探偵ガリレオ・東野圭吾(文藝春秋)
とてもあり得ないような事件が起こる。その謎を極めて科学的に解きあかす理工学部(だっけ?)の教授が探偵役。つまりは、一見あり得ないような事象に見えても、「この世には科学で解明できないことなど、ないんですよ。」というパターンなワケだ。いきなり空中で自然発火し、人が焼死する。いきなり海から火柱が上がる。心臓だけが壊死した死体。幽体離脱、などなど。これらをすべて、論理と科学で解きあかす、ちょっと変わったミステリだ。
歪んだ創世記・積木鏡介(講談社ノベルズ)
まず現れる新聞記事。孤島で5人の死体が見つかり、一人は身元不明であるという。次のシーンではいきなり記憶をなくした男女が登場。互いに相手が誰だか分からないまま、別の人物の猟奇死体を発見してしまう。そして時間は戻る……。
これ、滅茶苦茶面白い!ブッダは悟りを開いたのか、邪馬台国はどこにあるのか、明智光秀はなぜ謀反を起こしたのかなど、歴史上の謎が6つあげられるんだけど、そのそれぞれに、これまで聞いたことのないような異様な珍説が繰り広げられるのだ。はぁ?どこをどう押したら、そんなとっぴょーしもない説になるんだよぉ、と最初は思うんだけど、読んでいくうちに納得させられてしまう。納得させられるだけでなく、「これが史実に違いない!どうして日本史でこの解釈が出てこないんだろう。」と、マジで洗脳されてしまうくらいだ。特に邪馬台国の場所や、維新にまつわる最大の謎や、ブッダの悟りに関しては、大きく首是してしまったりして。
朱夏・今野敏(幻冬舎)
刑事の妻が誘拐される。この刑事ってのがあーた、リオに出てきた樋口さんだ。分かる人には分かるってヤツだね。で、樋口さん、一大事だってのに、「週明けには別の事件の捜査本部が立つから、それまでに解決しなくちゃ」と律儀に単独で妻捜しに乗り出す。
北斎あやし絵貼・森雅裕(集英社)
会津斬鉄風に続く、時代劇シリーズ。寛政の改革の後の世だね。芝居小屋の女道具師あざみが「洋琴」が作りたいと、図面を求めて北斎を訪ねる。つっぱねた後に、その図面を含むいろんな絵貼が盗まれ、北斎は好むと好まざるとに関わらず、あざみとともに事件へと巻き込まれていく。そこに千葉周作まで加わり、頭と腕と美女という、作者お得意の分業グループ制ヒーロー小説時代劇版だ。
見知らぬ妻へ・浅田次郎(光文社)
最初は「この人の泣かせも、ちょっとパワーダウンしたなあ。それとも飽きてきたのかなあ。」なんて思ってたんだけど、いやあ、来ました(笑)。単に冒頭の
【踊り子】が好みじゃなかっただけでしたわ。ほほ。しかし、これを冒頭に持ってくるかあ?あたしゃまた、新しい路線に行ったのかと思ったぜい。
あの頃ぼくらはアホでした・東野圭吾(講談社文庫)
三谷幸喜の「オンリー・ミー 〜私だけを〜」の書評でも書いたけど、エッセイが面白いか否かってのは、サービス精神の有無に大きく関わると思うのよね。元来、「自分の事」を書く時って言うのは、【自慢】か【個人的思い出】のいずれかになってしまうものだと思う。意外と多いのが【卑下に見せかけた自慢】だったりして、これがまた始末が悪かったりするんだが(笑)。
テレビデイズ・岩松了(小学館)
読売文学賞とった作品が、どうして小学館から出るんだろう?
