おまえは世界の王様か!・原田宗典(メディアファクトリー)
著者が高校〜大学生の頃に書いた読書感想メモを掲載し、四十才になった現在の視点からつっこみまくるという企画。若い時の文章なんてのは実に恥ずかしいもので、例えば中学校や高校の文集レベルでも充分恥ずかしいのに、それがかなり自意識の高い読書感想メモなんてのは、妙に批評なんかしちゃったりしてる分、「昔書いた詩」に匹敵するくらいの恥ずかしさがあるのではなかろうか。少なくともあたしは、自分の昔の文章なんざぁ出てこようもんなら、その場で火をつけるに間違いないってくらいだ。
根っからの恐がりなのでホントは怪談なんて読みたくないのだが、宮部みゆきの手となれば別である。だって「怖い」というより「巧い」ってのが先に来るんだもの。恐怖よりも、情緒だとか風情だとかが前面に押し出されていて、江戸の市井の人々の悲しみや優しさなんかが滲みとおるような。これはやはり、類希な文章力と、抽んでたストーリーテリングの巧さによるものなんだろうなあ。珠玉、とい言葉が相応しい時代小説集。怪談に「珠玉」なんて、普通使わないぞ。
交差点の真ん中に、空から人が降ってきた! そしてそのそばには、何か石のようなものが……それが何と化石だった。それも、第二次大戦前夜に行方不明になったとされている、北京原人の化石だったのだ。北京原人の化石には大きな賞金がかけられている。金に困っていたカメラマンとライターは早速化石探しに乗り出すが……。
あくび猫・南條竹則(文藝春秋)
漱石の「吾輩は猫である」を下敷きにして材料と味付けをちょっと変えた、という雰囲気のエッセイ風小説で、テーマは《食》である。物置で生まれたチビが拾われたのは、あくび先生の家。あくび先生のところにはたくさんの友達がやって来るが、皆、美味しいものに目がない。今日も評判の店へ出かけていく──。
競作 五十円玉二十枚の謎・若竹七海(他)(創元推理文庫)
若竹七海が体験した不思議な話。昔、本屋でバイトしている時に、毎週同じ曜日の同じ時刻にやって来て、五十円玉二十枚を千円札に両替してくれるよう頼む男性がいた。どうして毎週やって来るのか? どうして五十円玉なのか? この謎に、気鋭の本格ミステリ作家が、そしてミステリ好きの素人が挑む。
マスグレイヴ館の島・柄刀一(原書房)
イギリスのシャーロック・ホームズ・ソサエティとは、ホームズの住んでいたベーカー街21Bに事務所を持つ組織。世界中から送られてくる手紙に返事を書いたり、ホームズ記念館の管理をしたり、時には探偵を派遣したりする。そこに属する一条寺慶子とクリスチーアネ・サガンは、とある島で行われるシャーロキアンのイベントに招待されたのだが──。
フレンズ〜シックスティーン・高嶋哲夫(ハルキノベルス)
高校入学を間近に控えたある日、暴力団の抗争に巻き込まれて両親と妹を一度に亡くしたユキ。彼女は言葉を失い、そして相次ぐショックに心まで閉ざしてしまう。そんなユキを支えようとする仲間たち。遅々として進展しない操作に業を煮やした仲間達は、自分たちの手で仕返しを決意する──。
ストックホルムの鬼・薄井ゆうじ(マガジンハウス)
会社の帰り、偶然に再会した中学校時代の知り合い。でも、確か彼は死んだ筈では……? 釈然としないままに喫茶店に入り、彼から絵の個展を開くという話を聞いた。昔なじみに電話して訪ねても、「そいつは死んだ筈だ」という返事。不思議な思いのままに個展に向かったのだが──。
かめくん・北野勇作(徳間デュアル文庫)
かめくんは木星戦争のために製造されたカメ型ヒューマノイド。しかし今は新しい仕事を見つけ、クラゲ荘という古いアパートに住むことになった。何故か過去の記憶が茫洋としているかめくん。だが、クレーン操作とワープロ操作を特技に就職活動をし、図書館のお姉さんに淡い思いを抱くかめくんは、やはりかめくんなのだ──。
