赤死病の館の殺人・芦辺拓(カッパノベルス)
森江春策シリーズの中・短編集。
広告マン藤岡真は、謎のアイドル「ドミノ」を探せという業務命令を受ける。「ドミノ」はビデオクリップでしか姿を見せない、正体不明の謎の歌手なのだ。藤岡がその仕事に着手した丁度その頃、社会では妙な現象が起きていた。これまでになく、自殺者の数が急増していたのである……。
Dear My Gohst〜幽霊は行方不明・矢崎存美(角川スニーカー文庫)
真人は何故か幽霊が見える体質。彼のそばにはいつも、守護霊である美海がついている。ところが彼の姉の咲子には霊感のレの字もなく、そのくせ「占い師になる!」と豪語している困り者。ところが彼女の占いの依頼者が行方不明になってしまって……。
大東京三十五区〜冥都七事件・物集高音(祥伝社)
時は昭和の初め。明治時代に起こった不可思議な事件を本に纏めようとする阿閉万(あとじ・よろず)と、その事件を話を聞いただけで解いてしまう大家の玄翁先生。安楽椅子探偵ならぬ縁側探偵の短編集である。
SF短編集。近未来を舞台とした悲しい話が多いのだが、いい。これはいい。
UMAハンター馬子(1)〜湖の秘密・田中啓文(学研M文庫)
「ベストヒットUMA」にお薦めマーク!
雑踏で、傘の先で左目をえぐられてしまうという不幸な事故にあった高校生の菜深。彼女はショックで記憶を全てなくしてしまう。これまでの嗜好も習慣も性格さえもなくしてしまい、両親とも友人とも関係がぎくしゃくしてきた菜深。ところが、彼女の失った左目の代わりに、別の人の眼球が移植された日から、彼女は不思議な白昼夢を見るようになって……。
小学校・中学校の国語の教科書。ああ、懐かしいなあ。でも、有名な作家の有名な著作ならまだしも、教科書で読んだだけで、あれをもう一度読みたいと思っても何に載ってるのか分からない……そういう話って、多くありませんか? この本は「本の探偵」赤木かん子氏が、一般の方から問い合わせのあった「教科書で読んだ物語」の正確なタイトルや著者、収録単行本などを紹介した本です。物語そのものは、一部しか載ってないので注意。この本で捜している物語がそのまま読めるわけではありません。
絶叫城殺人事件・有栖川有栖(新潮社)
××殺人事件、というタイトルはこれまで避けていたという著者が、敢えてそのタイトルで書き上げたシリーズ。××の部分にはいずれも建築物の名前が入る。とにかく論理パズルの美しさでは人後に落ちない著者であるから、その不可能興味と美しい謎解きには充分満足できる。ホントに、魅力的な謎を作る作家だなあ。
篠婆 骨の街の殺人・山田正紀(講談社ノベルス)
ミステリ作家志望の勇作は、巧く書けばデビューさせてあげるという編集者・純子の言葉に乗せられて、トラベルミステリを書くために丹波篠山の篠婆へ取材にやって来た。ところが篠婆へ向かう列車の中で、偶然同じ車両に乗り合わせた男が死体となっていたのだ! 他に乗客の姿は見えない。 男はいつ死んだのか? 誰が殺したのか?
【赤死病の館の殺人】こういう突拍子もない「館」が出てくる話というのは、お約束とは言え、「そんな消防法も無視したようなアホな建物が出来た理由を、主の趣味ってだけで片付けられてたまるかいっ」と常々不満に思っているのだが、これはそういう点ではお見事! 久々にすっと腑に落ちた館モノ。それに、謎解きの最中で秘書が出したひとつの仮説に対し、森江春策がその姿勢を一喝したことにも拍手。実は、あたしも同様の理由であの手の発想は嫌いなのよ。溜飲が下がった気分。いや、もちろんアレをトリックに使ったミステリに傑作があるのは分かってるけども。
【疾駆するジョーカー】「密室殺人大百科・上〜魔を呼ぶ密室」所収。う〜ん、まずこういう状況を作らなくちゃならない意図が今ひとつ……。マスコミから逃げるにしろ、依頼人を見張るにしろ、何もこういう方法をとらなくったって、もっと確実で効果的な手段があると思うけどなあ。依頼主も金はありそうなんだし。いっそ外国にでも行けばいいじゃん、セキュリティのしっかりしたホテルを使うという手もあるぞ、という気もするのだが、まぁ、それを言っては話にならないか。密室云々というよりも、この犯人とそれをとりまく環境に腹が立つなあ。そこを掘り下げれば社会派の長編が書けるぞってくらい。
【深津警部の不吉な赴任】うわははは、これ好きっ。トリッキーで、引っかけが巧くて。ドラマにしても面白そう。ところで森江が追っていた本来の事件って何だったんだ?
