アイルランドのブッカー賞受賞作家が書いた、子供向け童話。それがまぁ、抜群に面白いのよ。ホントに子供向けで、字は大きいしルビも振られてるし──小学校中学年向きくらいかな。とってもステキな装丁・挿画の割に値段も1,000円とリーズナブルだから、お子様へのプレゼントにもいいかもしれない。でも、子供にプレゼントする前にちょっと読んでみることをお薦めします。
フェイク!〜有村央生のアート事件ファイル・徳田央生(白泉社My文庫)
有村央生はロンドンに住む西洋美術史専攻の大学院生。同性の恋人・高槻純司と同棲中だ。ある日、美術館勤務の友人・ガイに頼まれてオークション会場へ付き合うことになった。ところがそこで、目玉商品である有名な絵画「フローラ」に対して思わず「フェイク(贋作)だ!」と叫んでしまう。オークション会場は大騒ぎになり……。
大学を卒業したものの就職できず、パチプロのような日々を送る就職浪人の白戸則道。ある日、彼に謎の老人が「自分のもとで働かないか」と声をかけてきた。ところが与えられた仕事は、まつば銀行の株価の終わり値を記録するだけ……?
贋作『坊ちゃん』殺人事件・柳広司(朝日新聞社)
松山での教師生活に終止符を打ち、東京へ戻ってきていた「坊ちゃん」のもとに、「山嵐」がやって来た。なんと、あの「赤シャツ」が首を吊って自殺したというのだ。それも「坊ちゃん」と「山嵐」が「赤シャツ」を殴った翌日に。あの「赤シャツ」が自殺などする筈がない、真相を求めて「坊ちゃん」と「山嵐」は松山へ向かった──。
石岡と御手洗のところに、アメリカに暮らすレオナから手紙が来た。十年以上前にレオナのもとに送られてきたファンレターに、御手洗が興味を持ちそうな記述があるというのだ。それは「倉持ゆり」という若い女性からの手紙で、他界した祖父がアメリカに住むある婦人に謝罪したがっていたというものなのだが──。ただそれだけの手紙に、箱根富士屋ホテルに伝わるという不思議な写真の謎が加わり、御手洗が壮大な歴史の謎を解く!
アイソパラメトリック・森博嗣(講談社)
ショートショートが25編に、著者が撮影した写真がたくさん。ショートショート自体は著者のウェブサイトで公開されていたものだけれど(全部そうなのかな? ちゃんと確認してはいませんが)こうして写真とともに一冊の本になってみると、モニターで読むのとはまた別の雰囲気がある。あ、忘れちゃいけない、それに加えて著者デザインのトーマ君バッヂが5ヶ。ディスプレイ用の紙製ケース付き。
捩れ屋敷の利鈍・森博嗣(講談社ノベルス)
「エンジェル・マヌーヴァ」という美術工芸品を一目見るべく、保呂草は熊野御堂家を訪れた。そこに待っていたのは、メビウスの輪を建造物で再現したという「捩れ屋敷」、そして西之園萌絵と国枝桃子。もちろん捩れ屋敷では殺人が起こり、もちろんそこは密室!
わたしは虚夢を月に聴く・上遠野浩平(徳間デュアル文庫)
「ぼくらは虚空に夜を視る」の続編──というより虚空牙シリーズのひとつと言った方が合ってるのかな。
例えば「堪忍袋の緒」「転ばぬ先の杖」のような、よく聞くけど実際に見たことないもの。そういうのを商品化しちゃおうという主旨のエッセイ。もちろん実際に商品化するわけではなく(当たり前だ)、その言葉に対して「売り手」としてエッセイを書き、そのイラストを着けるという趣向なわけだ。
天使の殺人(完全版)・辻真先(創元推理文庫)
感想、書きにくい……(笑)。だって何を書いてもネタバレになりそうなんだもの。ま、敢えてここは趣向のひとつをバラしてしまうので(と言っても物語開始早々に明らかになる趣向なんだけど)、まっさらな状態で読みたい人はここでストップ。
ギグラーがやってきた!・ロディ・ドイル(偕成社)
ギグラーってのは、「子供に意地悪をした大人に、罰として、とびきり新鮮で大量の犬のウンチを踏ませちゃう」っていう悪戯をする妖怪。で、今回のターゲットであるマック氏がウンチの前に差し掛かり、足がウンチの上にかざされ、あと10センチ、あと5センチ……という状況が実況中継のように描かれる一方で、「パパは意地悪なんかしてない、ギグラーの勘違いなんだ!」とマック氏を救いに走る子供たち。ところが話はそれだけじゃなくて、構成上の色々なお遊びがたくさんあるわけ。脱線、と言ってもいいくらいのお遊びなんだけど、シャレてて、おかしくて、センスがあって、ちょっぴり汚くて、でもやっぱり巧くて。
例えば、数あるお遊びの一つとして、各章のタイトルがメチャクチャ凝ってるのよね。傑作なのは【ミスター・マックの足とうんちとの距離を説明するための、とても短い章】という章タイトルで、本文は「二センチ」の4文字だけ(笑)。おまけにそのページでは、ギグラーがにっこり笑いながら指を2本立ててるっていう凝りよう。でも、緊迫するでしょう? あと2センチなのよ2センチ!
