お厚いのがお好き?


クレイジー・クレーマー・黒田研二(ジョイノベルス)

 大型スーパーの電器売場の責任者・袖山は、二人の客に悩まされていた。一人は、思いもしないものを盗んでいく万引常習犯。そしてもう一人は、何かと言えば商品にクレームをつけてくる岬という男。エスカレートする二人に、袖山も対応しようとするが、かなり追いつめられていた。そして、岬が持ち込んだ熊のロボットを巡って、ついに最悪の事態が──!
 と書くと、なんだか狂気で破滅していく男の話みたい(まぁ、それも決して間違いじゃないが)だし、表紙にもサイコ・ミステリなんて書かれているけれど、実際のところは、かなりばりばりの本格ミステリだ。ってゆ〜か、この著者が書くんだから、本格ミステリじゃないワケがない。
 しかし、この著者の作品群にあってこれまでと違うのは、パズラーとしての骨格部分以外のエピソードや背景も、きちんと書き込まれていることだろう。電器店内部のあれこれが、クレーマーや万引対処という読者にも想像しうる(或いは経験のある)問題を、具体的に細かく描写することにより、事件が起きる前から読者を物語に引っぱり込むことに成功している。
 そして起こる事件──これは読めないでしょう。とにかくどんどん不幸になっていく主人公が可哀想で、挙げ句の果てにこんなことになっちゃって。でもこれが、きっちり伏線が全部拾われて一つの真相が出てくるってんだから。「意外な真相」度では、この著者の作品群の中でも最右翼じゃないかな。とにかく、伏線の拾い方の見事なことと言ったら! 「これはこういうことだったのか!」と気付かなかった自分に臍を噛む。これぞパズラーの醍醐味よ。
 途中、メインの事件が起こってからは、「クレーマーや万引犯と頭脳で勝負するっていう話じゃないの?」と思っていた読者は、ちょっと放り出された感じになるかもしれない。でも、とりあえず「ビックリした」ということで、それは勘弁できる範疇かな、と。
 ただ、いかんせん、読後感が悪いなあ、これ。読者にしてみれば(反転)感情移入してた当の主人公が殺人犯だった上に、ちょっとイっちゃった性的倒錯者だったってのは、どうにも気分がよろしくないぞ。エピローグでなんとなく救われた気もするけど、どうしてこうも感情移入しにくいキャラばかり書くかねこの著者は。 (03.4.14)
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リドル・ロマンス〜迷宮浪漫・西澤保彦(集英社)

 依頼人の願いをかなえるという、謎の美男子「ハーレクイン」。今日も彼のもとを依頼人が訪れる。しかし、彼らにもたらされる真実とは──。
 ハーレクインを狂言回しに据えた、人の心の内面を探る物語。依頼人自身が初めから「自分はこの男のことを誰から聞いたのだろう」「ここはどこだっけ」という催眠状態、あるいは自失の状態にあるので、読み手もこの依頼人の話を最初から割り引いて読まざるを得ない。ということは、パターンからして「当の依頼人も、まったく無関係な善意の人物ということはあるまい」という見当はつく。つくのだが、そこで終わらせず、更に一ひねりも二ひねりもしてくるところが、業師・西澤である。
 いずれも、自分で自分を騙していたい、自分でもこんなことはなかったことにしたい、そんな事実を容赦なく暴き、当人の目の前に曝すハーレクイン。《良心の皮をかぶった悪意》を書かせると天下一品の著者にしては、少々毒が少ない気もするが。
【イリュージョン・レイディ】自分が夫を殺したか否かわからないという女性。このラストはなんとも切ない。
【アモルファシス・ドーター】親友を殺した人間を罰して欲しいと願う男の依頼とは……。これ、イチオシ! 途中までは「このネタ、見切った!」と思ったのだが、ラスト間際になっての展開は、鮮やかにしてファンタスティック。今思えば、「見切った」と思わせるのも著者の手腕なのだろうな。
【クロッシング・ミストレス】「もしもあのときああしていたら……」という未来をハーレクインは依頼人に見せる。人生の岐路を選択しなおす、というのはとても興味深いモチーフだけど、印象はやや散漫。依頼人が、幸不幸の基準を他人に求めてるせいだろうな。
【スーサイダル・シスター】何故妹は自殺を繰り返すのかと相談にきた姉。う〜ん、謎解きとしては面白いが、この妹の心理がいまひとつ分からない。
この他、【トランス・ウーマン】【マティエリアル・ガール】【イマジナリィ・ブライド】【アウト・オブ・ウーマン】を収録。 (03.4.15)
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上高地の切り裂きジャック・島田荘司(原書房)

