なにごとにも積極的に関わろうとしない省エネ少年・折木奉太郎は、高校入学を前にして、旅行中の姉から「高校では古典部に入りなさい」という手紙を受け取る。言われた通り入部したものの、そこで彼を待っていたのは、いつの間にか密室になった教室や毎週必ず借り出される本、ある筈の文集を「ない」と言い張る少年、そして「氷菓」という名前の文集に秘められた、33年前の真実……。第5回角川学園小説大賞奨励賞受賞作品。
何の変哲もない、家族。舅、夫、私、そして娘。私の妹夫婦も近所に住んでいて、私は妹がカルチャースクールに行っている間、姪を預かることが多い。本当は迷惑だから断りたいのだけれど……。でも、私は予想していなかったのだ。あの暑い夏の日の午後、この普通の家で、あんな怖ろしい事件が起こるなんて。
図書室の海・恩田陸(新潮社)
恩田陸のノンシリーズ短編を集めた作品集。ノンシリーズと言いつつ、「あの作品に出てきた、あの子」がところどころに登場する。しかし、この人の書くものは総じて、文章も物語も並外れて美しく、ややもすれば幻想的ですらあるために、続けて読むと「ああ、もっと生々しいものや硬いものが読みたいっ」と思ってしまうのよね(笑)。
死ねば いなくなる・東直己(角川春樹事務所)
これまでの東直己の作風とはかなり変わった、ちょっと奇妙な味の短編集。2作目以降は、はっきり「SF」と銘打ってもいいんじゃなかろうか。どれもなかなかにシャレてて好きなのだけれど、終わり方が唐突なものが多く、ページをめくったら次の話の扉があって「えっ、これで終わりなの?」と戸惑ったことったら。
維納音匣は、ウィーン・オルゴール、と読む。霞田志郎シリーズ第4弾。
「レンテンローズ」は不思議な花屋。え、こんなところに花屋なんてあったっけ? と思いながらも足を踏み入れると、そこにいるのはお喋りなインコと、優しい店主。店主の入れる美味しいお茶は、悩みを抱えた客の心を解きほぐす。そしていつしか、謎までも解きほぐされ……しかし、真の謎を解きほぐすのは、闇の存在「アカンサス」! 「レンテンローズ」はひとつの謎を解くと消え、別の街に現れます。次はあなたの街かも……。
マレー鉄道の謎・有栖川有栖(講談社ノベルス)
犯罪研究家の火村と推理作家のアリスは、マレー半島に旅行に来ていた。マレー鉄道で列車の追突事故が起こり、死者が多く出た直後のことだった。そして二人は、マレーシアのホテルに滞在している間に、殺人事件に出会う。死体はトレーラー・ハウスの中にあり、そのトレーラーハウスは窓やドアがガムテープで目張りされていたのだ……。
朽ちる散る落ちる・森博嗣(講談社ノベルス)
土井超音波研究所の地下、出入り不可能な密室で奇妙な状態の死体が発見された。この部屋の状態では、このような形の死体にはなり得ない──いったい何があったのか?