もちろん、ストーリーそのものも脱線しまくり。いきなり関係ない登場人物が後日談を話し始めたり、ウンチを提供した犬のローバーにも彼なりのドラマがあったり(それがまた面白い)、話の最中に作者に対して読者からツッコミが入ったり、犬からツッコミが入ったり。おまけにイラストはドラマチックなまでにステキで、ああもう、とにかく面白いから読んでみて! 子供だけのためにしておくなんて、ホントにもったいないから!
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「フローラ」が贋作かどうかを巡るアート・ミステリーなのだけれど、謎解きの醍醐味は殆ど無い。登場人物たちは様々な事件に巻き込まれるし、真相を捜そうとするのだけれど、読者に対する「騙し」や「仕掛け」がまったく無いのね。だから、央生や刑事のウォリーが見つけてきた手がかりをそのまま拝聴するしかないのである。だいたいこの手の話で、その絵画がホントに真作だったということはあり得ないわけで、どこで贋作だと証明するかが眼目になる。確かにここに出てきたような事実があれば立派な証拠にはなるけれど、ミステリ読みの読者にとっては「推理しようのない」証拠を出されてもカタルシスがないのだ。どっちかというと(ネタバレにつき反転)盗まれたキャンパスに書かれていた学生の落書きが何かの決め手になるんじゃないかと踏んでたんだが。エピローグも、この本だけ単体で読むとよくワケが分からないし。どうも同じキャラのシリーズがあるらしいんだけど。
しかし、そういうコアな本格ミステリファンを対象に書かれたミステリーではないだろうし、「ミステリ仕立ての青春ボーイズラブ小説」と考えれば、充分な面白さがあると思う。贋作の作り方なんて、「へえ」と思ったし、刑事のウォーリーの夫婦間の問題なんてディーテイルがリアルで引き込まれたし。読ませる力はかなりのものじゃないかしら。
ただ……たとえ「ミステリー文庫」と銘打たれていたにしろ、白泉社文庫なのだから「同性の恋人」は気にするには当たらないのだ……と思ってはいるものの、ううう、男同士が抱き合ったりキスしたりしてるイラストを見ると、どうにも「ミステリー」を読んでるという気が……ああああ。い、いや、ゲイの出てくるミステリの秀作はたくさんあるし、ミステリ部分とは何の関係もないのだけども、こ、このイラストは……(;_;)。
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波のうえの魔術師・石田衣良(文藝春秋)
金融クライムサスペンス、といったところだろうか。とにかく、変な言い方だけれど「バランスの悪さが絶妙」なのである。預金高第三位の大手銀行をハメるという大がかりなコン・ゲームと、就職浪人の自分探し。数字だけをパートナーにしてクールに計算していく犯罪と、下町の人情物語。銀行という巨大組織の中で蠢く社会病理と、コミカルな登場人物たち。そういう、一歩間違えると物語としての統一感を欠いてしまうようなファクターが、実に微妙なバランスで釣り合っているのだ。だから、「経済の仕組みなんてよくわかんないよぉ」「ヤクザが出てくるようなノワールは苦手だよお」などの、自分の好みとずれる部分があっても、その他の部分に取り込まれてしまい、一気に物語世界に引き込まれるのである。
無論、テーマとなるのは「銀行をハメる」である。主人公の白戸則道自身がドシロウトの段階から始まっているので、そこに出てくる金融知識は、読者も白戸と一緒に吸収できるためにまったく抵抗無く入って来る。そして「作戦」のクライマックスに向けて、あちこちに仕込まれた「準備」或いは「伏線」が一つに収束する昂揚感というのは、もう文句無しだ。
実は、銀行を悪者として描いているその手法に、正直抵抗がなかったワケではない。バブルの頃に銀行がやっていたことや、そのツケが今になって弱者に回ってきたことも事実だが、銀行に勤務する一人一人の営業マンが──それも、末端の営業マンまでもがひっくるめて糾弾されるのは、正直胸が痛んだ。しかし、そういう部分まできちんとすくい上げている作者の手腕には脱帽だ。その銀行員個人を描き、そして「作戦」の結末に「ある事」を準備する──見事!
