お厚いのがお好き?


プルミン・海月ルイ(文藝春秋)

 人気の乳酸飲料プルミンを配ってくれるプルミンおばちゃん。ある日、公園にプルミンおばちゃんがやってきた。集まる子供たちに、プルミンを手渡すおばちゃん。そして、1人の子どもが死んだ。死因はプルミンに混入していた農薬。被害者となった子どもは、近所でも評判のいじめっ子だった……。
 ああ、これは構成次第ではばりばりの本格ミステリになるだろうになぁ、というのが第一印象。もちろん、何でもかんでも本格ミステリにすべきだとは思わないし、「この物語を綴るのに最もいい形」を著者が選んでいるわけだが、それでもミステリファンとしては「惜しいっ」と思わずにはいられない。この手がかり、この真相……本格っぽいのにぃ。
 前半、物語の中心は「母親たちの社会」だ。噂好きの主婦、子どもの自慢ばかりする主婦、名家のお嬢様のまま母親になった女性、水商売の母親──ステレオタイプではあるけれど、だからこそ読者にとって「わかりやすい」プチ社会が描かれている。
 後半になると、事件は一気に動き出すのだけれど、第二の事件が起きるのはもう終盤だ。おまけに事件が起こったと思ったら、そのまま一気に解決編になだれ込む。逆に言えば、冒頭で事件が起こってから終盤まで、これといった展開もなしに、ただひたすら「母親たちのお付き合いあれこれ」が描かれているのである。むろん、その中に伏線は散りばめられているし、ちょっとずつ新事実も登場するわけだが、あくまで物語の中心は「母親社会」なのだ。それなのに、厭きさせずに読ませてしまうのは、エピソードが魅力的な上に、相当にストーリーテリングが巧いせいなんだよなあ。犯人は誰なのか、大勢の子どもの中からどうやってターゲットに毒入りプルミンを渡したのか、動機は何なのか、そういった魅力的な謎はあるんだけど、謎解き興味ではなく、ただそこに書かれているエピソードに惹かれて読み進んでしまう。
 だからこそ、終盤の謎解きでいきなり「推理」しちゃうのが、ちょっと唐突な感じ。この手がかりなんて、すごく本格ちっくなのよね。そんな本格っぽい小道具が出てきた一方で、犯人像に関しては「仕込み」が薄い気もするし……サプライズがあるようなないような。謎解きのカタルシスと、母親社会のドラマが、微妙にアンバランスなのだ。つまりは、惜しい、のである。 (03.10.16)
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新世界・柳広司(新潮社)

 1945年8月。アメリカのロスアラモスではパーティが催されていた。ロスアラモスに集められた科学者たちが開発した「原爆」のおかげで、日本が無条件降伏したのを祝ってのパーティだった。仮装に寸劇、そして祝砲代わりのTNT爆薬。ところがその爆薬の仕掛けを誤ったのか、爆発に巻き込まれたマイケルとキスチャコフスキーがケガをするハメに。命に別状はなかったものの、事件はその夜に病院で起こった。キスチャコフスキーの病室で、翌朝死体が発見されたのだった──。
 原爆を作ったオッペンハイマーの友人の目を通して一部始終が語られる。もうそれだけで「原爆を作ってしまった科学者のジレンマ」が物語の中枢にあるのだろうということは容易に想像がつくのだが、その掘り下げが予想以上で、もう満足満足。単に科学者の心的苦悩を描写するだけにとどまらず、「イルカ放送」という寓話を取り入れたり、「隻眼の少女」という(半分は)空想上の少女が見せた「ヒロシマ」の描写に枚数を割くなど、その訴求力は素晴らしい。
 ただ、本格ミステリとして読むと、ここで語られる事件は若干弱い。正直、さして「魅力的な謎」ではないし、その真相も──まあ、その──現象面だけ見ると、たいしたことはない(すみません)のだけれど──この「動機」は。これこそ、この時代、この場所、そしてこの犯人にしか持ち得ない動機である。そしてこの動機が、小説のテーマに直結しているのだ。これはこの小説の最大の魅力だろう。そしてそこに派生して語らされる様々なエピソードや、付随して明らかになる「真相」の意外性と怖さには、戦慄した。
 惜しむらくは、「原爆を作ってしまった側のジレンマ」というテーマがあまりに強烈過ぎるために、「謎解きを楽しむ」ことができなくなってしまったこと。つ〜か、本格ミステリとしての印象が殆ど残らない。この物語のテーマと、そのテーマを補強するだけのエピソード、それを「動機」に絡めた手腕、これらは《お薦めマーク》モノなんだけど、それがイコール「お薦めの本格ミステリです!」とはならないのが辛いところだよなあ。
 いや、別に本格ミステリとして読まずに、普通小説として読めばいいだけの話なんだけれどね。 (03.10.16)
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ドリームバスター2・宮部みゆき(徳間書店)

