硝子細工のマトリョーシカ・黒田研二(講談社ノベルス)
人気女優でありミステリ作家でもある美内歌織が脚本を手がけ、ミステリドラマが生放送でオンエアされた。ところがその本番中に次々と事件が起きる。歌織の恋人である森本晋太朗は、自ら進んで事件の渦中に身を投じるのだが……。
震災後の神戸を舞台に、震災が人々の心や体、そして社会に遺した傷をテーマにしながら描かれた本格ミステリの連作短編集。
緑陰の雨 灼けた月〜薬屋探偵妖綺談・高里椎奈(講談社ノベルス)
薬屋妖怪探偵シリーズ第5弾。秋、座木、リベザルの暮らす深山木薬店に、日本の妖怪・野狐のユノが預けられた。そこへ現れた今回の依頼人は、高校生の車谷エリカ。夜な夜な彼女の部屋に妖怪めいたものが現れるという。解決に乗り出した3人組だったが──。
魔女・樋口有介(文藝春秋)
就職浪人の広也は、姉の友人であるガーデニングプランナーの早川美波のところでバイトをしている。美波とは身体の関係もあったが束縛し合うものではなく、気軽に毎日を過ごしていたのだが、ある日、昔つき合ったことのある女性が火事で死亡したというニュースを聞く。テレビ局の報道部に務める姉に強制的に取材を命じられた広也は──。
恋恋蓮歩の演習・森博嗣(講談社ノベルス)
N大学の大学院に通う大笛梨枝は、教官の代理で参加したたカルチャーセンターで、ある男性と出逢い恋に落ちた。偶然知り合った瀬在丸紅子に、楽しそうに恋の話をする梨枝。一方、お馴染み香具山紫子は、思いを寄せる保呂草に旅行に誘われ有頂天。そしてメンバーは豪華客船の中で一堂に会し、当然の如く事件は起きる──。
タンポポの雪が降ってた・香納諒一(角川書店)
外国を舞台にした作品が多いせいか、どこか乾いた感じを与える短編集。郷里を離れているということが乾きを産んでいるだけでなく、主人公なセンチメンタリズムをダイレクトに描かず何かに投影して描くことによって、その「乾いた感じ」が醸し出されている。
吉祥寺にある幸(さいわい)荘という古アパートには、夢はあるけど今はまだ何者でもないという若者が集っている。作家志望の吉岡もその一人。吉岡は童貞であるというのをコンプレックスにしていたが、ある日、同じアパートでミュージシャン志望の円町くんが──。花村萬月の描く、切なくも暖かい青春群像。本の帯には《志(こころざし)高けれど、童貞です》と書かれている。
天使などいない・永井するみ(光文社)
女性を主人公に据え、女性の視点に立った、とても切れ味の鋭い短編集だ。下手にサイコな方向に流れず、女本来が持っている弱さや強さ、そして怖さや優しさをリアリティに立脚して描いている。実に鋭い。
PINK・柴田よしき(双葉社)
阪神大震災で婚約者を亡くしたメイは、両親の薦めに従って見合いをし、東京で結婚する。夫になった達也は死んだ婚約者にとてもよく似ていて、それがメイを結婚に踏み切らせ元気を取り戻させたのだ。しかし、達也の仕事の都合で神戸に引っ越すことになり──
畝原は夫の浮気調査の依頼を受けてマンション前で張り込むが、どうも対象の様子がおかしい。浮気ではなく本妻と会っているとしか思えないのだ。これはもしや依頼人に騙されたのでは、と気づく畝原。しかしその依頼人は、別の事件を運んで来て──探偵・畝原シリーズ。
ミステリは驚かせてなんぼ、という作風を誇る著者だけのことはあり、とにかく騙されたと分かった時の驚きや喜びは大きい。その決定的な箇所を読んだ時には「ああっ」と声を出してしまうこと請け合いだ。「騙し」の遊び心に満ち、文句のないカタルシスを与えてくれる。テレビ局という開かれたようで閉じられた空間は、まさに現代のクローズドサークル。その舞台を最大限に利用したストーリー展開も、細かい部分までよく計算されているのが分かる。ええっ、こんなところに伏線があったの?という驚きもまた、本格ミステリの醍醐味だ。
それに、ラストシーンがいいんだよね。謎を解いて驚かして終わり、じゃないあたりが。愛しているからと言ってここまで簡単に許せるのか、愛情は過去の傷を消せるのか──《マトリョーシカ》に象徴される、幾重にも殻を纏った人間の姿が、爽やかな読後感とともに浮かび上がる。ま、もちろん《マトリョーシカ》にはもう一つも意味もあるんですが、それは読んでのお楽しみ。
