お厚いのがお好き?


由布院温泉 殺意の帰郷・香取俊介(廣済堂)

 これも、「由布院温泉殺人事件」と同じく湯布院旅行に際しての貰い物。貰っておいて貶すのもアレなんだけどさぁ、あうううう、プロの作家なら日本語の使い方ってのは最低限のラインってもんがあるでしょう。今更「汚名挽回」なんて書く作家がいるなんて(;_;)。「間違った用法」のサンプルになるような間違いじゃないですか。よよよよ。漢字の間違いもあるし。3人以上の会話は誰がどれだか判らなくなるし、もう(;_;)。ミステリとしても、大事な手がかりが出るのが遅すぎるし、あうあうあ。
 あ、でも、湯布院のいろんな観光地や宿屋がたくさん紹介されてるので、観光ガイドにはいいかも(笑)。ただし、金鱗湖近くの喫茶店「天井桟敷」は、たいてい満員御礼で行列ができますんでね。この登場人物のようにいつ行っても座れるとは限りません。それに、主人公が由布院駅の改札口を出た、という表記があるけども、由布院駅は改札口のない珍しい駅なのです。うーむ、観光ガイドとしても、問題ありか?いや、ミステリーとして成熟してれば、こんなのは重箱の隅なんですけどね。この手の作品ってのは、現地へ旅行に行く時に読む人も多いと思うのよ。そういう意味では、気をつけて欲しいところでは、ある。 (97.11.1)   

創元推理17〜ぼくらの愛した二十面相(東京創元社)

 年刊形式になり、6年前までの「鮎川哲也と13の謎」の頃に戻った感のある「創元推理」。やっぱ、これくらいの濃さが欲しいものです。「年1回の発行にする」と言ったら「だったら書かせてくれ」とこぞって寄稿してきた作家たちも微笑ましいが(笑)、やっぱ、こうしてみると、いわゆる「東京創元社組」の新本格の作家ってのは粒ぞろいだなぁ、と思う。入手が殆ど不可能だった有栖川有栖(以下敬称略)のデビュー短編「焼けた線路の上の死体」は久々に大学生アリスと会えるし、服部まゆみの幻想的な、それでいて本格な世界も健在だし、剣持鷹士・倉知淳・依井貴裕など、ここんとこ作品が出なかった人たちも顔を出してるし。いしいひさいちは勿論の事、彼のマンガ女(わたし)には向かない職業でお馴染みの藤原瞳もついに登場だぁ!黒崎緑の漫才推理もある。あとここに、北村薫と貫井徳郎が居ればなぁ……。あ、近藤史絵が文章の中で長音記号を使ってるのには驚いた!(笑)
 しかし、今回の目玉はサブタイトルにもなってる「ぼくらの愛した二十面相」のシナリオでしょう。いかにも辻真先氏が書いたという感じのストーリーで、決して嫌いじゃない。いや、むしろ制約が多い割にはキレイに決まってるよ、これ。立派な本格推理劇だぞ。なんせ文士劇の第一目的が「ファンサービス」なワケだから、どの作家も均等にスポットライトが当たらなくちゃならない。そのあたりに無理がでるのは仕方ないもんね。その作家の作品を読んでれば、思わず笑ってしまうセリフも多々あり。うーん、BSで文士劇が放送された時はシカトしてたんだけど、見たくなってしまったぞ(笑)。東野さんの天下一だけでもいいから。わはは。 (97.11.5)   

逃亡・帚木蓬生(新潮社)

 おおお、素晴らしい。戦争物に弱い大矢としては、ウルウルものです。終戦直後の香港から物語は始まる。戦時中、憲兵をしていた主人公は、中国での日本憲兵狩りから逃れるべく、姿を隠して何とか日本へ渡ろうとする。しかし、帰国してからも、彼は戦犯として追われ続ける……。
 「わたしは貝になりたい」という感じの作品。国家という化け物が、終戦を機に、白を黒に黒を白に変える。命じられてやった行為が、過ちであったとして責任を追求される日本軍。その時代を知らないだけに、今の平和の足下にはこういう時代があったのだという事実に、だた、圧倒される。遠い昔の話ではないのだ。たった、半世紀前のこと。父や母が、もうこの世にいた時代のこと。
 とくに、妻や子との一幕が涙を誘う。彼を追っていた警察が、垣間見せた優しさ。それが溜まらずに胸に来る。切ない。そして最後には、非常に清々しい思いと、運命の皮肉に一抹の悲しさを持って、物語は終わるのだ。  (97.11.7)   

