小学校五年の凰介は、母を癌で亡くした葬儀の日、母の友人だった恵と会ったときに変な映像を見てしまう。それ何なのか分からないまま数日が過ぎたある日、その恵が自殺。恵の娘・亜紀は凰介の同級生で親しくしていたが、その亜紀の様子もおかしい。何が起こっているのか分からないまま、今度は父親の様子までおかしくなって──。
駅ビルの大型書店・成風堂に勤める杏子のもとに、旧友の美保から手紙が届いた。美保が勤務している信州の書店に幽霊が出て、大騒ぎになっているというのだ。その幽霊は27年前の殺人事件に関係しているらしい。成風堂のバイトである〈名探偵〉多恵ちゃんを連れて、謎を解きに来て欲しいと頼まれたのだが──。
有頂天時代 三谷幸喜のありふれた生活5・三谷幸喜(朝日新聞社)
新聞連載されたコラムの単行本化、もう5冊目かあ。続くなあ。
ナイチンゲールの沈黙・海堂尊(宝島社)
愚痴外来・田口と、厚労省の白鳥が帰ってきた! 「チーム・バチスタの栄光」に続くシリーズ第2弾。
女子大生・サキは子供の頃のトラウマが原因で歯医者が大嫌い。ところが母親にハメられて、歯科医院で受付のアルバイトをすることになってしまった。おっかなびっくり始めたバイトだが、品川デンタルクリニックのメンバーはいい人ばかりで次第に馴染んで行くサキ。そのクリニックには、いろんなお客さんの事件も持ち込まれて──。
お楽しみはこれからだ! Jazzy murder・真瀬もと(早川書房)
禁酒法の時代のアメリカ。人気女優に犬を届けるという名目で、イギリス伯爵家のメイド、ケイトが渡米した。アメリカでの保護者は元ロンドン警視庁の警部で今は写真家をやっている叔父のエド。ケイトには、エドをイギリスに連れ帰るという目的もあったのだ。ところが、隣室に泊まった女優が死体で見つかり、ケイトは容疑者にされてしまう──。
押入れのちよ・萩原浩(新潮社)
ホラー短編集。なんだけど、ウェットで哀しい話から滑稽な話、ブラックなものまでバラエティ豊か。ただ全般に「よくある話」になっちゃってるのがチト残念。もちろん「よくある話」なのにぐいぐい読ませる筆力はさすが。
いやはや、これはすごいな。ジャンルは何かと問われたらそりゃ勿論ミステリなのだが、なんかもう「島田荘司」とか「御手洗潔」っていう一ジャンルになってしまっている気がする。事件も謎解きも、蘊蓄もキャラクタもストーリーテリングも、ぜんぶひっくるめて「島田荘司」というジャンル。格が違う、という気さえするよ。
二枚舌は極楽へ行く・蒼井上鷹(フタバノベルス)
最初にどーしても言っておきたいことがある。帯の惹句にね、「傑作コージーミステリー」って書いてるんですけどね、これ、コージーじゃないから! コージーの代表的作家であるジル・チャーチルやシャーロット・マクラウドのファンが、この惹句に釣られて読んだらビックリするって。<あたしのことなんだけどさ。えーっと、著者の名誉のために書いておくと、この「傑作コージーミステリー」っていう表現は著者ではなく編集さんがつけたものだそうです。それにしたって、なあ……コージーファンのためにも増刷分からはこの帯ははずして欲しい……。
「安楽椅子探偵アーチー」シリーズ第二弾。小学5年生の衛が骨董店で見つけた安楽椅子は、なんと思考力を持ち言葉を喋る不思議な椅子だった。アーチーと名付けられたこの椅子の特技は、話を聞くだけで事件の真相を推理すること。つまり文字通りの《安楽椅子探偵》なのだ。アーチーが衛のもとにやって来てから早1年、6年生になった衛は今日も不思議な出来事をアーチーに相談する──。
シャドウ・道尾秀介(東京創元社)
謎は何か、と問われると困る。はっきりとした事件があって、その謎を解くという体裁の話ではないから。だからそういう意味では本格ミステリではないのかもしれないが、読み進むにつれて、そして読み終わったとき、あちこちに巧緻に散りばめられた伏線が見事なほどにカチカチとハマっていくことに驚く。でも、それもまた一筋縄ではいかなくて。途中はけっこう不愉快な部分もあるんだけど、最後まで読むと、すーっとすべてが腑に落ちた。
この伏線の忍び込ませ方というのは、天性のものなのかな、巧いなぁと感じる。伏線なので具体的に「これが巧い」とバラすわけにいかないのが辛いんだけど、ホント巧いのよ。ミステリとしての仕掛けに関わる伏線のみならず、なんのことはない日常会話の一言が後になって意味を持ったり、ちょっと描写されただけの出来事が終盤に大きく効いてきたり。粗筋だけみると結構唐突な部分や恣意的な展開が多いんだけど、そういう伏線が巧いので、唐突さも恣意的な部分も「ああ、そういえば」と思わされてしまって違和感なく入れるのよ。このあたり、実にテクニシャンだ。