ただ、いかんせん読者に負う部分が大きい。大仕掛けと緻密なロジック、過去の事件と当日の事件、そういう複数の要素がブレンドされて、おまけにそれが2時間という放送枠の中で展開されるわけで、どうしても煩雑な印象は拭えない。落ち着いてメモでもとりながら読めば理解できるのだけれど、まさかそこまで読者に求めるわけにもいくまい(笑)。毒入り麦茶に墜落事件、脅迫電話にアイドルの自殺、様々な事件が絡み合っている上に、どれが「劇中劇」でどれが「事実」なのが、だんだん混乱してくる。あまり書いてしまうと興を削ぐので控えるけれど、「劇」と「劇中劇」の両方に共通する項目・現象が多いために、混乱を招きやすい。おまけに作品の構成上、回想シーンがやたらと多く、それも混乱に拍車を掛ける。いや、混乱それ自体は著者の狙いでもあるわけだが、少なくとも混乱したままでは最後に用意された驚きとカタルシスは半減してしまう。
どうか落ち着いて読んで頂きたい。物語世界に入ってしまえば、驚きとカタルシスは約束されているのだから。アイドルおたくの探偵もいい味出してるぞ。
(01.7.6)
恋霊館事件・谺健二(カッパノベルス)
あらかじめ断っておくが、この「お薦めマーク」にはかなり個人的なバイアスがかかっている。というのも、あたしも《あの震災》で被災した一人だからだ。個人的なことなので詳細は省くが、あの渦中にいた者として、あの日々を経験した者として、いまだにあたしはこの手の話を、トリックがどうとか謎解きがどうとかという部分を主体に読むことはできない。ここに描かれた仮設住宅の様子、PTSDに悩む登場人物、記憶に蓋をしてしまった人達──本格推理小説ではあるけれど、どうしてもそちらに目が行ってしまう。
とは言うものの、ここはあくまでもミステリ主体の書評サイトであるからして(笑)、震災を扱っているというただそれだけでお薦めマークをつけたわけでは決してない。ここに収録された各編はいずれも、本格ミステリとして優れている。全編を通しての一つの謎については、途中で「あ、これじゃん」と気づかれる可能性が高く、そこが惜しいと言えば惜しいのだけれど、それでも各短編で展開される事件や謎解きはどれも水準以上だ。
それに、舞台でもありテーマでもある《震災》と、各編の事件とその謎解きが密接に結びついているのもいい。決して、どちらかがどちらかの「付け足し」ではない。震災の後だからこそ、起こりうる事件。震災の後だからこそ成り立つ謎解き。この舞台以外では使えないものばかりだ。だからなおさら、震災関連の描写が地に足のついたものであり、通り一編でないのが心に染みた。震災が単なる小道具でないのが嬉しかった。
ただ──《あの震災》を経験した者としては、読むのがとても辛かった。あの日を、あの時を、思い出して怖かった。6年半が経って普通に生活しているけれど、それでも思い出すと一気にあの日に飛んでしまう自分がいた。途中で何度もページがめくれなくなった。被害の軽かったあたしでさえ、こうなのだ。いまだ傷癒えぬ人や、PTSDに悩んでいる人には、ちょっと薦めにくいのも事実である。むしろ、すでにあの震災を、「95年の重大ニュースのひとつ」としか認識していないタイプの人に読んで欲しい短編集である。(01.7.4)
車谷エリカと言えば、「悪魔と詐欺師」に登場したのを覚えている読者も多いと思うが、「悪魔と詐欺師」では彼女は大学生だった。翻ってこちらは高校生。ってことは、シリーズ時系列としは、こちらの方が先なのね。だから高遠刑事や御葉山刑事が出てこないのね。葉山クン、好きなんだけど(笑)。
さて、すっかり「リベザルの成長物語」の様相を呈してきた本シリーズだけれど、今回もリベザル君が健気に頑張る姿がメイン。今回は「ユノ」の問題も相まって、人と関係を持つということはどういうことなのかがテーマに据えられる。このあたり、例によって説明過剰の嫌いはあるものの、ティーンエイジャー向けということを考えれば、実にきれいで分かりやすい処理の仕方だ。いや、もちろんエリカ自身の物語もあるのだけれど、「悪魔と詐欺師」を読む限りでは今回の教訓が生きてるとは思えないしねえ(笑)。