 異世界での事故が原因で、囚人たちの「意識」が、この世界へと逃亡した。彼らの意識は、我々の心の隙間に入り込み、その人物を乗っ取ってしまう。だから狙われるのは病人や悩みのある人。そんな「意識」と闘うのは、ドリームバスターと呼ばれる少年・シェンと、彼の師匠・マエストロ。実はシェンの母親が囚人で、意識体となって逃亡しているのである。戦いの舞台は、その「意識」に入り込まれた人物の夢の中──。宮部みゆきが描く、アクション・ファンタジー「ドリームバスター」に続くシリーズ第2弾。
 前作で行方不明になってしまった友人だとか、そのあたりのエピソードも引きずっているものの、基本的には一話完結タイプ。ただ、しかーし! あたしゃ声を大にして言いたいゾ。一話完結タイプなら、せめてその一話が終わったところで本にしろっ!
 今回、目次を見ると2話が収められている──ように見える。【目撃者】【星の切れっ端し】の2編だ。ところが【星の切れっ端し】は話の途中で「TO BE CONTINUED……」なんて言われてしまうのよぉ。何なんだこれは。連載か。でも雑誌掲載されたものを本にしてるわけで、だったら【星の切れっ端し】が終わるまで待ってから本にしても良かったんじゃないのか? なんでこんな中途半端なところで1冊にしちゃうわけ?
 ってことで、【目撃者】に特化した感想を。悪夢に悩まされているのは、ある事件現場を目撃したOL。彼女は自分が見た男を犯人として証言したが、本当に自分が見たのがその男だったのか、次第に自信をなくしていた。もしかしたら警察に証言を誘導されたんじゃないか──。彼女の夢に入り込んだシェンは、彼女のあまりのひ弱さに苛立つのだが……。「にこりと笑ってバカを斬る」のが上手な宮部みゆきだが、今回は、このどこから見ても腹の立つOLを、シェンの生い立ちと重ね合わせることで、読者にも多面的な見方を示している。最終的には彼女を応援している自分に気づかされる。ターゲットがこれまでとは違ったキャラに設定されてるのも魅力。
 【星の切れっ端し】は……起承転結の承までだが、少年の悪夢の原因と、これまた人間的なターゲット、それと新人DBが抱える謎など、なかなか面白くなりそうな予感。……つか、こんなところで止めるな。終わってから本にしてくれ、頼むから。 (03.10.16)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

対話篇・金城一紀(講談社)

