吸血鬼になりたい小学6年生の陽太は、夏休みの自由研究に改築間近の東京駅を調べることにした。夜之介叔父さんと一緒に東京駅を訪れた陽太は、これまで知らなかった秘密の通路などを知って興味津々。ところがその夜、駅の構内で不思議な死体が──。ミステリーランドの一冊。
ドラゴンズ検定・ドラゴンズ検定委員会(編)(中日新聞社)
その名の通り、中日ドラゴンズに関するアレコレをテスト形式にした企画本。まぁ、ファン以外には何の価値も無いかもしれんが、ファン同士で問題を出し合って遊ぶには楽しいし、「おお、そうだったそうだった」という懐かしさや、「へえ、そうだったのか」という発見や驚きもあって、ファンには楽しい一冊。
検閲を是とするメディア良化法のもと、断固として検閲を拒否し書物とその自由を守る図書館。その攻防は物理的な戦闘に及ぶことも多いため、図書館では「図書館隊」なる部隊を組織している。主人公の笠原郁はまだ2年目の平隊士。昔、書店で窮地を救ってくれた「王子様」が図書館隊員だったことからこの勤務を志望した乙女ではあるものの、天然なボケぶりと本に対する真っ直ぐな思いは、そして何より純粋な人柄が周囲の人に好かれ、今日も叱られながら隊務についている。けれど事件は次から次へと起こって──。「図書館戦争」シリーズ第二弾。というか続編と書いた方が良いかな。
晩餐は「檻」の中で・関田涙(原書房)
二つの物語が交互に語られる形式。ひとつは仇討ちが法制化された世界を舞台に、その仇討ちの様子をパズラーに仕立てた「檻のなかの七匹の獣」。もうひとつは、売れないハードボイルド作家を主人公に彼の生活と彼が遭った事件を描いたもの。とくればあなた、ミステリー・リーグですから、もちろんこの2つの章の関係ってのを読者はあれこれ想像しながら読むことになりますわな。
鳴沢了は現在、NY市警で研修中。近くには恋人の優美も住んでいるし、優美の兄であり了の盟友でもある日系アメリカ人の七海も同じ市警に勤務しており、了はそれなりにNY暮らしを満喫していた。ところがある日、優美の息子・勇樹の乗ったバスがバスジャックに遭い、そのまま勇樹は誘拐されてしまう。背後には七海や了とも因縁のあるチャイニーズ・マフィアの影が。了は家族同様の勇樹を救うため、研修中の刑事の権限を大きく逸脱して捜査を続けるが──。「刑事・鳴沢了」シリーズ7作目。
ハルさん・藤野恵美(東京創元社)
娘のふうちゃんが幼稚園のときに妻・瑠璃子さんを亡くし、それから男手ひとつでふうちゃんを育ててきたハルさん。気弱で、浮世離れしていて、なんとも頼りないお父さんだが、それでもふうちゃんと二人、仲良くやってきた。そして今日は、ふうちゃんの結婚式。娘が嫁ぐ日に、父親は昔のことを思い出す。娘が幼稚園のとき、小学校のとき、中学校のとき──それぞれの時代に起こった、ちょっとした事件と、その謎を解いてくれた天国の妻のことを。
愛犬をつれた名探偵 ペット探偵1・リンダ・O・ジョンストン(ランダムハウス講談社文庫)
ある事件がきっかけで弁護士資格の停止処分を受けたケンドラは、その間の糊口をしのぐためペットシッターの仕事を請け負った。ところが、犬の様子を見に顧客の家に入ると、そこに死体が! 被害者とは生前から知り合いだったケンドラに容疑がかかり──。ペット探偵シリーズ第1弾。
医者の夫と一人息子を持つ沙和子は、息子が小学校に入ったのを機に時間をもてあましてしまい、「家事の手は抜かない」という条件でモデルハウスメーカーのパートに出ることを許してもらう。もともと結婚までインテリアの仕事をしていた沙和子はパートでの成績が認められ、香港出張に行くことになった。ところが香港のハッピーバレー競馬場で出会った男性・門倉に惹かれてしまう。その場では何もなかったが、「一年後、同じ場所で会おう」と門倉に言われ、その翌年から毎年、年に一度の逢瀬を重ねていた。一方、陶器メーカーに勤める夏凛は、友人と観光旅行に来た香港で年下の大学生、野口と出会う。このカップルもまた、その場では何もなかったものの、「一年後、ハッピーバレー競馬場の同じ場所で」と約束する──。
