ああ、これは良い短編集だなあ。
看守眼・横山秀夫(新潮社)
ノンシリーズの短編集。ある職業についている人物を描きながら、その人物の職業と私生活をうまくリンクさせて物語を作る、著者の得意技。
工作少年の日々・森博嗣(集英社)
『工事中よ、永遠に』というタイトルで小説すばるに連載されていたエッセイが、一冊にまとまったもの。著者の趣味である工作についてを中枢に据えて、身辺雑記、思い出話、小説の話などが綴られている。
メリーゴーランド・荻原浩(新潮社)
東京での勤めを辞め、郷里に戻って市役所の職員になった啓一。妻と2人の子どもに恵まれ、穏やかなスローライフを送っていたが、ある日、「アテネ村リニューアル推進室」への出向を命じられる。数年前に市が鳴り物入りで作った観光施設だったが、今はすっかり廃れて閑古鳥が鳴いている施設だ。そこをリニューアルしろというのだが、啓一は、アテネ村そのものより大きな難問にぶつかることになる。それは事なかれ主義と慣例に固執する「お役所体質」だった──。
ノンシリーズの短編を集めたもの。さすがにパズラーとしてのレベルはすごく高くて満足できるものばかりなんだけど、アンソロジーに収録されてたものが多いため、半分以上が既読だったよ(泣)。まあ、それはあたしの運が悪かったということなので、初読の人は幸せです。ベーシックな本格のようでいて、実はどれも高度にマニアックなところがまたいいんだよなあ。おまけに人物造形の巧さといったら。
身も心も〜伊集院大介のアドリブ・栗本薫(講談社)
ある日、天才的サックス奏者・矢代が伊集院大介のもとを訪れたのた。奇妙な脅迫状に悩まされているのだという。それはライブ当日に届き、特定の曲を演奏するなというものだった。しかしそれらの曲は、どうしても必要な曲だというわけでもなく、矢代にはさして痛痒のないものばかりで──。
テーブルの上のファーブル・クラフトエヴィング商會(筑摩書房)
ご存知、クラフトエヴィング商會の新刊。今回は、商會の2人が「どんな本にしようかな」と相談するところから既に本になっていくという、生中継ののような構成。でもって、その2人の会話がそのまま伏線(というよりも目次とか、内容紹介といった感じか)になってるんだな。
Q&A・恩田陸(集英社)
Q&Aだけで、つまり会話だけで全編構成された物語。「理由」みたいなものかしら、と思ったけど、読んでみたら全然違った。
例えば推理作家協会が毎年出している年鑑のアンソロジーだと、いろんな種類のミステリが楽しめて、その中でこれまで知らなかった作家やジャンルとの新たな出会いがあったりする。けれど場合によっては、「ひたすら本格に溺れたいのに、推協の年鑑だっていうから読んだら本格は3〜4本しかなかったわよッ」という人もいるよな。そういうタイプの人にはうってつけの一冊。みっちり本格だもの。それに言うまでもないけど、もちろん収録作のレベルも高いし。「まだ本にもなってないのに、ようこんなもん忘れんと持って来ましたな」ってのがキチンと入ってるし。
ザ・ベストミステリーズ2004・日本推理作家協会(講談社)
お馴染みの推理作家協会の年鑑。大半が単行本未収録で、バラエティに富んだレベルの高いミステリが揃っているので、毎年実に読み応えがある。「新たな出会い」には最適だよね。
日傘のお兄さん・豊島ミホ(集英社)
無理に分類すれば、若向きの恋愛小説集ということになるのだろうけど、読んでいて、なんだかスッと心に滲みてくる物語ばかりだ。キレイだけどキレイなだけじゃなくて、リアルなんだけどその描写はリリカルで、芯は強靱なんだけど、切なくて。これは、いいなあ。お勧め。特に女性にお勧めだ。
【バイバイラジオスター】就職活動がうまくいかずウンザリしていたチセ。ところがある日、ラジオから昔の恋人の声が聞こえてきて──。うわあ、ハガキを出そうかどうしようかという逡巡が、こんなに胸を打つドラマになるなんて。
【すこやかなのぞみ】今日のデートで、彼と結ばれる──そう信じて出かけてきたナツは、彼から意外な告白を受ける。「ごめん、俺、ダメなの。ダメな身体なんだ」──。短い物語だけど、これ、すごく好き。すごくきれいな恋愛。そしてすごくきれいなセックス
