覆面作家の愛の歌・北村薫(角川文庫)
最近の作家の中では、文章・表現の巧さにかけてはピカ一だと個人的には思っている北村氏である。表現力はさすがなんだけども、このシリーズってのはもうズルチンみたいに極甘で、そこがちょっと気恥ずかしくもあるんだけど、今回はけっこう本格色が強い。北村氏にしては、ちょっと珍しい作風だな。しかし、総じて今回は、千秋さんが二重人格であることの意味が全くないぞ。
さよならブラックバード・景山民夫(角川書店)
景山民夫最後の長編である。いじめがテーマ。クラスで起こっているいじめを見るに見かねて止めにはいる主人公。その日から、いじめのターゲットが主人公に代わる。教師は助けてくれず、親には言えず、そんな中で彼が出会ったのは……という、まぁ、いわば自己改革の物語。
矩形の密室・矢口敦子(トクマノベルズ)
パソコン通信上でオープンに行われた小説の公募イベント。応募者は自分の作品を会議室にアップする。ところが選に漏れた作品のひとつを【殺人予告だ】と指摘する嫌がらせが始まる。選考委員になっている作家は、その作者の家に向かうが……という物語。
真・天狼星ゾディアック・栗本薫(講談社)
【1巻】
【2巻】
【3巻】
【4巻】
【5巻】
【【6巻】
COMICAL MYSTERY TOUR 3 〜サイコの挨拶・いしいひさいち(創元推理文庫)
いしいひさいち氏のミステリパロディのマンガ集。うまいんだよなあ、この人。それにしても、読書量も相当なものなんだろうね。読んでないとパロディもできないものなあ。
うわあああ。面白いっ!また理系ホラーかよお、というチョット食傷気味の第一印象で読み始めたんだけど、あっと言う間に引き込まれた。確かに、最近流行の分野ではある。が、これは最近に始まったことではなく、例えば東野圭吾氏の「変身」「パラレルワールド・ラブストーリー」、岡嶋二人氏の「クラインの壺」、五十嵐均氏の「2010年の殺人」などで俎上にあがった【記憶とアイデンティティ】がテーマのミステリだ。
罠が聴こえるに続く盲目ミュージシャンシリーズ第二弾。前作では主人公が盲目である必要性が感じられなくて今一だったんだけども、いやぁ、今回はよかったねえ。ミステリなんだけど、どっちかってーと真犯人とかトリックとかよりも、サスペンスフルな展開とストーリーテリングに票を投じたい作品だな。本格というよりもサスペンスってことで。
【覆面作家のお茶の会】好きなタイプの物語ではあるんだけど、千秋の推理は論理的帰結というよりも、けっこう強引な勘なのじゃないかって気もする。だって決め手がないもんねえ。
【覆面作家と熔ける男】これも推理としてはかなり強引だけど、それでも読ませる力はさすが。【お茶の会】の方は、一見怪しくない話の裏を見抜いたけど、こっちは見るからに怪しい話を解きあかす。こっちの方が好きだな。北村氏特有の、優しい中にゾクっとさせる文章も光ってるし。
【覆面作家の愛の歌】北村氏には珍しいトリックもの。でも、正直に言うけど、あたしこのトリック、ぜんぜん理解できてません(笑)。ちょっと複雑だよなあ、これって。だいたい身内に刑事がいるんだから、最初から素人ばかりで乗り込んでいくってのも不自然じゃないかいな。ま、岡部と千秋の進展の方が狙いだったのかもしれないけど。そっちはあまりに子供すぎて辟易。おめーら中学生か。
(98.6.16)
解決への方法論はシンプルにして、ちょっと安易かなという気がしないでもない。方法論としては説得力があるんだけど、じゃあ実際にできるかってーと、そううまくはいかないんじゃないのかな。なんとかいじめの被害を最小限に留めようと画策するあたりは、とても描写が細かくて引き込まれたたんだけども、ラストがアレでは、せっかくそこまで移入してきた感情の行き場がないのよね。いきなりヒーローものになるんだもの。