僕は気づいてしまった。悪の組織NHKの正体に。僕が大学中退なのも、無職なのも、ひきこもりなのも、みんなNHKのせいなんだ。NHK──日本ひきこもり協会の。悶々とした日々をおくる「ひきこもり」の主人公・俺は、ある日、アパートにやってきた宗教勧誘の奇妙な女の子に出会う。そして隣には、俺同様のひきこもりの後輩が越してきて……。
熱球・重松清(徳間書店)
学者である妻のボストン赴任を機に、俺は会社を辞めて小学5年生の娘と共に故郷に戻ってきた。妻の任期は来年の夏まで。それからどうするかはまだ決めていない。とりあえず帰ってはみたものの、実は嫌な思い出ばかりの故郷。帰って来るなり、故郷の嫌な面ばかりが目につく。優しい声をかけてくれるのは、高校時代の野球部の仲間くらいだったが、その野球部の思い出が実は一番辛いんだ……。
氷菓・米澤穂信(角川スニーカー文庫)
前半は、高校を舞台にした「ヤングアダルト系キャラ」による日常の謎、ってとこでしょうか。どの謎も、小粒でありながら玄人受けしそうなネタ。やや強引な謎解きではあるけれど、でもどうしてなかなかエレガントだ。ただ、キャラの個性や、少々斜に構えた奉太郎一人称の地の文の個性に押されて、謎ときの面白味はさほど前面には出てこない感がある。
しかし後半になり、文集「氷菓」を巡る一件になると、俄然社会派。キャラ萌え系社会派、と名付けたくなるホドである。なるほど、あの時代のあの風潮を、今になってヤングアダルト系ライトミステリーのテーマに持ってくるとは! 今の高校生にあの時代の価値観を理解させるのは難しいだろうと思ったが、まさに、その「理解しづらい価値観」そのものが謎解きのテーマになっているわけだ。「あれ」を萌えキャラたちが論じるという、一種シュールと言ってもいいような設定が実に衝撃的。これはお薦めだ。
ただ、どうしても気になることが一つ。「毎週必ず借り出される本」のくだりに出てきた(ネタバレにより反転)学校史の本(57ページ)に、大出という学生が死亡してるっていう記述があるのよね。この名前って、顧問の先生の名前と同じでしょう? これが絶対に伏線になってると思ったのに、最後まで何も言及されなかったのよね。何も関係なかったの? 単なる偶然、単なるミスディレクションだったの? それとも、あたしが何か読み落とした?
(02.6.15)《この本の詳細情報&注文画面へ》
白光・連城三紀彦(朝日新聞社)
おお、連城三紀彦、やっぱすごいぞ! これはお薦め。今のところ、今年のベストに推したいくらいだ。
娘を連れて歯医者に行っている間、預かっている姪の姿が見えなくなった。そして見つかったときには……そこからは次々と一人称が変わる、トリッキィな本格ミステリである。フェアな犯人探しかと問われれば、チト違うのだけれど、逆転に次ぐ逆転は、まさにトリッキィの極地。おまけに「ああっ、これが伏線だったのね!」という騙される快感も大きい。叙述トリックも多く著している著者ならではの(これは叙述トリックというわけではないよ)、『読ませるミステリ』。そしてこの真相は!
誰が犯人なのか、というミステリ的興味もさることながら、やはり特筆すべきは、ここに描かれている家族それぞれの思惑だろう。「私」以外にも、ボケが始まったらしい舅、真面目なだけで面白味のない夫、自分とはあまりにタイプの違う派手好きで遊び好きな妹、そんな妹との共通点などまったく見当たらない妹の夫。妹夫婦の一人娘も、なぜか私にはなつかない。そして、そんな「私」たち姉妹とそれぞれの夫を結びつけた、今は亡き姑。それぞれにドラマがあり、それぞれが建て前と本音を使い分け、それぞれに「狙い」がある。「相手」の動きを追いながら、自分の動きを悟られないようにする家族たち。騙しているつもりが黙れていた家族たち。救いのない展開。物語の前半から《当然予想されてしかるべき》だった事実が、上手に隠され、そしてそれが徐々に露になっていく過程の、その怖さ。或いは、興奮。
読み終わって残るものは、得体の知れない不気味な感情だ。恐怖、と言ってもいいかもしれない。しかしその恐怖とは、ホラー小説を読んだときのそれではない。心がしん、とする薄ら寒さである。しかし、これほどまでに救いのない物語でありながらも、読み終わったときに、どこかスッキリしている自分がいるのである。
やはり、連城三紀彦は、巧い。すごい。これは諸手を挙げてお薦め。
(02.6.20)《この本の詳細情報&注文画面へ》
【春よ、こい】これイチオシ! SFの範疇に入るんだろうけど、目の前に吹雪のように散る桜の花びらが浮かんで来る。何の予備知識もなしに読んで欲しい作品。「異形コレクション・時間怪談」所収。
【茶色の小壜】交通事故の現場に居合わせた時、たまたま目にした同僚の動きは……。「血の12幻想」所収。
【イサオ・オサリヴァンを捜して】まだ上梓されていないSF長編の予告編的短編なのだそうだ。タイトル通りの物語なのだけれど、次第に露になるイサオの人となりに、少々戸惑う。
【睡蓮】「蜜の眠り」所収。「麦の海に沈む果実」の、理瀬の幼年時代の話。
【ある映画の記憶】「大密室」所収。
【ピクニックの準備】これも、長編の予告編的短編なのだそうだ。実際、この短編が面白いかと言われると困るが、「長編の一部(予告編)なんだよ」と言われた方がピンと来る。この長編、読みたいぞっ!