白亜館事件・太田忠司(トクマノベルズ)

 そうですかそうですか、俊介クンも10冊目ですか。うんうん。おばちゃん、なんだか胸がいっぱいになっちゃうわ。と、ショタコン大矢には堪らない俊介クンなのであります。くくく。早く16才くらいになってくれい。そしたら射程距離だ。って、何の?(笑)
 今回は恐竜の化石を展示してる博物館が舞台。トリックや犯人はねぇ、うーん、「そ、そんなこといきなり言われても」という気がしないでもないのですが。どっかに伏線があったのかな。単に読み落としてただけかもしれませぬ。あの人とあの人がそういう関係だったとか、そういう相関図なんかも尻切れ蜻蛉になっちゃったような。しかし、俊介クンが単なる謎解きでなく、ああいう家族関係を目の当たりにしてどう受け止めるかというあたりに、物語のポイントを見つけたいと思う大矢だ。
 そうそう、大矢が大嫌いな(笑)アキちゃんですが、今回はヤケに常識人でしたねー。うんうん、俊介クンだけじゃなくてアキちゃんも成長してるじゃないですか。つまるところ、シリーズモノの面白さってのは、そういう部分なのよね。嫌いだったキャラの意外な一面を見たり、好きだったキャラのこれまでに無かった部分を見たり。読者の思い入れや価値観に対する鏡像を返すというか。よし、次回作では、実は野上さんはヅラだったという設定で行きましょう>太田さん。アキちゃんの反応が見たいぞ(笑)。  (97.11.8)   

われ笑う、ゆえにわれあり・土屋賢二(文春文庫)

 いやぁ、文庫にまでなってセンセーも喜んでおいででしょう(笑)。この調子で行けば全集も夢じゃないってか?内容は、その後の二冊われ大いに笑う ゆえにわれ笑う及び哲学者、かく笑えりと、ほぼ同じなんですけどもね。とにかく、ギャグの落とし方が同じだけに、3冊並ぶとちょっと苦しい。ただ、何も考えずにがははと笑いたい時には、いいエッセイ集かもしれませぬ。うーん、最初に哲学者、かく笑えりを読んだ時には、すっげー面白かったんだけどなぁ。  (97.11.8)   

脱出 GETAWAY・西村健(講談社ノベルズ)

 おおおおおおお、面白い面白い\(^o^)/。最初は普通のアクションノベルだと思ってたんだけども、いやぁ、すごいわコレ。恋人の復讐という極めて個人的な理由で警察官僚を射殺したチンピラ志波銀次。ところが、偶然が偶然を呼び、なんと彼は日本政府から追われることに……さぁ、逃げ切れるか!という物語なんだけども、ものすこいジェットコースター・ノベル。目が離せない。もう、ハラハラのしどおしだ。東京、群馬、長野、神戸、それに九州までを股に掛けて、ものすごいチェイス。
 ただ、この作品が面白い最大の要因は、キャラクターに尽きる。主役の志波銀次は、どことなく浅田次郎描く任侠の香りがするし、新宿のバー・オダケンに集うメンバーも最高。ホームレスの面々も面白いし、政府の役人たちも個性的だし、些末の警官や目撃者一人にいたるまで、その人物描写を疎かにしないあたりが、これだけの人物を出しながらもぐいぐい読ませる秘訣なのだろう。そして何より、ケンペーと小鉄!もう最高!
 キャラ立ちまくりなのに加えて、会話も小気味いい。一歩間違うとマンガみたいなキャラたちが、それぞれの持ち場をしっかり守って活躍する。いいなぁ、これ。そして絶体絶命となったその時……あああ、この展開が読めなかった自分が悔しい!
 体言止めの多用と、所々でわざと読点を省くという手法が馴染めなかったけど、最後には気にならなくなりましたとさ。間違いなく今年のベスト5に入る作品。  (97.11.9)   

冤罪者・折原一(文藝春秋)

