お厚いのがお好き?

大矢博子の自分勝手な書評たち〜3月に読んだ本〜


プリズンホテル春・浅田次郎(徳間書店)

 シリーズの最終作。大団円だ。ばんざい。
 お馴染み木戸センセーが文学賞の候補にあがる。つい昨年、どっかであったような話だ(笑)。あまりに知った話に似ているので、これは大本命と目されながらも犬の出てくる話に負けるんだろうと思って読んだ。結果どうだったかは、まぁ読んで下さい。美加ちゃんも出てくるし。お馴染みのメンバーも新たなメンバーも登場します。犬の小説は出てきません(笑)。そして、やっぱり8時40分には印篭が出てきて、めでたしめでたし、御一行は明日も行く、なのです。
 こうして読むと、やっぱあたしは骨の髄までニッポンジンなんだなぁという思いを新たにしますね。判官贔屓で浪花節で、真摯で健気な子供には弱くて、まっこうからぶつかってくる真っ直ぐな心には弱くて、やっぱり苦労したひとには幸せになって欲しくて、狡いヤツにはバチがあたって欲しくて、それでやっぱり、決める時には印篭なり桜吹雪の入れ墨なり桃太郎なりが出てきてほしくて。もう、なんというかシリーズをずっと読んできて最後にこれを読むと、ものすごいカタルシス!原則として一話完結だったこのシリーズを通じ、ひとつだけ解決されないで残っていた問題…木戸センセーの歪んだ感情表現…にスポットライトがあたります。もう、泣かす泣かす中州は博多の繁華街。
 何度も言うけど陳腐なのよ。あざといのよ。でも、どんなに陳腐でも、水戸黄門に印篭が出ずに切られて終わったりしたらつまんない。それと一緒なんだよなぁ。お涙ドラマって、たいてい主人公が白血病にかかって(絶対に糖尿病とか直腸癌じゃないんだよな)彼の腕の中で死んで行くっつーのが判ってるんだけど、でも泣いちゃうってのがあるよね。あれなんだよね、要は。これ以上ないというハッピーエンドで、最高の読後感が味わえる一冊なのです。 (97.3.1)
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船上にて・若竹七海(立風書房)

 若竹七海氏の短編集。このひとって、あたしこれまで一定のイメージを持ってたんだけど、この短編集はずいぶんとりとめがないというのが第一感想。作風がバラバラなんだよね。こういうのって「引き出しが多い」と評価される場合と「まとまりがない」と言われる場合とがあるのだけれど、後者です。中にはいいのもあるんだけど、どうも一冊の本という見地からみると統一されたカラーがなくて、一冊の本を読んでる感じがしないのよね。短編集とは言え、テーマが欲しいところです。てなわけで個別評価。
【時間】いいたい事はわかるんだけど、話運びがもっちゃりしてる感じ。
【タッチアウト】設定は面白いんだけど、最後のオチに至る伏線が欲しいところ。
【優しい水】これは面白い。最後の一文が効いてますね。
【手紙嫌い】これも面白い。最後の一文が効いてますね、って同じこと言うな>あたし(笑)
【黒い水滴】うわ、イメージじゃない。同じトリックでも一人称じゃないほうがスッキリ読めそう。
【てるてる坊主】チト文章が判りにくい気がするんだけどなぁ。自分の理解でいいのか不安。
【かさねことのは】えーっと、何がやりたかったのかな?単なる叙述物という事でいいのかしら。
【船上にて】「海神の晩餐」の姉妹編と言ったところか。
 (97.3.3)
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プラスチック・ラブ・樋口有介(実業之日本社)

 好きな作家の新作を続けて読めるのは嬉しい。でも、好きな作家だからと言って作品も常に好きとは限らないのが悲しいところだ(;_;)。樋口氏のコーコーセーもの。「ぼくと、ぼくらの夏」でも「たぶん彼女は魔法を使う」でも「林檎の樹の道」でも出てきたようなお馴染みのコーコーセーです。コーコーセーを書いたらこういうタイプになって、大人を書いたら柚木草平になるあたりが樋口だ(笑)。おまけに名前が木村時郎だっての。キムタクとTOKIOなんでしょう。わっはっは。こういう遊びは好き。
 原則として彼の書く男子コーコーセーはおばちゃんとっても好きなんだけども、今回はチト頂けませんでしたの。連作短編集、なのよね。木村クンの恋愛をテーマにスイートでビター(どっちやねん)な恋のお話が8つ。1年の間に8人も女を変えた木村君に拍手。木村君は主人公だから樋口氏のパターンの性格でいいんだけれど、彼の相手の女の子がそろいもそろって同じタイプなんだよねぇ。気が強くてちょっと我侭で、でも美人で。せっかくの短編集なら違うタイプの子を出して欲しかった。若竹七海氏の「船上にて」の書評で「一冊の本という見地からみると統一されたカラーがなくて」なんて偉そうな事を書いたけども、ここまで同じカラーの話ばかりというのも困るのですよ。ああ(;_;)。他のタイプが書けないわけじゃないのよね。中に出てくるあーぱー女子高生とか、いい味出してるもん。つまり、主人公の木村君も、その彼女も、作者の好きなタイプの男の子女の子を書いてるんじゃないかしら。だから、結果として全部一緒のタイプになってしまう。たまには、気っ風のいい姉御肌の女子コーセーとか、ミーパーなプリクラ娘とか、深窓の令嬢とか、九の一とか、そういうバラエティに富んだキャラを出して頂きたい。主人公はこのタイプ!と決めてるのなら、せめて相手役くらい変えてほしい。だって短編集なんだもん。8作読んでも1作しか読まなくても変わらないなんて短編集、やでしょ?  (97.3.5)
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スラムダンクマーダー その他・平石貴樹(東京創元社)