 石岡君を語り手に据えた、御手洗シリーズの中編2編。いずれも「これぞ推理小説!」と唸らせてくれる。まさに和製ホームズ譚だ。こういうのを読まされると、パズラーというのがひとつの芸術であり、一級のエンターテインメントだというのを強く感じさせられる。社会的テーマがあるわけでもなく、人間ドラマがあるわけでもない、純然たるパズラー。奇をてらうことなく、まさに「魅力的な謎」と「フェアな手がかり」と「推理」と「推理が描く意外な絵」によって成り立つ、これぞ本格ミステリだ。
【上高地の切り裂きジャック】上高地で発見された女優は、陵辱された上に、臓物を切り取られていた。陵辱の痕跡からひとりの容疑者が浮かび上がる。しかし、彼には鉄壁のアリバイがあった──。何がすごいって、この話、ほとんど全部会話だけなのだ。舞台はひたすら馬車道の部屋、後半になって弁護士事務所と警察署が出てくるが、そこでもひたすら話すだけ。御手洗はスウェーデンにいるので、電話でしか出てこない。だもんだから、読者はひたすら石岡君のところに持ち込まれる情報の羅列だけを読まされるのだが──まったく飽きないから不思議だ! おまけにこの物語、先に書いたあらすじだけ読むと、アリバイ崩しが主眼に思えるでしょう? それがあなた、何に驚いたって(反転)アリバイは崩れなかったから、他に犯人がいるっていう方向になるんだもの! そんなのアリ? でも、島田荘司にかかっては、それが「極上のアリ」になってしまうんだから、やっぱすごい。
【山手の幽霊】住んだ人が不幸になるという、山手の家。その家の地下室で男の死体が発見された。しかし、その男は地下室が封印されてからも外で目撃されていたのだ。目撃された彼は、もしかして幽霊だったのか?──これも、どう考えても密室トリックを暴くという前提で話が始まる。それが(反転)実はこんな抜け穴があったのですというような、「それはアンフェアだろうがよ!」とつっこみたくなるような展開。ところがアンフェアどころか、「ああなるほど、そうくるかぁ!」とひれ伏してしまうのだ。このあたりが巧さである。とにかく会話が呆れ返るほど読みやすい。頭の中で音読すると気持ちがいいくらいの筆運び。次から次へと出てくる不可能状況。それが一本に繋がる快感。冷静に考えるとかなりのチカラワザなのだけれど、チカラワザだろうとなんだろうと、ここまで押さえ込まれてしまっては、文句無しに一本!なのである。 (03.4.20)
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ペンキや・梨木香歩(理論社)

 主人公しんやは、亡き父のあとを継いでぺんきやになったが、自分には才能がないのではないかと悩んでいた。そこで、若き日の父が乗った船で、同じように働きながら、亡き父が眠るフランスを目指す。その旅の途中、彼は不思議な出逢いを経験して、あるものを手に入れるのだった──。
 お客のもっとも望む色を探し出し、人々をしあわせにするのがペンキやの仕事…。そんな男の一生を鮮やかに、そして叙情的に描いた、絵本である。
 絵本といっても、大人向けだ。しんやがフランスから戻ってきてからが、実に楽しく、そして感動的。ひとびとを幸せにするぺんきやの、なんともメルヘンちっくな話だなあと思っていたら──最後に背負い投げをくらった。いや、幸せで良い話だしメルヘンはメルヘンのままなんだけど、こういう結末に持っていくとは! 思わず前に戻って、一部を読み返してしまった。まるで極上のミステリィを読んだときのような、驚きと幸せがないまぜになったような気分。
 物語を読むとき、読者は主人公と一体になる。主人公が喜べば喜び、主人公が死ねばそこで読者も一旦はけりをつける。しかしこの物語は、「命とは続いてゆくもの」ということを、とてもステキな手法で読者に見せてくれるのだ。フランスからの帰路にしんやが手に入れた、あるもの。それだけで「命は続く」とか「親から子への愛」というのはハッキリと描かれているのだけれど、それだけなら子供向けの絵本になっていただろう。そこからさらに一歩踏み込んだところに、この絵本の真骨頂がある。
 薄い絵本なので、サクサク読める。あっという間に読み終わる。その途中は、正直言って読みごたえがあるとは言えない。でも、最後の1ページを読んだとき、ここまでの物語はすべてこの1ページのためにあったのだということに気付くだろう。
 この趣向と、このテーマの見せ方は実に秀逸だ。手に汗握る展開もないし、ハラハラドキドキもないのだけれど、暖かみがある。途中、「なんだかメリハリのない、おとなしい話だなあ」と思われるかもしれないが、どうか最後まで読んで欲しい一冊。 (03.4.22)
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女子大生会計士の事件簿・山田真哉(英治出版)

