お厚いのがお好き?


黒い仏・殊能将之(講談社ノベルス)

 昔、とある僧の手で中国から日本へ運ばれようとしていた仏像の箱。船が難破し、箱は福岡へ流れ着いたものの、その仏像と一緒に箱に入っていた筈の物は、数百年の時を経た今も見つかっていない。何としてでもその「お宝」を探したいという依頼を受け、探偵・石動戯作は助手と共に福岡へ飛んだ。
 うわぁ、こう来たか、というのが最後まで読んでの感想。いや、実際のところは、あたしはこれの下敷きにされたであろう作品や作者を全く知らないし読んだこともないので、著者が本当にやりたかったことは分かっていないのだけれど。それでも独立したエンターテインメントとしてこれを読んだ場合、やはり第一印象は「そう来たか」である。
 ひょっとしたら怒る読者もいるんではなかろか(笑)とも思うのだけれど、確かに普通のパズラーとして終わるより面白い。石動戯作の謎解きで終わったとしても、インパクトこそ無いもののそれはそれでキレイだったと思う。でも、その裏にああいう設定を加えたことにより、うーん、何て言うんだろうな、名探偵に対するアンチテーゼというか、価値観をひっくり返す面白味というか、そういうのが出てきてると思うのよね。もちろん、それを下手にやられると目も当てられなくなるんだけど、そのあたりはサスガに巧い。
 しかしまぁ、哲学だのテーマだのは色々あるのだろうが、誤解を恐れずに言えば、ミステリなんてのは娯楽小説なんだから面白ければそれでいいのだ。何度も言うが、あたしは下敷きになっている作品を全く知らないので、多分、本当のところは汲み取れていないと思うのだけれど、それでも独立した物語として楽しめるなら、その裏に秘められた哲学だのテーマだのを無理に汲み取ることもないわな。こういう結末を「面白い」と思うかどうかは多分に読み手の好みに左右されると思うので、一般的にどうかってのは言えないんだけど、少なくともあたしは
「風が吹いたら桶屋がもうかる」と同じ様な面白さを感じた。 (01.2.16)     

最後から二番目の真実・氷川透(講談社ノベルス)

 舞台は女子大。そこでセミナー室へ入った筈の女子大生の姿が消え、代わりに別人の死体が発見される。消えた女子大生はなんと屋上から逆さづりになっていた。被害者や犯人はいつ部屋に入り、いつ部屋から出たのか? 居合わせた氷川は──シリーズ3作目。
 魅力的な新キャラクターにテンコモリの不可能興味、これでもかと言わんばかりの名探偵の造形、おまけに本格ミステリのゲーデル問題にまで話は及び、お好きな方には堪らないのではないかという作り。ゲーデル問題にしろ、氷川を中心とする主要人物の「如何にも!」という思考形態にしろ、サスガにこの年で読むとコッパズカシイものがあるけど(笑)、「こりゃぁ二十歳の頃に読むとハマっただろうな」と思わされた。若い読者からは高い支持を得られる作品ではなかろうか。
 登場人物の個性も次第に際だってきた感があり、パズル云々以外のところでも読ませてくれる。特に美帆のキャラは秀逸。美帆の視点に立った章がないことが、魅力を増す要因になっているのは明らかだ。氷川や早苗が、誰が名探偵役だの主人公は誰だのって、ちょっとメタ的且つ自己チューなことばかり気にしてるだけに、一人悠然とした美帆の魅力がいや増すんだろうな。
 しかし、肝心のパズルの方は──ちょっと弱い。だいたい、最初の「女子大生は部屋から出ていない筈なのに、どうして屋上から吊り下げられたのか?」という命題が出た時点で、手慣れた読者なら恐らく殆どの人が、即座に美帆と同じことを考えつくと思うのだ。あの美帆の推理ってのは最もベーシックなものであって、真っ先に検討されて然るべきだと思うのだけれど、それに対して他の人物が一様に感心してるのは興ざめ。それに真相も……えーっと、これが本格ミステリでなきゃ充分なんだけど、パズラーの解答として提示された答えにしては弱いというか、証明が不十分というか。
 ま、今回はトリック自体は目を見張るものではなかったけれど、それ以外のところで読ませて貰ったから、あたしとしてはオッケーなのだ。普段のあたしなら、作中で本格ミステリ論を語るようなシーンがあったらサクッと跳ばしてしまうのだけれど、今回は何となく読んじゃったくらいだし(笑)。何より、このテーマにしてこのタイトルは秀逸。 (01.2.16)     

