お厚いのがお好き?


朱色の研究・有栖川有栖(角川書店)

 うーむ。新本格の面々の中ではけっこう好きな作家ではあるんだけど>アリス。久しぶりの長編ってことで期待してたんだけどもね。なんかこう、ダラダラしてるっつーか、盛り上がりに欠けるっつーか。引っ張った割には真相にも大きな驚きはなかったっつーか。なんでかなぁ。
 最初は、いい。謎の導入部と、最初の謎ね。正体不明の電話に呼び出されて行ってみると死体が。容疑者はすぐに見つかるが……っていう、この部分は面白かった。で、それがエンディングでも有機的に結びついて、地味ではあるけど実によく考えれられた上手な心理トリックだというのは判る。でもねぇ……それだけなんだよねぇ。動機が決定的に弱いっていう欠点もあるんだけど、そこはそれ、人の心の問題だからいいとしても。けっこう凝ってて盛り沢山なわりには、緊迫感がないのよ。「海のある奈良に死す」でも思ったんだけど、火村&アリスのシリーズってのは、なんか観光旅情ミステリみたいになってないか?やっぱ長編より短編の方がスパイスが利いてて面白いと思う大矢なのであった。 (97.11.25)   

天空の蜂・東野圭吾(講談社ノベルズ)

 講談社ノベルズで11月に発行されたけど、あたしが読んだのはハードカバーの方です。念のため。まさか加筆修正とかされてないよな?ストーリーや犯人が変わったりしてないよな?(笑)
 で、これはいい!絶対お勧めなのだ。講談社ノベルズで読んだひとは、「なぁんだ、【もんじゅ】の事件で考えついた話だろう」と思うかもしんないけど、これが最初にハードカバーで上梓されたのは【もんじゅ】事件の直前なんだからねッ!そこんとこ、声を大にして言いたいのだ。
 内容は、【原発を人質にとって政府を脅迫する】というクライムノベル。謎解き推理ではないので犯人は途中で割れる。その脅迫の方法、そこに入り込んでくる予定外の要素、政府の対応、犯人の対応……すごい。東野圭吾は実は真保裕一だったと聞いても納得するような(笑)、綿密な取材と情報だ。そのデータの上に立った、実に緻密なストーリー。うまいよぉ、これは。泣かせもあるし。クライムノベルとして実に上質。絶対お勧めの1冊。
 東野圭吾と言えば、さまざまな作風を持つ作家として有名になってきたけども、どうしてもまだ【ミステリ作家】という看板が根強いのよね。もちろん、ミステリにも佳作はたくさんあるんだけど。それで「国産の謎解き推理はどうも……」という読書家の皆さんが手にとる機会が少ないんだわ。ここで宣伝するわけじゃないけど(してるか)、冒険モノ、クライムノベル、そういうのが好きな人には是非読んで欲しい作品。トリック重視のミステリばっかりじゃないのよ東野さんて。  (97.11.25)   

鼓動を盗む女・藤田宜永(集英社)

 おおお、こーゆーのも書くのか藤田宜永って。どうも「柔らかめのハードボイルド」(どっちやねん)のイメージが強かったもんで、表題作を読んでビックリ。その他の収録作品も、これまで抱いていた藤田宜永のイメージを覆してくれました。
 なんていうのかなぁ、ホラー色が強いのもあれば、ロマンティックなのもあるんだけど、総じて一つ看板を出すとすれば、やっぱホラーになるのかな。ただ、その割に恐くないってのが難点なんですが(笑)。うーん、恐くなくてもホラーなのか?
 心の隙間を突くホラーとでもいうか、最初はどっちかってーと社会派っぽかったり浪漫風だったりするんですが、その作品も途中からホラーになります。ホラーという心構えなしに読むと、ちょっと戸惑うかもね。そんなんあり?という感じで。
 個人的には、【サザンカの記憶】【忘れもの】【皆が待っている】あたりが、ちょっと切なくて好き。  (97.11.26)   

心とろかすような〜マサの事件簿・宮部みゆき(東京創元社)

 ああ、やっぱうまいねぇこのひとは。探偵事務所で飼われてる元警察犬のマサ。マサの目を通して描くミステリなんだけども、実に巧い。読後感もいいし、切ないし、ほろ苦いし、優しいし。では作品ごとに。
【心とろかすような】 正直、これは収録作の中ではあまり評価の高い方ではないんだけど。ただ、事件に巻き込まれるキッカケが巧い。ミステリよりもホームドラマとして読みごたえがある。
【てのひらの森の下で】 これはミステリとして面白いかも。マサの目を通してじゃないと描ききれないという点でも面白い。ちょっとしたヒントが上手だよね。
【白い騎士は歌う】 これがイチオシ。巧いだけじゃなくて、実に切なくて、「いい物語」なのよね。実際のところ、犯人を限定する過程はちょっと御都合主義っつーか、勘じゃねーかよそれじゃぁって感じもするんだけど、心の襞と、苦さと優しさと、絶妙なブレンド。しかし切ないねぇ。
【マサ、留守番する】 これもいい物語。人と人の心の関係って、見えるモノが全てじゃないよねって気持ちになる。ただ、マサの留守番である必要はなかったんじゃないか?なんかいろんな動物が出てきて、ちょっとミステリというよりも、ジャングル大帝とか、山ねずみロッキーチャックを見てる気がしたぞ(笑)。
【マサの弁明】 これはまぁ、ボーナストラックかな。  (97.11.30)   

