焔・堂場瞬一(実業之日本社)
東京スターズの看板打者・沢崎は、今シーズンでFA権を取得するのを見据え、大リーグ行きを画策していた。もちろん今はまだ秘密だ。彼のエージェントを買って出た旧友の藍川は、より高く大リーグに売り込むため、タイトルをとっておいた方がいいという。打率トップを走る沢崎は、打点王・ホームラン王すらも狙える位置にいた。三冠王がとれれば文句なし。しかし、最大のライバルは同じチームの4番打者・神宮寺だ。そんな時、神宮寺の女性問題が週刊誌に載って──。
警察組織が事件現場に乗り込み初動捜査にあたることを「臨場」という。そこで力を発揮するのは、検視官だ。死体とその周囲の状況から自他殺を判断する。これは、周囲から「倉石学校の校長」と呼ばれるほど信頼された変わり者の検視官・倉石を探偵役に据えた、本格色の強い連作警察小説集。
風の歌、星の口笛・村崎友(角川書店)
3つの物語が平行して語られる。機構からオモチャまですべてが完全制御されているとおぼしき街に住む私立探偵トッドの物語。植民星プシュケの探査に赴いた2人の科学者が、既に廃墟と化したプシュケを目の当たりにする物語。そして、交通事故で入院していた青年が退院後、記憶の齟齬を覚えるという物語。一見、関係なさそうな(でも関係ないわけないよなあ?)3つの物語が、最後に意外な(でもないか)ところに終結する。
みんな誰かを殺したい・射逆裕二(角川書店)
奥多摩の峠道で起こった殺人事件。目撃者は2人いた。一人は木陰から殺人の瞬間を目撃し、もう一人は逃げる犯人の車とすれ違ったのだ。2人の目撃者を得て、事件はすぐに解決するかに見えたが──。
バイトを辞め、プーな生活をおくっていた尾島健太は、今日も一人でサーフィンに出かけた。ところが大波に飲まれ、目を覚ますと、そこは1944年の世界だった。一方、1944年に空軍の訓練で霞ヶ浦を飛び立った石庭吾一は、誤って海に墜落してしまう。そして彼が目覚めたのは2001年の世界だった。健太と吾一は見た目が瓜二つだったため、入れ替わったまま生活を始めることになってしまい──。
陽だまりの迷宮・青井夏海(ハルキ文庫)
2男9女11人きょうだいの末っ子の生夫は小学3年生。病弱なので学校も休みがち。そんな生夫が出逢った不思議な出来事を、大学生の下宿人・ヨモギさんと共に解いていく連作短編集。
江戸で広目屋(瓦版屋兼広告代理店のような仕事)をやっている藤由に居候する元武士の香冶完四郎と、まだ売れない戯作者だった頃の仮名垣魯文が難事件に挑むという連作短編集のシリーズ3作目。
パンドラの火花・黒武洋(新潮社)
西暦2040年。死刑囚の横尾は、ある朝、呼び出しを受ける。遂に執行の日が来た──。ところが彼を待っていたのは意外な言葉。過去へのタイムトラベルが可能となったこの時代、自らが事件を起こす前に飛んで、過去の自分を説得しろというのだ。説得に成功し、当時の自分が事件を起こさなければ今の自分は「ありえたはずの未来」を手に入れることができる。しかし説得虚しく事件が起これば、そのまま死刑が執行される。横尾は、監視官である「十七番」と呼ばれる男とともに、35年前──2005年へと飛んだ……。
中国を舞台にした連作ミステリー。すっぽんの化身である徐先生と、その教え子の趙昭之が狂言回しとなり、起こったさまざまな事件が語られる。なんつーか、一言でいうなら「上質」なんだよねえ。最初は中国の人名になかなか慣れないんだけど、次第にすっと入ってくるようになる。それ以降はもう、一気呵成。すっぽんの変化だの予言だの化け物だのというファンタジックな要素がふんだんに盛り込まれつつも、謎解きはロジカルで、ストーリー展開はテクニカルで、だけど物語全体をつつむ風合いはミステリアスでファンタジック。世界を作るのが抜群に巧いってことだよな。
アルファベット・パズラーズ・大山誠一郎(東京創元社)
東京・三鷹市にあるマンションAHM。その最上階には、オーナーの峰原が住んでいる。峰原のもとには精神科医の理絵、翻訳家の明世、そして刑事の後藤が集うのが常だった。彼らは紅茶を飲みながら、後藤が担当した事件や耳に入った謎について語り合う──。