 短編集。ああ、これ、いいっ! なんてステキなの。これまでの金城作品と言えば、イマドキの若者が主人公で、反抗したり頑張ったり拗ねたり走ったりの話が多かったんだけど、これはちょっと毛色が違う。いや、若者と言えば若者なんだが、なんかこう、ヒタヒタと胸に迫ってくる静けさがいいんだなあ。
【恋愛小説】大学の試験のあとで偶然出逢った顔見知り。何気ない恋愛談義をするうちに、彼が囚われているある運命を知る。彼と親しくなった人物は、皆、死んでしまうというのだ──。なんともスットンキョーな話なのい、それを無理なく読者のハートに届ける巧さがある。実に悲しい。実に切ない。自分のそんな運命を分かっていながら、それでも出逢ってしまった最愛の人。自分が好きになれば、この人は死ぬ。でも思いは止められない──彼と共に運命に刃向かおうとした彼女の言葉のひとつひとつがきらめきながら心に残る。
【永遠の円環】
「2001ザ・ベストミステリーズ」「サバイバー」というタイトルで収録されていた短編の改題。急性の病気で余命幾ばくもない僕は、死ぬまでにどうしても殺してやりたいヤツがいた。しかし1人ではベッドから起きることもままならない……。ミステリ仕立てではあるんだけれど、ミステリだけではない色々なものが詰まっている。「あいつを殺したい」という僕に、Kが計画の杜撰さを指摘するシーンは、「死にそうな相手に向かってこんな!」と思わせる妙な小気味よさがあるし、あることに僕が気づくシーンなどはゾクリとさせられる。そしてラストは、死にゆく者と生きなければいけない者の対比が見事だ。「2001ザ・ベストミステリーズ」に入ってるのも頷ける佳作。
【花】仕事中に倒れ、頭に動脈瘤が出来ていると聞かされた僕。手術を奨められたが踏み切れず、実家に戻ってごろごろしていた。そんなある日、東京から鹿児島まで車を運転するバイトを頼まれる。人権派の老弁護士と二人の道行きは、実は老弁護士の思い出を辿る旅だった──。いやあ、泣いた。泣いた泣いた。昔愛した女性。そして別れた女性。その女性のことを思いだそうとするのに、ディーテイルはもう出てこない。それが悲しくて、それが情けなくて、当時と同じ道程をとる老弁護士。運転の道すがら、その話を聞く僕。ああ、これ、映画にするとキレイな話になるだろうなあ。ラスト間際のシーンなんて、登場人物と一緒にあたしまで泣いちゃったわよ。お薦め。これはいい。心が洗われる。
(03.10.18)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

シェルター・近藤史恵(祥伝社)

 雑誌編集者・小松崎は、今日も徹夜明けの仕事終わりに合田クリニックに立ち寄った。目的は整体だけではない。小松崎はそこに勤める美人姉妹の妹の方、歩と、積年の願い叶ってようやく恋人同士になれたのである。ところが、休みを取って中国に旅行に出かけた筈の姉の恵が、実は中国には行っていないことが発覚。すわ失踪かと心配でおろおろする歩。その頃、恵は東京でヘンな女の子を拾っていた──。
 ああ、読み始めるまでわからなかった。版型も変わってるし、帯にもどこにも書いてないんだもの。これは
「カナリヤは眠れない」「茨姫はたたかう」に続く、整体師・合田力先生シリーズ第3弾なのね。本格色は薄れ、サスペンスが全面に出てきたと同時に、これまでぼんやりとしか語られなかった恵・歩姉妹の過去が初めて明かされる。
 というよりも、この姉妹の過去の物語こそが、この本の主眼なのだろうな。梨央という恵が「拾ってしまった女の子」を巡る謎は確かにあるんだけど、それは恵が自分自身の心に向かい合うための触媒として存在する小道具である。確かに梨央を巡る事件というのは実体がはっきりせず、なかなかに思わせぶりだったりもするのだが、解決は実にあっけない。謎解きだと思って読んでると、「えっ、そんな程度の話かよっ」とひっくり返ってしまいかねないくらいあっけない。これこそが、梨央の件が話のメインではない証左だろう。
 梨央を救うために4人が走り回る中で、恵も歩も、過去の自分たちに起こったことと、それが今に至るまで引きずっていることに気づかされる。初めて語られる姉妹の過去は実に辛い話で、歩が摂食障害になったのも、恵がセックス依存症になったのも、なんだか頷けてしまうのだ。しかし、そこから二人は自らを、そして関係を修復しようとしている。自分を守り癒してくれるシェルターを探しに旅に出たら、自分が逃げ出してきた場所こそがシェルターでしたという、「青い鳥」の物語だね。
 過去2作に比べると、合田先生の名探偵ぶりは影を潜めている。つか、逆になんか違う方向にハジけてないか?>合田先生。今回の主人公は、もうはっきりと恵だ。 (03.10.19)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

笑うニューヨーク DYNAMITES・竹内玲子(講談社文庫)

 うわはははははは!
 
