お厚いのがお好き?


名探偵 木更津悠也・麻耶雄嵩(カッパノベルス)

 名探偵・木更津悠也シリーズ(って、そのまんまかよ)の短編集。それぞれで扱われている事件は独立したものだし、事件のオチはその短編内できちんと解かれるんだけど、全編通じて道ばたに出る幽霊という同じモチーフが使われている。それとは別に、名探偵と助手の関係といった点でも含みを持たせており、まだこの4編だけでは解明されない箇所も多い。というか、一番肝心な部分が解明されずにいるぞ。これはまだ物語が続くのか、それとも、こういう放り出し系の趣向なのか、どっちなんだろう。そのヒントになってるのが、カバー折り返しの言葉なんだろうな。
 まあ、そういった趣向の面での割り切れなさは残るんだけど、そこを除けば(除いていいものなのか? まあいいや)極めて端正で手堅い本格ミステリばかり。
【白幽霊】古めかしい洋館で資産家が刺殺された。クセの強い関係者たちは、軒並みそろってアリバイがある。手がかりは切り取られたカーテン……。論理性は充分で、そういう意味では好きなタイプの話なんだけど、このお約束のキャラクタ描写にちょっと辟易。普通さあ、いくら思惑に反する目的を持った探偵が現れたとしても、初対面の相手にこんな言葉遣いをする大人はいないだろうし、いくら嫌いな相手でも面と向かって「いい気味だわ」なんて言ったりしないと思うんだがなあ。影で言うならわかるけど。
【禁区】噂の白幽霊を見に、高校生達が出かけていった。それは行方不明になっているクラスメートの幽霊ではないかと言うのだが……。あ、これ、巧い。ちょっと肩すかしを食う部分はあるけれど、舞台効果や盛り上がりは満点。
【交換殺人】木更津悠也のもとを訪れたのは、酔った勢いで交換殺人の約束をしてしまったという男。酒の上の冗談だと思っていたら、自分が殺すよう頼まれた人物の死亡記事が新聞に載っていた。約束の相手が、約束通り妻を殺しに来たらどうしよう……。これがイチオシかな。一番理にかなって、それでいて一番トリッキー。ドラマにすると面白そう。
「21世紀本格」所収。
【時間外返却】発見された女性の白骨死体。その犯人探しをしているうちに、妙なことがわかった。失踪した日の翌日に、レンタルビデオが返されているのだ。返したのは誰?──こりゃまた随分ドメスティックなところを突いたなあ。
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影踏み・横山秀夫(祥伝社)

  真壁修一は窃盗のプロ。大学まではエリートの道を歩いていたが、弟がぐれてしまい、それを苦にした母親が弟と無理心中を図ったのをきっかけに、彼の人生も大きく変わっていった。母とともに焼死した弟は、しかしそれから真壁の内耳に住み込み、他の人には聞こえない声で彼に話しかけてくる──。
 一歩間違えば、デンパとか危ない人とかっていうキャラクタなのに、この重みはすごいなあ。内耳に響く弟の声と二人三脚で謎を解いていく連作小説。もう、読ませる読ませる。「おお!」と膝を打つトリッキーな本格ものもあれば、日常の謎系のちょっといい話もあったりして、事件の傾向はばらばら。しかしあくまでも物語の主眼は個々の謎解きではなく、真壁自身の物語だ。特に久子との関係の哀切はたまらんなあ。願わくば結末が──いや、皆まで言うまい。
【消息】服役していた真壁が出所後向かったのは、最後に盗みに入った家だった。真壁はその家の主婦に、ある疑念を抱いていたのだ。盗みに入ったあの夜、俺が入らなければあの女は夫を殺そうとしていたのではないか──。この手がかりには感心。他の作品にも共通するけど、真相に気づくきっかけや、あるいは伏線といったものは、どれもばりばり本格ミステリ系なんだよね。それをさらっと使って、物語は物語できっちり読ませる。巧いなあ。
【刻印】馴染みだった刑事の死体が上がる。前作が意外なところに着地する驚き。手がかりを探すために盗みに入ったシーンは、浅田次郎の
「天切り松 闇がたり」を思い出した。
【抱擁】久子の務める保育園で盗難事件が起こる。疑われたのは久子だ。なぜなら、窃盗犯が恋人だから……。まさに意外な犯人。でももちょっと伏線が欲しい。
【業火】盗人狩りが連続する。襲わせたのは通称「ジゴロ」と呼ばれる謎の人物らしい。そして真壁も襲撃されて──。わあ、ジゴロの意味にも感心したが、この真相はまた!
【使途】刑務所で知り合った男から頼まれた、サンタクロースの仕事。ほんわかした気持ちで読み終えた。
【遺言】盗人狩りに襲われた同業者の死。真壁は彼の父親を捜そうとする。前に出て来た人物が効果的に使われてるのが印象的。真相に気づく小道具が巧い。
【行方】久子がストーカーに狙われた。見合いをした相手に関係がある。事件そのものの真相も鮮やかだが、それより連作の結末として、もちょっとカタルシスが欲しい。それにしても、この弟の存在は切ないなあ。
 (04.8.4)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

