お厚いのがお好き?


天使の屍・貫井徳郎(角川書店)

 息子の突然の自殺。その謎を知るために父親が立ち上がる……とまぁ、設定としては岡嶋二人氏の「チョコレートゲーム」に近いものがあります。近いというよりは、一緒、かな。展開も同じだし……も同じだし。違うのは動機だけかもしれん、ということで、チョコレートゲームが好きなひとにはお勧めです。父親の苦悩も、謎解きの醍醐味もままあってそこそこ面白かったんだけどもね。なんかやっぱ「チョコレートゲーム」がちらついてしまいましたですわ。つまりは、新しさや時代性に乏しい、かといって普遍的な社会テーマかというと少し違うし、伝統的な本格でももちろんない、という、なんともどっちつかずな評価になってしまうわけで。
 誤解のないように言っておきますけども、あたしは貫井氏のファンなのです。この話だって、滅茶苦茶書いてる割には、実は気に入ってるのよ。話の設定自体とっても好きな部類だし、文章もさすがに爽やか。そのヘンの駄作よりもよーーーっぽど面白かったのです。ただ、何度もいうけど、これなら「チョコレートゲーム」の方が秀作だなぁ、と。なんか全体に淡々としすぎていて、こういう話には書かせない切なさがないの。父の気持ちも、息子をとりまく友人の気持ちも、教師の気持ちも、なんか表層だけで切なさが伝わってこない。小道具やエピソードが少なくて、なんだか事件のルポみたいに見えたんですのよ。ううむ。 (96.12.1)

探偵事務所 巨大密室・鳥羽亮(角川文庫)

 何はともあれ、タイトルに惹かれますね。いひひ。臭いとは思うんだけどもさ、「探偵事務所」っていう味もそっけもないタイトルっていうのは、典型的な安楽椅子探偵か、そうでなければ、軽ハードボイルドのどっちかだという感じがするじゃないですか。もう、このタイトルだけで買ってしまったのですわ。で、読んで初めて、同じシリーズの本を自分が持っていた事に気付いたんだけどもね。わはは。
 タイトルにもなっている「巨大密室」は、密室の謎自体は結構簡単にばれてしまうと思うのだけれど、これは謎が魅力的ですね。一枚の写真に写っている女性4人。写真から数年を経た今になって、その写真と同じ服装でその4人が次々に死んでいく、と。なんで死ぬの?というよりも、なんで同じ服装なの?っていう、いわばどーでもいいような事を謎にするのが上手だと思うのです。不可能を論理で可能にする、という本格モノの王道だと思うのだけれど、登場人物もマンガ的というかドラマ的で(ああ、だからドラマ化されたのか!)その分、本格らしさが薄れてしまったのは否めません。まさに、二時間ドラマ向けの小説ではありました。ただ、屋上に立ってる女性の姿をひとに見せるためにアレを使うっていうのは……ちょっと無理があるような気がするんですけど(^^;) (96.21.1)

奇跡島の不思議・二階堂黎人(角川書店)

 この作者の代表シリーズである二階堂蘭子モノは、どうも新劇チックな嘘っぽさが合わなくて嫌いだったのだけれど、この作品はなかなかに面白かった。いわゆる「新本格」であり、典型的なフーダニット。閉ざされた孤島・見立て・探偵役・意外な犯人などなど本格に必要(?)な要素が網羅されている。メタミステリ流行の最近にあって、久しぶりに懐かしさすら感じる作品だ。イメージとしては綾辻行人氏の館シリーズを彷彿とさせる。ただ違うのは、これはシリーズものではない(少なくとも、最後の最後までは。)ために、例えば二階堂蘭子のように最初から犯人として除外される人物がいないことである。だから、登場人物には均等に犯人である可能性がある。犯人自体や見立ての意味自体はさして意外でもなかったが、「犯人であることの均等な可能性」のおかげで、後半の様々な推理披露や駆け引きがかなり楽しめ、ページをめくる手が早くなった。シリーズ探偵が登場してこないために(このあたり、なかなか感想の書き方が難しい(笑))、読者も五里霧中・疑心暗鬼にさせて、登場人物の中に放り込まれる。こういう純粋な謎解きモノの方が、「冒険活劇・蘭子シリーズ」より数段いいと思うんだけどなぁ。「軽井沢マジック」「私が捜した少年」など、蘭子以外のシリーズはマジ面白いんだから>作者。別に蘭子に恨みがあるわけではないんだが。何と言ってもウチの母と同じ名前だし>蘭子。かんけーないか(笑)。ところで、「隠されているモノ」って何だったんだろう。判ったひと、教えてください。 (96.12.2) 

OKAGE・梶尾真治(早川書房)