読み始めてすぐに引き込まれ、読んでる最中は熱中しながらもアレコレ考えさせられ、そして読み終わった後に快哉を叫ぶ。とにかく、「ハマる」クライムノベルである。
(02.2.6)《この本の詳細情報&注文画面へ》
言わずとしれた『坊ちゃん』のパスティーシュ、いや、後日談、いや、やはり贋作である。とにかくこの文体模写と原作の読み解きは一読の価値ありだ。原作の味わいやクセを損なうことなく、時代背景までキッチリ加味して、見事なミステリに仕上げてある。物語が佳境に入って会話中心の謎解きになると「文体模写」がちょっとトーンダウンしちゃうのと、後半になって現れた太字を使った演出が逆に原作の雰囲気を──そして謎解きミステリとしての雰囲気を損ねてるのが気になるけれど、それは読者の好き好きだろうし。とにかくこれは凄いよ。こういう読み解きができるというのもすごいし、それが全然こじつけっぽくなくて、小粒ながらキレイに本格ミステリとしてまとまってるのもすごい。ま、トリックに無理がないとは言わないけど。
ただ、これって、原作を読んでないと面白味が分からないと思うのよね。文体模写もそうだけど、それ以前に、伏線が原作の方にあるんだもの。こういうタイトルだから「夏目漱石って誰? 『坊ちゃん』って何?」というような人は最初から読まないだろうけど、読んでるにしたって「原作にそんなシーンがありましたっけ?」と思われたら、それでもう面白味は半減だ。原作『坊ちゃん』をちゃんと読んでる人ほど楽しめる──換言すれば、初手から読者を限定している。楽しめる人には(文体模写の技術も含めて)この上なく楽しめるけれど、そうでない人には思いきりアンフェアなミステリになってしまうという危険性があるのだ。
ということでミステリ的弱さも含めて、これ単体にお薦めマークをつけるのは躊躇してしまうのだが、かと言って、パスティーシュとして考えるとこれほどのものを読まないというのももったいない。ということで、まずは原作の『坊ちゃん』を読んでから、これを読みましょう。
(02.2.11)《この本の詳細情報&注文画面へ》
ロシア幽霊軍艦事件・島田荘司(原書房)
いやあ、すごい! これはすごい! 帝政ロシア、最後のロマノフ王朝・ニコライ2世の娘である皇女・アナスタシアの話は聞いたことがあったが、こんなにもドラマチックな解釈が成り立つなんて! いやもう、総毛立ちましたね。御手洗シリーズの中では、個人的にこれをベストに認定してしまおうってくらいの感動だ。歴史ってのは、歴史ってのは、時としてなんて残酷で、そしてなんて不思議なものなんだろう。溜息。胸がつまる。そして、早く真実が明らかになって欲しいと切に願う。
てなふうに書くと「帝政ロシア? 皇女アナスタシア? 何だそれ、全然知らないし全然興味ないよ」という読者も出てくるかと思うのだけれど、そんな理由でこれを読まないなんてモッタイナイよ。帝政ロシアなんていうから難しく思えるけれど、一人の女性の正体を探るという本格ミステリだと考えて下さい。この女性が「ある人物だ」と特定するためには、与えられた材料をどう解釈すればいいのか、何が証拠になるのか。その過程はぞくぞくするほどの緻密な論理とダイナミックな推理で、これぞ謎解きの醍醐味よ。
それに、歴史ミステリにありがちな、「評論として書けばいいものを、ただ小説仕立てにした」というものではありません。写真の謎という魅力的な不可能興味を加え、御手洗らしい煌めく推理を堪能できます。もう、あのシーンには──既読の読者はすぐにどのシーンか見当がつくと思うんだけど──あたしはもう、石岡以上にビックリしたね。「えええええ、なんで、なんで、なんでよおおお」と叫び、その推理の理由を御手洗が説明したときには「ああそうか!」と膝を打つと同時に、「くーっ、これだけヒントがあってなぜ気づかなかったかなあ」と臍をかむ。これぞ本格ミステリ最大の魅力でしょ。
