お厚いのがお好き?


れんげ野原のまんなかで・森谷明子(東京創元社)

 秋庭市のはずれ、ススキの生い茂る中にポツンと建ってる図書館が、文子の勤務先。利用者は少ないが家庭的なこの図書館に、ときどき妙な事件が起きる。司書の能勢さんを探偵役に、図書館という本好きにはタマラナイ舞台を描いた連作ミステリ。
 図書館を舞台にしたミステリといえば、J・アボットの
「図書館の死体」シリーズが思い浮かぶけれど、ああいったタイプの話ではないので念のため。むしろ方向性やカラーとしては、緑川聖司のジュブナイル「晴れた日は図書館へいこう」に近いと思う。のどかな図書館で起きる、ちょっと不思議な出来事。それを解きほぐす過程で、子供の頃に読んだ懐かしい児童小説が出てきたり、図書館司書さんの裏方の仕事が紹介されたり、図書館と住民の関わりが見直されたり。暖かい、とても暖かい連作だ。描かれている事件は決して暖かいものばかりではなく、むしろかなりハードなものもある。人の描き方も、決して「みんな良い人」ではなく、弱さや愚かさ、狡さなどがきっちり入っている。けれど解決したあとにはそのハードなものの角をすっかりとってしまって、柔らかなものでくるんでしまう、そんな暖かみがあるのだ。
 最初の作品【霜降──花薄、光る】では、閉館後に図書館に居残ることが小学生の間で流行し始めるという謎。文子たちはもちろん、閉館前に子供たちを全部帰すのだが……。この事件の最後に能勢さんが子供たちに言う言葉は、意地悪な見方をすればイマイチ綺麗事に過ぎるという気がしないでもないんだけどね。【冬至──銀杏黄葉】は絵本を使った暗号モノ。【立春──雛支度】は最もミステリちっく。図書館の情報が流出し、それを調べると、なんと図書館を利用したことのない人の名前で本が借り出されていることが分かった。どういうことか? この謎解きもさることながら、図書館司書の矜持が凛々しい。【二月尽──名残の雪】は辛い過去の物語。関係ないけど、どうして「雨水」じゃないんだろ? そして【清明──れんげ、咲く】では、能勢さんの安楽椅子探偵ぶりを堪能。そして途中から綴られ始めた文子の複雑な気持ちの変化も、なんかリアルでいいんだよねえ。ああ、これは続編が読みたい。是非読みたい。
 ああ、この本を薦めるのに、こんなに言葉を費やす必要はなかったのだ。ただ、日野さんに倣ってこう言えばよかったんだよな。「いい本ですよ」  (05.3.6)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

ぐるりのこと・梨木香歩(新潮社)

 梨木香歩のエッセイ集。ぐるりのこと、とは「自分の周りのこと」の意。周りと言っても実に幅広い。今住んでいる九州の山荘での「ぐるりのこと」、イギリス留学時代の「ぐるりのこと」、トルコに旅行したときの「ぐるりのこと」と、なんともグローバルなぐるり。けれどそこで描かれているのは、どれも「心のぐるり」のことだ。
 ホントに文章のうまい人だよなあ、てのがしみじみと伝わってくる。で、文章が巧いからこそ、伝えたいことがきちんと伝わるのだということがわかる。作品に見られるような、透明感溢れるたおやかな雰囲気ももちろんあるのだけれど、それ以上に感じるのは強さだ。強さと、しなやかさ。そして使命感のようなもの。自分のしたいこと、すべきこと、依って立つもの、そういうことがきちんと分かっている人の文章だ。
 特に目新しいことを書いているわけじゃない。ことさら斬新な切り口があったり、驚くような新説が出てくるわけでもない。書いてるのは当たり前のこと。けれど当たり前のことを、この文章で淡々と綴られると……効くなあ。
 もっとも印象に残ったのは、長崎で起こった小学生が幼稚園児を殺害した事件についてのくだり。著者は言う。「リアル」な感覚の不在──と。加害者の少年も「殺す」ということがリアルに分かってなかったのはもちろんだが、その報道も、その後の教師の対応も、リアルが欠如していると。社会が「個人」に関わることを放棄している、と。「これからは心の教育に力を入れたい」「命の大切さを教えたい」と型どおりのコメントを出す教育委員会や学校。けれどその型通りのコメントは、事件が与えたショックを自分の「外側」で滑らせているかのようだ、と。ここには事件に「関わっている」という感覚がない、と。
 この事件の他にも、アメリカでの9.11の話もあれば、かと思うと海辺を散歩する話もある。ご神木の歴史が知りたくて調査する話がある。イラク攻撃の話もある。山荘近くで見かけた鹿の話もある。トルコで出逢った子供の話がある。ばらばらの話題ばかりなのに、根底に流れるものは一緒だ。派手さもインパクトもないし、書かれているトピックスが興味のないことだと、ちょっと辛い部分はあるかもしれない。けれど、文章の巧い人が書くエッセイというのは、やっぱりいいな。  (05.3.7)
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瑠璃の契り・北森鴻(文藝春秋)

