金もなくなり、ついに職場の金と車をかっぱらって逃げてしまったチンピラ。自殺する勇気もなく、いじいじと悩んでいたところに、偶然出会った金持ちの子供。そうだ、こいつを誘拐しよう! ──ところがこの子供、暴力団組長の一人息子だったからさぁタイヘン。お人好しで間抜けな犯人、生意気だけど可愛い子供、そして「すわ抗争か?」と色めき立つ任侠の男達が演じる、痛快コメディ。
ぼくらのなまえはぐりとぐら〜絵本「ぐりとぐら」のすべて・母の友編集部(福音館書店)
「ぼくらのなまえは ぐりとぐら このよでいちばん すきなのは おりょうりすること たべること ぐり ぐら ぐり ぐら」……ああああ、懐かしいよお。絵本と言えば「ぐりとぐら」。この二匹のネズミの洗礼を受けて大人になった人の、なんと多いことか。そして今は、その世代が親となって子供に読み聞かせているのだ。ぼくらのなまえは ぐりとぐら……
偶然再会した、高校時代の憧れの先輩。しかし先輩はAV女優になっていた。そして僕はポルノビデオの製作会社のスタッフとしての再会である。ところが、しばらくしてその先輩──柏木美南が失踪した。巻き込まれるようにして彼女の行方を探し始めた僕。ところが、彼女の失踪直後から、昔、彼女を虐めたとされる人物が次々に殺されるという事件が起こり……。横溝正史賞受賞作家が三策目にして出した本格ミステリ。
サンタのおばさん・東野圭吾&杉田比呂美(文藝春秋)
「片想い」の中に、ちょっとだけ小道具として出てきた絵本が、ホンモノになって出版された。東野圭吾、初の絵本である。
12月24日から25日にかけて。十人の女性が、それぞれの思いで迎えるクリスマス。彼とは別れて、バイトに精を出す学生。仕事を終えて、酔っぱらってクダを巻く二人のOL。「今夜はどうするの?」というランチの話題から逃げ出したOL。塾に通う小学生。そんなところに現れるぶたぶたは、赤い帽子に白い袋を持っている……。
R.P.G.・宮部みゆき(集英社文庫)
建設現場で死体で見つかった男性は、中堅食品会社の社員であり、妻と娘を持つ普通の男性だった。ところが、彼のパソコンを調べると、どうやら彼はインターネット上に現実とは別の《疑似家族》を作っていたことが分かり──。刑事の中本は、ある《作戦》を考えついた。
存在の果てしなき幻・司城志朗(カッパノベルス)
娘が事故に遭ったという連絡を受けて、病院に向かった「私」。しかしそこには妻も娘も居なかった。自宅に帰って見ると、なぜか冷蔵庫にパンツが冷やされていたり子供銀行の札束が積み上げられていたり。身に覚えのない借金取りが来たり、妻の書き置きがあったり、そして──私財を擲って立ち上げた会社も消えていた。何が起こったのだ? 妻は、娘は、そして会社はどこへ行ったのだ?