 非常に東京創元社チックなお話。更科丹希(更級日記だ!)という法務省のOL(というのか?国家公務員でも)が警察と一緒に事件の謎を解く連作短編集。まぁ単なる短編集じゃぁないわけだけど、東京創元社の創元クライムクラブシリーズだというだけで、なんとなく「これだけでは終わらない」というのが判るわけです。
 収録されてる短編は3つ。【誰の指紋か知ってるもん】【スラムダンクマーダー】【木更津の昔は知らず】。正直なところ、パズルとしてはどれも弱いと言わざるを得ません。動機が弱いというのはさておき、トリック自体も非常に弱いというかご都合主義というか。まぁ、半分くらいの不満は、最後の最後で解消される作りにはなっているし、それ自体はとっても面白く読めたし、純正パズル小説(まぁ、本格推理と言ってもいいかも)の割には登場人物の心の襞が若干にしろ伺える部分もあったし。だから総合的には面白く読めたのだけれど、パズルとしての弱さが目立つのです。たしかにメインとなる仕掛けは面白く読めたけれど、なんか大の虫を生かすに小の虫を殺すというかなんというか。【誰の指紋か知ってるもん】っていうのは何だかご都合主義だし、【スラムダンクマーダー】は殺人の仕掛けに無理があるし、【木更津の昔は知らず】だって、物証なしの推論で話を進めるし。せっかくメイントリックが面白いんだから、個々の話もきっちり落としてほしかったなぁ。  (97.3.6)
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101号室の女・折原一(講談社)

 シンプルな叙述トリック(なんか矛盾してるか?)の短編集。いかにも折原ちっくなのでファンにはいいかもしれませんね。でも、短編で叙述モノってのは難しいのかな?どれもこれも、ネタがばればれか、そうでなければ、なんか物足りないものばかり。引き込まれたのは最後の【わが生涯最大の事件】くらいかな。でも、手紙や手記で構成される作品でどうも気になるのが、話し言葉でなく書き言葉でこんなボキャブラリーつかわねーだろっ!というのが多々あるのよね、このひとは。まぁ、折原一ビギナー向けの作品集という感がありました。 (97.3.16) back

修羅の終わり・貫井徳郎(講談社) ネタバレあり!

 非常に面白く読めたのだが、結末に関してどうしても理解できない部分がある。そこを理解しないままではどんな感想を述べても的外れになりそうなのだな。というわけで、その「理解できない部分」を公開して皆さんのお知恵を仰ごうという魂胆なわけで。したがって、思いきりネタバレします。トリックの根幹に関わるネタバレします。ばらされるのが嫌な人は読まないように!読んだあとで文句言ってもしらないぞ!

