全国の夫よ、姑よ、これを読め!
つむじ風食堂の夜・吉田篤弘(筑摩書房)
クラフトエヴィング商會の片割れ、吉田篤弘氏によるほんわか小説。「フィンガーボウルの話のつづき」と似た(というより続編ぽい部分もある)物語。
八神俊彦は、闇の世界から足を洗うため、自ら骨髄ドナーとなって人助けを決意していた。そして適合する白血病患者がみつかり、いよいよ自分が他人の命を救える日が翌日に迫っていた。ところが、知り合いの家を訊ねた八神は、そこで死体を発見してしまう。それは都内を震え上がらせた連続殺人事件の序章だった。そして八神は、そこで出会った正体不明の三人組に追われることになる。骨髄移植は明日。移植を待つ患者の容態は予断を許さない。八神は移植の時間までに、病院にたどりつけるのか? そして不可解で猟奇的な連続殺人事件の顛末は?──まさに、ノンストップ・ジェットコースターノベル!
やり手広告マンの俺は、クライアントの急な意向でずっと携わっていたプロジェクトからはずされることになった。新たに就任した副社長の言い出したことだそうだ。憤懣やる方ない俺は、持て余した怒りに押されるように、その副社長の邸宅の近くまで行ってみた。すると、中からこっそり出てくる若い娘の姿が。なんと件の副社長の娘で、家出するのだという。そこで俺はこの娘と協力して、狂言誘拐を企てた──。
十字架クロスワードの殺人・柄刀一(ノンノベル)
龍之介が受け取る予定になっていた中畑氏の資産を、息子が無断で借金の返済に充ててしまった。慌てて取り返そうとしたのだが、そのお金は途中で秘書を名乗る女性に搾取され、返済先に渡ってないという。お金はどこに消えたのか。そのまま遺産争いに巻き込まれることになった龍之介たちだったが、新たな事件も起こって……。
家に帰ったら妻の姿が消えていた。悪いとは思いつつ、手がかりを探すために妻のパソコンを覗いてみる。そこには妻が所属するメーリングリスト宛に出した、5つのショートストーリーが収められていた。そして、正体不明の人物から「この話を全部読むと、あることがわかる」という思わせぶりなメールが。それを読んで妻は出ていったのか? 夫は、そのショートストーリーを読み始めた……。
だれも知らない小さな話・佐藤さとる(偕成社)
日本児童文学界に燦然と輝く永遠の名作「だれも知らない小さな国」のシリーズを書いた著者によるエッセイ集。それでこのタイトルだもの、普通は「だれも知らない小さな国」の裏話だと思うよなあ? 創作秘話だと思うよなあ?
嘘を見抜く名人・成瀬。天才スリ・久遠。演説の達人・響野。秒単位の体内時計を持つ女・雪子。完全無敵の銀行強盗4人組だ。今日も今日とて入念な計画の上で、銀行を襲い、みごとに4千万円ゲット! ところが逃走中に別の強盗に襲われ、金を持ち逃げされてしまった。奪還に動こうとしたところ、雪子の息子のイジメ問題が起こったり、いきなり死体が出てきたり、そりゃもう大騒ぎ。二組のギャングが頭で対決、さあ、この事件の行く先は?
猫探偵正太郎の冒険II〜猫は聖夜に推理する・柴田よしき(カッパノベルス)
「猫探偵 正太郎の冒険1〜猫は密室でジャンプする」に続く、正太郎シリーズの短編集第2弾。他に長編だと「柚木野山荘の惨劇」(文庫化の際に「ゆきの山荘の惨劇」と改題)と「消える密室の殺人〜猫探偵正太郎上京」があります。
雑誌「広告批評」に連載されている、橋本治の「時評」を単行本にしたものの、第3巻。これには2001年2月号から2002年4月号まで(つまり、21世紀初頭から2002年3月までの時評)が収められている。
主婦でスミマセン・青木るえか(角川文庫)
そうすれば、あんたんとこの嫁がいかに働き者かが分かろうというものだ!
