仁木兄妹の探偵簿〜雄太郎・悦子の全事件 兄の巻/妹の巻・仁木悦子(出版芸術社)
最大の疑問がひとつ。「青い香炉」がなぜ「妹の巻」に掲載されているのか?「初秋の死」「赤い真珠」「ただひとつの物語」がなぜ「兄の巻」に入っているのか。ああ、これが最大の謎だ。なにかここに隠された秘密(隠されてなかったら秘密じゃないが)があるに違いないわっっと思わず拳を握りしめてしまうあたしってばお茶目。そうでなくて。ただ単純に不思議なのです。雄太郎が登場しない三作が兄の巻に、雄太郎の真骨頂である筈の「青い香炉」が妹の巻に。雄太郎の登場しない作品を兄の巻にいれるくらいなら、「虹の立つ村」を入れるのがスジのような気がするんだけど。ああ、気になって作品の感想が書けません(^^;)出版芸術社の方、これをもしも読まれましたら真相をメールで教えてください。お願いします。責めたりしないから。何と言っても、仁木さんが亡くなられた今、彼女の新作を読む術のないファンにとって「月夜の時計」「横丁の名探偵」の収録は画期的なことなのです。出版芸術社、えらい!だから教えてください。m(_ _)m (96.11.2)
あなたとワルツを踊りたい・栗本薫(早川書房)
アイドルスターと、そのファンの女性、その女性を付け狙うストーカー、そしてアイドルを狙う同性愛の男優、とまぁ入り乱れた中で、それぞれの一人称で話は進む。さすが栗本氏のお家芸の世界という感じのする人物設定ではあるが、筆力がありすぎるせいか(?)各人物がすべてそのスジの典型のようになってしまっている。「絵に描いたような」ミーハーでありストーカーであり、芸能人。ああ、こうゆーひとって居るよねーという感じより先に、ああ、こーゆーひとってありがちだよねー、となってしまうあたりが、ちょっと興を削ぐ。
歴史上の人物を探偵役に据えるというのは、今ではけっこう手垢のついた手法ではあるけれど、誰を選ぶかというあたりで作者の力量が問われる気がしますね。あたしの印象に残っているだけでも、夏目錦之介、折口信夫、森鴎外、モーツァルトなんつーあたりが有名な推理小説で探偵役をやってますが(それぞれ何という小説でしょう。暇なひとは考えてみよー。)、知っているひとが小説に登場してるような気がして親しみやすいし、その探偵役の特技とか性格を聞いたことがあるだけに色々期待できて面白い反面、なんでカレなの?という必然性のないものも多々ありました。
行間やページの隙間から「力作だぞぉ!力一杯取材したんだぞぉ!どーだぁ!これでもかぁ!」という声が嫌が応にも聞こえてきそうな作品であります。いや、ホントに力作だと思うな。「芦辺拓が化けた!」とまでは行かないけれど、化けるエポックメイキングになる作品ではないでしょうか。これまでの森江春策シリーズってのは、どっかにまだ同人誌的ノリを引きずってたような感があったわけですが、今回はそれがありません。
麦酒の家の冒険・西澤保彦(講談社ノベルズ)
偶然迷い込んだ山荘にあったものは、大量のビールが詰められた冷蔵庫とベッドだけ。一体なぜ、こんな不可思議な山荘が存在しているのか?与えられた状況だけをヒントに主人公達が推理をこねくりまわす。いわば「机上の空論推理ゲーム」。作者本人が後書きで言っているように「九マイルは遠すぎる」の長編版と言えば判りやすいかも知れない。だけどねーーー、と、へそ曲がりなあたくしは思ってしまうのです。これ、短編でよかったんじゃなかろうか。与えられたわずかな状況から導き出される推理は、ただつじつまがあっているだけというなら無数にある。だから、4人の登場人物があれやこれやと推理を披露し、その穴を見つけ、というのは当然あり得るとは思うけれど、本の半分以上が「推理の披露とその穴探し」に終始してるのはチト冗漫に過ぎるような気がするのよね。せめて半分にしてほしかった(^^;)。ババのないババ抜きみたいなんだもん。
模造人格・北川歩美(幻冬舎)
北川氏の三作めであります。2作目の「硝子のドレス」がかなりよかったので期待してたんですが、ううむ。途中まではよかったのよねー。けっこうぐいぐい引っ張られてたんですが、日田さんが暴走を始めたあたりからなんだか失速。いや、失速じゃないな。それこそ「暴走」といった感じでありました。
それぞれが破綻に向かう課程は、さすがという感じでどんどん読み進められるのだが、ううむ、残念ながらこれはあたくし、推せませんわ(;_;)。だって読後感が悪いのよ。だからなんなの、ってなっちゃうの。最後のページまで読んで、めくったら奥付が出てきた時には本を落としそうになりましたね。中途半端。登場人物全部が行くところまで行っちゃって、行きっぱなしで終わるんですもの。これをどうにか着地させて欲しかったなぁ。破綻するだけさせといて終わりってのは、まぁ、それはそれで恐さはあるのかもしれないけれど、ホラーにはなり得ない程度の恐さだし。いきなりアルジャーノンされてもなぁ。「正常」の方が恐いと思うし。前作の「怒りをこめてふりかえれ」も薫クンの私憤ぶちまけと神様のような伊集院というだけで今イチだったし、栗本ファンのあたしとしては「仮面舞踏会」レベルのモノを早くまた生み出して欲しいとおもうのであります。(11.3)
