お厚いのがお好き?

ZOKU・森博嗣(光文社)

 正体不明。目的不可解。壮大なる悪戯の組織「ZOKU」と、彼らの企みを阻止しようとする「TAI」──今、戦いの火蓋は切って落とされた!
 と書くと、なんかすごいヒーローもののように思えるが、うわはははは、なんだこりゃ。つまりこの「ZOKU」ってのは、「日本本格とんでもないことしい倶楽部」なのだ(<わかる人だけわかって下さい)。人に肉体的な危害を加えず、警察沙汰にするにはショボい犯罪、いや、犯罪ともいえないような「いたずら」を、とてつもない金と労力と時間をかけて実行する団体なのである。たとえば、暴走族のあの爆音だけをスピーカから流す「暴音族」、哀しい映画の泣ける場面で笑い声を響かせる「爆笑族」……くくくだらねええ。でもって、その団体のリーダーは、思いきり名前を染め抜いた自家用飛行機に乗ってたりするのだ。わはは。
 そしてそれに対抗する正義(?)のチーム「TAI」。メインの3人の名前が、木曽川博士、揖斐、永良──なんてローカルなところで遊んでいるのだ。で、あっちが飛行機ならこっちは電車。飛行機も電車もちゃんと構造図があって……完全に趣味だろうこのあたりは。
 この2チームの戦いも、なんともショボい。なれ合いというか、王道というか、パロディというか。太田忠司
「3LDK要塞 山崎家」みたいな感じと言えばお分かり頂けるだろうか。本人たちも、どこか冷めていて「リーダーが言うんだから仕方ないか」という程度のやる気のなさ。それが妙に面白い。
 つまりは、ヒーローもののパロディ、あるいはアンチなのである。意味のないコスチュームや乗り物もそうなら、本来なら次第にヒートアップしていくべき「正義と悪の戦い」が逆に回を追うごとにショボくなっていくのもそう。こんな尻すぼみのヒーローものがかつてあっただろうか! いやない。
 そうして笑いながらラストまで読むと、「あっ、この手で来たか!」と思わせるのである。そうか、これがやりたかったのか、と。それでニヤリとしていると、再びコケさせてくれるんだから、もう! (03.12.1)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

真夜中のユニコーン〜伊集院大介の休日・栗本薫(講談社)

 聡子は失恋のショックから逃れるために、しばらく東京を離れたいと思っていた。そんなときに目にした、馬のテーマパーク「ユニコーン・パーク」での泊まり込みのバイト募集。1ヶ月半の期限付きで寮完備というのに惹かれて、聡子はそこで働くことに。そこで出逢ったのは、同じバイトの男性4人。それぞれ個性的で「イケメン揃い」のそのグループと、聡子は徐々に親しくなっていく。ところがこのユニコーン・パークでは、とある事件が進行中だったのだ……。
 聡子自身の話や「イケメン4人組」の紹介、ユニコーン・パークの説明などがしばらく続くために、なかなか事件が起こらない。が、ここ最近の伊集院大介シリーズにお約束のように登場していた「キレイでか弱い、自分のことを《ボク、男の子だから》とホザくような二十歳前後の美少年」「夜の東京をさすらう、華やかに見えて淋しい人々」が出てこないだけで、こんなに読みやすくなるとは(笑)。久しぶりにアトム君が活躍する話でもあり、なんだか昔の伊集院シリーズに戻ったような懐かしさがある。と言っても、伊集院は最後の謎解きにしか出てこないんだけど。
 ただ、ミステリの方は薄味。事件はあるんだけど、それよりも聡子を巡る恋の鞘当ての方が話の中心で、真正面から推理を楽しむという話にはなっていないのだ。この真相はいくらなんでも分からないでしょ。確かに意外な犯人ではあるのだけれど、「それは気づかなかったよ」という意外性ではなく、「おいおい、伏線も何もなしかよ」という意外性なのだ。というより、最初っからフェアなパズラーとして書かれた話じゃないのね。なので、伊集院大介シリーズだあと思って読むと肩すかしに会う。……いや、最近の伊集院シリーズって、だいたいこうかも。
 でも、この「恋の鞘当て」が思いの外スリリングで読みごたえがあり、意外と楽しんでしまった。読み終わってみれば、「けっこう、そのまんまだったな」という印象もあるのだけれど、河田諒は軽そうに見えてその生い立ちや行動はドラマチックだし、氏家啓介のキャラもイカニモ頭の軽い悪玉だし、アトム君はアトム君で飄々としてるように見えて頼りになるし、読んでて楽しい。アトム君って、だんだん伊集院大介に似てきたなあ。
 というわけで、ミステリというよりは「若者の恋愛小説ミステリ仕立て」といった作品。もちっとばりばり本格の伊集院が読みたいな。 (03.12.5)
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シクラメンと、見えない密室〜魔女の花だより・柄刀一(ジョイノベルス)