【あわになる】いきなり事故で死んでしまった私。幽霊になった私は、さまよっている内に偶然、昔好きだった同級生の結婚式を見つけてしまう。私はそのまま、彼の新婚家庭についていき──。後半の一気呵成な(でも静かな)展開は、何とも心に滲みる。
【日傘のお兄さん】幼い頃、家の裏庭でよく一緒に遊んでくれたお兄さん。皮膚が弱く、日傘を手放せなかったお兄さん。引っ越しで離れてしまったが、私が中学生になったある日、突然お兄さんが私の前に現れた。幼女を狙う「ロリコン日傘男」の噂とともに──。周囲はどれだけ心配しただろうと思うと、彼女たちの行為は決して認められないものだと思う。けれど、それがわかっていても尚、2人の世界に引き込まれて離れられない。甘い言葉もセックスもないけれど、これは極上の恋愛小説だ。
【猫のように】なりたいものは色々あったのに、結局何にもなれないまま40歳を迎えた男。彼は恋愛にも入れ込めないタチだったが──。このラストシーンはいいなあ。決してハッピーエンドではないのに、ハッピーな気分になれる。
(04.9.1)《この本の詳細情報&注文画面へ》
【看守眼】県警本部で機関誌編集を担当する悦子は、退職予定者の原稿が揃ってないのに気がついた。提出してないのは、F署で留置場の看守を勤めてきた近藤だ。自宅まで督促に行った悦子は、刑事志望だった近藤が一人で未解決事件を追っていることを知った──。イチオシ。普通はこういう話って、本職の刑事が迷宮入りさせた事件を、他の部署の素人が解けるわけないだろうと思って興ざめするんだけど、そこが「看守眼」なのだ。巧い。えもいわれぬ迫力がある。
【自伝】ある金持ちの自伝を書くことになったライター。ところが彼の半生を聞きとっている最中、いきなり「人を殺したことがある」と言われ──。ラストの、一瞬にして足もとが崩れるような展開が魅力。
【口癖】家庭裁判所で離婚の調停委員をつとめるゆき江。ところがある日、調停に訪れた女性に、ゆき江は見覚えがあった──。うわあ、怖いなあ、これ。怖いという点では本書随一かも。
【午前五時の侵入者】M県警のホームページがクラッカーに襲われた。サイバーテロ? 真っ黒な画面には、赤い文字でフランス語が書かれており──。犯人がわかる過程は本格ミステリぽさがあるけれど、それ以前に「こいつしかいないじゃん」と分かるのが残念。
【静かな家】新聞社で整理部の仕事をしている高梨は、手痛いミスをおかした。昨日で終わっている写真展の記事を「今日まで」として載せてしまったのだ。慌ててギャラリーへ向かったが、事態は殺人事件へと発展する。これ、キレイだなあ。この中では本格度ナンバーワンかも。よくある手で、すれた読者ならすぐに分かるようなトリックなんだけど、話の運び方が巧いんだな。
【秘書課の男】知事の側近として信頼を得ていた倉内だったが、ここ数日、知事の態度がいやに素っ気ない。何か信頼を損ねるようなことをしただろうか──。真相は確かに意外で、且つ切ないものだったけれど、それより、自殺した社長の奥さんの話が胸に迫った。
(04.9.2)《この本の詳細情報&注文画面へ》
常々言ってることだけども、あたしは、こと森作品に関しては、こういうエッセイ(日記とかね)の方が、小説作品の数百倍好きなんだな。小説のトリックだとかキャラだとかが持ってる魅力より(それらに魅力がないって言ってんじゃないのよ)、森博嗣という書き手が持ってる文体、文章、語彙、表現、そういったものにより大きい魅力を感じるわけだ。特にこの展開というか、飛び方というか、ヒネリ方がなんとも、ツボに入るとじわじわ効いて来るんだよなあ。エッセイに書かれていることそのものに対しては、共感する箇所もあれは、しない箇所もある(当たり前だ)けれど、賛同できようができまいが、そのプレゼンの仕方が好みのツボをピンポイント攻撃なのだ。
「ハ・ド・メェ!」とか「好きこそもののジョーズなれ」とかでくすくす笑ったり、「本山のマキ」だの「天才博士」だのに「ローカルだなあ」とのけぞったり、古いポンプで排水溝のつまりをどうにかしようとするくだりを日本政府の経済政策に照らし合わせてるところでニヤニヤしたり、「自作するための工具については準備万端、何でも来いの状態が整っている。喩えるならば、開幕まえの中日ドラゴンズの投手陣のようなものだ」で嬉しくなったり。中でも奥様関連の記述は秀逸。