 「TACNEWS」という会計雑誌(?)で連載されていた、女子大生会計士・萌を主人公に据えた連作ミステリ。ワトソン役には、下っ端会計士のカッキーこと柿本。この二人で、企業が絡んだ会計からみの犯罪や詐欺を暴くというシリーズ。
 とは言っても、「マルサの女」みたいなものではなく、会計の勉強になるようにと描かれた大人しいミステリだ。帳簿上のごまかしを見つけたり、というレベル。会計の専門用語の解説なんかが欄外にあったりして。どうも「楽しく会計を勉強しましょう」というノリで、小説として洗練されてるかってえと、それを求めるのは酷だよな、という感じ。
 まあ、このメイン二人のキャラ造形(とくに女子大生会計士の萌)が、笑っちゃうくらいステレオタイプである。比喩でなく、ホントに笑ってしまった。まあ、そんなところに力を入れるのは目的から離れちゃうから仕方ないんだろうけども。その甲斐あって(?)、会計上の隙間をついた犯罪やごまかしの数々は「へえ、そうなんだぁ!」という新鮮な驚きがたくさん。知らなかったこともたくさん出てきて、なるほどこれは面白いや。おまけに、専門的な話なのにとても分かりやすい。これでキャラや構成がもうちょっとこなれてくれれば、業界モノの面白いミステリになるだろうに。
【《北アルプス絵はがき》事件】簿外入金・架空出金の話。なるほど、これなら確かに裏金ができる!
【《株と法律と恋愛相談》事件】債務保証・商法の話。これはかなりテクニカル。でも最後はハッタリなのね。
【《春の頃、さくら工場、さくら吹雪》事件】美収入金・未払金の話。アメリカでは、これでホントに資金稼ぎをしてるのかな。だとしたら、随分地味なことを……。
【《かぐや姫を追いかけて》事件】固定資産の話。しかしプロがやったにしてはバレバレじゃないか?
【《ベンチャーの王子様》事件】特別目的会社の話。これは会計部分よりも、各登場人物が前面に出てきた初の話。王子様だけでなく、他の脇役もちゃんと役割があるし。こういう構成になってくるのなら、パート2(出てるんです)も読んでみようかな。
(03.4.23)
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女子大生会計士の事件簿2・山田真哉(英治出版)

 「TACNEWS」という会計雑誌(?)で連載されていた、女子大生会計士・萌を主人公に据えた連作ミステリの、シリーズ2冊目。ただ、内容の時系列からみると、こちらの方が先のようだ。そのせいか、内容もベーシックなものが多く、コンゲーム的なミステリとして読んでもとても分かりやすい。素人が読んでも膝を打つネタが多いのよね。こちらをパート1にした方がとっつきが良さそうなものだけどなあ……。
【《競艇場から生まれた》事件】領収書の話。分かりやすい内容で、第一話としては充分合格ライン。これを1冊目にもってくれば良かったのに。
【《不器用なエンゲージリング》事件】売上と借入金・貸付金の話。これ、実際にニュースで見たことあるぞ、と思ったら──やっぱりあの会社の事件と同じ話だった。詳しくはあとがきに載ってます。
【「きれいだね」と僕が言った?!】商品の評価の話。こ、これはちょっと、数字やら表やらが分かりにくいぞ。
【《騒がしい探偵や怪盗たち》事件】インターネットとインサイダー取引の話。ミステリとしての見せ方がかなり巧くなったなぁ、と感心した作品。最後のオチは見えていたとは言え、ちょっと笑った。
【12月の祝祭】数字の話。萌美の過去がちょっとだけあきらかになる。ファンタジックで、テーマがストレートに伝わる良い話。ミステリとしては簡単過ぎるけれど、とても身近だし、このストーリーにはちょうどいい。
(03.4.28)
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赤ちゃんがいっぱい・青井夏海(創元推理文庫)