エンドウと平和・ジル・チャーチル(創元推理文庫)
お馴染み町内会主婦探偵シリーズの第8段。今回、ジェーンとシェリィはボランティアで豆博物館のお手伝い。南北戦争当時の《再現劇》をやることになったのだが、戦いのシーンで豆博物館の館長が本当に射殺されてしまった! 遺産争いやセクハラなど、問題の絶えないこの博物館、ジェーンとシェリィがまたまた大活躍だ。
北陸の古い町、香坂市ではちょっと妙な事件が起きる。幽霊や予知夢、生き霊などなど……そんな事件に駆り出されるのはきまって木崎刑事と吉村刑事のコンビ。超常現象を理詰めで解くのではなく、超常は超常として事件と『共存』する連作短編集である。全体を通して、淡いパステル調のような柔らかい雰囲気に包まれた、気持ちのいい物語。ただ、最後にはぞくりとさせられる。謎解きミステリとして特にお薦めなのは、【横縞町綺譚】と【香爐峰の雪】かな。
もともとは「スパイラル〜推理の絆」というマンガ(水野英多・画)の原作を城平氏が担当しているのだと言う。これはそのシリーズの番外編というか外伝を、小説の形のみで城平氏が著したもの。そのせいで、いきなり表紙がこんなのだし、登場するキャラクターもいかにもマンガである。っつ〜か、ヤングアダルト、もしくはジュブナイルのノリなのかな。いきなり、非情の天才剣士とやらと、探偵役の少年の決闘シーンから始まったりするんだもの(笑)。だもんだから、読み始めた時には「うひゃあ」と叫んで、まるで老眼のように顔から放して読んでたのである。
誘拐ラプソディ・荻原浩(双葉社)
だんだん巧くなるなあ、この人は。浅田次郎描く任侠コメディに近い雰囲気、と言って貰えれば分かるだろうか。計算されつくしたドタバタというのは、その計算が前面に出すぎるとあざとくなるし、まったく計算をカンジさせないと荒っぽいだけになってしまう。そのあたりの「見せ方」が絶妙である。
物語そのものはとてもシンプルで、大枠はパターンとして「こうなるんだろうな」と予想される通りに進む。相手が暴力団とは知らずに身代金をとろうとする犯人、警察には通報せず(あたりまえだ)組の組織を総動員して犯人割りだしに急ぐ組員たち。その駆け引き──互いに相手を誤解したままのかけひきは、なんとも見事に笑いのツボをついて来る。それに犯人と少年の掛け合い漫才のような会話は、思わず噴き出したところも。この漫才も実に緻密に計算されてるんだけど、読んでる時はそんなことを感じさせない。また、ありがちと言えばありがちなんだけど、暴力団の面々ってのがもう絵に描いたようなステレオタイプで(笑)、それがまた分かりやすくて話にノセられてしまうのだ。
エンディングは少々ご都合主義のような気がしないでもないが、これはノワール小説ではなく、あくまでもコメディなのだから、そう考えればご都合主義でもいいかな、と。散々堪能した、犯人と少年の掛け合い漫才がラストで巧く効いて来るのである。ちょっとシンミリできる、気持ちのいい読後感だ。
(01.12.15)《この本の詳細情報&注文画面へ》
この本は、そんな「絵本・ぐりとぐら」にまつわるイロイロを集めた本。著者の 中川李枝子氏と、彼女の妹にして「ぐりとぐら」の画家である山脇百合子氏の対談では、どのようにして「ぐりとぐら」が生まれたのかが明かされる。また、「ぐりとぐら」を読んで育った各界著名人によるエッセイ。「ぐりとぐら」シリーズの紹介や、各国の言葉に訳された文章、絵本に登場した「ぐりとぐら」のファッション一覧──そして何と!──あの「ぐりとぐら」が絵本の中で作った、ふんわりおおきなカステラ、あのカステラのレシピも載っているのだ。カステラだけでなく、シリーズに出てきたいろんな食べ物のレシピが。
また、「ぐりとぐら」になるための、コスチュームの縫い方も載っている(笑)。これはもう、「ぐりとぐら」が好きな子供を持つ親のための本かな、という感じ。そして圧巻は付録のCDだ。収録されてるのは、各国の言葉に訳された「ぐりとぐら」の朗読。そして冒頭にあげた「ぼくらのなまえは ぐりとぐら……」の歌である。もちろんただの詞だから、決まったメロディがあるわけではない。ミッキーマウスマーチで歌ったり金太郎で歌ったりする人が多い中、自作のメロディを持っている読者も多く、そういう読者から募ったメロディを収録しているのである。こりゃもう、「ぐりとぐら」が好きだった人は、必携の書でしょう。
(01.12.15)《この本の詳細情報&注文画面へ》
