お厚いのがお好き?


バルーンタウンの手品師・松尾由美(文藝春秋)

 「バルーンタウンの殺人」に続く、妊婦(いや、いつも妊婦ってワケじゃないけど)探偵・暮林美央シリーズ第2弾。いやぁ、好きだわこのシリーズ。前作もそうだったんだけど、有名なミステリのパロディ色も強くて、読んでて楽しい。それにしても、「名探偵の饗宴」に収録されていた【バルーンタウンの裏窓】が今回入ってなかったのが残念。あれ、好きなんだけどなぁ。
【バルーンタウンの手品師】出産間際の妊婦の病室から消えたディスク──いったいドコに? 一種の密室。このネタはいいなぁ。まさにこのシリーズならではの真相だ。何気ない部分が伏線になってるのも好み。
【バルーンタウンの自動人形】読んでる最中は「これ、物理トリックでどうにかしようとするのは、かなり無理があるぞ」と思ってたんだけど──なるほどそういう事ですか、と膝を打った。
【オリエント急行十五時四十分の謎】ぶわっはっはっは\(^o^)/ 大爆笑よ大爆笑。本格ミステリでここまで笑えるものも少ないぞ(笑)。いや、褒めてるんです褒めてるんですってばッ。絵を想像すると、これ以上のファンキーな世界はないっ! 最高!
【埴原博士の異常な愛情】味付けのしようによっては、ものすごくハードな社会派になる得るテーマだと思うのだけれど──それを、こういうタッチでやってしまうあたりが、このシリーズの魅力なんだろうな。
(00.12.1)     

ベネチアングラスの謎・太田忠司(NONノベル)

 霞田志郎シリーズ初の短編集。登場人物たちは誰も彼も長編と同じ魅力を持って、いや、短編だけに更に凝縮された魅力を持って迫ってくれるので、とても満足。ただ、欲を言えば、どれも短いよーーーっ! 「謎を解いて終わり」じゃないのが太田氏の真骨頂だと思っているのに、枚数制限のためか、もう一歩踏み込んで欲しいところに届いていないという、隔靴掻痒の気持ちである。うう、どれもあと20枚くらいあれば……
【ベネチアングラスの謎】これ、身近で体験した人がいるのでものすごく臨場感があった。
【パズル・パズル〜黒百合館殺人事件PartII】おお、これは
「紫の悲劇」のあの登場人物への系譜だ!
【死の刻印】うんうん、あるある、こういうサイト。このシリーズの何がいいって、探偵役やその周囲の人が、常人の感覚を持ってるところなんだよね。
【みぎか、ひだりか】うわはははははっ! これは著者には珍しい一発ネタ(笑)。
【マリッジ・ブルー】これ、いいなぁ。出来れば真実を知った後の亜由美ちゃんを、もう少し描いて欲しかった。最後の「亜由美は首をふった」というあたりに全てが凝縮されてるんだろうけど……彼女たちにとっては、ここからが物語の始まりになるのにぃ。
【四角い悪夢】これ、イチオシ! 切なくて、怖くて、痛い。総じて謎解きがメインになってるので(まぁ本格の短編なんだから当たり前なんだけど)、なんだかやっと霞田シリーズの色に触れられたような気分。それにしても、長編とまではいかなくても中編くらいにはなりそうなネタ。もったいない。
【紫陽花の家】三条さんの話。ものすごく色と雰囲気のある物語だよなあ。物語全体に統一された世界観があって、浸れる。
【ウィザウト・ユー】切ない物語で大好きなんだけども、「吉田に刺されたところが痛むんだから」「刺された? どこを?」という会話に集約されるエピソードが最も印象的。あたしにとっては、それがこの物語の全てになってしまうくらい心に刺さった。志郎はやたら傷つくキャラクターではあるんだけれど、こういう形は珍しいのでは。(00.12.2)     

根津愛代理探偵事務所・愛川晶(原書房)