「笑うニューヨークDELUXE」に続く、ニューヨークに住む日本人女性のお笑いエッセイである。基本的には観光ガイドなんだけど、これがもう爆裂的に面白い。
 「DELUXE」では、食べるだの買うだのという項目別に分かれていたが、今回は春夏秋冬の季節ごとのニューヨークが紹介される。この季節に行くと良い場所や店、イベントなど。観光ガイドとしても、穴場は紹介されてるし、普通のガイドにはなかなか乗ってないプラクティカルな情報(安心して使えるトイレのある場所とかね)も満載で、ガイドとしてもとても秀逸。
 一番最初に語られたのが、「ニューヨーク占い師ツアー」なんだけど、これがもう、腹の皮がねじれの位置に来るくらい笑わせてもらった。著者であるリンコさんが、ニューヨークのいろんな占い師のもとを訪れたレポートなんだけど、うわははははは、こんな占い師がいるのか!(笑) もう、1人1人が個性的でファンキーで、おかしくておかしくて。絶対怪しいだろこいつらと思うんだが、それなのに、リンコさんの恋愛については、皆同じようなことを言ってるあたりがすごい。ああ、リンコさんは予言通りの恋人に出会えたのかしら……(ぽわぁん)。
 グルメ関係では、もうすっかりリース医師萌えな大矢である。なんてキュートなの。ああ、ニューヨークに行ってリースと一緒にリンゴ寿司を食べたい。リース狙いのウェイトレスと火花を散らしたい……うっとり。いっそのこと、リースにチェックのハンチング被ってもらってゴルフやってもらえばいいんじゃん。<占い師ツアーの項を読めば意味がわかります。
 その他、ニューヨークでのエステ体験(これがまた笑える)、豪華でオシャレなディナークルーズが関西人の団体旅行と乗り合わせて台無しになった話、全面鏡張りのトイレで個室のドアがわからなかった話、怪しいカードショップ、日本人のイエローキャブの運転手などなど、現地ならではのお笑い体験がてんこもり。ニューヨークに行く人には格好の超実用的ガイドだし、そうでない人にも大笑いの時間をプレゼントしてくれるお得な1冊だあい。 (03.10.20)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

本格的〜死人と狂人たち・鳥飼否宇(原書房)

 これは、評価が分かれそうだなあ。ダメは人はホントにダメかもしれない。シュールな本格とでも言おうか。あたしは楽しめた。「面白かった」でも「良かった」でもなく、「楽しんだ」というのが一番正確な表現だ。空回り加減がたまらないのよ、けけけ。もう、全編是空回り。行間からカラカラカラという音と共に風が吹いてきそうな空回り。<そこまで言わんでも。本格ではなく、「本格的」ってあたりも言い得て妙。では、順を追って。
【変態】綾鹿科学大学数理学研究科の助教授・増田は、今夜もフィールドワークに勤しんでいた。彼のフィールドワークとは若い女性の性行動のパターンの分析、つまりは「覗き」だった。ところがある日、彼が覗きに使っている部屋の近くで墜死事件があり……。初手からエロかよ! ただ、この増田助教授の変態ぶりが妙におかしい。普通、こういうキャラってイヤなもんなんだけど、なんか突き抜けてて微笑ましくなっちゃうのよね。トリック自体は「んなアホな!」というレベルだったけれど、その他の、妙な「数学的こじつけ推理」が面白かった。
【擬態】綾鹿科学大学理学部生物科の講師である上手勇樹の専門は、動物の擬態だった。上手は毎日熱心にレジュメを作り、講義を続ける。その頃、近辺ではいろいろな事件が起こっており……。これ、実はけっこう好きなの。延々と擬態の講義が続くんだけど、まず、情報・蘊蓄としてこの擬態の講義は面白い。個性的な生徒を配して退屈にならないように気を使ってるし。で、講義は面白いんだけど、読んでるうちにときどき「あれ?」と思う箇所がある。ものすごく小さい「あれ?」なので、すぐに忘れてしまう。矛盾とかではなく、「なんでわざわざこんなこと言うんだろう」とか、「これって誤植かな?」とかの、小さな違和感。その違和感を持ったまま最後まで読むと……おお! なるほど、と膝を打った。何が謎かわからないまま、最後に謎と真相を一気に出す手法。かなり感心したんだけど、でも、冷静に考えてみれば、こんなことする必然性はゼロなんだよね(笑)。
【形態】学長の関宏子は、偶然に生命科学研究所主任研究員の角田妃花梨の電話を聞いてしまった。驚いたことに妃花梨には、クローン人間の甥がいるらしい! それが事実なら放っておけない……。メインの仕掛けは割れやすい(っていうか、これは誰でも気づく)が、そこから先の展開はなかなかのもの。
【補講・実態】オマケという位置づけなのか、メタとしての構成なのか──「実はこういう本格《的》な趣向もあったんですけど、気づきました?」というのが主旨。でもそれって、それが分かったからと言って何ってワケでもないのよね……。 (03.10.21)
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くらのかみ・小野不由美(講談社)

