お厚いのがお好き?

2001年11月に読んだ新刊雑感文

マリオネット症候群・乾くるみ(徳間デュアル文庫)

 私、御子柴里美、高校一年生。ある日、夜中に突然目が覚めた。でも、自分で自分の体が動かせない。それなのに体は勝手に動いて……誰かが私に乗り移ってしまったみたい。私は意識だけの存在になっちゃったの? でも、乗り移った方の人も、自分がいきなり見知らぬ他人になっちゃったことに驚いてるみたい。えっ、私の体を動かしてるのって、ずっと私が片想いしていた森川先輩なの?!
 いやあ、これぞヤングアダルト、だわ(笑)。サクサク読めるし、ストーリーテリングが巧いから思わず引き込まれてしまう。女子高校生の一人称というのも、全然違和感ないし。やっぱ《書ける人》なのだよなあ。
 本人の知らない内にという状況も、戸惑いながらも対処する若い女の子の一人称というのも、読み始めてすぐに(反転)「あたしの中の……」(新井素子)を思い出してしまったため、設定自体に対する新鮮味はあまりなかったのだけれど、それでも話運びと語り口調が上手なら、いくらでも読ませることができるんだなという好例。いきなり下級生の女になった森川先輩がどう対処していくかという乗り切り方だけでも、読んでて楽しい。いやー、しかし17、8の男がいきなり女になったら、もっと具体的に色々なことをしてみるんじゃなかろか(笑)。ま、徳間デュアル文庫じゃ書けないわな。
 ストーリー展開も、やはりヤングアダルト向けということで、かなり親切。森川先輩がどうして乗り移ったのかなんて、ある箇所を時点で「あ、これが何か関係してくるのね」というのがすぐにピンとくるように分かりやすく書いてあるし、マキについての処理も、幼い頃に死んだ妹にしても、予想を裏切らないように進めてくれる。ただ一点だけ、えええええっっ!と驚いてしまったのは、(反転)ママはパパだった←言葉にするとスゴいなあ(笑)、という点よ。いや、これにはマイリマシタ。もう、これだけで、この話は充分ってくらいだ。
 ラストは(反転)他の人の意識がどんどん増えていって、それが共存するってのは、やはり「あたしの中の……」を思い出してしまったので、それが少々残念かな。いや、無論、ベースも料理の仕方も異なるんだけど、あたし個人の中での分類としての話ですよ。もちろん、この話のエンディングとしては余韻があってこれがベストでしょ。 (01.11.14)
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坊ちゃん忍者幕末見聞録・奥泉光(中央公論新社)

 時は幕末。庄内藩で忍者の修行をしていた松吉は、村の金持ちの息子・寅太郎が江戸へ遊学するにあたり、監視役ということで一緒に江戸へ向かうことになった。江戸につけば自分のやりたかった医学の勉強ができるので引き受けたのだが、出発してみると、寅太郎は江戸ではなく京都に向かうという。尊皇攘夷の風が吹く中、時代は江戸ではなく京都だ、自分も攘夷軍に入るのだという寅太郎に、とりあえず松吉はついていくのだが……。
 読み始めて、初っぱなで爆笑した。いきなり、漱石「坊ちゃん」のパロディである。この話は幕末の騒乱を一人の田舎者の目から見た見聞録であって、もともとの「坊ちゃん」の設定やストーリーに通じるものは皆無と言ってもいいくらいなのだが、この冒頭を読めば紛れもなく「坊ちゃん」だということが分かる。とにかく本屋で最初の2〜3ページだけ立ち読みしてみて下さい。ホントに「坊ちゃん」だから。最初の一文から、いきなり「坊ちゃん」だから。あ〜、おかしかった。
 気を取り直して読み進めば、話自体はホントに《田舎者の幕末見聞録》で、朴訥な青年が京都に初めてやってきて、新選組だの長州藩だのを、時には外から眺め、時には何故か巻き込まれ、時代は動き、仲間は動き、京都は動く。それをコメディタッチで爽やかに且つ痛快に描いた物語である。
 しかし、最初から最後まで漱石の、いや、「坊ちゃん」の文体模写なのだ。この著者の
「『吾輩は猫である』殺人事件」も、最初から最後まで「吾輩は猫である」の文体模写で通していたが、あちらは本家の「猫」をそのまま登場させている。つまり、本家の後日談という形をとっているから分かりやすい。しかし、こちらはまるで別の物語である。場所も時代も人物も、本家「坊ちゃん」とは全く別なのだ。しかし、読んでいると「坊ちゃん」そのものの香りがする。文体模写の芸とは即ち、こういうことなのだ。巧いなあ。
 しかし「『吾輩は猫である』殺人事件」もそうだったが、この著者のこの漱石シリーズ(?)、どうして終盤になるといきなりSFになるんだ? いや、いいんですけど。個人的な好みからいうと、SFテイスト抜きでそのまま終わらせて欲しかったなあ。 (01.11.15) 《この本の詳細情報&注文画面へ》  

邪魔・奥田英朗(講談社)