【国境の南】とある喫茶店の常連が次々に死んでいく──道具建てはミステリなんだけど、ホラーだよなコレは。
【オデュッセイア】ファンタジーというかメルヘンというか。土地そのものが移動する話。
【図書室の海】「六番目の小夜子」の番外編。あの話に登場した関根秋の姉・夏の話。本編はけっこう怖かったんだけど、これはまた何というか……校内ではこういうふうに扱われてたのかあ。
【ノスタルジア】集まった僕たちは順に「懐かしい話」を披露する……ああ、なんか「黒と茶の幻想」を彷彿とさせる雰囲気。
(02.6.21)《この本の詳細情報&注文画面へ》
【困っている女】喫茶店を経営している奈津子は、常連の女性から「ストーカー被害に遭っている」という相談を受けるが……。サイコサスペンス。この終わり方が、これからの事態の思わぬ変化を示唆してる。
【梅雨時雨】札幌で浮浪者暮らしをし、餓死寸前のところをラーメン屋に救われたソクラテス。しかしそのラーメン屋を事件が襲い……。うわははは、これ好き。はじめはソクラテスってのはあだ名かと思ったんだが、ホントにあのギリシャ哲学の祖・ソクラテスなのよお! こんなムリヤリの大前提を、何の解説もなく当然のように話を運ぶあたりが(笑)。それが結構シリアスな話だったりして、どんなにシリアスでもソクラテスが出てるって時点でおかしいだろそれは、とつっこんでしまう。おまけに、このオチといったら。田中啓文を思わせる脱力ダジャレ落ち。ああ、これ好きだわああ。
【死ねば いなくなる】仕事を辞めたという後輩と、一杯やったあとに「自宅で飲もう」ということにした主人公。自宅近所のラーメン屋の前で待ち合わせたのだが、彼が来ない……。うわあ、こういうのってSFではよくあるネタだけど、話との絡ませ方が巧いなあ。ラストなんて、もう最高に切ない。
【路傍の石】いつもより1本早い電車に飛び乗った俺。ところが、その電車の中には……。んげっ、ナンセンスSFって雰囲気で、読んでてかなり気色悪い。実の所、結構なホラーだぞ。
【ビデオ・ギャル】知り合いから貰ったアダルトビデオに出演していた女優が、たまたま訪れたバーのカウンターに居た……という出だしなので、てっきりサスペンスなんだと思いきや。ぐるぐると入れ替わる登場人物や時系列に翻弄される心地よさ。最もSF色が強い作品。
【逢いに来た男】売春婦に惚れた学生。純愛を貫こうとした矢先、幽霊が現れ……ホラーの要素が強いが、それ以上に「北の恋愛小説」といった風情。
(02.6.22)《この本の詳細情報&注文画面へ》
維納音匣の謎・太田忠司(祥伝社文庫)
新進漫画家・霞田千鶴は、ボーイフレンドである刑事・三条に誘われて「ウィーンの銘菓とモーツァルトの夕べ」というイベントに参加した。お菓子を食べながらも、何かいいたげな三条。もしかして、プロポーズなの?……ところが、そんな折り、事件は起こる。退場したピアニストが自室で殺されていたのだ。
