お厚いのがお好き?


書斎曼茶羅〜本と闘う人々(全2巻)・磯田和一(東京創元社)

 有名作家や翻訳家、脚本家、大学教授といった、日頃本と闘っている職業人を取材し、本との付き合い方や収納状況をイラストで紹介したもの。2巻構成で、1巻には、関口苑生/京極夏彦/佐野洋/大沢在昌/林望/真保裕一/藤野邦夫/逢坂剛/小池真理子/藤田宜永/山田風太郎/花村萬月/磯田和一/菊地信義/阿刀田高/縄田一男/井上夢人、2巻には、鹿島茂/明石散人/二階堂黎人/泉麻人/有栖川有栖/野沢尚/金原瑞人/西村健/石原祥行/高橋英郎/藤沢周/喜国雅彦/村山由佳/乙川優三郎/福井晴敏/下宮忠雄/内藤陳が収録されている。
 1巻の冒頭、関口苑生氏の書斎のイラストにいきなり度肝を抜かれる。なななななんだ、この本の山は。収納なんてもんじゃない、とにかく空間があれば本を置くといった具合。おまけにストーブを置く場所がないからって、こんな本の山の中でガスコンロをつけっぱなしにするなんて! いやああああ、誰か、誰かすぐにあのコンロをどうにかしてえっ! と叫びたくなる。そんな状況を目の当たりにした次が京極夏彦氏の、広くて綺麗な、夢のような美しい書斎が登場するんだから、その劇的な効果と言ったら! ああ、京極氏の書斎、溜息出ちゃう。うっとり。
 とにかく、この最初の2名でグッタリしちゃうんだが(笑)、その後も、すごい書庫、マニアックな書斎、意外な書斎がテンコモリ。1巻で一番ウケたのは、床が本という翻訳家・藤野氏の書斎。「丈夫な本ばかり選んでるから心配ない」って、そういう問題?(笑)。その他、有栖川有栖氏の書斎にはJRのプレートが、福井晴敏氏の書斎にはガンダムとビグザムが、大沢在昌氏の書斎には鮫があったり、佐野洋氏は足の指で鶴を折るし、逢坂剛はフラメンコギター弾くし、もう大騒ぎ。実に楽しい。
 それにしても、正直言って、ここに登場する人達くらい金と部屋数があれば、収納の苦労なんてないでしょ、と思っていたのだ。本と闘うなんて、大袈裟な、と。ところがどっこい。特に冒頭と掉尾に関口苑生・内藤陳の両氏が配置されてるあたり、諸手を挙げて降参するしかない。いやあ、面白いわ。
(02.5.17)
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作家の犯行現場・有栖川有栖(メディアファクトリー)

 ミステリーの舞台になりそうな場所、或いは作家の創作意欲を掻き立てるような場所。そういった場所を有栖川有栖氏が巡って書いた紀行エッセイ。もちろん本格の旗手・有栖川有栖であるから、普通の紀行エッセイではない。あくまでも、ミステリ絡みである。おまけに、書き下ろしの幻想味溢れる掌編が2編。
 
「puzzle(パズル)」の軍艦島、「そして二人だけになった」の明石海峡大橋、「湯殿山麓呪い村」の湯殿山など、有名ミステリそのまんまの舞台から、江戸川乱歩邸、トリックアートの美術館、横溝正史ツアー、はたまた「富士の樹海」や「断崖」などのミステリには欠かせない場所、「(ダムに)沈める村」「灯台」などの想像の翼広がる場所。那須のトリックアート・ミュージアムは一度行ってみたいなあ。
 最も興味深かったのは、各編に於いて、その場所が舞台となったミステリを紹介してくれるページである。有栖川有栖氏によるセレクト。おお、惹かれる。「灯台」の項では、大阪圭吉「灯台鬼」と東野圭吾の「灯台にて」に挟まれて、ブラッドベリなんて入ってるのがなんだか嬉しい。「沈める村」では、泡坂妻夫「湖底のまつり」と小松左京の「日本沈没」が並んでて、その落差というか、この二つを「沈める村」で括ってしまうあたりにちょっと笑いながらも、思わず納得したり。
 ボーナストラックとして収録されている書き下ろしの掌編は【水底の摩天楼】【騙し絵奇譚】の2編。いずれも謎解きモノではなく、幻想小説。特に【騙し絵奇譚】は、その独特の奇妙な味わいの中にもゾクリとする(そして巧緻な)落ちがついていて、もっと贅肉(贅肉という贅肉は殆どないのだけれど)を削ぎ落とせば秀逸なショートショートになりそうな感じがする。 (02.5.17)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

