激突カンフーファイター・清水良英(富士見ファンタジア文庫)
深夜の大阪、梅田駅。おかっぱ頭の少女を襲う謎の怪人に、刑事滝沢の命は風前の灯。しかしそこに、正義の味方カンフーファイターがやってきた! 頑張れカンフーファイター、負けるなカンフーファイター!
「フフフ、あと数秒でワタシのこの乙女のやわ肌は強靭な肉体へと変化するのよぉ。
いたれりつくせり夏木マリ、って……。なんか語呂がいいだけに、頭から離れないんですけど(泣)。どうしてこんなものを新人賞に応募しようと思ったのかも謎だが、「何だかワケのわからない勢いに押されて」受賞させてしまった審査員も審査員である。そしてそれを読んで笑い転げているあたしもあたしだ。
鬼のすべて・鯨統一郎(文藝春秋)
公園のカラクリ時計の中から、人間の頭部が発見された。その頭部は、ちょうど角のように見える時計の部品と重なって、まるで鬼に見立てられているかのようだった。発見したのは、被害者の友人で刑事のみさと。彼女は友人の仇をとると心に誓うが、間もなく捜査本部に《鬼》から犯行声明が届き……。
ホラーは苦手……なのだけれども、これはちょっとゾクリとする中にも暖かみのある話が多く、読んでいて気持ちよかった。女性向きの、ソフトな怖さと暖かな読後感といったところか。気持ちいいホラーって、意外と珍しいよね。
異形家の食卓・田中啓文(集英社)
帯に書かれた筒井康隆氏の推薦文に曰く「この本は食卓で読むべきものである」──ええ、信じたあたしがバカだったわよ! いやああああああ、気持ち悪い〜〜〜〜! 全編、ぐちょぐちょのうねうねのどろどろなのよお〜〜〜〜〜!(泣)。
お薦めマークをつけたワケは、個々の作品の評価以前にこのアンソロジーの意義に賛同してのもの。昨今《ミステリ》の幅がどんどん広くなっていて、この種のアンソロジーの代表格とも言える推理小説年鑑(「2001ザ・ベストミステリーズ」のシリーズね)にも、SFやホラーとのボーダー作品や、謎解きよりもサスペンスに主眼を置いたものなのが多く収録される傾向にある。そんな中で、「基本に戻れ」とばかりに、本格ミステリだけのアンソロジーを編む──それも年鑑の形で毎年出すとなれば、これはもう諸手を挙げて歓迎するに決まってるってもんだ。
祖母の葬儀と友人の結婚式が重なり、三十年ぶりに小学校時代の旧友と再会した主人公。小学生時代の思い出話に花が咲くが、三年生の時の担任が殺人事件の犠牲になっていたことを思いだし、《記憶》を頼りの犯人探しが始まる……。
異邦人〜Fusion・西澤保彦(集英社)
久しぶりに実家に帰ろうと飛行機に乗った主人公。ところが郷里の空港に着いてみると、なぜか1977年の夏にタイムスリップしていた。戸惑う主人公(当たり前だ)。そして主人公は思い出すのだ。1977年8月──今から4日後に、父は誰かに殺されたということを。
風精の棲む場所・柴田よしき(原書房)
教師を辞めてミステリ作家となった浅間寺竜之介は、読者という女子高生からメールを貰って、愛犬サスケと共に彼女の住む村へやって来た。ところがその村には地図に載っていない。騙されたのではないかと危ぶむ浅間寺だが……。
饗宴〜ソクラテス最後の事件・柳広司(原書房)
古代ギリシャで起こった様々な事件を、ソクラテスが解きあかす。日常の謎から、猟奇的なバラバラ殺人まで、アテナイに於ける不吉な事件はカルト教団ピュタゴラスの仕業なのか?
森助教授は、毎回の講義の度に学生たちに《質問》を提出させている。そしてそれらをワープロ打ちし、答を書き入れて次の講義の時に配布する。それを長年続けており、その《質問》が学生の成績をつける時の対象になるのだそうだ。一度のテストやレポートで成績を決めるより、よほど手間と時間のかかる方法である。
……と、書いてはみたものの。本編の眼目はそんなところではない。この恐るべき小説の試みは、ギャグは続くよどこまでもというところにあるのだ。全編これギャグ。ストーリーもあるにはあるのだが、もうそんなものはどうでもいい。(いいのか?)
