お厚いのがお好き?


桜姫・近藤史恵(角川書店)

 十五年前、大物歌舞伎役者の跡取りとして将来を嘱望されていた少年・市村音也が幼くして死亡した。それ以後、音也の妹・笙子は、自らの手で兄を絞め殺す生々しい夢に苦しめられるようになる。自分が兄を殺してしまったのではないだろうか―。誰にも言えない疑惑を抱えて成長した笙子の前に、かつて音也の親友だったという若手歌舞伎役者・市川銀京が現れた──。
 近藤史恵氏描くところの歌舞伎の世界ってのは、とってもステキなのだ。蘊蓄に流れることなく、この手の芸事にもっとも大事な「色や空気を伝える」ということに見事に成功している。氏の歌舞伎ミステリとしては、
「ねむりねずみ」「散りしかたみに」に続く第3弾。「散りしかたみに」に登場したあんな人やこんな人がまた出てくるけれど、それはさして大事ではない。シリーズとかではなく、単体として完成されている。
 音也が死んでから今の家に引き取られたと聞かされている笙子なのに、この妙な記憶は何なのか、それが「とある事件」をきっかけに解きほぐされるという体裁は、充分謎解きミステリとしての驚きとカタルシスを与えてくれる。まぁ、フェアプレイに拘るなら「もうちょっとヒントがあっても良かったのでは」という気もするんだけどね。伏線無しにこの真相っていうのは、少々アンフェア感が残る。この手って、下手をすれば「何でもあり」になっちゃうからこそ、きっちりとした伏線が欲しかったなあ、と。
 ただ、それも、あくまでも本格ミステリのルールに拘った場合の評価であり、あたしは寧ろ、この物語全体が持っている世界の気持ちよさみたいなものが印象に残った。文章が巧い、表現力がある、などという言葉では説明しきれない「文章を紡ぐ」巧さがあるのだ。笙子の記憶の謎、銀京の行動の謎、家族の反応の謎、そして事件の謎など、複数の謎が交差して最終的に一つの絵を描く。構成は決してスッキリしたものではなく、個々の事象が今ひとつ噛み合わないアンバランスさもあるのだけれど、物語と文章の持つ美しさや透明感がそれを包んでしまって、ひとつの世界を作り上げているのである。 (02.7.26)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

防風林・永井するみ(講談社)

 会社が倒産したため、17年ぶりに故郷の札幌に帰ることを決めた周治。妻は娘の新学期まで東京に残るというが、母の余命が七ヶ月と聞き、周治は単身、故郷に帰る。周治が母の病院で出会ったのは、幼い頃、隣の家に住んでいた「お姉さん」のアオイだった──。
 幼い頃の記憶が断片的に甦り、「母には、死ぬ前に会っておきたい男性がいるのではないか」という思いに囚われる周治。アオイと一緒に、その男性が誰なのかを探り始めるが、その過程で、自らが忘れていたさまざまなことが甦り、それが「ある真相」へと流れていく。
 いやあ、やっぱ読ませるなあ、この著者は。凝ったレトリックや変わった趣向を使うわけではなく、淡々と語られるだけなのだけれど、ぐいぐい引き込まれる。飾らない文章が、北国の、風の強い地方の寒さ・凍てつく様に妙に似合っている。
 母の昔の知り合いを訊ね歩き、次第に情報が集まってくるという形のために、謎解き云々よりは、主人公と一緒にどきどきハラハラできる類のサスペンス。正直言って、この《真相》はけっこう簡単に推測がつくのはないだろうか。ただ、そこから更に──おっとっと、これ以上は言わない方がいいかな。意外性があるかどうかは個人の好みによると思うが、とにかく一気読みさせるだけのパワーと「引き」を持った物語であることは確かだ。
 もう一つのみどころは、周治を巡る3人の女性だ。謎めいた雰囲気を残し、四十代になっても生々しい女性のアオイ。冷静でとりみだすことなく、子供の躾に熱心な妻の恵美子。そして、やんちゃな息子を持ち、何にでも口を挟み、すっかりオバさんになっている妹の若菜。全くタイプの違うこの3人、周治の目を通して描かれるために、アオイは魅力的に、恵美子は冷たく映る。若菜には腹が立つ(笑)。しかし、個々の立場に立ってみると、恵美子の行動も若菜の言動もとても納得がいくものであることが分かる。むしろ、アオイの行動が一番自分勝手だったり。そういう意味では、男性視点がとても巧く描かれていることが分かるのだ。この3人の女性の描かれように是非注目して頂きたい。
 あ、もちろん、《事件の真相》にもね。 (02.7.28)
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ドリームバスター・宮部みゆき(徳間書店)

