転・送・密・室・西澤保彦(講談社ノベルス)
おなじみチョーモンインの神麻嗣子シリーズ5冊目。うち「夢幻巡礼」は番外編なので除くにしても、嗣子ちゃんパワーはますます全開である。キャラの魅力やキャラ同士の関係の変化などを楽しむには、こういう短編集の方がいい。保科の前妻である聡子もすっかり定着し、チョーモンインでの同僚・神余響子も登場し、次回作に繋がりそうな謎の新人まで出てきて、シリーズが佳境に入る前のオードブルのような短編集だ。
謎亭論処〜匠千暁の事件簿・西澤保彦(NONノベル)
タックシリーズの短編集。個人的な好みになるが、神麻嗣子シリーズよりもこちらの方がより《本格ミステリ》っぽい道具建てになっており、思わず引き込まれてしまう。キャラ優先になっていないあたりが好きな所以かな。今回もフェアプレイで、魅力的な事件と論理的思考のみで出される膝を打つ解決が堪能できる。例によって酒を飲みながらの推理ゲーム。
三人目の幽霊・大倉崇裕(東京創元社)
落語雑誌の編集部に配属になった、出版社の新米女子社員。落語に造詣の深い、優しくも鋭い洞察力を持つ編集長。この二人がコンビを組んで謎を解く短編集。おまけに《日常の謎》の話で──と言えば、いやでも北村薫氏の「円紫さんと私」を思い出してしまう。正直なところ、設定が分かった時には「二番煎じ?」と思ってしまったのは事実。しかし読み進むうちに、これはまったく別物だと言うことが分かった。いや、似てるのよ。それは認める。こういう設定なんだから似ちゃうのは当たり前。だけど、読み終わっての感想は、北村作品というよりも都筑道夫《なめくじ長屋》にも通じる落語ミステリーと銘打ちたい気分になった。落語世界にダイレクトに入りこんだ面白さがあって、思わず落語のCDを聞きたくなっちゃうのよね。と同時に、落語とからめながらも全然別の事件を扱ったりもして、落語に疎くても大丈夫。
姫椿・浅田次郎(文藝春秋)
流行してるから言うわけじゃないが、やはりこういうのを《癒し系》と呼ぶんだろうなあ。作品の方向性にばらつきがあるのでひとまとめにして言うわけにはいかないが、それでも「いい人はいいね」という伊豆の踊り子のような感想を持ってしまう。特に、【シエ】、【姫椿】、【永遠の緑】の三作は、疲れたあなたにお薦めだ。では個別に。
海泡・樋口有介(中央公論新社)
夏休み、父島の家に帰ってきた木村洋介を待っていたのは、中学から共に過ごした島の仲間達。狭い島の中で事件が起き、はからずも巻き込まれる洋介。著者お得意の、青春ミステリーだ。
高校生の塚田真一は、一家惨殺事件の生き残り。引取先でようやく落ちつきかけたと思った矢先、犬の散歩中のバラバラ死体を発見してしまう──劇場型の連続殺人事件を核に、被害者・加害者・そしてそれをとりまく人々のあらゆる視点から《犯罪が産む犯罪》を描いた力作。
ぶわっはっはっはっはっは、く、く、くだらねぇ〜〜〜〜〜\(^o^)/
夏合宿・瀬川ことび(角川ホラー文庫)
怖いの苦手、痛いの嫌い、気持ち悪いのダメというホラー三重苦のあたしでも楽しめてしまうのが、瀬川ことび描くところのスチャラカホラーである。あ、いやいや、こんな書き方では誤解を招くか。怖いのよ、確かに怖いんだけど、同時にそこかしこに見えるコミカルな味付けが、たまらなく楽しいのだ。
防衛庁調査班の朝霞二尉と野上三曹は、九州の南西に浮かぶ伊栗島へやってきた。この島にある自衛隊の分屯基地で、小銃が一丁消え失せるという事件があったからだ。外部に決して漏らしてはならないこの事件、調査を始めてみるとどうも不可解な事実が相次いで……。
【現場有在証明】自分の分身を別の場所に登場させることができるという超能力が対象。こういう超能力ってのは、テレパシーやサイコキネシスなどと同様にSFファンでは認知されてるものなのかな。能力の設定に戸惑いはあったが、鮮やかな謎解きはさすが。
【転・送・密・室】時間を飛び越えることのできる超能力が対象。といってもこの処理の仕方だと、メインはその超能力ではないのだけど。
【幻視路】保科の前妻・聡子がメインとなる物語。聡子のキャラクタが一気に前面に出る。好きだなぁ、こういう女性。事件やミステリそのものよりも聡子の性格や考え方に惹かれて読み切った。でも、その性格や考え方の描写が、終わってみれば謎解きに結びついているあたりが見事!