大事な小道具として、デイル・カーネギーの語録が出てくる。そういえば昔読んだなあ、と懐かしくなった。あ、そうか。この物語は実際にいじめに合ってる子供達にあてた本なんだ。今気付いた。うん、そう考えれば【応援歌】として理解、共感できるぞ。本ってのは、一生を通じての強い味方なのだよ。 (98.6.17)
筋立ては極めて明解な本格推理なんだけども、どうも全体を通じてフィルターがかかったというか、斜がかかったような隔絶感がある。今一、のめり込みを抑えられてしまうのよね。登場人物もある程度典型的な、判りやすい人たちに描かれてるし、細かい伏線もしっかりしてるし、もっと純粋に楽しめるだけの要素がある筈なんだけどなあ。
おそらくそれは、狂言回しでもあり主人公でもある、元女医の扱いに起因するものだと思われる。この女医の目を通して物語は進むんだけど、この女医自体が秘密を抱え込んでるんだよね。だから女医の目を通して描かれた世界は、その秘密が読者に提示されない限り、読者が受ける印象と女医の心理とが一致しないのだ。うーん、判りにくい表現だけど、判ってもらえるかな?これ、十和子とか黒沢とかに狂言回しをさせた方がシンプルでカタルシスのある作品になったんじゃないかなあ。これではエンディングで「んなもん、知らんがな!」となってしまいかねないぞ。 (98.6.19)
うわあ。新天狼星ヴァンパイアの思いきり焼き直しじゃないのかこれ(笑)。まるで同じ台詞とか出てくるし。ただ視点が違うだけ。新天狼星ヴァンパイアの方は軟弱ぼくちゃんの晶が中心だったけど、今回は伊集院がメインだ。晶が嫌いなあたしとしては、こちらの方が数段面白い。古き良き栗本薫に戻ってくれたような気がして大歓迎だな。内容は大歓迎なんだけど、同じ話を金払って2回読むってのは、あまり歓迎できないぞ(-_-;)。
(98.1.25)
どうやら新天狼星ヴァンパイアから離れた独自の物語が展開されそうで嬉しい限り。そりゃそうだよなあ。すでに出てる話の焼き直しだけで6巻も買わされた日には、編集部に剃刀届くぞ(笑)。
新天狼星ヴァンパイアでは尻切れ蜻蛉の扱いだったゾディアックカードが、俄然浮上してきます。うわあ。わくわく。カラオケボックスのシーンなんて、こりゃもうサブリミナルだってすぐに見当がつくんだけど、サブリミナルってのがブームも下地(?)になってきてるだけに返って新鮮だったりして。けっこう引きの強い1冊でしたわ。
(98.2.23)
この巻、必要なのか?「舞台は大成功で、晶は一夜にして絶大な人気を誇る舞台俳優へと変貌を遂げたのだった」で終われるんじゃないの?どー考えても作者の趣味で延々と作中作を書いたようにしか見えないぞ。でなけりゃ、この舞台描写が大いなる伏線だという可能性もあるが、絶対に違う方に100カノッサ(笑)。
(98.3.20)
話はまた新天狼星ヴァンパイアへ戻ります。一度読んだシーンばかりだな。しかしまぁ、ゾディアックがだんだんと解明されていく部分が盛り込まれているので、やっぱ読み飛ばすわけにはいかないんだなこれが。
それにしても内容とは関係ないけど、アトム君ってのはいいヤツだねー。やたらと自分をオタク扱いしてるけど、ああいうふうに外界と自分とのバランスのとれた人物をオタクとは言わないよな。とにかくナルちゃんの晶なんかは放っておいて、アトム君で長編を書いてほしいものだ>作者。
(98.4.22)
おーい、伊集院のモノローグ多すぎ(笑)。だいたい、推理をチラリチラリと小出しにして、読者と山科警部を「ああ、もっとおおお」って気にさせるのが伊集院の真骨頂なのにぃ。こんなに伊集院の内面を垂れ流しにしたら、面白味半減だぞお。おまけに読みにくいし。
物語の方は、いきなり犯人の核心にせまる。5巻で初めて出てきた人が犯人だなんて、その上それも5巻でばらしちゃうなんて、そんなのアリかよおい(;_;)。ちゃんと構成考えて書いてるんだろーなー(笑)。ホントに5巻で終わるのかこれ。再来月から「新・真・天狼星」とか「真・天狼星リターンズ」なんて始まったりしないことを祈る。