シリーズの中で、あたしが最も好きな話。これを機に霞田志郎シリーズは「犯人との対決」が前面に押し出されるようになる。もちろん、連続殺人は起こるし怪しい人物はテンコモリだし、密室はあるしアリバイはあるし動機もあるし、本格ミステリとしての道具建ても万全なのだけれど、白眉はラストの「犯人との対決」なのだ。
悩める探偵・霞田志郎は、これまで事件に関わる度に、人の心の暗黒面に触れて落ち込んで来た。悲しい人々の心の奥まで土足で入っていかねばならない探偵としての宿命に悩んで来た。が、ここへ来て志郎は、「憎むべき犯人と真っ向勝負」をするのである。志郎の依って立つ信念に基づいて。名探偵としての志郎のスタンスが、悲しみから怒りへシフトするのだ。つまりは、過去のシリーズ作品に比べると、それだけ犯人像がクリアになっているということ。志郎が憎むべき犯人ってのは、こういう人物なんだなあ、というのがハッキリ分かる。それは即ち、現代に巣くう「やりきれない犯罪」の多くに通じるものがあるのだ。
てなことをあまり書いてしまうと興を削ぐので控えるが、とにかく、最終章の「志郎の怒り」はミモノ。この章を読んでる最中で、「ああ、あのシーンはこういうことだったのか!」と膝を打つことしきり。と同時に、少々薄ら寒くなったりもする。
それにしても、このエピローグは気が抜けるなあ(笑)。これまでのシリーズはどれも、シリアスで悲しかった本編から「一気に脱却! 今日からまた元気!」という明るい読後感に変える効果があるのだけれど、今回はそれが秀逸。ってゆ〜か、こんな冒頭でのネタ振り、すっかり忘れてたわよ!
あ、それと、文庫版の表紙がとってもステキなの。色といいデザインといい、これもシリーズ最高。
(02.6.23)《この本の詳細情報&注文画面へ》
レンテンローズ・太田忠司(富士見ミステリー文庫)
うわあ、ファンタジーだよお、ヤングアダルトだよお、天広直人氏の萌え萌えイラスト表紙は40近いオバサンが買うのは恥ずかしいよお──と思いながら、読んだ。確かに正直恥ずかしい、のだ。だって、鮮やかな青の羽根飾りがついた紫紺の帽子、紺色のインパネスを身に纏い、手には黒い革手袋。「よろしい、名乗ってさしあげよう。私の名前はアカンサス、謎を狩る者」……んぎゃ〜〜っ! おまけにアカンサス配下の女性・プリムラは、白いレースのドレスに亜麻色の髪……犯人との対決シーンに、どうして白いレースのドレスなんだよおおおお、ごめんなさい許して下さいいいいい──という感じだったのである。
ところが。
一読して、別の意味で「ごめんなさい許して下さい」と思わされたのである。買ったり読んだりするのを恥ずかしがってごめんなさい、だ。だってこれって、メチャクチャ本格なんだもの! ヤングアダルトだと思って、正直バカにしていたかもしれん。が、そんな思いなど微塵もなく砕かれてしまった。十代ならではの悩みに焦点を当てた、切なくも巧緻な本格ミステリのシリーズじゃないかあ! 好きだあああっ! こういうの好きだあああっ!