と書くと、文章だの表現だのだけに魅力を感じてるように思われるかもしれないが(それも間違いじゃないけどな)、そもそも全然興味を持ってない「工作」についてのエッセイを、その文章の魅力で読まされてしまう、というのはすごいことだと思うんだよね、やっぱり。文章ってのは、物事を正確に伝達するための道具なわけよ。そして本書では、工作に於ける道具の重要性が何度も説かれる。つまるところ、やはり著者は「道具の選び方・使い方」に長けているということなのだ。
(04.9.3)《この本の詳細情報&注文画面へ》
うわはははは。すっごくデフォルメされて、これでもかというくらいマンガチックに書かれているであろうことは明白なのに、それでもリアリティを感じてしまうってのがすごいなあ。「こうすれば入場者が増える」と説明してるのに「入場者が増えては、今までのやり方が間違っていたことになってしまうから、まずい」と真剣に語る上層部。コンピュータも使わず前時代の作業を行っているにも関わらず、相場の倍の金額をとってる「昔からの出入りの業者」。新しいことを始めようとすると、きまって出てくる「前例がない」。笑えるんだが、あまりに「ありそう」でかえって笑えないところもあるくらいよ。
そんな啓一にも味方はいて、演劇青年だった時代の先輩だとか、同じ部署の若い子2人とか、馴染みの大工の息子とその一派とか、極めて個性的な面々が、「古い慣習」と戦いながら、アテネ村の再起をめざす奮戦記。
タイトルはメリーゴーランドなんだけど、物語はむしろゆるめのジェットコースターかも。というのは、上がり下がりの落差が激しいのだ。うまくいった! ダメだった。成功した! 裏目に出た。読んでて、歓声をあげたと思うと「えええっ」とショックを受けたり、かと思えばすぐさまガッツポーズをしたりという、めまぐるしさ。だからこそ、飽きる暇もなくぐいぐい引っ張って行かれるのだ。おまけにラストでは、ちょっと切なくさせたりして。うーん、テクニシャンだなあ。
そんな構成なので、ホントに最後まで予断を許さない。ハッピーエンドなのかそうでないのかは読んで貰うとして──個人的な好みでいえば、もちっとスコーンとカタルシスを感じられる結末なら良かったなあ。ちょっと消化不良のまま残った部分が大きい。ラストシーンがとってもステキだっただけに、できることならスッキリしたかったんだけどな。
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Pazzler・西澤保彦(集英社)
【蓮華の花】「新世紀『謎』倶楽部」所収。昔の同級生をなぜか死んだと思いこんでいた理由とは。とても視覚的で、且つ、ラストでは蓮華の香りにむせるような気分にすらさせられる。嫌なオトナの造形が巧いなあ。
【卵が割れた後で】アメリカのカレッジが舞台。殺されていた日本人留学生の腕にはなぜか潰れた卵が──。この作品って、キャラも文章もホントに翻訳モノのそれなんだよね。留学経験があるというだけじゃあ、ここまでは書けないよなあ。文才ってやつか。
【時計じかけの小鳥】「名探偵はここにいる」所収。書店で買った本が古本だった。そのうえ、その本にはなぜか見覚えのあるサインが──。著者お得意の机上の空論パターンだけど、出てくる絵のすごさに圧倒。
【贋作「退職刑事」】「贋作館事件」所収。都築道夫の退職刑事シリーズの模倣なんだけど、これが巧いっ。文体模写という点ではもちっと読点が多くてもいいかと思ったけど、それでも細かいところまで気を遣って真似てるのがよくわかる。文のみならず作風までズバリだよ。
【チープ・トリック】「密室殺人大百科・下」所収。舞台はアメリカ。歌姫の異名を持つナンシーを強姦しようとした犯人たちが次々と不可解な死を遂げて──。
【アリバイ・ジ・アンビバレンス】「殺意の時間割」所収。夫婦喧嘩から逃げ出して車の中にいた僕は、たまたま同級生の姿を見かけてしまう。ところがその時刻に起こった殺人事件で、その同級生が疑われ──。この真相はすごい。動機を探る物語はやっぱ面白いや。