ミステリ部分は例によってテーマと多少乖離している部分も見受けられるんだけど、このシリーズはそういうものなんだと思って読めば気にならない(いいのか?)。失踪する女子高生たち、学校に流れる怪談、その中から一つの真実を見つけだす秋。──できるなら、エリカの事件と学校での事件のリンクがもうちょっとこう、繋がりというか何というか……ごにょごにょ。とは言え、うん、これまでのシリーズの中ではベストかな。
(01.7.6)
筆者の青春モノの黄金パターンと言ってもいい。「彼女はたぶん魔術をつかう」ってなもんである。ラスト近くで、夜になっても帰ってこない××を捜して彼女の家に行き、そこから行き先に思い当たって彼女を見つけだすというくだりなんぞ、「夏の口紅」そのまんまである。他の人がやると「ワンパターンじゃん!」とつっこみたくなるようなこの作風が、樋口有介だと「ああ、この樋口テイストがいいのよねえ」と安住してしまうのは何故なんだろうなあ。
女の目からしてみると、いったいどうして広也が××に惹かれていくのか、何が彼の恋愛感情を呼び覚ましたのがどうにも分からないんだけど(笑)、そのあたりの気怠くもピュアな透明感も魅力のひとつだ。分からないと言えば、なぜあの姉に口答えのひとつもしないのかも分からないぞ。一度や二度、キレてもいいんじゃなかろか。
死んでしまった千秋の生前を調べるうちに浮かび上がってくる様々な事実も、掘り下げると《一個の人間に対して、人によって異なった印象を持つ》という、アイデンティティの問題として語ることが可能なのに、そんなコムズカシイことよりも「なんとなく、好きになっちゃって」「なんだか、放っておけなくて」というノリで始まる恋愛ドラマをメインに据えるあたりも黄金パターン。ああもったいない。でもこれが気持ちいい。
ただ、黄金パターン唯一の欠点があって、「こういう話の時は犯人はこの人なのよね」というところまでパターンになっちゃってるんだよなあ。そこだけは意外性を求めたいのだが。
(01.7.7)
うわあ、見事にひっかかっちゃった。読み終わった後でよく考えてみれば、これってVシリーズを全部読んでる読者なら《傾向と対策》として可能性を考慮してもよかったネタだぞ。ああ悔しい。読み終わってから何を言っても負け惜しみなんだが、どうして気づかなかったかなあ。ああ悔しい。ホントに悔しい。あまりに悔しいから、書評はこれで終わってやろうかしらん。
というわけにもいかないか。今回の白眉は何と言っても《豪華客船》という文句無しの密室状況である。「魔剣天翔」は飛行機で今回は船だ。次は電車かそれとも戦車か(←自棄)。とまれ、たとえ何部屋あろうと途中でヘリコプターから乗り込んで来るメンバーがいようと、「消えた人物」「消えた絵画」の行方は限られる。ありったけの《過去の作品例》を総動員して読んでたんだけど、えーん、見破れなかったよお(泣)←結局そこに戻るのね。
印象深かったシーンは、船の甲板で紅子と七夏が二人だけになるところ。森作品ならではのユーモアでスマートに描いているけれど、実のところかなりどろどろした《人間が出る》シーンだ。あともう一つ、紅子と森川君の会話って、あたしもすごく気になるんですけど(笑)。
(01.7.8)
【海を撃つ日】新婚旅行の最中に、客船のカジノで出会った若者。彼は金を湯水のように使い、女をはべらせ、好き勝手に振る舞っていた。そんな若者に主人公は自らの弟と父親を顧みる──エンディングが何とも言えず、いい。何か教訓めいたことを言葉で書くよりも、こういう静かで映像的なエンディングが与えるものの方が数倍印象的。
【タンポポの雪が降ってた】留学中の私のもとに、日本から女が訪ねてきた。前にちょっとつき合ったことのあるホステスだ。戸惑いながらも「その頃」に思いを馳せる──これ、いいなあ。シンジが妙子にたいしてとった行動というのは、なんだかものすごく切なくて胸が痛くて、それが最後に一気に昇華される。
【世界は冬に終わる】日本に働きに来た貧しい国の青年が語った「とある事件」の話。読み終わってみれば何とも立派なミステリになっているのにビックリ。
