観覧車・柴田よしき(祥伝社)
京都で探偵社をやっていた夫・貴之が失踪してから、妻の唯はその探偵社をひとりで切り盛りしていた。夫が戻ってきたとき、探偵社がなくなっていては困る。その思いで探偵業を続ける唯。そんな彼女のもとには、悲しい依頼が集まってくる──。
前代未聞の中学3年生という若さで全日本入りした不世出の名セッター、中田久美。3度のオリンピックに出場した彼女と二宮清純氏が対談形式で、日本女子バレーを語る。
作家の辻克巳は、自分の苗字に友人の名前を併せてペンネームにしていた。その友人──カツミはビートルズマニアで、ビートルズにまつわる不可思議な噂や迷信を信じているような男だった。ところがカツミが、突然自殺してまう。その頃から小説がまったく書けなくなっていた辻克巳は、高校時代から友人でカツミの恋人だった洋子のもとを訪れる。「カツミのことを、何でもいいからもっと知りたいんだ……」
安楽椅子探偵アーチー・松尾由美(東京創元社)
11才の及川衛は、誕生日のプレゼントにゲーム機を勝ってもらう予定だった。ところがママは仕事で買いに行けない、その日を逃すと特売セールが終わってしまう。そこで衛は2万8千円という大金をママから預かり、自分でゲーム機を買いに行った。ところがその道すがら、骨董店の前で衛の足が止まってしまう。なぜなら、その店先に置かれていたビロード張りの肘掛け椅子から、寝息が聞こえてきたから……。誰も座っていないのに、この寝息は、いったい何?
1989年。大学生になったばかりの坪倉優介さんは、雨の中、スクーターで交通事故に遭う。ICUに収容され、生死の境をさまようこと10日。奇跡的に命をとりとめ、意識を取り戻した。しかしその時、彼は、自分の名前も、家族のことも、日常生活の常識さえも、すべて忘れていた──。そんな彼が1から物事を覚え、草木染め職人として独立するまでの12年を綴った、本人の手による手記である。
自殺よりはSEX・村上龍(KKベストセラーズ)
村上龍氏の、1976年のデビューから2002年までの間にいろんな媒体に発表された「恋愛エッセイ」を一冊にまとめたもの。恋愛エッセイなんて普段はまったく読まないのだけれど、村上龍となれば話は別である。もう、言いたい放題で笑えてしまうくらい。敵、作りまくり。それに、恋愛エッセイと銘打ちながら、社会論になっていくあたりも読みごたえがあるのだ。
頭が良くてクールなジュン。大食い豪放磊落なダイ、常人の数倍の速さで老化するという難病を患っているナオキ、そして僕。4人の14才の少年を主人公に、オムニバス形式で描いた連作短編集。直木賞受賞作。
七度狐・大倉崇裕(東京創元社)
「季刊落語」編集部の間宮緑は、北海道へ出張中の牧大路編集長より、杵槌村へ行くように命じられる。そこで、六代目春華亭古秋がその七代目を指名するという一門会が開かれるのだ。ところが緑が到着して間もなく、突然の大雨で杵槌村は孤立してしまう。そして起こる事件。緑は電話で牧に助けを求めるが──。
蛇行する川のほとり(3)・恩田陸(中央公論新社)
「蛇行する川のほとり」(1)(2)に続く完結編。毬子の代わりに合宿に参加することになった真魚子。そしてついに、あの事件の真相が語られる。
大学生の柊一は、ケガが原因で寝たきりになった塗装職人の祖父と、末期癌で入院している父親との3人家族。父の病院を見舞い、祖父を介護し、家事をこなし、アルバイトをする。そんなとき、離婚後に他の男と再婚した柊一の母親が表れ、「父さんが死んだら入る生命保険金を貸してくれ」と持ちかけてきた……。
ここにはエピローグを含めると7つの短編が収録されているが、なんと1作目の
【観覧車】は著者の実質的なデビュー第1作であり、ラストの【遠い陸地】【終章、そして序章】は単行本になるにあたっての書き下ろし。実に7年の歳月をかけて書かれた本である。おまけに、作中でも5年が立っている。ポツポツと五月雨式に雑誌掲載されたシリーズなのに、こうして1冊にまとまってみると、夫がいきなり失踪という事態に見舞われた妻の心情の変化が年と供に変化していく様が見事である。
