うわはははははっ! 面白いっ!
殺しはエレキテル〜曇斎先生事件帳・芦辺拓(カッパノベルス)
舞台は、江戸時代の大坂。登場人物から察するに、1800年代初頭ってあたりかな? 世は蘭学ブーム。蘭学者の曇斎先生こと橋本宗吉が、奇妙な事件の謎を「蘭学」を使って解きあかす、一風変わった捕物帳シリーズ。毎回毎回出てくる「蘭学小道具」が妙に面白い。おまけに、いつも冤罪で無実の人をひっとらえてしまう、癇の強い与力見習いが、歴史の教科書にも名前が出てくるあのひとだ。わははは、名前があかされるのは第1作の最後なんだけど、ここで一番笑っちゃったい。この人物についてはいろんな見方があるけど(森鴎外も、この人のことを書いてたよな? あ、これだ。←与力の名前をズバリ書いてるので、見たくない人は見ないように。でもこれを知っても、謎解き自体のネタバレにはなりません)この人物を、こうまで悪く書くか(笑)。
ヘビイチゴ・サナトリウム・ほしおさなえ(東京創元社)
中高一貫教育の女子校の屋上から、高3の美術部員・江崎ハルナが墜死した。その噂も消えぬうち、今度は国語教師・宮坂が墜死。この国語教師は小説家志望で、先に死んだ女生徒と合作で書き上げた作品を新人賞に応募していた。ところが受賞の知らせを聞いた直後、彼は受賞辞退を申し出たのである。この小説に何か死の理由があったのか。宮坂が死ぬ直前に「ハルナの幽霊を見た」らしいという噂もあり、二人の女生徒が、真相を知ろうと校内を探り始めた──。
中学生の天童純の胸には、生まれた時から赤紫色のふしぎな形をしたあざがあった。京都の中学校に転向してきて数カ月、ある日、いじめっ子に追いかけられるうち、純は古い寺に迷い込んでしまう。そこで源雲と名乗る僧に出逢うのだが、なんと源雲は、純のあざは平安京を脅かす鬼と戦う者の印だというのだ。そのまま時空を超え、平安の都に飛ばされてしまった純。果たして純は、鬼と戦わねばならないのか──。
猫はこたつで丸くなる〜猫探偵・正太郎の冒険III・柴田よしき(カッパノベルス)
猫探偵・正太郎の短編集3冊目。正太郎シリーズとしては、5冊目になる。例によって今回も、猫視点の作品と人間視点の作品が上手に混じっていて、読む方を飽きさせない。
箱根駅伝を目前に控え、神奈川大学陸上部は最後の調整に入っていた。なかなか決まらなかった十区の走者も都留に決定。そんな中、準備に追われる女子マネージャーが買い物に出たところを、何者かに誘拐されてしまう。犯人からの要求は「都留を箱根駅伝に出すな」──そしてその頃、箱根駅伝を生中継する日本テレビにも、犯人からのメッセージが届いていた……。
男性誌探訪・斎藤美奈子(朝日新聞社)
「あほらし屋の鐘が鳴る」で様々な女性誌を一刀両断にしてきた著者が、今度は男性誌を俎上にあげた。男性誌とは、いったい如何なるものなのか? 分野別に、主だった男性誌をピックアップ。それを読み込んだ著者が、男性誌を斬って斬って斬りまくる! 男性誌から浮かび上がる、今の日本男児像とは?
