ジョーカー〜旧約探偵神話・清涼院流水(講談社ノベルズ)
前作の「コズミック」を読んだ時には、てっきり本格推理で理に落ちた結末があると思いこんで読んだために怒髪天を突いたのだけれど、今回は最初からどーゆー種類のモノか分かっていたので怒らずに読めました(笑)。前提を分かって読むとけっこう楽しめてしまったのが意外(なんて言うと作者に失礼か?)。
野薔薇の殺人者・藤田宜永(光文社文庫)
仕事を辞めて兄一家に居候しながら家業のコンビニを手伝う主人公。彼が深夜に店番をしてる最中に事件に巻き込まれるという短編が4本。考えてみれば、深夜のコンビニって何でもありで誰でも入れるから、こういうことがあってもまぁ不思議ではないよな。だいたい銀行ほどのセキュリティもなく、店番は一人か二人で、ほどほどに現金があって、逃げやすい表通りに面してて、人通りの少ない深夜に営業してるワケだから、道理の分かった強盗ってのはそりゃコンビニを狙いたがるのも無理はないのかもしれない。そういう意味では設定に無理がなくていい。無理があると言えば、厭世観の強いコンビニ店員がおせっかいにも事件究明に乗り出すかなって点だけだけども、そうしてしまう主人公の性格や境遇も過不足無く描けているし。
活動寫眞の女・浅田次郎(双葉社)
昭和40年代。京都を舞台に繰り広げられる大学生と幽霊の恋物語。40年代という時代の中で斜陽を迎えた映画産業を描き、その中で出会い、迷う若者達を描いている。ここんとこ幽霊づいている浅田氏らしい設定だ。
まずは警告。この本を読むにあたり、これだけは絶対に守って欲しい。
崩れる〜結婚にまつわる八つの風景・貫井徳郎(集英社)
作者の名前で本を買う時というのは、たいていこれまで読んできた作風からその作者に期待しているものがあるワケだ。例えば、折原一には叙述トリックを、浅田次郎には泣きを、真保裕一には取材バリバリの作品を、北村薫には日常の謎を、というように。で、貫井徳郎という作家にあたしが何を期待してるかというと、一言で言って「捻り」である。こう思わせておいてひっくり返す、前提を匂わせておいて潰し、驚かす、そのあたりの手法が抜群に巧い作家という印象があるのだな。
亜愛一郎の逃亡・泡坂妻夫(東京創元社・創元推理文庫)
これで東京創元社からの亜愛一郎シリーズ3部作完結。いやぁ、いい仕事してますねぇ>創元推理文庫(笑)。アンソロジーなんかで個々の作品は読んでるんだけども、こうしてまとめて読めるってのはいいねー。ただねー、この刊じゃないんだけど、前巻の亜愛一郎の転倒の解説を読んでからこれを読むと思いきり興を削ぎますな。あの解説はないんじゃないかなぁ。ぷんすか。「転倒」を買った時に解説読んで、愕然としたもんねあたし。ま、いいんですけど。トリックや犯人ばらしてるワケじゃないから。でもねーぐちぐち。
相変わらず登場人物は多いし推理のための推理だしトリックのためのトリックなんだけども、それもこれも割り切って読めばいいのよね。いや、投げてるワケじゃなくて(笑)。実際に「芸術家」のような犯罪者がいたとしたら、はっきり言って精神鑑定モノだと思うし、中に出てくるミスディレクションやアナグラムも、正直言って爆笑してしまう場面が多々あり。探偵もンなこと自慢げに言ってんじゃねーよっ、って感じで笑えること笑えること。セリフの最後に乱れ飛ぶハートマークや八分音符も、なんだか少女漫画みたいで目障りだし、ああいうマークなしでも雰囲気が伝わるような文章を書くのが作家だと思うんですけどもね。作者が図らずも「毀誉褒貶の激しい作品ほど後世に残る」と言ってるが、今回は毀誉褒貶いずれにしても中途半端なデキになってしまったんじゃないのかなぁ。要は、何回騙されるか何回見破れるかを楽しむだけの作品に過ぎないような気がするんだけどもな。そろそろ同人誌的作風から脱却して欲しいものだけど、そうなるとこの作者の個性がなくなる気もするし。
(97.7.22)
【第三の人生】コンビニの中で「痴話喧嘩」の末助けた女の子が、のちに何者かに監禁される。父親に頼まれて彼女を助け出そうとする主人公。これはサスペンスよりも、娘と父親の物語として読んだ方が面白い。
【野薔薇の殺人者】コンビニで偽札が使われる。すんでの所で取り逃がした犯人が死体となって見つかり、その妹がコンビニを訊ねてくる。凶器の使い方は巧いと思ったんだけども、もう少し伏線が欲しかったところ。
【二つの愛の物語】ああ、これは切ないねぇ。主人公の姪が恋心を抱いている男の子の一家が夜逃げしたあげくに父親が殺される。父親が勤めていた病院に秘密があるらしい、という話。登場人物それぞれの思いの重なりやズレと言ったモノが見事です。