*****ここからネタバレ!*****

 この作品は3つのパートから構成されている。第一のパートは公安の「桜」久我恒次が斎藤という高校生をスパイとして使おうとし、それに斎藤の姉の玲子が絡んでくるにつれて自分の信じていた公安のありかたに疑問を持つ話。第二のパートは鷲尾という刑事が売春組織をあげようとした際に何らかの陰謀で免職となり、警察に仕返しを図る話。第3のパートは記憶をなくした「僕」の自分探し。この3つのパートが最後にどうリンクするのかというのが最大の見所なわけである。
 で、結論を言うと、第1のパートと第3のパートはリンクしたのだ。と、思う。多分。記憶をなくした「僕」は真木俊吾という大学生で、記憶をなくしたのは両親を亡くして二りっきりだった大好きな姉を亡くしたショック。姉は自殺で、その自殺の原因を作ったのが警官だという。その警官に仕返しに向かうわけだ。ここで、読者は、その警官というのが鷲尾だと思わされる。なぜなら第2のパートの中で鷲尾は、「両親のいない女性」を犯しているから。真木はその女性の弟なのだと思わされるわけだな。そう思われるように、その女性のバックグラウンドや苗字の違いにも理由がついてるし。ところが、最後の最後で真木が仕返しにいった警察官は、第一のパートに出てくる久我だったことがわかる。久我も上司にはめられて(?)見知らぬ女性を犯すシーンが出てくるわけだ。簡単なシーンなので読み飛ばしてしまうが、その女性が真木の姉だったという解釈が成り立つ。
 ここでどうしても納得できないことが2つ出てくる。
 ひとつ。第2のパートは、真木が仕返しをすべき相手が鷲尾だと思わせるだめだけに存在するということになってしまう。そんなアホな。そのためだけに、こんなサスペンスあふれる話を創るか?しかし、第1・第3のパートと、第2のパートが直接にはリンクしない理由はもうひとつあるのだ。それは年代。第1のパートは1970年代半ば。沖縄返還の調印が話題になったりボーリングがブームになったり「血のメーデー」から20年たってるってコト。それに給料の金額などから判る。そして、その第1のパートと最後に結びつく第3のパートも、同じ時代というコトが言える(と思う。ここの疑問については後述)。ところが第2のパートは中に記載があるように平成の話なのだ。中には遡って昭和50年代のエピソードも出てくるが、それにしたって沖縄返還の時代とはかなりズレがある。じゃぁ、この第2のパートは何なんだ?何のためにあるんだ?
 ふたつ。先ほど、「第一のパートと第3のパートは最後で結びつくから時代は一緒」と言ったが、それにも実は問題がある。最後の最後で第一のパートと第3のパートは時間的にも一致しているように思える。だから「時代は一緒」と判断したわけだが、しかし、第3のパートの中で斎藤拓也の死亡記事を読んだ真木は、拓也の死亡日と自分の誕生日が同じというコトに気付くわけだ。この、沙織の話に出てくる斎藤拓也と第1のパートでスパイ行為を余儀なくされ殺される斎藤という名の高校生は同一人物なのか?第1のパートでは、斎藤のフルネームは確か出てこない。姉が「たっちゃん」と呼ぶだけである。このふたつの斎藤が同一人物なら、第3のパートは第1のパートから約20年たっているというコトになってしまう。(だって斎藤が死んだ日に生まれた真木が大学生なんだもんね)そうなると年代的には第2のパートの方が近くなってしまうんだな。そう考えると、やはり真木の姉は鷲尾に犯された日下芳恵で、山瀬は実は鷲尾側の人間で久我を陥れるために真木に嘘を教えたという推測もなりたつわけだ。でも、それも弱いよなぁ。……(;_;)
 何か重大な読み落としをしてるという気になってならない。第2のパートの存在理由と他のパートとの関係。ふたりの斎藤の関係と、第1&第3のパートの時代的な一致不一致。このふたつが最大の疑問です。誰か教えて下さい。ぜったい何か大事なところを読み飛ばしてるのよね、あたし。ああ。(;_;)(;_;)
 その他、細かい疑問がひとつ。第3のパートに出てくる山瀬とは何者か?最初は公安の藤倉の偽名ではないかとも思ったんだけど藤倉がそこまで久我を陥れる必要もなさそうだし。もしかしたら久我の前のスパイ、森脇かも、とも考えた。久我に対して恨みを持ってないと、真木に久我を襲わせる必然性がないのよ。公安の「桜」が偽名を使うという前提のせいで、もう疑おうと思えば何でも疑えるのよね。 (97.3.21)

*****更なる疑問!*****

 と、書いたら、こいつからメールが来まして。彼のホームページにも書かれてますが、あたしと同じところで悩んでいるということなんだけど、第1のパートと第3のパートは最後でシンクロするから同じ時代であるというのが、彼の意見なのね。第1のパートの斎藤君のニュースを見た佐織が、斎藤拓也が自分の彼だったという過去をでっちあげたわけだから、二人の斎藤が同一人物かどうかは問題ではない、と。で、考えてみました。
 第1のパートで久我は斎藤が行方不明になってからすぐに藤倉に復讐に行って、帰ってきたところを真木に狙われるわけでしょ?斎藤が殺された理由云々が新聞に載って、それを読んだ佐織が前世の話としてでっちあげて何人も男を捕まえる時間がないと思うのよ。ここで、明らかに第1のパートと第3のパートのそれぞれのラストの場面をシンクロさせるのは矛盾が生じると思うのです。どうしたことだ?
 それに、斎藤拓也の死んだ日のちょうど1年後に真木が生まれてたというコトにかんしては、真木が「新聞で見た」ワケよね。佐織は新聞まででっちあげてはいまい、と思うんだけど、どかな。それとも真木が「新聞で見た」というのは、「佐織が新聞で見た」という意味なのかしら?ああ、もう、謎は深まるばかり……(;_;)

 

*****解決しました*****
 うわあああ、教えて戴いて初めて気付いたっ! ほんとだ、ほんとに×が違う……。気付かなかった。すごいな、これ。 back


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