 異世界での事故が原因で、囚人たちの「意識」が、この世界へと逃亡した。彼らの意識は、我々の心の隙間に入り込み、その人物を乗っ取ってしまう。だから狙われるのは病人や悩みのある人。そんな「意識」と闘うのは、ドリームハンターと呼ばれる少年・シェンと、彼の師匠・マエストロ。戦いの舞台は、その「意識」に入り込まれた人物の夢の中──。宮部みゆきが描く、アクション・ファンタジーだ。
 何を書いてもやっぱ巧いよこの人は(笑)。だから読む方もどんどん要求が増してしまうんだよなあ。これはドリームハンターのシェン&マエストロのコンビが活躍するSFアクションではあるのだけれど、あくまでも物語は「入り込まれてしまった人物」が主人公である。彼らがどうやってその「意識」と戦い、自分を取り戻すのか──それは、「意識」につけこまれてしまった自分の弱さを自覚し、乗り越えること。
 そういう意味では、多分に教訓的な──わかりやすい物語になっている。多分にアニメ的でもある。が、むろん、それだけではなく、シェンの側にある事情が今後大きく物語に関わってきそうな感じ。まずは序章、ですか。
【プロローグ JUCK IN】子供の頃に近所で起こった火事。そんなことは忘れていた通子だったが、大人になり、自分の娘が当時の自分と同じ年齢になったとき、その火事の夢を続けてみるようになった──。まずは「紹介」に相応しい一編。エキサイティングで分かりやすい。アニメを見ているような臨場感もある。
【Frst Contact】倒れた父親につきそって病院に行き、そこで父親の血液型を聞いた伸吾は、自分は父親と血が繋がってないことを知る──。うわあ、ドリームバスター云々は抜きにした、この伸吾の物語をもっとちゃんと読みたいぞ。
【D.B.たちの"穴"】物語は一転、シェンたちの世界が舞台。港湾の飲み屋に見慣れない女がやってくる。彼女は「カル」という少年を捜しているといい……。う〜ん、これはどういう意味なんだろう。このエンディングが何に繋がるのか……ちょっとこれだけでは何とも言えない。続きを読まなくちゃ<この商売上手!
(02.8.8)
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村の広場・安野光雅(朝日新聞社)

 絵本作家であると同時に、旅の達人であり、数学好きとしても名を馳せる著者。過去に出版された「算私語録」「散語拾語」に続く、語録集である。短いのはたった1行、長いのは数ページに渡る。必ずしもオチがあるわけでもなく、ただ著者が感じたことや考えたこと、見たこと聞いたことが平易な言葉で簡潔に紹介されるだけなのだけれど、それでも「きらり」と光るものがそこに見える。気軽に読めて、しばし考え込むような、そんな語録。
 まず、前書きで紹介されたイタリアのトイレの話が印象的。公衆トイレで、男子小用の便器に蝿が停まっていた。悪戯心が起きて、その蝿に「命中」させようと狙いをつけて発射。ところが、命中しているのに蝿は微動だにしない。よく見ると、便器に書かれた絵だった。そして、その公衆トイレの全ての便器に、その蝿の絵が描かれていた──うわあ、面白いなあ。シャレてるなあ。
 そして本編に入ると、著者の読者にはお馴染みの「ナンバリング」語録が始まる。「算私語録」「散語拾語」が、数学・科学テーマの語録だったのに対し、今回はノンジャンルということで、話が多岐に渡るのが楽しい。回文やいろは歌の話があったかと思うと、数学の問題があったり。中勘助の詩を引用したかと思えば、幾何の問題が出題されたり。教育問題、時事問題があったかと思うと、身近なクスリと笑えるこぼれ話があったり。それが、妙に気取った構成をとらず、ただ思いつくままに書いているという感じですごく楽しい。本を読んでるというよりも、短い文章が書かれたカードがたくさん入っているケースがあって、そのカードをアトランダムに拾い上げて読んでるような感じかな。
 しかし、そこここで出される数学パズル・科学パズルに、答を載せないのよねこの著者は(笑)。おかげで頭使ったこと使ったこと。 (02.8.10)
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まただまされたな、ワトスン君!・コリン・ブルース(角川書店)