【雪の降る街を……】コンビニを襲った強盗は実の母親を殺したとして追われている容疑者だった。ここまで来るともう「警察にまかせろよ」と言いたくなるわけだけども、自分で行動する理由付けがキチンとできてるからイヤミじゃない。大筋は読めてしまうのが難点かな。
(97.7.24)
さすがにツボを押さえた筆運びは見事という他はない。東京のボンボンと、京都という風土の中で家につぶされそうになる秀才と、哲学を専攻する女学生。3人が映画のバイトを通じて一人の幽霊と知り合う。クライマックスの、幽霊を成仏させようというシーンは圧巻で、まるで映像が目に浮かんでくるようだ。
ただ。いつものあざとさがない。いつもの浅田節が薄い。たたみかけるものがない。おそらくはそれが彼の狙いでもあり、挑戦でもあるのだろう。無論佳作ではあるが、なんだか浅田氏に求めているモノとのズレがあって。もっとダイレクトに訴えかけてくるのが浅田氏だと思っているだけに、小説世界と読者との間に薄布一枚挟んでるかのような印象があったのだ。作風から行くと小林信彦氏の小説を読んでるみたいだったな。何かもう一押し足りない。期待が大きいだけに、全体に品良く纏まりすぎているのが不満の一冊だった。
(97.7.25)
気まずい二人・三谷幸喜(角川書店)
そうそう、この本を読むことによって、読者はある知識を得ることができる。日本人の食生活に関わる……ま、いいや。とにかく読んでくれい(笑)。
(97.7.26)
で、初の短編集だ。読んでみた正直な印象は、「げ、推理小説じゃなかった」(笑)。ミステリ仕立てのサイコサスペンスって感じかな。夫婦、あるいは家族というものが、どう壊れていくか。或いは壊れそうになるか。その危ういラインを描いた短編が8編収録されている。
その中からお勧めの4作は以下の通り。期待通りの捻りを見せてくれました。
【怯える】こういう捻りは好き。引っ張っておいて捻って落として「意外な事実」ってヤツでケリをつける。もうちょっと伏線を張ってあったりすれば、ミステリの短編としても成立する作品ですね。
【誘われる】これもけっこう好きかも。真相がいきなり出てくるってのが難点なんだけど、「こっちが悪者だ」と引っ張られて背負い投げを食らうってのが気持ちいい。
【腐れる】なんとなくネタは見えた…って気にさせておいて、最後に落とす。短編の真骨頂。
【見られる】わははははっ。これは一番笑えた作品。いや、褒めてるのよ褒めてるの。この真相、可愛いじゃないですか。わはははっ。なんか彼の気持ち分かるって言うか。そりゃ言いたくもなるわねぇ。わはははっ。構成としても二段構えの真相に非常に満足だな。伏線もあるし。うん。
で、その他の作品【崩れる】【憑かれる】【追われる】【壊れる】は、どうも期待にそぐわなかったのよね。4作とも、だんだん状況が盛り上がっていき、読む方も次第にのめり込んで行く分、終わり方が余りにもあっけない。えっ、これで終わりなの?という読後感があるんだわ。推理小説じゃなくてサスペンスだから伏線も何も作ってないわけよね。でも、それって下手をすれば、読者不在の状況描写・心理描写にしかならないんじゃないかしら。たとえ推理小説じゃなくても、読者が共感なり驚きなりカタルシスなりを得る部分は欲しい。別に謎解きを求めてるワケじゃないけど、全作ともラスト寸前までかなり読者をのめり込ませる展開と文章になってるだけに、ラストがあまりにも突然すぎるっていう印象が拭えないワケで。その「突然」を回避して、読者も一緒に驚くためには、ミステリとはまた違うサスペンスなりの「伏線」が必要なんじゃないかと思うんだけどな。
(97.7.27)
で、「逃亡」です。わはは。「狼狽」「転倒」「逃亡」と並べてみると、この「逃亡」が一番、推理に無理があるのを集めてるような気がするのよね(笑)。【赤島砂上】はなんぼなんでも気付くだろーと思うし、【球形の楽園】は科学捜査ですぐ判りそうだし、【歯痛の思い出】は何か他にいくらでも解釈できそうだし、【双頭の蛸】はそんな狙撃狙ってできるワケないと思うし、いやもうこれ以上書くと亜ファンから剃刀でも来そうだな(笑)。ただ、それが悪いと言ってるんじゃなくて、そういう無理矢理がいいのよねこのシリーズは。亜シリーズってのは決して犯人捜しのミステリではなく、「解釈の妙」ってのが真骨頂なワケで。あの名作「9マイルは遠すぎる」に匹敵するような、些細なヒントから驚くような解釈を見せる、そのアクロバティックなところが魅力なのです。というわけで、あたしのベストは【歯痛の思い出】で決まり!
(97.7.28)
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