とまあ、ぐうたら主婦のあたしが拳を握りしめて、なんとかこれを姑に読ませる方法はないかと画策してしまうくらい、とんでもない主婦である。これ、ホントなのかネタじゃないのかと思ってしまうような、でもネタにしてはディーテイルが具体的すぎて想像だけでは決してここまで書けないだろうというような、手に汗握る(それも冷や汗)ノンフィクションなのである。
著者は主婦。ダンナは転勤族なので、一定期間で引っ越しをしなければならない。ところが、前に住んでいた社宅に新しく入った人から抗議がきた。部屋が汚い、畳から虫が沸いた!──た、たたみから、むし……。
掃除も化粧も近所付き合いも「ま、いっか」で済ませる主婦。畳はざらつき、ホコリは部屋の隅で壁の形に添って固まり、ワゴンの下は2センチのホコリがつもってフワフワしている。ティッシュと一緒に洗濯してしまった黒いトレーナーは霜降りになり、十年前の缶詰が突然爆発し、冷蔵庫の中で野菜は水になり、豚肉は腐るのを通り越して化学物質の臭いを放つ……うわあああ。それなのに、嫌悪感ゼロ。それよりも笑いが先に立つのだ。お、おもしれえっ! おまけに「良く言ってくれた!」的文章もあちこちに。
あたしもかなりズボラでぐうたらな方だが、「なあんだ、ここまでやっても大丈夫なんだ」と安心した。<安心するな<第一、全然大丈夫じゃないし。全国の手抜き主婦の皆さん、これは一読の価値ありですよ。「あたしって何て働き者なの!」と思えるから。そして、家事が下手だのサボってるだのと文句を言ってる夫に是非とも読ませよう!
とにかく、「ま、いっか」の行き着く先はとてつもない面白さ炸裂である。読みながら「うわははは」と笑いが止まらなくなる。と同時に、ちらっと自宅の部屋を見回し、「読み終わったら、掃除機かけようっと」と決意してしまう。これってもしかしたら、何より強烈な「家事のススメ」なんじゃないだろうか……。
(03.3.14)《この本の詳細情報&注文画面へ》
夜遅くまで開いている食堂は、とても不思議なところ。無口で職人気質のマスターのもとには、常連さんが毎夜毎夜集まってくる。「私」は近所のアパートの屋根裏部屋に住む雑文書きだ。本当は雨の研究が本職なんだけど、いつのまにか文章の方がメインになってしまった。そんな「私」が綴る、つむじ風食堂に集う仲間と町の物語。
ひとつひとつは、なんてことない他愛のない日常のひとこまなのだけれど、それが続くうちになんとも言えないいい気分になってくる。最初の帽子屋さんのくだりは、あまりにファンタジック過ぎてチト辛かったが、次第にこの不思議空間が気持ちよくなってくるから不思議だ。特に、オレンジを手元において本を読む果物屋となんでも出してくれる古本屋の親方のエピソードはじつにいい。
物語の中では「私」の父親の話も綴られる。幼い頃、手品師をしていた父親に連れられていった喫茶店。その喫茶店は、この物語の中で、「私」にとっては《原点》という言葉に置き換えられるのではないだろうか。時は移ろい、人は変わる。でも、人や場所や時が変わっても、どこかに変わらないものが残っている。目に見えるものは変わっても、目に見えない何かが残っている。それを探す「私」の物語だ。
そう考えれば、どのエピソードも《どこかへ行く》《何かを探す》《何かを作る》という能動的なことが中核になっている。文章が飄々としてるので、あまり能動的には見えないのだけれど(笑)、描かれている内容は多分に能動的だ。しかし、そんな中に思い出したように、昔通った喫茶店や父親の話が挿入されることによって、原点、或いは起点というものが確固として来るように思える。《どこかへ行く》のも、《何かを探す》のも、《何かを作る》のも、要は、自分がどこから来た何者なのかをしっかりと見据えるとこから始まるのではないか、そんな気がしたのである。
(03.3.15)《この本の詳細情報&注文画面へ》
グレイヴディッガー・高野和明(講談社)
いやもう、たった半日の出来事がこれだけのボリュームに! めくるめく展開とはこのことだ。冷静に考えれば「いや、ちょっと待てコラ」という箇所はたくさんあるのである。ひたすら逃げる八神には「金がないからってタクシー止めないで、そのまま病院まで行って先生に借りればいいじゃん」とか「警察に頼るのが遅いよ!」とか。殺人を続ける犯人側には「こらこら、それじゃ目撃されるって」とか「おいおい、その凶器はどっから持ってきたんだ」とか「おまえらショッカーかよ!」とか、もうツッコミどころ満載。本格だったら怒るぞ、てなもんである。おまけに背後関係はえらく複雑な割にご都合主義だし。第一、(反転)ひとりのドナーから二人のレシピエントに骨髄を移植することだって出来るんじゃないのか? だったら動機すら成立しないのでは。