眩暈を愛して夢を見よ・小川勝己(新潮社)
何というか、本格ミステリ好きにとって「これでもか、これでもか」と言わんばかりにサービスしてくれるような本だ。過去探し、作中作、童謡の見立て殺人、それから──まぁいいや。とにかく、本格好きのツボをぐりぐりされながら読んだ。最初は素直に──だって横溝賞作家だもん──サスペンスメインの話という印象で、おまけに主人公が事件に巻き込まれるきっかけが「マイペースで自己チューな若い女に引っ張られて」という、ありがちこの上ない設定だったために、ちょっと油断していたのだ。その油断が命とり。雲行きが変わったと思った時には、もうすでに術中である。
ただ、何というか──本格のロジックと予定調和を愛している本格ファンには、もしかしたら受け入れられない、かもしれない。簡単に言えば、この真相には好き嫌いがあるのではないか、という印象。あたしは好きだったんだけどね。「謎を解いてやるぞーー」と勢い込んで読むと、肩すかしを食らうかもしれません。
本格としてのテクニカルな面とは別に、もうひとつ圧倒されるのはこの「柏木美南」というキーパーソンの人物造形である。ひとりの人物がどういう人間だったのかを探るというのは、もしかしたらもっと難しくミステリアスな謎なのではないだろうか。美南のあがきや葛藤と言ったものが、一種皮肉とも言えるようなフィルタを通して読者の前に提示される。本格ミステリには不要とされる「人間を描くこと」そのものを謎の中枢に置いたという点でも、あたしはこの佳作を評価しているのである。
(01.12.16)《この本の詳細情報&注文画面へ》(12/22現在品切れ中)
毎年行われるサンタ会議。今年は新入りがいるという。先輩サンタはわくわくしながら新入りを待った。ところが、新人サンタだとして紹介されたのは女性だった! 「女性のサンタなんて聞いたことがない」「サンタが男じゃなくちゃならないというきまりはないぞ」「サンタは父性の象徴なんだから、女性には無理だ」「第一、ヒゲがないじゃないか」──白熱する議論。このサンタ会議では、前にアフリカの黒人サンタを容認するかどうかでモメた経験もあったのだ……。
さすがは「片想い」も副読本(?)である。最後は絵本らしく、キュートにロマンチックに決めてはいるが、中でコミカルに議論される内容はなかなかに問題含み。辛口のテーマを杉田氏のキュートこの上ないイラストが上手にくるんでいる。もちろんそこは絵本だから、あっというまに議論は建設的な方向に進み、みんなで仲良く手を取り合ったりするのだけれど。そこはそれ、「片想い」の中でこの本がどういう位置にあるかを思うと、別の読み方もできたり。
絵本という出版形態と、可愛らしいことこの上ない杉田氏のイラストのせいで「クリスマスプレゼントに!」などという手書きのPOPと共に本屋の店頭にあったりするのだが、ちょっと待て。これを子供にプレゼントしても、読めないし分からないと思うよ。え、テーマそのものは難しくても、子供だって話の面白さは感じられるって? いやいや、そうじゃなくて、漢字や語彙そのものがオトナ向きなんだってば。だからさー、クリスマスの子供向け絵本として紹介するのはどうかと思うよ朝日新聞。まあいいけど。
むしろ、共働きで頑張ってるお母さんとか、シングルマザー・シングルファーザーとか、《親の立場》の人にプレゼントしたい絵本だな。或いは、男尊女卑が延髄にまで染み込んでるようなタイプの男性とかにね。
(01.12.16)《この本の詳細情報&注文画面へ》
クリスマスのぶたぶた・矢崎存美(徳間書店)
いやもう、ぶたぶたですよ。今回のぶたぶたは一匹(いや、いつも一匹なんだけどさ)。24日の朝から25日の夜にかけてのぶたぶたの「働き」を、それとすれ違った人達の目線からスケッチしていくという手法。だから断片のように見えるけれど、ぶたぶたはぶたぶたで、時間は繋がってるんだよね。この二日間のぶたぶたのスケジュールを追ってみると、それはそれでかなり笑えるよ。酔っぱらい二人にいじられた後で、デパートの配送所に帰って来たりするわけで。「なんだか道すがらいろいろあって」そりゃそうだわ(笑)。
