和時計の館の殺人・芦辺拓(カッパノベルス)
愛知県の田舎の旧家で起こった事件。死んだ当主は和時計が好きで、屋敷の中には膨大な和時計が設置されていた。そんな屋敷を訪れたのが、遺言状の公開に弁護士として立ち会うことになった森江春策。遺産がらみで一悶着起きるかと思えば、意外とみんな納得している様子。ところが……。
親不孝通りディテクティブ・北森鴻(実業之日本社)
博多・長浜でおでん、ラーメン、カクテルの屋台を出しているテッキ。結婚相談所の調査員ながら破天荒でお調子者のキュータ。この二人のコンビが巻き込まれる(起こす?)様々な事件。センチメンタルハードボイルド、というのが一番合っているかな。本格色は薄いが、キャラが魅力的で話に引き込まれる。ただ、ハッピーエンド好きの大矢としては、この連作短編は総じて後味が悪かった。切なさも勿論あるんだけど、そしてそれはそれでいいんだけど、切なさよりも後味の悪さの方が強いのだ。
時の密室・芦辺拓(立風書房)
「時の誘拐」の姉妹編。でも、「時の誘拐」が未読でも全然問題ナシ。
天使は探偵〜スキー探偵大鳥安寿・笠井潔(集英社)
スランプ脱出を目指して雪深い八神に引っ越してきた作家・矩巻濫太郎。彼の住む家のすぐ側にあるスキー場でインストラクターとして働く大鳥安寿。この二人がペアで、スキー場で起こった不可能犯罪に挑む!
神谷町に建つインテリジェントビル。そこに入っている様々な会社で起こる事件を描いた連作短編集。特に凝った話ではないんだけど、働いた経験のある女性はすごく感情移入しやすい話ばかりで、主人公と一緒にドキドキはらはらできること請け合い。普通に考えたら主人公が悪いような状況でも、なぜか主人公に味方してしまう不思議な魅力がある。一編ずつ気軽に読めるし、これはOLさんの通勤読書にお薦めだ。
少女の空間・デュアル文庫編集部(編)(徳間デュアル文庫)
「少年の時間」と対になったオリジナルアンソロジー。「少年」という言葉にはロマンというか甘酸っぱさというか、何とも言えない魅力があるのだけれど、それはやはりあたしが女だからで、自分には決して手に入らない、経験できないものへの憧れである。翻って「少女」というのは、自分がかつて「少女」だっただけに(あたしにだってそういう時代はあったのよ。こら、そこ、笑うな!)その分、見る目が厳しくなってしまうというのはあるかもしれない。しかし、同時に「よく分かる」のである。
胸ときめかせて入学した浪速大学、そしてミステリ研究会。そこにいたのは、何とも魅力的で個性的な3人の先輩たち。桜子は3人の先輩と一緒に様々な謎に立ち向かう。3つの短編と、その間に挟まるように語られる「遠い約束」三部作。
スタジアム 虹の事件簿・青井夏海(創元推理文庫)
著者が数年前に自費出版したものが、じわじわと好事家の間で評判を呼び、この度見事商業出版されたという、思わず拍手したくなるような出生の本である。
「不要」の刻印・本岡類(カッパノベルス)
DIY業界で大きな成功をおさめている社長の息子が誘拐された。プロ棋士・水無瀬はたまたま現金受け渡し現場を通りかかったせいで、犯人と思われ、拘留されてしまう。何とか濡れ衣は晴らしたものの、そのまま事件に巻き込まれ──。
「双子幻綺行〜洛陽城推理譚」・森福都(祥伝社)
そうしげんきこう、と読む。舞台は周の時代の中国。ってヘンな表現だな。そりゃ中国じゃなくて周だろう。つまりは則天武后の時代である。則天武后こと聖神皇帝に使える双子の兄妹・九郎と香蓮。兄の九郎は宦官で、その怜悧な頭脳が宮廷内で起こる血生臭い事件の謎を解く。妹の香蓮はお転婆で好奇心旺盛。兄への情報提供者の役割。うーん、こうしてみると時代や国に関係なく、こういう男女の組み合わせってのはミステリの黄金パターンなのね。