puzzle(パズル)・恩田陸(祥伝社文庫)
祥伝社400円文庫の中の同一テーマ「無人島」競作のうちの一つ。検事である春(しゅん)は、同じ検事仲間の志土(しど)に誘われて、不可思議な死体が発見されたという長崎の無人島にやってきた。時を同じくして死を迎えたと思われる、死因の異なる死体が無人島に三つ──。
特に純文学志向の強かった若かりし原田氏は、大江健三郎から三島由紀夫まで貶しまくりである(笑)。サリンジャーは手放しで褒めてるあたり、「ああ、こういう路線が好きだったのか」というのが見えて興味深いのだけれども、そんな分析より何より、「ひえ〜〜〜〜、石原慎太郎にケンカ売ってる!」「うわああ、深沢七郎を《単調》なんて言ってる!」「きゃぁぁ、阿部公房を《内容に注目すべき点はない》《思い付きだけ》だって!」と、思わず絶叫しながら読んで大笑い、てなもんだ。ああああ、若いって怖いわ。若いって恥ずかしいわ。でも、若いってネタになるのね(笑)。
とは言うものの、それが真実なのか或いはフォローなのかは分からないが、「ホントはこの傑作に感動しているのだが、素直に認めたくないのだ」とか「なんとかアラを探そうとしている」とか、そういう意味の言葉が頻繁に出てきて、要は、この毒舌満載の読書メモも《何も分かっていない若気の至り》であり《もちろんこの名作にはホントは感動した》のであり《当時は分からなかったことも、今ではちゃんと分かってて、これは名作だと思ってますよ》という断りが入り、そして貶したのと同じくらい褒めてるのも収録されてるわけで、そこらあたりに思いきりの悪さというようなものを感じてしまった。若さに任せた暴走だってのは読み手は承知の上なんだから、もっともっと暴走してくれても良かったのに。現在の著者が昔の自分にツッコミを入れるという役割を担ってるんだから、昔の自分はもっともっと王様でよかったのではないか。結局褒めてるのね、という印象が強く残ってしまったのが残念。
(01.3.1)
あやし〜怪〜・宮部みゆき(角川書店)
【居眠り心中】旦那と奉公人の恋話は多いが、現代にも通じるように書くのが宮部式。
【陰牢】奉公人の昔語りの形式で語られる不思議な話。因果応報という手垢のついた話も演出次第。
【布団部屋】姉が奉公先で死んだ。その後に入った妹は……姉妹よりも「物の怪」に憑かれてしまった側の苦しみや悲しみが胸に刺さる。
【梅の雨降る】あまり動きのない話なのに、妙に印象が強い。人を恨むということ、妬むということ、そんな忌まわしい思いに耐えきれなかった女の話。
【安達家の鬼】これ、実は一番好きな話。心がまっささらで清いということは、実は淋しいことなのだ。自分にはどんな鬼が見えるのか。見えないよりも見えた方がいいという思いにさせられる。
【女の首】「おそらくこうなるんだろうな」と分かるんだけど、それでも読ませてしまう。ディーテイルの辻褄も見事に合ってて、読み終わった後が一際気持ちいい。
【時雨鬼】鬼にも悲しみがある。鬼になってしまった悔いがある。それを鯔背な年増を通して描いた佳作。時雨がいい小道具になっている。
【灰神楽】終わらせ方が秀逸。きっちりと片を付けずに、共存するというか清濁併せのむというか。
【蜆塚】ここに描かれているような人達を主人公にして長編を書いて欲しい、と思わせる設定の一編。
(01.3.2)
北京原人の日・鯨統一郎(講談社)
大戦前夜に中国から北京原人の化石が消えたというのは史実である。今もって見つかっていない。だもんだから「歴史の謎を解く」という歴史ミステリの題材にはうってつけで、例えば伴野朗氏の乱歩賞受賞作「五十万年の死角」に代表されるような名作も多くある。