 うん、これは限定付きでをつけてしまおう。読者参加型犯人当てパズラーの好きな人限定。驚天動地のトリックとか、いわくありげな屋敷とか、そういう大がかりな道具建てではなく、日常の些細なところから真実を見つけだすのが好きな人。クイズ好きな人。そういう人には面白いと思うな、これ。
 探偵の愛ちゃんに関しては、
「夜宴〜美少女代理探偵の殺人ファイル」を読んだ時、その仕掛けやトリックにかなり驚愕・感動したんだけど、そこに描かれている愛ちゃんの性格設定がどうにも好きになれなかったという経験があった。それで、今回も「どうせああいうキャラだしなあ」と思いながら読んだんだけど、おおおお、今回はまったく気にならないぞ。短編だからかな? そういう点でも気に入った。ネコマンガは、まぁご愛敬ってことで(笑)。「愛ちゃん」のファンには嬉しいボーナスなんだろうな。
【カレーライスは知っていた】例えば、トラベルミステリなんかで時刻表をちゃんと見ない人とか、最初に載ってる間取り図をちゃんと見ない人とかって、結構多いと思う。あたしもそうなのよ。で、今回も「これ、カンケーないや」って斜め読みした箇所があって……ちゃんと念を押されてたのに……これでも毎日料理してる主婦なのに……くううううう(;_;)。
【だって冷え性なんだモン!】正解を知った後で読むと、伏線もヒントもけっこう露骨なのになぁ──なんで分からなかったかなぁ──ああくやしいっ! きぃっ!
【スケートおじさん】あんまりキレイなオチじゃないなぁと思ってたら……おお、こんなところで!
【コロッケの密室】これがイチオシ! これって、古畑任三郎に使うと面白そうな(笑)、とてもよく出来た倒叙モノだなぁ。伏線の妙。ああ、今後はどんなところも疎かにしないでちゃんと読むわ。
【死への密室】「密室殺人大百科・下〜時の結ぶ密室」参照。
(00.12.5)     

ハリー・ポッターと秘密の部屋・J.K.ローリング著・松岡祐子訳(静山社)

 うわぁ、何だかすっかり術中にはまっている気がしないでもないのだが、やっぱ面白いものは面白いのだよ。いろいろと分析や批判も目にするのだけれど、それでも素直に面白いのだから仕方がない。
 魔法学校の夏休みに、おじさんの家に帰ってきたハリーは再び苛められていた。そして部屋に閉じこめられた時に出会った奇妙な妖精。そして、彼を救いだした魔法学校の仲間たち。そして新学期が始まったのだが──
 お馴染みのキャラクターに新たな登場人物も加わって、
前作に勝るとも劣らないハラハラドキドキを味わうことができる。子供向けってことで、人物造形は大袈裟すぎるほどにデフォルメされてるんだけど、それが全然鼻につかないんだよね。むしろ「あー、いるいるこういう人!」って笑えてしまうというか。秀才ハーマイオニーの女の子らしいところも見られるし、ロンの一家も出てくるし、グリフィンドールとスリザリンの対立の構図も明らかになるし、それから──いやいや、ここから先は本編で楽しんで貰おう。
 前作はそのストーリー展開に魅せられたが、今回はそれに加えて、各キャラクターの魅力が存分に味わえる内容になっている。キャラクターの掘り下げが深い、とでもいうのかな。そして、各人に与えられた性格やバックグラウンドが効果的にストーリーに貢献し、ストーリーは各人の魅力をいや増す。そしてクライマックス!
 あたしが喝采したのは、クライマックスのその後、終わり間近のシーンだ。ハリーと、マルフォイの父親とのシーン。クライマックスに比べれば小さな、つけたしのようなシーンではあるけれど、あれがハリー・ポッターの真骨頂なのではあるまいか。それにしても、続編への引きが強いシリーズだなぁ(;_;)。待ちきれないわ。 (00.12.14)     

千年紀末古事記伝ONOGORO・鯨統一郎(ハルキ文庫)

