虚海の彼方、神々が住まう五山を頂く黄海の地をぐるりととりまく十二の国──慶、奏、柳、雁、恭、才、巧、戴、舜、芳、漣。それぞれの国は、一人の王と一頭の麒麟によって治められている。霊獣である麒麟が天啓を受けて王を選び、その王は、良政を続ける限り不老不死となって王の座に君臨し続ける。が、ひとたち統治者として道を誤ると、まず麒麟が病気になり、そして麒麟が死んだ時に王もこの世を去る定めとなっている。
月の影 影の海(上下巻)
陽子は真面目で通っている女子高生。ところがある日、学校に得体の知れない男がやってきて、陽子のことを主人と呼ぶ。そして気づくと、見知らぬ世界に飛ばされていた陽子。渡された剣だけを便りに歩き出すが……舞台となるのは、巧国と雁国。
風の海 迷宮の岸
各国の王は、麒麟が選ぶ。しかし戴国の麒麟の卵が蓬山の木に実った時(そういう生まれ方をするのだ)、蓬山を襲った嵐がその卵を蓬莱(日本)へと飛ばしてしまう。自分が麒麟であるということも知らず、人間の子供として生まれ、日本で十年を過ごした麒麟の子──泰麒。十年目にしてようやく、蓬山へ戻ってきた。しかし泰麒は麒麟の役目も、転変の方法も何もかも知らないままだった……舞台となるのは神々の住まう五山の中の一つ・蓬山と、戴国。
東の海神 西の滄海
雁国に五百年もの統治を続ける延王(尚隆)と、麒麟の延麒(六太)。それだけ優秀な王ということだが、始まりは決して安寧ではなかった。麒麟も王も胎果──つまり、本来は十二国で生まれる筈だったのが卵の内に日本に飛ばされ、日本で生を受けて育った後に、十二国に帰ってきた者──であるこの国は、日本の戦国時代のエピソードに始まる。そして延王即位の後、延麒を、そして雁国を襲った罠……舞台は、雁国。
風の万里 黎明の空(上下巻)
再び陽子が登場。慶国で思うに任せぬ働きしかできず、悩む陽子。時期を同じくして、芳国では王が殺され、その娘・祥瓊は里で下働きを余儀なくされる。また、日本から才国に流されてきた鈴は、言葉が通じぬ苦労から仙籍に入り、そこで主人に苛められる日々を送っていた。同年代の三人の少女が、三人それぞれの思いを抱いて慶国で出会う……舞台は、慶国・芳国・才国・柳国。
図南の翼
先の王が死んでから、二十七年の長きに渡って王のいない国・恭国。国は次第に荒れ、傾いていく。そんな中、自らが王になると声を上げ、麒麟に選んでもらうべく旅に出たのは、なんとまだ幼い子供──豪商の娘として何不自由なく暮らしている少女・珠晶だった。珠晶は蓬山に昇るべく、案内役を雇って妖魔が巣くう黄海へと入っていった……舞台は恭国、そして黄海。
黄昏の岸 暁の天
優秀な新王が立った戴国では、早急なまでの制度改革が行われていた。血生臭い話に麒麟を近づけたくないという王の配慮で、結果として孤立感を強める泰麒。ところが、謀反が起こった。王は行方不明となり、角を折られた泰麒も蓬莱へと逃げてしまう。王と泰麒を失い、荒廃する戴。先の戴国将軍である李斎は、何とか助けて貰おうと慶国の景王を訊ねる……舞台は、慶国・戴国。
華胥の幽夢
番外編という位置づけになるのだろうか、短編集である。裏話とか、気になるあの人のその後とか、そういうあたりが垣間みられるのはファンとしてはとても嬉しいのだけれど、短編になってしまうとテーマをダイレクトに登場人物のセリフとして言わせてしまってる分、やや説教クサイ感がないでもない。いや、これまでもテーマはけっこうハッキリと言葉にしてきたシリーズなのだが、これまでは気宇壮大な大スペクタクルの中で運命と自らに戦いを挑む主人公達の成長を描いた末に出てきたテーマだったため、すんなりと受け入れる素地が読者側に出来ていた。が、今回は、苦悩する人物に《分かっている人物》が直接答を口にして教え諭すと言った感が強く、テーマそのものには首肯するものの、やや説明的な印象が強いのよね。個人的には説教も好きなんですが(笑)。

十二国記シリーズ・小野不由美(講談社文庫)
この十二国には時々、蓬莱(日本)から時空を越えて人間が飛ばされて来る。飛ばされた当人は、まったく馴染みのない異世界で暮らすことを余儀なくされるのだが……圧倒的な筆力と気宇壮大な異世界ファンタジー。