その上、そのギャグが何だか妙にマニアックなのである。富士見ファンタジア文庫と言えば、当然ティーンズノベルである。若年層が対象である。それなのにギャグの中には、ピーターだの左卜全だのメイ牛山だの、固定相場で1ドル360円だの、「おいおい今の十代にこれは分からないだろう」というギャグが目白押しなのだ。いや、もちろん若向けのもあるんですけど。……多分。ひとつだけ紹介しよう。
攻撃力、防御力、回避率、体脂肪率ともにUP! まさに、いたれりつくせり夏木マリ」
とにかく、読み通すのに体力のいる一冊。読んでる最中も、読み終わってからも、「何じゃこりゃケケケケケ」とどこかが緩んでしまった感覚につきまとわれる。決して万人には薦めない。ええ、薦めませんとも。でも、でもね。ものすご〜〜〜〜く狭い、ごく一部の層にはとっても喜んで頂ける本だと思うの(笑)。
ということで、マニアックでチャレンジャーなあなたにだけ
だ!
(01.10.22) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
日本の歴史に於ける《鬼》とは何なのか、その起源はどこにあるのかの考察については、実に面白い。こういう「とんでも系」(失礼)の歴史考察というのはエンターテインメントと割り切って読むと実に面白く、時として「これ、もしかしたら強ちフィクションじゃないかも」とすら思わせる説得力すらあるのだ。《鬼》に関しては他にも民俗学や歴史をテーマにしたミステリで蘊蓄が述べられた例があるが、この本で論じられている《鬼の起源》は、それが辛く切ないものであるだけに、強烈なインパクトがある。この説を読むだけでも、価値があるってほど。
ただ、いかんせん、現実の事件とのリンクがどうにも弱い気がしてならない。確かに、最終的には「なるほど、そこで結びつくのね」と納得はさせてくれるのだけれども。ミステリとしては、無関係に見える被害者を繋ぐミッシング・リンクものなのだが、その肝心のリンクが「そんなこと、いきなり言われても」というくらい伏線が弱い。だから、カタルシスが薄いのである。
それと、これはあたしの個人的な好みの問題なのだが、キャラクターにどうにも感情移入できないのだ。好きになれない、というか。主人公のみさとは感情や私情が先に立つタイプで読んでて疲れるし、その他にも「あ、これ魅力的だな」と思えるキャラがいないのである。これはなかなかに辛かった。キャラが立ってないとか人間が描けてないとかではなく、ただ、描かれている人間が、どうにも好きになれなかった次第。
《鬼の起源論》が素晴らしく面白かっただけに、ミステリの弱さとキャラの好みが合わなかったのが実に残念。
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声を聞かせて・真崎かや(エニックス)
【声を聞かせて】合コンであった「みゆき」から電話が……。だんだん、だんだん怖くなる。ありがちなストーカー話かと思ったら、ラストの展開にはビックリ!