今回の収録は2作。【レンテンローズ】は、一見、夢とも超常現象とも思われるような出来事が、些細な手がかりから論理的に解決される過程が気持ちいい。動機の提示はちょっと露骨な気がするが、若い読者向けの入門編ってことで納得。【裁く十字架】は、ばりばりにクラシカルな本格の常道。そして何が好きって、いずれも「決着のつけ方」がいいんだよねえ。実際には起こり得ない「決着」。でも、こういう手法がとれるからこそ、ファンタジーの意味があるんではなかろうか。
ああ、このシリーズは続きが楽しみ。尚、タイトルの「レンテンローズ」とは、キンポゲ科のクリスマスローズのことです。故・三原順氏の「はみだしっ子」にハマった世代には、たまらないチョイスですわ(笑)。
(02.6.23)《この本の詳細情報&注文画面へ》
今だからこそ問う、真正面の「本格」!──と、帯に書かれている。確かにその通りだ。目張り密室にダイイングメッセージ、連続殺人、名探偵の謎解き……うん、たしかに。最近流行の奇をてらったような仕掛けは一切無く、現代風俗の投影もなく、「本格」と書いて「クラシック」とルビを振りたくなるような話である。謎解きもエレガント且つ王道で、「驚愕の真相」というよりも「そうだよな、うんうん、そういうパターンだよな」としみじみ頷いてしまうような謎解きだ。
この時期になって、そういうものが出てくる意味というのは、確かに大きいと思う。殺伐とした猟奇殺人とか、奇をてらっただけのスットンキョーな不可能興味とか、真っ当な謎解き以外の妙な「仕掛け」が施された作品とかが氾濫する中、こういうクラシカルなものが出てくると、確かにほっとするのは事実だ。
だけど、それと「話が面白いかどうか」はまた別なんじゃなかろうか。この物語が今上梓されたその「意義」は大きいとは思うが、じゃあ、これが読んでてどうだったかというと、「わかるんだけどさあ、やっぱ地味だよね」という感想になってしまうのだ。単に好みの問題なのか、それとも「奇をてらったネオ本格」に慣れ過ぎてしまったのか、それは分からないけれど。
火村とアリスの紀行記というか、旅情ミステリ的な要素も大きい。核を為す謎のスケールの割には、話が長すぎる気もするんだが……。この目張り密室そのものって、別にマレーシアじゃなきゃ出来ないってワケでもなかろうに……どうしてマレーシアなんだ?
(02.6.25)《この本の詳細情報&注文画面へ》
死体が発見された状況に加え、「地球に帰還した有人衛生の乗組員が全員殺されていた」ってな宇宙密室の話が出てきたもんだから、どうにも「M.G.H.〜楽園の鏡像」を思い出して仕方なかったのだが、それはそれとして。もちろん全く別のネタですからね。
さて、Vシリーズ第9弾なのだけれど……実はこれまでの8冊を読んでいて、どうにも不思議なことがあったのだ。小鳥遊練無の意味である。だって、謎解きとか情報収集とか、或いは事件に巻き込まれるとかの役割に於いて、練無って、特に必要ないでしょ? いや、もちろんキャラはすごくいいんだけどさ、「主人公グループ」を、「役割分担制ヒーロー」と考えたときに、何の役割も担ってないよなあ、どうして彼が居るんだろう、と思っていたのだ。ま、もちろん、人間全部に存在理由や役割が必要だとは思わないけどね。
それがここへ来て、「ああ、練無ってのは、こういう役どころだったのか!」というのがようやく見えて来た気分。と同時に、密室での死体の謎は解けたとはいえ、これはシリーズの流れの中の一シーンに過ぎないんだ、という気分も大きくなる。確かに密室の謎は解けたけど、それでスッキリしたということではなく、更にシリーズ全体の謎が大きくなったという感じ。読めば読むほど、話が進めば進むほど、「シリーズ全て上梓されたときに、初めて完結する」といったタイプの物語であることを思い知らされる。
しかしこれ、「地球儀のスライス」を読んでないと、ワケわかんないだろうなあ。
(02.6.26)《この本の詳細情報&注文画面へ》
NHKにようこそ!・滝本竜彦(角川書店)