小説たけまる増刊号・我孫子武丸(集英社)

 まずは装丁大賞だな(笑)。装丁というよりも企画か。最初はソフトカバーで2000円っつーのは高いだろーと思ったんだけども、短編集2冊分のボリュームはあるわけで、そう考えるとリーズナブルだ。本編よりも目次とか広告とかの方が面白かったくらいで。あ、褒めてないか、コレ。
 内容はミステリやホラーの短編が中心。何が不満ってあーた、本格ミステリ少なすぎ!ミステリと銘打たれてるのは4作しかないし、そのうち本格っぽいのは2作だけでさあ。うーん、も少しミステリ色強いのを期待してたんざんすけどねぇ。本格バリバリよりもサイコな作品が多い人なのは判ってるんだけど、それでもトリッキーなものを期待していたのよね。お勧めは「バベルの塔」と「裏庭の死体」の2編。
 一連のホラーも、ホラーというには恐さがなくて、なんか「ホラーテイストの読み物」って感じでピンと来なかったし。グロはグロなんだけども、読み終わった後に残るものがなくてアッサリしちゃうのよ。目次では、ミステリ・ホラー・珠玉の短編っていう3コーナーに分かれてるんだけども、どれも同じ類の作品で「バラエティ」に欠けた感あり。そりゃ清水義範じゃあるまいし(笑)、一人でバラエティに富ませるなんて難しいとも思うけど、こういう企画にした以上は狙って欲しかったな。総じて、「単行本化されてない短編が集まったんだけど、短編集にするには作風に纏まりがないんで、こんな風にしてみました。」って感が強い。企画・アイディアが秀逸なだけに、内容のレベルも高かったら申し分ない1冊になったと思うんだけど。残念。  (97.12.7)   

前夜祭・連城三紀彦(文春文庫)

 あああ、巧い!短編集。いずれもミステリ仕立ての恋愛小説なんだけど、ああああ、実に巧い。なんてトリッキーなの。そんじょそこらのミステリより、よっぽどトリッキーだぞ。うるうる。
 それになんつーか、文章がうまいよねぇ、やっぱ。秋を表すのにあーた、「縁側の傷に日が届いたら秋」とか、なかなか言えないって。なんか「ああ、小説を読んでるわ」という気持ちがシミジミと沸いてくるのです。ちょっとした仕草の描写、風景の描写、心象風景、描写かくあるべしという感じの筆運び。風情よ、風情。ふうじょう、じゃないぞ、ふぜいだぞ。男と女の下世話な話なのに、それが淡色の静物画を見ているような気持ちにさせられる。そんな気持ちのまま終わるかと思ったら、最後にミステリ顔負けのどんでん返しがある。
 全体にモチーフは「浮気」なんだけども、ありがちな中年主婦向けドラマじゃなくて、なんとも言えぬ味と深みとペーソスがある。それだけじゃなく、ミステリ以上のトリックもある。中でもイチオシは【それぞれの女が……】。フラッシュバックのように押し寄せるシーンが、見事な融合を遂げる。絶品。  (97.12.7)   

このミステリーがすごい!98年度版(別冊宝島編集部)

 このミス!も10年だそうで。しかしこの10年、ずっと読み続けてきたけども、国内ベストテンに入ってる作品にここまで未読が多い年は前代未聞だ!まずそれにショック。10冊中3冊しか読んでないのよあたし。読んでるのはOUT絡新婦の理逃亡の3作だけ。こんなの初めて。バイオレンス系統が苦手な大矢なので、人気があるのは知っていながらも新宿鮫だの鎮魂歌だのには手を出してない。それは判ってるからいいんだけども、それ以外よそれ以外。「黒い家」ってのはミステリーなの?「神々の山嶺」ってミステリーなの?それより何より「笑う伊右衛門」が、ホントにミステリーなのかあ?ま、読んでないので「ミステリーじゃないでしょうが」と断言は出来ないんですが。
 要は「ミステリー」という言葉の定義の問題なのよね。「ミステリー」は、決して「推理小説」とイコールではない、ということか。謎解きがあればミステリーだっつー定義自体もかなり広義だと思うけど、最近のこのミス!には謎解きも犯罪も出てこないのがあったりするもの。限りなく対象作品が広がってる。失楽園が入ってないのが不思議なくらいだわ。別に「本格リーグ」(笑)に拘るつもりはない。OUT逃亡は、あたしも傑作だと思うし大好きだし。ただ、これはもう「このミステリーがすごい!」というタイトルでは【嘘】と言われても仕方ないところまで来てるんじゃないのかな。確かに表紙には【ミステリー&エンターティメント】と謳ってはいるんだけどね。これが【このエンターティメントがすごい!】【この小説がすごい!】というタイトルだったら、非常に納得のいくラインナップであることは間違いないんだけど。
 ということで、狭義のミステリに絞った「私家版・この推理小説がすごい!」を今年もやります!見てね。  (97.12.12)   