 旗師・冬狐堂シリーズの短編集。相変わらずレベルが高い。しかし陶子は初期に比べてどんどん情の強い(こわい、と読んでね)女になっていく気がする。もちょっと楽に生きようよ、って言ってあげたいぞ。
【倣雛心中】同業者から嫌がらせ半分に預けられた人形。いわくつきのもので、買い手がついてもすぐに戻ってくるという。その理由は? ミステリとしてはこれがイチオシ。映像で考えると怖いよぉ。漫画にすると多分怖くてトイレに行けないと思うくらい。文字だけで良かった。
【苦い狐】学生時代、急逝した画家を悼んで、仲間達が自費出版で彼女の作品集を出版した。その復刻版が陶子のもとに送られてくる。いったい誰が何のために復刻させたのか? 陶子がある人物を怪しいと思うきっかけが、なんとも本格ミステリチックで好き。
【瑠璃の契り】
「ザ・ベストミステリーズ2004」所収。仕事で九州に行ったとき、偶然見つけた切り子のガラス器。それを友人のカメラマン硝子(がらす、ではなく、しょうこという名前)に見せたところ、なんと50万円で買うという……。この器に秘められた物語がなんともしっとりしていていい。香菜里屋のマスターが間違うこともあるのね。
【黒髪のクピド】陶子の元夫だったプロフェッサーDが失踪したという知らせが入った。古い人形にその秘密があるらしいのだが……。物語の始まりは博多の屋台。カクテルを飲ませる屋台という設定に思わずにこにこ。これ、「親不孝通りディテクティブ」のシリーズ主人公じゃん! わぁ、ビアバー・香菜里屋や骨董の雅蘭堂だけじゃなく、ついにここまでシリーズのクロスオーバーが進んだか。こういうのが楽しみのひとつなんだよねえ。そのうちミケさんやさくら婆ぁが出てきてくれたら言うことないんだけどなあ(ひょっとして気付いてないだけで出てたりして)。物語の方は──正直、知識がないと「××だったんです!」と言われても、それがどの程度衝撃的なことなのかピンと来ないのが残念。説明はしてくれるが、結局後付の知識になるのでサプライズはないんだよね。でも物語の紡ぎ方はさすが。
 (05.3.5)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

百鼠・吉田篤弘(筑摩書房)

 クラフト・エヴィング商會の吉田篤弘プレゼンツ、大人の寓話。
【一角獣】モルツ氏は、捨てられていた自転車に目をとめた。古くてごついその自転車には、なぜか角が生えていた──。中年のモルツ氏と、十歳年下の恋人。モルツ氏の妹、恋人の兄。4人がおりなすステキな物語。しかしテキメンに、「ロマンチックでふわふわした男&現実的な女」という色分けだなあ。いや、それは別に良いんだけど。名刺屋さんのエピソードは秀逸。それだけで短編1編できそう。あるいはいつものクラフト・エヴィング商會のワザで名詞を作って本にして欲しいくらい。もちろん、お兄さんのバッチも。
【百鼠】人間が物語を書くとき、そこには「朗読者」である鼠がいる。人間は、鼠が話す通りに物語を書いているのだ。「朗読者」は第三者的視点の者なので、彼らが朗読する物語は三人称のものばかり。一人称は御法度だが、主人公はなんだか一人称に惹かれて──。わあ、こんな世界、よく思いつくなあ。黒パンにジャムとバターを塗って交互に食べるってあたりが、なんだかノスタルジックで印象的。こういう小道具の使い方が抜群に巧い。一人称小説の代表格である「吾輩は猫である」をこっそり読んでるあたりなんて、顔がほころんじゃった。
【到来】誕生日の前日、彼から予定を訊ねられた私は実家に戻ると答えた。嘘ではないが、実はそのまえに行きたいところがあって──。これも、物語と現実の間で揺れる物語だけれど、立脚点は現実。作家である母親が、娘のエピソードを脚色して小説に使うのが、娘はイヤで仕方がない。他人から見ると、なんてことはない出来事も、本人には重大なことってあるよね。だけど本当に大事なものは何かに気付けば、もつれた糸も次第にほどけるのだ。その脚色こそ、母親の愛情だったんだから。欲を言えば、彼と再会するところまで読みたかったな。
 (05.3.8)
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サウスポー・キラー・水原秀策(宝島社)