いつものことだが、ぶたぶたは自分から働きかけるということは、殆どしない。ただ、そこに現れるだけだ。ブティックでは買い物するだけだし、公園ではサンドイッチを食べるだけ。今回何か働きかけたとしたら、せいぜいケーキを売ってる女の子にお婆ちゃんの話をしたくらい。それだけの、ただ「そこにいた」だというだけのぬいぐるみが、気づくと一人の女性の気持ちを変えているのである。つまりは、奇跡。或いは、魔法。でも実際は、自分でとうに気づいていた筈の《本当の気持ち》を、ちゃんと心の表面に出してきて対峙するという、そのきっかけをぶたぶたに貰ったに過ぎない。本当は、もう前から自分で分かってたことなんだよね。
ぶたぶたの起こした奇跡は、すでにその人の心の中に種があったのだ。何かのきっかけで、それが芽を出す。だから、このシリーズでぶたぶたが主人公になることはないのだ。ぶたぶたによって変わる人物の方が主人公になるのである。ぶたぶたは主人公なのではなく、そこにいる皆にとっての《触媒》なのだから。
(01.12.20)《この本の詳細情報&注文画面へ》
前半、宮部氏にしては(と言っていいのかどうか)無機質な説明部分が続く。起こった事件の説明、それに携わる警察官たちの紹介。材料ばかりが提示され、なかなか本題に入らない苛立ちすら感じたほどだ。出てくる刑事に対して「あ、「模倣犯」の人だ」「あ、「クロスファイア」の人だ」という思い入れがなかったら、ちょっと辛かったかも。刑事たちが、なにか特別な《作戦》をやろうとしているのは分かるんだが、その《作戦》を実行する前に何が起こったか教えておかなくちゃね、という手順なのだ。何だか話が途中から始まったような、中途半端な印象。
しかし、そんな思いは中盤には消し飛ぶ。《疑似家族》のメンバーと目される人々が取調室に呼ばれ、被害者の男性の娘が隣の部屋からマジックミラー越しに《疑似家族》を見るのである。自分が目撃した不審人物が、その中にいるかどうかを見極めるために。
正直言って、ここらあたりの描写で、《犯人》は割れてしまう。もちろん論理的な推理とかではなく、「だってこいつ、めちゃくちゃ怪しく描かれてるじゃん」というレベルで、犯人が分かってしまうのだ。あまりにも分かりやすく書いてるのでミスディレクションじゃないかと疑ってしまったくらい。
しかし、眼目はそこから先に横たわる《動機》であり、それをどう捉えるかというネット社会の危うさである。自分の欲求を満たすためには、他人を利用することを厭わない、それが誤ったことだとすら思わない精神構造。著者が描きたかったのは、謎解きだとか本格ミステリだとかではなく、ネット社会に徘徊する、そんな精神構造を持った匿名の群衆なのではないか。そんな気がした。
(01.12.20)《この本の詳細情報&注文画面へ》
しょっぱなからいきなりの求心力で物語に取り込まれる。混乱の最中に放り出された主人公の一人称のために、戸惑いがダイレクトで伝わってくるのだ。分かってみれば「そんなオチかよ!」というようなものでも、主人公の感情を追体験させられているために、しっかり驚いてしまう。その他の登場人物は皆、なにかを知っているようなのに自分だけが分からない、その《自分だけ》=読者になってしまうために、すっかり主人公に感情移入してしまうのである。実際には何も変わったことは起こっていないのに、外からみれば退屈な事象なのに、主人公の感情と行動を追体験するだけで、とてつもない大事件の直中にいるような気にさせられるのである。
なぜこのような混乱が起こったのか、実際は今はどうなっているのかが分かった時、新たな謎が起きる。ようやく「私」の物語が外に向かって動き出す。そこからは一気呵成だ。
正直言って、犯人探しという観点からは満足できない。だって、あまりに容疑者が少なすぎるし、その上、決め手がこれかよ! という感じなんだもん。一人称主人公が混乱してるせいもあるんだけど、読者がロジックで犯人を推理するにはチトきついのだ。むしろ、犯人が分かるその瞬間まで、主人公を追体験するのが一番楽しめる読み方かも。んでもやっぱり、犯人がわかった時点で「ああ、そうか!」と膝を打たせるモノが欲しかったなあ。そこまでの展開がものすごくミステリアスで、すっごく面白かっただけに、最後になってトーンダウンしちゃった感があるのだ。でも、ホントに中盤まではメチャクチャ面白いし、謎解きしようとさえせずサスペンスとして楽しむなら文句無しである。
(01.12.21)《この本の詳細情報&注文画面へ》