砂の城の殺人・谷原秋桜子(創元推理文庫)
女子高生の美波は、ひょんなことから廃墟を撮影する写真家の助手をすることに。ところが訪れた廃墟でミイラを発見! しかもそれは写真家の知っている人物で──。シリーズ第3弾にして書き下ろし長編。
コーリング 闇からの声・柳原慧(宝島社)
人が殺されたり遺体が放置されていたりして汚れてしまった部屋を掃除する、特殊清掃業者の純也と零。二人が今回請け負ったのは、浴室の中で死んだまま放置されていた津田恵美の部屋だった。ところがその後、純也は普段参加しているSNS(mixiみたいなやつね)で津田恵美の名前を見つける。津田恵美は自殺だったのか、だとしたらその理由は? 純也は放っておけず、生前の津田恵美について調べ始める。
ステーションの奥の奥・山口雅也(講談社)
うわあ、これ、面白い! この叢書の中でかなり上位に入るぞ。もちろん謎解きミステリとしてみると「いや、そりゃアンフェアでしょう」と突っ込みたくもなるが、それ以上に、物語を読むワクワクがいっぱい詰まっているのよ。ともすればトラウマになりそうな作品が散見されるこの叢書の中で、太田忠司・高田崇史作品同様、何のてらいもなく「子供の頃に読みたかった」と思う作品であり、「これ、面白いよ」と小学生の姪っ子に差し出せる作品だ。
まずは、情報小説としての面白さ。東京駅構内のあれこれの話は、もしもあたしが東京に住む子供だったら間違いなくこの本を片手に東京駅探検に出かけていただろう。いや、子供じゃなくても、東京に住んでれば、この本を読んだとたん東京駅に出かけ、「ああ、これが!」と歩き回るに違いない。と同時に、そこから駅という施設の特徴や歴史に興味が広がる。吸血鬼伝説にまつわるいろんな話も、そこから他の吸血鬼話を調べてみたくなる。そして(アンフェアではあるけれど)伏線がどんどん繋がるあたりや、ブラウン神父なぞを読んでる小学生の探偵コンビがあれこれ推理を巡らすあたりなどは、ミステリそのものの楽しみだって伝えているのだ。やや説明過多のようにも見えるが、登場人物も言っているじゃないか。「新しく自分の知らない何かを知るってえのは、実に楽しいこと」って。本書はまさに子供たちにとって「自分の知らない何か」を新しく知る入り口になっているってわけ。
徹頭徹尾エンターテインメントなこの物語の終盤で、ある人物が口にする言葉がいい。「本を読んで知識を増し、思考力を鍛えるんだ。お前は体が小さいから、腕力や体力で勝負するよりも、知力で勝負しろ。他人に言われるがままじゃなくて、自分自身の頭で考えられるようになれ。お前にはそれができる。知性は人間にとって(中略)最高の武器だということを忘れるな。だから本を読んでおけ」──メッセージというには、あまりにストレート過ぎるかもしれない。けれど、子供向けなんだもの、ストレートでいいのよ。子供(いや大人も)が本を読む意義のひとつは間違いなくここにある。友達ができないとか、いじめられてるとか、そういう悩みを抱えた子供にとって、これは本当に直球の「本を読んで育った大人からのメッセージ」だもの。
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難易度によって5段階に分けられており、「2005年、得点圏打率がセ・パ両リーグ最高の4割8厘をマークしたバッターは誰か」「3つのポジションでゴールデングラブ賞を獲得した選手は?」なんていう超簡単な問題から、「1976年の新人王・田尾安志がシャンプーのCMで共演した女優は」ってな「なんじゃそりゃ!」という問題まで実に幅広く、楽しい楽しい。