その他、出入口を見張られていたマンションの一室で起こった殺人事件を描いた【密室の鬼】を所収。
(02.1.19)《この本の詳細情報&注文画面へ》
ゲッべルスの贈り物・藤岡真(創元推理文庫)
幻のミステリ、と言われて古本屋での探求本に挙げられてきたこの物語が、遂に、というか、ようやく、というか、文庫入り。いやもう、すごいよ(笑)。何が凄いって、作者が読者を騙そう騙そうとする、その熱意とテクニックが、である。本格ミステリというジャンルが作者と読者の知恵比べだとするなら、この本に限っては、まず勝てる読者はいないんじゃないかな。
個人的な趣味で言えば、物語の根幹をなす大きな謎そのものよりも、その周辺を固める小さな──しかし緻密な「騙し」が実に優れている。とにかく最後まで読むと「え、こんなところにヒッカケがあったの?」「え、これも仕掛けだったの?」と驚くこと請け合いだ。とにかく隅から隅まで、一言たりとも無駄にしないというか、油断できないというか。
ひとつふたつなら、もしかしたら気づく人もいるかもしれない。でも、あちこちに仕掛けられた色々なトリックを全て見破るのは先ず無理だと思う。読みながら、頭の中でおおよその推理をしていたあたしは、「え、うそっ!」と何度叫んだことか。
若干荒っぽい部分はあるし、謎以外の部分──主人公の行動とかね──にはご都合主義も見え隠れするのだが、ミステリ部分に関しては文句無しである。とにかく、あまり話すと興を削ぐので、これはとにかく読んでみて下さい。プロローグだけ読むと戦記物っぽく見えるけど、大丈夫、すぐに「絵に描いたような本格ミステリ」になるから。
(02.1.26)《この本の詳細情報&注文画面へ》
うわははははーーー\(^o^)/ いや、笑ってどうする。
いかにも「ヤングアダルト!」と言った体裁のファンタジック・ミステリ。考えてみれば、矢崎存美氏の著作で「ぶたぶた」シリーズ以外の本を読むのは初めてなのだ。これには「ぶたぶた」は出てこないのである。当たり前だけど。でも、その代わりに幽霊が出てくる。幽霊だけじゃなく──ここで前述の笑い声が出たわけだが──刑事も出てくるのだ。それも何故か常に和服を着ている、その名も《和服デカ》! いやもう、この和服デカというネーミングに30分笑いましたねあたしゃ。
とにかく、キャラがどんどん動いて話を引っ張るタイプの物語。展開される謎は実に魅力的で、おまけにキャラも魅力的で(というか個性的で)、登場する幽霊までが個性的で、ぐいぐい読ませる。幽霊が出るって噂のトンネルは日本中至る所にあるけれど、そんなところにいる幽霊が、ラジオ聞いたり日記書いたりしますか普通(笑)。絶対に笑わせにかかってるぞ作者。
しかし、クライマックスが近づくと、そういうコメディ部分は薄くなり、一気に緊迫感が高まる。真相が分かった瞬間、全ての糸が繋がる快感。いいなあ。謎を解くだけでなく、ちゃんと人間関係にも決着をつけるあたりがヤングアダルトらしい優しさだし。
ただ、肝心の謎解き部分が弱かったのが不満と言えば不満かな。真相はキレイだったけど、そこに至る道筋が、最後に来て一気にスっ飛んじゃった感じがして。美海あたりに、もっと探偵役らしい探偵役になって欲しいところなのだが。
(02.1.27)《この本の詳細情報&注文画面へ》
が。なんつ〜か、文体がとてつもなく凝ってるというか、レトロ風というか、雰囲気ありすぎというか、何だか講談とか長唄とか浄瑠璃のような語り口なのである。例えばこういう感じ。
「ご隠居ォ、ご隠居はおりますかァ〜?」
と、うちつけに、蛮声張りあげる、暑ッ苦しい人物。
さよう、おさっしのとおりに、早稲田の芋ッ書生で、名を阿閉万。当年とって、二十五才。
