとして「Y」が登場するわけだけど……仕掛けとしてはこういうの大好き! だけど被害者のキャラクタを考えると、死に際に残すなら、「Y」よりももっと他の表現になりそうな気がするんだよね。尚、この話の後で、次の二階堂黎人氏の作品中の一節(p.205)を読んだ時には笑ってしまった。
【「Y」の悲劇〜「Y」が増える】二階堂黎人:こ、このタイトルは表示できないわっ。えーっと、最初の「Y」は右45度くらい斜めになってるのね。首をかしげてご覧下さい(笑)。で、これはもう100%読み手側の責任であって、作品にも作者にも何の落ち度もないのだけれど、あたしはこういうメタミステリというかメタフィクションというか、とにかく「メタ」と言われる小説の楽しみ方が分からないのよね。最後の真相は結構好みだったんだけど──ストレートな小説にするより、こういうメタな設定にした方が効果的な理由が何かあったんだろうけど──ごめんなさい、あたしには分からなかったの。ぐすん。
【イコールYの悲劇】法月綸太郎:これイチオシ! 美しいっ! ロジカル! 文句なしだぁっ! こういうの大好きだぁっ! イレギュラーだけどお薦めマークをつけちゃう。
(00.9.12)      

蕎麦屋の恋・姫野カオルコ(イーストプレス)

 ちょっと切ない物語や、笑ってしまう話、奇妙な味わいの物語などが収録された短編集。特に表題作は絶品! とにかく著者のセンスが光る佳作集。
【蕎麦屋の恋】妻子を持つ中年サラリーマンと、OLを辞めて板前修業をしている若い娘の、プラトニックな恋愛物語。誰かと一緒にこたつに入ってテレビが見たい──そんな彼女の思いを、世の男性は理解してくれない。切なくて胸が締め付けられる。キスもセックスもしない、だけどそれ以上に感じ合える恋愛。「分かってくれる」ということの幸福。努力せずとも分かり合えるというのは、最高の関係ではないだろうか。溜息の出るような、静かで切ない恋愛小説だ。
【お午後のお紅茶】たまたま見つけた喫茶店は、おまかせランチしかなくて──思わずわが身を振り返ってしまうような物語。
【イーハトーブの小迪】最初は宮沢賢治っぽいファンタジックな話だと思って読んでたんだけど──あれ? あれ? おや? も、もしやこれって──ぶわっはっはっはっはっはっ\(^o^)/。のたうちまわって笑ってしまった。好きだ、好きだぞこういうの!
【天国に一番近いグリーン】この設定は凄いなあ。設定もさることながら、登場人物の独白にはそれぞれ含みがあって、勢いで読まされてしまう。でも、パレードの映像を想像するとかなり笑える。
【スワンの涙】これもある意味、【イーハトーブの小迪】に近い要素がある。最初は「まぁ何てリリカルな話なんでしょ、カオルコさんてばこういう透明感溢れる叙情的なのも書くのね」と思っていたのだが、最後のページで思わず机につっぷした\(^o^)/。なるほど、そういうことですか。いや、あたしはそれを使ってない(笑)ので具体的なことはよく分からないんだけど、主旨には賛同するぜ。
【色つきの男でいてくれよ】かなりシニカルな話だなぁ。でも、こ、このオチは笑える。かなり笑える。ああ、この本を読んでみたいっ! (00.9.12)      

他人の不幸は銭の味・鈴木輝一郎(小学館)

