お厚いのがお好き?


殺意は砂糖の右側に・柄刀一(NONノベル)

 祖父を亡くして小笠原諸島から初めて都会に出てきたIQ190の天才・天地龍之介。彼の新たな後見人が見つかるまでイトコと同居することになったが、様々な事件に巻き込まれ──トボけた天才名探偵が活躍する連作短編集。
 この龍之介のキャラクターは秀逸だなあ。生活能力ゼロの理系の天才ってえと《浮き世離れした学者バカ》造形を想像してしまうのだけれど、龍之介はただひたすらピュアで、それがとぼけた味わいになっていてイヤミがなく、実に感じがいい。理系絡みの謎解きも、へぇと思うモノが多いし。
【エデンは月の裏側に】龍之介登場。この短編が収録されていた
「不透明な殺人」を読んだ時にも思ったのだが、このトリック、実は何度読んでもよく分からないのだよ(笑)。スミマセン。
【殺意は砂糖の右側に】グルタミン酸ソーダ(味の素)が異様に好き、という龍之介の設定は秀逸。トリックも小粒ではあるけれど、なるほどなと思わされる。それにしてもこのトリックに使われた小道具、一時期やたらとマスコミでも取り上げられたから有名だろうとは思うんだけど、知らない人にとってはえらく都合のいいモノに思えるだろうなあ。
【凶器は死角の奥底に】これイチオシ。実はこのトリック、「伊東家の食卓」で見たことがあって「ああこれかぁ!」と思ったのだが、もしも知らなかったらとても信じられなかっただろうなあ。被害者が死ぬ直前に言っていた謎の言葉の真相も膝を打つ。
【銀河はコップの内側に】これはしかし、それだけの細工をしてると随分時間も手間もかかりそうだなあ。これだけ機内が空いてたら、それだけで充分挙動不審になるような気が。
【夕陽はマラッカの海原に】この伏線はけっこう好き。真相そのものは思いきり意外で驚かされたし、まさかアレが伏線になっていたとは!
【ダイヤモンドは永遠に】《宝探し》の話──なんだけど、こないだテレビで見た二時間ドラマで同じ場所に隠してたのがあって、ちょっとニヤニヤしてしまった。
【あかずの扉は潮風の中に】ちょっと「マスグレイヴ館の島」を思い出したり。シリーズが続きそうな気配で嬉しい。
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消える密室の殺人〜猫探偵正太郎上京・柴田よしき(角川文庫)

 「柚木野山荘の惨劇」(文庫化の際に「ゆきの山荘の惨劇」に改題)に続く、猫探偵正太郎シリーズ長編第2弾。ある日突然東京へ向かった飼い主。当然正太郎も連れていかれたが、突然で猫が泊まれるホテルではない。しかたなく、正太郎は猫雑誌の編集部に預けられたのだが……。
 ストーリーテリングが巧いので、サクサク読める。この手の、動物だの何だのを擬人化して語らせるミステリはたくさんあるけれど、このシリーズのいいところは《猫ならでは》の行動や情報が謎解きに直結してるところなのよね。「どうして猫なのよ」とという基本的なところが弱いと、キャラの魅力だけではなかなか読者を引っ張るのはタイヘンだと思うのだけれど、そこはさすがに抜かりはない。後半、編集部の猫たちが大挙して街を走るシーンなんか、手に汗握っちゃったわよ。これは確かに人間さまには解決できない事件だわ。いや、解決はできるんだけど、猫殺しの真相までは分からないよね。
 ただ、「うわ、そうかあ」と地団駄を踏ませるような巧緻な伏線と、シンプルにして魅力的な密室トリックを、正太郎&飼い主のコミカルな語り口とコメディ的演出の中に混ぜてしまことに、ちょっと勿体なさを感じないでもない。この著者の他の作品を見れば、もっとおどろおどろしい作品にすることも、バリバリの本格にすることも、恋愛を絡めた切ない話にすることも可能だったろうに。まあ、それだけの筆力があるからこそ、これだけの素材をこういうコミカルで軽めの作品にまとめることが出来るんだろうけど。
 とまれ、猫同士の会話が、なかなかに切なくて胸キュンなのよこれが。あ、そうか、この作風でなくちゃ、こんな猫の会話なんか書けないものなあ。 (01.8.3) 《この本の詳細情報&注文画面へ》     