せいらい、落ちつきのない性分にて、何をやらせても三月ともたぬ。そのくせ、度胸と好奇心がひと一倍ときては、始末におえぬ。
……わかります? 要は、文体そのものがレトロなだけではなく、小文字カタカナの多用、体言止めの多用、読点の多用といった修飾が多い。確かにこれを耳で聞くと心地よいとは思うのだが、この文体にすんなり入っていければまだしも、そうでなければチト苦しい。<移ってるし(笑)。
で、読み進むにつれて次第に慣れては来るのだけれど、そうなると最初から最後まで歌うようなこの文体のせいで、各短編のクライマックスが感じとれないのである。最初から最後まで同じ雰囲気、同じ口調、同じリズムなので、物語の緩急がつきにくい。「わあ、不思議だ」「うう、どきどきする」「なるほど、やられたぁ」という本格ミステリならではのワクワク感が薄く、ただじっと流れに乗って同じリズムで読み進むだけになってしまうんだよなあ。
無論、これはあたしがこの手の文体に馴染んでいないというだけで、こういうのに慣れてる人や好きな人、気にならない人にとってはかなり面白いだろうな、という気はする。だって、各編はかなりな《本格》なのよ。迷路での人間消失や、橋が落ちるのを予言する子供や、泣く石や。でもって謎解きはけっこう科学的だったり心理トリックだったり物理トリックだったり。
集中して読めれば、さぞや面白いであろうことは確信できるのだが。レトロな文体って好きよ、という方は試す価値があると思うが、どだ?
(02.1.28)《この本の詳細情報&注文画面へ》
五人姉妹・菅浩江(早川書房)
柔らかな悲しみ、透明な悲しみ。どれも冷静に考えれば救いのない話ばかりなんだけれど、とても辛い話ばかりなんだけれど、でも、すっと心の中に滲み入って、何かが結晶になる。それはつまり、切ない物語の中にも著者が込めた《慈しみ》なのではないかしら。大半が近未来の話で、どれも悲しくて辛い世界なのだけれど、不思議と「こんな世界はイヤだ」とは思わないのも、その《慈しみ》があるせいだろう。確かに不幸な時代かもしれないが、それでも大丈夫、あたしたちは頑張っていけるよ、という想いが先に立つのである。辛い話なのに、心が痛む話なのに、なぜか前向きな読後感が残る不思議な短編集。
「お代は見てのお帰り」は、「永遠の森〜博物館惑星」のシリーズの後日談。息子をつれてアフロディーテにやって来た父親の物語。親というものは、子供を持ったからと言って無条件に大人になれるというものではない。何歳になっても破らねばならない殻はあるのだ。
「夜を駆けるドギー」(「少年の時間」所収)は、今この時代に是非読んで欲しい物語。SFであると同時に緻密な謎解き物語でもあり、そして少年の成長物語でもある。
表題作の「五人姉妹」は、自らのクローン4人に逢う製薬会社の社長令嬢の話。自らのドナーとして生を受けたクローン達ひとりひとりと出逢い、話し合うシーンは印象的だが、それ以上にラストが鮮やかにして潔い。
「箱の中の猫」は、時空を駆ける恋愛モノ。もうタマラナイ。いやもうこれは、女性にはタマラナイ話ですよホントに。読んでいて、胸がつかえた。
そしてそれ以上に胸が熱くなったのが、「子供の領分」。マジ泣きそうになったし。このラストはもう、こんなにも救いがなくて、こんなにも残酷な話なのに、暖かな涙が出るのはどうしてなんだろう。
いろいろな初出誌から集めた割には、統一感のある一冊になっている。これはお薦めだ。珠玉、という言葉が相応しい一冊。読まなくちゃ損ですよこれは。
(02.1.29)《この本の詳細情報&注文画面へ》
……って、本編は? ねえ、本編はあ?