 後継者選びのために田舎の本家に呼び集められた人々。それについて来た子どもたちは、正直退屈で、自分たちだけで遊び出す。古い家の蔵の中で彼らが始めたのは「4人ゲーム」だ。真っ暗な部屋の四隅に立ち、そのうち1人が壁沿いに歩く。次の隅で待っている子のところまで行くと、その子の肩を叩く。叩いた方はその場に残り、叩かれた方は壁づたいに歩いて次の子のところへ行く。それを順にやるのだが、4人目は1番目の子が最初にいた場所──つまり今は空席になっている場所にたどり着く筈だ。ところが、そこには誰かがいた! 慌ててあかりをつける……5人いる! 1人増えている。でも知らない子は誰もいない……。
 とまあ、典型的な「座敷童」登場である。増えたのはだあれ?というのが第一の謎。ところがそこにいた子供たちは「1人増えている」ことはわかっているのに、他の大人たちは皆、5人とも最初からいたと思いこんでいるらしい。さあ、わくわくするねえ。そして謎は一つでは終わらない。親たちの食べた夕食に、毒が混じっていたというのだ。誰が誰の命を狙っているのか?
 座敷童の謎と、殺人未遂の謎。このふたつが、リンクするようでしないようでするようで、読んでいてなんともスッキリしない。いや、最後まで読めばそれはわかるんだけど、殺人未遂事件の推理の最中も「増えてしまった1人」のことはさておいて推理を薦めるもんだから「もしもし、キミたち前提から間違ってるのでは?」と登場人物につっこみたい気分でいっぱいになるのである。まあ、子どもだからなあ……。
 登場人物がやたらと多いのもネック。長編ならまだしも、この分量でこのキャラの多さはかなり煩雑に思える。家系図とか間取り図などを出して分かりやすくしてくれてはいるものの、「えーっと、この人は誰の親だっけ?」というのがすぐに分からなくなってしまうのだ。子どもほどには、オトナはキャラづけがされてないせいもあるのだろうけれど。おまけに殺人未遂事件の中枢をなすトリックが、これまた細かくて……。
 解決は極めて本格だし、クライマックスのシーンはさすがに上手で読みながらゾクゾクしちゃったけれど、どうせなら「座敷童は誰だ」の方を中枢に持ってきて欲しかったな。これだと、座敷童の謎は「財産目当ての殺人未遂事件」の添え物、或いは殺人未遂事件の謎を解くための小道具の一つにしかなっていない。もったいない。
 それにしても、村上勉の挿画は実に嬉しい。どっかにクスノキノヒコとかが隠れてないか、探したくなっちゃうよ。 (03.10.22)
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十八面の骰子・森福都(光文社)