 怖くてオカシイ、ブラックな物語を収録した短編集。この人の短編は冴えてるよなあ。切れがいいというか。現代の短編の名手と言っていいだろう。ところでこの本、ハードカバーにしては表紙の紙が薄いような気がしませんか? いや、だから何ってんじゃないんだけど。
【他人の不幸は銭の味】食い物にされる素人陶芸家。ネタは割れやすいが、テンポが小気味いい。
【健康のためなら死んでもいい】切なくもおかしみのある幽霊譚。特にラストは秀逸。
【人形のいない家】変わり者の陶芸家の家に来た嫁の正体は──ちょっとゾクリとする話。
【老年探偵団】老人ホームを舞台にしたコンゲーム。こういう元気な老人の話のは威勢が良くて好き。
【老人教習所】こういうのは確かにブラックユーモアなんだけど、何だか読むのが辛くて……。
【寄生虫でダイエット】うわぁ、コワイなあ、これ。最も一般的なミステリっぽい作品。
【あなたのためを思って】「世にも奇妙な物語」あたりがコメディタッチでドラマ化しそうな話。
【このおみくじは当たります】市井の発明家が残した遺産とは──ラストにはのけぞった。そう来たか!
【いっしょにいたい】手垢のついたネタではあるけれど、怖いものは怖い。アンファンテリブルってヤツ。
【茶釜の夜泣き癇の虫】こ、この解決策は……ぶわっはっはっはっ\(^o^)/大爆笑だぁ。
【裏切りの遁走曲】構成の妙味。やっぱこの人の短編はいいわ。
(00.9.13)      

紙の爆弾・出久根達郎(文藝春秋)

 ある会社の段ボール箱が引越の途中でなくなってしまう。その箱を拾った(盗んだ?)人は「紙くず買います」という古本屋にそれを持ち込んだのだが、中には意味不明の名簿が詰まっていた。古本屋たちはその名簿の謎を追ううちに、戦時中にばらまかれた「伝単」と、松代大本営の裏側に行き着いてしまう──。
 でもなぁ──これって、秘密にしなくちゃならないものなのかしら。太平洋戦争の時の軍部の状態ってのは、残っている記録からしか知ることができないわけで、どうしても「今の感性」で判断してしまうから(それはしちゃいけないと分かってはいても、限界があるのよ)どうしても根本的な部分の理解に苦しむのよね。でもって、仮に「これはすごい秘密なのよ絶対に漏らしてはいけないことなのよ」というのが理解できたとしたなら、今度はどうして会社がそんな名簿を後生大事に保存しておいたかが分からない。DB化しちゃってセキュリティかけて、名簿自体は燃やしておけばよかったんじゃないのか。
 とまぁ背景に文句を言っても仕方ないか。こう書くと何だか不満ばっかりのようだけど、そういうことではなく、けっこうのめり込んでしまったのだよ。多少偶然が過ぎるような気がしないでもないけど、蘊蓄と歴史語りが楽しくて読み甲斐がある。「名簿」と「伝単」がどう組合わさるのか、最初に出てきた(っていうかもう死んでたけど)おじいさんの遺品がどう繋がるのか、そのあたりのミステリ的融合もなかなかのもの。クライマックスにはハラハラドキドキもあるし、探偵役3人組のキャラもなかなか。特に著作権買い取りのくだりは面白いぞっ! それだけで独立したシリーズが書けそうなくらい。 (00.9.19)      

ぼんくら・宮部みゆき(講談社)

