お厚いのがお好き?


幽霊船が消えるまで〜天才・龍之介がゆく!・柄刀一(NONノベル)

 天才・龍之介シリーズ。祖父を亡くした龍之介の後見人となってくれる筈の人物を探していたのだが、その道中にさまざまな事件に巻き込まれる。物理トリックが多くて、あたしのようなおバカな読者にはチト分かりにくいこともあるんだけど、その割には、これ、けっこう好きなシリーズなのよね。
【幽霊船が消えるまで】いきなり舞台は外国。
前作の続きなワケね。旅先でトラブルに逢ったために、予定の船に乗れず、縁あって知り合いになった日本人のツテで貨物船に乗せてもらったのだが……。大がかりな部分はよくよく考えないと絵が浮かんでこなかったのだが(オイ)、指紋の件はオミゴト。
【死が鍵盤を鳴らすまで】絶対音感殺人事件、とでも名付けたいような話。さすがにこれは文章で伏線を示すのが難しいネタだけど、それにしてはとても巧く処理されてて、思わず膝を打った。ぺち。
【石の棺が閉じるまで】ダムの放流後、池に落ちそうになっている子供がいた。地元のひとと協力して助けたものの、どうやら誘拐されていた子供らしく……。出た、物理トリック! こゆのはまったく素養がないので「はあ、そうですか」としか言えない自分が虚しい……。
【雨が殺意を流すまで】徳之島までやってきた龍之介御一行。そこで起こった殺人事件。これ、犯人はここまでのことを計画・準備したわりに、詰めが杜撰だよなあ(笑)。っていうか、あきらめが良すぎない?
【彼が詐欺を終えるまで】徳之島で再会した知り合い。彼は友人の間でも評判の詐欺師で、今度もどうやら誰かを騙そうとしてるらしいが……ああ、これ好き。これイチオシ。彼が信用できないと見切った理由というのが、実に好み。
【木の葉が証拠を語るまで】山の中で見つけた死体。死体の側の葉に残っていた証拠とは?……物理的なことは分からないのでさておき(笑)、この詐欺師のキャラもいいなあ。ぜひレギュラーになって欲しいぞ。
(02.5.25) 《この本の詳細情報&注文画面へ》  

猫探偵 正太郎の冒険〜猫は密室でジャンプする・柴田よしき(カッパノベルス)

 猫探偵・正太郎シリーズの短編集だが、巧いなぁと思ったのは、正太郎視点の話とそうでない話が交互に出てくるところだ。タイトルに「正太郎と……」とついてるものは、正太郎の視点の話。つまりは猫の視点で事件に関わるわけで、これはこれで面白いのだけれど、それじゃあ書けない話もある。ここに収められた「正太郎の視点じゃない3作」は、どれもなかなかに読ませるモノばかり。3作とも主人公のモノローグ形式。この方式って一歩間違えたら「ひとりよがりの心情垂れ流し」のうざったい話になるところなのに、ディテイルが具体的且つリアルで、さすがストーリーテラーとは、こういうことを言うんだな。
【愛するSへの鎮魂歌】ストーカーの一人称。犯人の視点から描いた倒叙モノなんだけれど、事件が終わってからの会話が効いてる。知らないでいるってことは、呑気で面白いもんだなあ。
【正太郎とグルメな午后の事件】京都ジャンクフード食べ歩きの取材中、ずっとつけてくる車がいて……。正太郎の視点。人間の視点でも充分ミステリになり得る話ではあるけれど、正太郎とサスケにしか手がかりが与えられないってのがミソ。
【光る爪】不倫相手の家に行ってみたら、彼の妻が可愛がってる猫がいた。ところが猫の爪が光ってる。どうして?……これイチオシ! この女性の一人称ってのがまた効果的。二転三転する展開も見事。
【正太郎と花柄死紋の冒険】マンションの花壇で猫が死んでいた。猫の周囲には足跡が花のような形に残されていて……ま、まさか、猫のダイイングメッセージ? ……実際に事件の時の時間の余裕を考えると、チト辛いかなという気はする。
【ジングルベル】クリスマス・イブを一人で過ごすのが怖いOLの話。あああ、なんか切ない。一歩引いてみればバカなお姉ちゃんの話でしかないのに、こうしてディテイルにリアリティを持って描かれると、実に胸に迫る。巧い文章ってのは力を持つもんなんだなあ。
【正太郎と田舎の事件】田舎の蔵で起こった密室殺人。この「騙し」のトリック、運に支えられてるとはいえ、シンプルにして秀逸だと思う。
(02.5.28)
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暗い宿・有栖川有栖(角川書店)