ジェシカが駆け抜けた七年間について・歌野晶午(原書房)
ジェシカは、アメリカの陸上クラブチームNMACに所属するエチオピア人ランナー。最近、チームメイトの日本人・アユミの様子がおかしい。心配になったジェシカはアユミに声をかけるが、彼女は荒れるばかり。ようやくアユミの口から事情を聞いたとき、ジェシカはそのあまりに深刻な事態にショックを受ける──。
不思議なものでというか、因果なものでというか。これって、1巻と2巻にお薦めマークをつけると、3巻にもつけるってことになっちゃうんだよなあ。著しく内容が変わってるならともかく、前の2冊と何等変わらないわけだし。<そんな覇気のないお薦めマークってあるか? とまれ、同様の理由で、日記シリーズにもお薦めマークが揃ってついてるし、S&Mシリーズには揃ってついてない。なんて分かりやすいの。というわけで、たらたら続くお薦めマーク。内容もそれと同様、前巻とまったく同じノリで、たらたら続いています。ばぶぅ。それはたらじゃなくてイクラだ。森助教授・車道助教授・上前津助手・御器所秘書の4人が織りなす井戸端会議。やまなし・いみなし・オチなし。これがホントの「やおい」じゃなかろうか。
クリスマスローズの殺人・柴田よしき(原書房)
私立探偵の名前はメグ。親友の名前は佐和子。二人は普通に就職して普通に生活していました。ただひとつ違ったのは、二人はヴァンパイアだったのです……とまぁ、どっかのドラマの冒頭をちょっと変えればそのままキャッチコピーに使えそうなVシリーズ第2段。普通の人に混じって世間で生活しているヴァンパイアは、案外少なくない。雑食性になってるし、昼間も(眠いけど)行動できる。血を吸うのは求愛の印くらいで、人間を襲ったりしない。まあ、他にもちょっと変わった特徴はあるけれど──。
豆腐小僧双六道中ふりだし・京極夏彦(講談社)
大きな頭にトボけた顔、舌をぺろりと出して、手には豆腐を載せた盆を持ち、ひょいひょいと歩いてみせる──豆腐小僧は江戸ではお馴染みの妖怪だ。いや、そもそも妖怪というのは実在しない。何か得体のしれないものがいる、これはもしや妖怪では──人間がそう感じたとき、それは現れる。つまりは人間の観念が生んだものなのだ。人間が妖怪を忘れれば、あるいは否定すれば、妖怪は存在しなくなる。
ところが、ある豆腐屋の廃屋に、ある日突然豆腐小僧が現れた。この廃屋で情事に及ぼうとした男女の、男の方が、豆腐屋の廃屋ってことで「豆腐小僧でもいるんじゃないか」と思ってしまったためだ。ところが、その男女が廃屋を去っても、豆腐小僧は消えずに残った。自分はどうしてここにいるんだ? 自分はどうしてこんな格好で、豆腐を持っているんだ? 豆腐小僧のアイデンティティー探しの旅が始まった──。
うわはははは、アイデンティティって! おまけにこの豆腐小僧、やたらとバカだし。その上、京極夏彦による地の文が、めったやたらと面白い。いろいろな妖怪が登場し、豆腐小僧のアイデンティティ探しを手伝ってくれるのだけれど、中身はといえば、「妖怪ってこういうふうに分類されるんだよ」「妖怪の歴史って、こんなんなんだよ」という、いわば蘊蓄である。その蘊蓄を、豆腐小僧のトボけたバカキャラと、京極夏彦のなんとも巧い語り口調で、めちゃくちゃ面白く読ませてくれる。いやあ、ワザだよなあ。金を出してもいいと思えるような、文の芸。これぞ文芸だよなあ。
ってことで、物語の動きというのは、あまりない。豆腐小僧が幾人かの仲間と知り合い、自分の出自を探すわけだが、合う相手合う相手にいろいろ教わるだけで、大きなストーリーの変化といえるものは、あまりないのだ。おまけに、豆腐小僧のあまりのバカ加減にイライラもする。が。それが終盤に来て、怒涛の展開。あのバカで頼りない豆腐小僧が、あらびっくり! ……いやもう、ここから先は読んでくれ。そう、時として、利口はバカに勝てないのだ。
これは楽しい。いっぺんに豆腐小僧のファンになっちゃったよ。
(04.3.20)《この本の詳細情報&注文画面へ》
【殺しはエレキテル】箕四郎は、学問のため大坂に出てきた。目当ての塾へ向かう途中、見世物としてエレキテルの実験をしているところに出くわす。しかし、実験台になった男の様子がおかしい──。