 やっぱ宮部みゆきってのは天才だわ。
 深川の「鉄瓶長屋」には多くの店子が住んでいたが、ある日、お律の兄が何者かに殺される。差配の久兵衛のところへ逃げ込んだお律は「殺し屋が来た」というが──筆者お得意の捕物帖。
 初めは連作短編のような形で「鉄瓶長屋」の事件を描くが、短編が5作続いたあとで、いきなり中編【長い影】で、それらがひとつにまとまる。いわば短編は【長い影】のためのプロローグである(が、もちろん独立した短編としても非常にレベルが高いのは言うまでもない)。
 若くて、最初は頼りないと思われていた差配の佐吉。彼が鉄瓶長屋にやってきてからというもの、長屋の店子がだんだん減っていく。やはり若すぎる差配では巧くいかないのか? そこにひっかかりを覚えた同心の井筒は調査を始めるのだが、何と言っても井筒に協力するメンバーがもう、強烈なキャラクターばかりなのである。超美男子なのに、おねしょのクセが抜けない測量マニアの弓之助。聞いたことは全て丸暗記してしまう人間テープレコーダー・おでこ(巻き戻しや早送りもできるのだ!)。筆者の捕物帖ファンなら思わず拍手で迎える回向院の茂七親分──の右手である政次郎(驚くなかれ茂七親分は、もう米寿を迎えているのだよ!)。手妻使いもかくやという隠密同心の黒豆。おまけに伝書鳩ならぬ伝書カラスの官九郎。「鉄瓶長屋」には、姉御肌でしっかり者のお徳や、元女郎で頭は悪いが憎めないおくめなどなど、もう、とにかくキャラクターが立ちまくりである。この人物の魅力にかかっては、話が面白くないわけがないのだ。
 ストーリーだってもちろん、笑いあり涙ありハラハラドキドキあり謎解きありで、もう文句無し。エピローグ代わりの最後の掌編【幽霊】で登場した「幽霊」は、実はもうちょっと違う性格の人を想像してて、それが大きく予想とズレてたのが残念だけど、もちろん何の瑕疵にもなろう筈がない。
 うん、やっぱり宮部みゆきは天才だわ。 (00.9.21)      

真っ暗な夜明け・氷川透(講談社ノベルス)

 久しぶりに集まった学生時代のバンド仲間。ひとしきり飲んだ帰り道、駅のトイレでメンバーの一人が殺された。終電だったためか、メンバーと駅員の他には人影はなく、おまけに──
 あたしはもともと、驚天動地のトリックよりは静かにロジックで謎を解く方が好みなので、この手の話は見事にツボだ。ただ今回は物語を楽しむというより《文章を読んでいる》という感じが最後まで抜けなかった。ドラマ性がないわけじゃないし、文章自体も達者と思うんだけど、何なんだろうなこれは。
 
「密室は眠れないパズル」を読んだ時、短い周期で変わる三人称多視点の手法のせいで各人物像が浮き彫りになり、感情移入しやすくなるってなことを書いたが、この物語も同じ手法。確かに前回(と言っても出版はこちらの方が早いのだけれど)のように密閉空間で事件が起こるのをリアルタイムで描くような場合は、互いの疑心暗鬼が手に取るように分かって、この手法が効果的だった。しかし今回のように後追いで、主として会話のみで事件をレビューしていくという場合には、かえって散漫になってしまうような気がする。(途中で新たな事件は起こるものの)状況の情報収集と説明、そこから導き出される推理の吟味が続くわけで、読者をして一定の視点に立脚せしめた方が、読者自身が登場人物の一人になった気分で物語に参加できると思うのよね。物語でなく文章を読んでいるという感じはそこらあたりに起因するのかもしれない。離れた所から傍観者的にパズルが解かれるのを見てるようで……謎も謎解きも魅力的だけに残念。
 それにしても──探偵役の主人公を著者自らのペンネームと同じにするってのは、法月綸太郎だの栗本薫だの、それこそたくさんの人がやってることなんだけど……ここまで、他の登場人物の口を借りて同名主人公を褒め讃えるってのは初めて読んだぞ(笑)。「かなり頭がいい」とか「すべてが見えていて」とか「一目置かざるを得なかった」とか。欠点をあげつらっているように見える箇所でも、それは《氷川透》のクールで論理的という個性を補強する役割があったりして……いや、主人公の《氷川透》のことだってのは分かってるんだけど、著者と同じ名前という設定にしてるだけに、なんだかどうも歯茎が痒いというか背中がムズムズするというか……(笑)。 (00.9.25)      

木製の王子・麻耶雄嵩(講談社ノベルス)