 新刊ではないんだけど、今年の「このミス」範疇ということでこっちのコーナーに入れます。
 ある日、全国各地で子供がひとり、またひとりと姿を消す。突然の児童大量失踪現象。そして、その子供達のそばにいた、オトナには見えないモノ……うわぁ、なんてワクワクするんでしょ。これは推理小説ではなく、むしろ、SFあるいはパニックノベルの類です。しかし、この設定からして面白い!なんでこんな事考えつくかなー、やっぱすごいな、プロの作家って。こういう作家がたまにいるからこそ、人間の想像力の果てしなさを痛感することができるのです。子供の失踪後、全身骨折&全身火傷の男が無傷で再生するわ、お父さんは妖怪に変身しちゃうわ、死人は動くわ、火山は噴火するわ、津波は起こるわ、地軸はずれるわ、そりゃもう大騒ぎさ。何もここまで滅茶苦茶にせんでも、というくらいの怒涛の設定です。でも文章が巧いから読んじゃうんだよねー。
 どきどきわくわくのファンタジーサスペンスではありますが、はちゃめちゃな設定ではありますが、でも、もしかしたらこういうことって、あるのかもしれないという気にさせるあたりが巧緻。特にエピローグが胸キュンものです。プロローグとエピローグの妙が、なんだかそれだけでもこの本を読んだ価値があったような気にさせてくれる。あたしたちって、忘れてしまったけれど、今はもう見えないけれど、こうして大過無く毎日を過ごしているそばには、グーやゴブがずっと居てくれたんだろうな、なんて真摯な事を考えてしまうあたしなのでした(涙) (96.12.3) 

勇気凛凛ルリの色・浅田次郎(講談社)

 面白い。面白くて、そして胸に来る。とくに「サチコの死について」「鬼畜について」そして「理不尽について」の三作は胸がつまる。このおじさんは、どうしてこんなに優しいのか。どうしてこうも、忘れそうなことを思い出させてくれるのか。ドタバタのコミカルなエッセイも面白いけど、こういう胸にクル文章が実に巧い。まったくすげーオヤジだよなぁ。
 ただ、「非常について」「再び非常について」「暴言について」の3作は、同様に胸に迫るのであるけれど、あたしには別の意味で、とても平静で読み進めることはできなかった。あの、阪神大震災についてのエッセイである。自衛隊員という職歴を持つ著者ならではの推察と説得力のある文章で、はからずもあの日を思い出させる。あたしは当時大阪市内在住で、行方の判らなくなった友人を捜して、瓦礫と焼け跡の中を歩いた。そばでは著者の後輩にあたる自衛隊の方が昼夜の別なく救出活動にあたっておられた。そんなことが一気に思い出されて、とてもこの章を読み進めることができなかった。辛かった。悲しかった。恐かった。名古屋に引っ越して、距離も情報も遠くなって、自分では忘れかけてると思っていたものが、一気に押し寄せてきた。でもあたしはケガもしなかったし、家財道具が壊れただけで済んだのよ。ライフラインも無事だった。神戸や芦屋に比べたら、被害なんてなかったも同然なのだ。そのあたしが、今だにこうなんだから、より大きな被害を受けた方々にとっては、当然2年では思い出話になろう筈もないのである。 (96.12.4) 

そして謎解きへ【小説推理傑作選】・山前譲(編)(双葉社)

タイタンの殺人(有栖川有栖)バカバカしくて、でもけっこうちゃんと本格。結構好き。
トラップアンドエラー(井沢元彦)ううむ、読めてしまった(^^;)
陰画の構図(内田康夫)いかにも「男性作家の書く元気な女性像」って感じ。
トルストイ爺さん(草野唯雄)うーん、なんか入り込めなかったよぉ。
青い地上(笹沢左保)「出刃包丁は見た!渦巻く女心・プレイボーイも年貢の納め時?」(笑)
村で一番の首吊りの木(辻真先)これもオチは判るんだけどストーリーテリングで読ませる。
動く密室(中町信)舞台が目新しいのと人物がいいせいで、謎の簡単さをカバーしてるね。
ということで、3勝3敗ってところでしょうか。いや、勝ち負けじゃないんですけどね。でもまぁ金払って買った以上は、1作200円として600円の元はとれたということでしょうか。こういうアンソロジーって、ある程度のモノが集まってるわけだから普通失敗はないんだけどね、やっぱこういう「共通の雑誌に収録されたモノの中から集めました」という場合は、とにかく毛色の違うモノが集まってるわけで、あとは自分の趣味にあうかどうかというだけの問題になるのね。結局あたしは、二時間ドラマ的なものは好きじゃないってことでしょうか。 (96.12.6) 


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