【神余響子的憂鬱】チョーモンインの同僚、神余響子登場。彼女のスキマー(警察内部にいて情報を流してくれる協力者)が殺された……アダルトチルドレンを書かせたら随一の著者だけあって、これは気持ち悪いわなどと眉を顰めながら読んでいたら、隠された伏線を見事に逃してしまった。一本とられたってやつですか。
【《擬態》密室】保科の能解が外でデート。でも、そこで刑事の百々ちゃんに会ってしまって……いや、何より問題は《解決されてない謎》の存在だぞ! こりゃいったい何なんだあッ。気になるじゃないかァッ。
【神麻嗣子的日常】ちょ、ちょっと待て。えーっと、どういうことだ? ああもう、これだからシリーズものってのは!
(01.7.18) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
【盗まれる答案用紙の問題】ボアン先輩が就職した女子校での話。犯人は最初からめちゃくちゃ怪しく──つまりは分かりやすく書かれてるんだけど(笑)、動機には気づかなかった。
【見知らぬ督促状の問題】覚えのない家賃の督促状から起こった事件。よく読めば手がかりはたくさんあるんだけど、事件がいきなり起きるために惑わされる。
【消えた上履きの問題】ボアン先輩の学校の生徒が殺される。何より動機が──加害者とされる人物の動機も、被害者とされる人物の動機も、実に胸に残る。イチオシ。
【呼び出された婚約者の問題】数年前に別れた《元婚約者》から呼び出され──謎解きよりも、元婚約者の陥っている状況が明らかになっていく過程が悲しい。
【懲りない無礼者の問題】電車の中で街の悪口をいう無礼者たち。天網恢々、なのかもしれないけれど、残された問題が悲しすぎてカタルシスが得られない。
【閉じこめられる容疑者の問題】事件概要が会話だけで語られるってのが、ちょっと辛いか。しかしタカチはいい女になっていくねぇ。
【印字された不幸の手紙の問題】巧いんだけど、その動機を考えると、すごく迂遠な方法だという気がしないでもない。それにしても、悪意が解明されて終わりという話は、読後感がチトなぁ……。
【新・麦酒の家の問題】新たな場所で新たな状況での《麦酒の家の冒険》。ってゆーか、登場人物のうち一人くらい誰か止めろよ(笑)。
(01.7.18) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
少なくとも、北村作品と比較して読もうとするとかえって純粋に楽しめなくなる恐れがある。まずは虚心で読んで頂きたい。けっこう、粒ぞろいだぞ。論理の展開にやや強引さが見えるのと、巧さは感じてもインパクトに欠けて後に残りにくいってあたりが損してるけど、創元推理短編賞の佳作を受賞し、光文社の「本格推理9」に「エジプト人がやってきた」が収録されている著者だから、本格嗜好は推して知るべしだ。
本格嗜好だけではなく、【三人目の幽霊】のエンディングの素晴らしさ、【崩壊する喫茶店】の最後で編集長が犯人に向かって言った一言など、印象深いシーンや台詞も多々ある。これからが楽しみな作家だ。ただ、落語家の名前で混乱しちゃうとワケが分からなくなるので、ちょっと注意が必要か。
(01.7.19) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
【シエ】辞書にないのでカタカナで書いてしまったが、ケモノ編に解という字を当てる。中国の伝説上の獣である。長年一緒に暮らした猫のリンを亡くした日、鈴子のもとにやってきたシエの話。どうしてこんな時代がかったアザトイ話を、こうも巧く書いてしまうのかなこの人は。ああもう、泣けるし暖かいし読後感いいし。なんかこっちまでいい人になっちゃった気分。
【姫椿】借金まみれになり、保険金目当てに自殺を決意した男の話。ああ、癒される──。特に衝撃的なことがあったわけじゃないのに、何が彼を変えたのかちゃんと読者にも分かるというあたりが、さすがだ。誰もが心の中に、この風呂屋みたいなものの存在を持ってるんだよな。
【再会】ちょっとオカルトめいた不思議な話。ラストには寒気がした。
【マダムの咽仏】ゲイボーイたちの間でマダムと崇められていた往年のオカマが死んだ。ラストの衝撃は圧巻。
【トラブル・メーカー】うっ、これダメ。主人公に救いなさすぎ。
【オリンポスの聖女】学生時代の恋人の思い出。ラストシーンは映像的で示唆に富んでて、いい幕切れだ。
【零下の災厄】ある男を襲った、不運なのか幸運なのか分からない出来事。