難を言えば、医学的に「それは判別がつくのでは?」と感じる部分があったことと、精神の病をミステリの道具として扱っていること(もちろんそれは著者も熟考の上でしょうが)、そして何より読んでいて決して気持ちのいい話ではない、ということか。ミステリなんて犯罪を扱うわけだから、シリアスになればなるほど気持ちよくないのは当然なのだが、そんな中にあっても、やはりこれは気持ちのいい話ではない。子供が、自分の手に余る問題を背負わされるってだけでも辛いのに、その内容がなぁ……。
しかし、「向日葵の咲かない夏」のような種類の辛さではないし、何よりラストが(ごにょごにょ)なので、読後感は悪くない。読んでる最中は、辛い、可哀想、この子たちどうなっちゃうの、もしもあたしの推理が当たってたらメチャクチャ悲惨じゃんと思って読んでるんだが、最後まで読むとちゃんと救いがある。ミステリとしてのカタルシスと、物語としてのカタルシスを、両方備えた秀作だあ。
(06.10.2)《この本の詳細情報&注文画面へ》
晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ出張編・大崎梢(東京創元社)
「配達あかずきん」に続く成風堂書店シリーズ第2弾。前回は連作短編集だったが、本書は長編だ。これがね、予想外に(ごめん)良かった。信州で数十年続いた、商店街の中にある地域密着の書店。その書店の長男が出した、CDやゲームと一緒に商品展開をしている郊外型大型店の2号店。異なる2種類の書店が紹介され、その両方が、駅ビルに居を構える成風堂とは商売のやり方もスタンスも違う。それぞれの店がそれぞれの工夫をこらしているその様子を、決して説明にならず上手に物語の中で描写していて、店内の様子が眼前に浮かんでくるような暖かさがあるよ。ああ、こんな書店、近くにあるといいなあ。そう思わせる描写。その一方で、地方の小売店が置かれている厳しい状況にもさらっと触れていて。
「消えた原稿」を巡る一連のドラマも実にドラマチックで、相当に鬼気迫る真相。「名探偵、皆を集めてさてといい」の場面も緊迫感があって良かったなあ。これでもちょっと「推理する楽しみ」があると嬉しいんだが、まあ、そういう種類の話ではないということで。
──というより、決して犯人当てがメインの話ではないんだよね。やはりメインにあるのは、本への愛。本屋という職業への愛。その職業に誇りを持って就いている人への愛。「配達あかずきん」では、本を売る側(出版社も含めて)と買う側(読む側)の二者の間で起こるあれこれを扱っていたが、今回は、本を書く側と、それを売る側という二者がテーマになっている。杏子は、書店というのは読みたい本を求めて客が来る場だと考えていたが、作家志望者から見れば、自作をここに並べたいと思う場でもあることに気づく。それに加えて、多恵と店主は「本は、読まれてこそ本」と言った。書いただけでは、それは本ではない。作家ではない。読まれてなんぼだ、という思い。送り手だけではなく受け手がいて初めて完成する文化。読んで欲しい人と、読みたい人が、本というものを媒介に出会うのが本屋なのだ。そんなメッセージが強く心に残った一冊。
(06.10.3)《この本の詳細情報&注文画面へ》
これが連載されていた当時、三谷幸喜が何を手がけていたのかが分かり、その作品を見ていると裏話が楽しめる。今回はまず、お正月に放送された古畑任三郎ファイナル3話、同じ正月特番の土方歳三、映画「THE 有頂天ホテル」、舞台「高田馬場の決闘」、新キャストで臨んだ「十二人の優しい日本人」、そして大河ドラマ「功名が辻」への役者としての出演、などなど。巻末には、著者がいろんな人の舞台パンフレットや宣材などのために寄稿した、俳優さんの紹介文てなものもついてます。
毎回思うことだけれど、その映画なりドラマなりを自分が観ていると「おお、あのシーンか!」というのが浮かんで来て楽しい。「松島菜々子主演の古畑は、映像でしかできないトリック」というのも「うん、そうだったそうだった」と思うし、「イチローが出た古畑で、犯人がフェアプレイに拘るというのはイチローからのリクエストだった」と読んでへええと思ったし。「藤原竜也・石坂浩二主演の古畑は、なぜか犯人がわからないと(新聞などに)書かれてあったが、犯人は藤原です」というくだりなんて「いや、それは××であって、確かにそうなんだけど、でもやっぱ××じゃんよ!」とつっこみたくなったり。映画「THE 有頂天ホテル」は観てないけど、いつかテレビなりDVDなりで見るときには、ロビーのシーンに注目だ、なんてチェックもできたし。