 喫茶店「美奈子」は、たくさんの花が飾られた、とても安らげるお店。そこのママは不思議な魅力の持ち主で、お客が体験した事件や謎を、花をからめながら上手に解決してみせる──連作短編集。
 設定はとっつきやすいし、個々の謎はいかにも本格ミステリっぽくて魅力的だし、解決にもなるほどと膝を打つ。とてもレベルの高い連作短編集──だとは思うのだけれど。何なんだろう、相性の問題なのかなあ。この著者の文章って、どうもスムーズに頭に入ってこないのよね。初期の頃はそうでもなかった(というより、面白くてお薦めマークもたくさんつけてる)のに、最近になって、なんだか急に読みづらくなってきたのだ。もちろん著者のせいではなく、読み手であるあたしの問題なんだけど。う〜ん、どうしてだろう。個々の作品のトリックや仕掛けのレベルは高いので、他人様に勧めるのにまったく躊躇はしないんだけど。
 以下、個別に。ただしこの前後に、プロローグとエピローグがついてます。
【傷とアネモネ】母親が自殺未遂をしたという青年の話から、その裏の真相を言い当てるママ。安楽椅子探偵の典型のような形。しかし、当たったから良いようなものの、かなり乱暴な推測ではある。
【遠隔殺人とハシバミの葉】おまじないを始めた途端に相手が苦しみ始めた理由がオミゴト。完成度が高い。
【シクラメンと、見えない密室】逃げ出すことが可能だった場所から、なぜ彼女は逃げなかったのか──おお、これもすごい! これと【遠隔殺人とハシバミの葉】の2作が、この短編集の白眉といっても良いのでは。実にキレイ且つ説得力のある真相。
【クリスマス・ローズの返礼】雪の足跡モノ。ちょっとアンフェアな気もするけど。
【オークの枝に、誰かいる】脅迫状を巡る謎。視点を変えるだけのシンプルな謎だが、これは巧い。
【おとぎり草と、背後の闇】同時に4箇所に現れた男の謎。なるほど、とは思うのだけれどややこしい。
【夾竹桃の遺言】これまでの登場人物が勢揃い。過去の事件の話から、ママの秘密に迫る──?
(03.12.4)
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都市伝説セピア・朱川湊人(文藝春秋)

 オール読物推理小説新人賞と日本ホラー小説短編賞(これは角川ホラー文庫「白い部屋で月の歌を」に入ってる)を相次ぎ受賞ということで、「ほお、短編が巧い人なのかな、でもあたしホラーって苦手だしな」という程度の思いで読み始めたのだけど……おおおお、これは良い! 良いぞ!
 ホラーなんだけど、切なくて暖かくてキレイ。これはお薦め! 特に、ぐーーーーっと盛り上げて、最後にスパっと切り返すのが実に巧い。中でも【昨日公園】【フクロウ男】の2編が素晴らしい。
【アイスマン】父方の親戚に預けられていた高校時代の僕は、見世物小屋の前で不思議な少女に声をかけられた。「本物の河童を見せてあげる──」ホントなら、こういう幻想味の強い話は苦手なのだけれど、これはすっと世界に入れた。後半の展開は、予想がついているのに震えが来た。
【昨日公園】これはイチオシ! これを読んで泣いたという人がいたが、わかる、わかるよ! 死んだ人に再会できるという不思議な公園。でもそれは──いや、言うまい。これは読んでくれ。もう、とてつもなく切ない。そしてただでさえ切ないのに、この結末は──。これは、今年の短編の収穫だと思う。これは読むべしっ。
【フクロウ男】オール読物推理小説新人賞受賞作ってことで、これだけホラーではなく本格ミステリ。でも、幻想的なイメージが効果的で、おまけに最後のオチでは「あっ」と言わされてしまった。そんな大きな騙しではないのだけれど、なんか気持ちが入っちゃうのだ。犯人の独白という形式の物語で、どうしてこの犯人は今になって告白しようと思ったのかを考えると……ああ、いいなあ。
【死者恋】夭折した画学生に憧れた少女。ところが彼女はひょんなことから、その画家の墓の場所を知る。──この主人公より、しのぶの造形がすさまじい。
【月の石】通勤の途中、電車から見えるマンションの窓。そこに立っているのは、俺がリストラさせた男。俺を怨んでいるのか──ところがある日から、そこに立っているのは俺の母親の姿になった。死んだ筈の母親が何故? これも結末の付け方が実に巧い。と同時に、暖かくも哀しい話。
(03.12.6)
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まひるの月を追いかけて・恩田陸(文藝春秋)

