お厚いのがお好き?


嘘つきパズル〜究極の名探偵★誕生・黒田研二(白泉社My文庫)

 間男(はざま・おとこ)は愛する妻との倦怠期を脱するため、日食を見に小笠原行きの船に乗った。ところが嵐に出会い、乗客は海に投げ出されてしまう。彼が目覚めたのは孤島の砂浜。同じ島に流れ着いたのは、スットンキョーな老婆にオタク青年、若いカップルと少女、そしてマッチョなオカマ。7人は誰もいない館を見つけ、そこに住んで助けを待つことにするが……。
 いやもう、バカよバカ(笑)。著者のウェブサイトを読んでる人なら、「おお、ホームページのまんまだあ」と思うこと間違いなしのフザケ具合。老婆は乳房をヌンチャク代わりに振り回すし、妙なモンスターは出てくるし、館の名前は「いやんば館」だし、マッチョなオカマ「ぜにーちゃん」には抱腹絶倒だし。なんせこのぜにーちゃん、秘密の地下室に続く狭い階段を降りるというサスペンスフルな状況で、「壁で乳首が擦れるうう」と悶えるくらいバカである(笑)。事件が起きるのは物語も中盤になってからなんだけど、そこまでの道のりをひたすらバカ話で繋ぐ。
 ところがバカなだけじゃないんだな。この島に秘められたおそるべき秘密、モンスターの呪い、そして殺人事件を解く段になると、メチャクチャ巧緻でフェアな本格ミステリなのだ。とにかく、毎度のことながら伏線の張り方が見事である。「なんかおかしいぞ」と読者に思わせつつ、その上を行く真相を楽しめます。
 その上、エンディングはちょっとステキ(?)なラブロマンスになってて、読後感もグッド。人間が描けないと言われた著者が、「人間は描けずともキャラなら描ける」ということを証明したこの作品。魔夜峰央氏という強力なイラストにも助けられ、わははと笑ってるうちに「ぜにーちゃんワールド」に取り込まれること必至。果たしてシリーズ化、なるか? ……なって欲しいなあ。ぜにーちゃんとエリザベス、大好きなのよあたし(笑)。 (02.4.12)
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本格ミステリ これがベストだ!2002・探偵小説研究会(創元推理文庫)

 論客揃いの探偵小説研究会が2001年の本格ミステリ界を総括。研究会メンバーが選ぶ2001年本格ミステリ10選の他、各人によるテーマ別評論が掲載されて読みごたえ抜群。ただ、去年のと比べて、座談会がなくなってるのは別に構わないんだけど、いしいひさいち氏のマンガがないのは残念だなあ。
 あたし自身は、ミステリ好きとは言いながらも、難しいことは一切考えず(というより理解できず)ただ「おお、面白い面白い」と物語そのものを楽しむしかできないわけで、たまにこういう「評論」を読むと、「へえ、そういう見方があるのか」と素直に感心してしまう。その論評が首肯できるものか吟味するというよりも、「よくこういうこと思いつくなあ、頭いいなあ」で終わってしまうのが問題なんだけどね(笑)。
 巽昌章氏の島田荘司論、柳川貴之氏による「黒祠の島」論、並木史郎氏による殊能将之論、岩松正洋氏によるメタミステリ論、円堂都司昭氏による「時の密室」論、大森茂樹氏による歴史ミステリの話、市川尚吾氏によるメフィスト賞作家たちの話、笹川吉晴氏による「ミステリオペラ」論、そして小森健太朗氏によるクリスティの誤読の話。法月綸太郎氏や田中博氏ら錚々たる面々のコラムも充実している。そして笠井潔氏と巽昌章の往復書簡。
 特に、巽昌章氏による島田荘司論には目からウロコ。
「ハリウッド・サーティフィケイト」を読んだ時に感じた違和感──物語そのものへの違和感ではなく、《新本格》というジャンルの中にあって、島田荘司という存在とその作品の違和感を感じていて、これは何だろうと思っていたことの答を、この評論が示してくれた思い。何がいいって、それを決して長すぎず、たった8ページで(文庫の巻末解説くらいの長さだ)分かりやすく平易に書いてくれてることだ。
 「2001年の本格ミステリ界にはこういう作品が目立ちました、こういう傾向がありました、その理由はこうです」というタイプの「年鑑まとめ」もいいけれど、こういう風に一点を掘り下げた文章は読みごたえがある。あたしのような「個々の物語を読むのは好きだけど、ジャンル全体から何かを求めようとはしないタイプ」の読者は、なかなかこういう評論を自ら探して読もうとはしないので、こういう安価で気軽に読める形式で出版されることは、ホントに喜ばしいのである。 (02.4.18)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