【ジンバラン・カフェ】バリへリゾートに出かけた京子の目的は、自分が「飼っている」男に会うことだった──これってもうネタは割れまくりなんだけども、そこへ至る過程の描写は見事。
【歳月】父親の遺品の中にあった風景写真。その中に移り込んでいる少女の消息を訪ねる主人公。これもとてもよく出来たミステリ。真相が分かっていく過程で受ける衝撃は一級品。
【大空と大地】社内不倫をし、希望の職種からもはじかれたをOLが次に突き合った男は──これ、ものすごく消化不良だなあ。いや、いろいろと考えられるんだけど、もう少し先を描いて欲しかったというか。
【不良の樹】刑務所に入っていた兄が帰ってきた。ラーメン屋を営む主人公は兄と一緒に商売をやろうとするが──主人公兄弟の話よりも、親戚の方に腹が立っちゃって(笑)。
(01.7.10)
吉祥寺幸荘物語・花村萬月(角川書店)
思いっきりツボです。
いい。実にいい。《僕小説》が好きな人はこれを逃してはならない。花村萬月と言えば、《暴力とセックスと肛門》ってのが先ずイメージとして浮かんで来るが(そしてちゃんと今回もそれはたっぷりと織り込まれているのだが)、今回は暴力もセックスも肛門も決してハードではなく、どこかコミカルで、どこか切なくて、そして暖かくて。昨年11月の出版なのだが、去年これを読んでいたらあたしは間違いなく私的ベストの上位に入れたね。
まず登場人物がいい。吉岡、円町君、富樫君、佐和子、香月、玲奈、ソープランドで出会う客、ゲイバーのバーテン、文芸誌の編集者──みんながどこか面白くてどこか淋しくて、それぞれに切ないほどの思いがあって。恋も夢もセックスもコンプレックスも仕事も、全部ぼくらの一部。みっともないくらい恋をして、一生懸命バイトしたお金でソープに行って、友だちとじゃれ合ったりケンカしたり。そして、セックスも恋も夢も、最初よりはちょっとだけ身近なものになった時……それらを、花村萬月の達者にして卓越した文章で描いているのだから(とにかく描写力・文章力に於いては稀代の書き手である)面白くないわけがないのだ。
青春小説、という言葉は気恥ずかしいが、ここは敢えて青春小説と言おう。これは読め。元気が出る。若い人は共感と励ましが貰える。そうでない人は、甘酸っぱいような切なさが癒しと元気をくれる。これは、読め。
(01.7.11)
【別れてほしい】恋人を友人に奪われた女性の話──なんだけども、ラストでは思わず「おおっ」と叫んでしまった。これで溜飲を下げてるあたしって、ちょっと人が悪いかな(笑)
【耳たぶ】夫の死亡を受け入れられない妻は真実を捜そうとして──秀美に会った時に双方が感情的にならないのが、いい。ラストには救われる。
【十三月】保険会社の遣り手セールスレディが殺される。業界の内幕は分からないけれど、ホントにあっても不思議はない話。
【レター】レストランで隣に座った女性が落とした封書。それは主人公の、別れた恋人へ当てたものだった──少々出来すぎの感は否めないが、読んだあとで幸せな気分になれる非常に気持ちのいい話。
【銀の墨】筆耕の仕事をしている女性の話。彼女のところに「扇子に和歌を書いてくれ」と依頼してきた和菓子屋の隠居が殺され──悲しい話なのに読後感がいいのは何故なんだろうなあ。
【マリーゴールド】あちこちのアンソロジーにも収録されている、著者のデビュー作。自らを元気づけようとしただけのOLが、知らないところで招いていた皮肉な事件。でもこれ、なんか元気の出る話なんだよね。
【プレゼント】思わず盗んでしまった同僚のクレジットカードが──真相が分かる過程はカタルシスがあるんだけど、読後感は悪いよなあコレ(笑)。
【落花】画家の卵と同棲を始めたピアノ教師。絵と音楽、という対照的なようで似ている二つを生業にしている二人というあたりも巧い。
【振り返りもしない】昔の恋人の妻が殺された──複雑な家族模様を、切なくも爽やかに描いている。品のいいドラマになりそうな作品。
(01.7.12)