 静は、腹違いの兄である研吾が失踪したと知らされる。知らせてきたのは、研吾と高校時代から同級で今は恋人同士だと聞いている優佳利だった。二人は、研吾がいると思われる奈良に向かった。ところが、奈良について間もなく、静は意外な事実を知る──。
 失踪した兄を捜す、彼の失踪の原因を探る──それがメインの長編である。だけど、こりゃまた随分、展開が激しい。展開は目まぐるしいのに、その場面場面は妙に穏やかでゆったりしている。なんだかアンバランスなのだ。とにかく文章の巧い人なので、読んでる最中はのめり込むのだけれど、それでもときどき「えっ、そんな展開にするの?」と戸惑ってしまう。それは「意外な展開に良い意味で驚く」ということではなく、「きゃあ、なんかスジが破綻してきてないかあ?」とヒヤヒヤする気分に近い。
 具体的にどのあたりでそう感じたかを書いてしまうとネタバレになってしまうので言えないのだが……う〜ん。最初、当然の前提のように語られていたあることが「嘘」だったとわかるあたりまでは、とても良いのだ。良い意味で驚かされ、続きが気になってワクワクする。ところがその後、「あれ? その謎って、最後までひっぱるべき中枢だったんじゃないの?」と思うような展開が続くのである。思わせぶりな謎が出たと思ったら、間もなくアッサリ解決したり、かと思えば解決されないまま登場人物がなれ合ってしまって、いつの間にかそれが謎でなくなったり。と思ったら、また別方向から思わせぶりな展開が出てきたり。
 要は、「何が謎なのか」がクルクルと変わるのである。だから、盛り上がる箇所はすごく多いし、次の章への「引き」はとても多いのだけれど、落ち着かないことこの上ない。目先の謎に囚われるうちに、中枢にあるべき幹を忘れてしまうのだ。それが狙いだったのかなあ。クルクル目先が変わる上に、最後に明かされた真相は(とても叙情的・文学的ではあるけれど)伏線もなく、妙に小粒に見えてしまうのである。いや、とてもキレイな(ミステリ的にではなく、物語的に)真相で、ここんとこをテーマに純文学の一本でも書けるんじゃないかってくらいステキな話なのだけれど、冒頭からこのゴールに向かって物語が流れていっているか、という点になると──途中、あまりに気が散ってしまった。 (03.12.8)
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永遠の出口・森絵都(集英社)

 一人の少女の、小学校4年生から高校時代までを断片的な連作短編で描いた一冊。「どこにでもいる」女の子を主人公に据え、それでいて、繊細で叙情的。女性なら「ああ、あるある」と思うような心のヒダを、時代を思わせる小道具を巧く使って胸キュンものに仕上げている。これ、きっと世間一般の評価は高いだろうなあ、好きな人はものすごく好きだろうなあ、というのが分かる作品である。
 ……とまあ、なんだか第三者的な感想になってしまったのにはワケがあって、繊細だし叙情的なのは良いのだが、あたしゃどうしてもこの「私」とはトモダチになれねえっ!と思ってしまったからなのだった。もう、どのエピソードも相当に自己チュー。いや、オンナノコの一人称主人公なんて、たいがいがそうだし、その自己チューぶりこそが若さだったりするんだけど、でもそれがどうにも恥ずかしいのだ。周囲と自分との断絶を売りにするセンサイなオンナノコの物語って、なんかイヤなのよ。甘えるなよ、と言いたくなるのだ。
 でも、これは100%個人的な好みの問題。そう思うのは、もしかしたら、自分が子供だった時代のことをすっかり忘れて「汚れたオトナ」になっちまったからじゃないか?と自省したり。自分のそういう嗜好を抑えて素直に読めば、これは実に胸に染みるエピソードのオンパレードなのだ。決して特別ではない一人の少女が、さりげなく、でも着実に大人になっていく。うん、これって青春小説が好きな女性にはタマラナイだろうなあ。
 【永遠の出口】で、初めて友人を「仲間外れ」にしたときの気持ちを描き、【黒い魔法とコッペパン】では独裁的な先生にクラスで反旗を翻す。【春のあなぼこ】は12歳の幼い失恋と冒険を経験した少女は、【DREAD RED WINE】で中学に入り母とぶつかり、【遠い瞳】で一気に非行に走る(といっても《たしなむ》程度だ)。それが【時の雨】でなんだかいつの間にか納まって代わりに家族の問題が浮上。高校に入ってアルバイトを始めた話が【放課後の巣】。そして【恋】は文字通り「初めてつきあった男の子」との、「うわあああ、あるあるある!」という恋愛模様。そして【卒業】で穏やかに高校卒業を迎える。
 これ、あたしの評価がキビしいのは単に主人公に感情移入できなかっただけで、ストーリーテリングもエピソードも、相当に巧い人だというのはよくわかる。他の本を読んでみよう。 (03.12.15)
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家守・歌野晶午(カッパノベルス)

