お厚いのがお好き?


四季 冬・森博嗣(講談社ノベルス)

 【注意】このお薦めマークは本書単体に対してのものではなく、シリーズ(というかそれ以外も含めてというか)を通して構築されたある《仕掛け》或いは《目論見》に対してのものです。
 ……とまあ、なんでそんなまどろっこしい注意書きが必要なのかというと、これはもう読んで下さい、としか言えない。でも読めば必ずわかるというものでもない。なぜなら、これまでの森作品にもよく見られたような「ふふふ、最後までホノメカシしか書かないもんね、わかる人だけわかりたまへよ」というような、まぁイケズっつ〜か出し惜しみっつ〜か意地悪っつ〜か(笑)、そんな書き方をしてるんだもの。でもって、それに気づけるのは「ミステリファン」より「森ファン」の方だと思うのよね。
 では、あらすじを書けるところだけ。
 天才科学者・真賀田四季のもとに、殺人事件捜査の協力依頼があった。あまり興味を持てない四季だったが、直後、旧知の老博士から、その殺人事件の被害者が彼の曾孫であったことを知らされる。一方、四季が興味を持ちそうな科学者を囮に、四季を拘束しようとするグループも現れて──。
 それらが何を表しているのかは、まあ読んで下さい。気づいた瞬間に「うげえっ」と思うこと間違いない。え、そういうことだったのか、そう繋がるのか、と、そのあまりのスケールの大きさに(あるいは著者の気の長さに)くらくらしてしまう。細かいところが全部繋がって意外なところに収束するのさ! 思い起こせばこのシリーズ、ずっと「天才と凡人は時間の早さが違う」というのがキーワードだったんだよなあ。
 【以下、ネタバレはしてませんが、まっさらな状態で読みたい人は反転させない方がいいかも】
 (反転)これまでずっとこのシリーズはS&MやVとの関係が前面に出てきてたけど、でも実はそれがメインじゃなかったんだね! さて、では、四季は今、どこにいるのでしょう?(ここまで) 読み解いた人になら、この質問の意味がわかると思うんだけど、どう?  (04.2.29)
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黄昏の名探偵・栗本薫(徳間書店)

 著者作曲のオリジナルCDをもとに書き下ろした短編が5編。音楽と小説のコラボレイト作品集である。どれもどこかノスタルジックな味わいがある。
 音楽を聴いた上で読んだ方がいい、と書かれてるんだけど、CDは持ってないのでとりあえずは小説だけの感想を。尚、歌詞はすべて作中に紹介されてます。それと、巻末にはあとがきのような形で、著者による詳しい自作解説もついてる。ただ、好みの問題なんだけど、自作解説文中にやたらと(笑)(爆)ってのが出てくるのは、どうにも読みにくいんだけどなあ。トシなのかしらあたし。
【紅椿】もう半世紀も前、私が少年だった頃の思い出。姉は、当時「死病」とされた結核を病み、離れに幽閉されるように暮らしていた。薬や食事を育てるのは僕の仕事。母と姉はなぜか折り合いが悪くて──。この5作の中では一番好き。母と姉の折り合いの悪い理由や、僕の姉に対する思いなど、怜悧にして静謐な情景を描いた佳作。
【あの夏──Morning Light】場末のキャバレーに、ある日突然やってきたバンドマンは、いいところのお坊っちゃんだった。自分たちと住む世界が違う、そう思いながらも私は彼に歪んだ愛情を抱いてしまう──。著者のだいぶ前の作品「キャバレー」の番外編。
【黄昏の名探偵──望郷編】名探偵は御機嫌が悪い。永遠の宿敵からの挑戦状も来ていない。名探偵は退屈に一番弱いのだ……。なんだかコミカルな名探偵パロディものかな、と思ったら……おお、SFじゃん! こんな結末にしますか。
【タンゴ・トリステサ】避暑地のホテルのバルコニーで、一瞬にして墜ちた恋の掌編。
【薔薇廃園──亡き王女のためのパヴァーヌ】登場する固有名詞からして多分ドイツ──だと思う──の片田舎にある施設で暮らす少年が、ある日、吸血鬼に出逢ってしまう物語。お約束の「きれいな少年どうしの性」なんてのも織りまぜながら、吸血鬼に対する激しい少年の思慕を描いている。これはお芝居の音楽が元になってるってのがなんだかとても良く分かるなあ。
(04.3.1)
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白昼蟲〜ハーフリース保育園推理日誌・黒田研二(講談社ノベルス)