水底の森・柴田よしき(集英社)

  アパートの一室で顔をつぶされた男の死体が見つかった。現場では「もう森へなんか行かない」というシャンソンがエンドレスで流されていた。その後、近所の公園で、そのアパートの住人である高見健児の絞殺死体が発見される。高見の妻、風子は行方不明。警察は風子が関与しているとの疑いを持って彼女を捜すが、担当する刑事の遠野要は、風子が以前、風俗嬢として自分と関係を持った女であることを思い出す。二人を殺したのは本当に風子なのか。逃避行を続ける風子、追う遠野を待ちかまえる運命は──。
 うわあ、これは読み応えがあった! この著者はとにかく人物の肉付けが秀逸で、それも主要人物ばかりじゃなくて脇役まで顔が見えるように書き込んでいる。それぞれの思惑や行動がそれぞれの視点から語られる上に、小さなエピソードもなおざりにせず描写するので、迫力も説得力もリアリティも増すし、とてつもない厚みが出るのだ。
 風子のとんてもない流転の人生はそれだけで充分大河ドラマだし(年表にするとあり得ないくらいの波乱の人生)、遠野の心情の変化が音楽のクレッシェンドのようにだんだん膨れあがって来る様子も手に汗握る。「え、こんなことで人って壊れるの?」と思うかもしれないが、むしろその「あり得なさ」にリアリティを感じてしまったんだよなあ。スイッチが入ってしまった、一歩踏み出してしまった、そこから加速がつく様子というのは、まさにこんな感じなんじゃないだろうか。
 殺人事件があくまでも全体を貫く謎なんだけど、その謎を巡って風子の過去が浮き彫りになっていく様に強烈に惹きつけられる。風子がどこにいて何をしているときでも、物語の本筋である殺人事件から大きく乖離することはなく、それでいて個々のエピソード自体に強い物語がある。こりゃ引き込まれるわ。
 そして殺人事件の方はというと……ああ、こう来ましたか! こんなところが繋がりますか!
 構成がやや凝りすぎというか、この手のミステリを読み慣れてないと「え、これ、どういうことなの?」「これ、誰?」と消化不良を起こすかもしれない(あたしも、最初ちょっと考えた)のが、やや気になる。読後感という点では、も少しはっきり書いても良かったような気がするけど──でも、これだけのドラマを読ませてくれたんだから、充分か。  (04.8.8)
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サマータイム・佐藤多佳子(新潮文庫)