 人気球団オリオールズに入って2年目の左腕投手・沢村は、ある日マンションの前でいきなり暴漢に襲われる。暴漢は「約束を守れ」と言い残して去って行った。翌日、球団に沢村が八百長に関与しているという怪文書が届く。まったく身に覚えのない沢村はその疑いを否定したが、怪文書はマスコミにも送りつけられており、沢村は謹慎を命じられる。沢村を罠に嵌めようとしたのはいったい誰なのか──。『このミステリーがすごい!』大賞第3回大賞受賞作。
 おお、なんてクラシカル&トラディショナルな野球ミステリーなんでしょう! ビバ! 平成の世にこんな物語が登場して、それがぜんぜん古くさくなく、むしろ【定番モノ】として楽しめるってあたりが、プロ野球界そのものの停滞(あるいは安定)の証左だなあ。
 八百長の疑いをかけられたプロ野球選手が自らそれを晴らすというのは、野球ミステリの中でも王道中の王道。あっという間に類似テーマの作品を10冊近く思いつくくらいだ。それなのに「今更」感がない。そのうえ、類似作品・先行作品があまたある中でも、これはかなり上位に位置するデキだ。エキサイティングで、良く出来てて、キャラクターが深くて、そして爽快で。野球論理やプレイのシーンの描写にも満足。手慣れた読者なら「真犯人」の予想はつくけど(推理できるという意味ではなく、経験則によるパターン分類で見当がつくタイプ)、その明かし方がスマート且つ巧いために気にならない。いいなあ。安心してお勧めできるよ。
 キャラの設定はハードボイルド。あたしは洋モノのミステリに詳しくないので分からないのだが、選評によると「ディック・フランシスっぽい」のだそうだ。ハードボイルドってのはつまるところ、「どんなピンチになっても主人公が動じず皮肉でコジャレたセリフを吐く話」だと思うんだけれど、この沢村はまさに野球ハードボイルドの主人公たる魅力がある。敵役がまたイイんだよなー。チームメイトひとりひとりも、球団関係者もマスコミも、登場する人物の役割がきっちりしていて、そのきっちりしている中で最大限の魅力を出している好例。
 オリオールズのモデルは言わずとしれた「球界の盟主」ジャイアンツだ。細かい皮肉が心地よい。ちょこちょこ指摘される「オリオールズの体質的問題点」は、特に2004年のプロ野球改編騒動のあとだけにスンナリ脳味噌に入ってくる。まあ、そういう生臭い部分は別にしても、これは野球ミステリ、野球エンターテインメントとして、なかなかに出色ですよ! お勧め。  (05.3.12)
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恋愛の国のアリス・嶽本野ばら(朝日新聞社)

 野ばらちゃんのエッセイ集。トランプとタロットカード、という趣向になっていて、トランプのカードになぞらえた52編のショートエッセイ&ジョーカーは掌編小説的なエッセイ。タロットの項は、それぞれのカードごとに「あなた」に宛てた手紙形式だったり独り言だったりのエッセイという形式。
 わははは、野ばらちゃんの小説にはかなりハマったけれど、さすがに恋愛をテーマにしたエッセイを読むには、あたしゃ少々(いや、かなり)トウが立ちすぎているみたい。えっ、初出は新聞連載だったの? わー、やるなあ、大阪朝日新聞夕刊。
 でもね、確かに恋愛まっただ中の二十歳前後にこれを読むと、しんみりしたりうっとりしたり励まされたりするかもしれない。それにこの歳になっても「ああ、そうだよね」と思うことも多々あり。例えば、【アルコール、追放する】の項。大人の恋愛にはお酒がつきもので、「酔っちゃった」という一言が暗黙の了解になったりする。でも、それはやめよう。だって、大事な仕事のときに「緊張するから」って言ってお酒の力を借りたりはしないでしょう。恋愛もそれと同じ。アルコールを用いるのは相手に対して失礼だ、と。ああ、なるほどなあ、とおばちゃんちょっと反省しちゃいました<こらこら。
 また、世間では不当にマイナスイメージで見られがちなオタクの結婚話を扱った【オタク、結婚する】の項。誰しも子供の頃に何かを好きになり、それに影響を受ける。大部分の人が年齢とともにそれを忘れていくのに、オタクは忘れない。つまり、一度好きになったものに対するときめきを、生涯持ち得る人なのだと。こういう人と結ばれれば、きっと生涯かけて愛して貰えると。おお、なんだか目から鱗姫よ。
 後半のタロットカードの章は、より抽象的、より幻想的、そしてより個人的な「ささやき」あるいは「ひとりごと」。こっちは掌編小説を読んでるような気分で、野ばらワールドを満喫。【恋人】
「下妻物語〜ヤンキーちゃんとロリータちゃん」の桃子のモノローグみたいだし、【吊された男】はとても示唆に富んだ寓話。一編一編が深くて、きれい。おばちゃんが読むにはこっぱずかしい文章もたくさんあるけどね。こういうエッセイを、薔薇の花びらを浮かべた紅茶を飲みながら、テラスでゆっくり読むような乙女時代を過ごせる人は、それはそれで相当に幸せだよなあと思うのだった。  (05.3.23)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