 《宿》をテーマにした火村&アリスのシリーズ。どれも安心して読めるし、充分すぎるほど楽しめるのだけれど、全体にインパクトが薄い。短編だから仕方ないのだけれど、学生アリス3部作や「幽霊刑事」のように、長編に傑作が多い著者なので、ここはやはりどうしても食い足りないのよね。贅沢とは分かってるんだけどさ。
【暗い宿】取材旅行の山中で具合が悪くなり、もう営業していないという民宿に無理を言って泊めてもらったアリス。ところが夜中に何かを掘るような音が聞こえて……。推理というよりも、取材の結果で導かれたという気がしないでもないが。2時間ドラマにすると面白そう(<誉め言葉よ、念のため)。
【ホテル・ラフレシア】南の島の楽園、ホテル・ラフレシアで、ミステリ・イベントが開催された。ゲストとして招かれたアリスと、おまけの火村が出会った出来事とは……。《出来事》の方は今ひとつスンナリ納得できないのだけれど、「ホテル・カリフォルニア」の詩を使ったことが舞台効果を上げてる。
【異形の客】大阪近郊の温泉街。そこに、顔をマスクとサングラス、そして包帯で覆った客が現れた。その客が泊まっている離れで事件が起こり……。論理パズルとしては、これが一番面白かったかな。パズル以外の部分も(顔の話とかね)楽しく読めたし。
【201号室の災厄】火村が泊まったホテルに、偶然、海外の大物アーティストが泊まっていた。ところが、そのアーティストの部屋で……。いやもう、これは何と言っても火村先生のアクションが見られるってのがもう! ただ、このラストは、好みが分かれそうな気がするなあ。
(02.5.29)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

戯作者馬琴 天保謎解き帳・永井義男(祥伝社)

 江戸時代のいろいろな人物を探偵役に据えた物語を書いてる著者だけど、今回の曲亭馬琴ってのは、過去の作品の中でも最もメジャーな探偵役なんじゃないかしら。「八犬伝の著者」という誰もが知ってるネタがあるから、そういう意味では読者もこの探偵の「人となり」を受けとめ易いし。事件が全部犬がらみってのも、もちろん「八犬伝」がらみ。
 目を患ってからの馬琴が、息子の嫁のお路に口述筆記をさせてる時代の話。癇性だった息子が死んでから嫁が元気になったはいいが(笑)、ろくに教育も受けてないお路が馬琴の言葉を文章に写すのはやはり大仕事。そんなお路の気分転換は、下掃除(便所の汲み取り)にやってくる斧吉との会話だ。斧吉は世間で聞き込んできた色々な噂話をお路と馬琴に聞かせる。馬琴は武士だったというプライドがあるので、下掃除人ふぜいと直接口をきいたりしないため、何か質問があればお路がいちいち仲介するのだ。互いに聞こえてるのに(笑)。
 そして斧吉の話を聞いただけで、事件の真相を当ててしまう、安楽椅子探偵・馬琴なのである。でも、どの話も《出典》があるってのが、ミステリとしては気に掛かるんだけどね……。プライドの高い舅と、そんな舅に手を焼きながらも明るい嫁、ちょっと粗忽者だけど意外と剣の腕は確かな斧吉。なかなかに楽しくていいトリオである。
【人面犬騒動】人間の顔をした犬がいると評判になった。顔が似てると言われて迷惑していた人物が二人いたが、一人は火事で焼け死に、もうひとりは行方知れずに。犬のたたりか?……ああ、これはもう、ミステリの黄金パターンだ! 読みながら「あれだ!」と叫んじゃったわよ。
【「犬に小判」騒動】戸締まりを厳重にしていた屋敷に賊が入った。二人を殺し、金を盗んで逃げた賊は、どこから入ったのか?……謎解きがなかなかにキレイで(その手段は汚いんだけど)、これがイチオシ。バラバラに見えた事象が繋がる気持ちよさがある。
【オランダ犬騒動】落とし物を拾った斧吉が自身番に届け出たところ、殺人の疑いをかけられてしまい……。謎解き部分よりも、ラストシーンにちょっとほのぼのしちゃった。このシリーズは続編が読みたいな。犬がらみじゃなくていいから。
(02.5.31)
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名探偵は、ここにいる・太田忠司(他)(角川スニーカー文庫)