三人のゴーストハンター〜国枝特殊警備ファイル・田中啓文・牧野修・我孫子武丸(集英社)

 国枝特殊警備は、人間以外の力が絡んでいるような事件が起きると、一般の警備会社からバトンタッチしてその対応にあたるという会社。そこには3人のゴーストハンターと一人の女子社員、そして社長がいる。この5人、実は前に起こったとある事件がきっかけで知り合ったのだが……。3人のゴーストハンターの一人ずつを田中啓文・牧野修・我孫子武丸が担当し、それぞれが主人公の短編を順番に書いていくという連作あるいは共作の物語。
 いやもう、何が面白いって、3人の個性の違いである。この3人というのはゴーストハンター3人という意味と、著者3人という意味の両方ね。とにかくタイプの違いすぎる3人のゴーストハンターがそれぞれの持ち味でもって事件に当たるんだけど、ホントに何から何まで違うのだ。
 田中啓文描くところの【洞蛙坊】は、前の事件で頭の半分が陥没している上に顔の左右が段違いになっているという奇怪な容貌ながら、酒を飲み女を抱きクスリを打って、豪快に念仏(?)を唱えながらのお払い。あたしはこの項が一番好きだなあ。田中啓文ならではの、腰砕けのダジャレもそこここ出てきて、その都度「わーい、出た出た〜〜」と拍手したり(あたしは何を期待してるんだ?)。破天荒でハチャメチャだけど、蓋を開けてみれば「おおっ!」というような真相があるのも好み。
 牧野修描く【比嘉薫】の項は、あたしの個人的趣味にはちょっと合わない世界なんだけど、逆に一般の女性読者には一番受けるんじゃないかしら。端正な二枚目でクールでもの静かでホモで(おい)、それで《妄想が見える》という比嘉薫。いや、あたしはどうも、耽美とかナルシシズムが内へ向かっているってタイプはどうにも焦れったくて(笑)、比嘉薫にも、彼を「おにいちゃん」と呼びながらエッチなことを仕掛けてくる栗本薫作品ばりの少年にも、「ええい、おまえら校庭をうさぎ飛びで十周して来い!」と叫びたくなってしまうのだが、しかしこれも、後半に用意された《二人の真相》には「ええっ!」と唸ってしまった。
 そして我孫子武丸描く【山県匡彦】の項。3人の中では最も本格畑に近い我孫子氏だけあって、山県はメンバーの中でただ一人《霊》を信じていない科学者。霊が関わっているとしか思えない謎を、極めて論理的に解いていく。が──。
 とにかく贅沢で、3人の違いを楽しめるだけでなく、自分の好みの項に入れ込んで読むこともできる。オカルト好きな人もコメディ好きな人も耽美が好きな人も本格が好きな人も、み〜〜〜んな楽しめるという、間口が広く奥が深いという寝殿造のような贅沢な本である。何と言っても、三人三様のエンディングがこれがまた! お好きなエンディングを選べるようになっているのだ。ラストのオチで言えば、我孫子武丸氏のがあたしは一番気に入った(驚いた)のだけれど、さて、あなたの好みはどれかな?
 とにかく、これは今年の収穫ですよ。共作(連作)ってのは往々にして一人で書くより散漫になってしまって押しが足りなくなるものだけれど、これは3人の個性が素晴らしい相乗効果を産んでる。いや、それよりも、共作だの何だのという話題性より純粋に小説として面白い。これは読むべし。 (01.8.5)
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夢の中の魚・五條瑛(集英社)