 前作「ワトスン君、これは事件だ」が、科学パズルをテーマにホームズが謎を解くという趣向だったのに対し、今回は数学パズル。確率からみのものが多いかな。確率、統計、ゲーム理論、意志決定理論、順列組合せ、などなど。とにかく苦手な分野だけに、こうして小説にして貰えるととっても分かりやすい。
【不運な実業家】このあたりは小手調べってことで、あたしにも理解できるレベル。好調だった辻馬車会社が、急に左前になった理由は? 《御者の過ち》《先行投資の過ち》などが紹介される。
【賭事の好きな貴族】ルーレットは赤か黒か。多くトライするほど確率は五分五分に近づいていくのだから、黒が続いたら赤に賭ければいい……この考えの誤りは?
【意外な後継者】出たっ! あるグループの中に同じ誕生日の人がいる確率は? これまで何度説明されても分からなかったのに、納得できたぞ。そうだったのかあ。
【無名の墓】うわああ、最後になってモンティ・ホール・ジレンマが登場! おまけにそれを解説してくれる人物が、あの……。
【観察効果】1時間に3回、均等な感覚で運行しているバスを待つのに、30分もかかるのは何故? デパートのレジで、自分の並んだ列が一番遅くなるのは何故?
 その他、全12編を収録。数学好きなひとは解きながら楽しめるだろうし(いや、数学好きな人なんて想像の埒外なのでテキト〜なことを言ってますが)、数学嫌いの人は目からウロコ。それだけじゃなくて──なんていうのかなあ、数学っていうのは、ただ計算をしたり公式を覚えたりするものではなくて、判断力や決断力、洞察力を養うための学問なのだという気がしてくるのよね。 (02.8.11)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

青空の卵・坂木司(東京創元社)

 生い立ちのせいで、外界との関係を結ぶことを拒否する「ひきこもり」の鳥居と、彼をなんとか外へ連れ出そうとする親友の坂木を中心に、彼らが巻き込まれた事件を連作で綴る「日常の謎」シリーズ。「ひきこもり」とは言っても、鳥居は結構積極的に関わってるし、来る者は拒まずってあたりが、一般に想像する「ひきこもり」とは少々違うかな。
 正直言って、ひっかかるところはものすごく多いのよ。きれいごと過ぎるし、甘すぎる。社会的なテーマには諸手を挙げて同意するけど、それを直截に語りすぎる。主人公、泣きすぎる。登場人物、あっさり改心しすぎる。鳥居と坂木の関係は、ドラマチックを通り越して少々気持ち悪くすらある(まあ、病んでるという設定なのだけれど)。一行空きを多用した文章もリズムを崩される。でも、それだけ文句を言いながらも、それでも、あたしはこの世界が好きなんだよなあ。
 なぜ好きかというと、まず、訴えたいテーマがしっかりしていること(直截過ぎるけどね)。それから、この連作の特徴である《前の話の登場人物が、後の話にも出てくる》つまり、事件が終わったあとで《ちゃんと生活してる》様が描かれてて、《謎を解けばそれは済んだこと》にしていないという点。それと、解説代わりの巻末の鼎談で著者自らが語っている、「ドラマチックな物語が好きで、トリックの理論武装には身構えてしまうけれど、でも面白いミステリを読みたいという人。そのくせ、使い古された殺人事件は嫌だとか、『普通の生活をしてたら、そうたびたび警察は来ないだろう』などとつっこみを入れてしまう人向けの」ものを書きたい、という姿勢。これは、そのまんまあたしの好みなわけで。それに何より、謎解きそのものはとってもエレガントなのよ。
 【夏の終わりの三重奏】では、複数の男性に危害を加える女ストーカーの謎、【秋の足音】では盲目の男性をつける足音の謎、【冬の贈り物】では歌舞伎役者のもとに届けられる意味不明の贈り物の謎、【春の子供】では言葉を発しない子供の謎が語られ、【初夏のひよこ】はエピローグ。 (02.8.11)
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人間動物園・連城三紀彦(双葉社)