とにかくお薦め。歴史が苦手でも大丈夫だから。
(02.2.13)《この本の詳細情報&注文画面へ》
ショートショートに写真、トーマ君バッヂが5個ついて4300円。う〜ん……(悩んでいる)。
で、ショートショートの感想はと言えば……これがまた難しいんだよなあ。何というか、幻想的なもの、コミカルなもの、理に落ちたもの、シュールなもの、ミステリっぽいもの、皮肉なもの──傾向が千差万別なので。ただこの本は、ショートショート集として一気に読み通すよりも、一日一編ずつ、「今日の一編」という感じで読むと楽しいのではないだろうか。あたしには芸術的センスがまったく無いので、写真や装丁については(ましてやトーマ君については)言及してもピントはずれのことしか言えないのだが、パラパラとページをめくって、目にとまった写真をしばらく眺め、そしてそのページの物語を読む、というような。次のページに進みたくてもそこで我慢して、また翌日、その日の気分にあった写真を捜すというような。
ところで、どうにも不思議なことに、例えば「すべてがEになる」や「封印サイトは詩的私的手記」などの著者本人の日記を読むよりも、なんだか森博嗣という人物がダイレクトに現れているような気がするのだ。むしろ、日記やエッセイの方が、計算された演出があり、「森博嗣」というキャラクターを動かしているように見える。ここに収録されたショートショートの方が──おそらく極限まで肉を削ぎ落とした小説であるがゆえに──素(す)の著者がそこかしこに覗いているように思えるのである。
(02.2.16)
どんな建物なんだか全然頭の中に描けないぞわっはっは。自分がこれほど三次元映像のビジュアライズが苦手だとは思わなかった。ま、とにかく、途中が捻れてるだけで、円形のトンネルの中が細分化されて部屋ができてると思えばいいのよね? ね? ね? いや、今さら違うと言われても困るんですが。トリック自体は(ネタバレにつき反転)この続き部屋が捻れてようが捻れてなかろうが成立するわよね? 違います? いや、今さら違うと言われても困るんですが。
もうひとつの方の密室トリックは、なんだか昔懐かしいというか、ある意味、基本という感じでけっこうツボだった。しかしまあ、今回の眼目は密室トリックではなく、何と言っても保呂草と萌絵の対面でしょう。うーん、ホントに対面してるし。おまけにフルネームで西之園萌絵だっつってるし。その上、N大学の学生だっつってるしトドメに国枝と犀川(電話だけ)まで出て来るし。その状態で保呂草と対面するということは……って考えちゃうよねえ、やっぱり(笑)。
で、エピローグを読むと、巷間噂されているS&MシリーズとVシリーズの関係の、なんとなく傍証になるような気もするわけで。やっぱそうなのか。それっぽいセリフはビシバシ出てくるぞ。なんか騙されてないか。
と、読者がいくら勘ぐったところで、保呂草は言うのだ。「話せない」「私は永遠に黙っているつもりだ」と。これはつまり、「読者はいろいろ考えてるみたいだけど、そのことについてはこれから先も明かさないよん」と著者が言ってると考えるのは穿ちすぎかなあ。だって、そういう、ヒントだけ与えて張りっぱなしの伏線や解かれないままの謎って、けっこう多いじゃないですかこの著者。ね?
