お厚いのがお好き?


螺旋階段のアリス・加納朋子(文藝春秋)

 会社を志願して退職し、長年の夢だった「私立探偵」を始めた中年男。しかし客など来るはずもない。そんな時、彼の事務所に突然現れたのは、まだ少女の面影を残す「アリス」だった。彼女は探偵助手になりたいという。実際、彼女には卓越した推理力があって──。
 中年探偵と若くて美人の助手ってのはとってもありがちなんだけど、探偵の方に家族を作って、妙に恋愛めいた成り行きにしないところがいい。その話もつまるところ《夫婦のありかた》がテーマになっているだけに、主人公二人は生々しくない方がいいのだ。そして終章では、その主人公自身の《夫婦のあり方》が問われるという話運び、そのあたりの処理の仕方がさすがである。
 アリスのキャラが最後までよく分からなかったのが不満と言えば不満か。どことなく私生活に秘密をもった、見た目に似合わない結婚・離婚経験を匂わせ、それでいて天真爛漫で賢い美少女、というイメージを与えておいて、最後のどんな正体が出るのかと思ったら……結局のところ金持ちの親に逆らおうとするお嬢様で、最後には単なる子供になってしまうってのは、個人的な好みで言えば、ちょっと残念。でも、個々の短編の謎解きのレベルは総じて高く、加納朋子ならではの巧い比喩や描写も多々あって、安心して読める。では個別に。
【螺旋階段のアリス】パズラーとしてはイチオシ。隠されてあったものの正体も秀逸。
【裏窓のアリス】ダンナが自営業をやってる場合は、妻も経理の勉強をしましょうねってことで(笑)。
【中庭のアリス】夫婦のあり方としては、最も切ないかも。冷たい真実よりも優しい嘘を選ぶ探偵。
【地下室のアリス】ちょっとちぐはぐな印象。価値のあるものを、そういうふうに扱うか?
【最上階のアリス】これもパズラーとして秀逸。しかし最も秀逸なのは、その動機であることは明白。
【子供部屋のアリス】くぅ、たくさん伏線はあったのに気づかなかった! パズラーの醍醐味がある。
【アリスのいない部屋】話そのものよりも、探偵と妻の会話の方が印象深い。
(01.1.3)     

みんな家族・清水義範(文藝春秋)

 清水氏本人の家族親戚をモデルにしたと思われる、庶民の昭和史。話は昭和最後の日、天皇崩御を知らせるテレビ番組を見ながら。百瀬家の家族が語り合うシーンから始まる。そして百瀬家やその姻戚の家族が歩んできた「昭和」の話が始まる──。
 あたしはもともと「一代記」ものには弱くて、その上「昭和史」が大好きで、これだけでもうツボである。正直なところ、昭和を生きた人物の一代記ってのは、もっとドラマチックで感動的な小説がたくさんあるのよね。その点、この話はドラマ性という面ではちょっと淡々とし過ぎているきらいがあるし、その年の社会風俗を紹介する方に力が入ってしまってる時もある。社会風俗を書きたいがためのエピソードもたくさんあるし(笑)。でも、それが清水義範の文章で書かれているというだけで、こういうのもアリ!になってしまうのだ。作風の勝利である。
 あたしが何よりも買いたいのは、複数の家族の物語を(それも2〜3代に渡って)並行して描いている点だ。百瀬家だけで充分小説になるところを、最終的には百瀬家と親戚になる複数の家を、昭和初期に遡って描く。なぜならそれは「みんな家族」になるのだから。昭範と初美が結婚したのはこの二人だけの話ではなく、初美にも父母がいて、その父母にも父母がいて、そうしてその父母たちにも恋愛や葛藤や苦労や喜びがあって、そうした流れがあってはじめて、初美と昭範が出会うのだから。一組の夫婦の出逢いの後ろには、これだけの歴史があるのだということがよく分かる。決して、あたし一人・あなた一人の出逢いではないということ。主人公に視点を固めた話もいいが、脇役にもそれぞれの人生があるのだということを思い出させてくれる。そして、その人生は主人公のそれよりもドラマチックだったりするのだ。
 それにしても驚いたのは、名古屋で風船爆弾を作っていたってことと、
「やっとかめ探偵団」のまつ尾ばあちゃんが実在したってことだな(笑)。 (01.1.6)     