  小学五年生の進と、一つ年上の姉の佳奈。進より二つ年上で、ピアニストの母親と二人暮らしの大人びた広一。その3人の思春期へのトバ口を数年に渡って、断章的に綴る連作ストーリー。ピアノとジャズをキーワードに、繊細でピュアな季節が綴られる。
【サマータイム】夏休み、5年生の進は学校のプールで、片腕の少年・広一と会う。広一の母はピアニストで、広一もピアノが得意だったが、事故で片腕を失ってしまったのだった。それから、進・佳奈の姉弟と広一の付き合いが始まった。この物語の白眉は、ラストだな。とあるシーンを弟の目で描くんだけど、なんかもうこのときの佳奈の気持ちが手にとるように分かるよ! ああ、子供の恋って、こうだよなあ。意地をはって、とんがって、折れることができなくて、独りよがりで。でも、それがこのラストシーンで一気に「Anything OK!」って感じになっちゃうよ。
【五月の道しるべ】佳奈がまだ幼い頃の物語。花で道しるべを作ろうとしていた佳奈は、それを進が自転車で踏んでしまったことに腹を立てる。しかし、佳奈自身も咲いている花を毟っていたことに思い至らない──。うわあ。いや、わかる、わかるよ。こういうところって、幼い子にはありがち。すごくありがちなんだけどさあ……でもこの章の佳奈は、あまりに憎たらしいぞっ!
【九月の雨】高校生になった広一が新しい父親と出会う話。エキセントリックで奔放なお母さんの魅力は相変わらずなんだけど、それより【サマータイム】に繋がるシーンが出てきたとき、じーんとしちゃった。
【ホワイト・ピアノ】中学生の佳奈の、まだそれとは気づかない恋心を描いた章。うーーーーーん、これはもう、佳奈に感情移入できるかどうかで全てが決まりそうな気がする。だけど、それを踏まえた上で、このラストシーンはいいなあ。
(04.8.3)
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ぶたぶた日記・矢崎存美(光文社文庫)

  やっと出ました、ぶたぶた最新刊! ぶたぶたの奥さんのお母さんが申し込んでいたカルチャースクールのエッセイ教室、ところがお母さんは都合で参加できなくなった。もったいないので代わりにぶたぶたが受講することに。もちろん、講義一日目から参加者の目はぶたぶたに釘付け! 教室の講師と生徒、ひとりじつの視点で語られる連作短編集。
 文庫ということで手に取りやすいのは嬉しいけど……あのぬいぐるみの写真がないのは残念だなあ。あの写真があるとないとじゃ、全然違うと思うのはあたしだけ?
【突然の申し出】エッセイ教室の講師である作家の視点。何に笑ったって、ぶたぶたが飲み屋で焼きとんを注文したときの講師の反応と、「夜はたくとほこりが立つから」だな。
【二番目にいやなこと】生徒のひとり、OLの佳乃の視点。そうそう、ぶたぶたってグルメなんだよなー。で、ここでもぶたぶたの書いたエッセイが出てくるんだけど──ぶたぶた視点っていうのは、シリーズ始まって以来(多分)なんだよね。新鮮ではあるけれど、どっちかってーと、ぶたぶたはそこに「いるもの」として周囲もそれを認めてて、そんな中で自分だけびっくりする語り手というパターンがあまりに面白かったために、ぶたぶた視点はちょっと物足りなく感じてしまう。贅沢な不満ですこと。
【不器用なスパイ】高校をやめた千奈美の視点。彼女は教室一日目にずっと居眠りをしていたため、ぶたぶたの存在を知らない。その千奈美が町で偶然ぶたぶたを見かけ──。あ、これこれ! このパターンだよね。ぶたぶたは何かのきっかけを与えるだけで、主人公には主人公の物語がある。これ、いいなあ。
【もっと大きくなりたい】主婦・松浦潤子の視点。わはははは、これ、一番笑ったかも! 何に笑ったって、ぶたぶたを食事に誘うメールを出すときの、潤子の「不倫みたい」という逡巡が! 「肉体関係にまで発展──とか言っても、肉じゃないし」のあたりで爆笑! 
「クリスマスのぶたぶた」を読んだ人には、あ、と思う場面も。
【紅茶好きの苦悩】初老の男性・児玉の視点。教室にぬいぐるみがいたといっても家族に信じて貰えない──ってのはまあ当たり前なんだけど、でも、読んでてすごく歯がゆい。家族の決めつけ方に腹が立って腹が立って。
【今までで一番怖かったこと】さて、ここだ。この章ではぶたぶたのエッセイがまた紹介されるんだけど──それは、このシリーズをずっと読んで来た中で、「そういうことは当然想像し得るんだけど、でも敢えてそこは見たくなかった」部分なんだよね。もちろん作者も、読者のそういう思いは承知の上で、それこを「敢えて」出してきたんだと思うけど。ぶたぶたが「主人公」になると、出てこざるを得ない部分ではあるけれど、でもやっぱり、読んでてすごく辛かった。
 (04.8.11)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