昆虫探偵〜シロコパκ氏の華麗なる推理・鳥飼否宇(世界文化社)

 うわははははは\(^o^)/。好き。大好きよこういうの。
 目立たない地味な青年・葉古小吉は、ある朝目覚めたら虫になっていた。まるでカフカの「変身」だが、彼が変身したのは何とヤマトゴキブリ。ペリプラ葉古と名を替えて、彼は昆虫の世界で探偵助手として働き始める。探偵はクマンバチのシロコパκ(カッパ)。そして事件が起きる度によきライバルとして絡んでくる刑事はオオクロアリのカンポノタス。彼らのもとに集まる事件と言えば、当然虫の世界の出来事。
 謎解きが、その昆虫の生態と密接に関わってくるために、よほど昆虫に詳しいひとでなければ「推理」はできない。伏線はあっても、知識がないと回収できないような伏線ばかり。分かってみれば謎は随分小粒で、そういう意味では、無条件に「お薦め!」というわけにはいかないのだけれど、話のタネに読んでみて欲しい一冊。謎解き云々・トリック云々ではなく、純粋に読み物として面白いのよね。
 「へえ、蛾ってそういう性質があるんだあ」「えっ、アメンボって、そうなの?」と、思わず虫の生態に取り込まれる。無論、蘊蓄過多にならずに、遊び心満載なのも嬉しい。その上、各編には人間界への皮肉があったり。キャラクタはまるで童話か「みなしごハッチ」を見てるかのようだし、第一、各編のタイトルを見ただけでかなり遊んでるのが分かるでしょ。
【蝶々殺蛾事件】突然、地に落ちた蛾。現場を目撃したスズメバチは、オオムラサキがぶつかっていったと主張するが、当のオオムラサキは触れてもいないという……。
【哲学虫の密室】動物の糞の中に卵を産みつけるダイコクゴガネ。ところが、いつの間にか糞球の中から幼虫が消えていて……。これ、イチオシ! ダイコクコガネの家族がもう、最高!
【昼のセミ】17年周期で大量発生するジュウシチネンゼミ。ところが17年目にあたる今年、鳴き声がまったく聞こえない……。唯一「推理」できた一編。
【吸血の池】早朝の池にゲンゴロウの死体が浮いた。第一発見者のアメンボは、死体から全ての体液が抜かれてるのに気づいて……。
【生けるアカハネの死】毒を持つベニボタルを擬態することで、外敵から身を守ってきたアカハネ。ところがここ最近、急に仲間がやられ始めた。擬態の効果が消えたのはなぜ?
【ハチの悲劇】オオクロアリの巣が乗っ取られた! 戦いを挑んだカンポノタスだったが……。この結末には仰天。普通なら「んなアホな!」と思うところだが、この展開だと思わず納得。
(02.4.25)
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レヴォリューションNo.3・金城一紀(講談社)