【偽りのイヴ】彼にプロポーズされた私。だけど応えられない。だって……。これ好き! これイチオシ! すっごくいい話だもの。これだけでも読もう。「怖いかと思ってたら」という、いい意味での逆転が実に気持ちいい。バカキャラに見えた女の子も、最後にはいい味出してるし。
【君と手をつないで】学校からの帰り道、高橋は私の目の前でホームに落ち、電車にひかれた。その直前、彼は私に何かを問いかけたのだが、聞き取れず……。これも好き。ジュブナイルが向いてそうだよ、この著者。死んだ相手が「恋人」や「片想いの彼」ではなく、「周囲からは恋人同士だt思われてるけど、本当はただの友だちで、でも周囲の勘違いを本人はちょっといい気持ちで楽しんでいる」という微妙にしてリアルな相手だというのが、また絶妙。
【道を逝く人】僕には「明日死ぬひと」が分かる──そんな僕が一目惚れした「明日死ぬひと」。僕はなんとか彼女を助けたいのだが……ああ、ラストが切ないっ。
【夢の行く末】斬首される夢を見る私。これ、こういう方向に持っていかずとも、その前でハッピーエンドにして欲しかったなあ──というのはキャラに感情移入しいている読者のワガママですかやっぱり。
その他、【眠れぬ森の魔女】【花の命】【愛しのトーキングベア】を収録。
(01.10.23) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
だがしかし。ふっふっふ。あたしの好きな田中啓文テイストがあちこちに入っていて、そこにさしかかると途端にゴキゲンになってしまった大矢である。あたしの好きな田中啓文テイスト──わかりますね? つまりは、【脱力系ダジャレ落ち】である。
【にこやかな男】【新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー。キウイソース掛け】の、何ともビジュアルな気持ち悪さにフラフラしながら、次の【異形家の食卓1 大根】を読み終わった時の「来たあ!」という爽快感(?)と言ったら! このしょーもなさをあたしは待っていたんですッ。読者として何か間違ってますかあたし。
そこからはもう、【オヤジノウミ】の字面そのまんまの話、【邦夫のことを】の、思わず逆立ちして三べん回ってワンと言いたくなるようなオチ、【異形家の食卓2 試食品】の仰け反るようなオチ、【怪獣ジウス】の膝を打つ快感、そして【異形家の食卓3 げてもの】では、思わず「ばんざーい、ばんざーい、ばんざーい」と……(笑)。
もしかしたら、【にこやかな男】【新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー。キウイソース掛け】【三人】【俊一と俊二】【塵泉の王】にも、あたしが気づかないだけでそういう仕掛けがあったのかもしれないけれど。
いずれにせよ【脱力系ダジャレ落ち】を作者に求め続けるあたしの姿勢にも問題はあろうかと思うが(笑)、同じタイプの読者はきっと気にいる短編集です。でも食前食後はやめた方がいいと思うけど。
(01.10.23) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
本格ミステリ01・本格ミステリ作家クラブ(編)(講談社ノベルス)
もちろん、個々の作品には好みのものもそうでないのもあるし、やはりSFとのボーダー作品や時代物も入っているわけだが、あくまでも謎解きを主眼とした本格ミステリばかりであることは論をまたない。こういうの、待ってたのよね。おまけに評論や本格ミステリ作家クラブの情報もあったり、それぞれの収録作には著者の一言がついてたりして、《年鑑》としての意義も充分に達成されている。
【紅雨荘殺人事件】有栖川有栖:火村&アリスシリーズ。逆転の方法論が快感。
【四角い悪夢】太田忠司:「ベネチアングラスの謎」参照。底本の中で一番好きな作品!
【子供部屋のアリス】加納朋子:「螺旋階段のアリス」参照。この謎解きは鮮やか。
【邪宗仏】北森鴻:「凶笑面」参照。「不帰屋」の方が好きなんだけど、これもいいなあ。
【人知らざることを患う】鯨統一郎:キャラについていけない(;_;)。作品のせいじゃなく読み方と好みの問題。
【正太郎と井戸端会議の冒険】柴田よしき:イチオシ! 最初は冗漫に思えたが、最後は息が止まった。
【エッシャー世界】柄刀一:三月宇佐見のシリーズ。絵を想像するのがタイヘンだが、この謎解きには大喝采。
【黒の貴婦人】西澤保彦:匠千暁シリーズ。これ、結局謎の正解が出ないあたり……。
【中国蝸牛の謎】法月綸太郎:「2001ザ・ベストミステリーズ」参照。中国蝸牛の別の読み方に笑う。
【透明人間】はやみねかおる:虹北商店街シリーズ。ジュブナイル作家らしく、キレイで可愛いオチ。
【オリエント急行十五時四十分の謎】松尾由美:「バルーンタウンの手品師」参照。底本の中で一番好きな作品!
