歩兵の本領・浅田二郎(講談社)
浅田次郎氏が自衛隊入隊経験を持つことは有名である。彼の人気エッセイ「勇気凛凛ルリの色」シリーズにはその当時のことがおもしろおかしく、時には感動的に描かれているし、また、「きんぴか」には、強烈なキャラクターの元自衛官が主人公グループの一人として活躍する。しかし、意外にも、浅田氏の著作の中には、これまで真っ向から自衛隊を舞台にした小説はなかったのである。
2001ザ・ベストミステリーズ・日本推理作家協会(編)(講談社)
【上陸】五條瑛:Y2K問題を利用したコン・ゲーム。こんな方法があったとは!
洋食屋を経営していた祖父は、孫達が集まるお盆には毎年カレーを作ってくれた。その祖父が亡くなり、葬儀の夜、「大きくなったらみんなでカレー屋をやろう」と約束する5人の孫──イトコたち。ところが、大きくなったらそんな約束は忘れてしまった。そんな折り、その中の一人であるケンスケの父が死ぬ。父は何と、子供たちの約束を覚えていて、祖父の店だった土地と建物をケンスケに遺したのだ。「カレー屋を開くつもりなんだろう?」と……。そうなってしまっては仕方がない、他のイトコ達が約束を覚えているかどうか、ケンスケは一人ずつに確かめようとするのだが、全く思い出せない者はいるし、留学してる者はいるし、行方不明の者までいて──。ただカレー屋をやるかどうかの話だけなのに、なぜか舞台は富士山・アメリカ・インド・沖縄にまで広がる。
戦前に大活躍した探偵小説作家・天城俊策。しかし彼は戦争の劣勢が強まる中で発禁処分を受け、筆を折ってしまう。そうして彼の一家は鎌倉を出て、名古屋へと移ったのだが、戦火は益々激しくなる一方。そんな中、殺人事件が起こって──。
蜻蛉始末・北森鴻(文藝春秋)
幕末から明治初期にかけて、長州の志士たちを金銭面で支えた萩の商人・藤田傳三郎。現在の藤田観光や同和鉱業など藤田グループの前身を作った人物である。その藤田傳三郎が、いかにして倒幕の志士たちと関わりあってきたか、その中から抜けようとして抜けられず、また抜けたいのか否かも自分では分からず、結局のところ権力におもねるしかなかった傳三郎の生涯を、彼の幼なじみであり影でもあった《とんぼ》こと宇三郎(ここはフィクションなのかな?)と絡めて描く。著者初(だよね?)の、謎解きミステリではない歴史小説である。ミステリぽい部分はあるけれどね。
鬼の探偵小説・田中啓文(講談社ノベルス)
いやああああっっ、虚脱系のダジャレがない〜〜〜〜!
……失礼しました(コホン)。いえ、あたしがこの著者の作品で最初に読んだのが「銀河帝国の弘法も筆の誤り」で、それがもうメッタやたらとツボだったものだから、ついついあの手のを期待してしまって……(笑)。
墜ちていく僕たち・森博嗣(集英社)
ラーメンを食べたら、男は女に女は男に変わってしまう──そんな不思議な設定で書かれた連作短編集。あたしは元来森作品の《文章》が好きで読んでいるクチなので、こういうふうに《一人称主人公の話し言葉》で書かれてしまうと果たしてどうかなと心配だたのだが、たまたまなのかそれが筆力なのか、存外スンナリ入ってきた。特に冒頭の一作が橋本治に似た語り口だったのがあたしの好みに合ったみたい。
サイエンス言誤学・清水義範(朝日新聞社)
科学雑誌「サイアス」に連載されたエッセイを集めたもの。イラストはあの名コンビ・西原理恵子氏である。その西原氏がいみじくもイラストで「まあその「おもしろくても理科」のパチもんだと思っていただければ」と書いているのだが(笑)、ま、そういう雰囲気である。いやいや、パチもんと言っても決して手抜きだとかではなく、枚数が圧倒的に違うために、あちらは一つのテーマを深く掘り下げ、こちらは様々な話を軽く撫でるといった違い。それでも、《清水的視点》の鋭さは充分に堪能できるのである。連載エッセイなので「あとで分かったこと」が注釈としてつけられているのも親切。
逆襲・東直己(光文社文庫)
東直己のノンシリーズの作品を集めた短編集。
午後の東京八重洲口。関東生命では今日中に契約書を本社に送らなければ、今月のノルマが達成できない。何としてでも間に合わせなければ──大雨は降るし、過激派はウロウロしてるし、田舎からおじいちゃんは出てくるし、ミュージカルのオーディションはあるし、ミステリ連合会では次期幹事長を決めなくちゃならないし、イトコの別れ話には付き合わされるし──28人の無関係な人々の思惑が重なり合いぶつかり合い、話は思わぬ方向へ!