 数十年振りの大雪であらゆる都市機能が麻痺する中、汚職疑惑の渦中にある大物政治家の孫娘が誘拐されたと通報が入る。ところが、被害者宅のいたる所に盗聴器が仕掛けられており、警察が入ればすぐに犯人にバレてしまうため、警察も身動きがとれない。仕方なく隣の家に本部を構え、筆談や鈴の音で連絡を取り合う警察と母親。そして……。
 とにかく、設定がいきなりエキサイティング。岡嶋二人が書きそうな(でもその場合、全然違った展開になるだろうけど)巧緻にして魅力的な設定だ。初手から緊迫感が溢れ、ページをめくる手が止められない。また例によって脇役のひとりひとりをあだやおろそかにせず、きっちり書き込み描きあげる連城レトリックは、物語に多角的な盛り上がりを添える。
 読みながら、「なんだこれ、どういう意味があるんだ?」というシーンやセリフがときどき表れ、それが何なのか分からないまま隔靴掻痒の気持ちでページをめくる。もちろん、それはラストでキレイな(そして意外な)絵を見せてくれる1ピースなのだけれど、読んでる最中はそれが分からないので、どうにも引っかかりが多い。おまけに、けっこう頻繁に視点が変わるために、ときどき誰が誰だったのか混乱したり(あたしの読解力がないだけですかそうですか)。混乱したり引っかかったりしながらも、手に汗握る展開がどんどん続いて、そのまま飲み込まれてしまうのだ。
 盗聴器がしかけられた部屋で、どうやって誘拐事件を解決するのかを主眼に読んでいたこの物語、おおおお、こう来ますか! この展開に、快なる哉! 連城マジックだあ。
 ただ、個人的には、このラストは若干尻すぼみの印象が否めない、のよね。もちろん好き好きだし、こういうのが粋で良いのよ、という人も多いと思うけど。なんだか、ずぅぅぅっとハラハラドキドキしてたところを、うまく「かわされた」ような気がしてしまって、そこがちょっと欲求不満なのだ。 (02.8.15)
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紅の悲劇・太田忠司(NONノベル)

 日本舞踊を題材にした小説の取材で、踊りの発表会を見に行った志郎と千鶴の兄妹。ところが、開幕直前に控え室で殺人事件が起こって……。霞田志郎シリーズ最新刊にして「悲劇・四部作」の2冊目。
 「くれないの悲劇」ではなく、「べにの悲劇」である。紅花のべに、口紅のべにだ。前作
「紫の悲劇」に続いての、ジャパネスクな題材だ。またこの「紅」の使い方が、何とも視覚に訴えて……和服の女性、はだけた胸、白い肌、乳房に引かれた一すじの紅……うわあ、ビューティフル! 映像的には文句無しですねこれは。
 しかし、今回の展開、志郎はいつにも増して後手後手に回っている印象が強い。展開が早いのかなあ。一つの事件を充分味わいきる前に次が起こってしまうのよね。作中ではちゃんと時間が経ってるし、別に急いでる風でもないんだけど。事件が起きる→周囲の人に話を聞く→レギュラーによるトーク→伏線っぽいものが出てくる→次の事件が起きる、っていうリズムがあまりに良すぎて、必要以上にサクサク読めてしまうという印象。このリズムが繰り返されたあとに、バタバタっと真相が出てくる感じなのね。
 謎解きも伏線も実に端正で、良く練られているだけにもったいない。謎解きを読んで「ああ、確かに! ちくしょう、ちゃんとヒントがあったんじゃないかあ、これに気付けなかったなんて、バカバカあたしのバカ!」と言いたくなるような、本格の醍醐味は充分なんだもん。
 今回も男爵が登場。男爵ってのは、「悲劇・四部作」を通しての大テーマに絡んで来そうな役どころで、とっても重要なのは分かるんだけど、今回の作品単体で見ると、めちゃくちゃ浮きまくりなのが辛いなあ。霞田シリーズってのはもともと、地に足のついたミステリのシリーズで、そこが好きだっただけに、こういうキャラってのは何かこう違和感があるというか……。例えて言うなら、火曜サスペンス劇場の中にいきなり金田一少年が出てきたみたいな感覚なのよね。これが俊介君シリーズや「レンテンローズ」ならスンナリ受け入れられるんだけどなあ。でも、男爵と対決するのは霞田志郎でなくてはならない、というのもものすごくよく分かるのよ。志郎以外にこの役はできないのよ。ああ、悩ましいわあ。 (02.8.19)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

2002ザ・ベストミステリーズ・日本推理作家協会(編)(講談社)