 うわっはっはっは\(^o^)/。いや、面白い面白い。これは古代史好きの人限定でをつけよう。なぜ限定かってぇと、やっぱ全く興味のない人はツライと思うのよね。ある程度興味と知識があれば、かなり細かいところまで、それも文体や構文に至るまで古事記を真似てて、その上でふざけてる(いい意味でね)のが分かるんだけど、全く馴染みのない人にとっては、かなり読みにくい文章だと思うから。
 で、ミレニアム末古事記伝である。話は、稗田阿礼が倭の国の始まりについて天啓を得、それを太安万侶に伝えるところから始まる。そこから先はお馴染み(かどうかはしらんが)古事記の現代語訳なのだが──あれ? 何だか微妙に違うぞ。こんなんだったっけ古事記って? 基本的には古事記の通りの話なんだけど、何だか細かいところが……あたしの記憶違いかなぁ……と思い、中断して古事記(もちろん現代語訳だぞ)を持ち出して確認。あ、やっぱ違う。そんなこと古事記には書いてないじゃん。でも、ま、いっか。とにかく読んでみよう。──お? お? おおおおお! うわははははは!
 「交合ひ」の描写があまりに多くて、まぁ実際に古事記にもそういう箇所は多く出てくるんだけど、古事記がサラリと流しているところをこの著者ややたらと具体的に表していて、「あんた見たんかいっ!」てなもんであるが(笑)、それ以外は抵抗無く非常に楽しんでよめた。いやぁ、才能だよなぁ。考えてみたら、古事記に自分のアイディアを混ぜて構成し直したってだけで、それじゃ小説と言うより単なる翻案なんじゃないかという指摘があるかもしれないが、とにかく読ませてくれるし面白いしで、すっかり満足してしまったのだった。特に、ヤマタのオロチから草薙の剣が出てくるのって、昔から「どうして?」と思ってたもんだから、この解釈は気に入ったぜ! やはり侮れない才能である。古事記自体はまだ続くんだから、この続きを是非! (00.12.15)     

麦の海に沈む果実・恩田陸(講談社)

 理瀬が入った全寮制の学校は湿原の側にあった。不思議な校長、学校にまつわる言い伝え、突然現れたルームメイト、そしてファミリーと呼ばれるグループ。理瀬が入ることになった《ファミリー》は他のファミリーよりも人数が少なかった。それは、メンバーが謎の失踪を遂げていたから──。
 いやもう、この設定、この道具建ては、ちょっと演出や文章を変えれば集英社コバルト文庫である。講談社X文庫である。角川ルビー文庫である。いやいや、もっと率直に言うなら、マンガである。その上、大時代的というか20年くらい前には多かったよなぁというか、とにもかくにも、そういう世界なのだ。三十代も半ばを過ぎて読むには、正直チト辛い世界である。ところが、そういう世界をこの著者が書くと、こうも見事なファンタジック・ミステリーになるものか。紡ぎ出される物語に、すっかり魅入られてしまった。
 内容はかなり緻密な謎解きもの、本格ミステリである。しかし、この著者の描き方は(いつもそうなのだけれど)ガチガチの本格という感じではなく、むしろ理瀬という一人の少女を通して、実際には先ずあり得ないであろう《学園》の世界へ読者を誘うという描き方なのだ。そこに登場する人々の、得も言われぬ不思議なキャラクター。或いはありがちな、だからこそ安心できるキャラクター。《学園》の持っている謎にいつしか引き込まれ、翻弄され、そして鮮やかな論理的解決に目を見張る。架空の世界を描きながらも最後には足が地に着くというか、幻想と現実が、ドラマと論理が共存してるというか……とにかく、巧い。
 少女趣味が苦手という人はちょっと辛いかもしれないが、この世界にさえ浸かることができれば、満足すること請け合いである。リリカルにしてロジカルな佳作だ。 (00.12.16)     

ミミズクとオリーブ・芦原すなお(創元推理文庫)