さすがにストーリーテリングは巧い。刑事も教授も、それから個々の短編に出てくる人たちも、「短編の登場人物は駒」と言い切ってしまうにはあまりに惜しい人物たち。筆惜しみをしない著者らしい書き込みだ。ちょっとしか出てこないのに、その人の絵が浮かんで来るほどの筆力は、うーむ、さすがだね。
さて、トリックなんだけど。これ、あらかじめ言っておきますが、悪いのは著者ではなくて、あたしです。あたしゃ九九の七の段も言えないし、繰り上がりがあったら暗算できないし、いまだに慣性の法則が理解できないし、質量と重さの違いも分からないしってくらいの、筋金入りの理系音痴なのよね。超弩級の理系音痴が、この本を読んだらどうなるか。教授の種明かしを読んだあとには、「ああ、そうですか。」としか言えないのよお(;_;)。もしかしたら、すごいトリックなのかもしれない。でも、理系音痴のあたしには、ぜんぜんそれが分からないのだ。金属だ気体だ化学反応だと言われても、何が何やら……(;_;)。これじゃあ、「いきなり人間が自然発火で焼死」という謎の答が、「そういう薬があるんです。」と言われてるのと同じなのよあたしにとっては(;_;)。
(98.6.1)
最初はねぇ、面白かったのよ。設定が魅力的だし、途中でお爺さんの語る「主人公の家族の事件」も、非常にそそられるものがあったし、もう「おきまりの世界!」って感じがビシバシで。その上、目次も凝ってるし、うわあ、いかにも本格パズル小説だあって趣で、とっても期待したのよね。
ただ、目指す方向性が……。話が進むにつれ、あれ?あれれ?といった感じ。もちろん、ここまでメタミステリが一派を築いてきたのには、それだけの魅力と理由があったんだろうけど、うーん、あたしに言わせりゃもったいない。せっかく美味しい素材なのに。上質の牛肉なのに、なぜかアイスクリームに入れてしまったみたいな、そんなもったいなさがある。
ま、もともとメタが好きじゃないってのもあるんだけど、こうまで壊さなくても……。このベビーコスモの中で、なんとか完結させてほしかったなあ。
(98.6.2)
邪馬台国はどこですか・鯨統一郎(創元ミステリ文庫)
歴史文献の引用が多くて、そのあたりはチョット退屈しちゃうし、文章も上手とは言えない。視点が妙な変わり方をして、読みづらい箇所も多いし。でも、そこさえちゃんと踏まえてればのめり込むこと間違いナシだ。まぁ、ホントに日本史に詳しい人が読むと、穴が見えてしまうのかもしれないけれど、中途半端に歴史好きって人が読むと、もう目から鱗のコペルニクス的宴会だ。どんちゃん。そうでなくて。転回だあ。これはお勧め。絶対騙される……というか、納得させられるぞ。
ただ不思議なのは。どうして作者はこれを推理小説の賞に応募したのかなあ、ってことだ(笑)。別の短編の賞の方なら、拾われてると思うけど。
(98.6.3)
長編だけど、ちょっと短めで一気に読めます。一応、体裁としては犯人捜し(なのかな?)なんだけど、けっこう早い段階で読者は犯人の見当がつく。もう、最初っから手がかりいっぱい怪しさ満点だもの(笑)。怪しすぎて「違うのか?」と思ってしまうくらい。勘のいい人なら誘拐事件の起こる前に犯人分かるかも(笑)。
ただ、それは決して瑕疵じゃないんだな。むしろ、早めに犯人をバラしてる気さえする。犯人と承知の上で、どう、樋口と犯人は関わっていくのか。どこで、どう、犯人を抑えるのか。そこが読んでて非常にサスペンスフル。下手に枚数増やさずに、ストレートに物語を進めたのが良かった。今野敏氏の長編って、どうも「知ってることを書いたんじゃなくて、知ったことを書いた」という部分が常に目について、そこがイヤだったんだけど、今回はそれがなくて、非常に読みやすかった。成長の仕方を間違った大人を描かせたら、実にうまいねこのひとは。
(98.6.4)
しかし、今回はけっこう読みづらかったぞお(;_;)。森作品は登場人物が総じてシニカルで、非常に洒落の聞いた(或いは不必要にカッコつけた)台詞のオンパレードなのよね。そこが、例えば会津斬鉄風では、その個性的な台詞と、芝居の卜書きのような地の文が非常に見事に融合して、一種独特な森世界を構築してたワケだ。ところが今回は、その地の文が分かりにくいんだよなあ。文章力は抜群にある人なんだけど、何故か読みづらいのよね。何度か後戻りして再読しちゃった。なんでだ?ちょっと凝りすぎなのかなー。巧緻と自己満足のスレスレの線に来ちゃってる気がするぞ。気がするだけだけどさ。