【永遠の緑】妻を亡くして娘と二人暮らしの大学教授。彼の唯一の趣味は競馬だったが──ああ、これイチオシ! こんなご都合主義の話が、浅田次郎が書くとこうも「いい話」になるのはどうしてだろう。教授が娘に対して敬語を使うあたりが、なんとも実に巧いんだよなあ。
(01.7.21) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
さすがにお家芸だ。しかし、舞台のせいか事件の性質のせいか、「魔女」や「夏の口紅」のような都会のカッコイイ今時の少年少女のやりとりではなく、「ともだち」や「プラスチック・ラブ」のような青春の悩みと傷を前面に出したものでもなく、従来の作品よりも一歩引いたところから描かれたような透明感を感じる。他の作品に比べて、一人称主人公である洋介のキャラ描写を押さえ気味にしているせいだろうか。いつもよりフィルタが薄くなり、物語がダイレクトに迫ってくる心地よさがあった。
島では秀才だったのに都会の受験に失敗して「壊れてしまった」旧友、島で一生を終えることを愚痴りながらも逞しく家業を継ぐ旧友、不治の病に冒され、余命幾ばくもない旧友。青春時代の交わりが、二十歳を超えてどう変化するのか──変化させるのは誰なのか。
ミステリとしては、とある重要な人物に関して状況が二転三転するあたりが、少し煩雑な気がしないでもない。平凡に島で暮らすことができずに「何かを背負ってしまった」キャラクタが多く、その個々を巡る状況というのが目まぐるしく変わるので、しまいに誰を信じればいいのか分からなくなってくるのだ。
しかし、大きな瑕疵ではない。そういう状況にあっても提示される真相は充分驚愕に足るものだ。そして何より「誰が犯人で動機が何で」という問題よりも、彼ら一人一人の「これから」の方が、より興味をそそる《謎解き》なのだから。
(01.7.21) 《この本の詳細情報&注文画面へ》

模倣犯(上下巻)・宮部みゆき(小学館)
第一部では、バラバラ殺人の捜査の経過が被害者の関係者や警察の視点から、第2部では犯人からの視点から、そして第3部ではその後の展開が描かれる。とにかく分厚くて、二段組で、それで上下巻だ。手を出すのにびびる量だが、しかし読み始めてからは厚さを忘れる。とにかく、圧倒的な筆力である。
「火車」から「理由」を経て、著者が到達したのがこの作品である。宮部みゆきは常に、犯罪そのものではなく、犯罪に巻き込まれる《普通の人々》を描いてきた。平凡に、普通に暮らしてきた家族。その一人が、何の前触れもなく凶刃に倒れる。普通なら、「殺したのは誰」「動機は何」というところに読者の興味が向くところだが、この物語が描かんとしているのは、そこから始まる《被害者の家族》《加害者の家族》の、無残にも打ち砕かれてしまった生活である。
第2部まで、いや、第3部の途中まで、辛くて辛くて仕方なかった。「こっちこそ被害者だ」と開き直る《加害者の家族》。悲しみの縁に沈む中、好奇の目に晒される《被害者の遺族》。無責任に騒ぐ野次馬やマスコミ。そう言った各者を、単一視点で描くのではなく、すべての方向から描いている。その為、無実を訴える加害者の家族の気持ちが痛いほど分かる一方で、それを聞いた被害者の遺族がどれだけ腹が立つかも分かる。どっちに転んでも辛くて、救いがなくて、ただ《犯罪者》だけが笑っている現実。この世は、ここまでの悪意に満ちているものなのか。一方にとっての正義は、他方にとっては悪意としか映らないのか。こんな状況が許されていい筈はない、そんな憤りを感じながらも、でもページをめくる手は止まらない。
最後まで読めば、救いはある。これだけ辛い話を読ませながらも、最後には前向きな気持ちにさせてくれるところが、宮部みゆきの真骨頂である。だから、読んでよかった、と思う。しかし、と同時に、たとえ事件は終結しても登場人物の受けた傷は癒えないことを、読者は知っている。そしてそれを忘れてはいけないのだ、ということも同時に知らされる、これはそんな作品である。
(01.7.19) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
銀河帝国の弘法も筆の誤り・田中啓文(ハヤカワ文庫)
あたしはSFというジャンルにはホントに疎くて、どれくらい疎いかってぇとブラッドベリは途中で挫折したし、アシモフはミステリしか読んでないし、ホーガンはどこが面白いのか分からなかったし、というくらい疎いのだ。SFファンの人から石が飛んできそうだが、事実だから仕方がない。そういうあたしがこういう本を読んだわけで、読んでる最中は、「もしかしたらあたしには分からない深遠なテーマが隠されてるのかもしれない、SFに詳しい人なら思わず膝を打つような仕掛けがあるのかもしれない」と戦々恐々としていたのだが、読み終わった今、自信を持って断言しよう。──んなもなぁ、無い。
