頭にケガを負ったせいで、記憶を蓄積できなくなった僕。一度眠ってしまうと、その前に起こったことは全て忘れてしまう。自分が記憶を蓄積できないということすら忘れてしまうのだ。頼りになるのは妻と、そして書き溜めた日記だけ。そんなある日、旧友が行方不明と知らされる。無くした記憶の中に、事件を解く鍵はあるのか──?
名探偵で行こう・日本推理作家協会(編)(カッパノベルス)
【三毛猫ホームズと永遠の恋人】赤川次郎:久しぶりに赤川作品を読んだが、相変わらず楽にサクサク読めるなあ(笑)。不可能興味も謎解きも一緒にサクサク済ませちゃった気分。
比翼・泡坂妻夫(光文社)
四つの章建てからなる、短編集。
マルチな才能を発揮している南伸坊氏だが、その正体(の一つ)は装丁家である。その南氏がてがけた装丁の中から119冊(!)を選び、カラー図版と共に裏話エッセイをまとめたのが、この本。装丁と言えば表紙カバーのイラストばかりに目が行ってしまうが、素材からカバーの下の表紙のデザインから帯から……とにかく本そのものをデザインするのが装丁なのだ。
騙し絵よ騙し絵。一番有名なのは、老婆と若い女性の二通りに見える絵とか、二人の向かい合う横顔の間が花瓶になってるやつとか。見た覚え、あるでしょう? これは、そういう騙し絵を──それも各時代の、各国の騙し絵を集めて紹介した本。
1999年に角川書店から出された「ワトスン君、もっと科学に心を開きたまえ」を改題したものである。
オー・マイ・ガァッ・浅田次郎(毎日新聞社)
会社の共同経営者には裏切られ、女には逃げられ、全財産持って最後に勝負をかけようとラスベガスにやって来た冴えない中年、大前剛。リフレッシュ休暇でラスベガスに旅行に来たら、なぜかそのまま「キレて」しまい、そのまま居着いてしまった元OLにして現在娼婦の梶野理沙。そしてベトナムでは英雄だったが、今は家族にも捨てられた老兵・ジョン。この3人がスロットマシンの前で出会った時、運命の歯車が回り始めた──。
「すべてがEになる」、「毎日は笑わない工学博士たち」に続く、日記シリーズ第3弾。と書いて気づいたが、「毎日は笑わない工学博士たち」も読んだ記憶があるのになぜ書評が残ってないんだろう。まあいいや。
水のような火のような・小嵐九八郎(実業之日本社)
川崎南町のはずれにある小料理屋「みさを」は、実は売春宿。客は、そこにいる女性から一人を選び、安ホテルや、小汚い旅館や、或いは「みさを」の二階へ消えていく。そこに働く8人の女性を主人公に描いた、連作短編集。小嵐氏ならではの、飾りっけなくノンビリと語りかけるような独特な文章が、今回も心地いい。「方言作家」の面目躍如とばかりに、沖縄から北海道までのお国言葉が頻出し、それが尚、体を売る女たちに暗い深みを与えている。
言わずとしれたクリスティの「ABC殺人事件」をモチーフにしたアンソロジーである。執筆陣のこの豪華ラインナップを見ただけでレベルの高さは充分に察しがつくが、その期待を裏切ることなく堪能させてくれる端正な佳作揃い。度肝を抜くような派手な作品はないが、緻密な論理性はどれもピカイチ。おまけに文庫なんだから、コストパフォーマンスという点でもお薦めマークだ!