星の国のアリス・田中啓文(祥伝社文庫)

 16才のアリスが乗った宇宙船で、出港直後、密航者の死体が発見された。しかも体内の血液をすべて抜かれて……乗船者名簿には、なんとドラキュラ伯爵の子孫の名前があるのだが、当人の姿が見当たらない。そして次なる事件が……乗員・乗客あわせて7人の中に、吸血鬼がいるのか?
 なんせ宇宙船である。おまけに、地上と何故か通信が繋がらないのだ。その密室状況・孤立状況といったら、吹雪の山荘も嵐の孤島も、《通信不能な宇宙船》に比べればオコチャマではないか。そんな中に、限られた人数の乗員・乗客がいて、死体があるわけだ。うわあ、わくわく。
 吸血鬼SFと銘打たれているので、パズラーとしてはあまり期待しないで読み始めたのだが、どうしてなかなか。ひとりずつ殺されていく過程、それぞれの秘密が明らかになっていく過程は、もっと書き込んでもっと凝ってくれれば立派な本格ミステリの長編になり得るほどなのに、ああああモッタイナイ。動機というかキッカケというか、それもなんとも悲しくて切なくて、こんなネタを惜しげもなくサクサク使ってしまうなんてッ。おまけにこの真相と来たら、「あっ、そうか!」と膝を打ってしまった。ちゃんと伏線があったじゃないか。ちくしょー、やられた。
 枚数が限られてるせいか、個々のエピソードが味わう間もなく進んでしまうのが、なんとも惜しい。もっとじっくり恐がらせてくれよお、もっとじっくり推理させてくれよお。
 ところで。今回もありました、ダジャレが(笑)。いや、最初は気づかなかったんだけどね、
ケダちゃんに教えてもらって、もう大笑い。うわあ、そこだけ抜き出して読んだら、この物語には、本格ミステリファンもビックリの「隠された被害者」が存在していたことになるではないか! っつ〜か、怒られませんでしたかコレ(笑)。 (02.5.18)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

殺人鬼の放課後・恩田陸(他)(角川スニーカー文庫)

 角川スニーカー文庫が出している、書き下ろしアンソロジーの第2弾。テーマは殺人鬼。
【水晶の夜、翡翠の朝】恩田陸:学園の寮では、ちょっとした遊びが流行っていた。悪意のこもったそのゲーム「笑いカワセミ」には由来があって……。
「麦の海に沈む果実」の舞台となった、あの学園の話。もちろん、同じ人物も出てくる。謎を解くのは美貌の少年・ヨハンだったりするわけで、もちろんパズラーとしても秀逸なんだけど、それよりも、なんだか萩尾茂都や竹宮恵子のギムナジウムものを文章で読んでるような感覚になった。「トーマの心臓」とか、ああいうのね。
【攫われて】小林泰三:「私たち、誘拐されたの」彼女の告白を聞くウチに僕は……。スリリングで、とっても切れ味のいい短編。切れ味が良すぎて、主人公がまだ幼い子供なんだということを思い出す度にゾクリとする。
【還ってきた少女】新津きよみ:自分によく似た少女がいると聞いて、その場所に行ってみたが……。オカルトっぽく始まった話が、きれいに着地する快感がある。これだけは「殺人鬼」というより「放課後」がテーマという感じ。あたしはサイコな女性とか、ちょっとイっちゃった女性ってのが出てくる話が苦手で、新津氏の作品にはちょっと二の足を踏むことがあるんだけど、これはそういう人物がいなくてとても読みやすかった。爽やかですらあるぞ、悲しい話なのに。
【SEVEN ROOMS】乙一:姉弟が誘拐され、何者かに閉じこめられた。その部屋の両側にも部屋があるらしいが……。なんとも奇妙な味わいの誘拐モノ。ラストシーンなんか、かなりのアクションであり感動シーンの筈なんだけど、それ以上に、全編を貫く、なんだかシュールな感覚な印象に残る。
(02.5.18)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

春になったら莓を摘みに・梨木香歩(新潮社)