正直、この唯という主人公に関しては、チト辟易した部分もある。確かに夫が失踪しその理由もわからず、しかも一人で生活を立てていかねばならないのだから、相当に気を張ってなければならないだろう。しかしそれにしても、感情の起伏が激しくて、読んでるこっちが疲れてしまった。まあ、それは多分に、キャラ造形というよりも、感情をリキ入れて表現したいときに一行空きを多用して「!」をやたらとつける、という文章作法によるところが大きい。「そんな力入れんでも。読み手をちょっと休ませてよ」と言いたくなってしまうのだ。でも後半はそれが目に見えて減ってきてくれたので、数段読みやすくなり、逆に感情移入しやすくなった。
【観覧車】その女性はなぜ毎日観覧車に乗るのか。うわあ、この真相の映像は恐ろしいくらい切ないなあ。
【約束のかけら】嫁の浮気調査を頼む姑。とても良くできたミステリ。ドラマにしたら面白そう。
【送り火の告発】わはは、似たようなミスをしたことがあるぞ。京都以外の人にはぴんと来ない話だけど。
【そこにいた理由】老夫婦の浮気調査の話。ああ、これ、いいなあ。実に感動的。イチオシ。
【砂の夢】男と逃げた未成年の娘を捜すという依頼。こういうサスペンスは巧いなあ。
【遠い陸地】貴之は果たしてみつかるのか……。新たな事実の判明が中心で、独立した短編ではない。
【終章、そして序章】ちょちょちょっと待たんかい! これで終わり? そんな殺生な──と思っていたら、あとがきで続きを書く予定との話が。そうだよねえ。早く続きを出して下さい。
(03.9.1)《この本の詳細情報&注文画面へ》
天才セッター中田久美の頭脳(タクティクス)・二宮清純(講談社)
これはもう、バレーボールファンやプレイヤーは必読書でしょ。このサイトの読者にバレーファンやプレイヤーがそう何人もいるとは思えないが、それでも敢えてお薦めマークをつけてしまう。もしもあなたがプレイヤーなら、特にVリーグの選手なら(いないって)、これを読まずに通り過ぎることは、強くなるチャンスをみすみす捨てていると言えよう。
とにかくすごい。セッターが試合をどう組み立てていくか。一本目のアタックを誰に打たせるかを決めるため、朝からチームメイトの顔色をチェックする。攻撃のパターンはトスの高さひとつで決まる。セッターはすべての選手の性格を把握しておかなくてはならない。セッターは「一つ前のプレイはなぜ決まったのか」を常にわかっていなければ試合を作れない……。バレーをプレイした経験のない人にとっては「ええっ、バレーってこんな緻密なサインプレイをしてたの?」と驚くだろうし、経験者にとっては「そうか、こうでなくちゃいけなかったのか」と猛省を促される。
この手のスポーツノンフィクションに多いのが、精神論だったり逆境からの復活というドラマだったりするのだが、そういうものが一切ないのも好ましい。とにかく、技術論に徹底しているのだ。技術論のみなのに、それで手に汗握ってしまうんだから、どれだけすごいか分かるでしょ。だからこそ、「なぜ今、日本女子バレーは弱くなってしまったのか」という中田の解析には頷かざるを得ない。いや、現役プレイヤーや現役指導陣からは反論も出るだろうが、それでも中田の分析・提案に誤りはないと思う。それだけの説得力を持っているのは、ひとえに、ここで述べられている中田のバレープレイヤとしての理論に説得力があるということである。
図も適宜挟み込まれて、初心者にもわかりやすいと思う。バレー好き、いや、スポーツ好きならこれを読んで下さい。スポーツは好きだけど、バレーってあんまり興味持てないんだよね、という人が、バレーの面白さに気付ける一冊だと思う。バレーって漠然とラリーの応酬を目で追うだけという観戦になりがちだけど、プレイヤが何を狙ってどう動くか、それが分かってくるよ。あの激しいラリーの最中に、300ものサインを出し分けてるんだから!