いや、だって「ベストヒットUMA」が面白かったんだもん(;_;)。っつ〜か、あたしが求めているものが、「ベストヒットUMA」にあったんだもん(;_;)。田中作品に関しては、ストーリーのネタバレは許されるがダジャレをばらすのは罪が重いような気がするので(?)反転させておくが「ツチノコにかぎって」なんて、どうして自分が今まで考えつかなかったのか、もう悔しくて悔しくて(笑)。
ま、本編にも触れましょう。
おんびき祭文の芸人・蘇我家馬子は下品で自分勝手で厚化粧で意地汚くて男好きの、大阪のおばはん。しかしその祭文の芸は超一流。中学を出て馬子の弟子になった女の子・イルカとともに、お呼びがかかれば地方へだって出向いていく。しかし、どうも馬子は仕事のためだけに地方巡業をしてるのではなさそうだ。そして、馬子・イルカの行く先々には、なぜか未確認生命体──UMA(ユーマ)の噂があるのである。
【湖の秘密】新龍鳴湖には、ネッシーならぬリュッシーが出るという。その謎を解く馬子とイルカ。いやもう、この馬子のキャラはいいなあ(笑)。このキャラの割には至極真っ当な話になってるのが物足りないくらいなんだけど。ダジャレもないし──ないよね? 気づいてないだけ?
【魔の山へ飛べ】今度のUMAはツチノコ。これはけっこう、本格ミステリっぽい伏線がたくさんあって、膝を打つ快感があった。でもダジャレはないの。ミステリ的快感よりダジャレを求めるのもどうかと思うが。
【あなたはだあれ?】今回はキツネ。と言っても、ただのキツネじゃなくて……うわははははは、これよこれ! 求めていたのはコレなんですぅ。第3話にしてめちゃめちゃになってきた、てなことを書いてるけど、いいんですこのまま突っ走って下さい!
(02.1.31)《この本の詳細情報&注文画面へ》
暗黒童話・乙一(集英社)
乙一氏の、初の長編なのだそうだ。ああ、なんというか──とてつもなくグロテスクなシーンがたくさん出て来るのに、それなのに爽やかなのはどうしてだろう。左目が見せる映像が何なのかは、読者には何となく見当がつく。そして菜深は読者が期待する通りに動き、そしてそこで、とある事件に巻き込まれるのだ。
移植された臓器が見せる映像、ひいてはレシピエントのアイデンティティの問題というのは、例えば東野圭吾氏の「変身」、貫井徳郎氏の「転生」、五十嵐均氏の「2010年の殺人」など佳作も多く、題材それ自体は決して目新しいものではない。それが逆に読者に「ああ、このテーマなのね」という安心感と求心力を与えたところで、意外な方向に──ホラーの作家さんなのだから意外ではないのかもしれないが──話を転じる。謎解きミステリとしても秀逸な作品になっているのは、ひとえにその構成の妙によるものだろう。
グロテスクで猟奇なのに嫌悪感がまったく感じられないのは、ちょっと離れたところから書いているような、その客観的な文章技法の為せる技である。いみじくもタイトルに「童話」とついている通り、なんだか童話のような《架空の世界》が透明感溢れる筆致で紡がれている。そして、そんな中にも生き生きと動き回る、リアルな人間像。なにがしかの辛い思いを背負っている登場人物たちは皆、ただ淡々と闘う。それがまた物語に透明感を増し、人物の心情を透明の膜で包んで読者の胸に滲み入らせるのだ。
とにかく、巧い、としか言いようがない。菜深が実にいいのだ。気持ちのいいホラー。何だか妙な言葉だが、癒し系ホラーというのが一番似合っているような気がする。
(02.2.1)《この本の詳細情報&注文画面へ》
この本読んだ? おぼえてる?2〜教科書で習ったお話編・あかぎかんこ(フェリシモ出版)
それにしても懐かしい。教科書は何種類もあって、自分の通った学校がどこの会社のものを使っていたかによって「知ってる話」「知らない話」は当然あるのだけれど、明らかに「ああ、この話、確かに教科書で読んだ!」と嬉しくなってしまうものがたくさんあるのよね。
