ルームメイト・今邑彩(中央公論社)
ルームメイトが突然帰って来なくなる。彼女を捜すうちに意外な事実が……という物語で、作者特有のサイコの世界がなかなかにお上手でした。読みごたえはありますね。ちょっと無理があるのでは?という部分もなきにしもあらずだけど、それでもストーリー展開のテンポがよくて、アラを気にする暇がない(笑)。
これは面白い。何がいいって、人物がいいなぁ、これ。最初は、冴えない中年男に積極的な現代娘っていう、なんかもう辟易してるパターンかなって思ったんだけど、小娘に振り回されない男ってのも珍しくていいし、その他の脇役の素晴らしいこと!特にいいのは、やっぱ新聞配達の佐藤青年。それから「炸裂的に」カッコイイ原田。義弟の宏も情けなくて可愛いし、仁科は悪役のクセに渋いし、その小娘だって実に魅力的だし、キャラクターが立ってて、キャラクター自身が物語を動かしているという、実に生き生きとしたドラマチックな作品だぁ。その登場人物達を描写する小道具も気が利いてる。ドーナツだったり荘子の文庫本だったり。そういう細かい手入れっていうのが、「説明でなく描写」というのを成功させてるんだな。大満足。
このミステリーがすごい!傑作選・別冊宝島編集部(宝島社)
宝島社が毎年だしてる「このミス」に収録されてる覆面座談会を一挙再掲したもの。その時代のミステリーが覗けて、そういう面では非常に面白いですね。ただ、何人かの作家がアンケートで「産経新聞の斜断鬼とのやりとりを興味深く読んだ」と、答えてたけど、あたしにはあまりそうは思えない。ディベートになってないもの。ただ、互いの揚げ足をとって貶し合ってるだけとしか思えない。やられたからやり返すだけで。あの討論(とも言えないと思うけど)で、何かを生み出そうとは勿論彼らも思ってないんだろうけど、それにしても、論旨ではなく人間性をも貶めるような言い合いを金を払ってまで読みたくはないのよね。
とにかくどれだけの作品かって、上のお勧めマークは、本来ならば一巻毎、6回登場すべきところだってのをお含みおき頂きたいのよね。とにかく、翻訳モノは苦手なあたしが、ここまではまったのも珍しい。若干異例の書き方ではあるものの、この作品の出版形態に則って、書評の方も「まとめながらも分冊」だ。本編ほどのヒキはないけどね(笑)。
グリーンマイル1 〜ふたりの少女の死〜
舞台は大恐慌時代のアメリカ、死刑囚が収監される刑務所。語り手はそこの主任看守ポールなわけだけども、まだ1巻というだけあって、何か事件が起こるわけじゃない。でも、起こりそうな火種をたくさん蒔いてくれてるワケよ。カタカナ名前を覚えるのが苦手で、翻訳モノにはついぞ手を出さないあたしが読んでも引き込まれる面白さ。収容されてきたコーフィーも、すでに収容されて死を待つだけのド……なんとかも(すでに名前を忘れてる。だから翻訳モノは苦手なんだって(笑))、鼠のナントカも(おいおい)、憎たらしい看守のパ……なんとかも(いい加減にしろって)、ああ、このまま終わるハズがない。ストーリーはまだ始まってないのよね。でも、始まってないのに「ストーリーが面白い!」と言わしめるあたりがもう、すでにすごいと思うのよ。
グリーンマイル2 〜死刑囚と鼠〜
大事な登場人物、鼠のジングルズ登場。と同時に、パーシーはますますイヤなヤツに成り下がってくる。ドラクロア登場のシーンなんてもう、反吐が出そうになるくらいなんだけども、それでも目が離せないのよねぇ。このパーシーがこのまま終わるハズはないと思うんだけども、それにしてもあちこちに思わせぶりな記述が多すぎる!その思わせぶりな記述を伏線と呼ぶのかもしれないけれど、その思わせぶりが、この一巻で落着しないあたりがもう……(;_;)。分冊という形式も含めて、この作品なんだというのも判る気がする。まだ物語は展開しない。でも、展開しそうなぎりぎりで以下次号(笑)。
グリーンマイル3 〜コーフィの手〜
でた!出ました!コーフィの手だ!ああ、これが出てきてやっと、1巻のあのセリフが意味を持ってくるのねぇ。なんて壮大な伏線なんでしょ。1カ月も前の出版で、そんな伏線を読者が覚えてると思える作者がすごいし、覚えてる読者もすごいけど、覚えさせるだけの魅力があるよなぁ。そしてドラクロアとジングルズに対しても、読者はたっぷり感情移入するように仕向けられる。ここが死刑囚を収監してる場所だっていうのを忘れさせる(いや、覚えているからこそ尚更か)ような穏やかなシーン。そして、その後に来る衝撃的な……!そこで以下次号(笑)。
グリーンマイル4 〜ドラクロアの悲惨な死〜
前巻の衝撃のラストの余韻を持ったまま4巻を開くと……おいおい、この思いはどこへ行けばいいの?そんなのんびり語り手の現状(老人ホーム)なんて聞いてる暇ないんだってばっ!と言いたくなるような出だし。いつものコトなんだけどさ。ふん。で、やっと時間が戻ったかと思うと、そこからは怒涛の展開だ。とてつもない悲惨な光景。パーシーに対する怒りを、ポールやブルータスと同じくらい感じさせてくれるのに充分だわ。キングって作者は、やっぱモダンホラーの旗手だけのことはある。なんてたって、あの「シャイニング」の原作者だもんなぁ。とにかく、これまでの巻とはちょっと違った意味で、目が離せなくなる。コーフィの人道と、パーシーの非人道と、そのふたつの対局が同じ場所〜グリーンマイル〜で出会っていることの意味……それを、この後の巻で知ることになるんだろうな、という予感。