モップの精は深夜に現れる・近藤史恵(ジョイノベルズ)

 「天使はモップを持って」に続く、必殺掃除人シリーズ(あたしが勝手に呼んでるだけだが)第2弾。1巻でキレイに大団円に決まったので、続編ってどうやって?と思ったのだけれど、今回はあちこちのビルや会社にキリコが派遣掃除人として出向き、そこでの事件に関わるというパターンになっていた。なるほど、これならいくらでも続編ができるよ! わぁい。じゃあ、まだまだこのシリーズは続けられるのね。嬉しい。
 ってことで、今回の短編集はどれも舞台が違う。それだけにいろんな人が出るし、いろんな会社が出るしで、そこが読みどころにもなっている。実際、どの話も、謎がどうだとか真相がどうだとかより、それに関わる人々の状況や気持ちの方に惹きつけられるんだよね。エピソードも共感を産む身近なものばかりだし。事件を解決するとともに、それぞれの短編の主人公が抱えていた自分自身の問題もなんらかの解決を見るところもいい。前向きに、ポジティブに、いろんなことがあるけれど、でも今日も元気に行きまっしょい!という気分になれるんだから、これはもうお勧めでしょう。
【悪い芽】若い部下や自分の娘とのコミュニケーションに悩む中年の課長。偶然出逢ったキリコの「掃除婦らしからぬ服装」につい説教してしまうが……。わあ、よくある話なのに、中年課長の視点に立つだけでこんなに面白くなるのね。事件の解決の仕方も実にテクニカルで気持ちいい。
【鍵のない扉】自分に自信が持てないながらも、なんとか日々の仕事をこなす女性ライター。ところが彼女が所属する小さな事務所で、事件が起きた……。わぁ、この「心にシャッターをおろす」って気持ち、分かるなあ。人間相手の仕事をしてると、こういうことって必ずあるんだよね。
【オーバー・ザ・レインボウ】二股をかけられていたことがわかったモデルの女性。失意の彼女に、なぜか追い打ちをかけるように嫌がらせが……。このモデルの気分の乱高下がオミゴト。嫌がらせや虐めの描写は続き過ぎると辟易するんだけど、これは巧く息をつかせてくれる。犯人がわかる手がかりはやや唐突かな。
【きみに会いたいと思うこと 】旅行に出たい、そう言い残してキリコは去っていった。いったいどこに行ったのか……。わあ、1巻のネタバレになってしまうので詳細が書けないよっ。でも主婦の多くはキリコを応援するに違いないっ!
 (05.3.28)《この本の詳細情報&注文画面へ》  

義八郎商店街・東直己(双葉社)