(02.2.16)《この本の詳細情報&注文画面へ》
探偵事務所を営む荘矢夏美のところに、友人の妙ヶ谷幾乃から依頼が舞い込んだ。女子高生・弥生の話を聞いて欲しいというのだ。弥生は、自分のそばから誰かが消えたという。しかし、それが誰なのかも分からないし、周囲の人はだれもそのことに気づいてない──。
と書くと、胸躍るミステリ設定なのだが……うわはははは、ワケわからん(笑)。って笑ってどうする。いや、ホントにわかんないんだもん。SFに慣れてないせいなのかしら。それとも、この虚空牙シリーズを「ぼくらは虚空に夜を視る」とあとひとつ「少年の時間」に収録されたた【鉄仮面をめぐる論議】しか読んでないせいなのかな……これ単体を独立した物語として読もうとしても、さっぱりワケが分からない。うわははは。
物語の展開自体は──消えた人物を追い求める過程はスリリングだし、この世がすべて夢だというのも「ぼくらは虚空に夜を視る」で前知識があるのでスンナリ入れたのだけれど、それ以外の、今回固有のエピソードや人間関係はサッパリお手上げ。特に観念的な部分には、あたまの中でクエスチョンマークが渦巻いておりました。これは謝るしかない。ごめんなさい。きっと、シリーズを通して読んでる人には、すっごく面白いエピソードがたくさん入ってるんだろうと思うんだけど……。
え? ただ単にあたしがトシなんだって? ぐっ……。
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ないもの、あります・クラフト・エヴィング商會(筑摩書房)
例えば「堪忍袋の緒」は頑固な職人が造ってるし、「先輩風」を吹かせるアトマイザーもある。「語り草」の種や、「助け船」まで。その数、なんと23品。「舌鼓」なんて、食生活が洋風になった昨今の事情を鑑み、鼓ではなく西洋の太鼓になってたりするのだ。「自分をあげる棚」なんてのもあるのだ。ただし、太ると棚の上に上がるのがタイヘンなのでダイエットするように、だってさ(笑)。
ぜいたくを言えば、イラストにもうちょっと凝って笑えるようにして欲しかったなあ。挿し絵としては充分すぎるほどステキなイラストなんだけど、どうせならホントに一目見て「あ、これはホントに《思う壺》だ!」「おお、これぞ文字どおり《左うちわ》だ!」と笑えるようなモノが欲しかった。それに、実際に値段とか使用上の注意とかも、それらしく──ホントに通販のカタログみたいになってたら面白かったのに。ま、このあたりは好きずきだし、そこまでやるとアザトイと思う人もいるかもしれないから、品よくまとめてクスリと笑う、というあたりならこれがベストか。
エッセイひとつひとつも、なかなか妙味。わはははと大笑いするのではなく、ニヤリとするような面白さかな。ボーナストラックの赤瀬川原平氏のエッセイ「とりあえずビールでいいのか」も面白い!
このクラフト・エヴィング商會というのは、吉田篤弘氏と吉田浩美氏のユニットなのだそうで、他にもそそられるタイトルの著作がたくさんある。「どこかにいってしまったものたち」「クラウド・コレクター〜雲をつかむような話」「らくだこぶ書房21世紀図書目録」……ね、そそられるでしょ!
(02.2.20)《この本の詳細情報&注文画面へ》
舞台はとある劇団。そこで上演される「天使の殺人」という芝居を巡って、三人の主演女優候補がオーディションのために哀島へ渡った。おりしも島は台風。そして劇団本部へ、女優の一人が死んだという電話が入る。死んだのは「北風みねこ」──それは劇の中の主役の役名だった。主演はまだ決まっていない筈なのに……死んだのは誰?
と書くと、普通のミステリみたいに見えるんだけど、実は全然普通じゃない。3人のうち誰を殺すか、決めるのは天使なのだ。天使は「北風みねこ」の魂を天上に連れ帰らねばならないのだが、誰が「北風みねこ」になるのか決まってなかった。そこで天使はとりあえず、3人のうち一人を被害者として決める。ところが、彼女が死ぬと辻褄の合わないことが出てくるので、慌てて時間を戻し、別の人を死なせてみたりするのである。わはははは、アホや(笑)。
つまり、主導権は天使にあるのだけれど、天使とて万能じゃないから過去は変えられない。これまでの劇団の中のトラブルなどを考え合わせ、矛盾のないように、トラブルのないように被害者を決めなくてはならないのだけれど……。
天使が犯人であり、天使が探偵でもある。著者お得意のメタミステリだ。メタ構造になってくると、人によってかなり好き嫌いがある分野なので、ちょっと諸手を挙げてお薦め──というわけにはいかないのだけれど、そういう趣向の勝ったミステリが好きな人にはツボだと思うよ。そしてこのメタ構造の中で、最後にきっちり地に足のついた結末を見せるのはサスガ。メタ構造にばかり惑わされて、天使の漫才にばかり目を奪われてると、大事な仕掛けを見逃すことになりかねないので要注意。
尚、これが舞台化された折りの脚本も収録されてます。これは買いでしょう。これをどうやったら舞台劇にできるんだと思ったけど、なるほどね。ある意味、原作のメタ部分をはずし、シンプルにして大がかりなどんでん返しを作ってる。これはこれで、まったく別物として立派なミステリだあ。
(02.2.21)《この本の詳細情報&注文画面へ》
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