海賊丸漂着異聞・満坂太郎(東京創元社)
で、今回はジョン万次郎なわけです>探偵役。幕末の日本にあって、田舎の離島に漂着した外国船に戸惑う島民の中から先進的に頭の切れる探偵役を出すよりは無理がないし、今後の日本の変化を予感させる上でもいい人選だと思いましたです。外国船でおきる事件を日本人が知る上で必要な通訳という役も果たしてるわけだし。このあたり、上手な設定です。で、このジョン万次郎が探偵役ではあるけれど主人公ではない、というあたりが秀逸です。主役の市左衛門がいいのよ、これが。きっとこのひとは、開国の動乱の中で島民のいいリーダーになったであろうと思わせるあたり、読後感がいい。カレの成長物語でもあったのね、これって。主役と探偵役の切りワケが成功してる、いい例だと思うです。。
牢抜け島抜けのトリックや船長殺しのトリック自体はけっこうオーソドックスなもので目新しさはなかったけれど、この時代ですから目新しくない方がいいような気もするし。オーソドックスな割には、けっこう上手に騙してくれて、マル、であります。できればもう少し、流人の状況や背景、島民との関係に関して書き込んでるとよかったかな。ともあれ、最近の鮎川哲也賞受賞作って、当初に比べると受賞後の作品にパワーがなかったし、ここはひとつ期待点をさしあげたい、ということでおすすめマークを差し上げましょう。妙なパズル本格に走らないでね(笑)(96.11.8)
時の誘拐・芦辺拓(立風書房)
内容は大阪で起きる要人の娘誘拐事件。そして戦後すぐにおこった殺人事件。このふたつが語られます。現在の話の方は抜群に面白かったっすね。誘拐モノの第一人者は(今はなき)岡嶋二人氏だと勝手に思ってるんだけども、肉薄してます。話のテンポも小道具も謎も充分で、非常に楽しませてもらった。それに比べると戦後すぐの事件の方は、時代背景に力が入りすぎてちょっと事件そのものは中だるみの感がしましたが。まぁでも当時の情景を勝手に想像しながら楽しく読めました。トリック云々よりも物語として面白い。これはすごいことですよ>新本格の面々!難を言うと、森江が犯人の名前をつきとめる下りが、チトご都合主義かな。(^^;)わずかに見られる同人誌ノリの片鱗というか。でもそれも、大きな傷ではないし。勢いに押されて一気呵成に読める、佳作であります。氏の作品の中では文句無しにベストですね。
蛇足。大阪と東京の対立というのは真面目な話にしろギャグにしろ多々あるわけだけど、460ページの最初の森江のセリフには思わず頷いた関西人が多いのではないだろうか。あたし自身も、あの時には大阪に住んでいたのでとてもよく理解できる心情なのよね。だが、東京のひとが読んだらちょっと「主観にすぎるんじゃねーかい、べらんめぇ」と思われるかな、という心配もあるけど。でも元大阪在住者として、こうしてあの話を小説に取り入れ、読者に「思い出させてくれる」というのは、とても大事な事であり嬉しい事だと思うのである。(96.11.9)
で、実際の推理の方は、「そりゃまたずいぶん、ずいぶんねっ」てなもんです。あの結末ではジョッキの存在と子供向けデザインのリネン、トイレットペーパーに関しては説明がつかないんじゃないかしら?その上、アレが真相なら、そんな道路から目に付く判りやすいところに3日も前から準備するかしらね。実際に事前に気付いて不思議に思ったひともいるわけで。「推理の披露と穴探し」の部分では、ずいぶん細かいツッコミがされた割には、最後の推理に限って穴が見過ごされるというのも、なんだかなぁ、なのです。まさか「現実の事件とはそんなもんだ」なんて言わないわよね。
まぁでもこれまで好評を博してきた「すっとんきょーなSF仕立て」の作品に甘んじることなく、「本格」に挑戦するあたりは上昇志向が見えるような気がして、いいものです。頑張ってください、ね。(96.11.10)
人間の記憶とは、人格とは、というのがテーマなんだから、周り全部が正常でその中のひとつの異常という書き方よりも、誰しもがうちに秘める異常というのを描きたかったのかもしれない、とまぁ好意的に解釈をしてみたりもするわけですが。読んでる方はけっこう疲れるし、つまるところ誰にも感情移入ができなくなる。主人公(?)の杏菜は記憶が定かでない状態で、そりゃまぁ不安なんだろうけれども、読んでるこっちも不安になるのよね。誰を信じていいのか判らないんだもん(笑)。登場人物に対して自分の抱いていた印象がもう章ごとに変わりっぱなし。「意外な真相」が出るのなら驚くけど、「意外な解釈」「意外な一面」を連続して見せられてる感じがして、なんだかなぁ、とにかく疲れる作品でした。
傾向として処女作に戻ったって感じかな。2作目はマジよかったんだけどなぁ。サイコサスペンスにするよりも、理にかなった結末を用意すると面白い本格になり得たような気もするのですが。(96.11.12)
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