古処誠二氏の「UNKNOWN」や「未完成」が《自衛隊というシステム》を中枢に据えた物語とするなら、浅田氏の本書は《自衛隊員という人間》を中枢に置いた連作短編集と言えるだろう。複数作品に共通する登場人物もいるが、基本的には一編ずつで完結。
【若鷲の歌】「予科練出身で特攻隊の生き残りの准尉殿」が転属して来た。恐ろしげな乱暴者を想像していた隊員たちだが、実際の彼を見ると……自衛隊という舞台に限らず、老いるとは、若さから見た老いとは、どういうものかを考えさせられる。
【小村二等兵の憂鬱】支給された半長靴を紛失してしまった小村二等兵が、困った挙げ句にとった行動は──心温まるラストシーンが印象的。
【バトル・ライン】何かというと暴力を振るう上官に対する恨みが溜まり、演習の最中に殺してやろうと計画した渡辺だったが──昔の青春マンガにあるような「殴り合った後で大笑いして親友になる」的な読後感。
【門前金融】自衛隊専門に金を貸す金融会社。なるほど、一般人には計り知れないシステムがあるものだ、と感動。このネタだけでシリーズにできそうなくらいだ。
【入営】騙されるようにして入ってしまった自衛隊。なんとか逃げようとするが、そうは問屋が卸さない──逃げるために四苦八苦の言い訳をするにも関わらず、その行く手が次々と妨げられるあたりはコミカルで笑える。
【シンデレラ・リバティー】自衛隊の休日、外出許可の出る日──なまじのお嬢様より厳しい門限に苦しみながら結局戻っていく隊員達。一日だけの自由を描いた切ない作品。
【脱柵者】何とか自衛隊から逃げ出したくて脱柵を計画する高津。しかし彼には《バディ》がいて──この《バディ》の使い方は浅田氏らしいというか反則というか、切ないなあ。
【越年歩哨】ローテーションを組んで回ってくる歩哨の仕事。運悪く年越しの日に回って来てしまい──自衛隊内の上下関係や柵に反抗しながらも、より寒い地域の歩哨を思いながら戸外に立つ隊員の姿に感動。
【歩兵の本領】満期を迎え、自衛隊を退くことを決めたが、周囲は簡単には許してくれず──今でも同じような状況なのだろうか、と心配になってしまうが、そこを気持ちのいい《男の話》に仕上げるあたりはさすが。
(01.8.19) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
【五年目の夜】福井晴敏:ドミノ倒しのように事態が悪化していく様が面白い。上質なコメディ。
【百魔術】泡坂妻夫:「奇術探偵 曽我佳城全集」参照。
【時雨鬼】宮部みゆき:「あやし〜怪〜」参照。
【卒業写真】真保裕一:「ストロボ」参照。
【邪宗仏】北森鴻:「凶笑面〜蓮丈那智フィールドファイルI」参照。
【バベル島】若竹七海:祖父の日記と弟の手記から導かれた《建物》の真実。葉村シリーズ。
【死神】馳星周:著者お得意の《墜ちるばっかし》の話。とことん墜ちるよなあ、この人の登場人物って。
【中国蝸牛の謎】法月綸太郎:本格。チャイナ・ダイダイのもじりだと気づかなかった(笑)。
【オホーツク心中】辻真先:本格っぽいトラベルミステリか。ラストの展開には驚き。
【赤い名刺】横山秀夫:検屍官を主役に据えた業界ミステリ。決め手のあたりが実に本格っぽい。
【風の誘い】北川歩実:ストーカー犯罪を描いた短編だが、どんでん返しの妙味が小気味良い。
【サバイバー】金城一紀:これ、お薦め! 短い中に色々な思いを見いだせる佳作。
【事故係生稲昇太の多感】首藤瓜於:交通事故を扱う生稲巡査がぶちあたった捜査の壁。
【ミンミン・パラダイス】三枝洋:こういう作品が収録されるんだなあ。著者はフォトジャーナリスト。
【不良の樹】香納諒一:「タンポポの雪が降ってた」参照。
【奈落闇恋之道行】翔田寛:歌舞伎を舞台にした時代ミステリ。幻想風味を増した戸板康二という感じか。
【サージャリ・マシン】草上仁:お薦め! 人工知能を持つ外科手術ロボットの反乱。手に汗握る展開に大興奮!