 京都の郊外にある一風変わった屋敷。そこに住むのは人嫌いで有名な芸術家とその家族たち。ある雑誌でその屋敷の中が紹介されたのをきっかけに、安城則定は自らの出生の秘密に近づくが──。
 正直に言いますが、アリバイのくだり。あたしは思いきり読み飛ばしました。ええ、読み飛ばしましたとも。あれをしっかり読んで、把握して、吟味して、理解した人はいったいどれくらいいるんだろう? 4から8に行くにはとか11を抜けてとか──時刻表でもロクに見ないあたしが、あんなの見るワケがないっ! 「まぁこれは何か方法があったんだろう」と勝手に解決済みにして読み進めたけど、それで何の問題もなかったぞ(笑)。
 家族にまつわる秘密については、これはもう思いきりあたし好みである。おおっ、そう来たか!という驚きとカタルシスを充分に与えてくれて、満足満足。特に家系図をひっくり返す発想とか、その結果子供が両性具有でなくてはならない必然性とか──うわぁ、ワクワクするぅ。さすがに巧いなあ。則定が指輪を頼りに謎の一家に迫るくだりなんか、見ようによっては横溝正史風のおどろおどろしさが現代に甦ったようで、雰囲気も満点だ。
 不満と言えば、上に書いたアリバイのくだりに脳味噌をシェイクされてしまったことと(あそこまでする理由は何かあったのか?)──烏有だっけ、彼の存在って何か意味があったんでしたっけ?(笑) 最初の方でいきなり大上段に構えた形而上学的な悩みをぐだぐだ言ってるかと思えば、単につきあってる女子高校生を妊娠させて結婚を迫られてるってだけだったりして(^^;)、何じゃこいつは、と思ってたんだけど。彼のそのあたりのエピソードって、どういう意味があったんだろう。彼をはじめとする、白樫家に直接関わりのない第三者的登場人物がヤケに多くないか? 登場人物をもう少し減らして、スッキリした形にすることくらい幾らでもできたろうに……。 (00.9.27)      

星の海を君と泳ごう 時の鐘を君と鳴らそう・柴田よしき(ASPECT)

 SFオンラインで連載された小説「星の海を君と泳ごう」に、更に書き下ろしの「時の鐘を君と鳴らそう」を加えての出版。
 舞台は遠い未来。どうやら今より数千年先の話のようだ。銀河総合大学のテラ・ブロックA地域校に通うララ・ウィルコックスは、休みを利用してアルバイトをすることに。学生にインタビューするというそのバイトでララがペアを組んだのは、銀河連邦中に名前の知れ渡った天才少年・タイニー・ウィニーことキム・ウンヨンだった。彼女たちはバイトの途中である事件に気付き──。
 何がすごいって、数千年先の未来がどういう世界でどういう設定なのかってのを、まったく説明的じゃなしに、物語の一部として描写されてるのがすごい。これって結構難しいことだ。テラ系とガウリア系の反目、各星系にどのような生命体がいて、それらがどのように共存しているのか、生活する上でのディーテイルなどなど、うーん見事だ。
 物語の方もエキサイティング。これはむしろジュブナイルSFと捉えた方がいいのかもしれない。それほどシンプルでサービス精神に富み、且つ内包するモノが大きい。話の骨格はありがちと言えば言えるのかもしれないが、要はそれをどう描くかだ。登場人物達も個性的で生き生きしてるし、価値観の一部を現代とダブらせるなどして読者を飽きさせない。二編ともに話のとっかかりは魅力的だし、展開はワクワクさせるし、クライマックスでの一気呵成な盛り上がりは手に汗を握る。
 テラとガウリアの起源についての答えがはっきり明示されなかったのが残念と言えば残念なんだけど、ララやジムやウィニーやタイヨーがその後どうなったのかも非常に興味があるし、ここは何がなんでも続編を出して貰わねば!
 尚、巻末の西澤保彦氏との対談もとても面白かったけれど、SFに疎いあたしには意味不明な箇所も多々あり(笑)。SF好きな人には更に面白く読めるのではないかしら。 (00.9.30)      


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