グリーンマイル5 〜夜の果てへの旅〜
思い出した。この作者は「シャイニング」の原作者であると同時に、「スタンド・バイ・ミー」の原作者でもあるんだよなぁ。ああ、なんて優しいんだろう。無慈悲な社会を描いているのに、どうしてこうも優しく響くんだろなあ。
グリーンマイル6 〜闇の彼方へ〜
すごい。なんなんだこの物語は。無駄話のように思えていたことに全くの無駄がなく、すべてがあるべき場所へはめ込まれる快感。読者の期待をたがわず、期待以上の演出でもって見せてくれるこの手腕は、いったいなんなんだ。張り巡らされた伏線が、驚くほどの整合性で着地する、この計算はいったいなんなんだ。そして、快感と共に、やるせない悲しみと優しさをもたらしてくれる読後感。そこにあるのは、救いと、癒しの物語だった。
ああ、おもしろかった。
(97.10.6)
読者を騙すのも巧緻。これは騙されるわ。なーんだ、簡単じゃんミエミエじゃんと思わせておいてひっくり返すのは、さすがに鮎川門下生(笑)という感じなんだけども、そこにサイコホラーの要素を混ぜたのが勝因かな。これまで、この筆者はホラーの要素を取り入れながらも結局は理に落ちた話をつくる「サイコ新本格」という感じの作風だったわけですが、今回は、そのサイコの部分がより強まった感あり。サイコと新本格の融合という点に於いて、まだちょっとどっちつかずのチグハグなところはあるんだけど、これがこなれてくると、ちょっといい個性になるかもしんないね。今はまだ、論理とホラーが互いに縛りあって勢いが出せないでいるという感じですが、今後が楽しみ。
(97.10.1)
ひまわりの祝祭・藤原伊織(講談社)
物語の方も文句無し。ちょっと主人公が頭回りすぎるって感じがするし、原田はスーパーマンすぎるって気もするけど、これくらいの方がカタルシスがあっていい。絵を巡っておきる争いで、舞台を考えると充分ハードボイルドの話なんだけども、ドンパチよりも人情の方で読ませる物語ですね。そこに惚れましたわ。ミステリとしても一流だね。伏線もヒントもドンデン返しも意外な犯人も全て用意してくれて。ストーリーの流れに揉まれて見落とされる可能性があるけど、これは立派な本格推理なのですよ。ラストシーンも合格。こうなってほしい、と思ってた通りに着地してくれて、読後感も最高の一冊なのでした。間違いなく今年のベスト5に入るな、これは。
(97.10.3)
巻末に、この座談会についての作家のアンケートがついてるけど、多数がけっこう冷ややかで、さもありなん。それを帯に使うのはどうかなぁ>宝島社。座談会の中で、帯への皮肉もたくさん出てきたけど、それを自分らがやっちゃ笑い話にもなりませんぜ。まあ、過去数年のミステリーのデータと変遷という観点では、いい本だと思いましたが。
(97.10.4)
グリーンマイル 全6巻 ・スティーブン・キング著 白石朗訳(新潮文庫)
で、一通りの紹介と火種を蒔いておいて、以下次号だ。ああ悔しい。なんて鬼畜なの。とにかく、以下次号だ。
(97.10.5)
ところで、すでに2巻にして、登場人物の名前を覚えた大矢にお気づきになられました?これは実に珍しいことなんですのよ。ふふふ。
(97.10.6)
このヒキの強さは何なんだろうなぁ。良くできた連続ドラマなんかを見ると、「どーしてこんなとこで終わるのよ!」という場面で「つづく」が出るもんなんだけど、まさにアレだね。 (97.10.6)
そして、ラストまぎわで登場人物達が下す(下そうとする)ある決断と推理。これにむかって物語が進んで来ていたんだという思い、やっとこれが来たかという思い、いよいよクライマックスだというところで、以下次号。ちくしょぉ。
(97.10.6)
メリンダを救うために立ち上がった男たち。ただ日常を描いていたこれまでとは一転した、突然のサスペンス。でも、そのサスペンスの中にも、笑いと優しさと悲しみがある。なんだかもう、エンターテイメントを読んでるのかノンフィクションを読んでるのか判らなくなってきた。常につきまとう悲しみは何なんだろう。おそらくそれは、コーフィの悲しみであり、そのコーフィーを見るポールたちの悲しみなんだろう。役目を果たしたコーフィを待っているモノは、電気椅子だけなのに。そんな悲しみの余韻と、でもまだ何か救いがあるのではという一縷の望みをつないで以下次号だ。
(97.10.6)
6冊全てを読み終わって今はもう、執筆途中で作者が突然の病気や事故で亡くならなかったことに感謝したい。こればかりは、未完の大作なんてことにしたくない作品だよなぁ。うん。いったい誰が翻訳モノが苦手だって?(笑) とにもかくにも……
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