各巻では、十二国のうちの一つが扱われる。栄えてる国もあれば、戦乱の真っ直中の国、滅びかかっている国、そして神々の膝元で麒麟が育つ国。そんな国の様子と、そこに住む人々を描いているのだが、やはり最初は講談社X文庫ホワイトハートより出版されだたけのことはあり、キャラ作りも主人公の成長物語というテーマ設定も、ティーンエイジャーの女の子をターゲットにしたものだ。しかし、そこに描かれる世界があまりに壮大で深淵、それでいて緻密なために全然ジュブナイルという感じではない。加えて筆者の文章は大人の鑑賞を前提としたかのように、凛としている。魅力的なキャラクター、身近で分かりやすいテーマ、達者でリズミカルな文章、微に入り細を穿つような描写、そして何より素晴らしい構成とエキサイティングなストーリー。
うーん、とんでもない世界だ。時間を忘れて読んでしまう。これを今まで読まずにいたなんて、なんてモッタイナイことをしていたんだろう。
尚、巻それぞれ、一応は単独で完結している物語なのだが、なんせバックグラウンドは一緒だし、キャラはだぶってるし、ストーリーも絡み合ってるしで、別個の評価は難しい。敢えてこれを総評とし、詳細はそれぞれの巻にて、以下、感想を書くものとする。
ってゆーか、こんな感想読んでる暇があったら本編を読みなさい。さぁ読みなさい今読みなさい。
何の前知識もなく読み出し、初めはいかにもティーンエイジャー向け学園小説だったために「どういう話?」といぶかったのだが、世界が変わってからは一気呵成である。見ず知らずの場所で、明日の保証もなくさまよう陽子。前半と後半で驚くほど変わる陽子が圧巻だ。まったく救いのなかった前半の旅。裏切りにつぐ裏切り、危険に次ぐ危険で、読んでる方も疲労困憊してしまうが、泣くだけで何もしなかった陽子が少しずつ悟り始めるあたりから次第にワクワク感が募る。
楽俊のキャラは秀逸。陽子が楽俊に助けられるシーンで、「親指姫」を思い出したのは、あたしだけではない筈だ!
そして語られる真実。異世界に飛ばされた主人公の戸惑いと恐怖と疑心を共感し、主人公が全てを理解した時に読者もまた理解しているという流れが、十二国記始まりの巻として、入門編として最適だ。
(01.3.24) back
「月の影 影の海」が陽子の成長物語だったように、これは泰麒の成長物語である。しかし、陽子が自分に課せられた運命と格闘しながら成長していくのに対し、泰麒は幼さもあってスンナリと順応してしまう。おかげで、いかにもホンワカ・ノンビリした春の昼下がりのような雰囲気で話は進むのだ。周囲の庇護と愛情によっての幸福っつーのが、本来なら腹の立つところなんだけど(笑)、これが泰麒だから許せちゃうんだよねえ。しかし、泰麒の苦悩は陽子と逆に物語の後半から始まる。自分が立派な麒麟になれないことの不安、そしてその不安のせいで犯してしまった罪──終章は、もうこれ以上ないというくらいの、胸キュンもののハッピーエンド。
ああ、よかったね──とも、実は言っていられないのだ。この後日談が、番外編「魔性の子」に描かれている。そこでは、泰麒が再び日本に戻って高校生になっているのだ。ええっ、どうしてこんなことになっちゃったのぉ? まだまだ描かれていないエピソードを伺わせて、もうワクワクしてしまうのである。
(01.3.24) back
ノンビリ・ホンワカの「風の海 迷宮の岸」から一辺、戦乱スペクタクルである。政治上の駆け引きや争い、罠、そしてその中に巻き込まれる人々。主人公の二人──尚隆と六太──が日本にいたのは戦国時代で、渡ってきた十二国でも戦乱に巻き込まれるというのが運命の皮肉だ。しかし、雁国内の戦いで尚隆を付き動かしたものは、過去、日本で「若様」だった時の失敗を償おうとする「長」としての意地と矜持だった。「若、と呼ばれるたびに、一緒に託されたものがある。一声ごとに託されて降り積もったものを、俺は連中に返してやれなかった」というくだりでは涙が出た。日本の総理に読ませてやりたいぞ。
しかし尚隆っていいようなぁ。馬代わりに使っている趨虞(すうぐ)という価値ある妖獣の名前が「たま」だもの(笑)。
(01.3.24) back
ものすごく分かりやすいというか、典型的な成長物語。陽子も祥瓊も鈴も、同じ問題を抱えている。即ち、私は可哀想、周囲が私を相応に扱ってくれない、私は何もしてないのに周囲は私が悪いみたいに言う、ああ、あたしだって精一杯やってるのに、どうして誰も私を憐れんでくれないの、どうして私に親切にしてくれないの──環境は違えど、そんな思いを抱いた三人。しかし、「何もしない」ということがどれだけの罪になるか、「知らなかった」ことがどれだけの罪になるか、次第に三人は思い知らされる。「自分を哀れんで泣く涙は、子供の涙」という一文は、強く心に滲みた。