【幻はドンクルカームル】盆屋(江戸でいう出会い茶屋)で女が殺された。その様子を覗き穴から覗いていた人物がいて──。
【闇夜のゼオガラヒー】屋形船に乗っていた人物が、矢で射られ、殺された。下手人がすぐに名乗り出たが、彼のいた場所から屋形船までは矢が届くような距離ではなくて──。
【木乃伊とウニコール】匠屋自慢のオランダ屋敷。そこで、来客が死んだ。手には拳銃。誰もいない部屋だったので自殺か事故かとも思われたが──。
【星空にリュクトシキップ】医者がひとりで歩いていると、ケガ人が倒れていた。慌てて介抱したが、その人物はどうやら誰かに命を狙われたらしくて──。
【恋はトーフルランターレン】曇斎先生のところに始終出入りし、箕四郎も憎からず思っている娘・真知が何者かに拐かされた。真知は驚くべき方法で居場所を知らせてくる──。
(04.3.21)《この本の詳細情報&注文画面へ》
世界を作るのが実に巧い、というのが一読した印象。しかしなあ、話が進むにつれ、構成がどんどん複雑になっていくんだよなあ。ただでさえ似たような女の子がたくさん出てきて区別するのも大変なのに(こらこら)、エピソードが末広がりに拡散し、探るべきものが、どんどん増えるのだ。最初は「宮坂とハルナ先輩って何か関係があったの?」というレベルだったのが、エピソードが加わるごとに、どんどん「これも不思議」」「これは何?」「これはどう関係してるの?」とテーマが増えて、増えた分、散漫になっていくのは否めない。追いかけるのに精一杯で、インパクトを受けるタイミングを逃したというか。抜群に筆力があるので、ぐいぐい読まされてしまうんだけど、心地よい文章(さすが詩人!)にたゆたっていると、ふと、「あれ、これは何と繋がってるんだっけか?」とわかんなくなってしまったり。それは読解力の問題ですかそうですか。
それにしても、あのお兄ちゃんがもっと前面に出てくるかと思ったがな(笑)。コイツが探偵役だな、と踏んでいたのだが。ただそうなると、物語の雰囲気ががらっと変わるだろうけど。あ、そうか、今気づいた。役割分担がフェア過ぎるのかもしれない。みんな怪しくて、でもみんなが何かを探ってて、みんなが手がかりをちょっとずつ持っている。誰が犯人なのかが分からないのは当然としても、誰が探偵役なのかもわからない。狂言回しという意味での主人公は海生なんだけど、印象が薄いし。無論、初手からわからせる必要はないんだが、読んでる間、脳内の人物相関図に陰影がつけられないというか、役割分担ができないというか──その結果、誰かと一緒になって推理したり感情移入したりが、難しくなっちゃう。
あまりミステリに拘らずとも──という気もする。カタルシスより揺らぎの方が似合っているような。ミステリ的な趣向が織り込まれるのは個人的には楽しいが、それより、一つの世界の中で物語が構築される、その細工、その模様、そしてその空気こそが主人公。そんな印象の文章を書く作家さんだ。
(04.3.22)《この本の詳細情報&注文画面へ》
鬼神伝(鬼の巻)・高田崇史(講談社)
いきなり平安時代に跳ぶか! と仰け反ったが、そこからがやたらと面白い。鬼を駆逐せねばならないと解く殿上人。しかし純はなかなかその気になれない。ようやくオロチを操れるようにはなったものの、何かスッキリしないのだ。そんなとき、ある人物が殺される。そこには、オニと書かれたダイイングメッセージが……。
てな感じで、本格ミステリ風味もしっかり備えつつ(おまけに、これは実にエレガントな謎解きよ)、けれど主眼は「人間対鬼」の構図である。なぜ、鬼は悪者とされているのか。なぜ、人間は鬼を倒そうとするのか。鬼の世界に入って来た純は、予想とは異なる鬼の言葉に愕然とする。「桃太郎や一寸法師は、鬼を倒して宝物を奪っていった。しかし、鬼が何をしたというのか?」と。
ジュブナイルという制約の中で、それでもジュブナイルなりの「歴史観」が、ここで語られる。歴史を作るのは常に勝者だ、というシビアな現実を、高田崇史は子供にわかりやすく伝えるのだ。
純にもたらされた「新しい価値観」は、そのまま読者の価値観をも揺らがせる。純の葛藤と苦悩は、そのまま読者にも伝播する。現代に帰りたいのはもちろんだ。でも、ここをこのままにしておいていいのか? ──そして、小野篁(そんな人物まで出てくるんだよ!)の前で鬼の言った言葉の、本当の意味がわかったとき。