(98.5.26)
なんだかんだ言って、このひとは「謎解き」が一番面白かったりするんだなあ。ついに対決シーンである。シリウスも出てきて豪華キャスト勢揃いだ。新天狼星ヴァンパイア〜異形の章〜で何となくほのめかしてたことも、腑に落ちたし。エンディングとしては非常に気持ちのいい終わり方。
1〜5巻まではかなり趣味に走っていた栗本氏だが、ここへ来て、伊集院らしいメッセージ性が出てきた。昨今の社会情勢を見てると、こういうことを言うミステリが出てきて当然なんだけど、それを伊集院やシリウスや晶に言わせることで説得力を出してるよね。ってことで6巻はお勧めなんだけど、6巻だけ読んでもワケわかんないだろうなあ(笑)。ええこな、商売上手!おまけに事件が起こるだけ起こっておいて、その謎解きは新天狼星ヴァンパイア〜異形の章〜にしか載ってないってのもあるし。こっちしか読んでない人には、随分と不親切だ。
まあ総じて、6巻に分けて出すほどのモノではなかったような気がする。それも1300〜1500円のソフトカバーで出すってのはあまりにもアコギじゃないか。上下巻くらいに収まりそうだぞ。
(98.6.20)
お馴染みホームズのパロディも健在だし、今回は他に鮎川哲也氏の鬼貫警部モノと京極モノが盛り沢山。その他には、鈴木光司氏の「リング」とか、原りょう氏の沢崎シリーズとか、読んでる人間にとっては思わずニヤリと笑ってしまうものばかり。既刊の2冊に比べると未読の外国作品が多かったのが個人的には残念だなあ。国産モノも一緒なんだけど、元ネタを知らないとパロディの面白さって半減なのよね。ま、知らなくても楽しめるようには作られてるんだけど、やっぱ知ってる方が、細かい技にも笑えて千倍面白い。
個人的なお気に入りは、今野敏「イコン」・桐野夏生「OUT」のパロディだな。(98.6.22)
ゲノム・ハザード・司城志朗(文藝春秋)
主人公が家に帰ると、妻が死んでいた。呆然とする主人公。そこへかかって来た電話は、死んだ筈の妻からだった!……うわあ。わくわく。もちろん、脳だゲノムだSFだってことになれば、ある意味【なんでもあり】になって、本格色は薄くなりがちなんだけども、ことこの作品に関してはしっかり本格である。心配要らない。
ラストまぎわになって明かされる真相には、正直やられた。まぁ、真犯人ちょっとバカ?って感じがしないでもないけど(笑)、うーん、裏をかかれたなあ。謎解きシーンの舞台演出もカンペキだあ。読者も思わず「残り時間」が心配になってくる。いやあ、久しぶりに【意外な犯人】【緻密な伏線】【クライマックス】ってのを堪能させて貰いました。つまり、素材はSFでも、ベースは本格ってことだあね。
これで人間に厚みが出てくると、かなり面白いぞこの作家は……という期待で一杯。今はまだ、ちょっと人物の人となりが見えてこない部分があるけどデビュー作だしね。決して瑕疵にはなりませんわ。
(98.6.24)
(C)の悲劇・平野肇(NONノベル)
盲目のミュージシャン由井が久しぶりにアルバムを作ろうとする。恋人が昔作詞した曲を収録したいのだが、著作権の絡みがあって無断ではできない。そこで、著作権の在処を確認しようとしたところ、妙な具合になってきて……という展開。著作権という制度自体の蘊蓄も興味深く読めたけど、由井の仲間達がいいんだなぁこれが。けっこう善玉と悪玉にハッキリ分かれすぎるキライがあって、意外性という点では弱いんだけど、逆に感情移入しやすいという利点がある。特に、由井とカスミが巻き込まれる富士の樹海での立ち回りは圧巻。盲目ならではの戦い方と、なんだか(主人公は見えていない筈なのに)映像が目に浮かんでくるような臨場感があるんだな。つまりは、文章が巧いってことか。
このシリーズ、だんだん楽しみになってきたじょ(^^)。
(98.6.26)
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