 新宿にある僕の高校は、周囲を名門校に囲まれる中にあって、有名なオチコボレ高校。他の学校のやつらからは、僕らはゾンビと呼ばれている。偏差値が、脳死状態の血圧値しかないから。そして、殺しても死にそうにないから、だそうだ。その名前を頂いて、僕らは仲間と「ザ・ゾンビーズ」を結成した。これは、そんな僕らの高校時代の物語。オチコボレの僕らでも、学校には仲間がいて、好きな教師と嫌いな教師がいて、そして──ある目的があった。それは、名門女子校の学園祭に侵入すること!
 なんとなく、池袋ウエストゲートパーク・ほのぼの学園版、といった感じか。いや、登場人物は全然「ほのぼの」じゃないんだけど──主人公は道を踏み外した元優等生で、仲間にはヤクザから勧誘が来るほど腕の立つ在日外国人や、リンパの病気で死期が近い友人や、中年女に貢がせることで金を貯めてるジゴロなど──それでも、やはり、ほのぼの学園モノの雰囲気がするのは、結局の所、高校生の生活範囲内での事件に高校生の生活範囲内で関わっているからだろう。多少ハメははずすし、刑事事件に噛んだりもするけれど、基本のところに「高校生」という立場が確固としてある。読んでてスカっとする、でもちょっとほろ苦い青春ストーリーだ。
【レヴォリューションNo.3】病気の同級生、ヒロシの死期が近い。そんな中、僕らは女子校の学園祭に侵入する方法をまだ考え出せないでいた──物語としては予定調和なのだけれど、その予定調和が安心して読める。
【ラン、ボーイズ、ラン】沖縄にあるヒロシの墓参りに行こうと、バイトして金を貯めたゾンビーズ。ところが、その金を預かった山下が、見知らぬ高校生にカツアゲされてしまい……。ラブストーリーの絡め方がいい。
【異教徒達の踊り】ストーカーに狙われているという女子大生のボディガードをすることになったゾンビーズ。うん、ミステリのアンソロジーに入れてもいいような物語。メインは他にあるのだけれど、解決には膝を打った。
(02.4.18)
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王妃の館(上下巻)・浅田次郎(集英社)

 パリの超高級ホテル「シャトー・ドゥ・ラ・レーヌ」での十日間宿泊ツアー。倒産間近の旅行会社が企画したこのプラン、実は完全な詐欺企画だった。優雅に泊まれる光ツアーが参加費150万、昼だけ部屋に立ち寄り、夜はワイン貯蔵庫に押し込まれる影ツアーは19万8千円。一部屋を二組に、意図的にダブルブッキングしているのだ。2種類のツアー客、絶対に顔を合わせないようツアコンは四苦八苦。また、集まった客達もいわくありげな人ばかり。上司との不倫の末、リストラされたOL。借金を抱え心中目的でやってきた夫婦。ベストセラー作家と編集者達。元恋人を探しに来たオカマ…。このドタバタ珍道中、さてどうなる?
 うわははは、フランス版
「プリズンホテル」というのがピッタリのコメディだ。だいたい、帯に「脱肛しつつ脱稿」なんて、それこそ脱力モノのダジャレが書かれているほどなのである。遊んでる。完璧に遊んでる。上下巻たっぷり遊んでる。しかし、遊んでると見せつつ、しっかり読者を取り込んでしまうように筆はサボらないのが浅田次郎だ。ああ、幸せ。
 はからずも、登場人物の一人である人気作家は言う。俺には予定調和の物語しか書けない。ページを開いた最初から結末が分かるような話しか書けない。しかし、それでも読者は感動するのだ、と。まさにこれよ! もう、登場人物一覧を見ただけで何が起こるか分かる、どうなるか分かるのだ。いやマジで。そして、その予想通りに物語は進むのである。きっと、この人とこの人がこう絡んでくるのよね、というのが、予想する端からビシバシ当たるってくらいの予定調和なのだ。それなのに感動するのは何故。それなのにカタルシスがあるのは何故。それは浅田次郎だからなのよ。
 ところが、読めない展開がひとつあった。入れ子構造で紡がれるルイ14世時代のフランスの王朝物語である。ああ、これがもう、実にステキなのよ。そして最後には、予想以上の予定調和。笑いと泣かせが実に見事にブレンドされた、浅田次郎の真骨頂ここにあり、だ!(02.4.19)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