 刑事の久野は、上司の命令で同僚を探っている最中、オヤジ狩りに遭う。オヤジ狩りは簡単にあしらえたが、その騒ぎのせいで内偵中の同僚に見つかってしまった。一方、及川恭子は平凡な家庭の主婦だが、ある日、夫が宿直中に火災に巻き込まれ……「最悪」を彷彿とさせる、複数の人々の運命が偶然絡み合い、追い込まれていく様を描いたクライムノベル。
 一言で言うと、

こんな辛すぎる結末は嫌だあああ〜〜〜っ!
 に尽きる。とにかく最初から最後まで、目を背けたくなるようなリアリティなのよ。出て来る人出て来る人がどれも、これをしちゃあイケナイ、これをしたら終わりだと分かっているにも関わらず、そうせざるを得ない状況に追い込まれていく。一つ一つは小さなことの積み重ねなのに、それがある日、破綻を呼ぶ。どこで間違ってしまったのか、何がきっかけだったのか分からないまま、ただストレスと怒りだけが溜まっていく。
 ああ、辛い。本当に辛い。ここに描かれているのは決して特別なケースでもなく、あたしだって、あなただって、ちょっとしたきっかけさえあれば陥ってしまうような状況なのだ。他人事ではない。そして自分が被害者になることも加害者になることも有り得るのである。いや、こうしている今も、もしかしたら何かの加害者になっているのかもしれない。
 おまけに、救いがない。もう嫌だ、こんな辛い物語は読みたくないと思いながら、でも圧倒的な筆力の前にページをめくる手が止まらず、きっと最後には希望があるわと思いつつ読んだのに、最後まで読んでもまったく救いがなかった(泣)。読後、2時間くらい、どよ〜〜〜〜んとした気持ちが続いてしまったじゃないかあっ。ああ、ホントに辛い。辛くて、胸が痛くて、目を背けたくて、でも目を背けたままじゃあいけない、そんな話。ホントに救いのない話だけど、だからこそ、加害者にならないためにも、お薦めマークだ。 (01.11.16) 《この本の詳細情報&注文画面へ》  

夜陰譚・菅浩江(光文社)

 あたし、怖い話、ダメなんです。怖い話にも色々──例えば幽霊の話だとか、どろどろぐちゃぐちゃのスプラッタだとか色々あるけれど、一番ダメなのが『身近なコンプレックスに端を発した女の醜い面が浮彫になるサイコなホラー』なんです……(泣)。「みんな、もっと明るく生きようよっ、とりあえず美味しいモノでも食べに行こうよっ」と叫びたくなるのだ。そんな、こわ〜いサイコな女たちの話がミッシリ詰まった短編集。
 苦手と言っても、これが対して芸のないありがちなホラーなら読まずに済ませられるのに、スガヒロエの手にかかると、やはり読まされてしまうから困るのだ。ぐいっと引き込まれて、読まされて、「いやああああ、こういうのダメえええっ」と泣いてるんだから世話はない。物語世界にどっぷり浸かってしまって、気持ちよくたゆたって、それで「いやああああ、こういうのダメええええっ」と喚いてるんだからバカである。あ、もちろん、そんな女の嫌な部分が前面に出た作品ばかりじゃないので念のため。
【夜陰譚】デブの自分を他のものに変えたい女。う〜ん、世を儚む前にやることがありそうな。
【つぐない】あああ、あたしが一番怖いタイプの話(泣)。大丈夫、裁判では勝てるから殺してやれ。
【蟷螂の月】姉との関係を幻想的に昇華した詩編のような物語。
【贈り物】一見コミカルなファンタジーっぽくも見えるけど、かなり怖い。
【和服継承】和服に巣くうエロチシズムってのはまた、独特だよねえ。これは好き。
【白い手】怖いの何のより、女ってのはどうしてこうも業が深いのか(泣)
【桜湯道成寺】あ、これも好き。老人の一人語りなんだけれど、昔の舞台の情景がすーっと絵に浮かぶ。
【雪音】自らの行動を是としかできない女の、悲しい末路。だからこういうのダメだって(泣)。
【美人湯】他人をブスというヤツは単なるバカだが、自分をブスと言うのは自分への罪だと思う。
(01.11.17)
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上と外・恩田陸(幻冬舎文庫)

 注・各巻の感想にその巻のネタバレはありませんが、それより前の巻の内容に触れています。

  1巻 素晴らしき休日

 男子中学生の練は、両親の離婚に伴い父親に引き取られた。しかし父親は海外での仕事のため、練は祖父の家に預けられている。さて、毎年の恒例行事として、別れた母親・妹と一緒に、練は中米にいる父の元へ旅行するのだが、今年はその旅先で何とクーデターに巻き込まれ……。
 まずは登場人物紹介と設定説明に枚数が割かれているのだが、それが全然説明っぽくなくて、ちゃんと物語の中で人となりが読者に伝わるのはサスガである。主人公の練は、中学生の割に一歩引いたようなクールな賢さが際だつ少年。小学生の妹・千華子は《絶対に美人になる》と約束されたような中性的な容姿に恵まれた、勝ち気で賢い少女。思慮深い父親・賢に、母であるより女であるという母親・千鶴子。ということで、イカニモっ!というようなキャラの揃った一家の冒険が始まる。最初は冗漫に思えた部分もあったけど、1巻のラストはとてつもなく映像的で後を引くぞお。