クライマーズ・ハイ・横山秀夫(文藝春秋)

 群馬にある北関東新聞社の古参記者・悠木和雅は、同僚と谷川岳に登る予定を立てていた。ところが出発日の夜、御巣鷹山で日航機の墜落事故が発生し、約束を果たせなくなる。墜落箇所は群馬なのか長野なのか。群馬なら、地元紙としてやることが山ほどある。悠木はこの事故のデスクに任命された。ベテランと若手の対立、スクープ合戦、部署の対立。そんな中、一緒に登山する予定だった同僚が病院に運ばれたと知らせが入り──。
 日航機墜落事故発生以後の、新聞社内での様子と人間模様が描かれてるわけだが、ああ、もう、このすごさと言ったら! いくら著者本人が群馬の新聞社出身だとはいえ、それを体験したということと、それを小説として描くというのは別のことだと思う。だって、実体験ならノンフィクションにまとめたっていいわけだもの。それを小説という形をとり、ここまでのドラマに仕上げたことがすごいよなー。(というか、ノンフィクションだと書けないことも多いのかな?)
 高村薫の描く警察内部にも似て、もういろんな闘争が渦巻く新聞社内! きゃーっ、男くさーい!(嬉) 地獄のような現場まで歩き、〆切ギリギリに若手記者が送ってきた血のにじむような原稿。それを時間切れで紙面に載せられなかったときの、デスクとしての苦悩。翌日の新聞ができたとき、「載ってない」ことを承知で開く。ああああ切ないよ、辛いよ。こういう思いって、会社勤めしてると一度や二度はあるものなあ。胸に迫ることこの上ない。
 そういう社内の人間模様を描きながらも、記者の目を通してあの日航機事故報道を鋭く斬ってみせる。あのような大事故のとき、報道とは何をなすべきなのか。何をすべきで、何をしてはならないのか。とてつもないテーマが、いろいろな人の思惑や行動を絡めて、胸に直接響いてくる。そういうハードな作りの中に、家族の話とか、友人の息子の話とかが挿入され、いい感じに緩急がつくから疲れない。そして主人公が最後に下した決断! これはすごい。これは読むべし。とにかく読むべし!
 読み終わったあと、何気なくテレビをつけたら、テレビで日航機事故の慰霊の集いのニュースが流れていた。作中に何度も日付が出ていたにもかかわらず、それで初めて「今日だったんだ!」と愕然とした。偶然というものは、ときとしてこういう恐ろしいことをやってくれる。  (04.8.12)
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三谷幸喜のありふれた日々3 大河な日々・三谷幸喜(朝日新聞社)

 「三谷幸喜のありふれた日々」「三谷幸喜のありふれた日々2 怒濤の厄年」に続く、新聞連載エッセイの単行本第3巻。
 今回は、フジテレビ系のドラマ「HR」と大河ドラマの裏話がメイン。どっちも見てたし、どっちも好きなドラマだから興味はあるのだけれど……毎度のことながら、出演者が有名人ばかりってことで、どうもイマイチはじけた感じが乏しいんだよなあ。もっといろいろ、関係者ならではの「へえ〜〜」という話や、話題は普通でもドラマ並に笑える見せ方をしてくれることを期待してるんだけど。まあ、勝手に期待する方が悪いのかもしれないけど。
 「三谷幸喜のありふれた日々2 怒濤の厄年」の最後の話題が、舞台「オケピ!」の主役交代劇で、交代したあとの舞台を(テレビで)見ていたものだから、急に主演をすることになった白井晃のこととかがもっと詳しく語られるのかと思ったら、それもほとんどなかったし。うーん、なんか消化不良。
 けれどそれも「三谷幸喜なんだから、もっといくらでも面白いことを書けるだろうに」と思ってるがゆえの贅沢な不満であって、これが他の人の書いたものだったら充分過ぎるほどなんだよね。戦国武将のフィギュアを集めるくだりなんて共感しちゃったし(騙される奥さんが可哀想。でも笑える)、「新選組!」は歴史考証のセンセイが毎回脚本を見てダメだししてるってのも「へえ」だし、その内容も「この時代《僕》という一人称は気取った言い方だから、沖田には似合わない」みたいな細かいところまで至るのには感心しちゃった。「新選組!」の主役にアイドルをもってきたことで受けたバッシングに対し、香取慎吾のためにきちんと主張するあたりは「なるほど」と思えたし、「オケピ!」の天海祐希の失敗談は目に浮かぶようだし。あれ? こうしてみると、なんだかんだ言いながらも、けっこう楽しんでるんじゃん。  (04.8.20)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