Close to You・柴田よしき(文藝春秋)

 会社での権力闘争に敗れ、辞表を出した草薙雄大。妻の鮎美は高給取りだし子供もいないので、すぐに生活に困るというわけではなかったが、失業という事実の前になかなか立ち直れず、パチンコと酒に溺れる日々。ところが、ある夜、酔って外に出たところを何者かに襲われてしまう。体に大事はなかったものの、その後で妻に言われた。「主夫として、家庭に入ってくれないか」と──。
 前半は、《専業主婦》に対して「家事は手抜きし放題で、いくらでも時間はあるくせに、ワイドショーを見てくだらない井戸端会議をするしか脳がない」と見下していた主人公。ところが、この事件をきっかけに彼は《専業主婦》の気持ちが少しずつ分かりだし……というふうに話が進む。あ、これはそういう《専業主婦》への偏見がテーマなんだな、どうして妻が「主夫」だなんて言い出したのか、それを探る話なんだな──と思って読んでいくと、半ばあたりからいきなり物語は急展開する。ええっ、こんなところで、こんな事件が起こっちゃうの? と、戸惑うくらいの方向転換だ。そして、その事件が解かれたとき、予想以上のカタルシスがある。そのカタルシスは「謎解きの醍醐味」ではなく、「物語の醍醐味」なのだ。
 正直言って、構成という面になると今ひとつ洗練されていない部分はあるのだ。前半は細々したエピソードだけで話が続くので、方向性が見えにくい。後半の展開もいきなりすぎて、戸惑ってしまう。事件の真相も「それはちょっとどうか」と思う部分が多々ある。それなのに、である。読み終わってから思い返してみれば、そういうアラがあったよなとは思うのだけれど、読んでる時には一気呵成なのだ。妙に細かい日常の描写も、息詰まるサスペンスも、同じように読者を引き込む。なんだかんだ言って、ストーリーテリングの巧さはさすがだ。
 この引き込みの強さは、ひとえに、ディーテイルの巧さとリアリティにある。ガチガチの本格ミステリなら「欠点」とされてしまうような部分も、「リアリティ」「心情描写」という強力な接着剤で補修されるのである。これはルールのある謎解きミステリではなく現実なのだ、という気分にさせられるのだ。その時点で、作者の勝ちである。「万能スライサー」という台所用品が、ここまで人の心を語るとは。
 《専業主婦》を見下している人に、是非、読んで欲しい物語である。 (02.4.25)
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今池電波 聖ゴミマリア・町井登志夫(角川春樹事務所)

 2025年、中部地方の都市・今池はゴミの町と化していた。社会は秩序を失い、溢れるホームレス、殺し合う若者。白石と聖畝は金を稼ぐために、JCDと呼ばれるサイバーの少女の家を襲うことに。サイバーとは電脳空間でのディーリングを行う、政府から保護されている特権階級のことだ。そして押し入ったサイバーの家で、聖畝は妙なものを見つける……。小松左京賞受賞作。
 著者のあとがきによれば、
「バトルロワイアル」に触発されて書いた物語だとか。救いようのない社会。確かに、ここに描かれる近未来は救いようがなく、その救いようの無さは現代に端を発しているという事実は、読んでいて背筋が寒くなる。現実に立脚したSF。現実をベースとし、このまま方向転換せずに進んでいくと、20年後にはこうなってしまうのかという怖さ。フィクションとして片付けられない怖さ。これで物語の中に救いがあったりハッピーエンドだったりすれば、まだ「小説」として割り切って読めるのだけれど、救いのないままで突っ走ってカタストロフィに向かうストーリーには、SFとは言い切れないリアリティがある。
 その一方で、登場人物達の造形がやや類型的なのが気になった。《人間》ではなく《キャラクター》と称した方がいいような人物たち。小説の中での役割に特化した性格を与えられたキャラクター。それは、物語を「分かりやすく」そして「入りやすく」してくれる。それだけに、シビアな設定にも関わらずライトな感覚がつきまとう。(その割に、人物の心情変化がやや不可解だったりする箇所も。自宅に押し入った強盗から「友だちになりたい」と言われて、ホイホイ家にあげるか?)
 それが、この小説をテーマ小説ではなくエンターテインメントにしている、と言ってもいいのではないだろうか。うん、やはり、これはワザとなのだろう。 (02.4.26)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