(04.9.15)《この本の詳細情報&注文画面へ》
依頼者が39歳の男性、というだけで、ちょっと安心した。だって、ここんとこの伊集院大介シリーズって、「ややもするとあっちの世界に行ったまま帰ってこないような」「はかなげで、どこかこの世のものではないような」「かぼそい美少年」が、20歳になっても「ボクだって、男の子だから」なんてホザくような優柔不断のイジイジ野郎ばかりで、読んでてイライラすることが多かったのだ。39歳ならさすがにそれはなかろう──と思っていたら! うわあ、39歳でもやっぱり「お姫様」キャラだったよ! もう、どうしてくれよう。
その上(これもいつものことだけど)その道では大天才で、彼をあがめる人も多く、周囲が何から何まで彼を庇護している状況。本人もそれを間違っているとは考えず、かといって周囲に感謝するでなく、ただひたすら自分の内へ内へと潜っていくのさ。きいっ。ラストシーンなんか怒髪天を突いたね。この状況で、この状況で、なんなんだその態度はーーーっ! ぜえぜえ。だがしかし。あの状況で(どういう状況かは本を読んでくれ)周囲も彼の態度を当然と思い、それを是としている。つまり、全うに考えれば人道にもとるようなことをしているのに、それを喜んで周囲が許してしまう、それこそ「天才」の証なのだろう。そういう意味では、このラストのエピソードは、天才とその周囲の関係というものが浮き彫りになる、ちょっと良いシーンでもあるわけだ。
とまあ、矢代のキャラにばかりぴりぴりしてたんだけど、この脅迫状に隠された真相ってのには「おおっ!」と膝を打つくらい美しかったし、ミステリ部分はさすがに伊集院大介シリーズなのだった。アトム君もどんどん助手として成長してるし、そういう部分は読んでてすごく楽しいのよ。ああ、次回こそは、もう少し外向的・社交的なキャラを依頼者にしてくれえ。……と、毎回思っているのであった。
(04.9.12)《この本の詳細情報&注文画面へ》
これまでの本に比べると、「こういうテーマの本です」というのがすごく言いづらい。雑誌みたいで、アンソロジーみたいで、エッセイ集という雰囲気もあれば絵本という面もちもあって、なんかね、いろんなものがごちゃ混ぜに入ってるんだけど、でも全部でひとつの作品、というイメージかな。「これ、いいっ!」と絶叫するような類のものではないんだけど、クラフトエヴィング商會の世界が好きな人には、この浮遊感に満ちた和みの世界はタマラナイよ。薄いけど、読み応えはあるし、とにかくこの世界は絶品。
それに、他の作品とのリンクもちょこちょこあったりして、それがファンにはたまらないんだなあ。「Bolero」に出てきた屋上のレコード店、「フィンガーボウルの話のつづき」に出てきたゴンベン先生、「a piece of cake」に出てきたゆっくり犬や「猫の図書館」。「ないもの、あります」の新作も入ってる(きゃあ!)。挙げ句の果てには、もっとダイレクトに「針がとぶ」の告知もあれば、「クラウド・コレクター〜雲をつかむようなはなし」と「すぐそこの遠い場所」の文庫の広告まである。ところがこの広告、他の架空の広告に混じってるから、ともすれば見逃しそうになるし! そうそう、その架空の広告の中には、こっそり「どこかにいってしまったものたち」の商品も混じってたり。うわあ、楽しいっ。傑作なのは「猫の図書館」の3ページ。最後の1ページを見たときは、思わず笑っちまったい。
これはクラフトエヴィング商會第2期の最初を飾る本なのだそうだ。うーん、これからどういう方向に行くのかな。またまた目が離せないよ。
ところで、あたしはなぜかクラフトエヴィング商會の本を読むと、やけに部屋の掃除がしたくなったり、模様替えがしたくなったりする。不思議なんだけど、いつもなんだよね。「汚れたものを全部出して、この本みたいに、自然体でゆっくり和みたい」って思っちゃうのかな。でも、そんなネガティブな感情じゃなくて、掃除自体を楽しみに思っちゃうの。この本が持ってる透明感や「白い感じ」に触発されるのかな。さ、掃除しようっと♪
(04.9.14)《この本の詳細情報&注文画面へ》