 「ぼく」は作家。妻と二人暮らし。ところがこの妻は結構鋭くて、謎解きの才能があった──。
 アームチェア・ディテクティヴというよりはキッチン・ディテクティヴである。警官である友人の河田が持ち込んで来る問題を、妻は鮮やかに解いてしまう。しかし、かといってバリバリの本格かというと、実はそうでもない。読者が謎解きに参加しようとしても、伏線は薄いし偶然は多いし根拠は薄弱だし「女のカン」だし(笑)。
 この短編集の面白さは、むしろ謎解きとは別のところにある。いや、謎解きも面白いんですよ。ほぉ、と膝を打つ所も多いし。ただ、一番の真骨頂は何と言っても、情けない「ぼく」と妻の関係、「ぼく」と河田と妻の会話、そして実に旨そうな料理の描写にある。事件だの謎解きだのは、これらの魅力を増すための小道具にすら思えて来るのだ。だから、できることなら謎解き小説として読むよりも、この家庭の描写を楽しんで読んで欲しい物語なのである。
 特に会話は、実に絶妙だ。「ぼく」のキャラもいいよなぁ。作品としてのイチオシは【梅見月】。二人の、結婚前のお話。【ミミズクとオリーブ】はコトが終わってからの夫婦の会話が秀逸。【紅い珊瑚の耳飾り】が不機嫌になる奥さんがいい。【おとといのおとふ】は思わず通販を頼みたくなるし、【姫鏡台】は髪を切るくだりのムードが好き。【寿留女】は歯の描写に尽きるし、【ずずばな】は冒頭の夫婦漫才が最高!
 この夫婦や、「ぼく」と河田の漫才にもう一度出会いたい人には、続編である連作短編集
「嫁洗い池」が出てます。コミカルな会話もミミズクも健在だぞ。また、同じ様な味わいの長編ミステリとしては、「月夜の晩に火事がいて」があります。この著者の描く世界に惹かれた方は、是非。(00.12.19)     

やっとかめ探偵団とゴミ袋の死体・清水義範(祥伝社文庫)

 11月に祥伝社から出された400円均一の書き下ろし中編シリーズの一冊。書き下ろしとはいうものの、名古屋ローカルでは既にこの話は今年の春にドラマ化されてるんだけど(笑)。
 舞台は言わずとしれた名古屋市。中川区で駄菓子屋をいとなむ波川まつ尾ばあちゃんは、年に似合わぬ明晰な推理力と、年相応の経験と知識を持った女丈夫。ある日、彼女の仲間であるクメばあさんが、分別収集がうるさくなった名古屋のごみ捨て場で分別のチェックをしていると、なんとゴミ袋の中からバラバラの死体が出てきた! こりゃぁ、どえりゃあこったぎゃあ!
 安心して読めるシリーズである。残念ながら名古屋のゴミ収集は、この3ヶ月後に大きくルールが変わってしまうんだけど(笑)、この時には確かにこんな感じだったのだ。ああ、それにしてももったいない。手がかりがどんどん出てくるし、ばあちゃん探偵が見込んだ通りに話が進む。とにかく話のテンポが早いのだ。もっと枚数をかけて、ドラマ化された時に入ってた「捨てられたと思ったおばあちゃんが行方不明になる」というエピソードを、どうして削っちゃったんだろう。400円文庫の制約のせいだとしたら、あまりにもったいないぞ。ドラマでは、あのあたりが最もテーマを明確に示しており、最も感動できるシーンであり、それと同時に犯人を追いつめる決定的証拠になるシーンだったのになぁ。あれを削ってるもんだから、どうにもツメが甘い。あ、そうか、これはドラマを見た名古屋圏のファンの特権だな(笑)。
 ところで、清水氏の文章ってのは独特で、誰の視点だとかなんてことは関係なく、清水義範の視点でバンバン書いていて小気味いい。こういうのを作家志望の素人がやると、きっと編集者から注意されるだろうなぁというような文章なのだ。それを芸にまで高めてしまってるあたりに、清水ワールドの礎があるのだろう。で、その「芸」が謎解きミステリでも登場するもんだから、読む側も普通の本格の読み方ができない(笑)。もしかしたら、地の文で叙述トリックをやらせたらメチャクチャ有利かもしれんぞ>清水氏。 (00.12.21)     


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