ハート・オブ・スティール・芦原すなお(小学館)

 笹野里子は、夫の死亡後に彼が開いていた探偵事務所を引き継いだ。料金システムは気分次第、気に入らない仕事は断る、客にも媚びない──そんな里子だが、時には気が乗らない仕事でも、仕事の方から里子を巻き込んでしまう場合もあって……。
 帯には「ネオ・ハードボイルド」だの「鋼の心を持つ女」だのと書かれているが、実際には芦原すなおらしい機知に富んだ会話が一番の魅力である。いや、もちろんストーリー展開も魅力的なんだけどね。ハードボイルドと言えば、意味のないカッコつけや、読んでる方が恥ずかしくなるようなモノローグに溢れているものなんだけども、芦原氏の場合にはそういうのも自分の世界の色に染めてしまっている感すら、ある。刑事の遠藤とのかけあいが心を和ませてくれて、時にはシニカルな笑いもまぜて、そしてサスペンスとしての盛り上がりも充分で、おまけに
「月夜の晩に火事がいて」のふーちゃんまで登場する。うん、このシリーズはもっと読みたいな。
【雪のマズルカ】名家の老人から頼まれた、素行の悪い孫娘を更生させて欲しいという依頼。しかしその依頼の裏には……これがイチオシ。ミステリ的醍醐味もある。何より、これだけの枚数で里子の魅力を過不足なく演出できているあたりがさすがだ。
【氷の炎】愛人の素行調査を頼みに来た有名俳優。里子は、調査される当の愛人によって指名されたらしいが……。さらっと書かれているものの、真相はかなり鬼畜で、ものすごい話である。ラストは悲しいなあ。
【アウト・オブ・ノーウェア】施設で一緒に育った二人の少年。大人になってからも関係は続いており……事件そのものよりも、この二人の関係のあり方がドラマチックである。アウト・オブ・ノーウェアとは「どこからともなく」の意。
【ショウダウン】今回の仕事は、なんと里子の夫が死んだことに関するもの。思い出したくない事件だが、それと葛藤する里子がいい。ふーちゃんとの会話は、なんだか読んでるこっちも救われる思い。捜し物の場所には膝を打った。
(01.1.9)     

スクリーミング・ブルー・藤木稟(集英社)

 沖縄の海で女性の死体が発見された。一見傷一つないように見える美しい死体は、実は内臓が全て取り去られ、代わりにハイビスカスの花びらが詰め込まれるという常軌を逸した装飾が施されていた。このような死体は複数見つかっており、沖縄県警は同一犯人による連続殺人と見なしてそ捜査を開始。本庁から派遣されて来た機械のように合理的だが過去に傷を持つ刑事・久義と、犯罪プロファイラー・夏目の二人が、沖縄で犯人と対峙するが、彼らの前に立ちはだかったのは、独特な歴史が育んだ「オキナワ」そのものであった──。
 
「ハーメルンに哭く笛」「イツロベ」などで描かれていた世界とは、また随分違った雰囲気の話だなあというのが第一印象。個人的な好みで言えば、こっちの方がずっと好きだ。久義&夏目のコンビはハードボイルドやクライムノベルに出てくるようなキャラだし、犯罪はこの上なく猟奇的にしてサイコだし、そして舞台となっている沖縄で昔から続いているシャーマン的信仰が絡むし、更に沖縄が抱える歴史問題・基地問題にも触れるし──という、一見バラバラな要素を見事にひとつにまとめている。それで違和感もなければ散漫な印象もない。あるのは読みごたえだけである。うーん、巧いなあ。特に、朝香と、島の老人たちの描写がいい。
 そしてクライマックスは圧巻だ。真相が分かった時、ちょっと狡い気がしないでもなかったが(笑)、それでもそんな狡さを吹き飛ばしてしまうほどにサスペンスフルで、映像的で、心にグサグサ来るような展開だ。同時に暴かれる久義の過去や、いっそ甘いと言われかねない夏目の理想主義など、物語の最初からずーっと引っ張ってきたものが、最後に読者の心のなかでキレイに融合する。見事である。
 ただ、個人的にはラストの曖昧さに歯がみしている。こうした意図は分からないでもないんだが……うう、スッキリしねぇぜっ(笑)。 (01.1.13)     