郊外型ショッピングセンターMで、多数の死傷者を出した事件。パニックになった人たちが一斉に逃げ出そうとしため、圧死や墜死が相次いだのである。最初は火災だと報じられたが、実際には火の手はなく、何が原因であれほどのパニックが起こったのか原因はわからない。この物語は、その原因を調査している(と思われる)人物が、実際に事件を体験した人々に話を聞くという構成で始まっている。
最初は、このインタビューの中に「なぜパニックが起こったか」の理由をつきとめる伏線が仕込まれてるんだわ、と思って読んでいたのだけれど。何章めからかなあ、それぞれが独立した物語として成立するようになるのだ。Mでのパニック事件という共通項を持った連作みたいな感じね。被害者たちのために癒しの場を作っている主婦の章や、家庭を失うことに恐怖を覚えている消防士の章などは、それだけでもう、ゾクリとするような完成度の高い短編になってる。タクシー運転手の章なんてアンタ、夜中に一人で読んでたから、もう怖くって怖くって。このあたり、さすがの筆力だなあ。
もうね、話が進めば進むほど、怖いのさ。自分がここにいたら、と思うと、もうそれだけで心拍上がっちゃう。パニック小説というのはたくさんあるけれど、「パニックの状態をあとで振り返りつつ、それ意外の当人の問題を描く」という形式で、それでここまでパニックの怖さを伝えてくるんだから並大抵じゃない。
ただ、これはまぁ完全に好みの問題になるのだけれど──ミステリ者としては、やはり「解決」が欲しいわけで、それも各章が最後になってばららっと繋がるみたいな快感を期待していたわけだ。そういう意味では、カタルシスに欠ける。無論、著者がそれをわかっていない筈はなく、このような終わり方にしたのには理由があってのことなのだろうけれど(それに一応、真相とおぼしき説明はあるし)、最初に思い切り大きな「謎」が提示されるだけに、当然それを解く方向に話が進むんだろうと思いこんで読んでいたら、肩すかしをくらってしまう。まあ、初手から、これが謎解きミステリだなんて言ってないんだから、勝手に勘違いした自分が悪いんですが。
(04.9.10)《この本の詳細情報&注文画面へ》
本格ミステリ04・本格ミステリ作家倶楽部(講談社ノベルス)
【眼前の密室】横山秀夫:「臨場」所収。短編の名手ではあるけれど、ここまで真正面から本格ってのも珍しい。新聞記者が玄関を張り込んでいた家で起こった殺人事件。しかし、この記者のサポートをする上司の奥さんがいいなあ。このシリーズは読まなくちゃだわ。
【Y駅発深夜バス】青木知己:しょーもない商談につき合わされ終電を逃した男は、妻から聞いた深夜バスを使うことを思い立つ──。おお、これは巧い! 2部構成になってる作り方も巧みだし、「なるほど」と思える快感がある。
【廃墟と青空】鳥飼否宇:衆目監視のステージで起こった殺人と人間消失。読んでる間はちょっとクドかったんだけど、ラストには瞠目。
【盗まれた手紙】法月綸太郎:鍵のかかる状箱に入れた手紙はなぜ読まれたか?──ネタそのものは、単なるクイズ。それを短編にしたてる手腕はさすがだけど、前時代のアメリカを舞台にする効果はどこにあるんだ?
【78回転の密室】芦辺拓:人気漫才コンビをめぐる殺人事件。この中枢となるネタには「おおっ!」と思ったけれど、殺人の実効性そのものにチト無理がないか?
【顔のない敵】石持浅海:地雷撤去のボランティアが働くカンボジアの農村で起こった事件。ああ、「本格推理」で以前に地雷モノを読んで感心した記憶がある。そうか、この著者だったのか。
【イエローロード】柄刀一:死体の手に握りしめられていた硬貨の意味は?「OZの迷宮」所収。
【霧ヶ峰涼の屈辱】東川篤哉:放課後の学校で起こった人間消失事件。あははははっ、これ好きっ。この著者の長編はデビュー作を読んで「キャラクタやギャグの指向が好みと合わないな」と感じ、それきり読んでないんだけど、これを読んでちょっと考えが変わった。これは面白いや。もう一度、他の作品を読んでみようと思わされた。アンソロジーってこういう効果があるから侮れない。
【筆合戦】高橋克彦:ああ、これ、大好き。こういう著者の、こういう作品をちゃんと拾うというだけで、このアンソロジー選者を信用するよ。なんて緻密な、なんて巧緻な!