【錠前屋】高野史緒:お薦め! フランスの片田舎にやってきた鍛冶屋は「あの人」に似てて──。
【端午のとうふ〜黄表紙掛取り帖】山本一力:お薦め! 江戸を舞台に《請負人》が丁々発止の知恵勝負!
(01.8.19) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
カレーライフ・竹内真(集英社)
いやぁ、面白い面白い! カレー屋をやる意志があるかどうか確かめるだけの話なのに、やるのならできるだけ祖父のカレーに近いものを作りたいというだけなのに、それが1600枚の大長編である。それを一気読みだぁ。話がどんどん広がって、どんどん転がって、ページをめくる手が止まらないのである。
決して、サスペンスに富んだ話だとか大きな事件が起こるとか、そういうキャッチィなところはないのだけれど、物語そのものの魅力が読者を離さないのだ。「カレーの本場と言えばバーモントでしょ」と言ってアメリカに行き、アメリカのバーモント州にはバーモント・カレーが無いと聞いて驚くマヌケな主人公たち。バーモントの人々に《ハウス・バーモント・カレー》を食べさせるシーンは面白いやら感心するやら(笑)。
成長した五人のイトコを主人公に、それぞれの夢や人生や家族に対する想いを描きながら進むこの物語は、決して《家族礼賛》《青春小説》というだけではない。祖父のカレーの味を追求するうちに、静岡にあった祖父の店のカレーに何故か沖縄の味が入っていることを知る。祖父が何故結びついたのかを調べるうちに明らかになる新しい事実。イトコたちのルーツ探しは、いつしか自らの将来にも結びつくのだ。
今年の大収穫である。読み終わった後、なんだかホンワカした幸せな気分になれる。甘いだけの話ではなく(なんせカレーだもの!)、辛いシーンや切ないシーンもふんだんに盛り込まれ、アメリカやインドを股にかける珍道中記に大笑いし、いつしかカレー屋の開店を心待ちにしている自分に気づく。いい本だ。この本を読めたのは大収穫だ。
(01.8.21) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
悪魔は天使である・辻真先(東京創元社)
あらかじめ言っておくが、《殺人事件》が起きるのは物語の中盤である。それまではミステリらしい風味はまったく無い、と言っていいだろう。しかし、それまでの箇所がなければ、ミステリ部分が生きてこないこともまた事実である。そして、序盤から事件が起きるまでの部分も、ミステリだ何だというより前に、ただ純粋に《物語》として読ませる力がある。いつしか、本格ミステリを読んでいるというよりも、戦時中の風俗と、それと戦う一家族を描いた歴史小説を読んでいる気になるのだ。
──あ、今、不安になりました?(笑) 「戦争モノなの? 本格ミステリじゃないの?」と思いました? いやいや、充分にトリッキーで充分に驚かされる解決があなたを待ってますよ。要は、やたらと込み入った複雑なだけのミステリが増えてきた中で、伏線(敢えて言ってしまおう)部分をちゃんと物語として読ませているというのが、さすがベテランなのよ。そして、もちろん《テーマ》が読者の胸に届くような物語になっているのだから。
舞台は名古屋である。いや、名古屋でなくてはならない(それは読んで頂ければ自明だ)のだ。ご当地ミステリというのが、ただ観光名所や名物を扱っただけの、別にそこでなくてはならない必然性がないという謗りがある中で、これぞ、この時代の名古屋でしか通用しない話である。名古屋への愛を感じて嬉しくなってしまうなあ。
「あとがきにかえて」と題された巻末エッセイ「名古屋は漂流する」は、名古屋在住のミステリファンは必読である。また、著者本人による辻真先作品一覧もついているので、ファンは要チェック。
(01.8.28) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
倒幕・明治回天については、読者によって想いは様々だと思う。てなことをわざわざ書くのは、あたし自身が《長州》の《討幕運動》のあり方に否定的な意見を持っているからである。ところが。何が巧いって主人公が巧い。だって市井の商人なのだ。なんとなく藩の中の熱病のような気風に乗せられ、何もわからず「戦わなきゃ」と思ってしまうようなお調子者。長州の指導者から金ヅルだと思われてるのにも気づかず、いっぱしの志士になった気でいる、頼りない若者。そんな自分に気づいたあとも、幾度と無く利用される田舎者。でも、当時の一般人は皆そうだったんろうなあ、と思わせてくれたのである。左幕も、倒幕も、自分が正しいと思っていたんだろうなあ。一部の上層部には、金権や功名心や恨みで動く者もいただろうけど、でも一般大衆は《エライ人》のいうことをただ信じて、これが正しいと思って戦ったり泣いたりしてたんだろうなあ、と。