しかし、この作品はそういう作品群の中でも、その推理はかなり上位に位置するのではなかろうか。勿論、九九九部隊の存在やそれにまつわる人々のくだりは完全にフィクションなのだけれど、「もしやホントにこれに近いことがあったかも」と思わせるだけの説得力がある。また、完全なるフィクションとして読んでも、非情に精緻で且つエキサイティングな本格ミステリだ。
正直、読み始めは主人公の性格についてゆけず、また相棒になる女性の性格設定や彼女との絡みなど、ちょっと邪魔に思える描写も数多くあったのだけれど、話が進むにつれてどんどん出てくる手がかりや新事実に心を奪われ、細かい箇所などはどうでもよくなって来る。登場人物の描写は多分に類型的で、ややもすればご都合主義的な展開に見える箇所もあるのだけれど、それがあとでキッチリと収まるところに収まったりして、なるほどこれは巧みだ。
化石の場所はどこだ、という真相は圧巻。なるほど、いや、この話は確かに聞いたことはあるが、そうですかそういうふうに結びつけますか。専門家が読んだら夢物語なのかもしれないが、素人が読む分には納得しちゃうぞ。歴史ミステリで膝を打つ、これほどのカタルシスがあろうか!
(01.3.4)
とにかく、美味しそうなのだ。お腹が空くのだ。ああ、これ食べたい、これも食べてみたい、匂いだけでもかがせてくれ、という気分になる。
「吾輩は猫である」同様、猫の目を通して描いたという体裁にしつつも、実際は三人称描写の小説である。猫の目から見た特異性もなければ、別に猫に拘ることもなかったのではないかと思わせるところも、いやいや猫の目で書いてるからこそ、人間の妙な嗜好をちょっとシニカルに描けるのだと頷かされるところも、「吾輩は猫である」と一緒だ。違うのは《食》に拘る以上は外食の描写が多く、そうなると猫はついていけないのだけれど、このチビは幽体離脱までしてついて行くのである(笑)。
《食》についての様々なエピソードに交えて、登場人物達の日常や恋愛、それからちょっと笑ってしまうような蘊蓄話なども語られる。その扱い方も「吾輩は猫である」を彷彿とさせるものが──いや、「吾輩は猫である」を意識して書いたとしか思えないような処理の仕方である。「吾輩は猫である」が好きな人はより一層楽しめそうな一冊。
(01.3.7)
当たり前なのだが素人よりプロの作品の方が数段面白い。謎を解くというだけではなく、ちゃんと小説にしようとしてるからだろうな。謎解きだけなら素人さんたちの中にも「なるほど」というアイディアがあるのだけれど、いかんせん読んでて楽しめるものが少ない。何より、素人の公募応募作なのに、いかにも「シリーズ探偵」みたいな人が出てくるのは、何だか恥ずかしくなるんだけどなあ。それに素人さん達が自作に実在の作家や編集者を登場させるというのも……内輪じゃない人間が内輪受けを書く、ってのも抵抗がある。自分で別の小説に仕立てているのは高橋謙一氏(剣持鷹士)と矢多真沙香氏くらい。でもこの頃の高橋氏は文章がこなれてないなー。佐々木淳氏(倉知淳)は既に猫丸先輩である(笑)。謎解きとしては変化球で目の付け所が面白い。
独立した短編小説として楽しめたのは、やはりプロの作品だ。ということで、プロの作品の感想を。
【土曜日の本】法月綸太郎:ず、ずるいっ! と言いつつも面白いぞ。解答を思いつかないなら思いつかないなりに、ちゃんと楽しめる短編に仕上げるあたりはサスガだ。
【解答編】依井貴裕:これはスマート。それに、五十円玉の謎に解答を与えるだけじゃなくて、ちゃんとトリッキーな仕掛けがあるのが嬉しい。
【老紳士は何故……?】有栖川有栖:五十円玉云々よりもエレベータの扉を閉めた理由に喝采(笑)。それにしても、この当時、北村薫って話題になってたんだなぁ。
【五十円玉二十個を両替する男】笠原卓:おまけのエピソードは揚げ足取りみたいなもんだけど、これが無いとやっぱり座りが悪い。