 昭和を彷彿とさせる義八郎商店街。不動産屋のオバアに、古本屋の主人、学習塾の先生、ケーキ屋さんの若夫婦、妙に色っぽい豆腐屋の奥さん、コワモテだけど気のいい中華料理屋、みんなが集まる喫茶店。そしてちょっと不思議な公園のホームレス。この商店街で起こるいろんな事件に、みんなが結束して立ちあがる。なんと言ってもこの商店街、全員が何か武道をひとつ会得しているという、武闘派商店街なのだ! 楽しくて痛快で、ちょっと不思議な商店街ファンタジーの連作短編集。
 うん、面白い。今、勢いで「商店街ファンタジー」なんて名付けちゃったけど、我ながら言い得て妙よ。最初は普通のコメディかと思って読んでたら、ファンタジー的展開だったのでビックリ。でもそれがなかなか良いのよねえ。味わい深いというか。商店街の個々の面々も個性的でおかしくて、おまけに武闘派ってあんた。でも扱われる事件はとてもシビアで、事件を起こす側にも事情があったり。それを解決するのが、ホームレスの不思議な力だ。
 【義八郎商店街】でメンバーと設定が紹介され(話も面白いよ!)、【慰安旅行の夜】は見え見えのオチに大笑いし、【座敷童子騒動】は商店街ぐるみのある作戦にエキサイト。【公園にて】はややアンフェアな方法で虐めにあってる少年を救う。【街角の恋】はちょっと切なく、【おれおれ詐欺】はイマドキの事件に憤怒。これ、勧善懲悪ではあるけどぜんぜんスッキリしないよ。そして【義八郎村ラジオ】は「自分探し」の主婦に皮肉たっぷり、【桜台タワー】ちょっと商店街から離れたマンションの一家の話。そして最後の【消滅】は、あまりに突然な、あまりに容赦のないエンディング。
 読んでる最中はすっごく面白くて、これはお薦めマークだなと思っていた。いや、つけても良いんですけどね>お勧めマーク。ただ、この終わり方が……。ホームレスの「正体」は読み進むうちに次第に明らかになっていく。でも、「その他のこと」については、伏線も何もないんだもの! あまりに唐突じゃありませんか。あまりに唐突で、それがあまりに哀しいので、ここまでワハハと笑いながら読んできた読者はいきなり梯子をはずされたみたいで、なんだか放り出されちゃうのよ。なんだかずいぶん急いでシリーズを終わらせたみたいな、そんな印象。もっとじっくり読みたかったよぉ。この「消滅」も、読み手が納得するような仕掛けが欲しかった。それ以外は、ホントに、すっごく面白かったんだから!  (05.3.30)
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インディゴの夜・加藤実秋(東京創元社)

 女性ライター・晶と編集者・塩谷が共同経営を始めた渋谷のホストクラブ「CLUB indigo」は、謎の敏腕マネージャー・憂夜の助力もあって、順調に運営されていた。ところが常連の客が殺されるという事件が起こって──。渋谷を舞台に、オーナー兼ライターの晶とホストたちが事件解決に奔走するシリーズ短編集。
 かーっ、惜しいっ。もったいないっ。つか、不利だよこれ。せっかく面白いのに、どうしても
「池袋ウエストゲートパーク」のシリーズを想起させるんだよね。もちろん根本的なところに違いはあるし、目指すものもIWGPとは異なるんだろうに、それでも、池袋と渋谷、イマドキの若者達がそれぞれの担当エリアで活躍するという設定、事件と風俗の絡み、タイトルの類似(【センター街NPボーイズ】)、風俗街には似合わない子供の登場(【原色の娘】)などなど、そういう《わかりやすい表層部分》が似てるのよ。根底が違っていても表層部分に共通する要素があると、どうしても「似てる」という印象を呼ぶ。それが惜しい。続編は、より「indigoならでは」という色を出して欲しいなぁと期待しつつ、個別に。
【インディゴの夜】「CLUB indigo」の常連客が殺され、その疑いがナンバーワン・ホストにかかった……。動機や物語の展開は見事なんだけども、犯人のヒントがあからさま過ぎるなあ。最重要部分はそこには無いとはいえ、わかりやすすぎるのはちょっと残念。
【原色の娘】ホストの一人が預かるハメになった11歳の少女。彼女にはどんな事情があるのか──。この少女はいいなあ。周囲がきりきり舞させられる様子もステキだし、クライマックスのアクションも爽快。「CLUB indigo」のホスト達より、ライバル店のホストの方がキャラが立ってるぞ。
【センター街NPボーイズ】渋谷区長の娘が、ちょっとマズい写真を撮られてしまった。その犯人探しを請け負った晶とホストたちだったが……。うわははは、なぎさママ、サイコー! ナンパの様子やチームを組んでの様子など、これは面白い。でもIWGPとの類似を一番感じさせるのもコレなんだよなあ。それをぐっと飲み込んで、虚心坦懐に読もう。構成は緻密だし会話も洒落てるし、読後感もいいから。これがイチオシ。
【夜を駆る者】以前、「CLUB indigo」にいて裏切るように去っていったホストから連絡が入った。そのあと、彼の馴染みだった女性客が血まみれの姿で助けを求めて来て──。主要ホストたちの個性がもっともっと前面に出ればいいのに。無論、個性は書き込まれてるんだけど、役割分担を示す名札みたいで、今ひとつ魅力や肉付きが見えてこないもどかしさがある。でも、「このシリーズをもっと読みたい」と思わせてくれる吸引力は充分。
 (05.3.31)《この本の詳細情報&注文画面へ》  


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