物語の主軸は、歴史に翻弄される傳三郎と宇三郎の関係だ。時代の中で、それぞれがそれぞれの問題を抱え、対峙していく。そして彼らの運命が交錯した時、それは政府を震撼させた偽札事件へとなだれ込むのだ。そのあたりの構成・演出は見事。
読んでいて、宇三郎の魅力がどんどん膨らんできて、それだけにこのラストには崖から突き落とされたようなショックがある。やはり巧いなぁこの著者は。ただ、石炭酸ってコレラの薬なの? それを知らないものだから、最後の宇三郎や傳三郎の気持ちが今ひとつピンと来なかったのだけれど。
(01.8.29) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
しかし、気を取り直して読んでみれば、おおおお、かなり手練れた本格推理出はないか! 考えてみればこの著者は光文社文庫の【本格推理(2)】の出身なのである。
アメリカ帰りのハーフの警部・ベニー・芳垣は研修のために忌戸部署へやってきた。平和なこの所轄では、何事もなく研修期間が過ぎる筈だったのだが──ベニー警部の意外な正体、そして彼と組むことになった《やる気も実績もない鬼刑事》鬼丸の正体を軸に、本格連作短編が始まる。うん、この二人の設定は巧いなあ。シリーズとしてどんどん新作を読みたくなる。では個別に。
【鬼と呼ばれた男】発見された惨殺死体は、何故か両目が左右入れ替えられていた──うわ、猟奇にして切ない。ダジャレを捜していたのに、いつのまにか入り込んでしまった(笑)。
【女神が殺した】とある宗教団体で起こった不可思議な事件──う〜〜ん、この少年のキャラにイライラしてしまう。いや、いい子なんですけど。
【蜘蛛の絨毯】密室で娘が死んだ。口からは糸を吐き出し、そして窓には蜘蛛の巣が……蜘蛛のたたりか?──このダイイングメッセージは好み。
【犬の首】とある神社の宮司が殺された。それも一瞬のうちにミイラになって──おおお、この展開は見事! 細かい伏線もきっちり拾い上げてる。
(01.9.1) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
【墜ちていく僕たち Falling Ropewalkers】下宿でラーメンを食べた男子学生二人。気がつくと女になっていて──なんだか二人とも受け入れ方は違うにせよ、スンナリ馴染んでしまうあたりが、妙な味わいがあって面白い。しかしまだ導入部といった印象。
【舞い上がる俺たち The Beautiful in Our Take off】同人誌を作っている最中にラーメンを食べた女二人。でもこの二人の嗜好がちょうど──うわ、これはまた何か一転、切ない話。彼女(彼)らにとって、変身は果たして僥倖たりえたのだろうか。
【どうしようもない私たち The Beat of Rolling Rubbish】二人の上司を手玉に取る和子は、また別の男と別荘へ行ったのだが──同じ設定で今度はミステリ仕立て。なるほど、同一設定でもいかようにも料理できるということか。タイトルページの引用文が樋口一葉ってあたりが、また。
【どうしたの、君たち Pretty You and Blue My Life】第一話で女になってしまった男子学生の隣に住む青年の話。青年はその男子学生を「追って」いたのだけれど──この話自身の面白味というよりも、第一話を別視点から見る面白味の方が大きい。
【そこはかとなく怪しい人たち The Phantom on Peaple's Head】ラーメンを作り、そして好きなバンドのライブへと出かけていった主人公。そのライブ会場でトラブルが起こり──いや、これは何というか……つまり全てがこれをやりたいがための……ってことだったのか? だとしたら、ぐはぁ、ダマされたぁ。誑かす、の会話が好き。
(01.9.2) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
【漬け物】では、漬け物の原理を科学的に説明し(そうか漬け物に味が染み込むのは浸透圧なのか)、【仕事】では、働いてお金を貰うのが仕事なのに、どうして物理では物体が力を受けて動くことを仕事だなんで言うのだと文句を言い(これは同感だぞ)、【栄養】では、「明日死ぬとしたら最後に何を食べますか」というありがちな質問を「明日死ぬのなら栄養をとる必要はないじゃないか」と斬って捨てる。そういうツッコミ芸のようなものから、【質量】では、無重力の宇宙ステーションの中で鉄アレイを扱うことが何故筋肉鍛錬になるのかを説明し、【火山】では、昔習ったシュナイダーの火山分類が今では古いということを教えてくれる、など「へぇ」と感心するものまで多岐に渡る。