純も、そして読んでいるこっちも、心が奮えた。
いやあ、これはいいわ。これって、NHKの少年ドラマシリーズに向いてそうだよ。本格ミステリ、歴史物語、成長物語の3つがキレイにバランス良く合わさって、ひとつの物語を織りあげている。続編が4月発売予定。ええ、続編を出してもらわなくちゃ困りますとも! こんなところで終わるわけにはいかないでしょ。
(04.3.24)《この本の詳細情報&注文画面へ》
【正太郎ときのこの森の冒険】正太郎視点。きのこの取材で浅間寺先生と自然公園にやってきた正太郎&飼い主。しかし、もうひとり、取材に同行した作家・如月の様子がおかしい──。煽り方が大袈裟なので、逆をつくんじゃないかなとは思ったけれど、それにしてもこの真相は妙に楽しい。
【トーマと蒼い月】正太郎の初恋の相手・トマシーナの視点。トマシーナは無理矢理見合いさせられるが、断固拒否。その見合い相手の飼い主は、今、あることに悩まされていて──。う〜ん、理屈は通るけど、こんな遠回しなことするかなあという疑問も。
【正太郎と秘密の花園の殺人】正太郎視点。毒草の取材に園芸店にやってきた正太郎&飼い主。そこで殺人事件が起こる。これ、ラストで正太郎がメチャクチャにした花の損害の方が気になるぞ。
【フォロー・ミー】編集者の山県雅美(男)視点。彼女と別れたばかりの雅美は、ラブレターっぽいメールや自分をつけてくる人物に悩まされる。もしかしてストーカー? ……これって結局、あとをつけてきてた人物って、雅美の想像通りで解決なの?
【正太郎と惜夏のスパイ大作戦】正太郎視点。雨上がりの道のあちこちで拾った、近所の少年のバッチ。ところがその少年は、そのバッチを人にあげたという──。これはシンプルだけどキレイ。
【限りなく透明に近いピンク】トマシーナ視点だけど、三人称に近いかな。結婚詐欺にひっかかった女性が、相手を殺して自殺した。でも、ホントに自殺? これイチオシ! これはいいなあ。無理がなくて、キレイで、且つドラマチック。小道具の使い方が絶妙。
【猫はこたつで丸くなる】飼い主が福引きで炬燵を当ててきた。すっかり気に入った正太郎。飼い主と編集者の山県は、そのこたつで「暗号」に挑戦する──。これはまあ、長さといい、このオチといい、ボーナストラックってとこでしょう。
(04.3.26)《この本の詳細情報&注文画面へ》
強奪箱根駅伝・安東能明(新潮社)
うわあ、ドキドキするう。「15秒」でも感じたけれど、この著者って、こういう「時間との戦い」みたいなものを臨場感たっぷりにサスペンスフルに描くのがホントに巧い。特に今回は、駅伝というタイムレースに加え、秒単位の制約があるテレビの生放送が関わってくるわけで、もうハラハラしっぱなし。たとえ真相はショボくても(ショボいなんて言うな)、勢いで一気に読まされてしまうパワーがあるんだよなあ。
もちろん、勢いだけじゃない。人命をたてにとった犯人が脅迫する相手がテレビ局ってのが、面白さを倍加している。こういう事態になったときのテレビマンの思考──人質の命は救いたい、犯人を捕まえたい、でも絶対に生放送は邪魔させない──ってのがもう、ホントに感情移入しちゃった。でももちろん犯人たちは、生放送に介入してくるワケだ。
犯人とテレビマンの頭脳での戦い。そしてランナーたちの、体の戦い。どちらも、実に熱い。熱くて、そして同時に、実にクールだ。生放送が始まり、ランナーがスタートする。1区、2区と襷が渡され、それぞれの区間にドラマががある。そのドラマと並行して行われる犯罪、それを阻止しようとするテレビ局、犯人を追う警察。そして走るランナー。
勝負は、箱根駅伝の2日間。それも、最後の十区のタスキリレーまでだ。時間との戦い、そして「ほんとに技術的にこんなことが可能なのか?」とひっくり返ってしまうくらいの、犯人のハイテクな誘拐劇。そしてラストのカタルシス。
実効性という面では実際はどうかわからないが、サスペンスとして、スポーツミステリとして、誘拐ミステリとして、頭脳ゲームとして、そして何よりエンターテインメントとして、これは面白いっ! 時間を忘れること必至。