今日を忘れた明日の僕へ・黒田研二(原書房)
記憶をなくした男の、一人称主人公である。無い記憶を語ることはできない。それなのに、すべての手がかりがフェアに提示されている。「本格ミステリの申し子」の面目躍如と言えよう。素人時代から東野圭吾・岡嶋二人のファンだったと公言する著者らしく、どこかその二人(三人か)の先達を彷彿とさせるような設定であり、話運びである。
主人公の一人称視点であるが故に、読者は否応なく「記憶を無くした」主人公の戸惑いと感情を追体験させられる。主人公に状況を説明する妻の言葉を、主人公と共に驚きを持って聞き、初対面なのか知り合いなのか分からない相手とのコミュニケーションに、主人公と共に戸惑う。主人公と常に共にありながら、しかしいつの間にか主人公が一歩先を走っていることに気づいた時、読者は「してやられた」ことに気づくのだ。お馴染みの、本格スピリット満載の伏線、遊び心溢れる小ネタ、わははと笑いながらも膝を打つロジック、そして──。そして、この、動機は。
難点を言えば、ヒロイン(?)の造形か。その場その場の作者の都合で動かしているのがアカラサマで、顔が全然見えてこない。全部読み終わってから考えてみれば、「何もこんなことする必要はなかったんじゃいの?」と思わせる行動も多い。それなのに、どうしてこういう言動をとったのかと言えば、その方が本格ミステリとして複雑になるからである。つまり著者の動機であって、キャラの動機ではない。このあたり、少々興ざめせざるを得ない。
しかし、黒田研二と言えばパズラー一辺倒の作品を続けざまに出してきたが、ここへ来て初めて、パズルと同時に「物語」を読ませて貰った気がする。エピローグ、それもラストシーンでは思わず胸が熱くなった。極めてシンプルで淡々とした描写ではあるがゆえに、「忘却」の持つ残酷さと切なさが後を引くのだ。主人公に感情移入しながら読んできた者にとって、このラストシーンはたまらない。見事なエンディングだ。これはお薦め。
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【ママは空に消える】我孫子武丸:人形マリオ。謎解きよりキャラの方がメインになってきた感あり。
【金魚狂言】泡坂妻夫:八丁堀同心・夢裡庵先生シリーズ。パズラーの醍醐味がある江戸捕物帳。
【エキサイタブルボーイ】石田衣良:「池袋ウエストゲートパーク」所収。イマドキの若者を描きつつも地に足がついてて面白い。
【あちこちら】大沢在昌:「らんぼう」参照。
【花を見る日】香納諒一:エディターシリーズ。ミステリというより普通小説として読みたいな。
【「神田川」見立て殺人】鯨統一郎:マグレ警部シリーズ。この手のキャラと話運びは苦手。ノリは「なみだ研究所へようこそ」に近いかな。
【ダイエット狂想曲】近藤史恵:ネタは比較的早く見当がつくんだけど、ストーリーテリングが上手で読まされてしまう。このシリーズが本に纏まるなら、読みたいなあ。
【最前線】今野敏:安積シリーズ。このシリーズにハズレはない。ただし謎解きよりも警察小説として。
【2031探偵物語 秘密】柴田よしき:30年後の未来を舞台に描く私立探偵の物語。謎解きよりも、そのあとの処理についてのくだりが感動的。
【招かれざる死者】西澤保彦:タカチ&タックのシリーズ。安心して読めるね。
【シュート・ミー】野沢尚:人気歌手を殺すヒットマン。謎解き物ではないけど、哀愁があっていいなあ。
【魔女狩り】横山秀夫:警察の広報と記者クラブの話。これも警察小説として秀逸。
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《職人気質》の章には、【風神雷神】と【筆屋さん】。いずれも呉服の世界を描いたものだが、巧緻な謎解きものである。と同時に、なんとも滋味溢れる穏やかな感動がある。特に【風神雷神】は秀逸。紋がずれていた理由が分かった時には、膝を打つと同時に胸が詰まった。なんだか、往年の戸板康二にも似た枯れた味わいが出てきて、この章はイイなあ。この手のを集めた独立した短編集はないのかな?
