お厚いのがお好き?


嗤う伊右衛門・京極夏彦(中央公論社)

 どうしてだか判らないけど、あたしこれって【短編集】だと思いこんでたのよねえ。どうしてかしら。一章、二章と読んで、「なんか中途半端な終わり方の短編ばっかりだなぁ。どうしてこれの評価があんなに高いんだろう。」なんて思ってしまったわ(笑)。アホや>あたし。「ああ、これ長編なんだ!」と気付いたのは4章くらいだぜ。わはは。
 気を取り直して読むと、これはいい。京極氏の文章ってのは、あの京極堂の蘊蓄や榎木津の芝居がかったセリフにも合ってたけど、こっちの方が似合ってるね。文章に艶と風情があるよ。江戸時代の話(四谷怪談だな)なんだけど、実にいい雰囲気を醸し出してる。これもそれも、文章がうまいからだわ。やっぱ。
 生真面目な浪人・伊右衛門と、疱瘡を患って美貌を失ったお岩。この二人に、あくどい侍や、妾にされた町娘や、按摩や、いろんな人々が関わり、一気にカタストロフィへと突き進む。京極堂シリーズのような、理に落ちた結末(理に落ちてるか?という反論はさておき)ではないのだけれど、それもまたいい余韻を残してる。怪談が下敷きなんだけども、恐さよりも切なさと、狂おしいまでの悲しみ。うーん、佳作だわ。 (98.3.3)  

鎮魂歌〜不夜城II・馳星周(角川書店)

 期待してなかったと言えば嘘になるが、早漏健ちゃんは今回はとりあえず裏方的役割。新宿での中国マフィア抗争が舞台なのは前作と同じだけど、今回は秋生というヒットマン兼ボディガードを中心に話が進む。仕事で出会ったオンナに惚れる秋生。その後ろで蠢くマフィアの野望と、それをとりまき、あるいは巻き込まれていく新宿の人々。
 ただ、相変わらずの「ドンパチ・ハードボイルド」で、あたしみたいな甘ちゃんには「そんなにイヤだったら、新宿からとっとと出てけばいいじゃんよお」と思われて仕方ないのよね。それでも新宿にしがみつき、柵と檻の中で生きていこうとする登場人物達の、寄って立つところが判らない。そこに共感できないかぎりは、この手合いのは楽しめないようが気がするんだわ。クールに、ニヒルに、強く、逞しく。それはそれでいいけど、ちょっとはソレ以外の新宿も見せて欲しいなあ。意味のないカッコ付けのモノローグなんか、要らないのよあたし。 (98.3.5)  

A先生の名推理・津島誠司(講談社ノベルズ)

 不思議な体験をした主人公の話を聞くだけで、意外な真相を言い当ててしまうA先生。典型的なアームチェア・ディテクティヴものである。そしてもうひとつ、典型的なものは。これは典型的な「小説の体を借りたクイズ本である」ということだ。小説としての醍醐味は、正直薄い。登場人物もA先生以外はあまり個性もないし、文章も「されるのでした」6連発!みたいな、非常にリズムの悪い部分が目についたし。
 6作の短編が収められている。たしかに、どれも謎はスットンキョーだ。光る宇宙人が現れたり、ニュータウンがいきなり壊滅したり……しかし、オチがなあ……。もしかしたら、「んなアホな」というツッコミを期待してるのかしら、と思えてならないのだけど。これ、真面目に書いてるのかな?うーん、そこが判らない。アホ・バカミステリという言葉が去年登場したけど、その系譜なんだろうか。そうとでも思わないと、どうも、感想の書きようがないんだよなあ。
 あ、いしいひさいちのマンガは面白かったっす(笑)。 (98.3.10)  

探偵宣言〜森江春策の事件簿・芦辺拓(講談社ノベルズ)

 森江春策が謎を解く短編集。連作短編集と言った方がいいかな。よく練られていると思ったのは【殺人喜劇の時計台】。現実性という部分では、チト危うい気がしないでもないけど、短編としてはスッキリまとまってる。【殺人喜劇の不思議町】【殺人喜劇の迷い家】、それに【殺人喜劇の鳥人伝説】は、トリックよりも、その映像的な舞台設定がいいな。なんかシーンが浮かんでくるというか。【殺人喜劇のXY】は、なんか無理矢理って感じがしないでもないけど、蘊蓄は楽しく読めた。【殺人喜劇の森江春策】はまぁ、ボーナストラック。え?もう一作あるって?だってタイトルがHTML化できないんですもの(笑)。
 ただ全般に、(よく読むとちゃんと書いてあるんだけど)状況が少し分かりにくくて、再読してやっと納得するってのが多い気がするのよね。伏線とかアンフェアとか、そういうレベルじゃなくて、基本的な状況説明の部分で「読み落とし」があって、そのせいで解決編で疑問が出ちゃうというか。読解力が問われる作品集だよなあ。一字一句たりとも読みのがせないんだもの。それだけ凝った状況にしてるってことなのか、あるいは独特のリズムを持つ文章のせいかのか……あたしに読解力がないのか。多分最後だな(笑)。 (98.3.16)  