 幼児教材の営業マンである次郎丸諒は、前作でアパートが火事になって以来、ハーフリース保育園の宿直室に居候していた。そんなとき、昔の知り合いが仕事でしばらくこちらに来るという連絡が入る。泊まれるところを世話してくれと頼まれた次郎丸は、安アパートを紹介した。ところが、そのアパートで事件が起きる。それは、次郎丸自身の、過去の傷とも大きな関係があった──。
 あたしはもともと、驚天動地の大技トリック一発!という形で驚かされるよりも、謎解きは小粒でもそれがキレイに腑に落ちて、物語の中に違和感なく収まっているミステリの方が好きなタチである。そういう意味で、黒田作品では久々に「読まされた」作品。まあ、換言すれば、この著者にしては、トリックは極めて小粒で地味なのは確か。小ネタはいろいろ詰まってるんだけどね。このあたりは好き好きでしょう。過去の、捻りの効いたトリッキーな黒田節(いや、酒は飲め飲めじゃなくて)が好きな人には、ちょっと合わないかもな。
 ハーフリース保育園の面々の掛け合い漫才は相変わらず。この会話の面白さと、物語の根幹を為すテーマのギャップが何とも。いじめ、そしてそれを苦にした自殺。オトボケ次郎丸の、実はかなり悲惨な過去が明らかになるにつれ、物語はどんどんシリアスになっていく。胸が痛くなるような次郎丸の「いじめの思い出」と、それがミステリとして乖離せず、ちゃんと謎解きに結びつく様は見事だ。「そう偶然が重なるものか」と最初は眉唾で読んでいた箇所も、最後まで読むと緻密に計算されていたことがわかる。帯の推薦文にあるように、「パズルと人間ドラマが両立した」佳作である。
 シリーズの展開はかなり急ピッチ。前作で伏せられたままだった木箱の中身はあっさり明かされるし、園長と瑞穂の関係も明らかになる。シリーズ展開としては、ちょっと急ぎすぎの観があるなあ。今回や園長や瑞穂の活躍シーンもちょっと減っちゃったし。もちっとじっくり、ハーフリース保育園相関図を見せて欲しいところ。 (04.3.3)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

ぼくと未来屋の夏・はやみねかおる(講談社)

 六年生の夏休み前日、作家を夢みる風太は「未来屋」猫柳さんに呼びとめられた。100円で未来を教えてくれるというのだ。胡散臭いこの男を風太は無視して通り過ぎるが、なぜか風太の家族の気にいられ、夏休みの間、同居することに!
 髪櫛町に伝わる、かくれんぼをすると最後まで見つからない子がいるといわれる神隠しの森や首なし幽霊の話、人喰い小学校の噂、人魚の宝の謎をベースに、宝探しを敢行する風太と猫柳さん。果たして宝は見つかるのか──。
 最後まで読んで、「へえ」と思った。ミステリーランドだし、はやみねかおるだから、子供向けだってことは間違いないと思う。だけど、これを理解できる子供がどれくらいいるんだろう? あ、いや、テーマが難しいとかそういうことじゃないのよ。この物語では、真相が明かされないのだ。宝探しがある結末を迎えるんだけど、その宝を隠したあの人はいったい何者なのか、あの人の謎めいたセリフはどういう意味なのか、そういったことをいっさい説明せず、「まぁ、これで終わったんだからいいじゃん」というエンディングなのである。
 大人の読者でも、ミステリ好きでなければ、「え、これで話が終わりなの?」とちょっと不審に思っちゃうんじゃないかな。果たしてそれが子供に読み解けるのか。いや、もしかしたら子供って、けっこう鋭いのかな。
 という部分ではミステリ趣向としてなかなか興味深かったんだけど、ただもう、あたしは個人的な好みの問題で、この猫柳さんっていうキャラがダメだー。例えば、倉知淳の猫丸先輩みたいなタイプ。相手が迷惑がっていようが、本気で困っていようが、そういうことには一切お構いなしで自分勝手に行動するって手合い。子供にタカるな子供に! 自分の行動で相手が迷惑を被ってるのを自覚しろ! フィクションのキャラクターだとは重々承知の上で、「こういう人が身近にいたら、かなり腹が立つぞ」と感じてしまって、どうにもダメなのよね。 (04.3.5)
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都会(まち)のトム&ソーヤ(1)・はやみねかおる(講談社YA! ENTERTAINMENT)