 これ、本屋で実物を見るまでは、勘違いしてる人が多いかもしれない。小説じゃないんですよ、エッセイ集なんですよ。なんかもう、実に美しく風情のあるタイトルだから、なんとなく「西の魔女が死んだ」「からくりからくさ」のカントリー調リリシズム溢れる、あの暖かにして鋭さを隠し持つ小説世界を想像しちゃうじゃないですか。違うのよエッセイ集なのよ。それも、著者のイギリス留学時代のことを中心に描いたエッセイ集。でも、《カントリー調リリシズム溢れる、あの暖かにして鋭さを隠し持つ》という点は、エッセイ集であっても勿論健在。
 二十年前の学生時代を過ごしたS・ワーデンのウエスト夫人宅での思い出。今回、再びの渡英に際して住んだサリー州での出来事。いずれも、起こったことを淡々と書いているにも関わらず、読み手の心に細波を呼ぶ。静かな文章だからこそ、言葉の一字一句を吟味したような文章だからこそ、滲み入る。
 8章のエッセイに加えて、あとがき代わりのような「最近のウェスト夫人の手紙から」で構成されている。どの章も、ウエスト夫人の「理解できないけど受け入れる」というコミュニケーションのベースが響いてくるような出来事が綴られている。著者はこのウェスト夫人がかなり好きなのであろう、ウェスト夫人を困らせるような客人に対しては結構辛辣だし(感情的ではないけれど、斬って捨てるような辛辣さがある)、こと差別関連の話になるとかなり手厳しい。やや主観的な面も多々見られる。辛辣だし手厳しい上に主観的なのに、なんとなく「いい話を読んだ」という気にさせられてしまうのは、やはり文章力なのだろう。
 終章の「最近のウェスト夫人の手紙から」は、9.11のテロの後で書かれたものだ。この短い章が、一番心に滲みた。 (02.5.19)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

グラン・ギニョール城・芦辺拓(原書房)

 グラン・ギニョール城に集まった人々は、どこか皆一癖あるような人物ばかり。大雨による土砂崩れで孤立してしまった怪奇な城で、名探偵ナイジェルソープを擁すとも、不可解な殺人事件が相次ぐ。一方、大阪の森江春策は、特急ラピートの中で死亡事件に出くわしていた。死の直前に被害者が残した言葉は「グラン・ギニョールじょう……」。1930年代を舞台とした謎のミステリ作品「グラン・ギニョール城」と、現代で起こった不可解な毒殺事件が、クロスする?
 正直言って、はじめはツラかった……(笑)。いや、誤解されると困るのだけれど、それは別に本作のせいではなく、100%あたしのせいなのだ。あたしはどうも、【海外の古典本格】が苦手なのよ。翻訳文体がダメ──というよりも、何ていうのかなあ、あの時代がかった・芝居がかった雰囲気が苦手なのだ。「むふふふふ、吾輩には分かっておったのじゃよ」とかっていう口調が苦手なのだ。勿論、そういうケレンこそが探偵小説の醍醐味よ、というファンは多いだろうし、これはホントにあたし個人の嗜好の問題なので、どうか怒らないで欲しいのだけれど。
 だもんだから、作中作部分はかなり苦労しながら、その一方で、現代の部分は非常に楽しくノメリ込んで読んだ。双方がリンクしてるのが最初から分かってたから助かった、ってところが大きいかも。
 ところが。「こういうの、苦手だなあ」と思いながら読んでいたにも関わらず、双方がクロスするあたりからは、「おおおお、そう来たか!」という快感で一杯に。真相が分かったときには、思わず「ブラボー!」と叫んでしまった。いやあ、巧いわ。なんだかんだ言って、やっぱトリッキーだわ。こういう妙味にかけては、芦辺拓ってのはやっぱ巧いんだなあ。裏切らないもの。
 昨今、なんだか作中作ばやりで、そういう構成は決して嫌いではないのだけれど、作中作の処理がエレガントなミステリはあまり多くないのが実状だ。そんな中で、この「作中作の処理」は、実にエレガントにして巧緻、且つドラマチック。あいにくとあたし自身の嗜好の問題でかなり損してしまったけど、海外の古典本格と日本の新本格の両方が好きな人にとっては、これはもうタマラナイのではなかろうか。 (02.5.19)
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フォート探偵団ファイル1〜牙王城の殺劇・霞流一(富士見ミステリー文庫)