顔面包帯男や謎解きシーンでの森江の扮装は、明らかに横溝ワールドへのオマージュだし、愛知県警の警部補の名前が「坪井令夫(つぼいのりお)」だってのは地元へのサービスだろうし、また綾辻作品を読んでいる身としては「おっと」と笑ってしまうような件もあったり。細かいくすぐりが妙に楽しい。
さて感想なんだけど、いやもうコレは何というか──100%あたしの責任なんだけども、何とも間抜けな読み間違いをしてしまって、そのせいで面白さが9割ダウンしてしまったのよ。既読の人だけ反転させて読んで欲しいのだけれど、最初の方で先代の当主と長男が続けて死亡するでしょ? その死亡時刻が、新聞に載った死亡通知に寄れば長男は夜9時15分、先代の当主即ち父親は翌日の午前8時54分なわけだ。もちろん、これは父親の死亡時刻を12時間ずらして、遺産が長男の嫁に渡らないように親族が画策した結果なんだけど、あたしはこの死亡告知を読むまえに、9時台と8時台なんだから親の方が先に死んでるじゃん、じゃぁ一旦長男に遺産が渡った後で長男が死んだということだから、長男の嫁もちゃんと遺産を貰えるじゃん、よかったねーと思いこんでいたのよ! ああ、何てバカなの>あたし。既読の人は分かって貰えると思うけど、こういうふうに読み間違えると、その後の展開が面白くも何ともないのよね(笑)。
おまけに、××に仕込まれた暗号はファンサービスかと思えるくらいに単純なものだったのですぐに気づいたし(あれは作者がワザと気づかせるようにしてるんだろうな。あまりに分かりやすいもの)、読み間違いと、暗号が解けたのとで、あたしの頭の中では2章くらいまで終わった時点で既にストーリーが出来上がっていたのであった。それが当たっていたかどうかは別として(笑)、おかげで読んでる最中のドキドキ感や驚きが削がれたことこの上ない。バカな読者の見本である。皆さん、ちゃんと細部まで読みましょうね。思いこみで斜め読みしちゃダメよ(泣)。
(01.4.22)
同じ屋台を舞台にした連作という点では「屋上物語」の方が謎解きの面白さがあったし、食べ物屋の絡む連作短編という点では「花の下にて春死なむ」や「メインディッシュ」という傑作があるだけに、読み手としても「まずまず面白い」というレベルでは満足しなくなってる部分もあるんだよね。読者の勝手なんですが。では個別に。
【セヴンス・ヘヴン】結婚相談所で知り合い、結婚した夫婦が死体で発見された。──複数の事件のリンクが今一つの感あり。
【地下街のロビンソン】ライブハウスの歌姫登場。どうでもいいけど、宇佐市から博多までって特急で2時間かかるんですけど。ホントにそんな遠距離通勤してるのかあの娘は。
【夏のおでかけ】夏の間2週間だけ行方をくらますテッキ。なかなか事件が起こらないと思ったら──こういう後付けの展開も面白い。
【ハードラック・ナイト】高校時代の同級生がテッキの屋台を訪れるが──この真相には少々ウンザリ。後味が悪いことこの上ない。
【親不孝通りディテクティブ】テッキの屋台で「雪国」というカクテルが永久欠番になっている理由。これは切ないなあ。イチオシ。
【センチメンタル・ドライバー】高校時代に端を発するイザコザが二人を襲う。そして──テッキのキャラが表層でしか分からないために、彼の行動に感動する前に戸惑ってしまう。行動の理由とその処理の仕方が理解できるほどには、テッキの過去も思考も書き込まれてないような気がするのよね。あと一歩、踏み込んで欲しかった。
(01.4.23)
明治9年、川口外人居留地でG.A.エッセル氏が巻き込まれた不可解な事件。明治36年、内国勧業博覧会の警備中、警官達に届けられた奇妙な暗号。昭和40年代前半、学生運動の最中で起こった忌まわしい事件と不思議な犯人消失トリック。これらの事件が、時間を越えて探偵・森江春策の前で結実する?
