一番的を射てる表現は「異色作」なんだと思う。桐野氏の十八番、女流ハードボイルドなんだけども、ミロのシリーズと趣を変えた女子プロの世界でのハードボイルド。ハードボイルドとしてはチト甘いのかもしんないけど、あたしは好きだねえ、これ。
熱月(テルミドール)・山崎洋子(講談社文庫)
大正時代、女が一人で渡欧などできなかった時代、フランスに行きたい一心で文士・竹林夢想庵と契約結婚までして渡仏した女性・文子。恋と仕事に生きた文子の半生を描いたモデル小説だ。
白のミステリー〜女性ミステリー作家傑作選・山前譲(編)(光文社)
今をときめく女性ミステリー作家の作品を編んだアンソロジーだ。嬉しいのは1作を除いて全て単行本未収録というところ。アンソロジーはこうでなくちゃ。ふふ。買ったはいいけど全部他の本で持ってたりしたら悲しいもんなあ。では、例によって気に入ったモノをいくつか。
氏の社会派と言えば【火車】が筆頭にあげられるだろうけど、それとも違う。荒川の一家惨殺事件を扱ったルポという体裁になっている。ルポ。つまり小説世界とは一線を画しているということだ。もちろんフィクションだし、綾子なり石田なりを主人公に据えた小説にすることも出来た筈だ。あるいはルポの書き手を探偵役にしてもいい。それを、何故あえて主役を据えない、ルポという体裁にしたのか。
破断界・釣巻礼公(カッパノベルズ)
主人公が幼い頃にあった不思議な少女。その少女と主人公の成長後の物語なんだけども、主人公の男の職業がさあ、なんか機械だか電気だかで専門用語がたくさん出てきて、ワケ判らんのだわ。わはは。いや、フツーの人なら分かるんだろうけどさ、なんせあたしゃ超弩級の理系音痴なもんで(笑)。そのせいで、トリックもさっぱり分かりませんでした。いったいどーしてアレであんな事が起こるのか、どーして犯人がコイツになるのか、わはは、チンプンカンプンだぜ。へっへっへ。って笑ってる場合か。一生懸命書いた作者に申し訳ないではないか。ゴメンナサイm(_ _)m>著者様。決して物語の出来不出来ではないのです。一重にあたしの脳味噌の問題なのです。なんせあたしゃ、いまだに九九を間違える程なんですから(笑)。ほほほ。
新解さんの読み方・鈴木マキコ(リトル・モア)
文芸春秋から出てる赤瀬川原平氏の「新解さんの謎」の続編みたいなもんだ。「新解さんの謎」で、赤瀬川氏を新解ワールドへ誘うキッカケを作ったSM嬢自らの手による一冊。へえ、仮面をつけた顔しか知らなかったけど、こんな人だったのかSM嬢って(笑)。
ファイアボールブルース・桐野夏生(文春文庫)
神取忍がモデルという女子プロレスラー・火渡。圧倒的に強いんだけど、リングの外では思索家となる。同じ団体に所属し、火渡の付き人をつとめる2年目レスラーの近田の目を通して物語は描かれるが、この近田がケチョンケチョンに弱い。勝った試合ゼロの、連敗記録更新中なのだ。ある日、火渡と闘う筈だった外人レスラーが試合開始直後にリングから逃げ出す。そのまま失踪。その謎を追う火渡と近田、そしてプロレス記者の松原の3人タッグだ。
失踪の真相だのなんだのってのは、さほどの驚きはないんだけども、この人物達がいい。主役級の3人の他にも、いろんな女子プロレスラーが出てくるんだけど、それぞれがホントにいそうなリアリティと、人間らしさを持ってて。火渡ってのがちょっとスーパーガールに描かれ過ぎかもしれないけど、それは彼女を神と崇める近田の目を通して書かれているから当たり前なのだ。
この物語は、「女のあらぶる魂」を描きたかったのだという。しかしあたしは、近田の成長物語として捉えた。女子プロの内幕も楽屋裏も、知ってる人から見たらどうか分からないけど、素人のあたしが読む分には非常に生き生きと描かれてるように思える。闘う女たちの葛藤と成長。それを気取らずにカッコつけずに描いた、非常に楽しめる一冊だ。
(98.5.20)
最初は大人しく親の言うがママに結婚した文子だけど、子供3人作った時点で「あたしほどの美人で才女が、こんな日常に埋もれていいのか。ダンナも下手だし。」と、ありがちな大勘違いをして夫と子供を捨てる。それで入った新聞社で上司をスキャンダルを起こし、なら外国で銭の花を咲かせましょうとばかりに、人畜無害な夢想庵をだまくらかして渡欧したワケだ。こー書くと身も蓋もないけどさ。
それからはまぁ、一言で言うとやることなすこと巧く行かないわ男運は最低だわで、よくコイツ我慢したなぁというくらいにどん底だったりする。それでも負けない文子だ。とりあえず男の前で足を開けば道も開けると思ってる文子、ある意味で非常に強く、偉いぞ(笑)。