 「コビトワニがいなくなったので探して欲しい」……動物病院に持ち込まれた妙な依頼に、桃森高校のフォート探偵団が立ち上がった! 招待されたワニ御殿は、どこもかしこもワニだらけ。おまけに家族は揃いも揃って胡散臭い。そんな中で事件が起こり……。
 フォートってのは、フォーティアン・フェノミナのこと、つまりUFOだの心霊だのオカルトだのの不可思議な現象を表す言葉だそうだ。その手の愛好家たちが、論理的に謎を解こうってんだから大騒ぎ。いや、全然論理的じゃないんだけどね。何かと言えばUFOだの心霊だのだし。同じ著者の奇跡鑑定人シリーズに近いかな。こっちは主人公が高校生のヤングアダルト文庫ってだけで。ティーンエイジャー向けってことで、いかにも《萌えそうな》キャラになってはいるけれど──だって名前が翔天隼人とか、十文字飛美子とか──うわははは──でも基本的なところでは、やっぱりバカミスなのだ<誉め言葉よ。
 だってさー、巨大な人魂らしきものを見て、ショックで気を失う寸前に考えたことが「ホタルの尻だったら、凄いわよね」だし、ワニは踊るし、先生はボケるし。それなのに道具建てだけはしっかり本格で、わははなんじゃこりゃと笑っているといつの間にか、とっぴょーしもないトリックをかまされているわけで。
 物理的・医学的にはけっこうムチャな気はするんだが、それでも「ま、面白いからいいや」となってしまうのは、著者の人徳ならぬ作風の徳だよなあ。それに、ムリヤリとは言え「ああ、なるほど」と納得はさせられるし。見せ方が巧いのか。「建設のためにやって来た作業者の数が、入るときと出るときで変わっていた」なんていう謎、全体の中では小粒な箇所だけれど、あたしはここが最も気に入った。 (02.5.20)
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小説・スパイラル〜推理の絆2〜鋼鉄番長の密室・城平京(エニックス)

 人気コミック「スパイラル〜推理の絆」の小説版パート2。ただ、コミックになっているものとはまったく別物で、コミックを知らなくても楽しめる由。それは事実だよ、だってあたしコミックは全然知らないけど、メチャクチャ楽しめたもの。
 高校生の歩に持ち込まれた今回の問題は、なんと45年前の密室殺人事件。当時、日本中の高校生の頂点に立っていた《鋼鉄番長》こと荒木三郎太が、密室で死んでいた。自殺として処理されたが、鋼鉄番長の死を望んでいた他の番長達の存在は無視できない。歩は、当時の番長世界を描いたルポ「番長の王国」の記述を頼りに、45年前の謎を解く……。
 ぶわっはっはっは!(大笑い)
 ふ、腹筋がつる〜〜〜! 面白い、面白すぎるう! 45年前の密室を解くに当たって、当時の様子を書いたルポを読むんだけど、そのルポが面白すぎるのだ。今や死語となった《番長》ってだけでも笑えるのに、鋼鉄番長にピストル番長、魔法番長、星影番長なんかが出てくるんだぞぉ。全国の高校生を二分した番長対決だの、それぞれの番長に得意技があるだの、番長三国志時代だの、その上、語り口調までアツくって、もう、完全に30年くらい前のアツい青春マンガをデフォルメしているとしか思えないっ!
 もちろん、それを読んでいる歩は現代の高校生だから、もうツッコミまくり。胡散臭いだの、その冷静なツッコミも面白いんだけど、「番長の王国」を崇拝しているひよのの、思い入れタップリの発言もまた笑える。もとはマンガの原作だってえから、さもありなんとは思うのだが、キャラ萌えというよりも、漫才を読んでるみたいで実に楽しい。
 ところが、面白い会話や笑える話を楽しんでいるうちに、実はかなりコアなパズラーだということを思い知らされるのである。45年前の密室殺人事件を、その「番長の王国」という暑苦しく時代がかった物語を読んだだけで、キレイに解きあかす。うわ、こ、こんなところがヒントだったのかあ、というまさに謎解きの醍醐味を味わえるのだ。これはお薦め。というか、本編より寧ろ「番長の王国」にお薦めマーク(笑)。
 尚、短編【殺人ロボの恐怖】の「問題編」「解決編」も収録されている。これは非常にベーシックな推理クイズなので、ビギナー向けかなという感じ。 (02.5.21)
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お喋り鳥の呪縛・北川歩実(徳間書店)