 日本推理作家協会の年鑑。単行本未収録の作品にたくさん出会えて、おまけにレベルが高いので、毎年これを読むのが楽しみなのよね。その分要求も高くなるんだけれど、今回は近年の中でもかなり粒揃いなんじゃなかろか。特に、推理作家協会賞の短編部門を受賞した2作品は秀逸。では、何作かジャンル別にピックアップして感想を。
まずは本格ミステリ、パズラー系。
 【都市伝説パズル】法月綸太郎:推理作家協会賞受賞作。都市伝説通りに起こった事件の真実は。「見切った!」と思ったのにすっかり作者の術中だった。
 【十八の夏】光原百合:推理作家協会賞受賞作。これまでは、ともすればヤングアダルト系とも言えるような甘めの印象があったが、「大人の作品」を読ませて貰った気分。これは単行本も読まなくちゃ。
 【桜の下の七分咲きの下】倉知淳:花見の場所取りを任された新入社員の珍体験。話は好きなんだけど、この猫丸先輩の傍若無人さが苦手なのよねぇ。
 【根付け供養】北森鴻:
「孔雀狂想曲」所収。
 【九十五年の衝動】古処誠二:「祭」の準備をする自衛隊員のエピソード。膝を打つ真相は、充分本格。
 【僕はモモイロインコ】北川歩実:今度はインコかよ!(笑)設定の不自然さがつきまとう。
冒険小説・クライムノベル・サスペンス系。
 【エンドコール・メッセージ】山之内正文:レンタルビデオの巻末に録画された謎の映像。後半の加速が見物。
 【六時間後に君は死ぬ】高野和明:いきなり「今夜0時に、あなたは死にます」と言われて……。冷静に考えれば、真相はこれしかないって感じなのに、それでも読まされちゃう。構成の巧さか。
 【沈黙のアリバイ】横山秀夫:被告が裁判で自供を翻した──? 先に二時間ドラマで見ちゃったのよね……ドラマが良く出来てただけに、原作の駆け足な部分が目立った。
 【物証】首藤瓜於:事故係・生稲昇太のシリーズ。この事故処理の会社の人の話は、圧巻。
 【殺しても死なない】若竹七海:「死んでも治らない」所収。
ミステリというより寧ろ普通小説に近いのは、
 【みちしるべ】薄井ゆうじ:幼い頃、同居していた祖母の思い出。ああ、これはステキな話だなあ。
 【探偵物語】姫野カオルコ:彼女から別れを告げられた理由は? ミステリっぽい題だけど推理は無理。
 【神の言葉】乙一:口に出すことで他者を思いのままに操ることのできる少年が陥った呪縛とは。
 その他、【リトル・マーメイド】(篠田節子)、【十八面の骰子】(森服都)、【地底に咲く花】(五條瑛)、【銀行狐】(池井戸潤)、【ザプルーダの向かい側】(片岡義男)、【弔いはおれがする】(逢坂剛)を収録
(02.8.20)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

法月綸太郎の功績・法月綸太郎(講談社ノベルス)

 3年ぶりの「法月綸太郎モノ」の短編集。うわあ、なんか王道!って感じがして、いいなあ。ピュアな本格だ。贅肉がなくて、フェアで、スマートでエレガント。こういうのって、ときどき無性に読みたくなるのよね。もちろん、個々のレベルも高いし。本格ビギナーに「こういうのから入りなさい」と言いたくなるような作品集。
 これで、収録作が未読なら言うことないんだけどなあ……。あたしは雑誌を読まないので、メフィスト掲載分については初読のつもりだったんだけれど、【縊心伝心】以外はすべてアンソロジーに収録されてて、それを読んでしまってたのには残念。ま、3年も間隔があけば、そりゃアンソロジーにも入るか。
 収録作の中の【都市伝説パズル】【縊心伝心】の2作を読んだとき、「あれ? この形式って、なんだかものすごく良く知ってるような、懐かしいような……」という思いに囚われた。それが何だか分からないまま読み進み、そして「あとがき」を読んだときに膝を打ったのだった。そうか、これって都筑道夫の「退職刑事」なんだ!
 ──では、個別に。
【イコールYの悲劇】
「『Y』の悲劇」所収。めちゃくちゃ美しい。痺れるくらいロジカル。もう、大好きよこれ。こういうのを読むと、「あたしやっぱ本格って好きだなあ」と思うのよね。
【中国蝸牛の謎】「2001ザ・ベストミステリーズ」所収。佳作群の中にあって、これだけはチト無理を感じるんだけどなあ……。
【都市伝説パズル】「2002ザ・ベストミステリーズ」所収。これ、昨日読んだばっかり……(泣)
【ABCD包囲網】「『ABC』殺人事件」所収。いやもう、ロジックの申し子と呼んでしまおう。思わず万歳。
【縊心伝心】自殺をほのめかした女性が他殺体で発見された理由は──これも巧い。一歩間違えれば、トリックが浮いちゃうようなネタだと思うのだけれど、犯人像や動機との関連づけできれいにクリアしてる。
(02.8.21)《この本の詳細情報&注文画面へ》  


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