生存者、一名・歌野晶午(祥伝社文庫)

【注意・思いきりネタバレしてます。未読の方は読まないでね】

 新興宗教のメンバーが行ったテロ活動。実行犯の4人はとりあえず無人島へ逃亡し、そのあと教団上層部から外国へ逃がしてもらう予定になっていた。しかし……。
 祥伝社400円文庫・「無人島」テーマの競作のひとつ。途中まではありがちな展開だと思ったのだが、ラストの真相を読んで「おおおおおっ」と驚愕。騙された。ものの見事に騙された。これはもう、降参である。
 実は(ここからがネタバレなのだが)、この手の話──つまり、無人島に漂流しただの、どっかに監禁されただのというような、不測の事態で一ヶ月以上、不自由な状態に於かれた登場人物を描く話を読む度に、気になって気になって仕方のないことがあったのだ。何かというと、女性の生理の問題である。往々にして男性作家の描く話では、この問題が無視されていることが多いのよ。だけど、例えばこの話のように何カ月もの間無人島で暮らすとなれば、当然、女性にとってはかなり切実な問題なのだな。だけどこの手の話は、食糧や水には言及しても生理用品には触れないのである。うーーー、そりゃ生きるか死ぬかって場になれば、ナプキンやタンポンより水や食糧の方が大事だけどさ、せっぱ詰まれば葉っぱでも何でも使うけどさ(げっ)、でもこれって女性にとってはかなり、ヘタをすると野糞をするよりも深刻な問題だぞ。
 とまぁ、そういう不満をあたしは常々持っていて、でもって今回も「まーた生理の問題を無視してるよ」と鼻で笑って読んでいたのである。と、ところが! そうか、そうだったのか、うんうん、それなら生理の問題が出てこなったのが納得できるぞ! というより、生理の問題が出てこないのが伏線になっているではないか。素晴らしい! ブラボー!
 おまけに、ラストの真相に向けての演出はとても魅力的だし、最後はリドルストーリー紛いのオチで余韻を残すあたりもサスガ。驚きを求めるあなたに、これはお薦めだ。 (01.1.14)     

この島でいちばん高いところ・近藤史恵(祥伝社文庫)

 夏休み、海へとでかけた女子高校生五人。ところが船に乗り遅れ、無人島に一晩取り残されることに。「明日の朝、船が来るまでの辛抱よ」と島で一夜を明かすことにしたのだが……。
 祥伝社400円文庫・「無人島」テーマの競作のひとつ。こういうテーマでミステリを書くと、作家の少なくとも半分は「一人ずつ減っていく」てな展開にするのではないかと思うのだが(先の歌野氏もそうだったし)、これもモロにそのパターンである。そうなれば次の興味は、犯人はこのメンバーの中にいるのか否かという点になるのだけれど……うーん、それをけっこう早い段階でバラしてるってのは、どうなんだろうなぁ。きっと最後にはもう一度どんでん返しがあるぞ、と思ってたんだけど、それもなかったし。サスペンスの範疇にはいる話なんだろうけれど、それにしても「一人ずつ殺されていく」のを順を追って描いてるだけって感じに思えて仕方ない。
 主眼は恐らく、それぞれに思いや悩みを持った少女たちが、命の瀬戸際に立たされた時にどんな変化を見せるかという点にあるのだろう。ただ、どうにも枚数が少ない。だもんだから、全体を通してアッサリしすぎちゃってる感があるのよね。なんだかストーリーも登場人物の行動も、皆が皆、直球だし。少女たちの心理も恐怖も恐慌も、それから無人島の中で起こった事件とその真相も、もっと効果的な構成と描写が出来る作家なだけに、倍以上の枚数を割けば、もっと面白くなったのではないかしら。残念。 (01.1.14)     

顔のない男・北森鴻(文藝春秋)