──と、書いたものの。ちょっと不満なのよね。だっていつもの《町内会主婦探偵》という部分が今回は薄いんだもの。思春期に入った子供たちとのやり合いや、家事と探偵仕事の兼ね合い、PTAの雑用、姑とのケンカ、そういったものと葛藤しながら、或いはそういったところからヒントを得て探偵するジェーンやシェリィのシリーズが好きだったのに、今回はそういう部分が殆どと言っていいくらいない。かろうじて、トッドの洋服を買うくらい。マイクなんか出てきやしないんだもの。ぷんぷん。シリーズの一番の魅力がごそっとなくなっちゃった感あり。ま、シリーズの次の作品ではマイクがたくさん出てくるらしいので、次に期待しよう。
家族の登場が少ない分、シェリィが出突っ張りで、それはそれで嬉しい(笑)。それに豆博物館の面々がだれも個性的で、聞き込みをするジェーン・シェリィとの会話はどれも気が利いていて面白い。そして事件の真相も──唸ってしまった。なるほど、そう来ましたか。正直、犯人の決め手となる部分は弱いんだけれど、動機にはハタと膝を打った。ヒントはバラまかれていたのだ。このシリーズはどれもそうなんだけど、ホントに意外なところに、品よく(?)ヒントが織り込まれている。やられた、と思わせてくれるんだよね。
うん、今回は主婦業がちょっと手薄になっちゃってるけど、その分、動機については考えさせられたから、そこは相殺しよう。それに英語の勉強にもなったし(笑)。あの慣用句は、知らなかったなあ。
(01.12.21)《この本の詳細情報&注文画面へ》
銀杏坂・松尾由美(光文社)
【横縞町綺譚】幽霊が出るというアパートで、宝石の盗難事件が起こった。警察は全部の部屋を調べたが見つからない。残るは幽霊の住む部屋だけだが……。幽霊を否定するのではなく、上手に使ったキレイな謎解き。
【銀杏坂】自分が夫を殺す夢を見た、殺したくないのでその前に逮捕して欲しいという主婦。彼女は子供の頃から見た夢が現実になったという──証拠としては弱いけれど、こういう手がかりの拾い方は好み。
【雨月夜】深夜に起こった殴打事件。しかし容疑者はその時間家で眠っていた。しかし彼には「生き霊」になって徘徊するクセがあるらしい──途中までは見当がついたものの、真相を見せられた時には思わず膝を打った。
【香爐峰の雪】木崎が偶然みかけた女子高校生と、まだ幼い少年。少年は手を使わずビー玉を持ち上げる手品を練習していたが……。「手品」が何なのかは容易に見当がつくが、密室のトリックは見事!
【山上記】飛行機に乗った筈なのに、到着先の空港に現れなかった男。彼は空中で消えたのか?──最後になって、再び第1話の幽霊が現れる。そこから先の展開は、場合によっては「××××かよ!」と怒ってしまいかねない話なのだが、それを怒らせずに更なる叙情で話をまとめあげる手腕はさすが。ゾクリとさせたあとで、暖かなラストシーンが印象的。
(01.12.24)《この本の詳細情報&注文画面へ》
小説スパイラル〜推理の絆 ソードマスターの犯罪・城平京(エニックス)
ところが。
面白かったんだよなあ、これが。マンガちっくなキャラクターさえ慣れてしまえば、そこから先はムチャクチャ巧緻な本格ミステリである。これは拾いモノだよ。もうちょっとメジャーになってもいい筈の作品群。
【ソードマスターの犯罪】道場を継ぐのは健吾かキリコか。戦いに勝った健吾は、その翌日に車の中から焼死体で発見された。すっかり燃え尽きた身体は、細長いステンレスの杭でシートに固定されて……第一容疑者となったキリコだが、決め手がない。う〜ん、これはお見事! すっかり騙された上に感動までさせられちまったい。マンガちっくなキャラ造形そのものがミスディレクションになった感もあり。
【怪奇クラゲ二重奏】幸福をもたらすという伝説のクラゲが消えた。そして見つかった時には、飼い主の娘が死体で発見されて……うわははは、おバカな美少女探偵な何ともキュートで笑える。マンガには出てこないらしいけど、これで小説のシリーズにしちゃえばいいじゃん、というくらいキャラ立ちで面白いぞ。
【ワンダフル・ハート】脳死状態となり、あと二日で生命維持装置もはずされる、という患者が胸を刺されて死亡する。どうしてこんな状態の患者を今さら?──何とも魅力的な謎。これだけの短い説明でも、誰でも考えつくような有力な動機はひとつあるわけで、もちろんそれが絡んで来るんだけど……なんともはや、この真相には拍手しちゃおう。シリアスなテーマをおバカな美少女探偵が巧く中和している。
(01.12.24)《この本の詳細情報&注文画面へ》
書評リストに戻る