(04.3.27)《この本の詳細情報&注文画面へ》
最初に斬られるのは「週刊ポスト」。いや、これが第1回ってのは、ツカミとしては最高。笑い死ぬかと思った。「週刊ポスト」なんてこれまでの人生で触ったこともないので全然知らなかったのだが、こんな雑誌だったのか。ヘアヌードとマイホームパパ用の情報が一緒に載ってる。セクハラ知事を糾弾した同じ号で、OL100人へのセックスアンケートを実施。あはははっ、あんたがセクハラなんじゃんっ! もう大笑い。この一貫性の無さは何? それを斎藤美奈子は一言で斬る。「援交の現場で『ねえキミ、親御さんが心配するよ』と女子高生を叱る説教オヤジ」──うわはははっ。
一つの雑誌を取り上げ、それを紹介するだけなら誰でもできる。斎藤美奈子の斎藤美奈子たる所以は、ひとえにその「斬り方の巧さ」と「そのものズバリの例え」、そして気持ちいいくらいの「正鵠を射た毒舌」だろう。ただ単に悪口を言えば「毒舌」「辛口」になるってもんではない。毒舌をひとつの芸にするには、他の誰も真似できない、「ツッコミどころを探す目」と「それを表現する筆力」が必要なのだ。
同じような手法で、「プレジデント」「週刊新潮」「ダ・カーポ」「ゴルフダイジェスト」から「鉄道ジャーナル」「ナビ」「ニュートン」「メンズクラブ」まで、斬りも斬ったり31冊。あははは、「丸」まで出てる。
個人的に拍手してしまったのは、スポーツグラフィック誌「ナンバー」のくだりだ。あたしは、(特集が好きなスポーツのときだけ)この雑誌を読んでいるが、面白く読みながらもずっとつきまとっていた違和感があった。その違和感がなんなのか、斎藤美奈子がズバリ言葉にしてくれたよ。
もちろん、その雑誌のファンからみれば、カチンとくる批評も多いだろうし、「この世界のことをよく知らないで何言ってるの?」という部分もあるとは思う。でも、それはそれ。どんな世界でも、ディープになればなるほど、ハタから見ると奇妙なもんなのよ。
(04.3.28)《この本の詳細情報&注文画面へ》
本格ミステリとしては、トリックはアイディア一発もので、賛否があるかもしれない(あたしは結構好きだけどね、こういうアイディアは)。ただ個人的には、そのトリックっつ〜か、仕掛けっつ〜か、そういうミステリ的趣向より、スポーツ小説としての面白さに注目したい。例えば東野圭吾のスポーツミステリ(なんて書き方をすると限定されちゃうかな?)にも、似たような素材を使ったものがある。そちらが、スポーツミステリとして正面から捉えられているのに比べると、本作はどうしてもそのミステリ的仕掛けの評価に話が流れてしまいそうなのが実に惜しい。確かに、中枢のトリックはアレなんだけども、でもそこ以外の、いわば『被害者の動機』が判明していくくだりは、こっちを中枢に据えても良かったのにと思えるほどの展開だ。
「構成」でひっかける作者だという実績、「葉桜の季節に君を想うということ」のインパクト、それらが読者を、或いはもしかしたら著者をも、一つの方向に導いてしまってはいまいか。メインの仕掛けは、ただアレだけだ。しかし、これは決して「アレだけ」の話ではない。「アレだけ」が取り沙汰されるのは、どうにも惜しい。マラソンのアスリートを主人公に据えて描いたこの作品は、陸上界の持つ問題をあぶりだし、そこにメスを入れ、それを「ミステリ」という形に結実させている。「葉桜」もそうだったが、「メインの仕掛けにはビックリしたけど、でもそれ以上に(或いは、それ抜きでも)話が面白かったよね」と思えるのだ。それこそ、物語作家の真骨頂ではないか。
でもなー。その、極めて面白い「スポーツミステリ」の部分と、中枢にある仕掛けが、どうにも乖離しちゃってるんだよなあ。バランスが悪いというか。だから、せっかく面白いスポーツミステリなのに、読み手の評価はそこではなく「仕掛け」に集中してしまう。ああモッタイナイ。
尚、タイトルセンスはさすが。これはいいタイトルだ。
(04.3.28)《この本の詳細情報&注文画面へ》
森博嗣の浮遊研究室3 宇宙編・森博嗣(メディアファクトリー)
ってことで、感想は1巻・2巻と同じです。<そ、そんないい加減な!
