個々の作品はアンソロジーなどで読んではいたんだけど、こうしてまとめて読むと実に巧い。亜愛一郎という探偵役はシリーズキャラクターではあるんだけれども、その他の人物は常に一度限り。こういうシリーズものにありがちなマンネリだとか、同じようなカラーのものばかりになるとか、そういう心配がまったくないのだ。独立した別個の物語が展開され、その謎を解いたのがたまたま同じひとだった、というだけ。シリーズものにありがちな押し付けがましさがない。そこがいい。
罠が聴こえる・平野肇(NONノベル)
盲目のミュージシャンがパーソナリティを勤めるミニFMに電波ジャックが。それが殺人へと繋がり、盲目探偵が動き出すという話。確かに人物も魅力的だし、謎も仕掛けも凝ってて面白い。
まどろみ消去・森博嗣(講談社ノベルズ)
短編集。論理的な本格推理を期待して読んだら、その作風の違いにびっくりさせられてしまった。どっちかってーと、小林恭二氏とかが書きそうな世界じゃないか。全部が全部じゃないけどね。
毎度毎度、よくこのひとはこんな状況を考えつくよなぁまったく(笑)。今回は触ると自分のクローンができてしまうという「ストロー」という壁の中に閉じこめられてしまった人たち。有る意味、吹雪の山荘モノといえなくもない。そう考えてみると、立派に本格推理の王道の設定をしてるワケだ。(ホントか?)ストーリーも、前作の瞬間移動死体よりも物語としてはうまく纏まってると思いますね。
ディプロトドンティア・マクロプス・我孫子武丸(講談社ノベルズ)
推理小説だと思って読んでたら、こーゆー話か!わっはっは。おもろうて、やがてかなしき……という感じですね。中間当たりから、あれ?あれ?と思い、そこからは(本格推理ではなかったという無念さも多少持ちつつ)くすくす笑いながら読み、そしてなんとなく悲しくなって、で、ほのぼのと終わる。なんか、これは童話か?という感じがしたですわ。あの話を思い出したのよね。えーっと、タイトルが出てこない。秋田県の八郎潟の由来になってる民話があるじゃないですか。三年寝太郎じゃなくて、おそらく八郎ってのが名前なんだろうけど、何だっけなーー。出てこない。知ってたら教えて下さいな。
同じ会社に勤めるOL3人(帯には5人とあったけど、あたしは3人だと思ったね)を、それぞれの視点から描いた「女への応援歌」的小説。女性の目から見ると、けっこう賛否が分かれるのではないかと思ったけど、あたしは好きですねーコレ。自分が長いこと会社勤めをしてて、いろんな女性社員を見てきたせいかもしれないけれど、なんかすごく「判る判る、いるいる、あるあるあるぅ」って100人に聞きましたかいな、という感じだったのですわ。
本格推理10〜独創の殺人鬼たち・鮎川哲也編(光文社文庫)
このシリーズも早10冊目である。前回の9巻がけっこうレベルが高かったのでわくわくしてたんだけど、ちょっと失速って感じかな。全般に説得力がないというか。確かに独創的ではあるんだけど、その設定に酔ってしまってストーリーテリングの方まで気が回っていない作品が多いような気がする。逆に話運びが上手で魅力的な作品っていうのは設定やトリックに無理があったりして。
こちら駅前探偵局 アーケード殺人事件・ねじめ正一(光文社)
シリーズ最初の「こちら駅前探偵局」が出たのが1995年の2月で、2年ちょっと前なんだけども、その割には「待たされたぁ」という印象を持ってしまったシリーズ2作目。フツーの駅前商店街に居を構える探偵局の探偵と、その婚約者の連れ子だった女の子のファミリー劇場的な短編集で、けっこう前作が好きだったのあたし。
亜愛一郎の転倒・泡坂妻夫(東京創元文庫)
別個の物語であるからこそ、亜以外の人物も非常に丁寧に書き込まれている。むしろ、亜以外の人物が主役であり中心であり、亜は謎を解くための小道具に過ぎない。このあたり、作者の姿勢がいいなぁと感心するのであります。
