お厚いのがお好き?


ストレート・チェイサー・西澤保彦(カッパノベルズ)

 酔った勢いで話にのった三重交換殺人。酒の上の話だと思っていたら本当に起こる殺人。しかし殺された相手は頼んだ人と違う……奇才西澤氏の最新作。SF推理と本格推理と2つのシリーズを持つ作者だけど、今回はどっちかな〜と思って読んでいたところ。あれあれ?どっちだ?と、ちょっと煙にまかれてしまった感あり。
 まぁSF推理の方なんだけども、それにしてはいつもと比べてかなりシンプル。だいたい謎解きに本分が置かれてないよね、これって。前提が明示されてないから密室の謎もアンフェア気味だし(特に西澤氏の他の作品を知らないと、けっこう怒るかもだ(笑))、「最後の一行」だってちょっとイキナリで、膝を打つ部分がないんだよなあ。そう言われればそうだったのかしら、って程度で。
 娘がいい味出してたけど、その分母親はギャアギャア騒ぐだけのアホで、読んでてもあんまり楽しくなかったし。西澤氏の作品ってことで期待しすぎてた分、全体に物足りなかった一冊。 (98.5.1)   

ミステリー傑作選34〜殺人博物館へようこそ・日本推理作家協会編(講談社文庫)

 ミステリー短編集。11作の作品が収められてるんだけど、どれも初出からちょっと時間がたってるだけに、「これ読んだ」ってのが多いんだよなあ。ま、仕方ないんだけどさ。中から好きなのを幾つか。
【懐中電灯】法月綸太郎:題名でネタバレ一発じゃんと思ったらやられた。予想を逆手に取る佳作。
【手紙嫌い】若竹七海:妙な設定だなと思ってたら、最後の一行で見事に落とす。
【舞い込んだ天使】黒崎緑:真相はたいしたことないのに、ストーリーテリングの巧さで引き込む。
【移動指紋】佐野洋:しかしこの人の蘊蓄ってのは、なんとかならんもんかね(^^;)
その他、桐野夏生、逢坂剛、香納諒一、泡坂妻夫、今邑彩、巽昌章、高橋克彦ら。しかしこれだけ作家が並んでて、ワープロで楽に変換できるのは黒崎緑・佐野洋・高橋克彦の3人だけだぞ(-_-;) (98.5.2)   

鳥頭紀行ぜんぶ・西原理恵子(朝日新聞社)

 ノリにノッテる西原理恵子の鳥頭紀行。ノッテるのは西原本人なのか出版社なのかは分からないけれど、ここんとこバンバン単行本が出てるねえ。ただ、ちょっと前に出た鳥頭紀行〜ジャングル編の分は今回収録されてないのがいい。往々にして、前に出版された分も集めちゃったりして、二重に金を取られたりするのがこの手の商法なのに。えらいぞ朝日新聞社。
 さて内容は相変わらずで笑える。こいつらどこまで行くのかね。どこが面白いなんつー事を書くよりは読んでもらった方が早いとは思うんだけど、とりあえずあたしが好きなのは、【マカオでポーン】だな。泣きみそガエルの花吉クンがいい味出してる。フィクションに違いないと思うんだけども、ついつい「こいつらならやりかねん」と思わせるのがサイバラの筆力だ。ただ、最後の単発マンガ「ちんぼう」は不要だったのでは。ああいう泣かせ路線もいいんだけど、何も鳥頭紀行と一緒に載せんでも、なあ? (98.5.3)   

ジュリエットの悲鳴・有栖川有栖(実業之日本社)

 筆者のノンシリーズものの短編集。かなり初期のモノも入ってるらしい。
【落とし穴】    倒叙もの。細かい小道具や伏線がうまい。アリスっぽい作品。
【遠い出張】    展開はたいしたことないけど、最後の一言が見事!
【危険な席】    ふふふ、巧いねぇ。ワンアイディアを膨らますのは天下一品。
【多々良探偵の失策】どうしてこゆこと考えつくかね。似たような事は皆経験があるだろうに。
【登竜門が多すぎる】馬鹿馬鹿しくて大好き。大笑い。清水義範が書きそう。
【世紀のアリバイ】 巧い!そう言われれば……なんだよなあ。気付かなかった自分が悔しい。
【タイタンの殺人】 これも馬鹿馬鹿しくて面白いよなあ。この路線、好きかも(笑)。
【幸運の女神】   落差と意外性の勝利。もしかして……と考えるのも楽しい。
その他、【裏切る眼】【パテオ】【夜汽車は走る】【ジュリエットの悲鳴】、など。ショートショートの4作が、総じてレベルが高い。 (98.5.11)   