そういうのに比べると、三谷幸喜の私生活の話は、まぁ別にどうでもいいといえばどうでもいい。三谷幸喜のエッセイといえば「オンリー・ミー 〜私だけを〜」なんて腹の皮よじれるくらい笑わせてもらったものだが、このシリーズはどうしてこうも無難な話題ばかりの身辺雑記なのかなあ。新聞連載という媒体のせいかしら。
あ、カラオケの話だけはすごいと思ったけどね。だって幹事が平井堅で、参加者が椎名林檎だの一青窈だの山口智充だの清水ミチコだのクリスタル・ケイだの……なんだそのメンバーは。そのメンバーでカラオケって。
(06.10.5)《この本の詳細情報&注文画面へ》
小夜は小児科で癌網膜芽腫(レティノブラストーマ)の子供たちのケアをしている看護師。眼球摘出という大手術を受けなくてはならない子どもたちのため、彼らのメンタルサポートを不定愁訴外来・田口公平に依頼した。中でも小夜が困っているのは、親が非協力的な中学生の患者。なんとか手術同意書を貰わなくてはならないのに、親は病院に来る事さえ拒み──。
ミステリとしては相当にストレート。つか、事件の真相はあまり隠そうとしてないんだよなあ。何がどうしてどうなったか、すぐに分かる。あまりにもすぐに分かるから、もしかしてミスディレクションに引っかかってるのかしらと不安になったくらい。でも、どうやら最初から「意外な真相で驚かそう」とは思ってないみたいなんだよな、この著者は。書きたいのはそこじゃない、とでも言うか。ミステリだと思わなければ良いのかも。
ミステリじゃなきゃ何かといえば、今回は多分にSFチックな展開でびっくりだ。こういうことがホントにあるのかどうかは分からないけど、なんせ著者は現役の医師、描かれる状況や説明がいちいちリアルで説得力があるので「ホントにあり得るのかも」と思わされてしまう。いや、やっぱりSFなのかな。説得力があるが故に、なんだかどっちつかずの印象なんだけど。
けれどそういう、ミステリだとかSFだとかのジャンル上の評価なんてどーでもいいのよ。なんせ人物の魅力は相変わらず圧倒的なんだから。登場人物は多いのにひとりひとりの顔や立ち居振る舞いが浮かんできそうなほど。小児病棟の描写も実に読ませる。特に五歳で眼の難病と闘うアツシがナイス! 怖い先生や、医療を単なる9時5時の「職業」としか考えてない若い女医など、印象的で且つ適切な役割の配置が、物語をどんどん動かして行く。そして何より、そういう個性的な面面が暮している「病院」という舞台の臨場感、そしてリアリティ。そういう描き込みとキャラクタが抜群なために「ミステリとしてはユルいし、SFとしては半端だし、恋愛小説としてはキレイごと過ぎる」というマイナス部分も、全部ひっくるめてひとつの物語として楽しませてくれるだけの勢いがあるんだよね。これで構成が巧くなったら、どうなるんだろうこの著者。
でも実をいうと一番気になったのは、小児病棟で人気の特撮ヒーロー、ハイパーマン・バッカスなんだよね。子どもたちがフィギュアを集め「ごっこ」遊びに興じるそのヒーローは、酒癖が悪くて地球防衛軍を追放され、酔わなくちゃ変身できないってんだから笑っちゃう。子供の心をつかむため、そのヒーローについていろいろ語られるシーンがあるんだけど、それを読んでるとすごくバカで面白そうなのだ。スピンオフとして制作しないかしら。 (06.10.7)《この本の詳細情報&注文画面へ》
シンデレラ・ティース・坂木司(光文社)
「切れない糸」に続く「癒し系日常の謎・業界篇」とでも言った感じ。最初はね、暖かくてユルくって、出て来るのはみんな良い人で、まぁなんていうか、柔らかな話よねえ、と思いながら読んだのさ。特に最初の三編、恋人の治療に不満を持って文句をつけにきた男性の話(【シンデレラ・ティース】)と、時と場合で愛想のある無しが覿面に変わる男性患者の話(【ファントムvs.ファントム】)、そして何故かいつも付添人がいる客の話(【オランダ人のお買い物】)は、ミステリとしてはもうヒントが親切すぎて。こりゃ四谷君(探偵役の人ね)じゃなくても分かるだろ、分からないサキが鈍過ぎ、とイライラしたくらいなのさ。おまけに最初の2編は、どちらも患者の抱えている問題に比べ、その対応が過保護過ぎる気がして。いや、体と心の問題だからそりゃ重要なことなんだけど、何もクリニック全員がよってたかって大げさに対応しなくても……。むしろ、1人2人の少人数でさりげなくあたる方が良いようなトピックでは?