ただ、すべての問いが4択になっているのが不満。そのまま答えさせれば良いのに、4択になっているばっかりに、答を知らなくても消去法で正解が導き出せるものが少なくないのだ。例えば、「ナゴヤ球場のスピードコンテストに出場し、137km/hを出してプロを驚かせた、地元の大学生は誰か」という問いがある。これ、マニアックでとても良い問題だと思うんだけど、選択肢が「近藤真一・岩瀬仁紀・朝倉健太・彦野利勝」の4人なのだ。この選択肢はダメだろう。だって問題で「大学生」と言ってるのに、この4人の中で大卒選手は岩瀬だけだもん。あとの3人は高卒でプロ入りしてるもん。岩瀬のこのエピソードを知らなくても、「近藤も健太も彦野も高卒ルーキーだった」ということを思い出せば、正解が分かってしまうのだ。他にも「福留孝介が1999年に入団して最初の北谷キャンプで同室だった同郷の選手は?」という問題に対し、選択肢は「種田仁・井上一樹・中村武志・関川浩一」。これもダメでしょう。だってこの中で、明らかに孝介と同郷(鹿児島)なのは一人しかいないじゃん! ことほど左様に、せっかく問題はいいのに選択肢の作り方がユル過ぎるのだ。これはいかんなあ。まあ、逆に言えば、3人が高卒であることや、3人は鹿児島出身ではないということを知らなければこの問題は解けないわけで、そっちの知識を試しているという解釈もできるんだけど。とまれ、こういう企画本は最初からファン向けなんだから、もっと「本気」で作っても良いんじゃないかなあ。
あと、写真問題やデータ問題も欲しかったかも。サインを見せて誰のか当てさせるとか、過去の優勝決定試合のスタメンオーダーを言わせるとか、優勝決定試合のウィニングボールをとった選手を言わせるとか。……優勝がまだたった6回と少ないからこそ成り立つクイズだなあ。しゅん。
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図書館内乱・有川浩(メディアワークス)
ああ、このシリーズはやっぱり面白い! ライトノベル的なキャラ付けや会話はやっぱりコッパズかしいし、若さ溢れる文言はやっぱり痒いけれど、コッパズかしさも痒みも「図書館戦争」よりは数段少なくなった。「どんなに思想は高邁でもキレイごとだけでは世の中動かない」という現実に対し「キレイごとのどこが悪い!」と正面突破する主人公の青さと若さとそして強さは何よりも魅力だ。その青さと若さが、仲間や上司によって制御され薫陶を受け少しずつ成長して行く。青さの持つ強さは無くさないまま、経験値をあげていく。その様子に「頑張れ!」とエールを贈りたくなる。
連作短編という体裁になっていて、一巻に比べ脇役にも多くスポットが当たっている。【両親撹乱大作戦】では、戦闘隊員であることを両親には隠している郁のもとに、その両親がやってくるという事件のドタバタ。親子の描写も微笑ましいが、中に、現在の図書館でもまったく同じレファレンスのエピソードが出て来る。利用者からの質問に図書館員がどう対処するのか、という図書館情報小説な部分も興味深い。【恋の障害】は、郁の上司である小牧に思いを寄せる難聴の少女の物語。多分にストレートではあるが、本シリーズのテーマとも直結する大事なメッセージが、決して「主張」ではなく登場人物の自然な感情として物語の中に組み込まれているため、とても印象的。【美女の微笑み】は、郁の同室、柴崎の物語。美女で如才ない彼女は普段からモテモテだが、利用者の男性が彼女を昼食に誘ったことから物語は始まる。ここから【兄と弟】【図書館の明日はどっちだ】にかけては続き物の話で、ここまでの二作が「図書館員の日常」だとするなら、ここからはまさに「戦い」が描かれる。
敵であるメディア良化委員会と戦うのではなく、図書館内での派閥の戦い。その構図は一般企業小説もかくやという権謀術数だが、それを著者はライトノベル特有の簡略化とデフォルメで分かりやすくテンポ良く展開する。未成年犯罪者の個人情報を載せた週刊誌を閲覧させるべきかどうか、書評サイトの攻撃的な悪口が何を招くか、そして何より、目的は手段を正当化するか否か。こういった社会派なテーマをエンターテインメントの中に散りばめ、読者を楽しませると同時に考えさせる。なんとも巧い。おまけに強い「引き」まで用意してくれて、こりゃ次巻も読まずにはいられないや。