8話の物語が納められているが、個人的には「砂蛾家の消失」「意外な遺骸」が好き。その他のは多少謎解きに無理があるというか偶然やカンの作用が大きいような気がするのよね。この二つは、非常にスッキリ謎を解いてくれると同時に、そのメインとなるトリックに唸らせて貰いました。
(97.7.1)
ただ。主人公を盲目にする必要が判らない。いや、確かに盲目という設定がこの物語に必要なのは判るんだけども、この物語を読む限りでは、彼が盲目故に話が面白くなるって事がないのよね。確かに耳がよくて、それが謎を解くきっかけにもなるわけだけども、だったら目も見えて、でもって異常に耳がいいっていう設定でもいいワケでしょう。ミュージシャンなんだから不自然じゃないし。
なんでそんな事に拘るかと言うと、この物語の中ではこの主人公が「盲目」という事を感じさせる部分がないのよ。まったく健常者と変わらず歩き、人を追いかけ、店に入り、女と寝て、その耳とカンのよさで電柱にぶつかるでもなし、ドブにはまるでもなしに進んで行く。そりゃ、長年盲目だったら周囲からは見当もつかないほどカンはよくなるだろうし、慣れた道なら見えてるかのように歩くこともできるでしょう。それにしても「小説」なんだから、彼の目が見えないという事がなんらかのドラマ効果をあげて欲しいと思うのであった。じゃないと、これじゃ彼が盲目である理由はアレを出したいがためだったって事になってしまうもの。
(97.7.3)
あたしが一番気に入った(というか、見事に騙された)のは【やさしい恋人へ僕から】かな。ワンアイディアものなんだけども、もう見事に騙された(笑)。考えてみると、それだけの作品なんだよなぁ。でも、これが一番印象的か。理に落ちたミステリっぽいのは、【純白の女】【誰もいなくなった】の二本くらいで、あとはねぇ、何というか……まぁ、「すべてがFになる」のような論理的且つ無機質な作品とは、けっこう対局にあるような作品ばかりなのです。推理小説として捉えると、伏線も甘いし意外性もなく、かといって、普通の短編小説として捉えるには芯がない。なんか消化不良の一冊。というわけで、クイズのような【やさしい恋人へ僕から】しか印象に残らなかったワケ。まぁ、あまりこれまでの作風に拘るのもどうかと思うけどね。
(97.7.5)
複製症候群・西澤保彦(講談社ノベルズ)
でも、これにお勧めマークをつけた理由は、そういうことじゃないのよね。この物語がいいなぁと思ったのは、登場人物たちが非常によく描かれている。描き分けが出来てるというべきか。五人の高校生が、それぞれどういう人間であるかというのがしっかりと描かれてて、物語世界に入っていきやすいのよね。これまでの氏の作品に出てきてた人物は、どこかで小説世界にありがちの人間ってのが多かったように思うんだけど、今回は、ホントに実在しそうなひとばかりで、非常に身近に感じられるワケだ。
クローンというものの人権はどうなのか、という点も面白く読めた。クローンとして生まれても、そこからは個々で人格形成がなされていく、ってのは目から鱗だなぁ。と同時に問題提起でもあるわけだけど。ところで、後書きに書いてあった岡嶋二人氏の作品ってのは、何なんだろうな。クラインかな、やっぱし。
(97.7.7)
話がズレた。「ディプロトドンティア・マクロプス」です。長い。その上、意味が分からない。カンガルーの学名か?ああ、また話がずれている。もしかして書評書きたくないんだろうか>あたし(笑)。と言うくらい、感想を書くのが難しいのよね。ただ、後半になると、どこかもの悲しくなるのです。これは特筆すべき事じゃないか?元来あたしは、漫画チックなドタバタものはあまり好みではないのだけれど、そして正直、物語がその方向へ流れ出した時は気落ちしたのだけれど、それでも、読みながらどっかに残る悲しさがこの物語の真骨頂のような気がするのです。