でも、そんなツッコミを許さない怒涛の展開。「ちょっと待てコラ」と言ってる間に話がどんどん進んでしまうので、つっこみようがないのである。もしかしてこれはドタバタコメディなのか?と思ったことは二度や三度じゃないぞ。もちろん一度でもない。とにかく、スピード、スリル、サスペンスのテンコモリ。殺人方法は猟奇的で「わっきゃあ!」とワクワクしちゃうし、逃走シーンは手に汗握るし、ほっと一息ついたところでひっくり返す展開はドラマチックだし、いろいろと文句を言いながらもすっかりどっぷりハマって「わあ」「きゃあ」と言いながら読んでました。ええ、面白かったわよ。面白かったんですッ。
勢い、ってのは大事なんだなあ。本格とスリラーと冒険小説とハードボイルドと警察小説の美味しいところを選んでくっつけたような、なんとも贅沢な一冊。時間を忘れて興奮したいときにお薦めだあい。
(03.3.15)《この本の詳細情報&注文画面へ》
ゲームの名は誘拐・東野圭吾(光文社)
犯人の側からみた誘拐劇で、被害者側の情報は一切もたらされない。警察には届けたのか? 何か仕掛けてくるんじゃないのか? もうこの設定からしてスリリングだよね。被害者への連絡は、携帯やインターネットの掲示板など、あらゆる《今風》なテクニックが駆使される。なんだか岡嶋二人の誘拐モノを思い出しちゃったなあ。岡嶋二人が今もいるなら、きっとこんな話を書いたんじゃないかしらと思わせるような、それほどディーテイルが緻密な、テンポのいい誘拐劇。
もちろんそこは業師・ひがぴょんですから、そうそうスンナリと話は終わらない。スンナリと終わらないだろうということは想像がついても、じゃあどうするのかというと、これはもう読者の予想を遥かに越える。うわあ、こう来たか。ぎゃあ、これが伏線だったのか。完敗。参りました、とひたすら叩頭してしまう。
それにしても、これだけの話を、この薄さに収めますか!と驚いてしまうくらいアッサリした話運び。ここ数年の著者の作品を見てると、社会派的テーマを持った《感動路線》のものは重厚長大に、テクニックとサスペンスのトリッキーな犯罪小説はスパっとシャープに、という区分けができてるんじゃないかと思うくらい。確かに本書はエンターテインメント以外の何者でもないから、これくらいの厚さで手に汗握りながら一気読みできるのがベストな気はするけれど──それにしても、これだけ細かい趣向がテンコモリになった面白い話、もっともっと書き込んで欲しかったといのはワガママかしら?(03.3.16)《この本の詳細情報&注文画面へ》
天才・龍之介シリーズ、初の長編。これまでの短編は《良い子の科学シリーズ》という感じだったが、ここへ来てようやくその路線から離れてくれたぜ。龍之介が巻き込まれる事件と、一美が巻き込まれる事件、二つの場所で同時進行する事件の両方が分かっているのは読者だけ。そういう点ではとてもスリリングで魅力的な展開だ。ただ、パズラ部分は小ネタの合わせ技という印象が強い。いや、無論、中核となるものがあって、そこから派生した小ネタなのだけれど、ひとつひとつの小ネタに関してキチンキチンと不思議がって盛り上げて謎を解いてくれるものだから、逆にダレてしまうのだ。結果として、妙に煩雑な印象が残る。話の流れは面白かったんだけどなあ。
それと、このシリーズでもうひとつ気になってるのが、なぜか言われているほど龍之介が「天才」には思えない、ということ。知識量・物知り、という観点からは確かに凄いのだけれど、知識が多いからといって天才ってワケじゃないよな。なんかこう、「あっ、すごいっ、なるほど天才かも」と思えるシーンがないのだ。ラジオの作り方とか、血液型の調べ方とか、そういうのは知識と技術であって、《思考》ではない。ミステリを読むときに読者が名探偵に何に感心するって、それは知識ではなく思考ではないかしら。気弱っていうキャラのせいもあるかもしれんが、でも、龍之介が図々しくなったとしても、多分、千葉千波っぽくはなるけど、御手洗潔っぽくはならない気がする。それが《知識》と《思考》の演出の違いじゃなかろうか。
(03.3.17)《この本の詳細情報&注文画面へ》
クラブ・ポアブリエール・森福都(徳間書店)
おおっ、面白いっ。徳間書店から出た本だが、これが5年後に創元推理文庫に入っても不思議じゃないって感じの連作ミステリだ。それも、品が良くて、甘さと苦さが程良くブレンドされた、オトナのミステリ。奇をてらうようなトリックや名探偵は出てこないし、パズラーというほどではないのだけれど、何気ない日常の事件の中に夫婦の愛情や男女の機微が織り込まれた、とてもオシャレで小粋な物語なのである。