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「檻のなかの七匹の獣」の設定が作品のキモ。重罪を犯した犯人を、被害者から三親等以内の遺族が復讐として殺す事ができるという法律が施行される。けれどそこには様々な制約がある。所定の建物の中で三日以内という場所と時間の制限に加え、犯人(通称・トラ)と遺族(ヤギ)の他に、仇討ちを助太刀する協力者(ヘビ)が一人、それから中立の立場の人間が4人(クマ、カメ、イヌ、サル)参加し、その現場には都合7人が集まることになるのだ。ヤギは、協力者であるヘビ以外には自分がヤギであるということを気取られずに事を為さねばならない。もしも7人の中にいる「探偵」役のサルに見抜かれてしまうと、ヤギの本名や仇討ちの顛末がマスコミにばらされることになっている(これは、安易に復讐したいという遺族を篩いにかけるための方策)。7人は誰が何なのか完全には分からないまま、トラが殺されるのを待つ──。
うん、パズラーとしてこの設定が魅力的なのはすごく良く分かる。前提条件さえルールとして飲み込んでしまえば、実に良く練られていて感心しちゃうよ。ただ(これはパズラーとしての評価とはかなりズレた感想なので、そこはお含み置き戴きたいのだが)、三親等内、つまり自分の子供や親や孫や兄弟が罪無く殺されたら、その犯人を殺してやりたいと思うのは自然な情でしょう。そこに、こういう「頭の体操」みたいな極めてゲーム性の強いシステムを持って来るということに居心地の悪さを感じるのよ。著者や読者にとってはゲームでも、登場人物にとっては生死の問題。恨みや哀しみが深ければ、自分だとバレようが何しようが復讐して、その後で死んだ子(親)のところへ自分も行こう、くらいの気持ちで事に及んでも不思議はないと思うのよね。そういう情の部分と、自分だとバレないように策を弄し演技までできるほどのゲーム性の強い展開が、なんだか感情的に相容れなくて。まあ、それは本格ミステリの「お約束」として飲み込めばいいんだけど。実際に遺族感情を汲む法律を作るならもっとシンプルなルールがいくらでも作れる筈で、つまりミステリを成立させるためだけにこの込み入ったルールが作られたというふうに感じられちゃうのが残念。
ハードボイルド作家の章は、「檻」の章からは一転、デフォルメされた人物像とステレオタイプの展開になっているが、これは著者がわざとそうしてるんだな。ステレオタイプだったものが次第に含みを持っていく終盤が読みどころ。この終盤でのサプライズには脱帽だあ。二つの章立てがどう関係するのか、あれこれ可能性を数パターン考えながら読んだつもりではあったが、見切れなかったなあ。この仕掛けは見事だ。
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血烙 〜刑事・鳴沢了〜・堂場瞬一(中公文庫)
警察小説と冒険小説のいいところが合わさったような作品だなあ。恋人の息子であり、間もなく自分の息子になるかもしれない子供を助けようとする了、その了に共感して手助けしてくれる複数の人物など、人との関係の描写がとてもいい。特にアトランタ市警のドーナツ好きの警官と、マイアミの女好き私立探偵がサイコー! 彼らのスピンオフ作品が読みたいくらい。
今回のテーマは家族だ。「刑事である自分がすべてだった」という了が、今ではもっと大事なものが出来た、と感じるシーンが印象的だが、それがつまり優美や勇樹という家族のことなのね。けれど敵であるチャイニーズマフィアのワンにも家族はいる。盟友七海は自分の親を殺したワンへの復讐に囚われ、ワンの娘もまた「マフィアの父」を持つが故の悩みを抱え、登場人物それぞれが「家族」になにがしかの思いを抱えている。