 洪は、目的のためなら手段を選ばない韓国人スパイ。日本にある韓国新聞の記者として潜伏しているが、日々の暮らしの中から「これは使える」という情報を容赦なく手に入れていく。目下のターゲットは「日韓漁業協定」なのだが──「プラチナ・ビーズ」「スリー・アゲーツ〜三つの瑪瑙」の面々が登場する、連作短編集。
 ハードな題材をソフトな小道具と演出でくるみ、人間味豊かな人物を硬質な文章で描く五條瑛の世界である。短編、ということで、こういうタイプに慣れない読者もとっつきやすいのではないだろうか。その分、もっとハードなものを期待していた身としては「こんなのだけじゃいやん、もっともっと〜〜〜」という気にさせられるのだけれど(笑)。
 プロローグ&エピローグ的な位置づけになっている【少年I】【少年II】を除くと、収録作は7作。それぞれで話は完結しているものの、すべてが繋がっているので連作短編集と言うよりも一つの長編を読んでいるのに等しい。よって、惹かれたタイトルから拾い読みなんていう読み方をせずに、順に読んでいくことをお薦めします。
【GAILA】怪獣オタクの青年が、どうしても欲しくて仕方なかった怪獣映画「GAILA」のグッズ。それが──スパイそのものの視点だけでなく、怪獣オタクの青年の視点も混ぜてるあたりが、日常のすぐ裏側にある情報戦がリアルに感じられて巧い。
【For the girl】可愛い恋愛小説なのだ。しかし、これも日常と背中合わせの国際情報戦の一端がある。何も知らずに、恋だけが生活の全てになっている高校生が、切なくも可愛い。
【ナミエ】イチオシ! 虐げられるばかりだと思っていた韓国人風俗嬢・ナミエの本当の目的が分かった時には震えが来た。これ、ドラマにしても面白そう。
【ここに、眠る】洪の片腕であるパクの過去が垣間見える。プロレスラーの保永のキャラは秀逸だなあ。これからのシリーズにも是非出して欲しい。
【ロメオ】《情報のためには手段を選ばない》洪の仕事ぶりが真っ向から描かれる。日常もいいけど、こういうのが読みたかったのよ!
【腐りかけた林檎の木】最も胸に迫った話。脳天気な日本人の感傷に過ぎないのだけれど、こういったストレートな話はそのままストレートに胸に刺さる。でも、ちゃんと巧く行きそうで読後感がいい。ナミエがちょっとだけ再登場。
【夢の中】洪の仕事も大詰め。と同時に、洪とパクの今後が気になって仕方ない。ううむ、キャラ読みしてますかあたし(笑)。
(01.8.10) 《この本の詳細情報&注文画面へ》      

超・殺人事件〜推理作家の苦悩・東野圭吾(新潮社)

 タイトルから、「名探偵の掟」「名探偵の呪縛」などの天下一シリーズではないかと思われる方も多いと思うが、違います。むしろ「毒笑小説」「怪笑小説」のノリに近いかな。でも、全て推理小説をおちょくってる(?)あたりは「名探偵の掟」に近いテイストもあり。
 ただ、この帯の惹句は少々大袈裟ではないか。「日本推理作家協会、除名覚悟!」なんてのは確かにワクワクするのだが(笑)、既に雑誌発表のものばかりなんだから、除名されるならその時にされてるだろうがよと思わずつっこんでしまった。実際、雑誌発表時に全部読んじゃってるファンとしては、単行本になるまでって随分待たされたのよねえ。【超理系殺人事件】なんてあーた、あたしが独身で大阪で会社員をやってた時代に読んだわよ。思わず独身時代を思い出して遠い目をしちゃったじゃないか。では個別に。
【超税金対策殺人事件】節税のため何でも経費にしようとする作家は、領収書の項目を作品に盛り込もうとするが──わはは、これホントにありそう(笑)。
【超理系殺人事件】表紙を見て、思わず読み飛ばそうかと思ったが(笑)頑張って読んだ。頑張って読んだらこんなことになるとは!
【超犯人当て小説殺人事件(問題編・解決編)】これ、雑誌発表時に本気で考えたんだよなあ。
【超高齢化社会殺人事件】最後のオチは捻りが効いてて好き。ありがちと言えばありがちなオチなんだけど、それを面白がらせるってのは手腕だなあ。
【超予告小説殺人事件】おお、こう来ましたか! ラストがどうなるのかハラハラしながら読んだ。
【超長編小説殺人事件】こ、これシャレになんねぇ(笑)。ホントに長すぎですよ最近の長編は。
【魔風館殺人事件(超最終回・ラスト五枚)】うわははは、でもこの手は一度しか使えないゾ。
【超読書機械殺人事件】10冊くらい書評を溜めちゃうと、こういうの欲しくなるなあ。
(01.8.12) 《この本の詳細情報&注文画面へ》      