【龍の遺跡と黄金の夏】三雲岳斗:SFとのボーダーであるだけじゃなく、ティーンズノベルとの融合も。
その他、評論は小森健太朗・円城都司昭・鷹城宏の各紙。
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夏の夜会・西澤保彦(カッパノベルス)
とにかくキーワードは《記憶》である。何しろ三十年も前のこと、きっちり覚えている筈がない。忘れていたこと、思い違いをしていたことなどが、当時の同級生達による《酒席での雑談推理》というタック&ボアンのような趣向で、どんどん浮彫になっていく。会話だけで構成された話であるにも関わらず、物語の求心力はすさまじい。ページをめくる手が止まらないのだ。そして次々と現れる《真相》に、ええっ!と声を上げてしまうこともしばしば。《記憶》という捉え所のない物体を相手に、ここまでの推理劇を構築してしまう手腕は、やっぱさすがだなあ。
ただ、どうしても言いたい。いくら何でもこんなこと忘れますか普通。
いや、あたしも主人公とあまり変わらない年齢ではあるけれど、そして確かに小学校時代の記憶なんて殆どと言っていいほど残っていないけれど、それにしたって、これほどの事があれば何か覚えてるもんじゃなかろか。例えそれが別の形に歪められて覚えていたとしても、こうも見事に《なかったこと》になってしまうもんだろうか。その一点がどうにもひっかかって。
無論、物語の冒頭で、人間の記憶がいかにあやふやかということは力説されているし、何故彼らが忘れてしまったかの説明はなされているのだけれど、そしてそれらは十分賛同できる話ではあるのだけれど、それにしたってここまでの事件だったら──忘れていたにしろ、もっと早い段階の刺戟で思い出しそうなもんだけどなあ。
そこさえスンナリ受け入れてしまえば、これは確かにかなり面白い趣向であり、事実面白い物語である。お薦め。
(01.10.26) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
過去にタイムスリップしたことによって、その時に起こった事件を防ごう或いは真相を確かめようというのは、「七回死んだ男」を彷彿とさせるのだが、あれとは趣を異にしている。前半は主人公とその家族の話、そしていきなり過去へ飛んでしまった主人公の戸惑いが中心。そして中程で、当時の姉の恋人と出逢い、状況を理解して貰った上に《父の事件》の真相を看破されるという趣向。う〜ん、謎解きというよりも、大人向けロマンチックSFって感じだなあ。
ミステリだ何だよりは、タイムスリップと父親の事件という二大要素をベースにした、恋愛小説のような気持ちで読んだ。本当はイトコである姉への思慕、自らの性癖について家族と真っ向から戦う姉、そしてその姉の恋人の現在と未来。自分でも持て余してしまう《恋愛感情》と、どう折り合いをつけて生きていくのかという問題。《恋愛感情》のために、人間はある生き方を選択してしまうという事実。
ミステリ的側面に立って言えば、物語の中枢に位置する事件の《過去での真相》が解明されないままだったりして、そこが不満と言えば不満か。それに、《修正された未来》が、(あれはあれでキレイなハッピーエンドなのだけれど)何だか唐突で、「ねえ、だったらこの主人公は、人生の楽しい出来事を経験できてないってことにならない?」と妙な心配をしてしまった。思い出してはいるみたいで、ということは実際には「経験した」ということなんだろうけれど。いくらハッピーエンドでも、結末だけ与えられる人生なんてつまんないもんね。
(01.10.26) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
浅間寺竜之介&サスケのシリーズは大好きなのよね。特に今回は「地図にない村」というのが何とも魅力的。おまけに、その村が何となく昭和中期を思わせるような昔の田舎だったりした日にゃあ、物語としては《ありがち》かもしれないけれど、やはり、良い、のである。
地図にない村に伝わる風習や踊り──こういう題材が本格推理で使われると、横溝ばりのオドロオドロしさを連想してしまうのだけれど、この村はまた随分と長閑でノンビリホンワカで、そこがまたいい。 肝心要の踊りの描写が、文章だけでハッキリと読者に分からせるのは至難の技だと思うが、ストーリーテリングの女王・柴田氏だけの事はある。あんなビジュアルな情報を文字できっちり伝えるんだもんなあ。すごいや。それも説明一辺倒ではなく、主人公と一緒に舞台を見ているような気にさせるんだから、ホントにすごい。