そんな中で、「家族同様の子供を救う」ことに刑事生命を賭ける了。けれど了はワンの「動機」を知ってしまう。詳細は書けないが、それもワン自身の家族に関するものだった。家族を大事に思う気持ち同士がぶつかり合う。自分の大事なものを守るために、他人の大事なものを平気で犠牲にするワンに対し、それは「勇樹を助けるためなら、警察のルールも仁義も、他人の生活もどうだっていい」と考える自分も同じだ、と了は気付く。それに気付いたとき、了は迷う。しかし立ち止まることは状況が許さない。考えねばならないことに蓋をして了は走り続ける。そこがなんとも胸に迫る。
冒険小説としてもエキサイティングでテンポが良く、厚めの文庫本だが長さを感じずのめり込めた。アクションも、FBIを出し抜く駆け引きも、ちょっとした和みのシーンも、真相解明のドキドキも、どれもいい。冒険小説の全ての要素がバランス良くメリハリ良く混じり合って、文句無しです。続きが早く読みたいなー。
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ああ、きれいな話だ。これはもう、童話だ。優しいけれどホントに頼りないお父さんと、しっかり者の娘。そこに展開される事件は、幼稚園で卵焼きがなくなったり、小学生の娘が急にいなくなったり、中学で娘がいじめに遭っているのではないかと心配したり、クリスマスプレゼントの落とし主を捜したり、入れ替わったビスクドールを探したり。その度にお父さんは慌て、取り乱し、そして「天国の瑠璃子さん」が現れる。
実際、このお父さんてば頼りないにもホドがあるのだ。落ち着いて考えれば簡単に分かるようなことも多いぞ(それはミステリとしてはちょっとどうか)。けれど泡を食ったお父さんと、けろっとしている娘に、なんとも読者は暖かい気持ちになる。ちょっと変わった親子ではあるけれど、こんな父と娘っていいな、と素直に思える。その真骨頂がラストシーンだ。正直「出て来るのは良い人ばかりだし、事件は大山鳴動してネズミ一匹って感じだし、悪くはないんだけど全体にユルいよなあ」と思いながら読んでいた部分があったのよ(すみません)。でも、(これはミステリ部分とは関係ないので書いてしまうが)娘が嫁ぐとき、そんな過去の事件のワンシーンが次々と甦るくだりは、なんとも暖かで感動的だった。それこそ、映画のワンシーンを見ているようで。
ミステリとしては伏線が素直なので総じて易しく、謎解きに感嘆するといった類いのものではない。「日常の謎系本格ミステリ」であるなら、そこいらはもちっと凝って欲しい、とは思う。けれど童話のようなこの二人の成長物語には、これくらいのんびりユルいミステリの方が似つかわしいのかもしれない。
ところで、この「瑠璃子さん」は何なんだろうなあ。ちょっとサイコな想像をしてしまった(例えば瑠璃子さんを思うあまり・娘をちゃんと育てたいと思うあまりにハルさんが作り出した別人格とか)りもしたんだけれど、そういう想像も、ほんわかした童話には似合わないやね。
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一昔前までのコージーの主役は主婦だったけど、最近は独身(もしくはバツイチ)でちょっと変わった専門職についてる女性ってのがすっかり主流。「恋も仕事も」って風潮はコージーにまで及んでいるのだなあ。でもって今回は、弁護士にしてペットシッターだ。本国では既にシリーズ4作が刊行された人気シリーズなんですって。EQMMに作品を発表してる現役弁護士の作家さんだっていうから、けっこう硬派な作風なのかしらと思ったら、謎解きそのものはあまり工夫がなくて残念。
だってね、確かに意外な犯人ではあるんだけどさ、伏線も何もないのよ。ぜんぜんフェアじゃないのよ。本格じゃないから文句を言えた義理ではないんだけど、それにしたってもうちょっと「あ、そうだったのか!」と読者が膝を打つ部分があっても良いと思うのだがなあ。そういう点では犯人探しのミステリとしての醍醐味はゼロと言っていい。