 バイト先の助産院をクビになった陽奈は、生活のために《ハローベビー研究所》に就職した。そこは「天才児を育てた」として有名になった奥園一家の《胎内育児》を参考に、健やかないい赤ちゃんを産もうという団体らしい。ところがその研究所では、妙な盗難事件が頻発してるという。その上、「生まれた子供が天才じゃない」と文句を言いに来る人まで現れて──。
 シリーズ初の長編。謎らしい謎は、妙なものばかりが盗まれる盗難事件と、研究所に捨てられていた赤ん坊という2件だけで、それを調べている最中に、芋蔓式に他の問題が浮上してくるというパターンなので、ちょっと散漫な印象を受けた。途中からテーマがスライドしちゃうのね。だから、とても巧く作り込まれている割にはインパクトが薄いのは否めない。
 ただ、結末に向かって話が収束していく過程は、「あ、なるほど!」と膝を打った。そうか、あれもあれも伏線だったのね!<遅! こんな段階からちゃんと伏線が張ってあったんだあ。うわあ。これがあるから侮れないのよねえ本格ミステリって。細かいところが一つに繋がる快感はなかなかなもの。ホントに細かいところばかりなのよ。(ただ、この状況で明楽先生が推理できちゃうってのはさすがに無理がないかあ?)
 まあ、登場人物の動きには若干違和感がないでもないし(だって何から何まで自分たちでやり過ぎじゃないか?)、妊婦さんてこんなバカばっかりじゃなかろうとも思うけど、それもこれも「すべてが謎に奉仕する」本格ミステリなら充分許容範囲。
 ただ、テーマそのものは社会派と読んでもいいようなものなのに、どうしてこんなにホンワカしちゃうのかな。持ち味と言ってしまえばそれまでだけど、もちっとシメるところはシメても良さそうなもんだ。ま、これも好みの問題だけど、でもそれもインパクトが薄い一つの原因になってるような気がする。 (03.5.2)
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風の向くまま・ジル・チャーチル(創元推理文庫)

 舞台は1931年。ニューヨークの安アパートに住む兄妹・ロバートとリリーは、大伯父の遺産を相続することになった。ただ、その条件は、大伯父が残した田舎の屋敷に十年間住み続けること。ところが引っ越してきた兄妹は、大伯父は実は殺されたのだという噂を聞く──。
 
「ゴミと罰」の著者、ジル・チャーチルによる新シリーズ。舞台がいきなり1930年代のアメリカの田舎ってことで、どこまで入り込めるか不安ではあったんだけど、そこはチャーチル本来の持ち味と翻訳の巧さでまったく抵抗無く読めた。
 田舎の屋敷に引っ越してきた兄妹が、新しい土地で知り合う人々ってのがまた、一癖も二癖もある人ばかり。この中に犯人がいるだろうことは分かってるんだけど、そんな謎解きよりも、ひとりひとりと兄妹がどう折り合いをつけていくかというところが一番のみどころかな。没落した上流階級の子女という設定が魅力的。もともと著者は歴史小説を書いていた人なので、わかる人が読めば時代背景や人物設定にも「おお」という部分があるんだろうけど、この時代のアメリカ史って疎いのよね。
 シリーズ一作目ということで、人物紹介に終始してしまった観あり。そのせいで、事件の進展が遅いの何のって。この手のコージーミステリはテンポが身上って部分があるので、このあたりは少々辛いか。逆に言えば、一作目だからこそ、《シリーズキャラを容疑者から除外》することが出来ない。そういう点では意外性の面白さは楽しめます。ただ、謎解きはねえ──少々アンフェアな部分もあるけれど、まぁコージー・ミステリだし、それが瑕疵ってほどじゃないかな。
 大がかりなトリックではないし、鬼面人を嚇かすって類の真相ではないけれど、でもとっても《お話として面白い》タイプの真相。しみじみ面白い、じっくり味わえるってところ。《名探偵、皆を集めてさてと言い》というのが、不自然でなく展開されるあたりもとってもスマート。これも「1930年代のアメリカで元上流階級の皆さん」だからこそかな。
 とまれ、これで舞台は整った、という雰囲気。むしろ二作目が待ち遠しくなって、シリーズの皮切りとしては巧いのよね、やっぱ。 (03.5.2)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

天使はモップを持って・近藤史恵(ジョイノベルス)