何より圧巻は【「赤胴鈴之助」問題】である。朝日新聞までを巻き込んで大論戦になったこの問題。赤・胴・鈴・之・助のいずれかの文字が書かれたカードが、一枚ずつキャラメルに入っている。5枚集めて「赤胴鈴之助」を完成させるには、平均何個のキャラメルを買えばいいかというもの。数学の確率の問題なのだが、興味のある人は挑戦してみてね。そこから更に発展した設問もあるし、その回答例も本書に載ってます。
総じて「食い足りない」感は否めないが、これはやはり枚数のせい。そういう人は「おもしろくても理科」のシリーズを読みましょう。
(01.9.2) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
【春休み】退屈な春休みに、電車の中で見かけた「田舎から出てきたらしい少女二人」の話を聞いてしまった主人公。彼女たちはどうやらヤバい男にひっかかったらしくて……展開がやや安易に思えなくもないが、切ない読後感がいい。ちょっとほろ苦い青春モノ。
【気楽な女】「あの男を連れてきてくれ」と頼まれて、その通りにしたはいいが……かなり意外な結末。だけど主人公の男と、「連れてこられた男」のキャラの魅力でコミカルに仕上がっている。
【人ごろし殺人事件】カルチャーセンターで小説を教えるナイスミドルの家に、生徒である中年の女が訪ねて来た──おお、なんだかサイコホラーっぽい。へえ、こういうのも書くんだぁ。
【本物】老人ホームに暮らす元・刑事。彼はある日、職員がはめている指輪を見て昔の事件を思い出す──ミステリとしても一級品なのに、このラストにはマイッた。なんて巧い、そしてなんて意地悪な終わり方!
【渋多喜村UFO騒動】老人シリーズ第2弾。静かな過疎の村に突如降って湧いたUFP騒ぎ! しかし騒ぎはそれだけで終わらず──ネタは割れやすいけれどストーリーテリングの巧さで楽しませる。
【守護神】老人シリーズ第3弾。これイチオシ! これお薦め! ボケかけた老人が孫息子の泣き言を聞いて……という話なんだけど、読者には先に真相が分かっちゃうんだよね。それをストーリーが次第に裏打ちしてくれる。そこがまた面白い。タイトルも秀逸。
【安売り王を狙え】ミステリ好きの若者二人が「名探偵になるのは難しいが、犯人にならなれる」という大笑いの理由で詐欺を計画。しかし……これは良質のコメディ。
【逆襲】「ホウカン」とあだ名される私立探偵の活躍談。いやぁ、面白いわ。これもお薦め。シリーズにして欲しいくらいだけれど、一番意外なのは何かを考えると、単発でしか使えないネタか。
(01.9.3) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
ドミノ・恩田陸(角川書店)
おおおおおおおおおおおおおおおおおもしろいッ! ふへぇ、恩田陸ってこういうのも書くんですか。これまでは「ちょっとホラー気味の本格ミステリ」だったり「しっとり読ませる本格テイストの青春モノ」だったりしたのだが、これはもう、思いきりエンターテインメントである。とにかく面白い。途中でやめられない。怒涛の展開、ええっと叫んでしまう邂逅、うわっそう来たかッとのけぞってしまう運命。
なにしろ28人である。28人。書き分けますか普通(笑)。そこからして普通じゃないんだよね恩田さんて作家は。大きく分けて生命保険会社の人達、俳句サークルの人達、過激派、オーディション関係者、ミステリ連合会関係者、その他、っていう感じになるのかな。いや、「その他」にも重要人物がいるんだけどさ。つまりはそれだけ何も関係ない雑多な人物が、すれ違いかかわり合い、それぞれの持っている問題がドミノのように次を押して倒していく。気がついた時には東京駅は大騒ぎ! 「え、あそこに出てきたあの人物が、こんなところでこんなことに?」という驚きと、「ああそうか、それでこっちがこうなるんだ」という納得。とにかく、唸ってしまうほど全てが計算しつくされて、でも表面上は計算など微塵も見せずにドキドキハラハラのドラマが続く。
特にあたしが好きなのは、関東生命八重洲支社の加藤エリ子だ(笑)。オーディションを受けた二人の子供もいいなあ。特に──が解決された後の二人のセリフには転げ回って笑ってしまった。
とにかくこれは面白い。ジェットコースター・ノベルとでも言うか、ハラハラさせてくれて笑わせてくれて、読み終わった後にはスッキリした爽快な読後感が残る。うん、これはお薦め! 今年のかなり上位に食い込む作品であることは間違いない。これまでの「恩田陸」の作品の雰囲気が好きだった人は「えっ」と思うかもしれないが、読んで損はないぞ。いや、読まないと損だぞ。いやぁ、面白かったあ。
(01.9.6) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
書評リストに戻る