特に嬉しいのは、もう一度読みたくても何て言う本を捜せばいいのか分からなかった物語の、出典がキチンと出ていること。例えば「ごんぎつね」や「山椒魚」「くるまのいろは空のいろ」なんてのは調べるまでもなく、読もうと思えば入手は簡単なのだ。でも、その一方で、「くじらぐも」「チックとタック」「一切れのパン」「とびこめ」などは、こうして赤木氏が教えてくれなければ、誰が書いた何という本に入っているのかも分からないままだったのだから。
「ある水たまりの一生」が、大井三重子氏(=仁木悦子氏)によるもので、「水曜日のクルト」に入っていたなんて! 「くじらぐも」が、「ぐりとぐら」の中川李枝子氏の話だったなんて! うわあ、そうだそうだ、宮沢賢治の詩「クラムボンはかぷかぷわらったよ」は「やまなし」というタイトルだった! 教科書のページの写真もふんだんに載っていて、忘れていた記憶が甦り、懐かしさに嬉しくなる一冊。
(02.2.3)《この本の詳細情報&注文画面へ》
【黒鳥亭殺人事件】作中に登場するクイズ「二十の扉」との絡め方が絶妙。このエピソードがなかったら単なる後味の悪い話になっていたような気がする。
【壺中庵殺人事件】「大密室」所収。絵に描いたような物理トリックの密室モノ。
【月宮殿殺人事件】これは、そういう知識があるかないかに負う部分が大きいかな。確かに伏線はあるんだけれど、「そんなこと知るかいな」で終わる可能性もあるような。
【雪華楼殺人事件】すすすすすすすげえ偶然! でも確かに偶然ではあるけれど、こういう真相は決して嫌いではない。偶然というのは、決して起きないという意味ではなく、起きる要素が少しでもあるのなら起きてもおかしくはない、ということだもの。
【紅雨荘殺人事件】「本格ミステリ01」所収。ちょっと懐かしい、というか、古き良き謎解きという感じ。
【絶叫城殺人事件】これ、イチオシ! 「「ABC」殺人事件」を思い起こさせるようなミッシングリンク物なんだけれど、ミッシングリンクそのものはあまり問題ではない。正直、××が犯人で、これはもしかしたら××なんじゃないかしら、というのは考えついたのよね。だってそれ以外に実行可能性のある解釈がないんだもの。でも、もっと即物的な動機を予想していただけに、この真相には脱帽! グレイト!
(02.2.4)《この本の詳細情報&注文画面へ》
時刻表までついていて、いかにもトラベルミステリという体裁である。列車という密室の中での殺人については「おー、なるほど」と膝を打つ部分が半分、「そそそそそんな無茶な解釈しますか!」とノケゾル部分が半分。物理的部分は膝を打ち、心理的部分でノケゾルといったところかな。
しかし、どうも読み進んでいくうちに、そういう「密室殺人事件」だの「陶芸の里で起こった謎の事件」だのというのは、実は物語の眼目ではないのかもしれない、という気になってくるのだ。どうも他のことがやりたかったんじゃないか、と思うのよね。あたしは山田正紀氏の作品というのは数える程しか読んでいないのだが、あたしが未読の本の、後日談、あるいはシリーズものなんじゃないのかな。著者の言葉によれば、「神狩り」という著作がどうもそれらしい。
とにかく、シリーズキャラと思われる登場人物たちが経験しているらしい「過去の出来事」や「人間関係」が、この物語に大きく関係しているようなのだ。いや、もちろん殺人事件はこれ一冊で完結するし、意味がわからないということはないのだけれど……ただ、登場人物の思考や行動が、どうにも、あたしの知らない何かの前提のもとに作られているのは確かなのよね。それを知らずに読んでいると、事件は解決されたものの、どうにも割り切れない気持ちが残ってしまったのだった。
(02.2.4)《この本の詳細情報&注文画面へ》
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