《奇術の妙》の章には【胡蝶の舞】【スペードの弾丸】【赤いロープ】の3編。中でも江戸時代の手妻師を主人公にした【胡蝶の舞】は品のいい情話を読んでるようだ。社家さんなどのお馴染みのメンバーが出てくる「奇術ミステリ」は【赤いロープ】。泡坂氏らしい一編。
《怪異譚》の章には【思いのまま】【お村さんの友達】の2編。特に【思いのまま】はエロチックで、何とも言えない艶があって、それと《盆栽》という侘び寂びの世界が重なる妙が何とも怖い。
そして《恋の涯》の章には、【比翼】【記念日】【好敵手】【花の別離】の4編。この中のイチオシは【記念日】かな。自殺か他殺かを判断するための警察の捜査を順を追って書いてるだけなんだけど、一人の人物が次第に浮彫になっていくさまは見事。結末もインパクトがある。【比翼】と【好敵手】は妙に似た話。
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装丁/南伸坊・南伸坊(フレーベル館)
まずは「えっ、これって南氏のデザインなの?」と驚いた本多数。筑摩の山田風太郎明治小説全集って、南伸坊だあ。あの「警視庁草紙」よ。わわ、清水義範氏の「騙し絵日本国憲法」「迷宮」も南氏なんだ。これ、両方とも表紙イラストがすっげー面白いんだよね。凝ってて。「迷宮」なんて、読み始めた時に表紙の意味が分かるっていう趣向なんだよなあ、確か。わわ、竹内久美子氏の一連の著作も南氏なんだあ。
それから、その装丁の趣向に笑ってしまう。ホンモノそっくりの一万円札の絵を、法に触れない範囲で表紙に書いて、一見、帯に一万円札が挟まっているように見えたり。傑作なのは赤瀬川原平氏の科学エッセイ「わかってきました」という本。表紙には牛、裏表紙には分度器と彫刻刀が描かれている。何のこっちゃ、と思うでしょ? これ、分度器=角、彫刻刀=刀、そして牛ってことで、この三つを組み合わせると「解」という字になる。つまり「わかってきました」というタイトルにひっかけてるという仕掛け。ぶわはははは。あほや。
そして何より。この装丁裏話エッセイを読んで、その実物の図版を見ると「おおおお、この本、読みてえええ」と思わされてしまうのである。なるほど、南氏がこういう趣向を施したいと思うような作品なのね、というのが次第に解ってくるのである。装丁というのは、時としてなまじの書評よりも雄弁なのだ。これはお薦め。
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図説アイ・トリック〜遊びの百科全書・種村季弘(他)(河出書房新社)
いやあ、真剣に見ちゃいましたよ。最初は「ああ、これ知ってる、これ有名よね」とか「ああ、これって2本の線が違う長さに見えるけど、ホントは一緒ってやつよね。うんうん、基本基本」などと余裕ぶっこいて見ていたのである。しかしページをめくるにつれて「え、え、どゆこと?」となり、「あああ、この角度から見たら、確かに見える!」と驚き、「え〜ん、わかんないよぉ、見えないよぉ」と地団駄を踏み、「おおお、こんな仕掛けがあるのか!」と膝を打ち、「ぶわははは、誰がこんなアホらしいこと考えたんだ」と爆笑する。トリックアートのギャラリーを一周した気分である。日本にも、こういう騙し絵があったんだねえ。
と同時に、読み物が充実している。種村季弘氏や高柳篤氏というプロフェッショナルにより、人間の目の仕組みはどうなっているのか、どうすればこのような錯覚が生まれるのかについての詳しい解説が載っている。また、昔のヨーロッパで描かれた騙し絵を細かく解説し、その絵が当時の社会をどのように描いているかを学べる。と同時に、赤瀬川原平氏──あの、お札を模写して逮捕されたという経験を持つ(笑)──による、偽札を作るにあたっての基準の話や、人間の映像記憶のいかに脆弱なものであるかについてのエッセイもある。とにかく贅沢だ。
小難しい読み物はすっとばして騙し絵だけを楽しむのもアリだが、ここは解説もじっくり読んで頂きたい。絵画だけでなく美術全般、建築にいたるまでの歴史や文化が「錯覚」と「騙し絵」を通じて学べるのだ。これはなかなかに得難い「遊びの百科」である。
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ワトスン君、これは事件だ!・コリン・ブルース(角川文庫)
体裁としては、ホームズもののパスティーシュ短編集。事件が起こり、ホームズが謎を解き、語り手はもちろんワトスンだ。しかし事件の中身がチト違う。天文博物館の中で撲殺された死体、列車の中で起こった皇太子ご夫妻の爆死事件、潜水夫が海底で死んだ事件……二発の銃弾が、ひとつは銃声より先に、もうひとつは銃声より後で撃ち込まれた。こんなことが起こり得るのか? 双子なのに、片方が1千万分の1秒ほど長く生きてるってどういうこと? 北大西洋の海底で、ダイバーが熱射病で死んだなんて有り得る? どれもこれも、科学知識なしでは解けない事件ばかりなのだ。
具体的に、どの短編でどの科学知識が出てくるかというとネタバレになってしまうので言えないが、位置エネルギーと運動エネルギーだの、振り子運動だの、音速だの、光の性質だの、地球の自転だの、果ては相対性理論に量子論?!