いくらなんでもこれで終わっては、手抜きの謗りは免れまい。では、ウェブでしか「浮遊研究室」を読んでない方のために、今回のオマケ情報。今回は登場人物の4人が名古屋の街に飛び出し、あちこちの写真を撮ってます。名古屋デジカメ案内ってところかな。森助教授はお馴染みN大と、いかにもな博物館(?)。車道助教授は、浮遊研究室内の話題として出てきた場所のご案内。上前津は東山動植物園。御器所は、森ミステリィに出てきた実在の名古屋の場所をご案内(クイズ付き<好きだねえ)。
ただ、前も書いたかもしれないけど、大矢の個人的なお薦めは、車道助教授のはみだしコメントの再録なのだ。このかっとんだギャグのセンスはすさまじい。勉強になる(何の?)。御器所クイズの解答も載ってるけど……あははははははは!(大爆笑) 出題ミスがあって、御器所秘書が謝ってるよ! はみだしコメントは毎週前のが消されちゃうから、あとから修正ができないのね。間抜けこの上なし。あははは、情けねえ(笑)。
(04.3.29)《この本の詳細情報&注文画面へ》
警察は、死体の周りにクリスマスローズの花をおいていくという連続殺人を追っていた。その頃、メグは、夫の出張中に妻が浮気をしてないか、という調査にあたることに。向かいのマンションから監視を続けたが、いつまでたっても動きはない。奇妙に思って、張り込み交代要員の太郎と一緒に、家に忍び込んでみると……そこにいるはずのない人物の死体が?!
帯にある「軽ハードボイルド+コージー+本格」という惹句がまさにピッタリ。テンポが良くて、設定やキャラクタが楽しくて、でも事件はしっかり本格で、中枢となるテーマもちゃんとあって。こういうのは好きだなあ。なぜクリスマスローズなのか、ってのも笑っちゃうような真相だけど、だけどそこがちゃんと決め手になるってのはキレイだし。対決シーンはなんとも切なく、なんともドラマチック。
展開も謎解きも、ちゃんと伏線もあるし意外性もある──のだけれど。う〜〜ん、これってけっこうスレスレじゃないか? この物語の前提となるヴァンパイアの設定を、どこまで作中に持ち込んで良いかどうかがわからないのだ。例えば、(モロ真相に触れるネタバレにつき反転)太郎はコウモリに変態するし、刑事の糸井は猫に変態する。ヴァンパイアにはそういう能力があるわけだ。ってことは、探偵が人の出入りを見張ってた現場でも、犯人が何かに変態したヴァンパイアなら可能だよなあ……と、読者は一度はそう思うよね。でも、このヴァンパイアの能力は《探偵側》にのみ与えられてる特典みたいなもんで、話は普通の人間界の事件と考えるべきだろうか。それとも犯人がヴァンパイアってのはありなんだろうか──そこでちょっと迷ってしまったのだ。つまり、お約束がわからない。
別に、だからといってこの謎解きに破綻があるわけではなく、伏線もすべてちゃんと出てるし、極めてフェアだ。そういうところにはもちろん気を配ってるんだと思う。ただこれは、一歩間違えると「だったら何でもアリじゃん!」というゾーンに踏み込んでしまいかねない。そのスレスレのところで「フェア」にやるってのは、なかなかタイヘンなシリーズかもな。
(04.3.29)《この本の詳細情報&注文画面へ》
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