 角川スニーカー文庫の書き下ろし本格ミステリのアンソロジー第一弾。テーマは「名探偵」なわけね。
【神影荘奇談】太田忠司:名探偵は狩野俊介。わーいわーい、俊介君だあ。行き着けの喫茶店「紅梅」で出会った男性が、自らが体験した不思議な出来事を野上と俊介に相談してきた。とてもこの世の出来事とは思えないのだが……。こういう幻想的な、到底現実とは思えない出来事ってのは、それが現実離れしてればしてるほど、真相はひとつしかないだろ、という気になる。そういう意味では、「真相」は結構割れやすい話。でも「夢としか思えない出来事の真相はこうでした、ほら、これなら説明がつくでしょ」で終わりではないところが、俊介君シリーズのいいところ。このシリーズの醍醐味は、まだ子供の俊介君が《人間の罪と業》と向き合うところにあるんだから。
【Aは安楽椅子のA】鯨統一郎:名探偵は安楽椅子。そう、これがホントの安楽椅子探偵だ!……ぶわっはっはっは。こういうのは好きなんだけど……。なんか個々の登場人物のキャラがあまりに作り込み過ぎっていう感じがして、すんなり入っていけない。ま、これは好き嫌いの問題ですね。ところで、ここに出てくる「安楽椅子」って、安楽椅子じゃないでしょ。これって揺り椅子じゃん。アームチェアとロッキングチェアって別物なのに。
【時計仕掛けの小鳥】西澤保彦:久しぶりに寄った書店で買った本に、なぜか母のものと思われる書き込みがあった。新刊書店でどうして? 手にした1冊の本から、過去の事件が思い出されて……。ああ、これ好き。キレイだし、膝を打つ快感も充分。読後感はいいとは言えないけれど、これぞ論理、これぞ日常(?)の謎、というお手本みたいな作品。お薦め。
【納豆殺人事件】愛川晶:名探偵は代理探偵の愛ちゃん……じゃなくて、そのお父さん。わお、伝説の刑事が活躍する話、初めて読むかも。わくわく。……って、納豆かよ!(笑) いや、これも好きだなあ。「なぜ胃の中に納豆が詰まっていたのか」というあまりにも魅力的(?)な謎のせいで、もうこの謎だけで充分、答はいらないわという気になってしまったくらいだ(笑)。実際、読み終わってからも、真相より謎の方が強烈に残ってるし。 (02.6.1)
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しゃばけ・畠中恵(新潮社)

 江戸の町の大店「長崎屋」の若だんな・一太郎は17歳だが、幼いころから体が弱いため、大事に大事に育てられた。咳をすれば布団が敷かれ、箸より重いモノは持たせて貰えない。その上、亡くなった祖父の遺言で、一太郎には妖怪がボディーガードに付いて(憑いて?)いるのだ。
 そんな若だんながある夜、ボディガードの目を盗んでひとり歩きをしているとき、人殺しの現場を目撃してしまった。犯人に気づかれ、襲われそうになったところを、妖怪の手を借りて命からがら逃げ出す。ところがこの人殺し、のちにとんでもない「連続薬屋殺人事件」に発展する。そして人殺しの捕り物はいつしか妖怪退治へと変貌して行く事に……。
 第13回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。「しゃばけ」とは「娑婆気」と書き、通俗的な利益や名誉を求める心を指す、のだそうだ。いやあ、いいなあ、これ。妖怪と言えば最近は京極夏彦っぽいものがすっかり主流になってしまったが、こういう《妖怪との共存》《楽しくコミカルに妖怪とつきあう》ってのも、すごくいいぞお。おまけに、あまりに過保護に扱われる一太郎がもう、おかしくておかしくて……(笑)。食欲がないだけで大騒ぎ、何かあったらたいへんだと外にも出してもらえず、17才だというのに親からはお菓子を手渡される。おまけにボディガードの妖怪は「一太郎さま大事」だから、親に輪をかけて過保護だし。息が抜けるのは幼なじみの栄吉といるときだけ。いやタイヘンだあ。江戸時代を舞台にした時代物にしてキャラ萌えの要素がある珍しい作品。
 この妖怪ボディガードは、普段は長崎屋の手代として働いている。犬神の「佐助」と白沢の「仁吉」。その他にも一太郎のそばには、細々した妖怪がたくさんいて、情報を収集してくれたり助けてくれたり。はからずも巻き込まれてしまった「薬種問屋殺し」の下手人探しに乗り出す一太郎は、意外な事実が直面するわけだ。
 「こんな犯人じゃあ推理の面白さはない」という向きもあるかもしれないが、最初から妖怪話だと分かってるんだから、これはこれでアリだと思う。薬屋殺しに一太郎自身の問題も絡み、それが「なぜ一太郎には妖怪がボディガードについてるのか」という大前提にまで話が届くあたりは圧巻。ああ、これ、シリーズにして欲しいっ。 (02.6.5)
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東京物語・奥田英朗(集英社)