木野塚佐平の挑戦・樋口有介(実業之日本社)

 国民的な人気をほこる村本啓太郎総理が57歳の若さで急死した。のほほん探偵・木野塚氏の周囲に、総理が推進する政策を阻止したい勢力による暗殺らしい、という不穏な噂が駆けめぐる。気がつくと、こんな重大事件の真相調査に巻き込まれていた木野塚氏の運命や如何に! お笑いハードボイルド──なのかな。
 ここ数年、作風の幅を広げてきた著者だけれど、これはシリーズ第1作よりも更に「木野塚色」が濃くなっている。小嵐九八郎氏の小説を読んでいるかのような(ホントに似ている!)語り口調なのよね。木野塚氏の天然ボケぶりがすさまじく、それが地の文になってる。だから、草平ちゃんシリーズとか、著者の一連の青春モノとかが好きでこれに手を出した人は、ちょっと驚くのではなかろうか。まったく別の作風なんだもん。
 金魚コンテストで優勝した無名の金魚を巡るトラブル、という実に身近なところから始まった今回の事件。電波系のストーカー青年が出てきたり、知り合いがホームレスになっていたりと、こういう卑近なところからどうやって一国の総理暗殺なんていう突拍子もない話に結びつけるんだろうとは思ったが、なるほど、こう来ましたか。
 前半に出てきたバラバラの事象が、後半になって一気に結びつく様はカタルシスがあるけれど、でも、その結び付け方がなんともチカラワザ(笑)。あまりに意外性がありすぎて……。だって、総理の「切り札」が何かってあたり、真相が分かったときにはひっくりかえったわよ(笑)。そんなところに、そんなもん持ってきますか、てなもんだ。
 でもまぁ、一歩間違えたら悪ふざけになってしまいそうなギリギリのところで、微妙に社会派のスタンスも入り、ドラマとして完成させる手腕はサスガ。これ、ヘタな人がやったらホントにバカミスになっちゃうと思うんだけど。 (02.4.27)
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M列車で行こう・日本推理作家協会編(カッパノベルス)