いかに選手を高く大リーグに売りつけるか。藍川の書いたシナリオは完璧に思える。けれどそうはいかないのがスポーツであり、人間なんだよなあ。最初はかなり汲々とし、ケツの穴の小さい人間に見えた沢崎が、試合を重ね、神宮寺とつき合ううちに、次第に変わってくる。その様が実にリアルで、変化のきっかけもわかりやすくて、実に人間的だ。時に彼女との喧嘩のくだりなんて、自分の何が悪いかわかってないあたりがもうサイコーよ。
何がいいって、この神宮寺! 野球漫画にそのまんま出てきそうな、豪放磊落でサムライな筋肉バカ(←褒めてます)がもう、素敵で素敵で。ちょっと新庄がダブったんだけど、新庄を3倍くらい豪放にした感じかな? 「腕が折れてもこの一打に!」って、あははははは!<いや、笑うところじゃなかろう。
最終戦、自分のタイトルかそれともチームの優勝かというところで、ヘンに目覚めてしまった沢崎の奇跡的な活躍を「感動の奇跡」ととらえるか、「なんか一気にリアリティなくなって興ざめ」ととらえるかで、評価が分かれるかもしれないな。あたしは個人的には、こういうこともあり得るという設定がちゃんとしていたので(相手ピッチャーの件とかね)さほど興ざめはしなかったけど、それでも「できすぎ」の感はあった。まあ、小さな部分で、それほど大きな瑕疵じゃない。
それよりは、このスポーツバカたちと対をなすように描かれる藍川の方が、ちょっと気になったなあ。選手を商品ととらえ、高く売ろうとする彼の作戦は確かにサスペンスフルなんだけど、スポーツバカとの絡め方がなんだかアンバランス。「これも藍川の仕業だったのか!」と読者(と沢崎)を驚かす方法はいくらでもあったのに、どんどん読者に手の内明かすんだもの。《真相》として最後にどかーんと来た方が……いや、それも好きずきか。うーむ、これは本格ミステリ好きの悪い癖かもしれんなあ。
(04.10.21)《この本の詳細情報&注文画面へ》
臨場・横山秀夫(光文社)
倉石が現場を見る「眼」は、そりゃもうスリリングで「あっ」と言わされるものばかり。短編なのに視点を変えることでワンパターンにもならず、ガチガチの本格もあれば、ヒューマンな感動モノもある。そしてどれも、その底辺にあるのは、「わ、こんな小さな手がかりが、そんな真相に結びつくのか!」というベーシックでピュアな驚き。文章は硬質にして肉厚で、それこそ「臨場感」に充ち満ちている。うん、これはお勧め。今年を代表する連作短編集だよ。
【赤い名刺】倉石の下で働いている一ノ瀬は、事件の一報を聞いて驚いた。縊死したという女性は、過去に自分と関係のあった人物だったのだ──。すっごく小さな伏線が、思いもかけない決め手になる快感。
【眼前の密室】新聞記者がずっと見張っていた筈の官舎で起こった殺人。常に眼があったはずの家屋が、なぜ密室になり得たのか? この伏線のさりげなさといったら! 文章が巧いというのはこういうことか。
【鉢植えの女】2件の事件が続けざまに語られるが、後者の謎がめちゃくちゃ好み! 自殺か他殺か判定する手法も見事だけど、現場に遺された川柳の読み解きなんて、ある意味「ダイイングメッセージ」のベスト版じゃなかろか。
【餞】定年を迎える小松崎には、ずっと気にかかっていることがあった。13年間、ずっと送られてきた無記名の年賀状と暑中見舞い。過去にかかわった事件の関係者か? この真相には感動。前向きで、強靱なメッセージ。
【声】短大生の梨緒は、講演を聴いて感動したカウンセラーに、その講演のレポートを送った。するとその返事が来て……。うわあ、哀しいけどなんて後味の悪い……。
【真夜中の調書】事件は解決した。誰もがそう思ったとき倉石が異を唱えた。「DNAを調べろ」──そのDNAが決め手になって解決したはずなのに、どうして? 謎解きの妙味のみならず、そこから先がいい。
【黒星】失敗ゼロだった倉石が初めて喫した「黒星」とは──。倉石の人間らしい一面の出た作品。