 中国・宋の時代を舞台にした探偵譚。設定自体が第1話のネタに直結するので、なかなか説明がしづらいんだけど……。国内にある様々な県の知事が、ちゃんと仕事をしているか、不正はしていないか、皇帝の命を受け潜入捜査をする秘密捜査官・巡按御史。その巡按御史による、水戸黄門的な短編集である。
 設定は面白く、ワンパターンではあるけど(だって水戸黄門だもん)素直に楽しめる。宋の時代の中国の色や香りというものも豊潤。一応謎解きがあるのだけれど、それはアッサリ風味かな。むしろ、捜査をする上での仕掛けだとか駆け引きだとか、そちらの方が興味深い。
【十八面の骰子】賄賂もとらない品行方正な知事が、どうしてこんな富を築けたのか──? 盲目の老婆が指で刺繍の優劣を判断するところや、真相のくだりは映像的に見ると迫力ありそう。全般にわかりやすい物語で、まずは登場人物と設定紹介のための1編。
【松籟青の鉢】町は2つの勢力が真っ向から対立し、一触即発。そんな中、双方で死人が出る。この対立の構図は──? 細かい伏線の妙がある。大きな驚きはないんだけど、巧いって感じかな。
【石花園の奇貨】旧友5人が十年後の再会を約束した石花園。そこにはお宝があるというが──。これがイチオシ。暗号を解くくだりはイマイチなんだけど、クライマックスから真相にかけての演出はオミゴト。ただ、もうちょっと騙してくれてもいいのになあ。
【黒竹筒の割符】皇帝の元に帰った巡按御史。その足で病にふせっている兄の見舞いに行くが、容態はあまり良くない。そんなとき、兄の屋敷で妙な娘と出逢う。割れた竹を持っており、「これを屋敷に持っていくと褒美が貰えると聞いた」というのだが──。ここへ来て新キャラ登場かよ。すごく凝った話なんだけど、するすると解けちゃうのが惜しい。もっとじらして欲しいなあ。その一方で、登場人物同士のいろんなサイドストーリーも見えてきたり。
【白磚塔の幻影】なかなかアジトを掴ませない海賊。どうやら軍の中に海賊と通じている者がいるらしいが──。いや、これはもう、海賊退治云々よりも「阿鳩ちゃん」でしょう! いやん、かわいい(はぁと)。謎解きの醍醐味はあまり無いけれど、んなことはいいやっていうくらい、この鳩のエピソードは良いなあ。
(03.10.23)
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ネジ式ザゼツキー・島田荘司(講談社ノベルス)

 スウェーデンの大学で研究を続ける御手洗潔のところに来客があった。彼の名はエゴン。記憶が蓄積できず、1970年代から記憶が止まってしまった男である。彼が書いた一編の童話に、彼の記憶障害の手がかりがあるのではないか。そうして御手洗が「童話」から読み解いた事実とは、身の毛もよだつ猟奇犯罪だった……。
 なんかもう、事ここに至っては「島田荘司が御手洗を書いてるんなら、もうそれだけでいいや」という気分になってきた。今回は何がいいって、石岡が出ないのがいい。だって最近の石岡って、巻を追うごとにぐじぐじいじいじ度が増してるんだもの。もう、京極堂シリーズの関口か御手洗シリーズの石岡かってくらい、ぐじぐじして情けない。それが出ないだけでも、評価、5割増し。
 前半は、記憶障害を持っているエゴンが書いた童話から、「ここに描かれているものは何か、記憶をなくしたときに何があったか」を探り出すのが中心。これがまた、まるで【糸ノコとジグザグ】(←御手洗シリーズの短編での最高傑作だと思う)を連想させるかのような、かっとび暗号ものの面白さ。いやあ、あたしもひっかかるものがあったのよね──それが分かったときのカタルシス。と同時に、それだけでは終わらない(だってそれだけだったら、人によってはすぐに分かる)そこから先の見事な推理。無論、机上の空論に過ぎないわけだけど、「推理だけでここまでできます」という見事なサンプルだと思う。願わくば、「タジミール共和国への帰還」を完結させて別途出版して欲しい。
 で、こういう事件があったのだ、だから記憶がないのだというところまでは分かった。が、その事件というのが、いまだ解決されていないわけで、後半はその事件を解決するのが中心となる。
 ……ここからがね、ちょっと辛かったかな。もともと島田作品というのは、吉敷シリーズは社会派的メッセージ性が強く、御手洗シリーズってのは衒学的趣向が強かった。今回もいろんな分野の知識・情報がてんこもりで、それはそれで面白いし、ストーリーテリングの才は抜群の人だからどんな話題でも引き込まれてしまうんだけど、このゴーレム云々のところは比喩が強すぎてすんなり入ってこなかったのよね。寓話の続きなんだか、実際にあった事件の話なんだか、それとも推理が述べられてるのか、それすら最初はわからなかったくらい。特に、それまでの縦書き部分はエゴンの童話だっただけに、また縦書き=童話の続き、と認識してしまって。いっそ全部横書きでも(縦書きでも)よかったんじゃないかな。この組み方の違いに何かトリックが……なんて考えちゃったし。
 真相はさすがのチカラワザで、おまけにその演出がドラマチックで、満足でした。 (03.10.24)
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