遊戯の終わり・太田忠司(ジョイノベルス)

 どれだけ待たせば気が済むんだと叫びたくなる藤森涼子シリーズの第3弾が、やっと出た。名古屋駅近くに事務所を構える一宮探偵事務所。藤森涼子は、今日もさまざまな事件と格闘する──。
 とにかく大好きなシリーズである。何が好きって、妙に作り物めいたパズラーでは決して無く(いや、パズラーも好きなんですが)、生身の人間が価値観を異にする様々な他人と出逢い、力不足ながらも自らの依って立つところを信じて足掻き、そして傷つき悲しみながらも、その傷や悲しみを自己の中に取り込んでいく様が好きなのである。だから、事件は起こるしその謎も解かれるんだけど、謎解き自体よりも、涼子の気持ちの中でそれをどう処理するかの方に読みごたえがあるのよね。
 ところが、そういう傾向を持ったシリーズにしては……うーん、この長さではちょっと食い足りないというのが正直なところ。
「ベネチアングラスの謎」を読んだ時にも思ったのだけれど、総じて話が短すぎるために(雑誌掲載だったから枚数に制限があったのだろうけど)このシリーズのメインである涼子の内面の葛藤にまで、なかなか踏み込んでいけないもどかしさがある。
 あ、でも事務所の面々のその後が描かれてるあたり、シリーズファンとしては妙に嬉しい(笑)。
【翼なき者】異色作。明確な答えが出ないだけに、「翼の行方」に思いを馳せてしまう。
【犬の告発】謎が解かれた後、というのを想像すると辛いが、ラストには救いがあって安心。
【冷たい矢】価値観を異にする他人との関わり、という主題が色濃く出た一編。最後は痛快。
【孤愁の句】ラストの音の効果が素晴らしい。季節だけでなく、人生の「秋」をもにじみ出る一編。
【封印された夏】「出てこないなぁ」と思っていた彼が登場。波瀾含みで終わるあたりがニクい。
【遊戯の終わり】ううう、犯人と涼子の心理的ぶつかり合いをもっと読みたいのにぃっ! ああもう、なんだかものすごく消化不良だわ。とまれ、島さんを疑ったあたしを許して(笑)。新生・一宮探偵事務所の話を早く読みたいぞ!
(01.2.17)     

神保町の怪人・紀田順一郎(東京創元社)

 神田古書街を舞台にしたミステリ。「古本屋探偵の事件簿」とか「魔術的な急斜面」(現在は「古本収集十番勝負」と改題)にも出てきたような「古書収集マニア」たちの思いや手段が細かく描かれてて興味深い。前作にも出てきたようなエピソードが再び使われてたりするのだけれど、マニアぶりを理解するには格好のエピソードばかりなので、やっぱ削れないやな。
 ただ、「どんな手段を使っても狙った本を手に入れる」という妄執だけでもコワイのに、ここに描かれてる収集マニア達が、こぞって「ものすごくイヤなヤツ」ってのが気に入らない。これじゃぁ、知らない人が読んだら、古書収集やってる人って「人でなしの性格破綻者」ばっかりだという印象を与えかねないぞ。たまには「いいマニア」を書いて欲しいなあ。
【展覧会の客】こ、この方法って、バレませんか? 誰か一人くらい見ていそうな気も……。
【『憂鬱な愛人』事件】うわー、腹立つ。古書収集とかマニアとか、そういうのを通り越して腹が立つぞコイツは。構いません、誰か殴っておやりなさい。いや、彼の蔵書に火をつけておやりなさい。でもその前に貴重なものはこっそり持ち出してね(笑)。
【電網恢々事件】うわははは、タイトルセンスが妙に好き(笑)。電網恢々疎にして漏らさず、てか。いいなぁ。タイトルに気が行きすぎて、話の中身はあまり印象がないのだが(おいおい)、妙に今風な手管を使わずに昔ながらの『古書の世界』を描いて欲しいなぁというのが本音。ミステリとして、とか、トリックがどうこう、とか、そういうことだけじゃなくて、古本の匂いや棚の軋み、埃を被った表紙、色あせたカバー、そういったものの持つ雰囲気が作品に一役買ってるのは確かだもの。
(01.2.19)     