ワッキーの地名しりとり〜日本中を飛ばされ続ける男・脇田寧人(ぴあ)

 これはちょっと説明がいるかも。これは名古屋ローカルのCBC(TBS系列)で毎週土曜深夜に放送中の「ノブナガ」という番組の1コーナー「地名しりとり」が本になったもの。
 お笑い芸人のワッキーが、街で出会った普通の人々に、行った事のある地名でしりとりをお願いする。言われた地名がどんなに遠くても、電車とバスで即移動。飛行機は使ってはいけない。愛知・岐阜・三重の3県に行ければ終了。最初は名古屋の栄でキレイなお姉さんに「名古屋のや」でお願いしたら、すぐ近くの「矢場町」が出た。愛知クリア。「矢場(町)のば、あるいは、は」でしりとりしてもらったら、岐阜の羽島が出た。岐阜終了。あとは三重の地名さえ出たら終わり、簡単な企画だった──はずなのに。
 コーナー開始から3年。いまだに三重の地名が出ないのだ! うわははははは!
 この3年間、北海道から沖縄まで、いやいや、ホノルル(群馬の伊香保で「ほ」)やタイ(東京の神田で「だ」または「た」)まで出たというのに、なぜかいまだに三重が出ない。三重には伊勢とか鈴鹿とか志摩とか、有名観光地はたくさんあるのに、なぜ出ないんだ。三重県観光協会、もっとがんばれ。
 で、その3年の様子を綴ったのがこの本。ただねー、抜粋なんだよね。一応、ページ下部に省略された箇所もちゃんとぜんぶ書いてあるんだけど、エピソードは飛び飛びなのが実にもったいない。これ、正直いって、テレビの方が100倍面白いよ。テレビが見られない人でも、サイトをみればこれまでの履歴が過不足無く全部載ってるから、そっちでいいんじゃないかなあ。つか、そっちの方がいいんじゃないかなあ。
 でも、本にしかない魅力もある。まずは、観光ガイドになっているところ。テレビで見て、ワッキーが食べる食事が美味しそうでしょうがないんだけど、そういうのも紹介されてる。三重県の職員さんへのインタビュー(大笑い!)もある。何度も訪れた松山でしりあったおばちゃんとのふれあいが一度に読める。うん、本には本の魅力があるから、これはテレビ(あるいはサイト)とセットで楽しむのが良いかも。本だけでは、真の面白さは伝わらないよ。  (04.8.22)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

都会(まち)のトム&ソーヤ(2)・はやみねかおる(講談社YA! ENTERTAINMENT)