ところが。サキの恋敵になりそうなワガママな小娘が登場する【遊園地のお姫様】にヤラれた。なるほど、すべてはここに繋がる伏線であったか。いや、前の短編の粗筋が関わってくるわけじゃないのよ、このクリニックの色合いというか性格みたいなものがね、ここまでで刷り込まれちゃってるんで、「ヌルすぎー、キレイごとすぎー」という感想がここで全部打ち砕かれるのね。そうか、ヌルくていいんだ、キレイごとでいいんだ、と思わされてしまう。怖くて気持ち悪いとしか思ってなかった症例写真、でもそれは誰かが実際に苦しんでいる写真であることに気付いたサキ。ヌルくてキレイに過ごせることの、なんと幸せなことか。そしてその幸せは、誰かの努力と犠牲の上にあるんだな。
ただまあ、納得したとは言え、もうちょっと噛みごたえのある話が多くても良いかな、とは思ったけどさ。歯と同じで、読書だって柔らかいものばかりだと顎が弱くなるからね。そうそう、歯科トリビアもたいへん楽しゅうございました。
(06.10.10)《この本の詳細情報&注文画面へ》
昨年、同じレーベルから出た「アルレッキーノの柩」と同じシリーズになるのかな? 登場人物はどうやら重なっているようです。そっちを現時点では読んでないので分からないけれど。本書を読んで、前作も読んでみようって気にさせられたわい。
で、本書。いやアンタ、アビーが可愛いのなんのって。アビーってのはケイトがイギリスから連れて来たコッカースパニエル、つまり犬なんですどね。いやもう、この可愛さだけでマル。文字だけでここまで可愛いと思わせるとは。
ただ本編の方は、事件とその真相だけ見てみると、ちょっとボリュームあり過ぎな気がするんだがなあ。もっと短くテンポ良くできそうな。けれど禁酒法時代という独特な舞台設定が謎解きに絡んで来るそのワザたるや見事! あれもこれも「この時代のこの場所ならでは」という要素がいっぱいで、それぞれにちゃんと伏線があって。エキセントリックな女優たちに怪しい付き人、謎の美男子に見た目は怖い撮影助手などなど、人物配置もいかにもって感じで、けれど必要以上に作り物めいた感じは出さす、明るく元気に物語は進む。この雰囲気作りは天性のものじゃないかしら。巧い巧い。得にクライマックスの対決シーンは、動の対決と静の対決の両方があって、その両方が緊迫感とサスペンスに満ち満ちて、うん、これは良いぞ。
ちょい不満だったのは、時代描写。禁酒法の時代ってことは1920年あたりだよね。時代の小道具はたくさん出て来るし、ミステリとしてこの物語を成立させるさまざまな要素がどれも時代に大きく関わっているにも関わらず、1920年代のアメリカという時代の息づかいが薄い。それはおそらく、登場人物の性格や価値観といったものがそのまんま現代だからなんだろうなあ。真っ直ぐで正義感満載で、でも思い込みが激しくて意地っ張りでおっちょこちょいのヒロインと、渋くてもの静かで訳ありの大人の探偵役っていうのも、現代ミステリのパターンだしね。ただ、それが読みやすさに通じるという美点にもなっているから、一概にダメだとは言えないのだけれど。
(06.10.13)《この本の詳細情報&注文画面へ》
【お母さまのロシアのスープ】ターニャとソーニャが遊んでいると、お母さまのところにマァさんがやってきた。ターニャとソーニャは隠れるように言われていたが……。うーん、これは易し過ぎ。好きなタイプの話ではあるんだけど、特定ジャンルを好きな読者にとっては、とてもありがちなネタだものなあ。「2005ザ・ベストミステリーズ」所収。
【コール】若くして夫に先立たれた美雪は、故郷の広島に帰るという。雄二はそれをとめたいが──。ほんのり暖かでセンチメンタルな幽霊譚。ただ、ちょっとストレート過ぎるきらいはあるかな?