それにしても中田よ、ビーチバレーのGMもいいけど、インドアバレーの指導者として戻ってきてくれよおお。
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盗作・伊藤たかみ(河出書房新社)
帯にはメタミステリなんぞと書いているもんだから、いわゆる「ミステリ」だろうと思って手に取ったマニアには「なんじゃこりゃ」と思われるかもしれない。しかし、これは帯を作った出版社側の責任だ。もともと著者は純文学畑の人である。作品そのものは、村上春樹に近い世界がある。その上、著者自身、ペンネームは友人の名前を貰っている。これは、著者自身の物語でもあるのである。
頻出する謎(まあ、ミステリと銘打ちたくなる気持ちはわかる)に翻弄される。それが実に心地よい。最初は地に足がついた謎。でも次第に、どこが、とハッキリ掴めないままに、いつしか夢のような不可思議な世界に誘われている。不連続とも思われるエピソードの積み重ね。洋子の身に降り懸かった突然の不幸、カツミが自殺した予備校で偶然であった少女、カツミのバイト先の女店長……個々の謎や出来事にたゆたっている内に、それがいつしか、大きなひとつのうねりになる。
謎は解かれない。しかし、そのことに不満はない(そう言えば、村上春樹も謎を謎のまま放り出すタイプだよな)。謎は解かれなくても、「なぜ解かれないか」を読者がわかっているから。複数の人物と出逢ううちに、辻克巳は、いったい自分が何を探しているのかを意識するようになる。「謎」は、そのための小道具なのだ。主役はあくまでも謎ではなく、「小説を書いていた僕は誰だ」「僕は小説を書いていたのではなく、書かされていたのではないのか」という辻克巳本人のアイデンティティーにある。
メタミステリの惹句に惹かれてこれを購入した「ミステリ・マニア」がどういう評価を下すかはわからないが、少なくとも「損した」とは思わないのではないだろうか。ここに描かれている「謎」が演出する、孤独、喪失感、不安、そんなものが読み手に一気に襲いかかり、ページをめくる手が止まらなくなる。読むのをやめてしまうと、それまでこれを読んでいた自分というものの存在すら危うくなってきそうな、そんな不思議な力を持った作品なのだ。ラストは、実に悲しく切ない。
(03.9.5)《この本の詳細情報&注文画面へ》
というわけで、なんと言葉を喋る安楽椅子アーチーの登場だ! このアーチー、衛や衛の同級生が持ってくる謎を、居ながらにして(あたりまえだ、椅子なんだから)解いてしまう。まさに安楽椅子探偵なのだった。
第1話を読んだときは、正直「ジュブナイルかあ」と思ったのである。まあ、主人公が11才だもんね。11才の少年が巻き込まれる事件なんざあ、こんなもんよね──と。ところが2話、3話と話が進むにつれて、そんな印象は払底された。松尾由美ならではの「すっとび」感、謎解きの興奮(でもフェアプレイとは言いがたいので、読み手が推理するのは無理だと思う)、解決はしたもののちょっとばかり棘を残す読後感。巧いねえ。
でもやっぱり、小学生以外のところにいるアーチーも見たいなあ。一人暮らしのOLとか、窓際の刑事とかさ。そういうのも面白そうじゃない? 今回の2話、3話なんて特に、子供だからここまでだけど、オトナなら更に一歩が踏み込める話だもの。無論、そこは著者が読者に委ねてくれているわけだが。そのあたり、チト隔靴掻痒の気分が残る。でも、衛はアーチーを絶対に手放さないだろうな。いずれにせよ、これは続編が待ち遠しいシリーズだ。
【首なし宇宙人の謎】宇宙人の絵をあしらった中山君のナップサック。その布が切られた。犯人は?
【クリスマスの靴の謎】酔っぱらいのケンカのあとに残された片方の靴。ところがその靴の中には……。
【外人墓地幽霊事件】社会見学で訪れた外人墓地。その看板に気になるチョークの跡が。もしや、暗号?