【十七年蝉】倉石の下に配属されたのは、なぜか不良上がりの巡査部長だった──。この理論には無理を感じるが、読んでるうちに説得されるからすごい。それがキャラ造形であり筆力ってことか。
(04.10.22)《この本の詳細情報&注文画面へ》
何の先入観も持たずに読めば、これはミステリではなくSFの範疇に入る作品だと思う。確かに謎や仕掛けはあるんだけど、この手の仕掛けはミステリの専売特許ではなく、それこそSFでもファンタジーでも見慣れた仕掛けだものね。いや、むしろ、SF作品ではこの手の仕掛けやこの手の「真相」はけっこう定番なんじゃないかしら。
でもって、この作品がなぜミステリとして横溝正史賞をとったかというと──やっぱこの密室殺人の存在なのかなあ。でも、でもさ、この真相って……あたしゃ思わず本に向かって「はあ?」と声を出してしまったのですが……。選評で綾辻行人氏が「つっこみどころ満載」と書いてるけど、まったくその通り。いや、つっこんで済むレベルなのかという気も……。あのね、これって、単にあたしの頭が固くて最近のミステリの時流についていけないだけかもしれないんだけど、えっと、いわゆる「バカミス」ではないの? 違うの? ひーん。
確かに、舞台設定を考えればあり得ないことじゃないのかもしれないけど、建物の基礎工事がどうなってるのかも謎だし(え、細かい?)、それに「動機」も納得いかないし(だって自分で納得して決めたことじゃん!)、うん、まさにつっこみどころ満載。でも受賞作。うーん、あたしって「読み手」としては、ひょっとしてもう感性が古すぎるのかしら(どきどき)。
(04.10.22)《この本の詳細情報&注文画面へ》
なんとも複雑な構成をとっているので、あらすじが書きにくい。なんせ1章は時系列が逆になってるんだもの。上に書いたのも、話のとっかかりだけであって、もっといろんなことが盛り込まれてるんだけどね。事件も複数起きるし。まあ、それは本編を読んで戴くとして。
凝った構成はそれなりに効果があったと思うし、個々の事件の描写もディーテイルまできっちり書き込まれていて、人物もコマという感じがしないだけの深みと魅力を備えているので、読んでる最中はとてもワクワクできる。引っ張る力があるというか。また、個々の事件そのものも実に考えられてて、展開がサスペンスフルなので「どうなるんだろう、どうなるんだろう」という思いでページをめくれるんだよね。これは大きい。
ただ、読み終わってみれば──なんつーか、小粒な事件の寄せ集めというイメージなんだよなあ。ひとつひとつの事件や、それに関わる多くの人々の心情や背景ってのはとても面白いし、感動すらしちゃうんだけど、物語全体を盛り上げるうねりみたいなものが薄いのね。だから読んでる最中は面白くても読み終わってみれば印象が薄い。とても印象的なエピソードもあるのに(宮寺さんのくだりなんて、いいよねえ)、今ひとつ有機的に結びついてない感じがして、もやもや。
でも、その「もやもや」は、タイトルを見て解消された気もするのよね。「みんな誰かを殺したい」──それこそが、この小説なんだよな。出てくる人みんなに殺したい人がいる、そんな小説。それが一部で交差したり、交差したと思ったらほどけたり。それこそが書きたかったことなら、これで必要充分とも言える。「もっと全部が最後まで結びついてくれればいいのに」と思うのは、読み手の単なる好みの問題なのかも。
あ、そうだ、最後に明かされるある事実にはマジで「ええっ!」と驚いた。これが最大のサプライズだったな。でも、フェアとは言いにくいんだけどなあ──フェアかしら? いや、それより何より、物理的に可能なのかな。そんなの、警察の捜査で痕跡が見逃されるわけがないと思うんだけどなあ……。
(04.10.23)《この本の詳細情報&注文画面へ》
僕たちの戦争・荻原浩(双葉社)
ああ、いいっ! これはいいっ! 昭和19年に放り出された平成の若者と、戦時中の空軍からいきなり21世紀に飛ばされた昭和の若者。その視点が交互に綴られる。これは当人にとってはとんでもない災難で、特に戦時中に送り込まれてしまった健太なんて、想像するだにどれだけ悲惨かと心配になるんだけど、健太がめちゃくちゃ楽天的(というより脳天気)なポジティブ指向少年だったせいで、悲壮感が半減される。これがいい。