鬼を斬る・藤木稟(祥伝社文庫)

 祥伝社400円文庫の同一テーマ「鬼」競作ホラー。明治初期、内務省の役人・立花は架橋工事の監査に奈良の山村へ出向く。大袈裟なまでの歓待を受けた立花だが、現地では子供が鬼にさらわれたという噂がたっていたり、殺人事件が起こっていたりと、どうもキナくさい──。
 うわ、これはホラーテイストの本格ミステリと言ってもいいような作品ではないか。バラバラに見えたいろんな現象が、最後にピタリと一つの絵を描く様は快感ですらある。明治新政府の孕む矛盾や問題、元武士としての矜持、そういうものを含みながら葛藤する主人公のキャラクターもいいなぁ。横溝ばりの見立てもステキ。
 ただ、話がどんどん進むために「うう、このあたりをもうちょっと書き込んでくれれば」と思ってしまうようなもったいないエピソードが、サクサク削られていくのが不満と言えば不満。もっと、おどろおどろしい雰囲気を作って欲しかったな。明治初期の社会的問題も、もっと掘り下げて欲しかった。まぁ、この枚数では仕方ないんだろうけど。それに、ひとつひとつの事象はけっこうゾクリとさせるものがあるんだけど、そのゾクリ感がそのシーンだけで終わってて、有機的なつながりが今一つという印象がある。構成が巧くできてるだけに、モッタイナイ。
 そのせいで、巧いとは思いつつも今一つ完全にはのめり込めずにラストを迎えたわけだが、いやぁ、ラストは良かった。「うわ、そうだったのかぁ!」という驚きと、「なるほど、そういうことか」という快感と、「げえっ、こ、こわっ!」という恐怖と。ああ、もうちょっと前の段階からこの雰囲気が十二分で出ていれば……。
 そうそう、(かなり早い段階で明かされるから、ネタバレにはなってないと思うので書くのだが)立花を地の文でも「立花」と書いてるのは、ちょっとどうなのかなぁ、と思うんですが。 (01.2.22)     

大江山幻鬼行・加門七海(祥伝社文庫)

 祥伝社400円文庫の同一テーマ「鬼」競作ホラー。ホラー作家である「わたし」は鬼をテーマにした小説の依頼を受けたのだが、なんにもネタがない。ところが、偶然骨董屋で大江山の鬼である酒呑童子をモチーフにした文鎮を見かけたり、大江山で撮影したという鬼の写真を見せられたり……何かが「わたし」を大江山に導いていく──。
 読み始めた当初は、主人公「わたし」の設定がいかにも安易でありがちだなぁと思ったし、一ページ目から「煮詰まる」という言葉の誤用があったりして、あまり期待せずにページをめくる。が、けっこう楽しんでしまった(笑)。安易に見えた設定も、それがかなり効果的だということも次第に分かってきたし。ただ、ホラー小説というよりも、鬼とは何か、鬼伝説とは何かという、情報小説──いや、蘊蓄小説として楽しんだきらいがある。鬼に興味を持つ「わたし」が、鬼伝説のある大江山を旅した時の不思議な体験を描いたエッセイ、という雰囲気なのだ。いや、わざとそういうふうに書いてるんですけどね。
 だから、東京に戻ってからの一連のできごとは、それはそれでよく考えるとかなり怖いんだけども、その最も怖い部分は物語の全体の中では随分軽く扱われている。それよりは、主人公の鬼に対する思い入れだの、鬼そのものについての主人公の解釈だの、そっちの方に力が入ってる気がするのだ。
 とまれ、日本古来の怨霊信仰をベースにした蘊蓄はかなり楽しめたし、ほおほお、なるほど、と感心しながらページをめくった。ホラー小説の楽しみ方ではないのだけれど、楽しめたのだから良しとしよう。 (01.2.22)     

ぼくらは虚空に夜を視る・上遠野浩平(徳間デュアル文庫)