三月は深き紅の淵を・恩田陸(講談社)

 4部構成で、「三月は深き紅の淵を」という幻の本を巡る物語……なんだけども。作者は何をやりたかったんだこれは?第一部ではちょっと本格ちっくな展開で、まぁまぁ楽しめたんだけども「本好きの選民意識」は鼻につく。本を読むって、そんな特別なことじゃないだろうがよ。なんかこの選民意識ってのが4部まで通して流れてて……やや食傷したなあ、これ。
 2部は同じ本を求める女性編集者2人。一番ミステリとしては理に落ちてるんだけどさ、これがミステリだとしたら天下一の御都合主義だし、好意的に解釈すれば多分ミステリではないんでしょう(笑)。3部は少女の死の謎をつきとめる話で、これも設定はミステリなんだけども、はて。4部に至っては、いったい何がしたいんだこれわわわっ!と頭を抱えてしまった大矢なのだよ。だいたい、中で紹介される「三月は深き紅の淵を」って、全然面白そうじゃないぞ。  (97.12.13)   

螺旋(スパイラル)・山田正紀(幻冬舎)

 あ、意外と面白い(笑)。なんぞと言っては失礼か。でも冒頭を読む限りではあまりそそられなかったのよね。それが章が進むにつれて、ぐんぐん引き込まれていったのさ。千葉を舞台に起こる連続殺人と、それを追いかける新聞記者。地元土建屋と政治家の癒着なんつー問題もあったりして、少し社会派テイストを醸し出しながらも、その実しっかり本格推理なのだな。本格だってことに気付いたのは途中からなんだけどさ(笑)。
 犯人捜し、謎解き、そういったものと並行して、人間の善と悪を見せつけられる。それがおそらくは、この物語のテーマ。何を善とし、何を悪とするのか。その基準は何なのか。案外脆い基準の上で、あたしたちは善悪を決めつけてはいないか。本格の醍醐味が「覆された前提と、それ以上の秩序を持った真実」であるなら、これは、物語中の前提を崩すのと同時に、読者個人の価値観をも崩そうと問いかけてくる。自分も登場人物と同じ罠にはまっていたことに気付いた時、物語を離れて、ちょっと自分自身の事を考えてみたりして。トリック自体はチト偶然性が大きいかな、という部分なきにしもあらずだけど、謎解きとテーマの両方を内包する、稀有な佳作。  (97.12.15)   

スクランブル・若竹七海(集英社)

 1980年代の女子高を舞台に、回想というカタチで綴るオムニバス形式の連作推理。個々の章での謎建てと、全編を通しての謎の両方を扱うという、いわゆる東京創元組お得意の作風だあね。5人の女性(当時の女子高校生)を順に狂言回しにして物語は進む。
 個々の謎は非常に楽しく読めた。ナカナカにマル。それに比べると全編通しての謎の方はチョット中だるみがあった気がするけど、それでも「意外な犯人」の演出がよかったので、着地はキレイに決まったんじゃないかな。80年代らしさってのも、表面には出てこなかったけども、女子高校生の考え方とか、「動機」とか、そういう部分でチラリと覗いてるのもようございました。
 唯一且つ最大の瑕疵は、女子高校生5人(特にそのウチ3人)の書き分けができてないってことなのよねぇ。誰が誰なんだか判らなくなること多々あり。それでも物語の進行にはあまり問題がなかったってことは、要は人物描写や人物の魅力で読ませる作品じゃないってことなのかな。うーむ。 (97.12.28)   

六道ヶ辻〜大道寺竜介の青春・栗本薫(角川書店)

 ああ、この人ってばホントに楽しんで書いてるよなあ(笑)、って感じの栗本節。舞台は昭和初期、華族のご子息3人組の青春物語。六道ヶ辻のシリーズとしては3作目にあたるわけだけど、シリーズが進むにつれて、だんだん推理小説からは遠ざかっていってるぞ。1作目の「大道寺一族の滅亡」なんてのは秀逸な本格モノだったんだけどなあ。今回のは、一応猟奇殺人なんかは出てくるものの、犯人は「カン」で限定しちまうくらいで、推理らしい推理はない。それよりもメインはやっぱ「僕のおにいさまになって……」だったりするのだな。まあいいんですけど。同じ作者の他の小説に出てくる人物たちと、どうも名前が違うだけでキャラがだぶってしまったりもするんだけど、栗本氏だからオッケーってなもんで。ま、これは昭和初期の天狼星だと思えばいいか(笑)。
 「大道寺一族の滅亡」で重要な役割を演じた乙音と竜介の成長諢でもある。他の人物も大きくからんでるので、これはできれば「大道寺一族の滅亡」を読んだ後に読んで欲しいなあとも思います。少なくとも推理の醍醐味は、ない。他の醍醐味ならあるけどね。ああ、このシリーズはいったい何処へいくのかしら。 (97.12.29)   


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