トリックに次ぐトリック、事件に次ぐ事件で頭の中は大混乱しそうなものだが、それでも手際よく物語をさばいていく著者の手腕はさすが。長編を読みながら短編もたくさん楽しめてしまうという、福袋のような物語である。寧ろ、長編としての醍醐味よりも、独立した個々の事件の方が印象が強かったくらい。全編を通して「事件・謎」では結びついてるんだけど、せっかく現代の事件が社会的に根の深い人間心理に端を発してるんだから、そこらに時代を越えたテーマ性を持たせて欲しかった──というのは読者のワガママかな。
そうそう、個人的なことになるが、大阪に住んでいた時には野田阪神から弁天町まで自転車で行くのに、安治川トンネルをしょっちゅう利用していたものだから、もう懐かしくて懐かしくて──確かにあそこは何かが起きそうな気配があるんです(笑)。ただ、その安治川トンネルにしろ、その他の地理的条件にしろ、土地勘の無い人にどこまで訴えられるかは、ちょっと疑問。川口居留地のあたりは、ちょっとややこしかったぞ。え、あたしに読解力がないだけですって? う、そうかも(泣)。
ただ、「団塊の世代」「学生運動の世代」に対する嫌悪感というのが、あちこちにヒシヒシと感じられて、ちょっと辟易してしまった。そういう人も確かにたくさんいるけど、そうでない人もいるんだけどなぁ。たまたま登場人物たちは「そういう人」に当たっちゃったってだけかもしれないけど、これじゃぁ「団塊の世代」が一括りにされて責められてるようで(それもその時代を知らない世代から避難されてるわけで)、ちょっと可哀想になったり。森江春策は「二十歳の原点」を読んだらどんな感想を持つんだろうか(笑)。
(01.4.25)
なるほど、スキー場ならではの事件ばかり。考えてみればスキー場ってのは、足跡のない密室だとか吹雪の山荘だとか、定番トリックの宝庫なのよね。言い換えれば既に手垢のついたものばかりになる危険もあるわけで、そこを「スキー探偵」というキャラが巧く補ったという印象がある。あたし自身はスキーの経験が皆無なので、どういう状況なのか、果たしてホントにそういうことが可能なのか、そのあたりが分からない部分もあったのだけれど、それを抜きにすればベーシックな謎解きばかりで楽しめる。
ただ──このシリーズはこれで完結じゃないんだよね? どうも大鳥安寿というキャラクターの印象が一定しないんだけど。何か裏にありそうじゃないか?と、スレたオバサンは考えてしまうのですが。
【空中浮遊事件】リフトに乗った客が途中で消えた?──ほ、ほんとに可能なんですかこんなトリックは(笑)。まぁそれはさておき、事件の処理の仕方はけっこう好み。
【屍体切断事件】コブ斜面にバラ巻かれた切断死体。でも犯人はどうやってこんな状況を作ったのか?──途中、何をグダグダ話してるんだろう、これって作中の会話を借りて著者が持論を述べてるだけなのでは、なんて考えてたんだけど、ハイ、あたしが間違ってましたゴメンナサイ。
【吹雪山荘事件】遭難しかかった矩巻と安寿は、山荘に泊めて貰うことに。そこには別の遭難カップルも居て──あたしは不真面目な読者で、小説の登場人物が「本格ミステリ論」なんかを喋り出すとサクっと飛ばしてしまうのだけれど、今回は読み飛ばしたことを後悔しました(笑)。なるほど、前作同様、素直に真面目に読みましょうってことね。
【白骨屍体事件】脱輪で立ち往生した矩巻は、偶然、白骨を掘り出している女を目撃してしまい──これ、イチオシ。ちょっとややこしいところはあるけれど、真相ではゾクリとした。
(01.4.26)
歪んだ匣・永井するみ(祥伝社)