あ、今、「あたしそーゆーのダメ」と思ったでしょ(笑)。実はあたしもそうだった。でも読み始めてみると、これが面白いのだ。最初の一編【科学好きの貴族】は比較的有名な科学ネタで、あたしでもすぐに解ったくらい。でも、最初だからサービスだったのね(笑)。2編目からは「へえええ、そうなんだあ」と目から鱗である。特にお薦めは【相対性嫉妬をめぐる三つの事件】。これを真っ先に読むとこの本の面白さが解ってもらえるかも(ただし、前の話に出てきた科学知識を踏襲してます)。
科学オンチには、目から鱗の面白読み物。科学好きな人にとっては簡単なゲームかもしれないけど「ああ、一般人にはこう説明すればいいのか」という参考になるのではないかしら。おまけに、科学のパラドックスや詭弁も満載で「うっそー!」と笑ってしまうことも多い。
科学トリックを使ったミステリって、ただ現象だけを説明されても面白くも何ともないんだけど、これはひと味違う。科学知識自体をホームズが説明してくれるんだもの。その上、ホームズファンには嬉しいお遊びもたくさんあるよ。これは理系も文系も是非一読を。
(02.1.10)《この本の詳細情報&注文画面へ》
お馴染みの浅田コメディで安心して読める。だいたい主要人物の名前からして、大前剛→Oh my God!に、梶野理沙→カジノだ。うわはは。いわゆる「クスブリ野郎」が運命の悪戯でどえらいジャックポットを当ててしまい、そこからドミノ倒し状にトラブルが周囲に波及して行き、波及しきってみれば大団円。毎度毎度同じような展開とは言え、それでも抜群のストーリーテリングと思わず噴き出してしまうコミカルな会話に引き込まれて、最後まで物語を楽しんでしまう。
重要な役どころとしてシシリー・マフィアが出てくるが、これはもう浅田コメディにこれまで登場してきた「お笑いヤクザ」をイタリア名にしただけだ。カジノの勝者に払わなくてはならない組の金を使い込んでしまった老ボス、彼の命令で大前たちの命を狙う老ヒットマン。もちろん二人してボケかかってるから巧く行く筈もなく、どこかおかしくて、そしてどこか悲しいドタバタコメディ。
わははと笑わせて、豪快で魅力的なキャラクター陣に著者本人もちょこっと出てくる楽しいお遊びもあって、最後にはほろりとさせるのも常套手段。せっかくここまで気持ちのいいコメディになったんだから、最後の最後で、あんなに「人道的に素晴らしい」結末にしなくてもよかったんじゃないかしら。人間味溢れるコメディだったのに、最後になって道徳の本や教訓話を読んでる気になった。最後まで豪快にぶちあげて欲しかったな。
(02.1.13)《この本の詳細情報&注文画面へ》
封印サイトは詩的私的手記・森博嗣(幻冬舎)
これは1999年のウェブサイトでの日記を収録したもの。脚注、古屋兎丸氏によるマンガ(ケータイ森君のあたりから俄然面白くなる!)、森さん自身のおまけマンガ、それに付録の「トーマ日報」(これは最高! これ限定でお薦めマークをあげたい!)など、ウェブ連載時にはなかったオマケがたくさんついている。
それでもやはりメインは既読の日記で、それでも手にとってしまうのは、何度も読みたいから、なんだよねえ。全部が全部面白いワケじゃないんだけど、「あ、ここ」という文章や内容が何カ所かあって、それはやはり手元に置いていつでも読めるようにしておきたいというか。これを読んでいると、直接的な感情描写が殆ど無いせいか、実在の人物の生活を綴った日記という印象は薄い。寧ろ架空のキャラクターである【森博嗣】が動き回ったり(いや、あまり動かないけど)アレコレ言ったり考えたりしてる感覚に近い。作者の【森博嗣】と、日記に登場する【森博嗣】が別人のように思えるのである。日記とは言え作品としての作り込みがされてるというか。一個の小説のような。でも小説と違って、どっからでも開いたページをナナメ読みできるし、どこででも止められるというのも利点か。
内容・文章に関する感想は、殆ど「すべてがEになる」と一緒。もともと時事ネタは少ないので、読んでいてもこれが1999年の日記だというのがピンと来ない。だから、特に1999年というのを意識しないで読んでいたのだが、iMACとe-oneが似てるの似てないのって箇所だけ、「あああ、これって1999年かあ!」と思わず笑ってしまった。