【五十円玉二十枚両替男の冒険】阿部陽一:すごくキレイ。短編として見事に成立してるし。惜しむらくは「何故、五十円なのか」がちょっと弱いかなぁ。
【消失騒動】黒崎緑:「怪しいアルバイト」というタイトルで「しゃべくり探偵の四季」にも収録。こういう風に料理しなおして、なおかつ問題編に対するキレイな解答になってるあたりはサスガ。
【50円玉とわたし】いしいひさいち:実はイチオシ(笑)。
(01.3.8)
柄刀氏の長編と言えば、いずれも情報・蘊蓄テンコモリのところに本格パズラーを噛ませたというものばかりで、今回もそのつもりで読んだのだけれど……うわぁ、全然違ってた。こういう軽めのも面白い。いや、軽めと書いたのはキャラクタや文章や雰囲気のことであって、仕掛けられたトリックや不可能興味というのは、これはもう全然軽くない。むしろ、かなり大がかりだ。軽妙な会話、魅力的な人物造形、そして驚天動地のトリック。うーん、すごい。
正直言って、あたしは作中の見取り図とかは全く見ないですっとばしてしまうクチなので(すみません)、このトリックは全く考えもしなかった。だもんだから、ネタを明かされても仕組みは分からなかったのだけど(おいおい)、なるほどそうかという膝を打つ快感はかなりのモノである。ま、医学的に見てどうかな、と思う部分がないじゃないんだけど、何だかそれも勢いで納得させられちゃったりして。でもなー、これ、複数ある見取り図をかなりじっくり見ながらでないと、本文を読んでもワケわかんない箇所が多々ある。ま、そのための見取り図なんだけどもね。逐一照らし合わせるのは面倒くさいぞ。
しかし、一番のけぞったのは、最後の最後、オチの部分である。もしかしたらこれがやりたかったのかこの人は(笑)。あ、それと、帯の文句はもちっとどうにかならんものか。物語中盤で起こる事件を帯に書くな! 帯に書かれた事件はなかなか起こらず、別の事件がまず起こるもんだから、「あ、ということは、こっちで帯にあった事件が起きるんだ」ってのがモロ分かりではないか。あ、それと。あたし、ホームズの「マスグレイヴ館」って、未読なんですけど(;_;)。しっかりネタバレされちまったい。
(01.3.13)
魅力的な話ではあるのだが、あまりに話の進展が都合良すぎという感が否めない。今時の暴力団なんてあーた、素人の高校生にどうにかできるもんじゃないと思うけど。それなのに、計画は図に当たるし、案外アッサリ目的は果たしちゃうし、都合よく車の運転できるメンバーや家が自由に使えるメンバーやハッキングが得意なメンバーはいるし、挙げ句の果てに行き詰まったら計画に協力してくれる大人は登場するし。
徹の変化というのがものすごく興味深くて、歯止めが効かなくなることの怖さというのがヒシヒシと伝わって来そうになった寸前で話が終わるのも不満。ああいう状態に於かれて、はからずも人を殺してしまった16才の少年少女たち。その背景や、自分の犯してしまったことの受けとめ方や、そういうところを掘り下げてくれると読みごたえがあったと思うのだけれど……アキも、徹も、冬樹も、それぞれの性格がよく出てて、それぞれに受けとめ方や影響が違ってて、まさに「こういう状況に置かれたら、彼らはどうなるか」を代表するパターンが揃っているというのに、《危うさ》だけを残したまま、話は収束する。
アキの心に残った「人を殺した」という思いはどうなったの? 徹は自分の中に潜む狂暴性とどう折り合いをつけたの? 他の二人は? 一番読みたいところを読めなかったという欲求不満が強く残った。
(01.3.14)
幻想文学仕立てのミステリ。或いはミステリ仕立ての幻想文学と言うべきか。奥泉光の「葦と百合」を思わせるテイストで、読者を不思議な感覚に誘う。主人公が出会った不可思議な状況は、次第に読者をも巻き込んで居心地のいい世界観を構築する。