妻が書いたという5つのショートストーリーは、このメーリングリストのメンバーそれぞれが体験した「ちょっと奇妙な事件」を紹介したもの。第一話【火曜日の糸杉】は、毎週火曜日の決まった時間に歯科医を訪れる老婦人の話。治療は終わっているのに、何かと理由をつけて同じ時刻に現れる。いったいその理由は? 第二話【アディクティド】は、OLがゲームセンターで出会った少女の物語。事件の謎を解くというより、《どんな事件が起こりつつあるのか》を見せる趣向で、とてもスマート。第三話【第三の女】は、海外旅行のツアーに参加したカップルと、それを追いかけてきたストーカーの物語。語り手のキャラ設定が秀逸。第四話【家庭菜園ノススメ】は、趣味で始めた菜園に出没する野菜泥棒を掴まえようとする話。これが一番のどかなようで、実は一番怖い。第五話【グラン・メゾン・フォートラスの落日】は、話の納め方が少々ご都合主義な気はするが、でも確かに《当時》ならそんな状況があっても不思議はない。そしてこの5編を全部読んだときに見えてくるものが、最終話【トレースルート・ラプソディ】で明らかになる。
どうやらこのあたりが怪しいぞ、というのは読み慣れた読者なら見当がつくと思うのだが、それでも読まされてしまうのは、読者を騙すとか驚かすとかと同等かそれ以上に、男と女のドラマがきっちり描かれているせいだろう。謎解きだけじゃない、かといってドラマ性だけでもない、ミステリの手法が、物語の中で実に効果的に洗練された使われ方をしている好例。
実のところ、相当にドロドロした男女の心情が扱われているにも関わらず、爽やかでエレガントに感じられるのは、ダイレクトな描写を避けたソフトな文体のせいだろう。それともうひとつ、(反転)浮気が未遂だったこと。これは読後感を左右する、実に大きな要素だと思う。うん、これはお薦め。オトナのミステリ、だな。
(03.3.18)《この本の詳細情報&注文画面へ》
それが……普通のエッセイ集だったんだよお(泣)。いや、勝手に勘違いしたあたしが悪いんだけどさ。でも、「だれも知らない小さな国」に触れられてるのって、たった二編だけなのよ。あとは小学校時代の運動会の思い出とか、小学校時代の机の話とか、つまりはあちこちの媒体に乞われて書いた短文がたくさん溜まったから本にしましょうか的なもの。あ〜あ。
いや、もちろんエッセイそのものはとても滋味溢れるもので、古き良き日本というか、のんびりした(毒にも薬にもならない、とも言えるけど)お話ばかりなのだけれどもさ。やっぱコロボックルへの期待に胸膨らませてた立場としては、なんとももう……おまけに表紙や作中のイラストが、村上勉さんなんだもの。それがコロボックルの絵なんだもの。これは勘違いするよなあ? なあ?
(03.3.20)《この本の詳細情報&注文画面へ》
陽気なギャングが地球を回す・伊坂幸太郎(ノンノベル)
うわああっ、すっげえ面白いっ! ハイテンポなストーリー、キャラ萌えとは一線を画した魅力的にして計算されつくした登場人物、軽妙な会話、息をも付かせぬ展開、そしてあっと驚く結末! 東直己の《畝原》シリーズをより軽妙且つ劇画チックにした感じかな。文句なし。もう、文句なしよ。
はじめは、伏線というには露骨な描写が多々見えて、「あ、これ怪しいっ」と思う箇所がときどき出てくる。でも、読者が気付くようなことは当然登場人物も気付いてるわけで、その後の展開は読者の予想の遥か上を行くのだ。コンゲームってのは実に面白いが、これは登場人物のキャラ設定の巧さと、会話に代表される文章の巧さが更に面白さを増している。
あ、今気付いた。このキャラ設定って、「ルパン三世」なんだな。頭が回って行動力のあるリーダーと特技を持つ仲間。紅一点もちゃんといるが、この紅一点が事件に巻き込まれるきっかけを作るのも「ルパン三世」と同じ。ただ、ヒーローものにありがちな「ただキレイどころをメンバーに加えておきました」という紅一点ではなく、ちゃんと雪子でなくてはならない役割が与えられている。これもポイントアップの大きな要素だ。「ルパン三世」と違うのは、4人それぞれの生活がちゃんと描かれているところ。それぞれのバックグラウンドがキャラの厚みを増し、魅力を増し、読者を引き込む。巧いなあ。
とにかく、読み始めたら止まらなくなること請け合い。思わぬ伏線が後で効いてきてニヤリとしたり膝を打ったり。笑ったりホロリとさせたり。愉快痛快、そして読後感はもう最高に爽快! これはお薦め、絶対にお薦めだあい。
この著者、「オーデュポンの祈り」とも「ラッシュライフ」ともガラリと作風が変わっている。引き出しの多い作家さんだなあ。いいぞいいぞ。こういう懐の深さ、大きさは、大歓迎だぞ。次はどんなのを見せてくれるか、今から楽しみ。《伊坂幸太郎》にすっかりハマってしまったぜいっ!