残光・東直己(角川春樹事務所)

 北海道の山奥で木彫り工芸をして暮らしている榊原健三は、ある日、テレビで知り合いの子供が人質事件に巻き込まれているのを知った。何もかも捨てて出てきた都会に、もう一度戻る決心をした榊原。彼は子供を助けようとするが──推理作家協会賞受賞作。
 
「探偵はひとりぼっち」などのススキノ探偵シリーズとか、「悲鳴」などの探偵・畝原シリーズのように、何だか情けなくて人間味も豊かで、それでいて決める時にはビシッと決めて、そういうところがカッコイイ──というようないつものキャラクターとは一線を画している。榊原健三はハナっからハードボイルドなのだ。おまけにメチャクチャ腕っぷしが強くて、札幌のヤクザの間では伝説の男になっているくらい。一人対多勢のケンカだって、あっと言う間に倒しちゃう。おまけに、榊原には強力な味方がたくさんいて、そっと彼に手をさしのべるのだ。
 うーん、ミステリとかサスペンスとして読むと、どうも話が出来すぎているような気がしてならない。これじゃあ、子供を助けられないわけがないのよね。勿論、敵もとてつもなく強烈で、いい勝負をするんだけど──何だか、ものすごくはっきり善玉と悪玉に分かれていて、分かり易いというか劇画的というか。
 このノリは、どこかで読んだことがある、という思いにずっと囚われていたのだけれど、読み終わってから気がついた。剣豪ヒーロー小説なのである。ワケありで腕の立つ寡黙な剣豪が、自らの信念と守るべき人のために立ち上がる。剣豪でありヒーローなんだから負けるワケがない。でも敵はあの手この手で攻めて来る。そこに、主人公と関わりのあった人々が思わぬ方法で加勢する。──ね、剣豪ヒーロー小説でしょ?
 ストーリーテリングは抜群に巧いひとなので、とにかくぐいぐい読ませる。どうせ主人公が勝つと分かっていても、はらはらさせられる。「残光」は、現代に甦った良質な剣豪ヒーロー小説なのである。 (01.8.15) 《この本の詳細情報&注文画面へ》      

九つの殺人メルヘン・鯨統一郎(カッパノベルス)

 とある日本酒バーを舞台に繰り広げられる、アームチェア・ディテクティヴの物語。九つ全てがアリバイ崩しで、それも有栖川有栖氏が以前作中で述べた《9種類のアリバイトリック》を網羅しているのだと言う。「邪馬台国はどこですか」に続く、飲み屋での酩酊推理。おまけに九つ全てに童話の新解釈が絡んでるってんだから、これはもう面白くないわけがない。
 「邪馬台国はどこですか」の時には、視点のぶれとか文章表現の杜撰さとかが多少気になったのだが、さすがに今回はそういう心配もない。各話に取り込まれてる懐かしき昭和風俗史も、あたしのツボ(多少マニアックに過ぎる気がしないでもないけど(笑)──スポーツや政治や社会現象なんかも扱って欲しかったなあ)なので、楽しく読めた。登場人物達のトボけた漫才も程良く面白いし。謎解きひとつひとつには好みもあって、正直言って出来不出来もあるとは思うのだけれど、この短編集まるごとでひとつの作品と考えれば、これはもうお薦めマークでしょう。
【ヘンゼルとグレーテル】細かい伏線の張り方が巧い。「なるほどね」と膝を打った佳作。
【赤ずきん】童話と絡めることで成立した一編。赤ずきんの話なしにいきなりこの謎解きは出来ない。
【ブレーメンの音楽隊】「名探偵コナン」を思い出したぞ(笑)。
【シンデレラ】トリックとして最も好きな一編。なぜマンションの外に出て来たのかという点は鮮やか
【白雪姫】とても深刻で切ない筈の話なのに、それがそう見えないあたりが(笑)。
【長靴をはいた猫】このトリックもシンプルにして鮮やかで、かなり好き。見破り方もシンプルで巧い。
【いばら姫】これもトリックから動機から大好きな話なんだけど、薬の量の問題はちょっと疑問が残る。
【狼と七匹の子ヤギ】い、いや、いくら子供とは言えこれはちょっと……(^^;)。
【小人の靴屋】これはちょっとサスガに苦しい気が(笑)。美貌の歴史学者ってのは、きっと「邪馬台国はどこですか」のあの人なんだろうね。
(01.8.16) 《この本の詳細情報&注文画面へ》      