 中学生の内藤内人は、塾の帰りに、夜の道でクラスメイトの創也を見かける。あとを追った内人だったが、創也は角を曲がったかと思うと、いきなり消え失せた。翌日学校で創也にそのことを質すと、彼は1本の鍵をくれた。それは創也から僕への「テスト」だったのだ──。
 うわあ、これは面白い! 廃ビルの一室に砦を築くお金持ちの坊ちゃん・創也と、普通の中学生・内人。学校の成績も抜群の美男子・創也はゲームを作るのが夢で、今、巷で噂になっている新しいゲームの作者の正体をつきとめようと懸命だ。はからずも、その調査に付き合うことになった内人だが、内人には内人で、とんでもない特技があった。彼は、今時珍しく、実践的サバイバル知識に溢れた子供だったのだ。方向性の違う二つの頭脳がチームを組んだら、これはもう無敵さ!
 タイトルの「都会のトム&ソーヤ」の意味が、ものすごくストレートに伝わってくる。下水道の中から、固まったマンホールを持ち上げる方法。廃ビルの暗闇の中で、炎をおこす方法。どれもこれも、「これぞ冒険!」だ。都会でできる「これぞ冒険!」だ。それに加えて、本格ミステリ的な謎解きもある。頭と体の両方に効きそうな物語なのだ。もちろん、心にもね。
 お気に入りのシーンがひとつ。頭が良くて金持ちで大人っぽくて、おまけに推理力抜群の創也に、内人は圧倒されっぱなし。が、あることがきっかけで、《実務能力に関しては、僕の方が上なんじゃないか?》と気づくシーンがある。創也の凡ミスが原因なんだが、それがわかった瞬間、それまで圧倒されていた内人が創也に向かって思わず叫ぶのだ。
 「創也、おまえバカだろ!」
 ──うわはははは、このシーンは実に印象的。ワトソンがホームズに向かって「おまえ、バカだろ!」と喝破する瞬間である。それがまた、その通りなんだもん。あまりのおかしさにしばらく先に進めず、そこでひとしきり笑っちゃったい。 (04.3.5)
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魔女の死んだ家・篠田真由美(講談社)

 昔、あたしは高い石の塀で囲まれた大きなおうちに、おかあさま・ばあや・ねえやと暮らしていた。うちには毎日、たくさんのお客様が来る。お客様はみな、おかあさまの「すうはい者」だとばあやは教えてくれた。ところがある春のこと、おかあさまはピストルで殺された。鍵のかかった部屋、暖炉の側、そして部屋の中には男がひとり──。
 「聞き書き」とでもいうか、インタビュー形式で綴られる物語。ジュブナイルにしてはチト赤裸々な表現もあるけれど、まぁ小学校も高学年となればコレくらいは何でもないか。それより、昭和末期が舞台でありながら、なんともレトロで耽美な舞台。しだれ桜の下に、大きく衿の明いた黒いロングドレスでたたずむ女主人! うわあ、ドレスの裾が汚れるぞ! きっと枯草とかがドレスにくっついて、それをズルズル引きずっちゃうに違いない。掃除と洗濯がタイヘン。てなことが気になる人に耽美は向きません。<あたしだよあたし。
 ところが密室殺人(容疑者は室内にいたんだから密室ってのもちょっと違うけど)の真相なんて、かなりガチガチのトリッキーな本格である。その他にも「あ、この手で来たか!」とスレたファンならニヤリとするような趣向もある。気づかずに通り過ぎるとアンフェアな感じがするけれど、実は何気なく伏線も張ってあったりするあたりがニクいね。なのに、物語全体を包む耽美な雰囲気が本格色を覆い隠してるって感じかな。いや、もちろんワザとなんだろうけど。あくまでも、この雰囲気を前面に出すには、いきなりロジック一辺倒になると興ざめだし。
 と書いて気がついた。このミステリーランドの叢書って、こうしてみると実にバラエティ豊かなんだ。ストレートな子供向けパズラー、子供向け冒険譚もあれば、社会問題を扱ったものもあり、こんな耽美なものもある。高田氏のは歴史系だとも聞いているし。ということは、この叢書をとりあえず片っ端から読んでいけば、子供はいつか「あ、これが好き!」という世界に出会える──のかもしれない。
 尚、シリーズファンには自明のことだろうが、ここに出てくる探偵役の「前髪で顔が隠れた」青年ってのは、言わずとしれた桜井京介だわな。言われてみれば、確かにこの謎解きは、彼の領分だ。てなことを書くとネタバレっぽい?(笑) (04.3.6)
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虹果て村の秘密・有栖川有栖(講談社)