一方、平和な文明社会にこれてよかったじゃんと読者が思ってしまう吾一の方が、「こんな未来の日本のために俺の仲間は死んだのか」とショックを受けるのだ。このショックのあり方は、現代にいきる読者としてはドキっとするところ。そんな風に、悲壮感のバランスがうまくとれているので、読者も2人と同じペースで新しい世界に順応していけるのだ。読者を必要以上にヘコませず、魅力的なエピソードでつないでくれるあたり、よく考えられてるなあ。
健太の母親に何が食べたいかと言われ、吾一が紙に「金平牛蒡」と書いたら読めなかった。字も読めぬ無学な女だったとは、と母親を哀れむ吾一に大笑いしたり、健太が恋人の祖母にあたる人に出会い「この人とやっちゃったら、どんな恐ろしい事態になるか」と焦るシーンでニヤニヤしたり。そんなエピソードの中に、時折、死と隣り合わせにある昭和19年の若者の姿が浮かび上がって胸が詰まる。時折だからこそ、心に刺さる。脳天気な健太が、脳天気な中にも現実と折り合いをつけていく様が、たくましくも哀しい。そして、平和なはずの21世紀で、「昭和に帰りたい」と思う吾一もまた、あの戦争の呪縛から離れられないでいる。たとえ死が隣にあっても、親がいて仲間がいて好きな人がいる時代こそが自分の時代。だからこそ、僕「たち」の戦争なのだ。
そして、この、ラストは。ぎゃーっ、なんでこんな終わり方なんだよお! そこは読者に委ねられるということなのか。でもさ、ミナミが最後につぶやくある事実に関わってるのは、健太ではなく吾一なわけで、でもってもしも健太が帰ってきたらそれって……きゃーっ。ああもう、どうすれば八方丸く幸せになれるのかわからないよっ。そうやって頭をかきむしってしまうくらい、登場人物みんなに幸せになって欲しい。そう思わせてくれる物語なのだ。これはお勧め。
(04.10.23)《この本の詳細情報&注文画面へ》
日常の謎にしてけっこう厳しく辛いエピソードが入ってるんだけど、それでもなんだか全体にほのぼのしてしまうのは、そういう風に描いている筆者の個性であり作戦でもあるんだろうなあ。ただ、そのせいで、「ぬるさ」を感じてしまったのもまた事実。「陽だまり」というタイトルが正鵠を射てるってくらい、良くも悪くも「ゆるくてぬるい」感じ。あたしがスレて汚れてるだけですかそうですか。ぐすん。
あと、こういう小学生が主人公の場合、「その発想もその語彙も小学生のものじゃなかろう」てのが往々にしてある。前提条件が納得できない、てのは読んでいく上でけっこう苦痛なんだけど、これは大人になった主人公が小学校時代を回想してるという設定なので、そのあたりの不自然さがクリアされてるのも大きい。ま、小学生にしては妙なところに引っかかり過ぎではという気がしないでもないが、そういう子どもだったということで充分許容範囲。
ただ、せっかくの11人きょうだいという設定なのに、個性を持って前面に出てくるのはせいぜいその半分なんだよね。この並はずれた大家族ならではの雰囲気だとか、意味だとか効果だとかってものが、今ひとつ薄い。そこらがもっと出ていれば、ラストのサプライズはもっと驚けた(いや充分驚いたんだけど)んじゃないかしら。
【黄色い鞄と青いヒトデ】病気で学校を休んでいた生夫のもとに、近所の兄弟がやってきた。生夫の家の前で弟が自転車の衝突事故を起こし、そのときに大事な鉄道模型がなくなったというのだ。その事故を生夫の姉が二階から見ていた、というのだが、それは双子の姉だったのでどちらなのか兄弟には分からない。ところが双子のどっちに訊いても「見ていない」と言い……。あははは、プチ鉄道マニアの兄の造形がイカニモで笑える。
【届かない声】最近、怪しい無言電話がかかってくるようになった。もしかして、結婚して家を出ている姉の麻弥夫婦のトラブルと関係があるのだろうか──? 小学生のくせに気を回しすぎだって生夫!