 全身メッタ打ちの状態で見つかった空木精作の死体。その事件を調査する刑事たちは、たちまち壁にぶつかった。空木は、公にも私的にも、何の付き合いも何の痕跡もない、「顔のない男」だったのである。これでは動機を持っている者も、殺された原因も、何も掴めないではないか。そんな中、後追い捜査をやっていた二人の刑事は、空木の部屋であるものを見つけた──。
 こ、これは、読むのにかなり集中力を要する話なのではなかろうか(笑)。普段なら、北森氏の流麗な文章に乗って気持ちよく物語の世界に入っていけるんだけど、今回は何故かそれが出来なかった。おまけに登場人物は多いし、複数の事件は入り組んでるし、事件を追う立場の刑事が何となく腹にイチモツありそうで信用できないし。読者が視点を合わせていけるのは又吉刑事だけなんだけれど、彼自身がかなり揺れてるもんだから、彼の抱いてる疑問や不信まで読者は一緒に引き受けちゃって、その上、複数のストーリーが交差して、もう何が何だか(笑)。
 おまけに真犯人が──もちろん、細かい仕掛けは分かろう筈もないんだけど、この真犯人、はじめから結構怪しく描かれていたし、これだけ人物が入り組んでくると「このあたりから真犯人が出てくるのが、一番スッキリするよな」という位置にいる人物だったため、あまり驚きもなかったのである。読み終わってからもう一度頭の中で整理してみると、かなりよく練られているのは分かるんだけど、なんだか今一つダイレクトに伝わって来なかったのよね。
 ラスト──真犯人捕捉のシーンからエピローグまで──が、かなりあたし好みの展開と描写だったから、なんとなくいい気持ちで読み終えられたのが救い。 (01.1.16)     

雨の鎮魂歌・沢村鐵(幻冬舎)

 とある田舎町の中学校で起こった事件。仲間を失った俺たちは、その悲しみに沈むと同時に真相を知りたくて仕方がない。しかし、鍵を握っている筈の仲間の様子がおかしい。そして、俺が前から好きだった彼女の様子も……。
 何だか、得も言われぬパワーがある。迸るものがあるのだ。若さと言ってしまえばそれまでかもしれないが、荒削りな箇所やこなれていない部分がすごく多いのに、それでもいつの間にか引き込まれてしまうのはどうしてだろう。
 男子中学生の一人称で語られるのだが、これが何というか、やたらと感情的主観が多くてうざったい。好きな女の子に関する思いが事あるごとに出てきて、それは確かに中学生くらいの男の子には当然のことで、そういう意味ではリアルなのだけれど、誰がリアルな中学生の──つまりは、ガキっぽい自己憐憫や青臭い正義感や成熟してない恋愛感情など──誰がそんな文章を読みたいと思うだろう。客観的な描写が少なく、主人公の男子中学生の目を通して語られるストーリーは、状況の説明よりもその時自分が何を思ったかの方に9割の筆が割かれているのだ。そういう意味では読みにくいことこの上ないのである。
 それなのに、何故かページをめくる度にぐいぐい引き込まれてしまう。余分なモノローグは多いし、脇役は必要以上に書き込んでるかと思うと主要な人物の輪郭が見えてこないし、ストーリーは緻密に構成されてるかと思えばひょんなところでご都合主義だし──ううう、欠点なら幾らでも出てくるのに、それなのに読まされてしまうのだ。なんだか情景が総天然色で迫ってくるのだ。けぶるような強い雨の音や、学校の下足箱の臭いや、雨の日のぬかるんだ土の感触や、自転車の荷台に人を乗せた時の後ろに引っ張られるような重みや、そういうものを感じてしまうのだ。
 構えたキャッチャーミットに突き刺さった球は、ストライクなのかクソボールなのか、いや、それ以前に直球なのかカーブなのかフォークなのかも分からなかった。だけど、ミットに突き刺さった時の衝撃だけは明らかに手の中に残っている。そんな物語だった。
 この小説が巧いのかどうかと訊かれたら、それは「下手」と答えるしかない。だけど、書きたい何かを持っている作者だという思いは、確固として残ったのである。それが何なのかは分からないのだけれど。とにかく、パワーがある。迸る何かがある。それはもしかしたら、ヘタに「巧く」なってしまうと、失われてしまうものなのかもしれないが……。
 次の作品を楽しみに待とう。 (01.1.18)     

少年の時間・デュアル文庫編集部(編)(徳間デュアル文庫)