でもね、細かいところが楽しいの。特にこの犯人との対決シーンは秀逸! 中盤から仕込まれていた伏線に、感心するよりは笑ってしまった。対決シーンが始まった時点で「ああ、あれをああいうふうに使うんだ!」ということが予め読者には分かってしまう。分かってしまえば意外性はないんだけど、でもその「必殺技」が出るのをワクワクしながら待つ楽しみが生まれるのよ。
それに何より本書の最大のポイントは、陰謀と濡れ衣で弁護士という職を追われたヒロインがどう立ち直って行くかというところにある。犬を散歩させ、糞の始末をし、餌を与え──そんなヒロインに対して元の同僚弁護士たちは「そんな仕事してるの? 弁護士だったあなたが?」という目で見るのだけれど、ケンドラは「この仕事は楽しい」「弁護士の資格停止処分が解けても続けたい」という気持ちになってくるのよ。で、「離婚した夫が愛犬を遠くに連れていこうとしてる」と悩む女性の相談に乗るうちに、「私、この方向でキャリアを活かせるんじゃ?」ということに気付いていく。その過程が見事なのね。
ラブロマンスあり、サスペンスあり。ペットたちは可愛いし、ヒロインの設定や造形(ちょっと先走るところはあるけど)もいい。気に入らないのは「ミステリとしてはぜんぜん面白くないっ!」という、瑣末なんだか致命的なんだかわからない一点だけなのよ。どうしたもんかなあ、これは。
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年に一度、の二人・永井するみ(講談社)
「年に一度、の二人」の「二人」とは、沙和子と門倉、夏凛と野口のことではあるが、同時に沙和子と夏凛のことでもある。本編の主人公であるこの二人の女性は赤の他人同士で、直接の接点は無い。けれど人の世の繋がりとは不思議なもので、本人同士が知らぬ間に、ほんのちょっとだけすれ違ったりするわけよ。このあたりの交差のさせ方が実に巧いというか、小憎らしいというか。
永井するみは、視点を大事にする。一人の人間やひとつの事象を描写するのに、一視点からだけの説明で良しとしない。沙和子は主人公ではあるが、夫の道隆も、息子の宗太郎も、彼女の人生の脇役としてこの世に存在するのではなく、それぞれに感情があり背景があり考えがあるのだという当たり前の事実(けれど創作の世界では必ずしも当たり前ではない事実)を大事に考えているのだなあ、ということが分かるよ。だから読者は沙和子や夏凛に感情移入しつつも、同時に彼女たちを客観視できる。「ダブル」もそうだったしその他の作品にも同傾向の手法は見られるのだけれど、主観と客観の違い、そして客観もその当人にしてみれば主観であるということ、主観同士に折り合いをつける行為が人間関係を作っていくということを著者は伝えてくる。と同時に、視点を変えてみせることで主人公たちをより立体的に見せるという効果ももちろんある。
不倫している主婦を主人公に据えながら、さほど嫌悪感を抱かせないのは、香港という異国の地を逢瀬の舞台に選ぶという非日常性と、夫の造形(働きに出るのに「家事の手は抜かない」ってな条件をつける男って!)、そして何より、再会を約束する時点では二人に体の関係はないというところに起因する。これは夏凛も同じ。すっかり関係が出来上がってから約束するのではなく、体はおろか口頭ですら好きと言い交わしたわけでもない。ただ「来年、同じ場所で会おう」といういきなりの約束。それまでの1年間、二人の女はそれぞれ惑うのだ。そこが巧い。
(07.3.9)《詳細情報&注文画面へ》
もともとが富士見ミステリー文庫でティーンズ向けに書かれていたシリーズだけあって、キャラ造形はいかにもという感じ。主人公のドジっ娘・美波に加え、仲良しの2人が、親が刑事で鉄火肌の超美形&大財閥の娘でおっとりお嬢様。キャラ付けの配置として定番、「いろいろやりやすい」組み合わせだなあ。その上、シリーズ探偵となるお隣の青年は毒舌にしてやっぱり「美形」。ティーンズ向け、いわゆるライトノベルのキャラクターは必ずと言っていいくらい一定の割合で「美形」が配置されるものだと変なところに感心しちゃった。どうしてなんだろう? 若い読者にとっての「憧れの対象」を作るためかしら?