白兎が歌った蜃気楼〜薬屋探偵妖綺談・高里椎奈(講談社ノベルス)

 高橋総和の友人の実家で、なにやら《人ならぬ者》の気配がするという。その事実を見極めに、四国の旧家を訪れた秋・座木・リベザル。ところがその旧家では、次々と事件が起きて──薬屋探偵シリーズ第6弾。
 うわあ、絵に描いたような本格推理の舞台設定である。四国の旧家、厳しい継母、美人で寡黙な家政婦、可愛らしくも健気な子供たち、金に汚い厄介者の叔父、そして昼までも薄暗い、広くて狭い家。おあつらえ向き(何に?)の離れや井戸。座敷童子の伝説と、その伝説から抜け出たような少女。そして現代らしく、コンピュータによって制御されているセキュリティシステム。これはもう、わくわくしなきゃウソでしょ。
 これに、秋・座木・リベザルの妖怪ならではの眼力や能力が相まって、更に事件はもつれる。そしてクライマックス、犯人との対決、謎解き。うんうん、極めてオーソドックスな、これぞ探偵小説の王道、安心して読めるなあ。ちゃんと落とし所も押さえているし。王道過ぎて、手練れた(スレた?)読み手には、すぐにパターン分析されてしまって「こういう場合はこいつが犯人」と読み切られてしまう可能性も高いんだけど、そこはちゃんと《意外な真相》を用意してくれている。
 ただ、こういうふうに場所を変えると、逆にキャラ小説であることが少々邪魔に思える部分も出て来るものだが、そこはさすがに処理が巧い。現地の警察が《お仲間》というのは、多分に都合が良すぎる気がしないでもないのだけれど、そこはまぁ仕方ないか。 (01.8.17)
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本当は知らない〜薬屋探偵妖綺談・高里椎奈(講談社ノベルス)

 「退屈凌ぎではない、映画の様な人生を」というメールや掲示板の書き込みを見た者が、ネットから消えて行く。その一方、病院から退院間際の患者が失踪するという事件が相次いだ。その二つの事件が──薬屋探偵シリーズ第7弾。
 ここまでシリーズ全作を読んで来たわけだから、そろそろ気付けよと自分で自分にツッコミたくなるのだけれど、くれぐれも《謎解き本格ミステリ》のつもりで読んではいけない。ついうっかり、フェアな謎解きを期待しちゃう自分がいけないんだけどさ。これは妖怪小説なのよ妖怪小説だったのよ。でなきゃ、こんな真犯人、読者に推理できるはずがなかろう! 前作
「白兎が歌った蜃気楼」が本格ミステリ仕立てだったものだから、つい油断してたぜ。
 とまれ、真犯人登場のところで全身から力が抜けたものの、しかしそこへの道筋はしっかり本格ミステリの道具建てを楽しませてくれる。「ああ、こういう意味だったのか!」と歯がみする自虐的楽しさもあるし、情報がリンクした時の快感も何とも言えない。ただ真犯人がなぁ……<まだ言うか。
 それに、本来のキャラ小説(そうよこっちが《本来》なのよ)としては、まさに「お好きな方にはたまらない」様相を呈してきた感あり。ちょっとずつだけどリベザルの成長が見えるくだりなんか、おばちゃん感動しちゃいましたわよ(笑)。シリーズキャラもどんどん増える。キャラだけならまだしも、前作「白兎が歌った蜃気楼」のネタバレに近いような表記やシーンがどんどん出て来てて、それも即ち本格ミステリではない証左のようなものなんだけど、まっさらな気持ちで作品を楽しみたい人は、刊行順に読むのがいいかも。 (01.8.17) 《この本の詳細情報&注文画面へ》      


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