 妹が轢き逃げにあって、意識不明の重態に陥った。そこに、以前、妹と合作で応募したシナリオを映像化したいと、テレビ局のスタッフから申し入れてきた。そのシナリオとは、発語障害を持つ子供とオウムとの交流を描いた物語。意識の戻らぬ妹の夢を叶えたいと、映像化の話に乗る主人公だが、思わぬ事件に巻き込まれ……
 おお、読ませるなあ。話がスリリングで、且つスピーディにどんどん進むので、飽きる暇がない。次から次へとエピソードが繰り出され、それが積み重なって思わぬ展開を呼ぶ手腕はみごと。
 最初は、《会話ができる天才的な鳥》だとか、《それをテレビに出そうと画策するプロデューサー》だとか、《鳥に言葉を教える能力を持つ青年》ってあたりで、これは同じ著者の
「猿の証言」の路線かなあ、などと想像していたのだが、いい意味で裏切られた。鳥の発語能力云々ってな話に流れてしまうと、それこそ脳味噌がらみの蘊蓄小説になりかねないところだが、そこはサラっと流してサスペンスの方に重きを於いたのが成功してるように思える。
 遣り手のテレビウーマンだとか、再デビューを狙う訳者崩れだとか、あまりにもステレオタイプ(に見える)キャラが少々気にはなったが、その一方で、金髪ピアスの昭島助教授や、インコフェチを以て認じる若手人気俳優とか、なかなか食わせモノのキャラも多く、読んでて楽しい。特に、蘊蓄部分を担当する昭島助教授をファンキーなキャラにしたのは、読み易さという点から言っても利点が大きいんじゃないかな。もちろん、昭島助教授のファンキーさってのは、そのためだけじゃなくて……おっと、そこは本編を読んで頂こう(笑)。
 終盤になって、若干煩雑な気はしないでもないが、この真相は「おおっ」と唸ってしまった。もちょっと伏線が欲しいところだけど、パズラーじゃないんだからオッケーでしょう。単にあたしが読み落としただけかもしれないし。クライマックスは手に汗握っちゃった。 (02.5.24)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

ふたり探偵〜寝台特急《カシオペア》の二重密室・黒田研二(カッパブックス)

 北海道の観光ムック本の取材の帰り、ライターと出版プロダクションの一行は寝台特急カシオペアの中にいた。豪華な車内だというのに、メンバーの一人、友梨は気が重い。彼女の婚約者は刑事で、今、世間を騒がせているシリアルキラーJを追っているのだ。そんな中、その恋人が事件に巻き込まれてケガをしたという報が入る。と同時に、友梨の一行の中にシリアルキラーの次のターゲットがいると分かり……。
 いつものことなんだが、物語のスタートからエンディングまで、半日くらいしかない。それなのに内容テンコモリ。死体に様々な装飾をほどこす連続殺人鬼やら、鍵のかかった個室で見つかった死体やら、おまけに《探偵役》自身に降り懸かった災難やら、室内にいたはずなのに別のところで遺体となって発見された人物やら、過去の事件のおさらいやら、ラブロマンスやら。それを、カシオペア運行中に全部片付けてしまおうってんだから、全般にゆとりがない。テンポがいいと言うよりは、緩急に乏しくて詳しく書いた「あらすじ」を読まされてるみたい。
 シリアルキラーも密室殺人も、解決が実に中途半端でスッキリしない。真っ正面からの解決とは言えない上に、この二つの謎解きのリンクが弱い(というか、無い)ために、二つの事件を並行して描いてるというふうに見えてしまい、どうしても印象が散漫になってしまう。
 と、難点ばかり書いてきたが、実はパズラーとしては、この密室事件の方はけっこう気に入っている。仕掛けそのものは非常にスットンキョーなのだけれど、読者には、充分それを証明するだけの伏線がたくさん与えられてるんだもの。実にフェア。「これ、誤植じゃないの?」と思いながら読んでた部分が、実は……というカタルシスは充分。この探偵役の設定は、有栖川有栖や井上夢人、矢崎存美に似たようなものがあるが(って書いたらモロ分かりじゃん)、こういう形に生かされるってのはオミゴトでしょう。読後感もいいし。ターゲットについての仕掛けや「動機」は、じつにこの著者らしいオチだし。
 シリーズ化されるんだろうから(でないと、解決されてない部分が残るしね)、探偵役の今後も楽しみ。しかし、この密室事件の真相に関する件は、続編からはどうなるんだ? このままなのか? そりゃたいへんだ。 (02.5.24)
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