【重すぎて】不倫を精算したい女と、家族を捨てる決心をした男。病院での女の行動には一緒になってドキドキし、一緒になって腰を抜かしそうになった。白眉は「コブつきで私と一緒になろうとしていたのか」というラスト間際の一言。男の「重すぎる」キャラが如実に出ている。
【D.I.D】会社の電話を私用に使う人は多い。でも、どうしてこの番号にかけてる人がいるの?──ちょっと出来すぎの感あり。
【歪んだ月】夫が浮気をしてる? 不安になった美樹は──一歩間違えたらぐちゃぐちゃドロドロの話になりそうなんだけど、(いや、実際にそうなんだけど)このラストをして「ああ良かった」と思わされてしまったのは、やはりそれだけ主人公に感情移入させられてるということか。
【ドラッグストア】小さな会社の、経理担当のOL。彼女のストレス解消法は──ホントはいけないことなんだけど、それでもこのラストには主人公ともども力が抜けるくらい安心してしまった。どうしてこの人はこんなに感情移入させるのが巧いのかなぁ。
【ブラックボックス】墜落死体を見つけてしまった掃除のオバサン。でも何だかおかしいぞ──妙に行動的なオバサンがいい味を出してる。決めのシーンも見事。
【ダブル・オリーブ】店に強盗が入った。それなのに、目撃者の親子が消えた──目撃者を捜す内に、だんだん悲しくなってくる。でも、かなりネガティブな行動をとっているにも関わらず、ワケもなくこの親子なら大丈夫という気になってくるのはどうしてなんだろう。永井作品の密かに前向きなところか。
【幻の味】もらったお菓子は賞味期限がとうの昔に切れていた。どうしてこんなものがあるの?──たまたま貰ったお菓子が昔の事件を呼び起こした。企業犯罪なのに、喝采したくなるような話。
【ウーマン】うるさい女性部長の出張中、ちょっと羽根を伸ばそうとした秘書は地下のフィットネスクラブへ。ところが──あたしはやは りハッピーエンド好きなんだなぁ、と実感。後味がすごくいい物語。その口うるささが中心に描写されてた部長が、だんだん「いい上司じゃん」となっていくあたりも好もしい。
【蝶のごとく】ホールで行われたオペラのコンサート。その後で、歌手がつけていたペンダントがなくなった?──唯一、ちょっと後味の悪さを感じる作品。しかし話の展開はなかなかにサスペンスフルで、お馴染みの人達が出そろうのも嬉しい。
(01.4.26)
【独裁者の掟】小林泰三:対立する二つの国(?)、片方の指導者の娘が、一触即発の街の中へ出た。そこで出会ったのは……。ありがちと言ってしまえばありがちの手法なのだけれど、でもその見せ方は一流。「多分、こうなんだろう」と分かっていても切なくなる。
【死人魚】青木和:霧の中、迷い込んだ村で村八分にされる少女──何とも映像的で、それでいて救いのない真相に打ちのめされる。
【セラフィーナ】篠田真由美:ローマで見つけたお気に入りの骨董店。その店で紹介された肖像画は──ストーリーテリングはさすが。「少女」の物語というよりは、女のそれのような。
【彼女の海岸線】大塚英志:同名のマンガのノベライズ。うーん、苦手なタイプの話。「きつねだよ」と言われた時点で放り出しませんか普通。
【アンドロイド殺し】二階堂黎人:これはストーリー紹介は省略しよう。初読が一番面白いタイプの話。しかし、この真相は絵を想像すると妙にコミカルで面白い。
【朋恵の夢想時間】梶尾真治:これ、イチオシ! 心だけが過去に戻れるというタイムマシン。朋恵は今でも悔やんでいる中学生のあの日に戻ることにしたが──もしも自分が「悔やんでも悔やみきれない時」をやりなおせるなら、誰だって飛びつくだろう。しかし、そこに待っているものは何かを考えると、何とも切ない。切なさ満点のあとの、希望に満ちたエンディングも満点!