とにかく遊んでいる。ふざけている。が、しかし、真剣に、本気で、全身全霊をかけてふざけているのだ。「こ、この一言を言いたいがために、こんな気宇壮大なストーリーを作ったのかこいつは!」と思わずのけぞってしまう。スラップスティックとかユーモア小説とかってのとも違う、何て言うんだろうなぁ、「いいトシした大人が、こんなに力を入れて書く話ですかこれが」と、嬉しくなってしまうのである。いいですか、今のセリフは怒ってるんじゃないのよ喜んでるのよ。ああもう、なんかすごく嬉しい\(^o^)/。
収録作は5つなのだが、個々を解説するのはやめよう。あたしがしなくても、小林泰三・我孫子武丸・田中哲弥・森奈津子・牧野修らのそうそうたる解説陣が一作ごとに(!)解説を入れてるんだから。一作目の【脳光速】(このタイトルからして……)では、まださほどの脱力はないかもしれないが(いや、あるんだが……梓二号って……ゲン・イーカ二世って……)、三作目の【火星のナンシー・ゴードン】のオチでは脳味噌がクラゲになり背骨が軟骨になりましたわいな。いや、この手のネタを段取り良くまとめられてオマケに笑わせてくれるってのは、相当な筆力だぞ。泣かせるより笑わせる方が難しいんだから。とにかく、バカバカしさと脱力笑いを満喫したい方は、この本を逃すな! そうそう、それから帯のぶっとび加減も必見ですぞ。
(01.7.24) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
【夏合宿】ラストシーンなんて最高に怖い筈なのに、コントのようなノリに思わず爆笑してしまう。笑うのは間違ってないぞ、だって主人公だって笑ってるんだから。
【本と旅する彼女】正統派ホラーかと思いきや……充分に高められたテンションが、最後になってクルリと反転する快感を味わえる。
【廃屋】ぶわははははははっっ、めちゃくちゃ楽しいぞこの幽霊! 宮崎駿監督にアニメ化して欲しいくらいだ。絶対しないだろうけど(笑)。そういや、「手っちゃん」っていう少年マンガが昔ありませんでしたっけ?
【たまみ】映像だけを想像すると、ものすごく気持ち悪い──まさに梅図かずおの世界なのに、やはり笑えてしまうのである。ラストの演出も効いてる。
【ドライ・オア・フレッシュ】生首が飛ぶのである。怖くないわけないのである。──が。夜になると飛び回る生首を見て「恋をしてるのよ」と語る図書館司書がもう最高!
(01.7.26) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
未完成・古処誠二(講談社ノベルス)
「UNKNOWN」に続く、自衛隊シリーズ第2弾である。何がすごいって、事件は「小銃が一丁消えた」というそれだけなのだ。殺人が起こるでもなく、第二第三の事件が起きるでもない。それなのに、300ページの長編を、冗漫にもならず飽きさせることもなく、読者を最後まで引っ張っていく。空前絶後・前人未到の大トリックや、首のない死体が累々と放り出される猟奇殺人などなくとも、全編を貫くテーマと筆力さえあれば上質のミステリは成立するという証左である。
無論、「小銃は誰がいつどうやって盗んだのか」を解明するだけでは、さすがに300ページはもたなかったかもしれない。ここに描かれている自衛隊員の描写、島の人々の描写、そしておそらくは筆者が最も描きたかったであろう高須一等空士の問題、そういったものが、「小銃は誰がいつどうやって盗んだのか」の外堀を埋めて行く。提示された謎はシンプルだ。だが、そのシンプルな謎を生み出したものは、とてつもなく複雑である。そして「動機」が解明された時、その「動機」に納得し得るだけの、思わず首肯してしまうだけの情報が、読者には与えられている。
極めて上質なミステリだ。そして、このテーマを《自衛隊を舞台に描いたミステリ》で著したことに拍手したい。
また、テーマやストーリー、トリックだけではなく、際だったストーリーテリングの巧さも魅力のひとつである。「文章が巧い」というよりは「語り口が達者」という方が相応しいような、温度や臭いを感じさせる文章。もっといろいろなジャンルのものが書けそうな作家である。
(01.7.31) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
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