ストーリーの方は、まぁこれまでのベートーヴェンやワーグナーが北斎になったってことで、ファンには嬉しい黄金のワンパターンが楽しめます。いや、ミステリーとしての組立はさすが一流だよん。ただ、そういう凝った構成や伏線や何やかやも、すべて「森色の黄金律」に煮溶かされ、ミステリを楽しむためのモノじゃなくなってる。やっぱこれは、森世界を楽しむための本でしょう。
(98.6.7)
【踊り子】 古き良き青春モノって感じなんだけど、感情移入度は低かった。
【スターダスト・レヴユー】 主人公の人物がいいなあ。かっこいい。
【かくれんぼ】 これよこれ。きました。泣きました。けっこうウルウル。巧いなあ、やっぱ。
【うたかた】 回想が悲しいんだけど、映像的にキレイで、何かいい話に見えてくる。
【迷惑な死体】 ミステリちっくな出だしだけど、最後はお得意の人情モノ。
【金の鎖】 オトナの恋愛小説風。お得意の幽霊かと思ったら人間だった(笑)。
【ファイナル・ラック】 メインのストーリーより、この奥さんがいいねえ。
【見知らぬ妻へ】 鉄道員(ぽっぽや)のラブレターに近いけど、あっちの方が数段上。
何はともあれ、個人的には「きんぴか」とか「プリズンホテル」のシリーズとか、あっち系統のをまた書いて欲しいんだけどなあ。
(98.6.10)
他人の結婚式のビデオや子供のビデオがつまらないように、だいたい他人の事なんかあんまり興味ないのが本当で、それを引きずり込むためには「第三者が読んでも面白い」ものにしなくてはならない。要は、「自分は何を書きたいか」じゃなくて「何をかけば読者は面白がるか」の方が大事だってことだ。つまりは、読者に対するサービス精神。
そういう意味では、この本はサービス精神満点だ。本来、推理作家である著者は、本格推理から社会派からサスペンスからSFホラーから、非常に幅広いジャンルを持っている作家なんだけども、そのバックグラウンドは青春時代にあったのね、というのがよく分かる。非常に多彩に見えて、実はありふれた青春時代。格別な事はない。誰もが経験するような事が殆どだ。おまけに、普遍性のない話題(=個人的な思い出)すらある。それなのに、それをちゃんと味付けすることによって、まるで短編小説を読んでいるかのような錯覚を起こさせる。そして、笑わせる。実に巧い。
作品は好きでも、めったに作家個人のファンになることのないあたしだけど、東野圭吾だけは別だわっ!もう、ヒガちゃんてばっ!と思ってしまう理由は、こういう巧さとサービス精神にあるんだよなあ。
(98.6.11)
それはさておき。これは舞台劇の脚本です。夫婦二人と、妻の弟、そしてフランスからの留学生。テレビが壊れてしまったために、「団欒」をせざるをえなくなった一家の話なんだけど、おおお、これって、舞台の中でも「純文学」に属するよなあ。何か大きな事件が起きるワケでも、きっちり大団円で終わるわけでもない。だけど、妙なリアリティと、妙な重みがある。ああ、これって舞台を見てみたい。脚本だけじゃ判らないことが多すぎるぞ。
舞台では、夫に竹中直人、妻に原田美枝子だったそうで、もうハマリ役です。さっき「大きな事件が起きるワケでも」ないと書いたけど、結婚十年目にして判った妊娠ってのが一大事件と言えば事件だ。女房と別れてぐずぐずやってる弟と、いい娘なんだけど生真面目すぎるフランス人と、町内会に燃えちゃってるご近所さんと、そういうひとたちにちょっとずつ触発されて爆発する妻。とりあえず、何か語ろうとする夫。でも、決して不幸っていうワケじゃなくて……つまりは、日常。
巻末の岩松・竹中両氏の対談も面白い。一番印象に残ったのが、ああ竹中直人ってば、あたしの椎名椋平ちゃんを怒鳴ったりしたのねっ!てヤツだったのには困ったが。わはは。
(98.6.13)
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