 やっぱこの人はこの類の物語がホームグランドなんだなぁ、という感じがしますね。パラパラめくってみて、数種類の活字が使われてるのを見た時にゃぁ、出た!と思いましたもの(笑)。
 冤罪を訴える囚人と、それをとりまく人々の物語。いやぁ、この作者のはあんまり感想を言うとネタバレしちゃうから難しいんだけどもさ、一言でいって、犯人には驚かされました。おおお、こう来たか!かなり考えながら読んだつもりなんだけど、それでも騙されちゃうんだから、やっぱ巧いのねぇ。意外な犯人大賞だな。
 ただ、あたしの読解力のないせいか、ちょっと判らないままのところがあるのよ。P368下段のセリフって、××の言葉なんだろうけど、このボキャブラリーはあの人のだよね?それとも××も、こういう語彙を持ってるって記載があったっけ?これ読んで、あ、犯人はあの人か?って思ったものあたし。それにエピローグにも同じ語彙が出てくるし。ううむ。関係なかったのかな。あと、地の文が、客観描写なのか主観描写なのか判りにくい部分が多々あり。こういう叙述モノでは、けっこう大事な事だと思うんだけどな。客観描写だと思って読んでたらアンフェアなトコが出てくるし、じゃぁ主観描写かというと、主観じゃ判らないような事を書いてるし。このあたり、スッキリしないのです。  (97.11.13)   

鉄輪温泉殺人事件・吉村達也(講談社ノベルズ)

 こ、これが観光ガイドでなくして一体何なのでしょう(;_;)(;_;)。鉄輪は、「かんなわ」と読みまして、大分県は別府にある温泉の名前なんですけどね。地図はもちろん、名所紹介だけに飽きたらず、名物料理やその写真まで満載……ミステリにそんなもんが必要あるのか?しくしく。まさか伏線ではあるまいと思うが、それなら何でこんなモンがあるかってーと、やっぱ観光ガイドだよなぁ。刑事は意味もなく名所を巡り、名物を食うし。ああああ。犯人もトリックも人物もお粗末。ああ、【地名殺人事件】に傑作なし、っつー格言、信じたくなってきましたわ(;_;) (97.11.14)   

軽井沢マジック・二階堂黎人(徳間文庫)

 この中に登場する特急あさまって、確か今はないのよね。うーん。ま、そんなことはどうでもいんですが、水乃サトルという、ちょっと変わった名探偵の登場です。飄々とした雰囲気がいいね。ただ、飄々としすぎてるせいか、作者の思惑なのか、全体に軽い。どうしてこういう乗りにしたのかな。道具建ては寸分違わぬ本格なのにね。このままの設定とトリックで、おどろおどろしい雰囲気のバリバリの本格にすることは充分可能だったでしょうに。いや、これが悪いと言ってるんじゃないし、本格たるもの須くおどろおどろしくあるべし、ってんでもない。ただ、これじゃあノリが軽すぎて、せっかく考えられてるトリックまで軽くなっちゃうのよね。いつもの蘭子シリーズのような展開なら、ひとつひとつの推理に対して「おおっ」と驚けるところが、今回はさらっと流せてしまう。それがもったいない。  (97.11.14)   

本格推理11・鮎川哲也 編(光文社文庫)

 このシリーズも11冊目で、けっこうここに出た人からプロの作家が育ってるらしい。言い換えれば、ここに出てる段階では皆素人さんなワケで、考えてみれば、素人さんにプロ並みの作品を期待するのも変な話だよね。というわけで、書評が難しいのであります。
 ともあれ短編集だしね、アイディア先行になるのは仕方ないとしても、それをどう表現するか、どう展開するかが、小説としての見せ場だと思うんだけどなあ。推理小説としてのアイディアは秀逸でも、それだけってのが目立った気がしました。はっきり言えば、文章が稚拙なのが多い。狙いは判るんだけど、多分に独りよがりの文章になってる気がするのね。まあ、好みの問題でもあるんだけど。アイディアを紹介するための文章であって、物語ではないっつーか。ここに出てる素人さんたちが、今後プロデビューを果たすなら、その時はもう少し「読ませて」くれるのを期待したいところですね。アイディアが面白かったのは【キャンプでの出来事】と【暗い箱の中で】の2作かな。


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