「恋霊館事件」(谺健二)の感想で詳しく書いたが、あたし自身が阪神大震災で被災しているために、あの震災を描いた小説は読んでる途中で「あの日」を思い出してしまい、恐怖でいたたまれなくことがある。がしかし、これは全くといっていいほど気にならなかった。誤解しないで欲しいのだが、別に著者の描写力のせいではなく、震災をひとつの背景として使っているに過ぎないせいだと思う。「恋霊館事件」が阪神大震災そのものがテーマであり中軸にしているのに比べ、これはたまたま震災後の神戸を使ってはいるけれど例えば架空の地震や災害の話であってもいいわけだ。阪神大震災それ自体がテーマじゃないから。そこの違いかな。かといって震災をないがしろにしているのではなく、ラストシーンで交わされるメイと達也の会話には、被災した一人として、とても勇気づけられた。感動して涙ぐんじゃったよ。おかげで、余計な恐怖感を抱かずにミステリそのものを堪能することができた。被災して、いまだに震災を描いた話は読めないという人にも、これは薦められる気がする(もちろん安易には言えないけれど)。
さて、前置きが長くなったが本論。
とにかくストーリーテリングが抜群に巧い著者なので、文句無しに物語り世界に取り込まれてしまった。メイの身の回りに次々と起こる奇妙な出来事。メイの友人で、とある宗教の教祖であるという奈津美の存在も相まって、なんだか本格ミステリというよりもホラーっぽい雰囲気を呈していくんだけど、最後にはきっちり謎解きしてくれて満足満足。ただ、登場人物の動かし方が、少々急ぎすぎという感が強くてもったいない。個々の脇役もとても魅力的なのに「情報やきっかけを運んでくる」という役どころを全うするだけなのは惜しいなあ。真相解明も、ちょっとバタバタ進んでしまった感がある。もっと枚数を費やして書き込んで欲しかった。でも、そういうのもすべて話が面白いから感じる不満なのであって、要は「もっと長く読んでいたかった」と思わせる作品なわけだ。
(01.7.12)
悲鳴・東直己(角川春樹事務所)
例によって、小さな事件が怒涛の広がりを見せる。事件のドミノ倒し、或いは事件のわらしべ長者(?)と呼びたくなるような話の展開だ。それを混乱させず、飽きさせず、読者を渦の中に巻き込むかのようにクライマックスへ向かう緊迫感はさすがである。シリーズキャラは皆さん相変わらず魅力的だし、新キャラもいいし、謎解きは一級品だし、クライマックスからエンディングにかけてなんてもう手に汗握るし、もちろん文章は巧いし、セリフ回しなんかさすがだし、もう、文句無しッ! 文句をつける箇所が見当たりませんわ。無理矢理文句をつけるとすれば、「そんな方法って、逆に犯人がキレちゃって、人質が無事で済まないのでは。よくそんな危険な方法をとったなオイ」というくらいである。
この著者の作品の魅力は、卓越した筆力が生み出すキャラの魅力と、大胆でいて細かい部分まできっちり練られた迫力あるストーリー展開なのだが、もうひとつ、「最近の困ったちゃん」の描写が抜群に巧いのだ。冒頭に出てくるナイフ少年、嘘の依頼をしてくるストーカーの女、教育のできてない女子事務員、そういうあたりが、大袈裟に作られたものではなく、とてつもないリアリティがある。シリーズキャラがどれも個性的でありながら人一倍常識を弁えているのとの対比もあって、少しばかりのコミカルさと同じ町内にいそうな薄ら寒さを感じるのだ。
今回は「アブちゃんバスター」の高橋さんが面白くも悲しい。ホームレスのタバっちゃんは、胸が痛い。道警の玉木が、男気を見せてくれた。タクシー運転手の太田さんも大活躍。貴の耐える姿が涙を誘い、中学生になった冴香は切なくも力強く成長した姿を見せてくれる。あたしは決してキャラ萌えするタイプじゃないと思っているんだけど、考えてみればこれも一種のキャラ萌えか?という気がしてきたぞ。
キャラクターの魅力と、社会問題を掘り下げるテーマ性と、息をも吐かせぬサスペンスと、思わず膝を打つ謎解きと、それらすべてを最高の文章で紡ぎ出す筆力。そういうものが、全部詰まってるんですよこの傑作には! これは凄いことだと思わないか?
(01.7.13)
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