 1959年生まれの田村久雄の青春の断片を綴った連作。予備校に通うために名古屋から上京した久雄。後に大学を中退し、弱小広告会社に入る。バブル景気を背に受けてそこそこ売れて、という時代。その中の何日かを抜き出した形式。
 決して「傑作」ではないし、地味だし、同じ著者の
「最悪」「邪魔」が好きな人には薦めにくいんだけど、それでも、あたしにとっては面白かったなあ。これは読者を選ぶ話だと思う。まず、昭和三十年代生まれであること。主人公は1959年生まれなんだけど、その前後5年ずつくらいね。1964年生まれのあたしがギリギリ「実感としてわかる」世代だと思う。だからあたしは楽しめたけれど……誰でも、というわけにはいかないだろうなあ。
【あの日、聴いた歌 1980/12/9】東京の弱小広告代理店に勤める田村久雄の1日が描かれる。バブル以前の、雑用に追われる師走の1日。久雄はジョン・レノンの死を知る……。主人公の背景を知ることのできる、序章のとしての章。
【春本番 1978/4/4】最初のエピソードから時は遡る。この日、田村久雄は東京の予備校に通うため、名古屋から上京。初めての都会で、食事をするところも見つけられず、同じ高校出身の友人が東京に出てきていることを思いだし、下宿を探す。その途中、後楽園球場のそばを通ると、キャンディーズの解散コンサートの歓声が聞こえてきて……なんて純朴なの久雄。でもわかるなあ。淋しいという自覚のないまま、友人を訪ねて右往左往する18才。
【レモン 1979/6/2】そして入学した大学。そこで入ったサークルでの話が描かれる。タイトルそのまんま、甘酸っぱい。大学生の不器用な恋。
【名古屋オリンピック 1981/9/30】父親が事業に失敗したため、大学を中退。弱小出版社で働く。序章の翌年にあたり、かなり仕事ができる男になっている久雄。そんなとき、名古屋の実家から「今日、オリンピックが名古屋に決まる。そしたらお父さんの会社も持ち直す」と電話が入る……。ああもう、これは琴線に触れまくり。だってあたしの会社員時代とそっくりなんだもん久雄。驕り、たかぶり、思い上がり。それをヘコませてくれる先輩。無力を思い知らされる瞬間と、見下していたものの長所を発見するショック。うわあ、たまんない。あまりに身に覚えがありすぎて、赤面しながら読んだくらい。
【彼女のハイヒール 1985/1/15】結婚ということを周囲から意識させられる年齢になってきた頃。ちょっとした恋愛ドラマか。でも、「結婚に対する名古屋文化」のあたりが面白かったな(笑)。
【バチュラー・パーティー 1989/11/10】バブル崩壊前夜。結婚する仲間を祝うバチュラー・パーティは、どこか淋しい。そしてそれ以上に淋しいのが、バブルの実態に気づきながらも踊ることをやめられない、あの時代のサラリーマンなのかもしれない。 (02.6.7)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

太閤暗殺・岡田秀文(光文社)