 警官を父に持つ秀介は、推理作家志望の12才。推理作家を母に持つ優希は、熱烈な刑事志望の同じく12才。そんな二人が、優希の母親であり作家の二宮ミサトの別荘で夏休みを過ごすことになった。しかしその「虹果て村」では、最近、高速道路建設をめぐって賛成派と反対派の対立が激しくなっていた。そんな中、密室殺人事件が発生──。
 叢書ミステリーランドの一冊。ああ、これはいいなあ。まさに「ジュブナイル・ミステリ」のお手本みたいな作品。夏休み、初めて訪れる村(ここらあたりは
「黄金蝶ひとり」と同じ設定だ。確かに、ジュブナイルもので「田舎の夏休み」ってのは王道だわ)、村に伝わる伝説、親戚の優しいお姉さん。なんかもう、「ほら、ジュブナイルだよ!」と両手を広げて迎えてくれそうな舞台じゃないか。
 けれど、ここで語られる事件は、さすがアリス。舞台設定が似ているので「黄金蝶ひとり」とどうしても比べてしまうんだけど、「黄金蝶ひとり」が謎解きだけじゃなく冒険譚でもあり社会的テーマも内包していたことに比べると、こっちは正面切っての謎解きミステリだ。無論、村の開発問題っていう社会テーマも入ってはいるんだけど、それが物語の主眼ではない。物語の中心はあくまでも、「誰が犯人なのか、それはどうしてわかるのか」という点に絞られる。秀介が犯人を指摘するくだりは、大人の読者でも「あっ」と言わされるんじゃないかな。シンプルなことなんだけど、そこに注目するか、という驚き。まさに本格。エレガントだわ。
 「黄金蝶ひとり」との違いはもうひとつ。「黄金蝶ひとり」が、日常生活から離れたところで起きる出来事だったのに対して、こちらは日常生活の中に根ざした事件だ。むろん、殺人事件ってのは非日常なんだけども、それに対応する二人の子供は、あくまでも自分の現実の中でその事件に取り組む。どっちがいい、って比べてるんじゃないよ。むしろ、これは「黄金蝶ひとり」とセットで読んで欲しいと思った。同じ様な舞台設定で、方向性の異なる、でもどっちも最高に楽しく面白いミステリ。これをセットで考えたいのは、あたしだけじゃないと思うな。 (04.3.6)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

黒の貴婦人・西澤保彦(幻冬舎)

 タック&タカチシリーズの短編集。シリーズキャラの面々が安槻大学在学中から卒業後にかけての物語が収められている。短編ということでパズル主体ではあるんだけれど、どれもストーリー展開がとても巧くて、パズルではなく物語を読んでいるという実感は充分。もちろん、パズルとしても秀逸。
 いや、中には、お馴染みの「会話だけの推理合戦」もあって、それは「果たしてそれが真相かどうかは分からないけど、こんなふうに考えてみたらどうだろう」というアイディアだけで終わっている。果たしてそうだったのかどうかはわからない。けど、これこそが「推理ゲーム」なんだよね。つまんない事実よりは面白くて且つスジの通ったでっちあげの方が、花があるってもんじゃないか。大事なのは真相を当てることじゃなく、いかに面白く伏線を回収できるかなんだな、ということがよく分かる。
 シリーズキャラ以外の人物を狂言回しに据えているものも多いし、シリーズに馴染みのない人が読んでも大丈夫。逆に、ここからシリーズの他の作品に手を伸ばしていくのも面白いかも。
【招かれざる死者】友人の顔を立てて、嫌々ながらもタカチが参加したパーティの主催者は、実に鼻持ちならない男だった。ところがそこで事件が起きて──。
【黒の貴婦人】ボアン先輩が飲みに来ると、そこに必ずいる「白の貴婦人」。なぜいつもボアン先輩と同じ店にいるのか? 謎解きより、そこからタカチの心情への繋げ方が巧い。
【スプリット・イメージまたは避暑地の出来事】友人の別宅で「合宿」することになった女子大生たち。ところが、そこで事件が起きる。これ、イチオシ。
【ジャケットの地図】私を「愛人」として囲っていた男が死んだ。手元に残ったのは、彼のジャケット。このジャケットの裏地には、ある地図が縫い込まれているらしい……。
【夜空の向こう側】ボアン先輩が就職した女子高で、同僚教師が巻き込まれた事件。奇妙なご祝儀泥棒の実態は?
(04.3.9)
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レインレイン・ボウ・加納朋子(集英社)