ただただ文子のパワーに圧倒されて読んだ。バカなんだけどさあ、文子って。でもこのバイタリティとパワーの前には、多少のバカは払拭されるね。狭い日本で「ダンナは稼ぎが少ないし、子供は言うこときかないし、あたしって不幸だわ。しくしくしく。」って悩んでる女性には是非読んで頂きたい(笑)。ただ、エンディングは尻切れ蜻蛉だよなあ。こっからが本編じゃないのか、おい。
(98.5.21)
【傷自慢】新津きよみ:真相は読めるけど、そこにいたる展開と見せ方が秀逸。最後は蛇足か。
【海の誘い】黒崎緑:人物が生き生きしてる。探偵役の大阪人って、カレだよね?(笑)
【フリージング・サマー】加納朋子:珍しい作風に見えるが、著者らしい味と雰囲気のある一編。
【過去の絵】近藤史絵:学生モノが好きな本格ファンにお勧め。伏線もいいしミスリードもいい。
その他(敬称略)、小池真理子【四度目の夏】、山崎洋子【私が会った殺人鬼】、宮部みゆき【弓子の後悔】、乃南アサ【津軽に舞い翔んだ女】、今邑彩【疵】、関口芙沙恵【殺意の花】、篠田節子【やどかり】、桐野夏生【黒い犬】、柴田よしき【貴船菊の白】、永井するみ【プレゼント】を収録。全般に謎解きものよりもサイコサスペンスみたいなのが多かった。宮部みゆきとか加納朋子とか、謎解きものをメインに書いてる作家でも、サスペンスっぽいのを選んだりしてるのよね。謎解きの方が好きなので、そこがちょっと残念。
(98.5.23)
理由・宮部みゆき(朝日新聞社)
私見の上に陳腐な表現だが、【誰もが自分の人生では主人公】という点を出したかったのではないだろうか。従来の小説技法に則ると、主役が居て、相手役が居て、被害者、加害者、探偵役がいて(兼ねる場合も勿論ある)……そして、その他の脇役がいる。巻き込まれただけだったり、目撃者だったり、そういう人たちは小説の中ではホンの通りすがりだ。しかし、巻き込まれただけの人にも生活があり人生があり思いがある。すべてが主人公の視点でものを見ていると、どうしても登場人物が駒としか見えなくなる時があるが、主役と同じだけのバックグラウンドを抱えた人間なのだ。それを前面に押し出した物語のような気がする。
事件に関係したすべての人に、それぞれの事情があり背景があり考えがある。共感できるものだったり、嫌悪を感じるものだったりする。夜逃げをした家族、と一括りにしてしまいそうなところを、夫の、妻の、子供の生活と考えを描くことによって、個々の人物を描き出す。登場人物すべてに感情があるという当たり前のことを、ここまで突き詰めた作品はなかったのでないか。一人の人物に感情移入してしまっては、見えなくなるものがある。ルポという体裁をとることによって、読者に傍観者の、いわば岡目八目的な立場を与えた意欲作だ。
(98.5.24)
と、肝心要の部分が分からなかったにも関わらず、物語自体はかなり楽しめてしまった(どーゆーことだ)。少女の記憶の方のミステリーね。おおお、そう来たかあってなもんで。クライマックスの真相が分かる部分がチト煩雑で、何度か読まないと分からなかったけど、分かった時には膝を打ったぜ。人物配置がちょっと御都合主義だけれど、主人公の人物造形はナカナカいい。もちっと伏線が欲しかった気もするなあ。でも、謎をリードしてくのが上手で引き込まれてしまいましたとさ。
(98.5.25)
内容は「新解さんの謎」を更に一歩進めた感じ。ただ、「新解さんの謎」で美味しいところは全部持ってかれてるので、どうしても後追いというか二番煎じ(見つけたのはSM嬢の方が早いんだけどさ)になっちゃってるのが損だよねえ。こっちの強みと言えば、第五版が出たってんで、比較検討する部分が多いってことくらいだし。(しかし、「いれあげる」の初版から五版までの移り変わりには爆笑だ。是非読め。「宿舎」も笑えたぞ>Tばちゃん>私信やんけ。)
赤瀬川文豪と比較されてはSM嬢も可哀想だと思うけど、辞書の引用にタイするツッコミも、赤瀬川氏が上手なので、どうしても比べてしまう。やっぱ弱いのよ。語釈や用例だけ読んでも充分に笑えるんだけど、ツッコミでその笑いが何倍にもなることを考えるとねぇ。
こうして書いてると、いかにもダメみたいだけど、そんなことはないワケで。充分面白いし、充分笑えます。何よりよく調べたよねえ。すごいすごい。中には改めて新明解を引いちゃった言葉もあったし。ぜひ、「新解さんの謎」とセットでお読み下さい。最後に、山田主幹のご冥福をお祈りします。山田主幹が亡くなったと知った後で「んとす」の用例を読んだら、なんか熱いモノがこみ上げてしまいましたわ。
(98.5.30)
書評リストに戻る