 第5回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した、時代ミステリ。
 老境にさしかかった秀吉は、年とってから生まれた子供・お拾(のちの秀頼)を溺愛していた。なんとかお拾に、自分の地位を継がせたい。ところが、秀吉に男の子が授からないとき、秀吉は甥の秀次に関白の座を譲ってしまっていた。このままでは、自分なきあと、秀次とお拾の関係はどうなるのか?また一方、当の秀次も、自分は既に秀吉にとって邪魔者であることに気づいていた……。
 秀吉と秀次という主要人物ふたりは、とりあえずは動かない。動くのはその側近たちである。秀吉の子・お拾にとって邪魔になる秀次を陥れようとする石田光成や前田玄以。それを阻止し、秀次の世を作ろうとする木村常陸介。そして常陸介は、ある男に太閤の暗殺を命じる。ある男とは──釜茹でになって殺されたとされていた、石川五右衛門だった!
 うわあ、面白い面白い! 謎解き的観点からは、五右衛門一派がどうやって堅牢な牢屋から脱出したのかという密室(?)トリックがある。それはそれで、「ああ、なるほど!」と思わせてはくれるのだけれど、しかし物語全体の中に於いての重要度は薄い。というより、他が面白すぎるのよ。
 石川五右衛門一派に太閤暗殺を命じたあとの、木村常陸介の動き。暗殺計画を察知した前田玄以の対抗策。このふたりの戦略も面白いし、警備に厚い伏見城を、石川五右衛門一派がどう攻略しようとするのか、そのヘンも見所満載。そしてクライマックスで二転三転するストーリー。ホントに物語の終わり近くなって、「ええっ、どゆことどゆこと」「ひえええっっ、うっそぉ!」とひっくり返ったわい。いやおみごと。天晴れ!
 歴史小説というにはフィクションが多すぎるんだけど、それでも、史実(とされていること)や五右衛門・秀吉に関する数々の言い伝えとの整合性など、細かいところまでキチンと構成されている。このあと、秀次がどうなったかを史実として知っているからこそ、途中で壊れていく秀次の様子が胸に迫るのよね。それに、木村常陸介の妾や子供の話、五右衛門の子供時代の話、前田玄以が牢破りの秘密を見抜こうと呻吟するくだりなどなど、メインストーリーを脇から固めるエピソードも秀逸。
 ミステリとしても時代小説としても、これはお薦め! (02.6.8)
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笑殺魔〜ハーフリース保育園推理日誌・黒田研二(講談社ノベルス)

 ハーフリース保育園に営業に来た幼児教材会社の営業マン・次郎丸は、保育園で大学時代の後輩・緑に再会する。彼女はハーフリース保育園の保母をしているのだ。美男子の園長や実務をとりしきる謎めいた美女・瑞穂にも紹介され、営業活動をしようとしたその時、子供の母親がどなりこんできて──。
 保育園を舞台にしたシリーズ1作め。これまのトリック一辺倒の作風をガラリと変えて、キャラ作りに力が入っている。優しさと、自分がモテることを自覚して中年女性をコントロールするしたたかさを合わせ持つ園長が名探偵の役柄。なんだか謎が多そうで、でも天然ボケの美人女史。明るく可愛い、でもなんだかそれだけじゃなくて結構「できる」感じの保母。そこに《巻き込まれ型》の主人公が飛び込む。
 その保育園に通う子供が誘拐されて、というのがメインの事件なんだけど、その事件が起きるまでが長いこと(笑)。もちろん、園長室での小さな事件とか、空き巣騒ぎとか、細かい事件はいくつかあるんだけどね。だけど、今回はキャラやエピソードがしっかりしているので、事件が起きるまでが長くても飽きない。さくさく読まされて、おまけに細かいエピソードで巧く登場人物を紹介してしまう。
 そして肝心の誘拐事件の方は……みどころは、「妙にちぐはぐな事件」ということにある。なんだか行き当たりばったりのようで、でも周到に計画されてるような感じもして、この違和感は何? というあたりだ。ただ、せっかくの《どんでん返し》が、この手法だけどイマイチ活かされていない気もする。(ネタバレにつき反転)営利誘拐とみせかけて、本当は荒畑殺しの犯人を雪村になすりつけるのが狙いだった。と思わせておいて、真犯人の動機は過去の事件を闇に葬ることにあった、という二段構えの動機が隠されていたのに、真犯人の動機を共犯者がペラペラと喋ってしまうために、どんでん返しの面白味がないのだ。それに、この方法って、けっこう犯人にとって綱渡りかも……。警察が出てきたら、簡単に捕まるし、隠したかったことまで全部バレちゃうと思う。あの動機なら、こんな方法をとらずとも、もっと簡単な方法があるんじゃなかろか。
 でもまあ、シリーズ第1作ということで、今後に期待。けっこう登場人物にもそれぞれ秘密がありそうだしね。それにしても主要女性キャラの名前が、瑞穂・緑・千種って……(笑)。名古屋人大笑いのネーミングだ。園長の名前は最後まで出てこなかったけど、昭和とか天白とかって名前に違いない。うわはは。 (02.6.10)
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