骸の誘惑・雨宮町子(新潮社)

 新潮ミステリー大賞受賞作。突然の弟の事故死を、姉が追う。自己啓発セミナーに関わる事件ってのは、決して目新しいものではないんだけど、それでも文章が巧いので充分引きずり込まれる。こういうのって、どうしてもサイコな部分というか、乃南アサ氏とか新津きよみ氏の書きそうな常軌を逸したオンナの定番ぽくなりそうなんだけど、そこをちゃんと社会派ミステリの範疇に留めてるってトコが好きだな。
 ただ、謎解きと並行して物語の中核を占める、主人公と氷室の恋愛部分。ここがどうもノメリ込めない。それぞれの人となりはよく分かるのよね。ただ、この二人の出会いから描かれてるにも関わらず、何故、この二人が惹かれ合うのかが分からないのよ。何がきっかけで、ああも一気になだれ込んでしまえるのか。特に二人の過去を考えると、どうしても【突然すぎる】という印象が拭えないのよね。ストーリーよりも、そういう部分(人間性とか、人物関係とかね)に引っかかりを覚えてしまった。もったいない。
 あと、エンディングがちょっと物足りないと思ったのは、あたしだけかな。一番見たいクライマックスを見せてくれなかったというジレンマがあるんだけどなあ。待ってる間に解決しちゃうなんて……(;_;) (98.3.17)  

亜智一郎の恐慌・泡坂妻夫(双葉社)

 亜愛一郎のご先祖様の短編集。十三代将軍家定に使える雲見番(天気予報係)の亜智一郎が、安政の大地震をきっかけに将軍直属の探偵になるという話。亜と組むことになる三人の仲間もそれぞれ面白い。
 捕物帖ではなく、やはり本格時代ミステリ。時代ミステリってのは、科学捜査が入らない分、けっこう面白い不可能興味を作れると思うんだけども、やっぱそのヘンは巧いね。特に気に入ったのは【地震時計】【大奥の曝頭】の二本。前者はちょっとしたヒントがとても巧く効いてる。本格短編の醍醐味じゃないかな、こーゆーの。後者も、事実に至るきっけかになるヒントの出し方が秀逸。ただ、それ以前に「気付けよ、おい」って気がしないでもないけど(笑)。
 ミステリとは別のところで、安政の大地震から、家定のあとの将軍継嗣問題、安政の大獄、桜田門外の変、そういう時代の大事件がバックグランドとして、ほのかに描かれているのが好き。これもテクニックだよね。 (98.3.21)  

'98本格ミステリベスト10・探偵小説研究会(東京創元社)

 このミステリーがすごい!98年度版を、ぐっと狭義のミステリに絞った企画。実はこーゆーの、待ってたのよねえ。なんとなく本格離れしつつある自分を、ちょっと引き戻したくて。いや、自分が本格離れするのはいいんだけど、ただ、自分の拠点っていうのは、この分野なんだってのは、ちょっと側に置いておきたい気がするのね。なんのこっちゃ。
 で、内容。ベストテンのラインナップを見ると、「おお、そうよね、これはいいわよね」ってのと、「なんでこれが本格やねん」っていうのとが入り交じり。さすがにこのミスみたいなクライムノベルは入ってないけど、予想外にメタミステリが頑張ってる。そっかー、メタって、本格の一流派として認知されてるのかあ。個人的には11〜20位の作品に好きなのが多かったな。しかし、それより、この本で選出されてるミステリより、このミスのそれの方が、あたしの評価に近かったってのを再認識だ。やっぱあたし、本格離れしてるみたいだな(笑)
 一番面白かったのは、笠井・法月・千街の3氏による対談だな。本格ファンは一読の価値あり。定義が分裂化している本格だけど、こういうベースは忘れたくないと思わせるのよね。ともあれ、このミスの懐が広くなりすぎちゃった今、この本の持つ意義ってのは、ファンにとっては大事。是非続けて欲しい。 (98.3.31)  


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