 「都会(まち)のトム&ソーヤ(1)」に続く、待望の第2弾。ああ、このシリーズはホントに、何の迷いも心配もなく自信を持って子どもに勧められるよ。姪や甥がこれを読めるトシになったとき、内容が古びてなければいいなあ。願わくは、文庫で出して欲しいところ。そしたらもっと安価になって、小中学生がお小遣いで買えるもの。
 さて、内容だ。財閥・竜王グループの跡取りで成績優秀、美男子、だけど毒舌家の創也と、一般庶民の子だけどなぜか実用的サバイバル知識に溢れている内人。ふたりは中学の同級生で、これまでも一緒にいろんな冒険をしてきた。その冒険とは、ゲームクリエイタを目指している創也が、謎のクリエイタ・栗井栄太を捜すためもの。今回も栗井栄太がらみで、新たな冒険が始まる。
 第1話では、あるデパートのCMで、ときどき別バージョンが流れることが発端となる、夜のデパートでの冒険。間に、本格ミステリっぽい音楽の時間の事件を扱った短編が入り、第2話ではついに栗井栄太との直接対決が描かれる。
 文章も軽妙で気がきいてて、読んでて実に楽しい。本格ミステリ的な伏線も「おおっ!」と膝を打つし、内人のサバイバル知識にはワクワクする。過不足ない、文句もない、ホントに楽しいシリーズよ。爽快で、痛快で、可愛くて、懐かしくて。
 意外と早く栗井栄太との対決が終わってしまったので「え、これで終わり?」とがっかりしたんだけど、あとがきを読むと、まだ続編があるってことで一安心。早く次が読みたいぜっ。
 個人的にツボだったのは(ものすごく些細なところなんだけど)、p138の「どうして音楽室にだけ音楽家の肖像画がかけられてるんだろう。美術室にピカソやダリの肖像画をかけたり、理科室にアインシュタインやホーキングの写真をかけたりしてもいいのにね」というくだり。そーだよなあ。ホントにそうだ。気付きそうなのに気付かなかったこういう視点って、面白いなあ。
 そうそう、今回、自分のバカさ加減にあきれたんだけど、創也ってトムソーヤのソーヤにかけてるって、ようやく気付いたよ!(遅!) ということは、トムが内藤内人ってことになるんだろけど──これは何にかかってるのかな? ちゃんと読めばわかる?  (04.8.26)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

熾火・東直己(角川春樹事務所)

 私立探偵の畝原が夜の路上で仕事をひとつ片づけたとき、いきなり彼の足に何かがしがみついた。見ると、まだ幼い女の子。しかしその風体は異様で、身体には虐待の痕が。救急車と警察に知らせ、病院に入れたものの、なぜか警察は真面目に動こうとしない。そんなとき、畝原のパートナーでありカウンセラーである明美が、その少女の保護にあたることになったのだが、そこで次の事件が──。
 探偵畝原シリーズ。このシリーズはエンターテインメントとして最高に面白く、過去のどの作品をとってみても文句なしに興奮したんだけど──今回はちょっと毛色が違う。いや、もちろん、とにかくストーリーテリングが魅力的な作家さんだから、読んでるときはもうドキドキしてページをめくる手が止まらなくなるのよ。ただ、今回はまず舞台設定として(あるいは物語の前提として)
「駆けてきた少女」とかなりの部分でリンクしてるのよね。要は「北海道警の腐食とマスコミとの癒着」っていう「駆けてきた少女」での出来事を踏まえて今回の物語があるもんだから、これだけ単独で読むと、どうも前提が複雑なのよ。あたしは「駆けてきた少女」は既読だったけれど、固有名詞とかは忘れていたから、途中まで読んで「あれ、この話何かで読んだぞ、あ、そうか、あれか。ああ、話、繋がってるのかあ」とやっとわかって、それでようやく舞台設定が飲み込めたくらいだもの。
 加えて──ここが一番気になったんだけど、どうも今回、「面白いエンターテインメント」を読んでるというより、「道警批判」を読んでる、という印象がぬぐえない。まず、「道警が悪い」というのが動かない事実として物語の中にあるわけ。道警は畝原たちの敵で、まるで悪の秘密組織さながらの動きをするのね。あたしは別に警察を擁護する気は全然ないし、道警の裏金問題も事実なんだろうけれど、「警察が裏でやってる悪いこと」というのが「真相」になってしまうと、そこには驚きもカタルシスもなく、読後感だけがやたらと悪いんだよなあ。敵が大きすぎて顔が見えない、というのも感情移入しにくいし。実際、この物語に於ける道警なら、畝原だって明美だって、もっといくらでも簡単に葬れると思うんだけど。実際にそれに近いことを(作中では)やってることになってるわけだし。
 他の作品とのリンク、そして繰り返される道警批判。この二つは──それ自体は悪いことじゃないし、小説という手法でなくちゃできない主張ではあるのだけれど、どうも読者が置いてきぼりになってしまう。それが気になった。ストーリー展開は相変わらずべらぼうに面白いだけに、残念だなあ。でもこのシリーズが面白いのは間違いないから、次作に期待。  (04.8.28)《この本の詳細情報&注文画面へ》  


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