【緑のひじ掛け椅子の謎】アーチーの元の持ち主が見つかった? 思わぬところから手がかりを得た衛と芙紗。二人だけで突き止めようとするが……。クライマックスはどきどきしたぜ。でも、まさかこんな真相だったとは。話の「飛び加減」が面白くもすさまじい。
(03.9.6)《この本の詳細情報&注文画面へ》
ぼくらはみんな生きている〜18才ですべての記憶を失くした青年の手記・坪倉優介 (幻冬舎文庫)
想像もできない、すさまじい体験である。ドラマや小説では「記憶喪失」というのは極めて恣意的に使われる。例えば、自分の名前や家族の名前は忘れるが、金銭価値や交通ルールなどは忘れない、といったような設定がよくある。がしかし、坪倉優介さんの場合は、本当に全てを忘れていた。時計をみても、それが時刻を示すものであるという記憶(知識)がない。「とけい」という言葉も忘れている。何時何分、という時間の単位もわからないのだ。ご飯を見ても、それが食べ物だということがわからない。いや、「食べる」とはどういう行為なのかすらわからないのだ。「ここがゆうすけのおうちやで」と言われても、「ゆうすけ」とは何なのか、「おうち」とは何なのかがわからない。18才の赤ん坊である。それなのに、突然、妙なことを思い出しては混乱する。
ごはんは光るつぶつぶ。キラキラ光るもの2つと、ボロボロのもの3つで、大学までの切符が貰える──。すごい。こんな状態で、なんと彼の両親は、彼を一人で大学に通わせるのだ。字を忘れているからノートもとれないし、そもそも大学が何なのかも忘れているのに、である。彼も戸惑ったろうが、クラスメートは更に戸惑う。しかし彼は一歩ずつ、着実に、「成長しなおして」いく。過剰な演出もなく、ドラマチックな盛り上がりもない。ただ淡々と、手記が続くだけだ。そういう意味では、「泣ける」話ではない。ただ事実に圧倒されるのみ。
正直、疑問に思う箇所がないわけではない。彼は文字を忘れている。ひらがなを母親に教えられるのは、だいぶ経ってからだ。だから、この手記は(特に前半は)リアルタイムで書かれたものではない筈である。あとになって思いだしながら書いたのだろう。だとすれば、初期の頃の辿々しい日本語が、後半にはかなり難しい単語や比喩を用いた文章になっているという「成長」が、逆に不審に思える。当人ではなく、出版社が演出効果を狙ったのではないかというアザトさを覚えてしまうのだ。だから、そのあたりは編集部注をつけるなりして、執筆の状況を記しておくべきだったと思う。尚、この疑問は、単行本で読んで感じたものである。文庫化に際して、そのあたりが説明されていた場合にはご寛恕戴きたい。
(03.9.7)《詳細情報&注文画面へ》
まず、タイトルに拍手。「自殺よりはSEX」って……そりゃそうだ、としか言えないじゃないか。
最初はもう、「ぎゃあ、ここまで言い切っちゃっていいのかあ?」と他人事ながら心配になってくるのだ。文脈はさておき、言葉だけ拾い出すとすごいよ。例えば、
▼貧乏人に快楽はない。
▼浅知恵とは女のためにある言葉だ。生物学のレベルでいうと、女に知恵はない。
▼ブスで貧乏で田舎者の恋愛はみんなの迷惑である。
……もう、字面を見ただけで、「ぎゃあ!」と言って本を放りだし、押入にこもって「ごめんなさいごめんなさい」と言いながら震えていたくなるような、そんな文章のオンパレードである。
ところが、だ。読んでいくうちに、こういう言葉に納得してしまうのよね。というのも、「ブスで貧乏なやつはダメだ」と言いながらも、実はエッセイの主旨それ自体は、それを読んでいる女をきちんと持ち上げてくれているから。主旨は極めてシンプル。「依存は最低。恋愛を最優先にしない人が、充実した恋愛をすることができる。自立していて、自分の好きなことをはっきりわかっていて、やっている人でなければ、いい恋愛なんかできっこない!」──おお、こうしてまとめてみれば、極めてオーソドックスで説得力のある意見ではないか! かといって、先程のキツい言葉が何かのレトリックだったのかというとそうではなくて、あれはあのまんま、言葉のままの主旨だから面白い。それが時代によってどう変わっていくかも見どころのひとつ。時代順に掲載されてるからこそ味わえる面白さである。