(03.3.22)《この本の詳細情報&注文画面へ》
今回も、正太郎一人称という猫視点の物語と、正太郎はチラリと出てくるだけの人間視点の物語とが交互に展開される。これは実に巧い手法だよなあ。読者を飽きさせないだけでなく、ちゃんとその視点ならではの物語を読ませてくれるんだもの。
【正太郎と井戸端会議の事件】「本格ミステリ01」所収。これイチオシ。
【猫と桃】大学卒業を目前にして就職が決まらない。私はついに、体を求められるのを承知の上である男性に就職の相談をしたが──。女のグダグダしたモノローグだけでここまで読ませるってのは、やっぱストーリーテリングの巧さだなあ。
【正太郎と首無し人形の冒険】空き巣に入られたが被害はバービー人形の頭部だけだった──。仁木悦子が書きそうな設定の話。実際にこういう行動に出るだろうか、と考えると少々弱い気もするが、話運びはさすが。
【ナイト・スィーツ】ようやく決まった就職先は、いまだに女性社員にお茶くみをさせるような会社。そんなとき、同僚の男性から相談をもちかけられ──。ミステリというより恋愛小説。でも、これ好きだな。初めて桜川ひとみをかっこいいと思ったぞ。
【正太郎と冷たい方程式】(番外編)未来を舞台にした番外編。SFの世界では有名な「冷たい方程式」もの。ただ、それをタイトルに銘打つにしては、いわゆる「方程式モノ」とは趣を異にするような。設定と状況が煩雑で少々分かりにくいのか難か。
【賢者の贈り物】ボーナストラック。単なる推理クイズも、こうしてみると立派な恋愛掌編になるもんだ。
(03.3.25)《この本の詳細情報&注文画面へ》
ああでもなくこうでもなく(3)〜「日本が変わってゆく」の論・橋本治(マドラ出版)
扱われているテーマは、判事の妻によるストーカー犯罪、小泉純一郎フィーバー、無党派、政治ブーム、靖国問題、ムネオ・マキコ問題、そして同時多発テロ、宗教対立などなど。ああ、ここまで来ると全部記憶に新しい。新しいがホットではなく、自分なりに解釈したり意味付けしたりした後なので、そこで橋本治の時評を読むということにより、自分の解釈や意味付けを再度問いかけることができる。いわば「答合わせ」とでもいうような行為が可能なのだ。いいタイミングで読んだ。
とにかく、目から鱗がボロボロ落ちて、膝は叩きすぎて痛くなるくらい。無論、橋本治の言うことが全部正しいというワケではない。そもそも「正解」なんて無いような問題ばかりだ。しかし著者の思考とその論理は、「なるほど、こういう見方があるのか」と唸らせるものばかり。飄々とした「桃尻娘」文体のままに、社会を斬りまくる。マスコミに露出するコメンテーターからは出てこないような新鮮な論理が、妙な方向に固まってしまった脳味噌をほぐしてくれるようで、心地よくも刺戟的だ。これはお薦め。何度も何度も読み返し、その都度じっくり考えてしまう。
1巻と2巻の感想にも書いたことだが、別ファイルだし、とても大切なことなので繰り返す。この時点でこの分析をしている、そしてその分析の根底にある論理、その思考の流れをこそ受けとめることに醍醐味がある。見方を学ぶのである。そして何より肝心なのは、「なるほどねぇ」と鵜呑みにするのではなく「ホントかなぁ」と自分の頭で考えることなのだ。これを怠ると、時評を読んだ意味がないのだから。
それにしても、一番驚いたのは、橋本治が鈴木宗男と同い年ってことよ! あの「永遠の学生」みたいな、桃尻娘の橋本治が……ちょっと愕然。あたしは、「橋本治は年をとらない」と、どこかで信じていたのかも知れない。実際、論調は全然老いてないんだから。
(03.3.28)《この本の詳細情報&注文画面へ》
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