 家をテーマにした短編集。表紙には連作とあるけど、ストーリーに連続性はなく(ないよな?)、それぞれ独立した作品です。しかし、どれをとってもテクニカルでシャープでトリッキー。巧いなあ。
【人形師の家で】ピグマリオンの伝説に憧れ、女性の人形を作って魂を込めようとする男。そんな男の家に、3人の少年がやってきた。そのうち、一人は家庭の事情で間もなくその町を離れることになるのだが──。うわあ、そんな真相かよ! 二つの謎解きがあるのだが、一方はエレガント、もう一方はインパクト。なんかもう、絶妙のバランスで出来上がったミステリ。
【家守】ナイトキャップが鼻と口を覆い、窒息死したと見られた妻。しかしそれは巧妙に仕組まれた殺人だった──。妻が家を売りたがらなかった理由はすぐに見当がつくのだが、このトリックはその上を行く。書き手によってはバカミスと呼ばれそうなトリックなんだけど、この人が書くとそう見えないのは何故だ。
【埴生の宿】ボケた父親を慰めるために、死んだ息子の身代わりになって欲しい。そんなバイトを持ちかけられた青年は、その高報酬につられて引き受けるが──。これ、イチオシ! これ、すごいなあ。あれもこれも伏線かよ、という驚きに加えて、物語の落とし方が秀逸。意表をつくとはこういうことか。
【鄙】東京から骨休めに田舎へやってきた官能作家とその弟。ところがその村で、ある男の首吊り死体が発見されて──。この動機には前例があるけれど、でも前例がある無しよりも、それをどう料理するか次第で話はいくらでも面白くなるという好例。
【転居先不明】「誰かに見られている」そう訴える妻に夫は、今住んでいる家が実は殺人事件の現場だったことを告げる──。きゃあ。なんてトリッキーなの。つか、膨らませればいくらでも長くできそうなエピソードを惜しげもなく短編に使い、それが実に切れ味がいいのだ。やられた。
 (03.12.20)
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電子の星〜池袋ウエストゲートパーク4・石田衣良(文藝春秋)

 IWGP第4弾。マコトも二十歳を超え、以前ほどの暴走はなくなった感があるけれど、その代わりになんだか頭脳プレイが増えてきたような。丸くなったっていうのかな。やっぱり成長するのね、マコっちゃん。人によっては、それをマンネリととるかも知れないけれど、でも18歳のときと二十歳過ぎてからで、問題解決の方法が同じっていう方がどうかと思わん? これはこれで良いのだよ。
【東口ラーメンライン】おお、あのGボーイズのツインタワーがラーメン屋になっているよ! それにまず感動。で、そのラーメン屋が悪質な嫌がらせを受けているってんで、マコトの出番。
【ワルツ・フォー・ベビー】ジャズをかけるタクシーの運転手。彼の一人息子は上野のギャングで、路上で殺されてしまった。彼が遺したのは、妻と息子。父親は孫のためにも事件の真相を知ろうとするが──。うわあ、これは切ない。二転三転する展開はスリリングにして胸に染みる。イチオシ。
【黒いフードの夜】違法デリヘルで強制売春させられるビルマ人少年。マコトは彼を救うために立ち上がる。マコトのお母さんが相変わらず良いなあ。しかしこの物語のみどころは、彼の稼ぎに家族が頼っているということ。たとえ違法であっても、彼がこれをしないことには、一家の生活が立ち行かないのである。そして彼の父親が働けない理由、国に帰れない理由も、哀しいほどに説得力がある。
【電子の星】将来の見通しもなくネットの中にしか居場所のない山形の若者が、池袋で消息を絶った友を探しに上京してきた。マコトやGボーイズの助けを借りて、その友人を見つけようとするが……。マコトに送られてきた依頼のメールに笑ってしまった。なんだか「うわあ、他人との交わりを断ってネット世界だけに浸ってると、こういう一般常識に欠けてきちゃうんだよなあ」と思わせるような、いかにも電波なメールなのだ。そんなメールを書いていた彼が、次第に生身の人間になっていく過程はさすが。それにしても、想像するだに怖いなこれな。
(03.12.22)
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ツチヤ学部長の弁明・土屋賢二(講談社)