幸不幸の判断基準についてがテーマなのかな、それともアイデンティティの問題を語りたいのかな、と思って読んでいたのだが──そしてそれも勿論重要なファクターではあるのだが──思わぬどんでん返しに驚愕する。まぁ、理詰めで考えれば、何もここまでしなくてもという気はするし、だったらこれまで一体彼らは何をしてたんだという気もするんだけど、一旦、物語世界に入ってしまうと気にならなくなるのよね。うーん、それにしても江津子はちょっと作りすぎかな。もう少し自然体でもよさそうなものだけれど。
主人公が一度逃げ出して、そして実社会で出会った出来事というのは「こんなところにまで手が伸びてるのか」と思わされたが、その実はどうであったのかが分かった時には──ああ、そうだったのか、と切なくなる。特に、主人公が母親に電話をした意味なんかを考えるとね。
(01.3.15)
タイトルから受ける印象は、癒し系・なごみ系なのだが、読んで見るとこれがちょっと違う。勿論、かめくんというキャラそれ自体は脱力を誘う可愛らしさがあるのだけれど、ここで描かれている世界というのはかなり本格的なSFである。時として哲学的であり、時としてドタバタである。ものすごくしっかりした背景の構築と、脱力系キャラクターと、奥の深い思想と、今風のオフザケとがミックスされて、なんとも言いがたい不思議なかめくんワールドが出来上がった。
その分、座りの悪さというか、落ち着かなさというか、つまりはつまみ食い的中途半端感がつきまとうのだけれど、これは好みの問題かな。あたし自身が、どっちかというと「分かりやすい話」「理に落ちた話」が好きなだけかもしれない。SFに疎いために楽しみ方が分かっていないせいもある。「うわーっ、もっとここんとこ掘り下げて書いてくれよおっ」と叫びたくなったり(笑)。しかし、そんなあたしでも、次第にかめくんの仕事の内容が見えてきたり木星戦争のあり方が分かってきたりした時には、「おおっ」と思ったぞ。もったいない、ここまでしっかりした背景を作っていながら、このつまみ食い的ストーリーは何なのッ。← だからそれが好みの問題なのね。
そうそう、どう考えても分からない謎がひとつ。本の最後に「この作品は徳間デュアル文庫のために書き下ろされました」とあるのだが、これって著者が前に小松左京賞に応募した作品なんじゃなかったっけ? それが何故、徳間デュアル文庫のための書き下ろしになるんだ? もしかして、小松左京賞に応募したものとタイトルが同じなだけで、中身は別の話なんだろうか。
(01.3.16)
さすがは恩田陸、としか言いようがない。この400円文庫シリーズは実のところ、「もっと書き込んで長編にした方が面白いのに」或いは「これは短編向きのネタだよなぁ」のいずれかの感想を持つものが多く、この枚数でこそ生かされる冗長でも物足りなくもない丁度いい作品は、あたしの読んだ限りでは「生存者、一名」(歌野晶午)と、この「puzzle(パズル)」だけだ。
第一章で示される、一見バラバラの何枚かの記事。第2章で展開される春の推理。誰も住まなくなり、ゴーストタウンとなった廃虚の中で展開される春と志土の会話は、まるで映像を見ているかのような臨場感がある。全体が廃虚のグレイに彩られたかのようなモノクロの映像の中に、ときどき鮮やかな色が混じる──さながら、モノクロの女性の写真で唇だけ赤いと言ったような──そういう情景を文字で表現できるというのは凄い。
ただ、謎解きのための謎解き、トリックのためのトリックになってしまっているのが残念。だって、もっと簡単で安全な方法はいくらでもあったはずだから。どうして敢えてこういう方法をとったのか、そこで納得させて欲しかったな。
(01.3.17)
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