 大介が入社した会社には、ちょっと変わった掃除婦がいた。年の頃なら十代後半。ブリーチした髪に派手なピアス、ピッタリしたTシャツにミニスカート。名前はキリコ。見た目に似合わず《キリコが歩いたあとには1ミクロンの塵も落ちていない》と言われるほどの腕前らしい。そしてキリコの才能は、掃除だけではなかった。社内で起きる様々な《事件》を、キリコがたちまちクリーンにする!
 ああ、これは好き。これは面白いなあ。この手の連作推理ってのは、どうしても個々の作品は薄味になってしまうものだけれど、これは細かいところまでキッチリしている。短編集なのに人物描写も丹念だし、トリック云々よりも《読ませる》ことを先に於いたミステリ。どの物語も、明るくライトに仕上げながらも、その中核には「人としての弱さ」があるのだ。だから物語として引き込まれる。
 印象に残ったのは、後半に多い。
【ロッカールームのひよこ】掃除の最中、キリコが連れていた猫が、ひよこをつかまえた。どうして会社にひよこがいるのか──? 人を助けるとはどういう事なのか、人の強さとは何なのか。怖いまでにまざまざと見せてくれる。胸にグサグサくる鋭い作品。
【桃色のパンダ】娘のために特注で作ってもらったパンダのぬいぐるみが切り刻まれた。犯人の目的は? これも《動機》が切なく、そして怖い。人間の優しさとは、見方を変えればこうも残酷になりうるものなのか。
【シンデレラ】せっかくきれいに掃除したトイレが汚される。いったい犯人の目的は何? この犯人にはホントに腹が立つが、一番の問題は、自分が間違ってるなんて思いもしないということだ。自分はこうなっていないか、問いかけたい。
【史上最悪のヒーロー】ラストの一編。これ、最高! これ、イチオシ。いやあ、すっかり騙された。ホントに騙された。そして、大介のモノローグはとっても辛かった。それだけに、この結末はブラボー!
 その他、【オペーレータールームの怪】【ピクルスが見ていた】【心のしまい場所】【ダイエット狂想曲】を収録。 (03.5.5)
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野球の国・奥田英朗(光文社)

 お薦めマークをつけたけど、これはプロ野球ファン限定です。
 プロ野球好き(中日ファン)の著者が、各地に出かけてプロ野球を見るという、野球+旅行のエッセイ集。というより、野球+旅行×(マッサージ+映画)かな。
 これ、野球にまったく興味のない人が読むと、ぜんぜん面白くないんじゃないかと思うんだけど、でも逆に、野球好きにはタマリマセン。おまけに、あたしも中日ファンなんだもん。ただ、どこのファンだなんて関係ない、ただひたすら野球への愛。ミーハーなまでの野球選手へのリスペクト。それが嬉しい。こんなステキな野球ファンが文壇にいたのね。ああ、この著者と一緒に、片手にビール・片手にメガホン持って野球観戦したい。どんなに楽しいだろう。
 沖縄で見た、中日や横浜のキャンプの様子。松山で見た、中日・ヤクルト戦。秋田で見たファームの試合。台湾で見た、初めての日本プロ野球公式戦であるダイエー・オリックス戦。尾道で見た広島・ヤクルト戦。熊本で見たマスターズ・リーグの福岡・名古屋戦。いいなあ、いいなあ。
 飛行機でベイスターズの選手と乗り合わせたら、横浜ファンの編集者に電話して自慢。ホテルのエレベータで出会った中日の井上の井端への態度に「昨日3タコのオマエが首位打者の井端の洗濯物を持て!」と怒ったり(笑)、マスターズリーグの始球式に出てきた野球少年が広島の津田恒美投手の忘れ形見だと知って涙ぐんだり。ああ、いいなあ。こんなこと言うと著者は嫌がるだろうけど、とてもあたしと似たタイプの野球ファンなのだ。
 特に台湾でのダイエー・オリックス戦のレポートは最高よ。腹筋がつりそうになるくらい笑わせて、試合の描写ではまるで自分もそこにいるかのようにエキサイトさせてくれて、読み終わったときには著者と一緒に「ベースボールって、なんて偉大なスポーツなんだ!」と感動してしまう。ああ、この試合を生で体験したなんて、羨ましいぞ奥田英朗!
 ただ、徹頭徹尾、野球の話ばかり書いてるかというと、そういうわけでもない。旅行記としても面白いし、なぜか行った先で必ず映画を見てマッサージを頼んでいる。このあたりの黄金パターンが実に面白いのだ。行く先々の場所で「ここに住みたい」と思ってしまう著者。熊本城の天守閣を「家賃三十万で貸してくれないかな」などと考えるあたりが……(笑)。秋田では全盲のマッサージ師とラジオを聴きながらのサッカーW杯談義に花を咲かせ、台湾では日本人の平仮名名前を漢字に直す態度に喝采を送り、可愛い女性を見つけては妄想を膨らませる。とにかく面白い。
 ああ、個人的には今年ベストのエッセイ集。ただ、この面白さは野球ファンにしか通じないだろうなあ。 (03.5.5)
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