【憑代忌】北森鴻:連城那智シリーズ。今回は助手の三國クン御難の巻──って、いつもじゃん。
【走る目覚まし時計の問題】松尾由美:「隅のおばあちゃんの事件簿」シリーズ第2作。幽霊が謎を解くって設定もさることながら、何より日常の謎の「謎を解いたあとの暖かさ」がいい。早く本にならないかなあ。
この他、評論として波多野健【推理小説はクリスティに始まり、後期クイーン・ボルヘス・エーコ・オースターをどう読むかまで】を収録。
(04.9.16)《この本の詳細情報&注文画面へ》
【死神の精度】伊坂幸太郎:推理作家協会賞短編賞受賞作だっけ? 死が予定されている人を本当に死なせて良いか判断する天使(?)の物語。ただ、伏線がちょっとあからさま過ぎない?
【死者恋】朱川湊人:「都市伝説セピア」所収。
【胡鬼板心中】小川勝己:「ぼくらはみんな閉じている」所収。
【Y駅発深夜バス】青木知己:「本格ミステリ04」所収。
【とむらい鉄道】小貫風樹:赤字路線ばかり狙って爆弾テロを起こしている犯人を追って、探偵がある村にやってきた──。あ、これ、とても端正な本格だわ。スマートな論理と、後味の悪い結末のバランスの妙がなんとも。
【思い出した…】畠中恵:殺された私が幽霊になって、その後の顛末を語るという構成、これ、いい! 文章が読みやすいからすっと入り込めるし、仕掛けも巧いし(笑っちゃった)。
【盗まれた手紙】法月綸太郎:「本格ミステリ04」所収。
【欠けた古茶碗】逢坂剛:お茶の水署生活安全課シリーズ。テンポ良く読めるんだけど、実は結構トリッキー。
【蕩尽に関する一考察】有栖川有栖:古本屋の主人はなぜいきなり金を捨てるような生活を始めたのか? わぁい、学生アリスだあ! マリアとメンバーの出会いの章。
【ヒーラー】篠田節子:わ、なんだこれ。不思議な生物フキナガシの物語。妖艶で凄絶なホラーなんだけど、なんだか星新一のショートショートを思い出しちゃった。
【転居先不明】歌野晶午:「家守」所収。
【絵の中で溺れた男】柄刀一:「OZの迷宮」所収。
【ラストドロー】石田衣良:「LAST」所収。
【偶然】折原一:オレオレ詐欺を仕掛けた男。うまくいったように思えたが──。うわあ、トリッキーだなぁ。すごく緻密で、こういうの大好きっ。
【神国崩壊】獅子宮敏彦:古代中国がモデルの架空世界で起こった不可能事件。うわあ、なんとも世界を作るのが巧い人だなあ。ただ、描写の方に気をとられて、物語に入り込むのに手間取っちゃった。
【瑠璃の契】北森鴻:陶子シリーズ。安心して読める。おまけに切ないし。せっかく「ビアバー」が出てきたんだから、そっちともからめて欲しかったな。
【妹のいた部屋】井上夢人:霊能者・能代あや子シリーズ。こんなシリーズを書いてたなんて知らなかった。痛快。
【時うどん】田中啓文:うわぁ、これ……ぐはぁ、こっちを先に読めばよかったよお。なんて間の悪い。しくしく。でも、うどんが不味くなるあたりの小ネタは鮮やかで大好き。このシリーズ、早く本にならないかな。
【第四の殺意】横山秀夫:F署シリーズ。巧い。ホントに巧い、つか、このシリーズはホントに面白い。このシリーズ、1冊目の「第三の時効」もどえりゃあ面白かったし、早く2冊目が出ないかなあ。
【走る目覚まし時計の問題】松尾由美:「本格ミステリ04」所収。
(04.9.17)《この本の詳細情報&注文画面へ》
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