時計を忘れて森へいこう・光原百合(東京創元社)

 おお、これは条件付きでを付けてしまおう。その条件とは「未成年限定」
 主人公兼語り手が高校生の女の子ってことで、ある意味当然の事ではあるんだけども、視点が子供っぽいのよ。いや、当たり前なんですけどね。高校生の視点で妙に悟られてる方がヘンだし。実にその子供っぽさっつーか、青さっつーか、バカさ加減がリアルで、なかなか巧いんだな。ただ、その分、この歳になって読むとキツイのよ。うわあ、なんて青いんだ、とコッチが赤面したりして(笑)。
 物語自体も、東京創元社のこのシリーズにしては、謎が凝ってない。かなりシンプル。真っ当に読んでれば真相はすぐに見当がつく……というか、落ちついて考えれば分かることを、主人公達は「若さ故」に曲解しちゃってるワケよね。そういう点でも、30才過ぎてコレを読むのはチト……という面があるわけだ。気付けよ、おい、ってなもんで。
 ただ、もしもあたしがこれを若いときに読んでたら。けっこう感動しただろうなあ、と思うのよね。ミステリーとしてよりも青春小説として。ここに出てくる人たちって、なんか心当たりのある人物造形なのよ。こういう人居るなあ、とか、あたしの中にもこういう部分あるなあ、とか。それをスパっと切ってくれる。肯定したり、視点を変えたりしながらも、物語を通して語られるのはアイデンティティの問題。それも、若者の時にぶつかるアイデンティティの問題だ。これはあたしみたいな擦れた(笑)大人が読むよりも、尖ったりビビったりしてる高校生くらいの子に読んで欲しいなあ。勿論、大人が読んでも「気恥ずかしい懐かしさ」は満喫できると思うんだけど(^^)。 (98.5.12)   

ギャップ・西村健(角川書店)

 「ビンゴ」「脱出 GETAWAY」で、ハチャメチャなまでのB級エンターティメントぶりを発揮してくれた筆者だけども、今回はエンターティメントというよりはミステリですね。それも本格ちっくなミステリだ。「オダケン」もチラっとしか出てこないし、犬も猿も出てこない(笑)。あ、土器手警部補が出てきます。って、前2作を読んでない人には何のことやら判らんな。ま、前作のノリを期待して読むと、ちょっと肩すかしを食うかもしれません。そこはご注意を。
 新宿で心理研究所を営む「私」。実は「私」は多重人格者で、私立探偵の「僕」やキャピキャピギャル(死語か?)の「あたし」や、小学生の「オレ」や、乱暴者の「俺」などの人格を持つ。ある日、私立探偵の「僕」のところに依頼者が現れたが、それは小学生の女の子だった……って、なんだか原りょうの話にありそうな出だしだ(笑)。で、もちろん、事件に巻き込まれて、その上いろんな場所でいろんな人格がひっちゃかめっちゃかに出てくるもんで、もう滅茶苦茶。そのあたりは確かに面白い。それに、ストーリーや伏線の組み方もしっかりしてるぞ。これはもしや、冒険小説好きよりも、本格ミステリ好きの読者の方に好まれるかもしれない。
 しかしまあ、パワーダウンの感は否めないなあ。前の作品が好きだっただけに尚更ね。多重人格探偵も確かに面白いんだけど、突き抜けるモノがなかったなあ。次作に期待だ。 (98.5.17)   

美貌の帳〜建築探偵桜井京介の事件簿・篠田真由美(講談社ノベルズ)

 今回は鹿鳴館だそうな。自分のホテルを鹿鳴館に模して、そこで昔一世を風靡した女優のカムバックの舞台を作ろうとする老人。そこへ招待される桜井京介と蒼。当然、そこで起きる事件。
 このシリーズのいいところは、素人探偵が「やむを得ず事件に関わらざるを得なくなる」持っていきかたなのよね。特に今回は、蒼をうまく絡ませたなあ、という感じがする。確かに、そういう手でくれば、京介は自ら乗り出すだろうなあ、と。読者を納得させてくれるから読んでて気持ちがいい。
 内容の方は相変わらず破綻がなくて、安心して読める。伏線がちっとばかりあからさまな気はするけど、肝心要の真犯人の方は分からないし。(アレは分からないよなあ。ちょっとイキナリすぎないかあ?)まあ、これはどっちかってーと、真犯人は誰ってところよりも、それ以外のところで膝を打つ物語(褒めてないか?(笑))ですね。裏返しのパジャマの真相には、ちょっと感動しちゃったりして(;_;)。 (98.5.18)   


書評リストに戻る