さて、本編。朽ち果てた廃墟を舞台に、動き回るミイラや密室など、道具立てはたっぷりしっかり。それほどの道具立てを用意しながら、コミカルでアニメっぽいキャラクタや会話のせいで、決しておどろおどろしい雰囲気にはならず、楽しくサクサク読める。そこは極めて好印象。廃墟、ミイラ、密室という本格推理ならではの「人工性」に、アニメキャラという「人工性」が勝ったって感じなのね。それもミステリアニメというよりラブコメ少女漫画のイメージ。結果、犯人は誰だ密室はどうやったんだという謎解きよりも、美波とお隣の青年の関係はどうなるのかしらお父様は見つかるのかしらといった物語の方に興味が惹かれる。ほら、少女漫画っていろいろ事件が起きてもそれらは結局ヒロインの恋愛成就のためのエピソードに過ぎなかったりするじゃない? それに近い。でもそれは決して悪いことではなく、むしろシリーズとして成立するには効果的な趣向。
ミステリとして見たときに「あ、巧いな」と思ったのはプロローグの使い方。これはキャラクタがどうとかラブコメがどうとかは関係なく、ストレートに「あ、巧い」と感嘆した。謎解きを開陳する際の構成も巧いし、何よりハウダニットのひとつひとつに無理がなく「なるほど」と思わせるだけの下地がある。フーダニットはちょっと簡単過ぎるが、ハウダニットの部分は演出によっては怪奇趣味のおどろおどろしい古式床しいサプライズ系本格ミステリに充分なりえるトリック。それをさくっとラブコメ風味に押し込めちゃうあたり、なんとも楽しいじゃないか。
それにしても、主人公の美波が自分では何もできないってのはチト不満。友達二人とお隣の探偵に全部やってもらってるのが気に入らない。でもこれは裏を返せば、今後彼女の成長が見られるということよね。そこに期待。
(07.3.10)《詳細情報&注文画面へ》
ひやーっ。これは帯にも書かれていることなのでちょこっとだけ内容に触れるが、本書は「キレイになりたい」という女性の気持ちが、タガがはずれて暴走した結果の悲劇を描いたサスペンスなのよ。それがあんた、もう怖い怖い。主人公の純也が霊感体質という設定なので、霊っぽい描写もあるのだけれど、それがむしろ邪魔なくらいテーマそのものが怖い。つか、霊感体質っていう設定は要らないんじゃないのか。話のモチーフそのものがかなり社会的であり専門的であり現実的だから、霊感部分と相容れない感じを受けるんだけど。まあ、その社会的であり専門的であり現実的である複数の要素ってのがけっこう唐突に出て来るきらいはあるので、そこの構成の接着剤として霊感体質が必要だったのかなと思えないでもない。そこいらの構成の荒さはちょっと気にはなるのだが、でも全体を貫くストーリーの骨格は見事よ。これは読ませるよ。
自分がもう少しキレイだったら人生は違っていたんじゃないか──これは女性なら(男性でも?)誰でも抱く自然な感情。でもね、キレイかどうかは相対評価なのよね。あの子はキレイ、私もああなりたい。そんな思いは、あの子がブスになればいい、に通じるわけで……いや、そこから先は読んでくれ。読み終わったあと、鏡を見ながら「シワなんて気にしない気にしない」と思わず自分に言い聞かせてしまうほどの具体的な怖さがここにある。
純也たちに協力してくれる風俗嬢の沙莉奈がいい。プロ意識をしっかり持ち、自分にとって何が大事か、大事なものを生かす為に何を犠牲にするか、その取捨選択ができている。取捨選択のための覚悟がしっかりしている。「キレイになりたい」という思いは、ネガティブなコンプレックスになり得るのと同時に、ポジティブなモチベーションにもなるのだということを教えてくれる。
特殊清掃業という設定もなかなか面白い。同じ設定でいろんな事件が書けそうだなあ。連作短編とかにすると面白いかも。ああ、でも、死体の残滓を掃除するシーンを何度も読まされるのもちょっと辛いかしら……。
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