 おお、あのツチヤ先生が学部長に!(笑)
 ツチヤ先生のエッセイ集はどれもとっても面白いのだけれど、その笑わせの手法がどれも同じなので、「本はたくさんあるけれど、どれを読んでも同じ」という状態なのが実状。だもんだから、あたしも最初に読んだ<
「哲学者、かく笑えり」には迷わずお薦めマークをつけたものの、それ以降は、「面白いんだけど、前と同じだ」という評価になってしまっていたわけである。
 それが、ここへ来て、9冊ぶりにお薦めマークをつけてしまった。久々に新味を感じたなあ。というのも、今回はこれまでのエッセイ集とちょっと目先が違うのである。
 まず、冒頭がツチヤ先生の講演である。うわあ。講演! 「お茶の水女子大の学生には、こんな長所がある」というテーマなのだけれど、これがべらぼうに面白い。お茶大といえば、どうも堅いというイメージがあったのだけど、いやあ一掃されたね。一掃されて良かったのかどうかは分からないけど。この、持ち上げて落とすという手法は勉強になるなあ。<何を学ぼうとしているのだあたしは。
 もうひとつの読み所は、ツチヤ先生が他の作家の本について書いた解説や書評が収録されているのである。たとえば、いしいひさいち「現代思想の遭難者たち」について書いた「哲学をオチョくる方法」という項では、いしいひさいちのマンガを紹介しながら、且つ笑わせながら、様々な哲学者の特徴を分かりやすく読者に教えてくれる。
 柴門ふみ「恋愛の法則」の文庫解説「恩師の立場から」では、柴門ふみの文章が如何に説得力のあるものなのかがよくわかる。しかしよくよく読んでみると、本書がどういう本なのかまったくわからない。ってことは解説になってないんじゃないのか、おい。
 ちなみに森博嗣「今はもうない」の文庫解説「健全な推理力」も収録されているが、「どこが「今はもうない」の解説やねん!」とつっこんでしまった。でも笑ったけど。
 学部長になって、ますます多忙ではあろうが、でもこの手のエッセイ集はどんどん出して欲しいなあ。 (03.12.25)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

クレオパトラの夢・恩田陸(双葉社)

 「MAZE(めいず)」の続編という位置づけだそうだが、未読でも全然問題ない。あたしは何故か砂漠が舞台の話が苦手なので(どうしてだろう)、「MAZE(めいず)」はイマイチ印象が浅く、詳細を覚えていない。にも関わらず、本書は充分楽しめたから。
 では何が続編なのかというと、主人公の恵弥である。彼は見目麗しき男性なのだが、女系家族で育ったために、ばりばりの女言葉。おまけにバイセクシャルらしい。これだけで「萌え」ちゃう読者もいそうなくらいのキャラである。で、その恵弥は外国の製薬会社で働いてるんだけど、不倫の果てに北の町で一人暮らしを初めてしまった妹を連れ戻すという役割を家族に押し付けられ、日本に戻ってきたのであった。しかし恵弥には、実は別の目的もあって──。
 舞台はボカしてH市と書かれてあるが、そのまんま函館である。なんせ「G稜郭」ってアンタ。伏せ字にする意味があるのか。まあ、この町で起こった過去の事件として出てくる出来事があるので、具体的に書くわけにはいかなかったのだろうけれど、それにしても「G稜郭」って……<こだわっている。
 物語がどんどん動き、思わせぶりもたくさんあって、読者を飽きさせない手腕は、さすがテクニシャン恩田。キャラの使い方は巧いし、細かい伏線がこそっと明かされるところなど「巧い!」と唸ってしまう。その上、文章が達者で描写が美しいもんだから、読んでる最中はずっと北の冷たい空気を頬で感じているかのような錯覚すら覚えてしまったくらい。
 ただ、「クレオパトラ」に話が及ぶと──いや、わかるんだけど、どうも少々座りの悪さというか、バランスの悪さを覚えてしまうのだ。そういう話だったの?という違和感。「冬のソナタ」を見てたら途中から「白い巨塔」に変わっちゃったような違和感があるのだ。単なる「キレイで叙情的な旅情ミステリ」ではダメだったのかなあ。設定の割には、なんだか話が大きすぎる気がするんだけど。恵弥の仕事、そしてシリーズものということで、こういう方向に持っていく必然性があったのだろうけれど、それにしてもちょっとラストは拡散してしまった感は否めない。読んでる最中は、ホントにどきどきワクワクで、この上なく楽しめたのだけれど。 (03.12.28)《この本の詳細情報&注文画面へ》  


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