 高校卒業から7年。当時の弱小ソフトボール部のメンバーだった知寿子が、病死した。当時のメンバーはそれぞれ自分の生活を守りながらも、彼女の死に思いをはせる──。本格ミステリあり、独白のような物語あり、まさに虹のようにバラエティに富んだ連作。ただ、根っ子のところでは繋がっているんだけど、毛色が違い過ぎて連続性は殆どない。
【サマー・オレンジ・ピール】専業主婦の美久は、知寿子の訃報を聞いて高校時代を思い出す──。うわあ、なんだこの独りよがりな女は。いや、高校時代の彼女の「画策」がイヤなんじゃなくて、それをさも重大時のようにとらえてる、この女の自意識がイヤだっ。
【スカーレット・ルージュ】出版社に勤務する陽子は、初めてあった作家に、知寿子の死を話したが……。う〜〜ん、初対面の人物の友人の死を、こういうふうに扱うって、なんか失礼な気がするんだけどなあ。
【ひよこ色の天使】保育士の佳寿美は、お迎えに来る予定の父親が事故にあったと聞き、子供を家まで送るが──。おお、やっとスッキリできる謎解きミステリになったよ(笑)。ひっくり返しの妙も充分。
【緑の森の夜鳴き鳥】看護師の緑は、担当している患者を看取ったあと、そっと屋上で涙を拭った。ところが患者にそれを見られて──。
【紫の雲路】姉の結婚式の二次会に出席したりえは、そこで不審な男性と出逢う──。これは本人より、読者が先に真相に気づくタイプの話。
【雨上がりの藍の色】栄養士になった美代子は、同僚の間でも評判の悪い明知商事の社員食堂への出向を命じられた。そこに派遣された栄養士は、みな、体を壊して辞めていくというのだが──。ミステリではないけれど、これが一番好き。やっぱ登場人物に感情移入できないと楽しめないね。
【青い空と小鳥】チームメイトに知寿子の訃報を知らせながら、唯一通夜にこなかった里穂。彼女が失踪していると聞いて、当時のキャプテン・陶子は──。里穂が失踪した動機にもからむ知寿子の一件には「あっ」と言わされた。このトリック(ってのとはチト違うかな)には感心。
(04.3.11)
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修羅の夏〜江戸冴富蔵捕者暦・新庄節美(東京創元社)

 下っ引きの富蔵が出逢った事件を、彼の親分である同心の娘、お冴が解きあかす。安楽椅子探偵モノの捕物帳。おお、捕物帳好きにとっては、そこに謎解きの面白さが加味されるってのはナカナカに楽しみなシリーズが始まったぜ。
 もともとこの著者は、「名探偵チビー」「ホラータウンパニック」などのジュブナイルシリーズで人気の作家さんである。それが捕物帳だ。ただ、せっかく他の分野の作家さんなんだから、これまで捕物帳に縁のなかった読者にとって敷居の低いものを書いてくれるんじゃないかと思ってたんだけど──時代風俗を忠実に描写するあまり、語彙や文章に凝ってしまって、逆に馴染みのない人には読みにくくなったきらいがある。
 文章ひとつとってみても、声に出すとテンポはいい。テンポはいいが、目から入れると飲み込みにくい。そういうくだりが目立つ。現代人が読みやすいように翻訳された捕物帳ではなく、できるだけ生粋の、混じりけのない味を出そうとして、かえってとっつきにくくなった印象。各編のタイトルが歌舞伎の外題風になってるのも、風流だけど敷居が高い気がするんだよなあ。
 しかし、そこさえクリアすれば、お冴の安楽椅子探偵ぶりはサスガだ。疱瘡が目に入って幼い頃に失明したというお冴の身の上、富蔵を兄さんと慕うそのキャラ、時代物はこうでなくちゃ──と思いつつ読んでいたのだけど。あれ? このお冴、身の上にダマされそうになるが、どうしてなかなか計算高いオンナじゃないか?(笑) まあ、話はまだまだ続きそうだし、富蔵を巡る三角関係の火種もまかれ、これは続刊が楽しみだ。
【隠居殺卯月大風】春の大風の最中、起こった密室殺人事件。謎解きとしては少々ヤワいけど、登場人物紹介にはうってつけの一幕。
【母殺皐月薄雲】長屋で縊れた母親の遺骸を見つけたのは、まだ齢6才の娘だった──。これはロジカル! 真相の処理の仕方もオミゴト。本編ではこれがイチオシ。
【後家殺水無月驟雨】女が殺され、金子が盗まれた。容疑者はそこに金が隠されていたことを知っている人物に絞られたが──。そろそろ富蔵以外のレギュラーにも厚みが欲しいなあ、と思っていたところに、三角関係の火種が。さあ、どう転ぶのかな?
(04.3.12)
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