(01.5.3)
遠い約束・光原百合(創元推理文庫)
よくも悪くも少女マンガのような物語、というのが第一印象。とくにキャラクターの造形が、モロに少女マンガである。貶してるのではないので念のため。お薦めマークがついてるでしょ? 知的でクールでシニカルな美男子・若尾先輩、優しく穏やかで思慮深い清水先輩、明るく元気で正義感の強い黒田先輩。オンナノコが「ステキ(はーと)」と思う三大タイプを全て網羅したかのようなこのキャラクター(笑)。これは一歩間違えれば、自己満足の同人誌レベルの読み物になってしまいかねない。
ところが、非常によく練られた謎解きと、卓越した文章力・表現力で、「同人誌にありがちな話」を「爽やかな胸キュンの青春ミステリー」に昇華させているのである。たいしたもんだ。ヘタな人ならこうはいかない。思わずキャラ萌えしそうになったではないか(笑)。特に細かい言い回しが抜群に巧いんだよなぁ。「脳髄山脈に花が咲く」は密かにマイブームだぞ。
独立した短編は【消えた指輪】【「無理」な事件】【忘レナイデ……】の3本。【消えた指輪】は「本格推理12〜盤上の散歩者たち」で既読だったが、やはりこれが一番キレイ。話の流れも、真相も、そして動機も。無理も破綻もなく、それでいて読後感がいい。学園モノのミステリには辟易してる向きもあったのだけれど、「ああ、こういうのはこの年代ならではだよな」と納得させてくれた。【忘レナイデ……】も、細かな手がかりから真相に結びつく過程が見事。
そしてメインとなる【遠い約束】。まさしく少女マンガのツボである。現実ならこうはいかないだろう、ここまでキレイ事じゃないだろうと思わせる部分は多々あるのだけれど、それもテンポのいい文章と魅力的なキャラクターで「それもありかな」と読ませてしまう。この年になって読むには少々テレてしまうけれど、それでも何だかほんわかした気分になれるのである。
(01.5.4)
プロ野球チーム・見縞レインボーズは弱小球団。おまけに新米オーナーは全く野球を知らない女性。このオーナーが球場で巻き起こる様々な事件を話を聞いただけで解くという、典型的なアームチェア・ディテクティブものだ。その上、普通のアームチェア・ディテクティブではなく、全て野球に絡めて推理するというシバリつき。こりゃタイヘンだぁ。
となればどうしてもワンパターンになりがちだと思うのだけれど、話はひとつひとつ、視点を変えアプローチを変えして飽きさせない工夫がある。とりあげられている野球のエピソードの絡め方も秀逸。あたしはもともと野球も野球小説も大好きなので、そういう点でもツボだった。
ただ、アームチェア・ディテクティブにありがちな弱点なのだけど、「確かに想像を逞しくすればそういう考えも成立するかもしれないけれど、他にも解釈はたくさんあるのではないですか」と言いたくなるんだよなあ。ちょっと神がかり的に過ぎませんか。「なるほど!」と膝を打つ快感よりも、「よくそんなこと考えつくなぁ」という感心の方が先に立ってしまった。本格ミステリの醍醐味って、読み終わった時に「ちくしょう、どうしてこんな簡単なことに気づかなかったんだろう、すっかり騙されちまったい、バカバカあたしのバカ」と思わされるところにあると思うのよ。そのあたりが、多分に弱いんだなぁ。伏線の出し方のせいかしら。
【幻の虹】うわ、キャラクター造形が泡坂妻夫みたい……(笑)。
【見えない虹】主人公の女の子がいい。少年の行動はちょっと無理があるかな。
【破れた虹】とりあえずストーカーってことで逮捕して、それから吐かせてもよさそうな。