【クリスマスのおくりもの】二学期の最後の日、風邪で生夫が寝ていたところ、いつの間にか玄関に袋に入った絵本が置かれていた。「好きな人に贈る絵本」として有名だというこの本、いったい誰が置いたのか? そして贈られたのは11人きょうだいのうちの、誰なのか──? 「現代」に戻ってからの謎解きが秀逸。つか、もうそれだけで充分。
(04.10.24)《この本の詳細情報&注文画面へ》
いじん幽霊〜完四郎広目手控・高橋克彦(集英社)
1作目では黒船来航直後から安政の大地震まで、2作目では白雪火事までが描かれていたが、本作では舞台が横浜に移っている。開国して異人街のできた横浜で、完四郎&仮名垣魯文が異人がらみの謎を解くという趣向になってるわけだ。ちゃんと時代が流れてるのがいいよなあ。瓦版屋の完四郎がイギリスにはニュースペーパーというものがあって瓦版との違いを知り、日本でもニュースペーパーを出すんだとか、気球というものを知ったときに、戦が目的で使うのは恐ろしいが、宣伝を気球に貼り付けて屋根から上げたらどうか、なんてな提案をする。あはは、アドバルーンだ! 今回はそういう「新しいもの」がたくさん入ってきて、そういうものが謎解きに関わってくるのが面白い。
一方で、時代はまだ明治になってないわけで、京都では新選組の池田屋事件が起こったり、横浜でも水戸の天狗党が暗躍したりする。そういう時代性(2巻ではちょっと薄れて残念だったけど)がまた生きてるのも嬉しい。歴史上の人物もばんばん出てくる。謎解きももちろん緻密で、伏線の妙味と手練の技を堪能できるよ。ああ、安心して読めるっていいなあ。
尚、これまでの2巻では各編に広重の絵がついていて、それが物語に関わってきてたんだけど、今回は絵も文明開化だ! この時代の絵師には疎いんだけど、この文明開化の様子を描いた当時の絵が使われ、それがちゃんと物語に直結してる。この手法も面白い。
イチオシは【ふるあめりかに】かな。異人に抱かれるのがいやで自決した女郎の話なんだけど、その裏をズバリと読み解く完四郎。本格ということになると、「本格ミステリ04」にも収録され、あたしが本作を読むきっかけとなった【筆合戦】が出色の他、【遠眼鏡】もテクニカル。【夜の写真師】では日本に入ったばかりの写真が事件に絡んでくるし、【横浜どんたく】なんて、予知能力を持つ少女の能力を逆手にとったSFミステリーだよ! その他、日本の様子を記事にしてイギリスの新聞社に送ってるワーグマン(「消えた山高帽子」の人だ!)も出てくるし、おきゃんな異人娘ジェシカも仲間に加わる。おお、次の巻が楽しみだ。次はいよいよ明治かな。
(04.10.25)《この本の詳細情報&注文画面へ》
死刑囚が事件を起こす前の自分と出会い、説得するという設定がまず魅力的。彼らに与えられた条件などのディーテイルも緻密で、あっという間に物語に取り込まれる。横尾の例の他に、「いきなり未来の自分がやってきた」側の視点で描かれる三日月(という名前なの)の章、そして監視官の視点で語られる氏家の章と、3つの事例から構成されているのも、それぞれにバラエティがあって楽しめる。年老いた死刑囚が過去の自分に対して何を言うのか……それぞれ個性的で、対応がまったく違って、なるほどなあと思わされるのだ。特に氏家の章はいいなー。なんかもう、哀しいというか切ないというか。
ただ、この結末は。そこまで死刑囚達の運命にフォーカスして読んできたのに、ラストで話をまったく違うところに持っていかれたような感がある。いや、これも確かにひとつの物語の行き先ではあるのだけれど、読者としては「いや、それよりもっと知りたいことがあるんだってば!」という思いは否めない。いきなり話が変わっちゃうんだもんなー。特に横尾の章なんて、記憶と違いがあるってな話が出てきたときに「おお、事件の真相は別にあるんだわ!」てワクワクしちゃったのに、そのまま放置されたし。しくしく。三日月の章だって、それからが知りたいのに。
最初から読んでいけば、読者が誰に感情移入するかは自明だと思うんだけど、移入先をスパっと取り上げられちゃった感じなのね。だもんだから、読んでる最中はとても面白くてハラハラドキドキしたのに、そのハラハラドキドキはまったく回収されず、なんか放り出されちゃった気分なんだなあ。うーん。
ただ、ラスト間際に、著者の他の作品を想起させるような(未読なのでタイトルだけで判断してるけど)フレーズが出てくるので、ひょっとしたらそっちの本を読めば何か繋がってるのかもしれません。読んでみよう。