 少年をテーマにしたSF色の濃いアンソロジー。とにかく執筆陣が豪華である。若年層向けの話だけど、大人が読んでも充分楽しめるし感動もできる、質の高い短編が揃っている。にしても、やっぱ若い世代に読んで欲しい話ばかり。
【鉄仮面をめぐる論議】上遠野浩平:触った生命体をすべて結晶にしてしまう少年。そして彼は、地球を攻める虚空牙に対する最後の砦として、「兵器」になった──設定の魅力もさることながら、エンディングを読んで、物語の最初の一文が腑に落ちる快感がある。
【夜を駆けるドギー】菅浩江:これ、イチオシ! 2ちゃんねるをモデルにしたような、インターネットの掲示板が舞台。そして大事な小道具として、AIBOを想起させるようなメカ犬が登場。でも底辺に流れるものは、暖かな友情であり愛情であり、成長物語である。ストーリーも意外な展開によく練られた構成で申し分なし。ラストにははからずも感動し、読後感も最高だ。題材が「今が旬」のものだけに、時機を逸せず読んで欲しい佳作。
【蓼食う虫】杉本蓮:不時着した場所は、願ったことが具象化してしまう惑星だった。どちらが幸せなのだろうと、ちょっと本を閉じて考えてしまう。と同時に、自分なら何を望むだろうか、と。
【ぼくが彼女にしたこと】西澤保彦:中学生の僕が憧れのお姉さんの後をつけた時に見たものは……。うーん、なんか読んでる最中も読み終わってからも、気分の悪い話だなぁ。それに男子中学生の一人称なのに「酒の席でつい、将来は社長になるのだといった、くだらない大法螺を吹いてしまうのと同じ」みたいな表現が出てくるなど、違和感が拭えない箇所が多々あり。
【テロルの創世】平山夢明:昭和時代の日本を模した町で育てられている少年少女。かれらにはある「使命」が与えられていた──。けっこうありがちな設定だと思ったのだが、このラストは新鮮。若干唐突な気がしないでもなかったが、実は最も効果的な〆方だったのではないだろうか。
【ゼリービーンズの日々】山田正紀:ゴールデンブラウンの日にはドラゴンを退治する──毎日ひとつずつつまみ出すゼリービーンズの色で、その日を占う少年。世間は彼を「ひきこもり」というが、彼は人に見えないものが見える。めくるめく、という形容が似合う佳作。ドラゴンの正体はやや理に落ちすぎるきらいはあるが、展開と描写はさすがだ。
(01.1.20)     

絢爛たる殺人・芦辺拓(編)(光文社文庫)

 昔の埋もれた名作探偵小説を発掘する本格推理マガジン。こういうのを読むと、本格探偵小説に冬の時代があったなんて信じられないほどだ。昔からこの手の話が好きな人はたくさんいて、そういう人達が時間と頭と心をこれに費やしてたんだなぁ、その流れは連綿と続いているのだなぁ、というのが分かる。
【ミデアンの井戸の七人の娘】岡村雄輔:おお、なんだか無性に時代を感じる。文章だけでなく、ユダヤだのフリーメーソンだのシャム双生児だのといった小道具からも時代を感じるなあ。こういう雰囲気だともう、黒魔術や呪いでホントに人が死んでも構わないって気になるから不思議だ。真相については、何だか海外の某作品に同じようなものがあった気が──あ、でもこっちの方が数十年早いか。
【むかで横町】宮原龍雄・須田刀太郎・山沢晴雄:リレー小説。わはは、苦しい苦しい。でもその苦しさこそリレー小説の醍醐味だよな。
【二つの遺書】坪田宏:あ、これ好き。ちょっと道具建てを変えるだけで、現代でも充分通用するぞ。密室トリックではなくて、もう一つの方がツボなんだよなあ。核となるストーリーはシンプルなんだけど、そこまで持っていく技と演出の勝利か。
【ニッポン・海鷹】宮原龍雄:海鷹はシーホークと読ませる。これはちょっと文章が性に合わずに辛かったな。
【風魔】鷲尾三郎:わははは、奇想だ奇想! これ好きっ。今となっては誰かが(あのあたりが)やりそうなネタだけど、当時は新鮮だったろうなあ。それとも「早すぎた」かな。この人の他の作品も是非読んでみたい。
(01.1.22)     


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