【騒々しい虹】謎解きはきれいだけど、その設定の方に現実味が薄い。子供を使うかなぁ。
【ダイヤモンドにかかる虹】これも、謎解きそのものよりも主人公の女の子の心理描写が秀逸。
(01.5.12)
何と言っても、著者の言葉である。「自信作です。もし不安があるとすれば、この先、私がこれを上回る本格推理を書けるかどうかという一点だけです」──す、すごい。
実際、水無瀬シリーズの中では抜群だと思う(でも、著者の「真冬の誘拐者」の方が個人的には上だと思うわ)。大きなトリックと小さなトリック。大きな方は(多少アンフェアの感はあるものの)確かにこれは見破れない。しかしあたしは小さなトリックの方が好きだな。これだけアチコチにヒントがあって、それで分からなかったんだもん。「ああ、そうかぁ!」と叫んでしまったわよ。
しかし、毎度のことながら一番心に残ったのはトリックだの謎解きだのではない。そういう意味では「本格推理」ではないのではないか、とすら思うくらいだ。もともと物語の中に社会性を取り込むのが巧い人なんだけど、今回の「誠実な二流」というくだりは心を揺さぶられた。青山や原宿に出店するカリスマ美容師のいる美容院が人気の影で、街のパーマ屋は姿を消していく。巨大スーパー出店の影で、馴染みの魚屋が店を閉める。でも、入院したお婆ちゃんの髪をセットしに病院に来てくれるのは、パーマ屋のおばちゃんだ。客の好みを知って声をかけてくれるのは、魚屋のお兄ちゃんだ。切ないなあ。「誠実な二流」──いい言葉だなぁ。もっと、これを前面に出して欲しかったなあ。
(01.5.13)
しかし舞台が周の洛陽城ということもあり、そこで起きる事件は伝説に則ったものあり、政治の裏の謀略あり、宦官同士・側近同士の確執ありでバラエティに富んでいる。途中から出てくる遊技の彩娘も魅力的だし、悪者は小物から大物に至るまで色とりどりで、若干ステレオタイプの感は否めないものの、馴染みのない世界だけにそのステレオタイプが理解の助けになっているのも大きい。連作短編集だが、登場人物の立場の変化も見所のひとつなので、順に読まれることをお薦めします。では個別に。
【杜鵑花(とけんか)】杜鵑(ほととぎす)が鳴くと人が死ぬ? 言い伝えの通りに女官の死体が見つかった──パズラーとして読んだ場合、多少アンフェアの感はあるが真相は見事。
【蚕眠棚(さんみんほう)】都を騒がす誘拐魔。狙われるのは放蕩息子ばかりで──彩娘登場。それにしても無鉄砲な女だ香蓮てのは。
【氷麒麟(ひょうきりん)】宮廷内の小屋で死んでいた氷の彫刻師。しかし、誰も小屋に出入りしたものがいない?──最もパズラーらしい密室モノ。トリックはシンプルだけれどラストには快感が残る。
【菊花酒(きっかしゅ)】秋になるとあちこちで見つかる犬猫の死骸の謎は? 思わず「なるほど!」と膝を打った。手がかりが過不足無く一つに纏まるカタルシス。
【浮蟻珠(ふぎじゅ)】皇帝が大事にしている真珠が盗まれた? 濡れ衣を着せられた九郎は──これは謎解きというよりも騙し合いの面白さか。
【膠牙糖(こうがとう)】4人の遊技が次々と死ぬ。同一犯人による連続殺人事件なのか? 動機が切ない。
【昇竜門(しょうりゅうもん)】愛妾にいいように操られる皇帝。それに対する九郎たちは──イチオシ。謎解きが、というよりも、ここまで読んで来た物語の行方がこんなところに来るとは、という驚きと興奮。だからこれだけ読んでもダメよ。
(01.5.15)
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