謎解きもキレイで、動機も切なくて、エンディングも(ありがちと言えばありがちなんだけれど)最も相応しい終わり方で、これは好み。ただ、カバー折り返しの《狂おしいまでの哀惜を封じ込めた長編本格ミステリ》というのは大袈裟過ぎるような(笑)。色々と想像しちゃったから拍子抜けしちまったい。いや、切ないのは事実なんだが、「狂おしいまでの哀惜」と言うにはアッサリしていて、感情移入しそびれてしまうのだ。個人的にはもうちょっと書き込んだり事件を続けたりして長い話にするか、或いはいっそ細かいところをスッパリ落として短編にするかした方が、スッキリすると思った。どうにも、物語と枚数が釣り合っていないような中途半端な感じを受けたのだけれど。
(01.10.27) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
ギリシア哲学だのソクラテスだのクリトンだのというラインナップを見ただけで、縁のない世界だとか基礎知識がないから分からないだとかの印象を持つ人もいるかもしれないが、そんな心配はまったくない。親切な解説と魅力的なキャラクターで何の抵抗もなく物語世界へ入っていける。もともと、この著者はかなりのストーリーテラーなんだろうなという感じ。
全編を貫く、猟奇的なバラバラ事件。その背後にいるのではと噂される教団ピュタゴラスの不穏な影。それらを太い縦糸にし、細かい《日常の謎》的謎解きを横糸にして織りあげた、とても端正な本格ミステリである。どちらの謎も「ああ、なるほどそうか!」「これが伏線だったのか!」と膝を打ち臍を噛む繰り返し。本格ミステリの醍醐味ここにあり、である。また、そのベースとなるアテナイの哲学が、全編にえも言われぬ理性的な雰囲気を与えていて、これがいいんだなあ。
とにかく、端正にしてエレガントな本格推理。ただ、その分、どうしてもインパクトには欠ける。のけぞるような驚愕の真相や、盛り上がりというものがないのだ。いや、真相は確かに驚愕するし「おおっ!」と思うのだが、どうにも淡々と謎解きされてしまって、ドラマチックな盛り上がりに欠けるのである。
ドラマ性や盛り上がり、ドキドキ感などよりも、知的ゲームに興じるのが好きという向きには、気に入って頂けるのではなかろうか。あたしは結構好きだな、このエレガントな雰囲気は。
(01.10.29) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
臨機応答・変問自在・森博嗣(集英社新書)
この本は、長年に渡って溜まった学生からの《質問》と森助教授の《答》を集めたものである。もちろん全てではない。編集部が読んで面白いと思ったものだけをピックアップしているという。というからには、当然そこには《読み物として面白い》というバイアス(バイアスという言葉が悪ければフィルタ)がかかっているということになるから、そこには留意して読まなくてはならないが。
内容は、専門分野である建築やコンクリートについてのQ&Aだけではなく人生や生活での疑問や相談、森助教授への質問など幅広い。しかし、素直に訊ねて素直に答が返って来ると思ったら大間違いだ。森助教授の目的はあくまでも「答は自分で見つけねば、自分で考えねば意味がない」である。だから答を、スカす。或いは問い返す。と思っていたら真っ直ぐ答えたりもして、まったく油断ができない。
これを読むと、自分には馴染みのなかった(或いは自分はやろうと思わなかった)思考の方向性というのが勉強できてなかなか興味深い。あたしはやっぱり、森氏の描く謎解きミステリや萌絵ちゃんれんちゃんなどのキャラよりも(つまりは小説よりも)、こういう、自分の脳味噌のあまり使ってない部分を刺激してくれるエッセイや日記の方が好きなんだなというのがよく分かる。「森ミステリィ」の、トリックやキャラよりも、文章や小ネタの方が好きという人はきっと気にいる。
ただ、ちょっと間違った(?)読み方をすると、妙な影響を受けそうな気がするなあ。例えば日常会話の中で、この森助教授の受け答えを真似ようとするお調子者のワカモノが出そうな気がするぞ。それはやめておいた方がいいと思うよ(笑)。
尚、これだけはツッコミたかったのだが、32ページの2番目の質問について。「負けずぎらい」の「負けず」は「負けない」という意味ではなくて、意志を表す「負けむとす」が、「負けむず」→「負けず」と変化したもので、つまりは「自ら負けようとするのが嫌い」の意味なのよん。ってゆ〜か、そういう国語の問題を建築の教官に質問する学生もどうかと思うが。
(01.10.29) 《この本の詳細情報&注文画面へ》
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