きつい事を言いながらも、その裏ではちゃんと「女ってグレイト! だから男は女にかなわないんだよな」という主旨へ持っていくあたり、使い古された手ではある。しかし、そこにいろんな社会事象を絡めて論理を展開させ、それをスマートにかっこよく決めてみせるのは、やはり村上龍にしかできないワザなんだよね。
(03.9.9)《詳細情報&注文画面へ》
4teen・石田衣良(新潮社)
うわあ、いいなあ、これ。14才の恋。14才の正義。14才の悩み。14才の友情。14才の性。14才の生死。「14歳は、空だって飛べる」──瑞々しく、微笑ましく、痛く、恥ずかしく、エキサイティングで、そして切ない、14才の物語。これはお薦め。何がすごいって、早老症なんていう病気を持ってきたら、それが物語の主眼になっちゃうでしょう普通。ところがこの連作では、「そういう病気を持ってはいるけれど、でも別にそれが何?」というスタンスでごく普通に仲間の一人として語られるのだ。最初に一編だけは病気がテーマになるけれど、でもそれ以降は個性のひとつになる。すごいなあ。
【びっくりプレゼント】早老症で入退院を繰り返すナオキの誕生日に、僕たちはあるプレゼントを用意した……。そのプレゼントの顛末はなんとも切ない。お金で買われた女の子が、なんともいいんだよなあ。
【月の草】学校に来なくなった少女。僕がプリントを持っていくと、彼女はおそろしいほど痩せていた……。思春期の摂食障害を、ここまで切なく美しく描いた物語を、あたしは知らない。
【飛ぶ少年】コメディアン志望の関本は「場の空気が読めないヤツ」として皆に嫌われていたが……。関本の弱さは、もしかしたらとてつもない強さを秘めているんじゃないかと思わせる。
【十四歳の情事】ジュンが人妻と付き合っている? しかしその人妻は……。うわあ、かっこいいぜジュン! 普通に考えればこの人妻が情けないんだけど。
【大華火の夜に】死を間近にして病院を脱走して来た患者と出逢った僕たち。死というものがまだ遠くにしかない14歳の行動とは。
【ぼくたちがセックスについて話すこと】同級生のカズヤが、マドンナの告白を蹴った。その理由とは。教壇の上でカズヤがとった行動が、胸が震えるくらい悲しい。でもカズヤ、こりゃ報われないよ(笑)。
【空色の自転車】ダイの父親が死んだ。ダイが殺したとして警察に拘束され──。自分たちにふりかかった事件。物語の構成と小道具の使い方が実に巧い。
【十五歳への旅】自転車でキャンプに行くと嘘をつき、4人が向かったのは新宿。新宿で野宿してオトナの夜を覗くんだ!──続けて読むと、4人の成長がわかる。4人がヒミツを語り合うシーンは秀逸。
(03.9.12)《詳細情報&注文画面へ》
うわあ、これはまた、なんて古式ゆかしい本格ミステリなの。鄙びた過疎の村、三人の息子の中からただ一人だけが七代目に選ばれるという骨肉の争い、嵐の山荘、見立て、数十年前の因業、次の事件を防げない名探偵、いかにもな容疑者たち……本格ミステリファンなら小踊りしてしまうような、横溝正史の世界を思わせる「これぞ本格」という要素がテンコモリだ。
だからこそ、逆に新味は乏しく、サプライズも薄いんだけれど──妙に気をてらうよりは、この方がずっといい。「うわぁい、嵐だあ」「きゃっほー、見立てだぁ」と、読んでて嬉しくなってしまうのだ。<それもちょっとどうかと思うけどね(笑)。とにかく、極めて王道。嬉しいくらいオーソドックス。
ただ、ただでさえクローズドサークルで登場人物が少ないのに、いっそ気持ちいいくらいにどんどん人が死んでいくので、容疑者がどんどん絞られていく。で、そうなってくると、もう犯人ってこいつしかいないじゃん、という状況になってくるのだ。伏線が親切過ぎるというのも、あるかもしれない。こういうふうに過去の事件が関わってくる場合、その過去の事件を別建てでちゃんと読者に提示しておかなくちゃアンフェアになってしまうので、読者は探偵役よりも情報が多いのよね。
というわけで、話自体は「ケレン味は薄いけど、でも安心して楽しめる」という部類。次々と人死にが出る部分はショッキングなシーンでありながら、同じような構成・展開が繰り返されるので、ちょっと冗漫に思えてしまう部分もあったけれど、後半はドラマ性も相俟って、俄然面白くなる。落語の使い方も効果的。そして全部がわかってみれば──いやあ、これは良くできたミステリだわ。細かいところまで、実によく練られている。「うわあ、やられた!」というよりも「へえ、巧くできてるなあ」という感じ。