(04.10.26)《この本の詳細情報&注文画面へ》
琥珀枕・森福都(双葉社)
ところで、これっていつ頃が舞台の話なんだ?<読み終わったあとで何を言うか。いやもう、4千年も歴史があると、いつ頃なのかなんてのはどうでも良いんですが。そもそもすっぽんの徐先生は200歳以上で、昔見聞きした話をしてくれたりもするんだから、それだけで200年の時空を超えるわけだ。それで趙昭之は「そんな昔の話だったのですか、最近の出来事だと思って聞いてました」てなことを言うんだよな。日本なら一気に江戸時代まで遡っちゃうからすぐに昔の話だってわかりそうなもんだが、中国ならいいのか。そうか。
【太清丹】200日間飲み続ければ不死を得るという薬が、100日飲んだところで何者かに盗まれた──。最後に明かされる真相にはゾクリ。
【飢渇】ある日、身を守るために賊を殺してしまった医者が死体の処置に困っていたとき──。うわあ、猟奇。でもかなり頭脳的な作戦だったことが後でわかるのよ。
【唾壺】継母から虐待を受けていた頭の弱い息子は、「黄泉から戻ってきた」という女性と一緒に、家に隠された宝探しをすることに──。継母の心情が何とも。いい話じゃないか、これ。
【妬忌津】男の躰にいつの間にか住み着いた美女の人面疽。2人(?)は協力して妖怪退治に挑むが──。わあ、このラストは素敵だなあ。本編の評価とはズレるかもしれないけど、素敵なハッピーエンドだよ!
【琥珀枕】女が寝ている男を起こしに行った。起きて来ないのでもう一度行った。そのわずかな間に、男は殺されていた──。おお本格! つか、琥珀枕の正体になんだか笑ってしまった。
【双犀犬】趙昭之の母親はいかにして県令の妻になったのか──。これ、いいなあ。予言に従って幸せになった話だけど、最後に先生が言った「女性は予言や占いが好きだけど、結局自分の思うようにしか行動しない」には膝をうって大笑い。
【明鏡井】趙昭之の家にある井戸は、33年に一度、会いたい人の顔を映す日があるという──。謎解きはなかなかにロジカルで、クライマックスの格闘シーンにも圧倒。このシリーズは続きが読みたいなあ。
(04.10.26)《この本の詳細情報&注文画面へ》
短編集の体裁をとってはいるが、最初の2編は前座みたいなもので、メインは3本目の中編【Yの誘拐】だろう。といっても前の2本も決しておざなりなものではなく、短い中にメインキャラ4人の立ち位置や関係などを過不足無く入れ込み、その上で魅力的な謎を提示してくれる。あーだこーだーと推理好きたちが議論しあい、最後に探偵役が満を持して登場というのも、お馴染みっつーかお約束のパターンで、極めて王道に乗っかった構成。トリック先行で、そのトリックを読者に納得させるだけの人物造形や背景が書き込まれてないのが気になるんだけど、それも含めて「本格の王道」なのかな。
【Pの妄想】ある日突然、家政婦に殺されるという妄想を抱いた老女。彼女は大の紅茶好きなのに、家政婦が毒を入れるといった妄想のせいで缶紅茶を飲むというのだが……。トリックそのものは「おお、なるほど!」と思ったんだけど、そこに行き着くまでにやや無理があるような。そもそも、だったら何故家政婦をクビにしないのか、って思うんだけど。
【Fの告発】美術館で起こった殺人事件。現場の鍵は指紋センサーで開け閉めするようになっており、その記録も保管されている。入退出社はわかっているにもかかわらず、犯人はわからず──。おお、これは面白い! この真相はわからなかったなあ。設定を逆手にとった、天晴れなトリック。
【Yの誘拐】息子を誘拐され、殺された男が、手記を書いた。まだ誘拐犯は捕まっていない。それを読んだ明世が峰原のマンションに手記を持ち込み、皆で推理しようと言い出して──。まず、トリック云々の前に、「人が死んでる事件を赤の他人が面白半分でつっつくな!」という、この手のキャラに対していつも感じる憤懣を抱く。まあ、しょうがないんだけどさ。けれどこの真相には素直に驚いたなあ。あまりに虚をつかれ、「へ?」と思ったけど、説明されると「うわあ、そうか」とのけぞった。ただ、ある意味、ギリギリだとは思うよ。だってそんな偶然って……ねえ? 百歩譲ってこんな偶然があったとしても、その時はこうなる前に普通は阻止するだろうし。
(04.10.28)《この本の詳細情報&注文画面へ》
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