【押入れのちよ】引っ越して来たボロマンションには、なんと少女の幽霊が住んでいた! これ、イチオシ。この幽霊が可愛くて可愛くて、可愛いからこそ彼女の生い立ちに胸が迫る。彼女がなぜこの部屋にいるのかという謎にも膝を打った。
【老猫】叔父が死んで引き継いだ邸宅。そこには猫が一匹住んでいて──。いやあ、怖い怖い。物語の展開としてはよくあるパターンなんだけど、ディーテイルが怖い。
【殺意のレシピ】もう我慢出来ない、妻を殺そう。そう決意した男は、釣りから帰って自ら夕食の用意を始めたが──。これもありがちな話なんだけど、結末のつけ方が楽しい。
【介護の鬼】介護のふりをして舅を虐め抜いていた嫁。ところが──。これさあ、本編の物語がどうこうより、このダンナが悪い!
【予期せぬ訪問者】浮気相手をつい殺してしまった男。慌てて死体の処理をしようとしたが、そこにお掃除サービスがやってきて──。うわははは、これは完全にコメディだ。舞台とかで見るとすっごく面白そう!
【木下闇】幼い頃、かくれんぼの最中に行方不明になった妹。成長した私は初めてその場所へ戻ってみたが──。うわあ、これは怖いなあ。やっぱり幽霊よりも生きてる人間の方が怖いんだよ。
【しんちゃんの自転車】しんちゃんが自転車で迎えに来た。彼の荷台に乗って出かけた先は──。これも暖かなホラー。途中、ある真相に気付いたときには、怖いというより切なくなる。
(06.10.15)《この本の詳細情報&注文画面へ》
UFO大通り・島田荘司(講談社)
この著者のストーリーテリングってのは、瑣末をゆるがせにしないんだよね。登場人物はどんな脇役であってもちょい役であっても、その人となりがはっきり伝わって来るような描き込みをする。それもやや大仰なくらいに。だから読者は、まるで眼前で会話が交わされているかのような臨場感で物語世界に入れる。猪神刑事の怒った赤ら顔や、ラクお婆ちゃんのおっとりにこにこ笑顔や、お婆ちゃんが心配で御手洗に相談しためぐみちゃんの心配そうな顔が浮かんで来る。雪子が宣子に対して抱いた怒りを一緒になって感じ、現場から逃げ出そうとした焦りを体感する。どのシーンをとっても、非常に濃密なのだ。
そして、真相がわかった途端にドラマが生まれる。いろんなピースが合わさった瞬間、そこにはひとつの絵が現れる。その瞬間のサプライズとカタルシス、そしてドラマを知ったが故に生まれる新たな感情。これぞ本格の醍醐味だよなあ。
【UFO大通り】密室でみつかった死体は、フルフェイスのヘルメットをかぶりマフラーを巻きシーツで体を覆っていた。そして部屋の天井からは何本ものガムテープが吊るされている。この不可解な密室事件のあった近所では、お婆ちゃんが「宇宙人の戦争を見た」と言い出して──。この話はどこまで荒唐無稽な方向に行くのだろうと思っていたら、最後はきっちりすべてが理に落ちるのはさすが。最後に判明する「動機」によって、物語に一気にひとつの哀しい絵を描き、ドラマが完結する。巧いなあ。猪神刑事・石岡・御手洗の三人の会話はトリオ漫才にしか聞こえないあたりも楽しいぞ。しかしこのタイトルはどうなのかな……。
【傘を折る女】おお、これは良い! これは良いよスゴイよ! 冒頭は御手洗版「九マイルは遠過ぎる」と言った風情の話。石岡がラジオで聞いた「雨の日に、傘を車に轢かせて折り、濡れたまま立ち去った女」の話を御手洗にする。それを聞いた御手洗は、なぜ彼女がそのような行動をとったのかを推理し、その影にはある事件の存在まで示唆したのだ──というだけでも面白いんだけど、そこから先が! 最初は単なる謎解きの検証をしてる気持ちで読んでたんだけど、そこからどんどん意外な方向に話が流れていって、もうページをめくる手が止まりません。これ、今年読んだミステリ短編(いや、これは中編だけど)のベストじゃなかろか。
(06.10.17)《この本の詳細情報&注文画面へ》
と言っても、本書そのものに文句を言ってるんじゃないのよ。「ジャンルで言うならコージーではありません」というだけであって、作品そのものはとても面白いので誤解のないように。短編掌編併せて12の作品が収録された本書。それぞれの短編は独立した作品でありながらも微妙にリンクしながら物語が進んで行くという趣向。