 工藤兵吾の下駄箱に、違うクラスの女生徒からの手紙が入っていた。話があるから放課後に会いたいという内容だったのだが、兵吾は校内で反目しあっているヤツラからの罠だと思い、待ち合わせ場所に現れた女性にそう告げた──ら、彼女は泣きだした?!
 てなふうにストーリーを紹介すると、ティーンエイジャー向けの青春ラブストーリー?と思われるだろう。が、チト違う。ティーンエイジャー向けなのは確かだし、青春もラブも物語の大事な要素ではあるのだけれど、最大のポイントは、工藤兵吾の正体である。兵吾自身も知らなかった彼の正体とは──ナイトウォッチ・マバロハーレイだったのだ!……何じゃそりゃ。まぁ、読めば分かります。
 とにかく、それまで普通に暮らしてきた高校生が、いきなり「あなたは人類を救うために、宇宙空間で虚空牙と戦う超高速戦闘機・ナイトウォッチのコア(操縦者)なのです。もう何千年も戦い続けています。敵弾反応! ただちに回避行動をとってください」などと言われるわけだ。さっきまで古文の授業を受けていたのに。さっきまで自分がふった女の子の家に謝りに来ていたところなのに。おまけに戦闘が一段落したら、幼なじみの女の子の機嫌をとるのに懸命になったり。
 とにかく、設定からストーリー、キャラクターに至るまで、マンガ的、ゲーム的なのだが、それが不思議と鼻につかない。もちろんティーンエイジャー対象の小説なので、そこはそれ、それなりの分かりやすさというか、ありがちさってのがあるんだけども、そこを差し引いてもなかなかにエキサイティングなのだ。物語世界の構築が巧いんだろうなぁ。この手の物語には慣れていないあたしも、すっかり入り込んでしまった。
 そして何より──妙に気持ちいい読後感が残るのである。地上では、幼い恋に胸ときめかせ、明日の学校を憂い、味噌汁をご飯にかけるなと母に怒られる。しかし虚空では、命を張って戦う。ぼくが戦うのは何のため? 人類のため? それもある。それもあるが、でも……。
 でも、の先に何が来るのか。それは読者がそれぞれ感じることだと思う。読み終わったあたしの心に残ったのは、「SFって、もしかしたら、とってもロマンチックなものなんじゃないかな」という暖かい何かだった。 (01.2.23)     

M.G.H.〜楽園の鏡像・三雲岳斗(徳間書店)

 宇宙ステーション白鳳。その中で死体が見つかった。死因は──墜落死?! 無重力の宇宙ステーションで、どこからどこに墜ちたというのだ? 科学者・鷲見崎凌と彼のイトコ・森鷹舞衣の謎解きが始まる。
 第1回日本SF新人賞受賞作。しかしこれは、舞台設定がSFなだけで、バリバリの本格推理である。謎解きも、ちょっと映像化するのが困難な箇所はあるものの、総じてSF設定を上手に使った膝をうつものばかり。トリックだけではなく、憧れの研究者との面談が内包するものや、登場人物の過去の問題などが、とあるひとつのテーマへ有機的に結びついていく様は見事である。やや感傷的に流れすぎるきらいはあるものの、人心と機械の問題を巧く掘り下げた作品だと思う。
 ただ、ラストはちょっと不満。ここはやはり、舞衣は凌とすっぱり別れて、改めて凌の方からプロポーズしたくなるような女性になるべく、努力するのがスジではなかろうか。この終わり方では舞衣はまったく反省してないではないか。
 そのエンディングにも関係してくるのだけれど、研究以外にはあまり興味を持たないクールな科学者・鷲見崎凌、彼のことが好きで何とか彼の心をこちらに向けたいと画策する森鷹舞衣というペアは、どうにも森博嗣氏の犀川&萌絵シリーズとかぶってしまって仕方ない。、話が進むにつれて情緒的な部分がクローズアップされ、「かぶり」は次第に気にならなくなるのだけれど。しかしどうしてこの手の女の子キャラってのは、すべての行動の基準が恋愛にあるんだろうなぁ。簡単に言えば、色ボケである。好きな人の心を射止めるためなら何をしてもオッケーで、それ以外の問題に使う脳味噌は持ってないと言わんばかりだ。こういうキャラ造形の作品が決して少なくないってことは……うーん、つまりそういう女の子が好きなのかね世の男性は。 (01.2.24)     

泥棒は図書室で推理する・ローレンス・ブロック著・田口俊樹訳(ハヤカワ・ポケットミステリ)