クライマックスの場面。自らの過ちを知った少女達は変貌を遂げる。仲間割れしそうになった時に、祥瓊と鈴が放った颯爽としたセリフは、まるで水戸黄門の印篭シーンを見るかのような(笑)、壮快感がある。王の娘であるという立場に甘んじて何もしなかった自分、海客という可哀想な境遇に酔っていた自分、そんな自分だからこそ、過ちに気づいた自分だからこそ、かえって何のてらいもなく自らの立場を大声で言えるようになる。感動のシーンだ。そして、ラストでの陽子の見事な処理。
ネズミとの半獣・楽俊が再び登場。「風の海 迷宮の岸」で成長の兆しが見えた景麒は相変わらず無愛想で言葉足らず。すっかりお馴染みキャラとなってしまって、出てくるだけで楽しい。ところで、戴国はいったいどうなってるの? 何だか不穏なんですけど。
(01.3.24) back
珠晶ってのは、「風の万里 黎明の空」で祥瓊が一旦預けられた国の女王である。自分より年上の祥瓊に向かって、ピシャリとやっつけた、あの小生意気な子供だ。だから順に読んできた読者は、すでに珠晶が王になることを知っている。この話は王になる前の、彼女の冒険を描いたものだ。
いくら賢いとはいえ、子供である。おまけに子供だからやたらと真っ直ぐだ。正しいと思ったものは曲げない。そんな子供と、危険な黄海を旅することになった郷氏・頑丘と、正体不明の利広。大人達の中に入って、物事とは一直線にだけ見ればいいというものではない、ということを学ぶ珠晶。これもまた、成長物語である。答だけを知っても意味がないということを、痛切に教えられる。
そして意外なところに意外な人が登場して──いや、これは言わぬが花だろう。精一杯驚いて戴きたい。そして「ああ、こうして暮らしてるんだな」と、ちょっと嬉しい気分になって戴きたい(^o^)。
(01.3.24) back
早い話が番外編「魔性の子」の裏話である。いや、裏なのは「魔性の子」の方なんだけど。泰麒が蓬莱(日本)に飛ばされ、麒麟であるという記憶をなくした時に、十二国では何が起こっていたのか。「魔性の子」のラストで泰麒は尚隆と六太に迎えに来て貰えるんだけど、尚隆と六太がそこへ到達するにはどういう経緯があったのか、それが描かれている。
だからというわけではないが──これまでの作品群に比べると「成長物語」の度合いが薄い。これまでは、主人公たる登場人物が自分の過ちに気づいて成長していく様というのが一つの核になっていたんだけど、今回はそれが薄いのよね。強いて言うなら、李斎がそれに当たるのかもしれないが、物語の中の重みから言えば、チト荷が重い。そして、主人公たる「未熟者」がいないせいで、ストーリーは面白いんだけども、あくまでも「魔性の子」の裏話的面白さになっちゃうんだよね。
勿論、陽子の頑張りだとか、相変わらずの尚隆と六太だとか、見所はたくさんある。それに、おそらくは今回のテーマなのであろう「天があるのなら、どうして天は戴をお見捨てになったのか」「そもそも自らの手で支えることのできるものを我と呼ぶんではないでしょうか」という件は、思わずそのセリフを繰り返し読んでしまうほどの力を持っている。陽子の大使館発想も、複数の国が手を携えるのも、全てはそのテーマに通じるものなのだ。
(01.5.19) back
短編ならばいっそ、テーマなんかなしに、《かっとび女王・陽子のその後》とか《知られざる六太の一日》とか《おしゃまな珠晶の可愛い初恋》とか《実録・楽俊のスクールデイズ》とか、そういうのをいわゆる「キャラ萌え」で書く、というのも手かも。
【冬栄】蓮へ使いに出された泰麒。人それぞれの仕事とは何かを問いかける。
【乗月】祥瓊を放逐した芳の国のその後、テーマそのものより祥瓊の成長が嬉しい。
【書簡】景王・陽子と半獣・楽俊の声の文通。辛いことを辛いと言わず頑張る姿に元気づけられる。
【華胥】王が道を誤り、麒麟が病に伏せ、才の国は滅ぼうとしていた。そんな中で起こった殺人事件。
【帰山】一家で王の仕事を切り盛りする奏のファミリー。実はこれが一番面白かった。他の国の情報を奏のファミリーが集めてアレコレ井戸畑会議をするという(笑)。こういう裏話的なのが番外編の面白さだよね。
(01.7.26) back
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