  2巻 緑の底

 ヘリコプタからジャングルの中に落ちた練と千華子(なんて書いたら、1巻の感想でネタバレしないように気を付けた意味がないじゃないか)が、如何に生き抜くかが眼目の一冊。いやあ、下手な人が書くと単なるアウトドア豆知識のようになってしまいかねない(笑)ところなんだけれど、巧いなあ。子供二人の知恵に拍手しながら、時にはハラハラしながらページをめくる。熱帯雨林の中で子供が二人、実際にはなかなかこうはいかないわけで、恐怖やパニックをきちんと描いてくれているのはサスガである。
 一方、クーデター勃発を聞いて心配する日本の祖父の家でも、息子一家を助けるべく動き出す。これがまた、魅力的な家族なんだよねえ。話の中心はG国のジャングルなんだが、もっと日本の様子を読みたくなってしまった。

  3巻 神々と死者の迷宮(上)

 ジャングルの中で練と千華が発見したのは、妙な人工建造物。しかしそしてそこには、何かがいる?! 一方、クーデターに巻き込まれ拘束されていた両親も行動を起こす。監禁場所から脱出して、子供たちを探すつもりなのだ。果たして巧くいくのか、そして日本での捜索の首尾は?
 なんだか次第にオカルトっぽくなって来たぞ(笑)。いや、違うな。オカルトなのか冒険小説なのか、ちょっと方向性が掴めなくなってきた感がある。今回はもちろん、練と千華子の上に起こった劇的な事件が話の中枢になるわけだけど、あたしは個人的に両親の動向の方に興味を惹かれた。自らの再婚のために娘に向かって言ってはならないことを言ってしまった千鶴子が、この突発自体にどう自分を変えていくのかがとても興味深い。今は後悔の念に沈んでいるが、きっと沈みっぱなしではない筈だぞ。

  4巻 神々と死者の迷宮(下)

 千華子を人質に取られた練は、地下通路の中にいた少年達のリーダー・ニコの要求を受けざるを得ない。《成人式》に参加して、王と戦うのだ。脱落すれば千華子の命はない……。練は持てる体力と知恵を振り絞る。
 一気に物語の方向性が変わったようにも見える第4巻。2巻までは家族の問題を中枢に据えた物語のようで、3巻では妙にオカルトめいた書かれ方をしていたが、ここからは俄然《少年小説》っぽくなって来る。なんだかNHKの少年向けSFドラマシリーズのノリとでも言うか(あ、これホントにあのシリーズでドラマ化すると合いそうだぞ)。それにしても、ニコのキャラが掴めない。もちろん掴めないように書いてるわけだけれど。これから何がどう分かってくるのか、かなり楽しみ。あ、日本での進展はなかなかに爽快。こっちをもっと書いてくれえっ。

  5巻 楔が抜ける時

 想像以上にハードな《成人式》。ズルをしようにもニコの目はごまかされない。少しでも気を抜けば、そこには死が待っているという過酷な状態。しかし《王》の様子がおかしい……? 一方、両親は子供を捜すべくヘリコプターでジャングル上空を飛ぶが……。
 う〜ん、《成人式》の展開は、これはいったい何なんだろう。次々と事件が起きるのはいいんだけれど、そもそも何のためにやってるのかが分からないから、これでいいのか間違ってないのか、読者としても判断のしようがないぞ。クーデターとの関係も分からないし、何かひとつくらいそろそろ謎解きしてくれても。いや、そもそも普通の冒険小説なのかSFなのかの判断もつかなくなってきたし(笑)。お母さんは期待通りキッチリ立ち直ってくれて拍手。っつ〜か、立ち直り過ぎだって。

  6巻 みんなの国

 突如起こった大地震、そして火山が噴火! 地下通路は揺れ、そして崩れる。練たち十二人の少年はピラミッドをめざし、千華子はジャングルに取り残され、そして……。
 うわあ。最後にこんなクライマックスが準備されてるとは! 実に映像的なんだよなあ。パニックや恐怖やストレスがどんどんどんどん増して行って、読者の方も主人公ももう限界、というところにきて、どっか〜〜ん!である。両親と千華子が再会できるかどうかのシーンなんて、手に汗握っちゃった。日本に戻った時の、練と祖父の再会シーンでは目頭が熱くなったり。
 が、どうにも釈然としないところが多々あるんだよねえ。結局、あの《成人式》ってのは、どういう位置づけだったのかなあ。それに《電子国家》というのがマヤの地とどう結びつくのかも分からないし、クーデターを起こした側の成り立ちのようなものも、今ひとつ……。いったいどういう事だったのか背後に何があったのか、さあここからそれが分かるんだと思った矢先に「ここから先、あまり語るべきことはない」なんて書かれちゃって(笑)、なんだかちょっとスッキリしないのだが。
(01.11.18)
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