また、森氏が日記上で初めて「なまもの!」に言及して下さったのもこの年で(この時点では、まだサイト名もリンクもないけど)、そういう意味でも印象深い。と言いつつ、いったいどこで拙サイトに触れて下さったのか思い出せず、最初から読んでいったのだがいまだに見つけだせないでいる始末(笑)。検索できない、ってのはやっぱ紙媒体の弱点だなあ。
(02.1.15)《この本の詳細情報&注文画面へ》
【意地悪蛍子】「みさを」で働く蛍子のもとに、田舎から昔の友人が出てきた。仕方なく一緒に働きだしたのだが……女の持つライバル心、見下していた相手に刃向かわれた時の傷つくプライドなどが前面に押し出され、ありがちな話ではあるけれど、エンディングでは胸が痛くなる。
【風吹けば】震災で両親を亡くし、祖母と二人暮らしの沙希子。出会った客はあちらが役に立たず……ディーテイルがリアルで、気持ちが重くなる話。でも、ハッピーエンドだよね。
【すれ違い雲】「みさを」も辞めて立娼をしている悦子。出会った男と一緒になりたいと願うが……最後の運命を決める一言が、リアル。
【絹江の背伸びの】「みさを」でも古株の絹江は、もう五十一。しかし彼女には体を売らねばならない事情があって……。意外なラストシーンに胸が詰まる。
【水のような火のような】和子は行動障碍を持つ不動産屋の次男と出逢い……。18歳の行動障碍の青年の純情が悲しい。でも、悲しい筈のラストで何故か救われた気のする物語。
【北から春が】「みさを」のママである規子の旧友・美智が青森から出てきた。美智は神様と話ができるという……。規子のウチナーグチと美智の津軽弁の会話がいいなあ。
【秋が匂って】SMの女王様になって男を見返すという亜以の話。そんな友人を見ながら、自分のあり方を考える藍のキャラクターがいい。
【ジキパンが明日】男と一緒に逃げる筈が、待ち合わせに遅れて一人で上京した清子。そのまま娼婦に身を落として十年以上経った時、その男と再会して……あああ、なんかもう、切ない。悲しすぎる。最後がこの話というのは、ものすご〜く辛いなあ。
(02.1.16)《この本の詳細情報&注文画面へ》
「ABC」殺人事件・有栖川有栖(他)(講談社文庫)
【ABCキラー】有栖川有栖:安遠町で浅倉さんが、別院町で番藤さんが殺された。そして予告状が届く……うわあ、まさに「ABC殺人事件」だあ! 嬉しくなっちゃう。本家「ABC殺人事件」と同じオチになる筈はないが、いったいどうするんだろうと思ったら……そう来ましたか!
【あなたと夜と音楽と】恩田陸:ラジオ局の玄関に毎日置かれる不思議な品物。何か意味があるのか?……一転、「ABC殺人事件」そのものとは直結しない物語。でも、ちゃんとミッシングリンクものになってる。おまけに全編会話だけで構成されるというこのスタイルは、ヘタな人がやると途中で飽きちゃったりするんだけど、さすが恩田陸、さいごまで引っ張ります。品物の仕組みが分かった時には膝を打ったわよ。
【猫の家のアリス】加納朋子:アリスシリーズ。探偵・仁木とアリスはABC順に殺されるという猫の護衛をすることになったが……。猫、ってあたりが加納風じゃございませんか。しかし内容は、イニシャル順に殺すという「ABC殺人事件」の設定に則りながらも、インターネットという特異な社会を俎上に上げ、おまけに人間心理の機微まで描くという……さすが!
【連鎖する数字】貫井徳郎:連続する殺人事件。どれも現場に数字を書いた紙が残されていて……。いやあ、巧いなあやっぱ。誰か一人の目だけで追うんじゃなくて、それぞれの被害者の周囲を描いてるあたりが厚みを増してる。誰だって、殺されたら周囲には悲しむ人がいるんだよね……それは翻って、物語全編を貫く骨組みにもなっているテーマだ。正直言って、これは「あ、これが動機に関わってくるんじゃないの?」というヒントは結構あからさまに提示されているので、見当つけちゃう読者も多いんじゃないのかな。でも、あからさまなヒントを出した上でのあのエンディングは、見事だ。文句無し。
【ABCD包囲網】法月綸太郎:事件が起こる度に「私がやりました」と自首してくる男。しかし、話を聞いてみると嘘だと言うのはすぐわかる。どうしてこんなことを?……ああ、何だか久しぶりにノリリンの「パズラー!」という作品を読んだ気がする。ロジック先行と言わば言え、こういうのがあたしは好きなのよ!
(02.1.19)《この本の詳細情報&注文画面へ》
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