 トラベル&ストリートミステリー傑作選、とある。がしかし、いわゆる「トラベルミステリ」っぽい旅情や交通機関が描かれているのは、せいぜい半分だ。【悩み多き人生】とか【逢い引き】なんて、どこがトラベル&ストリートミステリーなんだか。いくら個々の短編のレベルが高くても、このラインナップでは「M列車(ミステリートレイン)で行こう」というタイトルにそぐわない気がするんだけどなあ。M列車なんて言うからには、全編鉄道ミステリで編むくらいの徹底が欲しいぞ。
 全部で12編が納められているが、印象に残ったのをピックアップすると
【セヴンス・ヘヴン】北森鴻:
「親不孝通りディテクティブ」所収。博多の屋台を舞台にしたシリーズで、意外なモノが結びつく快感はピカイチ。
【迷宮に死者は棲む】篠田真由美:「桜闇」所収。建築探偵・桜井京介のシリーズ。舞台は尾道で、謎解きが尾道ならでは。どうしてこの場所にしたかという必然性がしっかりしてて、単なる旅情趣味じゃないところが好感。
【愛の記憶】高橋克彦:盛岡で妻を亡くし、東京へ一人で働きに出ていた主人公。しかし、ある日、何とも不思議な出来事が起こり、妻の死の直前の《幸せな出来事》を知る──。本格ミステリとしての醍醐味はないけど、短編として実に暖かく秀逸な物語。
【阿蘇幻視行】西村京太郎:言わずとしれた十津川警部シリーズだけど、今回は奥さんが事件に巻き込まれる。それにしたって、これくらいのことは所轄でも考えついて当然だろうと思うが。
【マン島の蒸気鉄道】森博嗣:「地球儀のスライス」所収。犀川&萌絵シリーズ。ここに登場するクイズ、正解が書かれてないんだけど、鉄道好きの家族に訊いてみたところアッサリ答を出しやがった(笑)。
【湯煙のごとき事件】山口雅也:「続・垂里冴子のお見合いと推理」所収。伏線がややあからさまな気はするが、キャラで読ませる。もちろん、トリックの妙も充分。
その他、【悩み多き人生】逢坂剛、【危険な乗客】折原一、【三たびの女】小杉健治、【逢い引き】篠田節子、【幽霊船が消えるまで】柄刀一、【山魔】森村誠一を所収。 (02.5.6)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

天切り松闇がたり3〜初湯千両・浅田次郎(集英社)

 あああああ、いいっ! もう最高よこのシリーズ。NHKの金曜時代劇あたりでドラマ化してくれないかな。
 大正時代に帝都・東京を席巻した盗賊一味。目細の安、天井切りの栄二、説教強盗の寅、天井切りの栄治、百面相の常、掏摸のおこん、そして松蔵。それぞれの出会った悲しくも暖かい事件の数々を、平成の今になって、当時一味の末弟だった天切り松が拘置所で語り聞かせる。その名調子といったら、署長まで受刑者と一緒に桟敷に座って拝聴するんだから!
 とにかく見事な予定調和というか、もうハッピーエンドは分かっているのだ。多分こうするんだろう、おそらくこうなるんだろう、と予想するままに話は進むのだけれど、それでも感動してしまう。それでも泣けてしまう。ひとりひとりのキャラクターに、厚みと温度があるせいだ。そしてその描写が、他にありえないというくらいの唯一無二のピッタリした語彙で紡がれる。文章のリズムと物語の進行が調和しあい、相互に盛り上げる。これがストーリーテリングというものだ。いや、浅田次郎に関してはストーリーテリングなどといったカタカナは使うまい。語り、である。これぞ文士の語りである。
【初湯千両】説教強盗の寅は、湯に行く途中に風呂代を落として泣いている子供に出会う。日露戦争の話の後での風呂屋のシーンは、実に映像的で秀逸。
【共犯者】列車の中で偶然出会った皇室ゆかりのお姫さま。それが詐欺の始まりで……? もう、オチはミエミエ。でもそこに持っていく手腕と、オチの見せ方は最高。
【宵待草】掏摸のおこんは、偶然に竹久夢二に出会う。モデルになって欲しいという夢二におこんは……。おこん姐さんにしては珍しい話だと思ったら、ああもう、このラストは! 
【大楠公の太刀】栄二の幼なじみは有名な芸者になった後、胸を病んで入院した。死を待つだけの彼女に、栄治は……。これも、話の展開は見えるのだ。だけれど、この事件を巡る周囲の人々の思いに感動し、そしてラストの病室でのシーンに圧倒される。イチオシ。
【道化の恋文】サーカスの道化を父に持つ少年と出会った松。その少年は学力優秀の上に体操が得手で、女学生からも人気があったが……。最後に出てくる父親のメッセージが泣ける。ホントに泣ける。
【銀次蔭盃】一味の頭、安の師匠である仕立て屋銀次は、網走刑務所に収監されていた。そこで銀次が辛い目に遭ってるという噂を聞き……。ああ、男気とはこういうことを言うのよ!
(02.5.7)
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