つまりは、「おもろうて、やがて悲しき カンガルー」ってとこですね。
(97.7.7)
女たちのジハード・篠田節子(集英社)
30才過ぎても浮いた話ひとつなく一般職を続ける地味な康子・ランクの高い男を捕まえて結婚退職するのを目標に頑張るリサ・キャリアを身につけてステップアップに燃える沙織。この3人に主体性がなくて自分では何もできない紀子が絡んできたり、リストラの被害にあった女性や独立した女性が出てきたりで、話は「女だって色々あるのよ」って感じで進んで行きます。
この話のいいところは、3人のそれぞれの視点で書かれてる為に、「真面目な人からみた腹の立つOLの話」でもなければ、「仕事してるのかどうかも判らない恋愛一筋のOLの話」でもないということ。「お局様」を描いてるのではなく、康子という人間を描いてる。「玉の輿願望の女」を描いてるのではなく、リサという人間を描いてる。そこが大事なのです。視点が自由で公平で、女性ばっかり出てくる割にはオンナオンナした雰囲気がない。「バカなOL」に辟易してる人が読むと溜飲が下がるし、「いやな上司」に困ってるOLが読むとスッキリする。こういう双方向の話って、珍しいと思うのよね。間違った思い上がりはちゃんと打ちのめされるようになってるし、正しい努力は報われるようになってる。非常に読後感がいい。OLって一括りにされてバカの代名詞みたいに言われたりするけど、オトコだって違いはない。OLって名前の女なんか居ないわけで、個々の人間はやっぱりそれぞれが健気で可愛い。そんな小説。
(97.7.12)
設定でいけば「ダイエットな密室」「エジプト人がやってきた」あたりが光ってましたね。アイデアが秀逸。ワンアイディアを上手に短編に仕上げてて破綻が少なく面白い。真相が分かった時に膝をうつ快感があります。これで文章が魅力的ならいいのに。
逆にストーリーテリングは冴えてるのにトリックや設定に無理があるのは「ビルの谷間のチョコレート」「紫陽花の呟き」「飢えた天使」なんてとっても話運びが上手なのに、あの真相は無理があるよなぁ。実に惜しい。
そういう意味で、小粒ではあるけど設定と文章の両面に於いて一番破綻がなかったのは「夏の幻想」ではないかと思いますです。若干判りにくい部分もあるけど、物語世界を上手に作り上げてるし、真相も無理がない。これが一押しかな。
(97.7.14)
商店街を舞台にした殺人事件4件。こんな頻繁に同じ町内で物騒な事件が起こってたら人住めなくなるぞなんていうツッコミはさておき、どれも謎自体は極めてシンプル。手慣れた読者なら多分、すぐに犯人は分かってしまうんじゃないかな。だけど、この作者の代表小説「高円寺純情商店街」なんかでも判るように、下町の商店街の生きの良さを描かせたらピカ一なのよね。不動産屋さん、酒屋さん、喫茶店、その他いろんな人が生き生きと描かれてて、下町の商店街さもありなんという感じ。きれい事だけじゃなくて、ちゃんと商店街ならではのドロドロした部分もあって。
もうひとつ、このシリーズのいいところと言えば探偵事務所の押し掛け助手になった夏実ちゃん。普通、この手の小説で独身の探偵の元に押し掛ける積極的な妙齢の女性ってーとキャラクターが決まってくるんだけど、この夏実ちゃんは探偵への恋心と仕事をキッチリ分けてる所がいいねー。当たり前なんだけど、その当たり前の事ができない女性キャラが多い中で、非常に好感が持てるのでした。まる。
(97.7.15)
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