外出してバイト捜したり、宗教勧誘の女の子と喋ったり、隣りに住む後輩の部屋に出向いたり、なんてのは「ひきこもり」とは言わないんじゃなかろうか、という素朴な疑問を抱きながら読む。おまけにこのひきこもり青年、「ひとりボケひとりツッコミ」が得意なようで、そんな根アカなひきこもりって……(笑)。
しかし、《人と関われない》というのは、やはり「ひきこもり」なのだろう。典型的な、「衣食住は家族に世話をさせて、自分は部屋から3年間一歩も出てない」というような、典型的ひきこもりではなく、こういう精神的ひきこもりを出してきたあたりが巧い。《人と関われない》のがひきこもりなら、今の日本の潜在的ひきこもり数は相当なものになるだろうから。ひとりボケひとりツッコミを繰り返し読みながら、読者はいつしか、どこかで一歩踏み間違えればこうなっていたかもしれない自分を発見するのだ。
宗教勧誘がきっかけで知り合った女の子・岬は、俺に近づいてきては何とか俺を救おうとしてくれる。が、その岬ちゃんの救い方も、かなりズレている。どっちかっていうと、俺より岬ちゃんの方がビョーキである。それが明確になったときに、《人と関われなかった》俺は、自分から望んで岬に関わろうとする……。
自分より弱い者、自分より不幸な者の存在を知ることにより、自分の不幸を昇華できるってのは、よくある話にして安易な方法にも思えるのだけれど、そういう不満を抱かせないパワーが、この本にはある。全編通じて、「ひきこもり」である自分を自嘲する主人公の、面白おかしい文章で語られるせいか、暗さも少ない。その分。岬の暗さが前面に出てきた時には、圧倒されるのである。
構成も荒っぽいし、話の展開にも文句がないわけじゃないのだが、それでも全編に漲るパワーに押されて一気読み。そして読み終わったあとには、「ねえ、この本知ってる?」と人に話したくなるような、魅力のある一冊なのだ。
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あああああ、もう、読んでて辛い。なんてイヤな話なんだあっ! あたし自身が、ここに描かれてるのとソックリな「田舎」出身のせいで、「田舎」の良い面も悪い面も、手に取るように理解できるのである。それだけに、ホントに辛い。そもそもあたしは、主人公が特に悪いことしてないのに理不尽に辛い目に遭う話って、だいっきらいなのよぉ! その上、著者の文章力が卓越してるもんだから、様々な事件やそのディーテイルが、途方もないリアリティを持って迫ってくるのである。それも、決してドラマチックな苦難ではなく「こういうこと、ホントにあるよね」というレベルの辛い体験なのだ。ああ辛い。1ページごとに辛い。読み進むごとに辛く、「彼に辛くあたった人々」を一括りにして燃やしてしまいたくなるくらい、辛い。
おまけに、この娘の健気なことと言ったら! 少々できすぎのキャラだぞ。東京から田舎へ転校してきた彼女を待っていたのは、おきまりの宿命。そこに現れるヒーロー。そしてヒーローの親は俺の高校時代の野球部のマネージャー。ああもう、こうやって書くとストーリーはホントに「ありがち」で「陳腐」で、おまけに結末は「予定調和」なんだけど、でも読まされちゃうんだよなあ。
美化したくともできない青春時代、ってのは相当に辛い。故郷を離れて、過去を切り捨てて暮らしている分には何の関係もないのに、故郷に帰ってきた途端に、辛かった時代に強制的に引き戻されるのだ。その上、同級生たちは皆、40才を前にして、様々な帰路に立たされており、年齢が同世代だけに、それがまたどれも切実に迫ってきて、また辛いんだなぁ。
「逃げると負けるは違う」というのが、全編を通して語られるテーマである。言いたいことは分かるし伝わるが、これなら逃げたって負けたっていいじゃん、と言いたくなる。ハッピィエンドではあるけれど、それまでが辛すぎてもう……。
(02.6.30)《この本の詳細情報&注文画面へ》
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