個々のお話はね、総じてレベルが高いのよ。最初の二編(【野菜ジュースにソースを二滴】【値段は五千万円】)を読んだときにはさしたる感想もなかったんだけど(ごめん)、三作目の【青空に黒雲ひとつ】(唯一コージー風味がないわけでもない短編)で「あら?」と思った。ドラマの展開といい構成の妙といい意外な真相といい、これがイチオシ。その後、いろんなタイプの捻りの利いた高レベルな短編が次々と繰り出されて、「うわあ、巧い!」と舌を巻いたことも何度か。【天職】【待つ男】【ラスト・セッション】が特に巧い。それに表題作の真相には驚かされた。滑稽と悲哀が紙一重でゾクっとした。掌編もいいのよ、【懐かしい思い出】なんてすごく怖い。系譜としては、(作中にも登場するけど)O・ヘンリィみたいな、テクニカルなんだけど色合いのある短編の書き手といった感じ。これでキャラクタにより深みが出せれば、マジで相当の短編作家になるんじゃないかしら。
ただ、この各編に股がるリンクは──正直、リンクがあることに気付いたとき、それが最終的にどうなるのか相当にワクワクしたんだけど──ちょいとそこいらは肩すかしかな。ひとつの事象が別のところに波及して別のドラマが生まれるという、その面白みや感動は確かに大きいのだけれど、それ以上のミステリ的趣向を期待しちゃったもので。各編の最後にある〈参考文献〉もね、ニヤリとはするんだけど、そこどまりなのよね……いや、ちょっと待てよ。そう決めつけるのは早計か。更なる仕掛けにあたしが気付いてないだけ、って可能性もある。かな?
(06.10.19)《この本の詳細情報&注文画面へ》
オランダ水牛の謎 安楽椅子探偵アーチー・松尾由美(東京創元社)
楽しい! 楽しい! 一話目の【オランダ水牛の謎】は、衛がたまたま拾ったなぞの封筒から話が始まる。封筒の中には葉っぱのついた木の枝が入っており、表には「オランダ水牛」「スパイ」などの意味不明な言葉が幾つか書かれていた。これはいったい何なのか、衛とアーチー、そして知り合いの老人の3人で推理するという話。確かに謎としては魅力的なのだが、正直言ってこの事件ではなんとなくユルさばかり先に立って、ヒントから真相を見抜くサプライズやカタルシスにやや欠ける気がしたのよ。こうだろうかああだろうかとあれこれ推理し合い、それを確かめに行くというストーリーは、別にこのシリーズである必要は無いのだ。謎の言葉の意味が分かったからといって、それで何かドラマが生まれるというものでもない。つまりは設定が活かせてない。
ところが2話目の【エジプト猫の謎】を読んで「よしっ!」と身を乗り出した。衛のクラスメート野山さんが友達から預かった猫には妙な特技があった。しかしなぜ野山さんが猫を預かることになったのか、よく考えると何かおかしい。その謎も興味深いが、にやりとするのは衛の心理だ。衛がハマったある勘違いについては、おそらく見抜ける読者も多いだろう。見抜けたら見抜けたでにやにやしながら読めるし、わからないならわからないで衛と一緒に驚ける。これは楽しい!
同様に、ちょっと変わった下級生の事件【イギリス雨傘の謎】は事件を巡る動機と幼くも可愛い人間関係がステキだし、インド料理店で見かけた男性の謎めいた行動【インド更紗の謎】では衛のお父さんがなんともいい味を出している。【アメリカ珈琲の謎】は衛が単独行動する可愛いハードボイルドだ。2話目以降は、衛と事件の関わりにしろ、アーチーが推理するために衛や友人の野山さんが情報を集める過程にしろ、彼らの生活の中で起こった事件なのね。動機も、事件に対する考え方も、小学校六年生という彼らならではのものがある。謎解きだけではなく、その過程で生まれる暖かいもの。それがこのシリーズの魅力なんだよね。
(06.10.21)《この本の詳細情報&注文画面へ》
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