 表の顔は古本屋、しかしてその正体は泥棒──というバーニィがやってきたのは、片田舎の英国カントリーハウス風ホテル。目的はこのホテルの図書室にある、時価2万5千ドルという稀覯本である。ところが彼がその本を盗もうとした時、そこには死体が……。
 タイトルに引かれて何気なく手にとったのだが、シリーズ最新作だそうで、ありゃりゃ最新作から読んで話が通じるのかなと不安になったものの、まったく問題なし。むしろ、これより前の話も読みたくなってしまったくらいだ。主人公のバーニィやレギュラーメンバーと思われるキャロリンはとっても魅力的で、会話はウィットに富んでおり読んでてとても楽しい。翻訳ものが苦手なあたしが楽しめたというのは、ひとえにこの「会話の面白さ」のせいである。だいたい外人の名前を覚えるのが苦手で、だもんだからアリバイにしろ証言にしろ「この人誰だっけ?」となってしまうあたしとって、探偵役と推理を競うなんてことができる筈もなく、ただ単に各シーンの会話を楽しんでたのが良かったのだろう。それで物語も謎解きもスンナリ入ってきたってことは、この物語の大事なところは会話で成り立っているということだ。こりゃいいや。
 バーニィはなかなかクールで、それでいてコミカルで人間的。相棒のキャロリンは、その性癖に思わず笑ってしまうものの、回転の速さといい行動力といい、なかなかのものだ。おまけに、これは個人的な趣味なのだが──「名探偵、みなを集めてさてと言い」の場面で、細かい手管の解説をしたあと、それを為し得た人を特定する段になって最初に「あなたが犯人です、●●さん」と名指してくれるのが嬉しいんだな(笑)。最近の本格ミステリの傾向として、この手法──まず犯人を指名してそのあとでトリックを明かす──という形が少なくなっている(逆のパターンは多いけど)と思いませんか。どうしてこのパターンが好きかというと、「あなたが犯人です、●●さん」まで読んだ時点で本を伏せて、なぜ彼なのかアレコレ考えられるから。え? それより前で、犯人は誰かから推理しろって? いや、それは面倒くさいのよ(笑)。 (01.2.26)     

厄落とし・瀬川ことび(角川ホラー文庫)

 だいたい昔から怖い話を読んだり聞いたりすると、テキメンに夜中にトイレに行けなくなったり、お風呂で髪を洗ってる最中に背後が気になったりするタチで、要は恐がりなのである。だもんだから、総じてホラーは苦手だ。だからこの本を「面白いよー」と勧められた時も、「その面白いってのは怖いと同義ではないのか」と疑心暗鬼を生じたのだが……これがまた、本来の意味で面白かった(笑)。いや、怖いのは確かに怖いんですけどもね。軽妙な語り口にコミカルなストーリー、そんな中に見え隠れする一瞬の恐怖。おお、こういうホラーなら大丈夫だぞ! 笑えるぞ!
【厄落とし】福岡に住む幼なじみが、分家の墓を開いて本家の墓に統合したという話をした。その話の直後から、どうもおかしなことが起こる。幼なじみに取り付くべきご先祖様の霊が、話を聞いたことによりウチに来てしまったのだ!──うわははは、現象だけみればメチャクチャ怖いのに、主人公の反応がファンキーで面白い。台詞のひとつひとつもコミカルで、ホラーなのに爆笑してしまった。
【テディMYラブ】家の中に増殖していくテディベアと、女房に文句を言えないダンナ。こういうのって新津きよみ氏とか乃南アサ氏が書くとメチャクチャ怖くなりそうだけど、ダンナもテディも妙に可愛いのはなぜっ。
【初心者のための能楽鑑賞】憎からず思っている女性に能に誘われた主人公。上演中につい居眠りをしてしまったら──ラストシーンが映像的で印象深い。怖い絵なのに、可愛くてほのぼのしちゃうのよね。
【形見分け】収録作の中で、一番普通に怖いホラー……なんだけど、お母さんのキャラが一片の笑いを添える(笑)。でも、このラストシーンはいいなぁ。怖くて、それでいてキレイで、情緒があって、それでいて「家」の何たるかを含んでいて。
【戦慄の湯けむり旅情】ぶわっはっはっはっは\(^o^)/。ばかばかしーっ! でも面白いーっ! これ大好き。まさに爆笑ホラー。オチは最高だぁ! (01.2.27)     


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