──とまあ、巧いと思いながらも冷静に読んできたのだが、エピローグを読んで、ゾクリとした。このエピローグは実に秀逸。秀逸にして、怖い。
(03.9.16)《詳細情報&注文画面へ》
う〜ん、どうにもちぐはぐな印象。これはね、面白い面白くないという以前に、3冊まとめて読んだ方がいいと思う。リアルタイムで読んでいると、前のヒキが薄れてきたところに巻代わりで視点(語り手)が変わるので、気持ちがついて行きにくいのだ。そういう手法が効果的な物語もあるだろうけれど、この作品に限って言えば、分冊にして3〜4ヶ月開けて出したことが利点になっているとは思えない。語り手が変わるってのが、間をおいたがために返って印象が散漫になり、読者の中で話の流れが途切れちゃうのよね。
それに、一気読みの方が雰囲気が保てる。恩田陸の作品の最大の醍醐味って、この《雰囲気》だと思いません? 高校生の夏休み数日間というありきたりな舞台なのに、そこに登場する子どもたちは透明感に溢れて繊細で……つまりは日常の温度や色からは切り放されているわけだ。それを分冊にされてしまうと、盛り上がったところで読者はイヤでも日常に戻らざるを得ない。これは雰囲気に浸ったまま、何者にも邪魔されずに、その雰囲気のままで最後まで読んでこそ《物語世界を味わう》ことができるものだと思う。
さて、ストーリー。2巻のラストでとんでもない展開になり、3巻に入った途端に、とある人物が「不在」になる。それがきっかけで事件の真相が一気に究明されるわけだ。謎解きとしては、目新しさはないものの実に「エレガント」。最高の真相だ。人物や物語に見合った真相で、充分満足。
ただそれよりも、登場人物同士の関わり合いっていうのかな、第1巻〜2巻で全面に押し出されていた個々の個性が、3巻になると「謎解き」に焦点が移ってしまって、あの、ピンと張りつめた若者同士の間に張り巡らされた糸のようなもの、心情の変化といったものが、少々なおざりになった感があるのが残念。
(03.9.12)《詳細情報&注文画面へ》
雨の匂い・樋口有介(中央公論新社)
てなふうに書くと、なんだか「家族の苦境にも負けずに頑張る学生の、どろどろした話」ってなふうに読めてしまうのだけれど、全然違う。いや、苦境に負けてないのは確かなんですけどもね。苦境を苦境として描いていないのがこの小説のすごいところ。とにかくこの柊一が、実に飄々としている。ここまで飄々とせんでも、というくらい飄々としている。かっこいいんだよなあ、これが。
よく、ミステリなんかを読んでいると、「もう3分の1くらい読んだのに、まだ何も事件がおこんないよ〜」という不満を持つことがある。この物語も、事件はホントに最後の方でしか起こらない。それまでは、柊一の日常生活が描かれるだけだ(もちろん、その中に事件への伏線が散りばめられているのだけれど)。日常生活が描かれるだけなのに、全然飽きない。むしろ、引き込まれる。柊一のキャラクターが持つ魅力もさることながら、家族や近所の人、緒川家の人々、バイト先の人々の、個々が持つ「ちょっとズレた」感性や行動(柊一もズレている)と柊一との関わり合いが、なんとも巧い調和を見せて、ひとつの物語を作っているのだ。
「人」で読ませる物語、と言ってもいい。
そして物語が一気にクライマックスへと進んだとき──飄々としていて、クールで、感情を表に出さない柊一の、《ある一面》が浮彫になる。感情を表に出さないからこそ、柊一の行動の恐ろしさ、冷たさが一気に迸るのだ。その落差。「いい人だと思っていた人が豹変する」という話はときどきあるが、柊一の場合、何も変わらず、同じキャラクターのまま、ある行動にでる。それが体の芯が冷えるような怖さがある。
これまで著者は、ハードボイルドの草平ちゃんシリーズだの、高校生を主人公にした青春推理ものだのを得意としてきたが、ここに来て、「あっ、こういう方向に進んだか!」という嬉しい驚きがあった。今までの良さはそのままに、そしてその良さがより凝縮されて発揮できる手法を見つけたといった感じ。
これは、いいよ。物語もいいし、物語の持つ味もいい。樋口作品の中では、個人的にベストかも。
(03.9.12)《詳細情報&注文画面へ》
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